ノルマン一番〜輝く前菜〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月16日〜05月25日

リプレイ公開日:2005年05月22日

●オープニング

──事件の冒頭
 それはいつもの朝。
 これまたいつもの冒険者ギルドでは、一人の少女が受付嬢と話をしていた。
「この前お手伝いしてくれた料理人を指名します!! 幻のメニュー『グローリアスロード』についてのりヒントの一つが解明されたので、それを手掛りに目的地に向かって欲しいのですって‥‥聞いてますかっ!!」
 ブンブンと薄幸の受付嬢エムイ・ウィンズの両肩を振りつつ、依頼人であるアレクサンドラ・ローランが叫んでいる。
──ギュッ
「サ、サンディ‥‥死ぬ‥‥死ぬから‥‥」
 あ、いつのまにか首に手が回っているし。

──ということで
「全く。冒険者の逆指名なんて滅多にないわよ‥‥まあ、それをなんとかするのが親友の務め。いいでしょう、受けましょう」
 そう呟きつつ、サラサラッと依頼書を作りあげるエムイ。
「それじゃあ、私は出発の準備があるからお願いねっ!!」
 それだけを告げると、サンディはギルドを後にした。


●場所は変わって
──とある組織
「石版のオリジナルは奪われたが‥‥まあいい、写本の解析は何処まで進んでいる?」
 黒尽くめの男がそう話し掛ける。
「一つだけ手掛りが‥‥」
 そう告げつつ、一人の女性が耳元でなにかを告げる。
「ほう‥‥面白い。ならば‥‥『前菜のジャンヴィエー』を呼べ。奴にこの一件を任せよう」
 クックックッと笑みを浮かべつつ、男はそのまま静かに闇の中へと消えていった。


●そして・事件
──とある村
「御願いです!! あと一月‥‥そうすれば、必ずお支払できますから!!」
 小さな小料理屋『オートストップ』の店内で、一人の男性がそう叫んでいた。
「ふん。あと一月で、この店を立て直せるものか。まあいい、一ヶ月後には、借金を全て返済してもらう。出来なかった場合、この店は形に貰うッいいな!!」
──バタン
 男は困っていた。
 店の看板メニューである『トリュフ』。
 今年に入ってその収穫が全く出来ず、運良く発見しても、『真っ白なトリュフ』しか取れないのである。
「困った‥‥こんな香りしかしない、それも少ししか取れないトリュフなんかでは、店は潰れてしまう‥‥一体どうしたら‥‥」
 そう店主が困っているさ中、サンディご一行は村へと到着するのであった。

●今回の参加者

 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7378 アイリス・ビントゥ(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●サポート参加者

フィラ・ボロゴース(ea9535)/ ビター・トウェイン(eb0896

●リプレイ本文

●ということでと〜先にパリから〜
──商人ギルド
「はい、まいどありー」
 依頼を受けた『アイアンシェフご一行(なんだそりゃ)』は、とりあえず先に商人ギルドにやってきた。
 ついでにオイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)と燕桂花(ea3501)、フェリーナ・フェタ(ea5066)、そしてアイリス・ビントゥ(ea7378)の4名はいそいそと保存食を購入。
 打ち合わせは行なったものの、そこまで時間が無かった一行。
 サンディとの待ち合わせにやってきて、食事を忘れた全員が、ここ、商人ギルドの食品街へとやってきたのである。
「しかし‥‥なんで大切な食糧を忘れるかなぁ‥‥」
 そう呟いているのはエグゼ・クエーサー(ea7191)。
 愛用の包丁などをすべて、知人であるフィラ・ボロゴースに砥ぎなおして貰い、ご機嫌満悦の模様。
「全く同意アル。私達、仮にも食べ物ノプロフェッショナル、自分達の食事用意していないナンテ情けないアルヨ」
 静かに食品を見渡しつつ、操群雷(ea7553)が呟く。
「全くだ。と、群雷は持ってきているのか?」
「当然アルヨ。ココニ‥‥」
 そう告げつつ、群雷はバックの中身を見せる。
「ホラ、ここに入っているアルヨ、一つ‥‥二つ‥‥アラ?」
 おやぁ?
「主人、保存食一つ欲しいアルネ」
 って、あんたもかぁ!!
「さぁ、それでは気合いいれて出発しましょう!!」
 依頼人であるアレクサンドラ・ローランが気合を入れてそう叫んだ!!


●静かな村〜食べれない辛さ〜
──石碑の村
 そして一行は、無事に目的である村に到着する。
「ふぅ。保存食バカリデ、少しお腹カタムイテいるアル。偶には新鮮な野菜を食べたいアルネ」
「同感だね。もう干肉とか堅いパンはうんざりだよ‥‥」
 トホホという表情で呟くフェリーナ・フェタ(ea5066)。
「あ、あそこに一軒、食べ物やさんがあるよ〜」
 そのまま匂いにつられて、桂花が一気に羽ばたいた。
 そして入り口から店の中を覗くが、すでに満席。
「いらっしゃいま‥‥あ、しふしふー」
 ウェイトレス姿のシフールが、桂花に挨拶。
「しふしふー。お席ありますかぁ」
「今満席なんですよぉ。ちょうど埋まったばかりですから、暫くは無理ですねぇ」
「そうですか。どうもありがとうございましたー。それじゃあ、しふしふ〜」 
 いや、便利だな『しふしふ』って。
 そのまま桂花は一行の元に戻って来ると、そう腹ペコメンバーズに説明。
──グーーーキュルルルルルッ
 食べれないと判ると、もっと食べたくなるのが道理。
「あ、そうだ。この村にある『グローリアスロード』の道標、確かそれを保存しているのは小さな料理屋ですから、そこで食事がてら話を聞きましょう!!」
「それを先にいってよねぇ‥‥それでは、その店にしっゅぱーーつ」
「ぉー」
 威勢よくそう叫ぶオイフェミア。
 いや、しっかし‥‥。
 アイリス・ビントゥ(ea7378)君。
 小さい声で『ぉー』って。相変わらずの引っ込み思案ですねぇ。


●でたなお笑い〜とりあえず戦う〜
──小料理屋『オートストップ』
 看板が傾き、客の気配のないちいさな小料理屋『オートストップ』。
 一行はその前に到着すると、とりあえず連れてきていた驢馬を繋いで店に入る。
「しふしふー(すいませーん)。食事いいですかー」
 そう叫ぶ桂花。
「ああ、いらっしゃい‥‥まあ、とりあえずどうぞ」
 そう言いつつ店主が一行を店内に招きいれる。
 ぐるりと店内を見渡す限りでは、どうみても営業している様子は全くない。
「店主、この寂れようはどうしたんだ? もし良かったら話ぐらいは聞いてやるが」
 そう告げるエグゼに、店主は溜め息一つ着いてから、静かに話を始めた。
「実は、もうすぐこの店を締めなくてはならないのです‥‥」
 店主は静かに説明した。
 病で倒れた妻のため、店主は高価な薬を買って来た。
 その薬のおかげで、どうにか妻は病から解放されたが、その薬を買う為の資金を店主はとある『高利貸し』から借金をしていたのである。
 妻と二人、どうにかその借金を返そうと必死に頑張ってきたものの、ある日突然、この村の先にある森で採取していた『黒トリュフ』が全く取れなくなってしまったのである。
 さらに先日、その借金取りがやってきて、一ヶ月以内に借金を返済しなければ、この店をカタに取るといいだしたので堪らない。

「アイヤ‥‥店主、なかなか厳しいアル。でも、それとこの寂れようはどう結び付くアルカ?」
「それがですね‥‥まだ続きがあるのですよ‥‥」

 そこからが本当にきつい所である。
 黒トリュフが取れなくなり、香りのきつすぎる白トリュフが取れ始めた。
 それをどうにか加工して使おうとした矢先に、怪しげな料理人達が、この店を訪れては食事に因縁をつけ始めたのである。
 程なく困り果ててしまっていた優き、その料理人達は店主にある話を提案してきた。

「この店にある、伝説のレシピを渡してくれれば、嫌がらせは止めてやる」

 しかし、そんな物に心当りは全くない。
 嫌がらせは続き、客足はとおのき、そしてどうしていいか解らなくなってしまっていたのである。
「‥‥ここにグローリアスロードの石版あるアルカ」
「困った‥‥店主、実は‥‥」
 事情を説明しようとした優き、いきなり店の入り口から激しいほどにマッチョな3人組がやってきた!!
「店主、どうだ、気は変わったか?」
「我々としても、これ以上事を荒立てたくはないんだ‥‥」
「とっととあれを差し出せばよし、さもなくばまた‥‥」
 そう凄むマッチョ達。カツカツと店内に入ってきた瞬間!!
──ガブッ
 あ、エグゼ兄ぃの愛犬が噛みついているし。
「こらスプーキー、そんなもの噛んだらお腹を壊すだろっ!!」
 そう愛犬に諭すエグゼ。
 と、ショボーンとしてトボトボと戻ってくるスプーキー君。
「おうおう、ペットのしつけぐらいちゃんとしろっ!!」
「それよりもなんだお前たちはぁ? これは俺たちの話なんだ、余計なことに手を出さないで、引っ込んでいてもらおうかぁ?」
 そう凄んでくるマッチョ達。
「そうもいかないわよっ。貴方たち銀鷹至高厨師連の者でしょ!! 貴方たちみたいな変態マッチョに、大切なグローリアスロードのレシピを渡すわけにはいかないのよっ!!」
 ビシッとマッチョ達を指差し、そう叫ぶ桂花。
「面白い、表にでやがれっ!!」
 そう叫ぶと、マッチョ達は静かに外にでる。
「‥‥エグゼ兄さん、あれあれ‥‥」
 そう呼びつつ店の一角を指差すフェリーナ。
「ん? 何かあったか?」
「あそこ‥‥ほら、あの壁の一番下‥‥何か文字が刻まれていない?」
 そのフェリーナの言葉に、一行は静かに文字の元に歩み寄る。
 石造り建物の材料として壁に組み込まれている石版。長い間ここにあったのであろう、あちこちが欠けているが、確かにグローリアスロードのレシピのようである。
「なるほど。という事は、負けるわけにはいかないわよねぇ‥‥」
 そう告げるオイフェミア。
 と、いつのまにかアイリスは外にてくてくと出ていってしまったようである。

──外では
「あ、あの‥‥あんまりこういうのよくないと‥‥思うんです‥‥」
 少し下を向いてオズオズと呟くアイリス。
「ああーん。兄貴、相手は小娘ですぜ」
「弟よ、差別は行けない。例え相手が娘であろうとも、全力を持って当たらなくては‥‥」
 そう告げつつ、兄貴と呼ばれた男は拳を握ってアイリスに殴りかかる!!
──スッ
「い、いゃあ‥‥」
 緊張感のない声を上げつつも、アイリスはオフシフトで攻撃を回避。
 そのままバランスを崩した兄貴に向かって、拳でペチッ!!
──ペチッ
 そのまま兄貴は転倒。
「この小娘っ。やっちまうぞっ!!」
「相手が違うだろ‥‥まったく」
 そう告げつつ、エグゼ登場。
「なんだお前‥‥上等だ、相手をしてやる、武器を持ちやがれッ!!」
 突然抜刀するマッチョ達。
 だが、エグゼはサンディの驢馬に積んである包丁を引き抜く。
「そんなもので戦うというのか!!」
 そう叫ぶマッチョだが。
「やれやれ‥‥お前たちは、ニンジンを刻むのにハルバードを使うのか?」
 そう告げるエグゼ。
「なんだそりゃ!! 構わねぇからやっちまえっ」
 ああ、脳筋野郎にはこの手のジョークも通用しないのかよっ!!
 そのまま一戦始まるかというとき。

「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 そう叫ぶ一人の人物。
「事情は判っている。貴様達はこの店に隠されている伝説のレシピを求めておるのだろ!! なら、料理人は料理人らしく、料理で決着をつけたらどうだ!!」 
 何処かで見たことのある男が、その戦いの間に割って入った。。
「あ、貴方は謎のグルメ貴族『アジヴォー・ガイヴァー』」
 フェリーナはそう告げる。
 そして、その場の雰囲気とノリで、ガイヴァー卿はさらに話を続けた。
「勝負は前菜3点勝負‥‥今より一日後、明日の正午にこの店の前で勝負とする!!」
 そう告げると、ガイヴァー卿は静かに其の場を立ち去った。
「前菜3点‥‥ふっ。この『前菜のジャンヴィエ』の手にかかったら、楽勝だな‥‥いくぞっ」
 そう告げるマッチョ兄。
 そして3人は静かに其の場を立ちさって行った。


●事情説明〜あ、斯々然然って奴〜
──小料理屋『オートストップ』
「そうですか‥‥この基礎材‥‥石碑にはそんな秘密があったのですか‥‥」
 って展開早っ!!
 一行はマッチョ達が立ち去った後、店内で店主に全ての事情を説明した。
「ええ。あいつらはシルバーホークの手先。だが安心してくれ、この店と主人、そして石碑は俺たちが守りぬく!!」
「だから、ちょっとだけ厨房を貸してほしいのよ。明日の勝負に必要な料理を作りたいの‥‥」
 エグゼに続き、桂花がそう告げる。
「ええ、構いませんよ!! 何時お客が着てもいいように、厨房は綺麗にしていますから」
 そう告げると、店主は厨房に案内した。
「ちなみに‥‥さっきのあの貴族、知り合い?」
 そう仲間たちに問い掛けるオイフェミア。
「前回の料理審査員の一人アル‥‥まあ、オ気楽グルメ貴族といった所アルヨ」
 そう告げる群雷。
 と、ふぅーんと呟きつつ、オイフェミアは店内にある食器を一つ一つ調べてみる。
「ちょっと、私は食器を調達してくるわね‥‥良い料理は良い食器に盛り付けられてこそ華なんだから‥‥」
 ちなみにオイフェミアは料理まるで駄目。
 そのため、美術系サポートという所なのであろう。
 そして一行も、周辺に食材を取りに向かうと、全員で料理を作り始めた。


●そして実食〜食べず嫌いはいませんか?〜
──とある村・特設会場 
 いつのまにやら店の前には、娯楽の少ない村の為の料理特設会場が作られていた。
 審査員席には、ガイヴァー卿、オートストップ店主、そしてフェリーナが座らされている。
「‥‥どうして、私が選ばれたのかな?」
 そう呟くフェリーナ。
「女性の観点からの審査も必要です‥‥」
 そう告げるガイヴァー卿に、とりあえず肯くフェリーナ。
「それでは、最後の仕上げを行なって貰う!! 期限は今から一時間後、あの日時計がちょうど正午を指し示したときとする‥‥はじめっ!!」
 一斉に料理開始。
 外見からは想像すら出来ないほどの繊細な盛り付けを見せる銀鷹至高厨師連・マッチョ3兄弟。
 それに対抗する、冒険者料理チーム。
 群雷は過激な迄に鍋を振り、炎が火柱となっている。
 桂花はその横で、静かに兎を捌いている。
 エグゼもまた、ぐつぐつと何かソースを作っている。
 そしてアイリスは、のんびりと仕上げのソースの調整。

「それまでっ!! 料理を出して貰おう!!」
 そう告げるガイヴァー。
 まずは先行、マッスル三男。
「この村ではもう取れなくなった黒トリュフを使った、特製スープです‥‥」
 いきなりスープかよ。
 それを一口すする一行。
「ふむ‥‥心地好い香り、この野趣あふれる味わい‥‥」
「トリュフスープとは‥‥また‥‥なんとも‥‥」
 そう告げる二人。
 その横で、フェリーナは静かにスープを飲んでいた。
「ああ‥‥いいかんじ‥‥」
 ほわーーんとしてくるフェリーナ。

「では‥‥次は私のスープアルネ」
 そう告げながら群雷が差し出したスープ。
 色とりどりの食材が綺麗に浮ぶ。
「ほう、具材が見事な色合いを出しているか‥‥」
 一同はそれを静かに食べる。
「はふはふはふっ‥‥スープを愉しみ、触感を愉しみ、味わいを楽しむ‥‥うむ」
 でるか!!
「旨し!!」
 最高の料理を食べたときにしかでない、ガイヴァー卿のきめセリフ。
 かつてこの言葉を聞いたことのある料理人は、このノルマンでも10人いない筈。
「こ、このフワフワとした触感‥‥白身魚ですか。そして少しだけアクセントとのある‥‥白トリュフを香りに使いましたね!!」
 その店主の言葉に深々と肯く群雷。
「自然のモノ。この地ノ料理はこの地ノモノ‥‥ワタシ、当たり前の料理シカツクッテイナイアル‥‥ダイナミック!  勢イ!!  大胆豪快カツ繊細!!! 此レ華仙教料理の奥義アルヨ」
 そう告げる群雷。

──ドワワワワン
 銅鑼の音が鳴り響く。
 って、ガイヴァ卿。そんなものも持ってきていたのかい。
「続いては私達、銀鷹至高厨師連は肉を使った前菜です‥‥」
 そう告げつつ、マッスル次男が差し出した料理。
 新鮮な野菜とハーブを使い、そこに奇妙な肉のスライスが乗せられ、香り高いソースが添えられている。
 さっそくそれを口許に運びこむ。
──サクッ
 その新鮮な触感。
 さくさくとした歯触り、音、全てが心地好い。
(‥‥これが銀鷹至高厨師連の実力‥‥なの‥‥)
 意識がトローンとしてくるフェリーナ。
 そして乗せられている肉を口に運んだ瞬間。
──ドガッ
 まるで後頭部を殴られるようなインパクトが襲いかかる。
「そうか。ガーリックソース‥‥これには新鮮なニンニクを使っているのですか‥‥」
 店主がそう叫ぶ。
「それだけではありません‥‥その肉は‥‥」
 そう告げたとき、ガイヴァー卿がフォークを置いた。
「ケバブ‥‥異国の肉料理技術か‥‥」
 ガイヴァー卿。あんた、何者だよ!!
 その言葉ににぃっと笑うマッスル次男。
「ええ。お気に召しましたか‥‥」

「さて。それじゃあこっちのメニューだな」
 エグゼが審査員に皿を持っていく。
 温野菜のサラダに、横に添えられているアイリス特製の兎の生ハム仕立て。
──パクッ
「ほっほっほっほっ。これはいいですな。シチューソースに程よく絡まった野菜がなんともいえません」
「それにアイリスの作った生ハム仕立て。これにもソースがアクセントとして付けられているんだね‥‥」
 フェリーナもご満悦。
「‥‥ふむ。これにも白トリュフか‥‥やはり‥‥」
 そう告げるだけで、ガイヴァー卿は静かに食を進めた。
「ああ。これぞ『エグゼ屋特製、愛の温暖野菜』だ。心して味わってくれ」
 そして一行は、静かに食事を進めていた。


──ドワワワワン
「それでは最後の前菜をっ」
 そう告げると、まずは銀鷹至高厨師連より『前菜のジャンヴィエ』が皿を出す。
 色とりどりの野菜とハーブ、そして河魚のスモーク。それらをしっかりと混ぜ、ハーブの効いたソースがかかっている。
「銀鷹至高厨師連からは『静かな森のサラダ』です」
 そう告げられて静かにサラダを口に運ぶ一行。
──ドッ
 口の中に清涼感が広がり、まるでふわふわと身体が中に浮いている感じがする審査員一行。
(ソースのアクセントが‥‥判らないな‥‥このカリカリッとしているのは‥‥)
 フェリーナは意識を集中する。
 口の中に広がる感覚。
 瞳をジッと閉じて、記憶の底からそれを思い出そうとしている。
──カリッ
「ふむ‥‥面白いな‥‥」
 ガイヴァー卿は静かに告げると、フェリーナの方を向く。
 まるで、『判るか?』と問い掛けているようである。
「‥‥クルミ‥‥そう、これはクルミだねっ!!」
「ウィ。クルミを油で揚げて、クラッシュしました‥‥」
 審査員一同、もう言葉はでない。

「最後はあたいのこのサラダだよっ!!」
 桂花、会心の料理。
 綺麗な皿に盛り付けられたパスタと野菜のサラダ。その上には、刻まれた白トリュフがそっと添えられている。
 ちなみに皿はオイフェミアが徹夜で仕上げた秀逸な作品。
 本人は睡眠不足で只今仮眠中らしいが。
「ふむ‥‥それでは‥‥」
 静かに食べ始める審査員達。
 と、全員が言葉を失う。
(こんなサラダが‥‥)
(パスタをここまで工夫して‥‥)
(そして味わい、ソースの加減、全体のバランスがしっかりと取れていて‥‥)
 でるか?
『旨し!!』
 でた。
 しかも3人同時に。

 そして審査員全員がそれを食べおえると、そのまま最終審査を開始。
 そして結果は。

「それでは結論を言う。勝者‥‥冒険者っ!!」
 パァッと全員の顔が晴れ渡る。
「どうしてだっ。この俺の前菜どこが悪いんだッ!!」
 どうにも腑に落ちない銀鷹至高厨師連。
「では審査員を代表して‥‥」
 ゴホンと咳払いするフェリーナ。
「銀鷹至高厨師連の前菜、それは一つ一つが素晴らしい逸品で、実に満足のいく料理だよ。でも、それじゃあ前菜にはならないんだよね」
 その言葉に、ガクッと膝を付くジャンヴィエ。
「後に続いてこその前菜‥‥か‥‥ふっ‥‥」
 そう告げると、ジャンヴィエは静かに立ち上がり、トボトボと其の場を後にした。
 

●そして〜初めてのグローリアスロード〜
──小料理屋『オートストップ』
 冒険者達の料理。
 それを店主にレクチャーし、無事に石碑の解析も終った一行。
 店の方も徐々に客足が伸び、このままなら一ヶ月後には借金を返してもお釣が来るであろう。
「うんうん。この味付けならOKだな‥‥」
 店主に前菜3本勝負で使ったメニューを教え、最後の味見をして満足のエグゼ。
「そっちは終ったのー」
 そう呟きつつ、可愛いペットの猫とジャレているのは桂花。
 しかし、ジャレているのがどっちなのか、それが知りたいところであるが。
「最後の仕込みマデ終ったアル。あとはアイリス小姐がパン急いているアルヨ」
 どうやら前菜を大量に造り、この店の新たなる門出を祝うパーティーを催すようである。
「ふぅ‥‥ふぅ‥‥おまたせぇぇぇぇ」
 ドサドサッと大量の食器を作成して戻ってきたオイフェミア。
 今回は完全に舞台裏の仕事の模様、本当にご苦労さん。
「ふむー。これは前菜、こっちは煮物‥‥色付けは問題なし、形もOKだな」
 ひとつひとつチェックするエグゼ。
「それでも半分ぐらいは失敗したんだよっ」
 そう告げつつ、近くに置かれているワインを手に取ると、それをいっきに飲み干して‥‥。
「あの‥‥それワインビネガー‥‥」
──ブーーーーーーーーーーーッ
 力一杯吹き出すオイフェミア。
「ア・イ・リ・スゥゥゥゥ‥‥そんなところに置かないでよッ!!」
 そう叫びつつ、井戸にうがいに向かうオイフェミア。
「うーん。デモ、アノ小姐、挨拶ぐらいシたらいいのに思うアル‥‥人付き合い難しいアルカネェ‥‥」
 そう呟きつつ、オイフェミアの作った皿を手に取り、ウンウンと肯いている群雷。
 そうこうしているうちにパーティーは始まり、近所からも店の復帰を祝って大勢の人が集ってきた。

──そして翌日
 最終日。
 一行は、改修した石版に記されたグローリアスロードのメニューの一つ『果てしなき前菜』を、全員で初めて作ってみた。
「なんだ、たいして代わり映えのしない料理だよね‥‥」
 野菜の切り方から調味料の配合、それら全てが記されている
 そして中心となるのが白トリュフ。
「でも、これがグローリアスロードなんだから、食べてみないと」
「そうアルヨ。食べること、これも勉強ネ」
 そう告げる一行。
──パクッ
 一口食べて中に浮ぶ感触。
「ふぅーん。この程度ねぇ‥‥」
 フワフワと浮かびつつ感想を告げる桂花。
「それほど‥‥ってあれ?」
 フワフワと浮いているエグゼ。
「ナルホド。魂すら肉体カラ解放スル料理‥‥これは危険アル‥‥」
 下を向きつつそう告げる群雷。
「うーん。フワフワしているねぇ‥‥」
 スカートを押さえつつそう告げているフェリーナ。
 あ、みなさん魂が抜けているように見えるのは、記録係の私の気のせいですか‥‥おーーーい。
 ガクガクと身体を揺さぶられて我に帰る一行。
「身体が感動している‥‥これが‥‥」
 ブワッと涙を流すエグゼ。
 そして全員が、ほとばしる涙を止められない‥‥。
『栄光への道‥‥果てしなき前菜‥‥』
 そう告げると、一行は一休みした後、帰り支度をしたパリへと帰還した。
「おーーい私はまだ食べおわっていないんだよーーーっ」
 と、今だに肉体に戻ることを拒んでいるように見えるオイフェミア。
 そしてどうにか食事を終えると、オイフェミアも急いで一行に続いて戻っていった。
 なお、お土産に大量の『白トリュフ』を持って帰ってきたことはいうまでもない。

〜To be continue