ノルマン一番〜伝説のレシピ〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月15日〜04月25日

リプレイ公開日:2005年04月20日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはとある家。
「・・・・このレシピは私がお前に残してやれる唯一のレシピ・・・・大切に・・・・ガクッ」
 弱々しくスクロールを手渡すと、そのまま男は力尽き、息絶えた。
「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁん」
 絶叫が室内に響き渡る。
 彼女が幼い時に、母親も流行病で死んでしまった。
 そして今日。一人で店をきりもりし、大切に育ててくれた父親もいなくなった。
 料理人としての師匠、人生の師範、そして最愛なる大切な両親はもうこの世にいない。。
 その日、少女は天涯孤独となった・・・・。 
 
 葬式も無事に終り、いつまでも哀しんでいてはやはり駄目であろうと少女は自分に言い聞かせる。 
 亡くなった両親が心配をかけないように、少女は店をオープンし、残されたレシピと父親譲りの料理テクニックでなんとか店を維持している・・・・。
 
 そんなある日のこと。
 倉庫の中を整理していたとき、その奥に一枚の木版が丁寧にしまわれているのを発見した。
 それには、失われし『伝説のレシピ』が存在することを記してあった。
 そして父からの最後の言葉。

──この料理を復活させて、大勢の人をしあわせにしておくれ・・・・

 だが、木版には地図もなにも記されていない。
 手掛りらしきものは『森と湖の恵み。精霊達に護れらし湖の神殿』とだけ記されている。

──という事で
「あら? 今日はどうしたの?」
 冒険者ギルドの受付カウンターで、新人受付嬢エムイ・ウィンズがそう問い掛ける。
「貴方を親友と思ってお願い!! 力を貸して」

〜中略〜

「そうなんだぁ。お父さんが残した伝説のレシピをねぇ・・・・」
「そうなのよ。木版には『古代ローマ帝国の皇帝すら舌を巻くほどの美味、その全てを食した者には『栄光への道』が記されるであろう』って。その料理全ての名前は『グローリアス・ロード』。でも、その最初の手掛りの場所が判らないのよ」
 ウンウンと肯くと、エムイは自分のペタ胸をとん、と叩く。
「大丈夫よっ。大切な友の頼みだもの、とびっきり腕のいい冒険者を選別してあげるわっ!!」
 タダじゃないところが実に良い。
 とはいったものの、腕の立つ冒険者は秘密結社や悪魔、謎の怪盗とかなり出まわっている。
「えーーっと・・・・」
 と言うことで、エムイ嬢、依頼書にこう記したそうな。

「求む、伝説の味を復活させる者。料理経験の有無は問わない。但し、『料理は愛』と力説できるもののみ。腕もあるとなおよし、詳細は受付エムイまで・・・・」

 翌日。
 その依頼書の前で、フードを被っている男が静かに呟いていた。
「探したぞ・・・・伝説のレシピ。我々『銀鷹至高厨師』がその栄光を掴むのだっ!!」
 ああっ。
 こんなところにもシルバーホーク。

●今回の参加者

 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb0933 スターリナ・ジューコフ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

蒼劉 飛翁(ea7364

●リプレイ本文

●と‥‥言うことで〜まずは情報から〜
──冒険者酒場『マスカレード』
 ここ最近は、『シャンゼリゼ』ではなくこっちの酒場を徘徊している冒険者も多く見受けられますが。
 今回の依頼を受けた一行も、情報収集の為にこの酒場にやってきていた。
 そして入り口より少し奥、階段を上がって二階の席に陣取ると、早速一行はこれからの事についての打ち合わせを開始。
「んーーーーーーー。あたいには良くわかんないなぁ‥‥」
 椅子に座って『しふしふ』しながら、燕桂花(ea3501)は頭を抱えて悩んでいる。
「『森の中の湖』『何らかの建造物』‥‥何処かで聞いたことあります。それも、古い伝承の中の世界‥‥えーーっと‥‥」
 顳かみに指を立てて、フェリーナ・フェタ(ea5066)がそう告げる。
「なにか判りそうか?」
 そう問い掛けるエグゼ・クエーサー(ea7191)に、フェリーナはふと瞳を開けてポン、と手を叩いた。
「確信は持てないのですが‥‥確か、シャルトル地方にはそのような土地があったと記憶しています。精霊の住まう塔、魔人の眠る地下神殿。正面には湖をたたえし古城‥‥キーワードは合いますね?」 
 最初のほうはエグゼに、そして最後の方は今回の依頼人である『アレクサンドラ・ローラン(16歳女性・愛称はサンディ)』にそう問い掛ける。
「確かにそうですわ!! ですが、私はそのシャルトル地方については知らないのですよ‥‥」
 そう告げるサンディ。
「まあ、それらについてとあるヒントを‥‥この人が教えてくれる」
 そう告げつつ、『宿り木のハーブティー』片手に姿を現わした妖艶な美女を見つめて告げるエグゼ。
──ムッ
 あ、メンバーの一人がエグゼの視線に気が付きムッとしていますが、敢えて放置。
「初めましてかしら。情報屋のミストルディンと申します‥‥先程、下のカウンターでエグゼさんから依頼を受けまして、皆さんのお力になる為にやってきました‥‥」
 挨拶をしてから、ミストルディンは静かに席に付いた。
「あ、あの、あたし、アイリスって言います‥‥」
 静かに一行の話に耳を傾けていたアイリス・ビントゥ(ea7378)。
 ようやく口を開いたのであるが、どうも人見知りする性格のようで。
「早速で悪いのですけれど、『グローリアスロード』についての情報を頂けませんか?」
 丁寧にそう告げるのはスターリナ・ジューコフ(eb0933)。
「ああ。キーワードは『伝説のレシピ』『森と湖の恵み。精霊達に護れらし湖の神殿』。この言葉が示す場所について知りたいんだ‥‥」
 エグゼの言葉に、ミストルディンはゆっくりと口を開く‥‥。
「森と湖の恵ねぇ‥‥プロスト城の城下街はそれにあてはまるわ。あの古城の前にある湖の底には、かつての『遺跡』が沈んでいるの。そこじゃないかしら‥‥」
 そう告げて、ミストルディンはハーブティーを一口。
「伝説のレシピとグローリアスロードは全く同じもの。表立ってそれを公言する人いないけれど、そういうものが存在していたらしいっていうのも事実ね。残念だけれど、それ以上の情報は今のところはないわ‥‥まあ、気が向いたら調べて上げるけれど、どうしますか?」
 そのミストルディンの言葉に、エグゼは保留の一言。
 そして暫くの間、一行は最後の『仲間』が戻って来るのをしばし待っていた。


●グローリアスロードと銀鷹
──トレトゥール『パンプキン亭』
 今回の依頼人の父が経営していたトレトゥール(食事処)。
 冒険者区画の片隅にあったそこは、立地条件の悪さにも関らず、そこそこに客は入っていた。
 今は一人娘が『伝説のレシピ』を探しに出る為、一時休業しているようである。
 操群雷(ea7553)はサンディより許可を貰い、店の中を調べる事にしたらしい。
 そのまま鍵を開けて店に入り、倉庫を色々と調べようとしていたのであるが‥‥。
──ガサッ
 倉庫から何やら不穏な音がする。
(‥‥アイヤ、千客万来アル。誰かソコにいるアルネ‥‥」
 武器を使うほどではないと判断すると、近くにあった『麺棒』を手に、静かに近寄る。
「何処ノ泥棒猫アルカ!!」
 すかさず叫ぶと、群雷は入り口から中に飛込む。
 そこには、覆面をした3人の人物が、倉庫を色々と漁っていた。
「チッ、口を封じろ!!」
 どうやらリーダーらしい人物がそう告げると、二人は素早く殴りかって来る。
──ブゥン‥‥ガシッ
 一撃目は難無く回避し、ニ撃目を麺棒で受止めると、群雷は足元に転がっている肉焼き用フォークを右足で踏み手元に跳ねる。
──バシッ
 それを素早く受止めると、ブゥンと軽く振回し、気合一閃!!
「アイヤ‥‥貴方たち料理シテモ、鴻運当頭ノ恩恵もないアルネ‥‥」
 素早くフォークの峰でビシバシと殴りつける群雷。
「ココは素直に退散スル宜し‥‥サモ無くば、ワタシ、本気で行くアル!!」
 そう告げると、3人組はそのまま侵入してきたらしい窓から飛び出していった。
「全く‥‥最近ノ物取り、カナリ悪質アル‥‥」
 そう呟いてから、群雷は『グローリアスロード』についての手掛りを調べ始めた。


●そして〜一路栄光へ〜
──プロスト領・ファンシィウッドの湖
「ふぅ‥‥ここが目的の湖ですか‥‥」
 一行はミストルディンの情報を頼りに、一路プロスト城前に広がる『ファンシィウッドの湖』に到着した。
 サンディは暫く帰らないだろうと判断してか、二頭の驢馬に大量の調味料や鍋を積んで一緒に移動。
 群雷は『パンプキン亭』で見つけたとある手紙をサンディに渡し、それについて道中訪ねていた。
「ナルホドね。小姐ノ父老、元は冒険者アルカ‥‥」
「ええ。でも私が生まれた頃に引退して‥‥当時の仲間だった人も皆その時期から、自分の道に戻ったらしいのです‥‥この手紙を送ってくれた方も、父の当時の仲間だった方ですわ‥‥」
 そう告げるサンディ。
 と、一行は静かに湖を眺めている。
「場所的には、ちょうど中央だということでしたわね。でも、どうしますか?」
 スターリナがそう問い掛ける。
「ん? あたいは泳げないわよ?」
 桂花はそういいつつ、パタパタと湖中央に向かって飛んでいく。
 直接上空から眺めてみようという事であろう。
「泳げる奴か‥‥」
 エグゼはそう呟きつつ、ざっと仲間たちを見渡した。
──ガクッ
 はい、泳げる人は誰もいませんが。
 そんなさ中、湖中央に向かっていた桂花がスーパーダッシュで戻ってくると、一行に向かって慌てたまま叫ぶ。
「真ん中にシルバーホークで石碑が浮かんできて船でああ‥‥えーっと‥‥」
「はいはい。桂花さん深呼吸深呼吸ですよ」
──スーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
 フェリーナにそう告げられて、桂花は思いっきり深呼吸。
──プハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 ああ、吐きすぎ。
 でもなんとか落ち着いたらしく、一行に再度説明開始。
「湖の中央に怪しい船が浮かんでいてね。二人の人が乗って居て、湖の底を眺めていたの。そうしたら、人が浮いてきて、なんか怪しげな石碑を船に積みこんでいたのよ‥‥それで、船乗りの人の胸許に、『銀色の鷹』みたいなレリーフのついたペンダントが見えたんだけれど‥‥あれって、最近シャンゼリゼで噂になっているアレだよねぇ?」
 まあ、冒険者ならその『噂』程度なら聞いたことはあるであろう。
 その通り、シルバーホークでっす!!
「何だってあいつらが‥‥兎に角、その石碑が気になる。船着き場へと向かうとしよう!!」
 そのまま船着き場まで走り出す一行。
 しっかし‥‥アイリスって無口だよねぇ。
 ずっと『コクコクッ』て頭を振っていたし。

──船着き場
 場所という程の所では無く、ただこの湖に時折船を出しては暇をつぶしているらしいプロスト卿の船が停泊している場所。
 たまたまそこがいい場所立った為、他の貴族や湖で釣をしている人たちの船が泊まっているだけの場所である。
 そこに、ちょうど一隻の小舟が到着すると、いそいそと一枚の石碑を降ろしている最中であった。
「あ、あの‥‥なにか釣れましたか‥‥」 
 オズオズとそう問い掛けるアイリス。
「ン? ああ、まあ適当にね‥‥それじゃあ、俺達は急いでいるんで‥‥」
 そう告げると、シルバーホークのメンバーらしき人物達は、そのまま一行の前を通り過ぎようとしたが。
「それは、グローリアスロードへの道標ですわよね?」
「私達は、この娘の父親の残したその遺産を取りに来たのですわ」
「とっととそれをあたしたちに渡しなさい。さもなくは」
──ゴキゴキッ
「コワイお兄さんが」
「待っているアルよ‥‥」
 以上、フェリーナ、スターリナ、桂花、エグゼ、群雷の順でした。
「なんだ? これは俺たちの手に入れたものだ。アンタ達には関係ないだろう? それにどうしてグローリアスロードの事を‥‥」
 そう告げる男。
「さては、貴様達冒険者か!! あの依頼を受けたのはお前たちだったのか!!」
「ならば、余計にこれを手渡すことは出来ない!! これは我等が総帥、シルバーホーク卿の元に持っていくのだっ!!」
──チャキーーン
 そう告げると、二人がいきなり抜刀。
 だが。
「お前達も、料理人だろう?」
 そうエグゼが臆することなく告げる。
「いかにも、我等はシルバーホーク卿に仕えし厨師。銀鷹至高厨師連のメンバーである!!」
 その言葉を待っていた。
「なら、その石碑を駆けて料理対決っていうのはどうだ? 元々、その石碑の所有者はこの娘の父親。俺達はそれを取り戻す為にやってきた」
「それとも、腕に自信がないのかしら?」
 エグゼの言葉に、クスススッと笑いながらフェリーナがそう告げる。
「よし、いいだろう!! そこまで言われて我々も引き下がることはできない!! 料理対決、3本勝負といく!!」
 ああ、のりがいいのね貴方たち。
 という事は‥‥あんたたち『お笑いシルバーホーク』のメンバーか!!
 まだ生き残っていたんだねぇ。
──パンパン
 手を叩きつつ、一行の前に姿を表わしたのは、この地の領主『レナード・プロスト』。
「話は全て聞きました。では、この私が会場をお貸ししましょう。勝負は3本、テーマは『森と湖』。前菜、メイン、デザートの三つを夕方までに作って頂きます。必要な食材は自分で確保してください。足りない調味料は私の家の食糧庫にありますので、それを自由に!!」
 あっという間に、料理対決に持ち込んだ一行。
 本当にのりがいいねぇ。


●まずは下準備
 今回のテーマは『森と湖』。
 食材は自分で調達という事になったので、まずは誰が今回のメニューを作るか考えている。
「あたいの得意料理は中華料理なので、基本的に何でも作ります。食材とレシピさえあれば、大抵のものは作ることができます」
 桂花はにっこりとそう告げた。
「その中で一番得意っていわれたら‥‥蒸し料理と炒め料理かな?」
 ふむ。
「得意なのは飲み物とお菓子。母さん直伝のパイは最高のおいしさを誇る‥‥はずなんだけど、私の技術が追いついていないせいで、何度作ってもまだまだの出来なんだよ」
 そう告げるフェリーナ。
 今回はメンバーから外れ。残念!!
「俺は別段得意苦手な料理はないが、作るのが好きなのはシチューなどの煮込み系だな‥‥」
 リーダー格のエグゼがそう告げる。
「イ、インドゥーラの家庭料理ならお任せください」
 オズオズ娘のアイリスはそう告げる。
「ワタシの得意モチロン華仙教料理、特ニ粤菜と魯菜ネ。華仙教厨士ノ名前は伊達じゃないアルヨ」
 自信満々にそう告げる群雷。
 服の袖に付いている『華仙教厨士』の刺繍が実にまぶしい。
「えーっと‥‥疲労回復・美容促進のための薬草ジュースが得意ですわ」
 スターリナ。はい消えた。
 その後色々と考えて、とりあえずは以下のメンバーとなる。

前菜  :桂花
メイン :群雷
デザート:エグゼ

 ちなみにアイリスとフェリーナはサポートとして全般作業に参加。
 スターリナはなにやら。


●そして決戦〜ああもう〜
──プロスト城特設会場
 これだから道楽貴族は。
「それでは、双方の料理を提出して戴きます。審査はこの私、レナード・プロストとグルメ貴族のアジヴォー・ガイヴァ卿、そして一般審査員として‥‥あれ?」
 ちゃっかりそこに座っているのはスターリナ。
「コホン‥‥この3名で審査します。それでは最初に前菜からっ!!」
──ドワァァァァァン
 銅鑼が鳴り響き、二つの入り口から双方の料理が提出される。
 銀鷹至高厨師連は綺麗な温野菜の盛り合わせを中心とした3点の料理が、一方の桂花は大きな蓋の乗せられている皿を一枚だけ。
「それでは御賞味下さい」
 色とりどりの皿には、この城下街から少し奥の森で取れたハーブや薬草、川魚のプディング等が盛り付けられている。
「ほほう。これはこれは‥‥」
 味を噛み締めつつ、ゆっくりと食べる審査員達。
(‥‥あら‥‥意外と美味しいわ‥‥)
 黙々と食べつづけるスターリナ。
 そして他の審査員達も皿の上のもの全てを食べおわると、フゥ‥‥と一息。
「見える‥‥湖の精霊の姿が‥‥」
「霧の向うに‥‥見える‥‥」
「どうしてかしら‥‥」
 皆何処か遠くを凝視したまま、静かにそう告げる。
「全てをこの地の食材で。ファンシィウットの精霊も喜ぶ至高の前菜3点でございます」
 ニィッと笑う銀鷹至高厨師連。

「それではっ、あたしの出番よっ!!」
 そう叫ぶと、桂花は完成した前菜をテーブルに運んでもらう。
──ガバッ!!
 素早く皿に被せられた蓋を取る桂花。
 
──オオオオオオオオオオオオオッ
 そこには、このファンシィウッドの湖を中心とした『プロスト領城下街の絵』が広がっていた。
「こ、これは‥‥」
「私の街。これは一体!!」
「芸術‥‥ね‥‥」
 そっとフォークを進める審査員。
──サクッ
 そしてプロスト卿が湖にスプーンを差し出したとき、その湖がチャプンと波立った!!
「絵ではない!! これは!!」
 素早く湖の水を掬って一口。
──シャキーーーン
 全員が身体の底から旋律を走らせる。
「これぞ桂花特製『特色併盆』っ!!」
 一口食するたびに、全身を走りぬける旋律。
 そのまま審査員達は、軽い満足感につつまれた。

──ドォォォォォォォン
 二つめの銅鑼が鳴る。
「続いてメイン。双方の料理を!!」
 二人同時に出されるメインディッシュ。
 銀鷹至高厨師連は『野兎の香草焼き』。
「この奥の森には、丸々と太った兎が一杯いました。その中でもよく走っていた野兎の肉を処理し、同じく森の中で積んだハーブを纏わせて一気に焼き揚げました‥‥」
──サクッ
 皮はパリッと焼きあがり、そして肉は切り口から透き通った肉汁が流れるほどにジューシィ。
 ナイフをいれると、そこから鮮烈な程の香りが立ちこめる。
──パクッ
 一口食べた瞬間、審査員達の身体から汗が吹き出す。
「旨し!!」
「なんだこの味はっ!!」
「違うわ。いつも食べているものとは明らかに違うのよッ」
 ニィッと笑う銀鷹至高厨師連。
「高温で焼かねば、その触感はあり得ません‥‥。私は、その焼き方を工夫してあるのです」
 そう告げると、男は懐よりスクロールを取り出す!!
「まさか‥‥精霊魔法!!」
 ニィッと笑う男。
「苦労しました。ですが、炎の精霊の力さえ扱えれば、私には焼けない料理はない‥‥」
 まさに完璧!!
 そんな審査員達の前に、さらに群雷が皿を持ってくる。
「ハイハイ。料理は愛情ネ。確かニ魔法ツカタ料理方法ニハ度肝モノアル。けれど‥‥」
 そう告げてから、群雷はガバッと蓋を開ける。
「ダイナミック!  勢イ!!  大胆豪快カツ繊細!!! 此レ華仙教料理の奥義アルヨ」
 そこからは、甘酸っぱい香りが立ちこめてくる。
「これは?」
「魚よね‥‥」
 カラッと揚げられた魚が3匹。それぞれにまったく別のあんがかけられている。
「名付けて仰天糖醋湖魚アル。手前からゆっくりレと食べるアル」
 そう告げられると、一行はそっとナイフを延ばす。
──ツーン
「あ、甘酸っぱい!!」
「それでいてこのさくさくとした触感!!」
「結構お腹が膨れている筈なのに、まだ食べられるわっ!!」
 そのまま次の魚に進む。
──ピリッ
「?」
「なんだこの触感は?」
「初めての感触ね‥‥」
 少し辛い。
 その微妙な辛さは、審査員達も初めての味。
「‥‥辛さの秘訣はコレアル‥‥」
 群雷がそう告げて、赤と黒の粉を見せる。
「それは?」
 そう問い掛ける一行。
「あ、あの‥‥それは‥‥一つはフェンネル、そしてもう一つは‥‥私の国では何処にでもある『ガラムマサラ』です‥‥」
 オズオズとそう告げるアイリス。
「この調味料は私も知らなかったアルヨ。小姐の父老、元は冒険者アル。世界各地を旅して、様々な調味料を集めたらしいアルヨ。私の国、華仙教大国ノ香草マデあったとは、私モ驚いたアル」
 最初は群雷にもそれがなにか判らなかった。
 だが、アイリスは直にそれが何であるかを見抜くと、二品目の料理に使うスパイスを調合したらしい。
 ノルマンでは専門知識の必要なスパイス調合。
 だが、インドゥーラの人にとっては、それは只の『家庭料理』程度。
「はふはふっ」
「辛い‥‥けど、しつこくない。食が進む!!」
「こんなに美味しくていいのかしら‥‥いやーん」
 額から汗を掻きつつ、ハフハフと食べる審査員達。
 そして最後の魚に手を駆けようとしたとき。
「チッョと待つアルネ。それはここで仕上げが待っているアル!!」
 そう告げると、群雷は審査員達を後ろに下げる。
 そして手に鍋を持ってくると、その中の液体をタラリと掛ける!!
──ジューーーーーーーーーーーーーッ
 白い煙が立ち上がり、鮮烈な香りが鼻をくすぐる。
「清蒸ネ。香りノ立ッテイルウチに食べナイト、魚暴れるアルヨ」
 テーブルジョーク。
 そう思った一行が魚にフォークを進めたとき。
──ギロッ!!
 魚の瞳が開き、一行を睨む!!
「うわっ!! まだ生きている?」
「そんなこある筈が‥‥うわっ」
「嘘。どうしてこの魚は死なないの?」
 そんな言葉が聞こえてくる。
「それも華仙教厨士ノ底力アル‥‥」
 そのまま食する審査員達。
 森の香りに包まれ、さわやかな味わいを感じ取っていた。

──ドワァァァァァァン
 いよいよ最後。
「それではデザートをっ!!」
 その言葉に合わせて、二人はデザートを持ってくる。
「まずは私から。森の木ノ実を使った焼き菓子です‥‥」
 銀鷹至高厨師連は焼き菓子。
──サクッ
 そのさくさくとした触感に、審査員達も納得。
 中からは甘いクリーム状のあんが流れてくる。
「表面はさくさくとしていて、中からはしっとりとした甘いクリーム‥‥」
「これは‥‥果物を甘く煮詰めたなっ!!」
「いやーん。もう、どうにかなっちゃいそう!!」
 その言葉で十分。
 だが、その光景を見ても、エグゼは怯まない。
「さて、最後。これが俺の切り札だ。そろそろ腹も膨れすぎちまっただろう? 『いいもの、食わせてやるよ』」
 そう告げて持ってきたのは、皿に乗せられた奇妙なもの。
「スプーンでで掬って食べてくれ‥‥」
──シャクッ
 その不思議な感覚に、審査員達は瞳を丸くする。
「冷たい!!」
「でも、甘くて、実にフルーティーだ‥‥」
「ええ。なにか、色々と食べてビックリしていたお腹に優しいですわ‥‥」
 そう告げる審査員達に、エグゼは静かに口を開く。
「それは」
「あ、それは‥‥ミールですわ。ミールをかき混ぜつつ‥‥冷やして作った冷たい菓子です」
 さきにアイリスが説明。
「ミール?」
「ええ‥‥蜂蜜を発酵させて作ったお酒。それに様々な果実の果汁やハーブを加えたモノです‥‥私の故郷ではごく普通の‥‥」
 そしてようやく開いた口を動かすエグゼ。
「そのミールとやらに手を加えた。城下街を走りまわって『アイスコフィン』を使える魔法研究家を探し、その人に頼みこんで『氷の部屋』を作って貰った。そこの中で、ただひたすらミールを混ぜていた俺の苦労、判るかっ!!」
 普通は死ぬよ。
 あんた、根っからの料理人だよ。

 そして全ての食事が終り、審査員達も話し合いを終えて静かに席に就く。
「それでは結論を言う。勝者‥‥冒険者っ!!」
 パァッと全員の顔が晴れ渡る。
「どうしてだっ。納得の行く説明をしてくれっ!!」
 どうにも腑に落ちない銀鷹至高厨師連。
「では、私から説明させて頂きます。確かに銀鷹至高厨師連の料理は私達を満足させてくれるに足る料理でした‥‥」
 スターリナがそう告げる。
「ならばどうして!!」
 その言葉に、審査員のアジヴォーが口を開く。
「発想と驚き。そして料理の調和。お前たち銀鷹至高厨師連の料理は、一つ一つはは完成されている。だが、今回のテーマでは、それがあだとなった‥‥前菜・メイン・デザート。どういう事かわかるな‥‥」
 全体としての調和が取れていない。
 そしてなにより、冒険者達の料理は、ノルマンにはない発想で作られている。
「しかし‥‥エグゼ、最後のデザート、普通は考えの付かない料理だ。どうしてこんなものを?」
 プロスト卿がそう問い掛ける。
「グローリアスロード。それがヒントになった‥‥」
 そして説明を開始するエグゼ。
「古代ギリシャの王。グローリアスという言葉でヒントをえた。かの者は、ミルクや蜂蜜、葡萄酒などに氷を入れ、冷たくして食べるのが好きだったという‥‥フェリーナの伝承知識を元に、俺はさらなる上を目指した!! かのローマ皇帝すら愛飲したそれを一歩進める。その為には冷やす為だけでは駄目だと!!」
 その結果が、半分凍ったもの。
 雪のようにという程ではないが、それでも十分に冷えて、所々凍っている。
 そして銀鷹至高厨師連は、石碑を其の場に残し、静かに立ちさって行った。
 なお、この戦いの最中にこっそりと写し取っていたであろうことは、もう皆さん予想付きますよね?
「貴様達の顔は忘れない‥‥この屈辱はカ鳴らす゛晴らさせて頂く!!」
 こうして、一行は無事に石碑を手に入れた。
 

●そして〜あっれー?〜
──パリ・パンプキン亭
 今回の料理帯付けによって入手した知識と石碑。
 石碑については、ゆっくりと解析をするとして、とりあえずは自分達で作った料理で祝杯を上げる一行だが‥‥。
 最後のミールを使った冷菓子だけはできない。
「温度が‥‥違うのかなぁ‥‥」
 頭を捻るエグゼ。
 同じ様に魔法研究家によって作られた氷の部屋。それでもミールは巧く固まらない。
「あ‥‥あの‥‥きっと、あの森の加護でも‥‥あったのではないでしょうか‥‥」
 アイリスがそう告げと、エグゼを手を引く。
「みんな待っていますから‥‥」
 ふぅ。
 と溜め息を就くエグゼ。
 料理は日進月歩、今は立ち止まるかもしれないが、また進む道を探せばいい。
 
 こうして今回の依頼は無事に終了し、一行は楽しい一時を過ごすこととなった。

追記:パリに戻ってから、スターリナが町の中を走りまわっているのは何故でしょう‥‥。
(大変‥‥このままだとプクプクと太っちゃう‥‥)
 あ、ナルホドねぇ。

〜To be continue