●リプレイ本文
●と言うことで〜まずは準備から〜
──ミハイル研究室
静かな研究室。
ミハイル教授の失踪を今回のメンバーが聞いたのは、依頼を受けて研究室に到着した日の昼下がり。
「パロムおじさまーーーっ」
いきなりパロム・ペン(ea2705)の胸に飛込むと、シャーリィは涙を流している。
「ど、一体どうしたにゅ? なにがあったか話をしてほしいにゅ!!」
この展開は想像していなかったパロム。
そしてシャーリィは少し落ち着くと、一行を応接間へと案内する。
そして、ミハイル教授に起こった事件について静かに語り始めた。
詳しくは『ミハイル教授とその配下(?)が性格悪げな水の精霊とあれこれした依頼の報告書』を参照して下さい。
「‥‥参ったね‥‥そんな事があったんですか‥‥」
ふぅ、と溜め息を尽きながらそう呟いているのは無天焔威(ea0073)。
水の精霊の加護を受ける為に出かけたミハイル。
だが、最終的には水の精霊の怒りを買ってしまい、依頼は失敗したらしい。
それだけならいざ知らず、ミハイルの旧知の友人であり、今は敵秘密結社の幹部として暗躍をしている『シルバーホーク卿』の所在も判ったのである。
あの冒険考古学者がじっとしている筈は無い。
「でも、今の話を聞く限りでは、その女性が最後にへまをしたわけですよね? それはそれで次への繋がりにはなるな‥‥」
ジョセフ・ギールケ(ea2165)がシャーリィにそう話し掛ける。
「どうしてですか?」
「簡単だよ。ミハイル教授は『時間が必要』って話していたんだろ? つまりチャンスはまだある訳で、彼女の前に色々と皆が頑張ってくれたおかげで水の精霊も本気で怒ってきた訳ではない」
流石はケンブリッジの学生にしてウィザード。
一つ一つの出来事をかみ砕いて推理するのはお手の物というところであろう。
「もし彼女が一番最初に水の精霊に話し掛けていたら、友好度もなにもない状況で話し合いにもならず、そのまま本気で戦闘に入っていたんだろうねぇ‥‥他の仲間たちの意見もなにも聞かずに‥‥」
そうなると、相手は水の魔人、全滅は必死。
冷静な意見をシャーリィに告げるジョセフ。
「とりあえず、教授の件は『冒険者』に頼むしかないだろう。それよりも、今は自分の事に集中しないと」
そう優しく語りかけるリュオン・リグナート(ea2203)。
「そうですね‥‥教授の知合いの冒険者さんでしたら、必ず教授を探してきてくれますね‥‥」
そう告げた後、シャーリィはそっと木のマグを手に取ると、中に入っているハーブティーをゆっくりと飲む。
「その調子だよ。早速で悪いが、今回の依頼について少し質問はいいか?」
リュオンはようやく元気を取り戻したシャーリィに、そう話し掛けた。
「ええ。いつも教授とあの方とのやり取りを聞いていましたから大丈夫ですわ」
あの方というと、ヘタレンジャーですな!!
「剣を入手後、何者かに襲われた記憶はないか? 例えば研究室の周囲を怪しげな人影が蠢いていたとか?」
「それはありませんでしたわ。よく冒険者の皆さんがやってきては、剣について色々と質問をなさっていましたけれど‥‥あの時は、まだ調査も始まったばかりでしたので、詳しい話しは全く‥‥」
そう告げるシャーリィ。
「今回の目的地について、判る範囲で説明して欲しい。もし地図があるのなら、それを見せてくれると助かるんだが‥‥」
そのリュオンの言葉の後で、シャーリィは数枚の羊皮紙を取り出した。
「これは知合いの山師さんに作ってもらった地図ですわ。えーっと、確かこっちの地図がこっちに繋がって‥‥あら?」
必死に数枚の地図を一つに纏めようとするシャーリィ。
「多分こっちはここに繋がって‥‥ほら完成だ」
てきぱきとシャーリィから地図を取り上げると、コトセット・メヌーマ(ea4473)は一気に地図を組み上げた。
「助かりました‥‥えっと、説明ですね。私達が居る場所はここ、ノルマン・シャルトル地方。ここがプロスト卿の住まう城下街、つまりここですわ。ここから伸びる街道をこう‥‥」
次々と説明を続けるシャーリィ。
「そしてここからは街道を使えません。馬も入ることの出来ない険しい森と荒れ地ですわ。この先に、目的である『アレックス・ケノーヴィ卿』が住んでいるということは聞いたのですが‥‥」
「街道沿いならば、途中までは馬車を使えるか。問題はここ、森とその先のエリアか」
グラン・バク(ea5229)はそう告げつつ、静かに地図を見つめている。
「幾つかのルートが想定されるとして‥‥この周辺のモンスターは?」
「そこまでは‥‥動物が多いという話しは聞きましたけれど‥‥」
ほーちゃんのその言葉に、シャーリィも頭を捻る。
「と言うことは‥‥今の戦力を十分考慮してルートを決定するしか‥‥と」
ふとリュオンは仲間たちをじっと見る。
ほーちゃん‥‥浪人
ジョセフ‥‥‥ウィザード
リュオン‥‥‥ファイター
パロム‥‥‥‥レンジャー
コトセット‥‥ウィザード
グラン‥‥‥‥ナイト
前衛3、後衛1、中堅1。
そして回復要員がいない。
「むー。なら、ルートはここをこうして‥‥ちょいちょいと」
パロムなりに考えたルート。
自分達はある程度身を隠せそうな森。
そこをメインとして、モンスター達の気配については常時注意を払う。
幸いなことに近くには小川もある。
「‥‥流石はレンジャーだな」
「たいしたものだよ」
「素敵ですわおじさまっ」
「ああ、本当だよおじさまっ」
「ではこのルートで決定だなおじさま‥‥」
「まったくだなおじさま」
「本当におじさま」
途中のシャーリィの言葉以降は、完全にパロムを冷やかしに入った一行。
「えーい。シャーリィちゃん以外は『おじさま禁止』にゅ!!」
そんなパロムの叫びをあとに、一行はミハイル教授研究室に馬を預けて、出発の為の準備を開始した。
●近くの村〜いきなりかい?〜
──聞き込み調査
「‥‥この村から歩いて1日か‥‥」
目的地である住処へと向かう途中、一行は街道沿いにある小さな村を訪れていた。
そこには、プロスト領を中心に活動しているキャラバンが訪れており、村の人たちはキャラバンから様々な生活物資を買い求めているようである。
グランはそのキャラバンの隊長と接触、軽く挨拶を行なった後にケノーヴィ老人について訪ねてみた。
「ああ、前にも買い物をしていった老人だな。ここからちょうどあっちの方角だな。森はかなり険しいし、魔物も徘徊している。それなりの装備がないときついだろう」
丁寧にそう教えてくれる隊長。
「しかし、あんた達も『剣の都』を求めているのかい?」
「ああ。剣の都、剣に生き剣とともに敬意を払うべき―羨ましい話だが‥‥あんた達というと、他にも?」
そう言葉を返した後、グランは問い返した。
「昨日も変な二人組が同じことを訪ねて森の中にはいっていったけれど‥‥」
「変な二人組?」
グランはその人物がシルバーホーク関係かと思い、そう問い掛ける。
「確か、無口なパラの男の子と、おしゃべりなエルフの女性だったな。たいした装備もしないで、森に入っていったけれどねぇ‥‥随分といい服来ていたから、何処かのお嬢様とかそんなかんじかなぁ‥‥」
それ以上の情報は手に入らない。
兎に角グランはそのまま仲間たちの元に戻ると、一連の情報を伝える。
「んーーー。意外と高いにゅ!!」
ちなみにパロム、出発前には確認した筈の食糧が実は正直足りないという事実に気が付き、キャラバンで慌てて買い足した模様。
●木の葉隠すには〜って木の葉程度じゃないし〜
──森の中
「グウァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
激しい雄叫びを揚げつつ、巨大な戦斧を振回すミノタウロス。
一行は森の中に突入後、暫くはなにもない時間が続いていた。
万が一の為にシャーリィ以下全員が正体を隠す為に白いフード付きローブを着用、出来るだけ周囲に気取られないように行動していた。
獣道に巨大な足跡を確認した一行は、より一層の注意を払っていたのであるが、突然森の奥から雄叫びをあげつつ『ミノタウロス』が出現し、襲いかかってきたのである。
正確には、襲いかかってきたのではなく、『逃げている人物を追いかけて』きたようであるが。
「ふぅ。ミノタウロスか‥‥」
その戦斧の一撃をパリーイングダガーで受け流すリュオン。
そして体勢が崩れた所にほーちゃんが飛込み、両手で構えたシルバーダガーで素早く切りかかる。
──ドシュドシュッ
「名付けて無天一流‥‥なんちゃって♪〜」
素早くダブルアタックを叩き込むと、そのまま次の手数を確保する為に後方へと下がる準備。
そして入れ違いに飛込んできたグランが恐怖のスマッシュEX連撃!!
──ガギィィィン‥‥ズバァッズバァッ
最初の一撃は斧で受止めたものの、続く2連撃は受けきれず、ざっくりと皮膚に刃が食い込む。
「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ」
絶叫を上げて後方へと逃げ始めるミノタウロス。
「止めです!!」
そして逃げるミノタウロスに向かってジョセフがウィンドスラッシュを発動!!
背後から真空の刃に襲われ、ミノタウロスはさらに逃げる脚を遅める。
「‥‥逃がすと厄介だからな‥‥」
そう呟くと、リュオンは逃げるミノタウロスと自分との間に障害物が無いラインを見定める。
そして静かに剣を構えると、素早く振り切った!!
──シュンッ!!
剣戟で生み出される衝撃波がミノタウロスの背中をえぐる。
それが致命傷となって、ミノタウロスは絶命した。
「ふうう。助かりましたぁ〜」
「ペコッ」
ようやく戦闘蛾終了したのを確認して、二人組が一行に向かって頭を下げる。
「危なかったな‥‥だが、お前たちは何者だ? こんな人気のない森で、そのいでたち‥‥気になるが」
そう告げるグラン。
「あ、私達は怪しいものではありません。ちょっとこの先に住んでいるという人に用事があって、この森に入った次第です」
そう告げるのは金髪女性のエルフ。
「こっちの無口なパラはアール。アール・ベイカー。私はシィ。シィ・スリーピィ・ダニエルズ。共にグレイファントム領の『フィッシャー卿』の元で働いていました。フィッシャー卿はある重大な事実を入手し、それを表に出そうとして、アサシンガールと呼ばれている者たちに殺されました」
いきなり突拍子も無いことを言うと、普通の人たちは思うであろう。
だが、今そこに居る冒険者には、少なからずとも心当りのある事であった。
「今となっては、真実を知るのはフィッシャー卿の孫娘、レイアー嬢のみ。ですがそのレイアー嬢はシルバーホークの幹部でありワルプルギスの剣士である『ダース・ブラウザー』によって拉致されてしまいました‥‥」
そう告げる金髪の女性エルフ、シィ。
「うーん。それって、やばくない?」
リュオンが腕を組みつつそう呟く。
「やはりそこでもシルバーホークが絡んできたか。しかし暗殺とは、穏やかではないな‥‥」
コトセットもそう呟くと、そのままパロムに目配せをする。
(判っているにょ‥‥)
すかさずパロムは周囲の気配を探る。
己の感覚を限界にまで高め、この森全域に至るまで、気配を探ろうとする。
──ピキーーン
なにも感じない。
そりゃそうだ。
森全域は無理。
「大丈夫にゅ。今のところ、怪しい人物はこの二人だけにゅ!!」
あんた、相変わらずやな。
「そのレイアー嬢っていうのは、一体何処に捕まっているのかな?」
ほーちゃんがそう問い掛ける。
「それが‥‥よく解らないのです。私達も捕まり、そのまま奴隷商人に引き渡されたのです。レイアー様はブラウザー卿に連れられて何処かに‥‥私達は奴隷商人達の隙を見て、馬車から逃げてきましたから‥‥」
オロオロとするシィ。
「少なくとも、私達はシルバーホークとは関係が無い。むしろ敵対しているという所だろう!!」
ジョセフがシィとアールに向かってそう告げる。
「取り敢えず、私達も『アレックス・ケノーヴィ』に会いにこの森にやってきたんだ。一緒に行くか?」
コトセットのその誘いに、二人は静かに肯いた。
●洞窟の奥に住まう者〜隠者?〜
──とある洞窟
森を越えてさらなる森林地帯へ。
かなりの高低差のある森林。
その一角に、ポッカリと口を開いている洞窟があった。
「‥‥人が住んでいるにゅ。シャーリィちゃんはここで皆とじっとしているんだ。おいちゃんが偵察してくるにゅ」
「気を付けてくださいね」
そうシャーリィに別れを告げると、パロムはまず先行偵察。
ランタンを取り出し、中に油が少し残っているのを確認。
(灯が切れるまでを勝負時間とするにょ‥‥)
火を灯し、マントで正面を少し覆う。
奥の方から直接ランタンの灯が見えないようにとの配慮。
少しずつ忍び足で中に入る。
五感をフルに使い、どんな物音も聞き逃さないように慎重に。
──コトッ
奥からなにかが歩いてくる音がする。
「誰だ?」
低い声。
それでいて重みのある声に、パロムは静かに口を開く。
「‥‥アレックスさんですかにゅ?」
そう告げて、曲がり角から姿を現わした老人を見る。
無精髭を生やし、ぼろのフード付きローブを着込んだ老人。
其の手にはオーラをまとったらしき剣が握られていた。
「‥‥何の用だ?」
「おいら達は『ワルプルギスの剣士』を求めてここにやってきたにゅ。シャーリィちゃんの依頼で貴方を探しに来たにゅ。話を聞かせて欲しいにゅ!!」
そう頼み込むパロム。
と、少ししてから、アレックスの手の中の光剣が消えていく。
「仲間が居るのなら、連れてきなさい‥‥」
そう告げると、アレックスは洞窟の奥へと戻っていった。
●という事で〜ワルプルギスの剣士と御対面〜
──洞窟奥
戻ったパロムに説明を受けると、一行はいよいよアレックスと御対面。
「はじめまして。私はプロスト領でミハイル・ジョーンズ先生の元で考古学を学んでいるシャーリィ・テンプルと申します」
丁寧に挨拶をするシャーリィ。
そして持ってきた『紋章剣』を取り出すと、それを老人に見せる。
「その剣は『ワルプルギスの剣士』が用いていたと噂される剣です。本物かどうか教えて欲しいのです!!」
そう告げてから、シャーリィは一拍置いてから今回の仲間たちについて紹介していく。
「‥‥本物か‥‥私はユワン・ケノーヴィー。見てのとおりの隠遁者だ‥‥」
そう告げると、ユワンと名乗った老人は、シャーリィに剣を戻すと、一行にハーブティーを差し出した。
「ユワン‥‥アレックス卿ではないのか?」
グランがそう問い掛ける。
「うむ。ワルプルギスの剣士、アレックス・ケノーヴィーはもうこの世にはいない‥‥」
「そんな‥‥折角レイアー様からの手紙を届ける為にここにやってきたのに、あんまりです!!」
シィがそう涙を流しつつ、そう叫ぶ。
「担当直入に説明します。まず、今、このパリはシルバーホークと呼ばれる秘密結社によって狙われています‥‥」
ほーちゃんがそう話を始める。
「シルバーホークの幹部には悪魔が存在しているらしいため、その魔と戦う力を必要としている。だが、その為には強力な魔法武具か、それに変わる力が必要だ」
コトセットがそう告げて、ユワンを見る。
「老人、貴方のおっしゃりたいことも判る。だが、今は動く時‥‥貴方が知っている技や武具は、終わることのない『魔』との戦いに有効に用いられるべきだ。残念だが強力な力そのものには善悪の判断はない。知恵ある勇者以外の手に渡れば、暗黒が訪れよう。そして、その勇者を捜す事が我らの重要な使命の1つである。そのために、私はここに来た!!」
熱く語るコトセット。
「自分は、今話のあった悪魔‥‥ヘルメスという女悪魔を打ち倒す手段を探している」
グランも本題に入る。
「指導担当した教え子が連中の手にかかった。ある者は首を四肢を頚り切られバラされ。ある者は心を喪った。その姿を見て、俺は、俺の為すべき道を見つけた。『ケリ』はつけなければならないと思った。率直に聞こう、奴等に対抗する手段があるのかそして我々が身につけれるものなのか」
その言葉に、ユワンはじっと耳を傾けていた。
そしてシィが横に座っているアールから破れた書簡を受け取ると、それをユワンに手渡す。
「フイッシャー卿の孫娘、レイアー様から預かった書簡です‥‥あちこち破れてしまっていますが、お渡しします」
そう告げると、シィはユワンに手紙を手渡した。
「どれ‥‥」
そのまま暫く、ユワンも手紙を読む。
「『‥‥助けてアレックス・ケノーヴィー。貴方だけが頼りなの』‥‥が」
そう告げてから、ユワンは奥へと戻る。
そして布につつまれた剣を持って来ると、再び腰掛けて一行をグルッと見渡した。
「この剣は『ワルプルギスの剣士』に与えられる『力の剣』。選ばれた者のみがその力を解放する事が許される‥‥」
そう告げると、ユワンはまずほーちゃんにその剣を手渡す。
刀身には『どんな時もオーラを信じなさい。オーラと共にあらんことを・・・・』と刻まれている。
「‥‥いい剣ですねぇ‥‥これは蝙蝠の紋章ですか?」
次はジョセフ。
と、一通りのメンバーが手にしても、なにも感じなかった剣。
だが、グランがそれを手にしたとき、様子は少し変わった。
「‥‥なんだ?」
なにかがグランの体内で駆け巡っている。
それは、出口を求めて彷徨っている『未知なる力』。
「ほぅ。感じたか、オーラの流れを」
ユワンは真剣な表情でそうグランに問い掛ける。
「熱いなにかを感じる。これがオーラなのか?」
そのグランの言葉に、ユワンは静かに肯く。
「資質はある。が、それもこれからの修行次第。グランと申したな、先程の問いの答えは、そなたの身体の中に眠っている。ワルプルギスの剣士としてオーラを体得し、その理を得ることが出来れば、悪魔をも貫く力を得よう‥‥」
『奴等に対抗する手段があるのか、そして我々が身につけれるものなのか‥‥』
その答えが、今、眼の前にある。
「俺に、それを享受してくれ!!」
グランは頭を下げた。
だが、ユワンは頭を左右に振る。
「今、此処では教えられぬ。私はレイアー嬢を助けに行かなくてはならないのだから。もし、オーラの理を知りたいのならば、この洞窟を出てさらに先にある遺跡『剣士の居留地』に向かいなさい。そこにいる『オズ』と名乗る老人に師事すればよい‥‥もっとも、今、そなたの中を流れるオーラは目を覚ました。日々それを感じ、それに意志を傾けると、あるいは理を知ることは出来よう‥‥」
ゆっくりと腰を上げると、ユアンは洞窟の入り口の方を見る。
「来客か‥‥皆さんは奥へ。ここは私が‥‥」
そのまま入り口と向うユアンに、グランがついて行く。
「もし敵なら、俺も協力させて貰う‥‥」
そしてさらにほーちゃんが、ジョセフが、コトセットが。
一人、また一人とユアンの後ろに就く。
最後には、シャーリィを護るようにパロムも付き、冒険者+ユアンのチームが完成。
──そして
追撃。
シルバーホークの追撃部隊が、これほどの強さであったとは、一行は思っても居なかった。
純白のマントを翻しているファィターが6人、それを指揮する真紅のマントを付けたナイトが一人。
それだけならいざ知らず、3人もの『アサシンガール』を相手にすると、いくらグランでも分が悪い。
奴等の目的ははっきりとしていた。
ユアン暗殺、そして彼の元を訪れるであろうシィとアールの殺害。
全てが計画的であった。
必死に逃げつつ戦っている冒険者だが、ついにユアンとアール、その二人は一行から逸れてしまったのである。
どうにか探したい一行だったが、グランとコトセットも深手を追い、シャーリィまで怪我をするという事態となり、一行はどうにか街道近くまで逃げる。
と、偶然通りかかった一台の馬車に乗せてもらい、一行はそのまま逃亡する事になってしまった‥‥。
●俺の馬車は世界一早いぜ〜出たな〜
──移動中
ガラガラガラガラ
高速で駆け抜ける馬車。
横には『ファルコン号』と刻まれたプレートが張付けてあった。
「助かった‥‥礼を言う」
リュオンがそう告げながら、仲間たちの傷を見る。
「ああ、困ったときはお互い様といいたいが‥‥一体何があった?」
そう問い掛ける男に、ほーちゃんは静かに事情を説明する。
「シルバーホークの手練れに襲撃され、手傷を負ってしまったわけで‥‥はぁ‥‥」
そう呟きつつも、ほーちゃんは追撃してきたアサシンガールに『顔見知り』がいないのを確認して何故か一安心。
「シルバーホークねぇ‥‥あ、自己紹介が遅れたな。俺はハン。ハン・フォード。お前たちの手当をしている体毛の濃いジャイアントはアンタ・バッカー。俺達は『非合法の運び屋』をしているんだ‥‥」
ニィッと笑いつつ、そう告げるハン。
「ヨロズィグ」
変な訛りのアル言葉でそう告げるアンタ・バッカー。
「道理で、ここに積まれている荷物が胡散臭い者ものばかりなんだな‥‥」
コトセットは、荷台に一緒に積まれている様々な荷物を見てそう呟く。
「あ、それは‥‥仕事料金の代わりに持ってきたもので‥‥まあ、ぶっちゃけ『かっぱらってきた』美術品だな‥‥」
そんな物騒な話をしつつも、ファルコン号は一路ミハイル研究室へと向かっていった。
一行の怪我も対した事はない。
だが、行方不明となってしまったアールとユアン・ケノーヴィー。
そして遺跡のさらに奥に存在する『剣士の居住地』、ワルプルギスの剣士『オズ』。
まだ、剣士の謎については始まりでしかなかった。
「あのー、記録係さん?」
そうシャーリィが話し掛ける。
──はい、なにか?
「今回の依頼の報告書ですが、ギルドマスターの元には届けてくれて構いませんが、一般閲覧は禁止して戴くと助かるのですが‥‥」
──それはまたどうして?
「まだ調査は始まったばかりです。もしギルドの閲覧室でこの報告書を読んだ方が、興味本意で『フラリと』探しにこられたら困りますので‥‥」
──ああ、ではギルドマスターの方に確認してもらってから、この報告書は『封印書庫』にしまっておきますね。
──ガチャッ
そして報告書は封印書庫の中へ‥‥。
〜To be continue