●リプレイ本文
●突然ですが、大騒動です!!
──パリ郊外
ガギィィィィン
激しく打ちなる剣戟の響き。
深紅のマントを装備したシルバーホークのファィター『ホークガード』と、チーム・ワイルドギースのリーダーであるカーツ・ザドペックが、一騎打ちモードに突入。
その近くでは、高位のウィザードであるゼルス・ウィンディとアリス・コルレオーネが高速詠唱を駆使しつつ、次々と敵白マント『ホワイトトルーパー』部隊を蹂躪。
ララ・ガルボと水島八雲も前衛として戦いを挑み、さらに後方ではイルダーナフ・ビューコックが随時、回復魔法を唱えている。
「・・・・囮かっ!!」
深紅のマントを付けたファイターが、カーツに向かってそう叫ぶ。
そう。
ワルプルギスの剣士の元へと向かった仲間(とも)のため、チーム・ワイルドギース一行は危険を覚悟で囮を引き受けたのである。
巧みな変装、借りてきた馬車。
全てはグランが無事に任務を終える為。
「急いでダース卿に連絡を!!」
踵を返す白マント。
だが、その背後からはアリスのアイスブリザードが襲った!!
「もう遅い。貴様達にはここでおとなしくしてもらう!!」
・・・・・・
‥‥
‥
生かさず殺さず。
囮を務めた一行は、シルバーホークの尖兵達を捕らえ、無事に騎士団に引き渡すことに成功した。
●剣の都・その遺跡へ〜選ばれしものたち〜
──ミハイル教授研究室
パリの停車場でうろつく一行。
グラン・バク(ea5229)の直感で無事にハン・フォード率いる高速馬車『ファルコン号』を発見した一行は、どうにか無事に契約にこぎつけると、急いでシャーリィの元へと向かった。
「シャーリィちゃんも無理は駄目にゅねー。心配はいらないから、絶対に安静にしておくにゅよ。おいちゃんの生まれ故郷に伝わる、健康祈願の木彫り像を置いていくからにゅ。おいちゃんの代わりにシャーリィちゃんを守ってくれると思うにゅ」
そう告げながら、コトッとシャーリィの枕許に奇妙な木彫りの人形を置いているのはパロム・ペン(ea2705)。
「ありがとうございます。パロムおじさまの手作りですか‥‥」
にっこりと微笑むシャーリィ。
その横では、シィ・スリーピィが食事の準備をしている。
「さて、とりあえず時間が惜しい。仲間が囮として時間をとってくれていたが、また何時追いかけてくるか判らないから‥‥」
そう告げると、グランはシャーリィより『紋章剣』を受け取ると、それを腰に帯剣する。
「じゃあ、あとは引き受けたよ。しっかり直して無茶はしないでね〜」
無天焔威(ea0073)もシャーリィに笑みを見せると、そのまま其の場を後にした。
●おいてきぼり〜あっれ?〜
──ミハイル研究室
「はぁ‥‥皆さん既に出発しましたけれど?」
今回の依頼人であるシャーリィ・テンプルは、目の前で呆然としているクリシュナ・パラハ(ea1850)に対してそう告げた。
「‥‥みんな酷いわっ!! 私だって今回の依頼を受けた仲間なのに。とっとと別の馬車を捕まえて置いていくなんて‥‥」
サメザメと泣くクリシュナ。
プロスト領に来る為には、徒歩で5日。
最近は『冒険者酒場・マスカレード発』の馬車がある為、冒険者は無料で領地まで送迎してくれていた。
それでも馬車で2日はかかる。
道が複雑で、直線で歩いて来ることが出来ればそれ程時間はかからない。
けれど、それには危険が付きまとう。
そのため、クリシュナは冒険出発の日、そこで皆と合流しようとしていたのだが、誰もそこにはやってこない。
止むを得ず、先にシーリィの元を訪れてそこで合流しようとしていたのであるが、既に一行は出発してしまっていたのである。
「まあ‥‥どんな経緯があったのか知りませんけれど‥‥今回の回復要員の補充、クリシュナさんが受けたのですか?」
そう問い掛けるシャーリィに、クリシュナは静かに肯く。
「そうなのよ。私だって、回復要員の代わりを務めれないことぐらいは十分承知しているわ。けれど、今、こうしている間にも、罪の無い子供達がアサシンガールとして育てられているのに、私は黙っている訳にはいかないのよ‥‥」
そう力説するクリシュナだが。
「あの‥‥アサシンガールとワルプルギス遺跡、どう繋がっているのですか?」
そう問い掛けるシャーリィ。
「まあ、皆さんは朝方出発しましたし、もう追い付けませんからお話だけでも‥‥」
「確か、教授の所には馬車がありますよね? 今からでもまだ間に合いますから、それを貸してください」
「一人では無理ですよ。大勢いても回復要員が必要と判断したのですから‥‥今からとなると、貴方が危険ですわ。辛いでしょうけれど、彼等を信じて待ちましょう‥‥」
そのままシャーリィに連れられて室内に入っていくと、クリシュナは止むを得ず研究室にて待機、後日単独で向かおうとしたがそれも叶わなかった為パリへと帰還した‥‥。
●剣士の居留地〜使われていない街道〜
──居留地
そこは小さな遺跡。
小さな谷あいの中にひっそりとある小さな村。
以前訪れた『ユアン・ケノーヴィー』の住んでいた洞窟よりもさらに奥。
使われず、今はただの獣道となってしまった街道を通り、たどり着いたのがそこであった。
崩れた外壁
人の気配のない家屋
風化した構造材
そこは人の気配の全くない場所。
「‥‥こっちも反応はないか‥‥」
ブレスセンサーを発動させて、ジョセフ・ギールケ(ea2165)が無理の中をゆっくりと歩く。
人の呼吸に反応する筈のセンサーが、全く反応していないという可能性は‥‥。
リュオン・リグナート(ea2203)と共にあちこちを歩いてみたものの、やはりどこにも人の気配はない。
「‥‥この先は沼地か。ここを越えていくとなると、ちょっときついが、どうする?」
谷の奥の沼地。
霧とも霞とも言えぬなにかが発生している為、その奥に進むことはできない。
──キィーン
と、その向うに呼吸が一つ。
「あった、この奥だ!!」
そう呟くジョセフ。
「人なのか?」
「ああ。大きさから察するに‥‥パラ‥‥呼吸は一つか。恐らくは例の『オズ』とかいう老人だろう」
そこでセンサーは時間切れ。
二人は待機していた仲間の元に戻ると、そのまま状況を説明。
ハンとアンタの二人は近くの茂みに馬車を隠してそこで待機、一行はその沼地の奥へと向かうこととした。
●沼地の奥〜良きオーラの使い手〜
──オズ居留地
そこは小さな小島。
沼の中央にあるその島には、小さい小屋が一つ立っている。
そこにたどり着いた一行は、小屋の中から姿を現わした老人に出会う。
髯を蓄えたパラの老人。
その腰には、『鳥』の紋章剣が携えられている。
「こんな辺鄙な場所にお客とは珍しいな‥‥」
一行をじっと見つつ、その老人は静かにそう告げていた。
「初めまして。私達は紋章剣に導かれてこの地にやってきました」
丁寧に挨拶をするコトセット・メヌーマ(ea4473)。
そしてそのコトセットの言葉の直後、グランは帯剣していた紋章剣を見せる。
「ワルプルギスの剣士について教えて欲しい‥‥」
単刀直入にそう告げるコトセット。
「何故、知りたがる?」
そう問い掛けるオズ。
「『刻』が迫っている‥‥そう感じるのだ」
ただ静かに告げるコトセット。
「‥‥入りなさい。今、何が起こっているのか教えて欲しい」
そう告げると、オズは家の中へと入っていった。
そして一行も、その言葉に従い中に入る。
そして今、何が起こっているのか、それを一つ一つ説明していく一行。
「シルバーホーク‥‥その名前は聞いたことがない。が、そのヘルメスという名の悪魔、かつてセーヌ川を下ったったある村を滅ぼした悪魔であれば‥‥封印が解かれたのか」
静かに立上がると、小屋の外をじっと眺めるオズ。
「ヘルメスという女、今はシルバーホークの側近として常に暗躍を続けている。その目的は判らないが、人の世に害を為す存在であることは確かじゃな‥‥」
そう告げると、オズはじっとグランを見る。
「名は?」
「グラン‥‥グラン・バグ‥‥」
返答を返しつつ、グランはオズの口から零れる言葉を一つ一つ頭の中に叩き込んでいる。
「一つ問いたい。力とは何ぞ?」
答えがすぐには出てこないグラン。
力=剣ではないにせよ、グランにとっては剣こそ象徴。
ならば。
「俺にとって剣は相棒だ。それ以上でもそれ以下でもない」
ホッホッホッと笑うオズ。
「まだ若い。が、今はその若さこそ必要。立ちなさい。ダース以来、久しぶりの弟子じゃな‥‥」
そう告げると、一行はオズと共に沼の向うにある居留地へと戻る。
オズとともにその地での修練が開始された。
陽と陰
+と−
理(オーラ)による力の制御『紋章』
逆に力や目に眩むことで起こる『暗黒面』
紋章の司る力を制御し、それを得る。
誤った力は暗黒面へと誘い、正しきオーラはを光へと導く。
言葉では理解するものの、その本質を今ひとつ体得できない。
「師よオーラの暗黒面に墜ちた者を救う方法は?」
そう問い掛けるグランに、オズは静かに口を開く。
「暗黒面に落ちたものには、帰る場所は存在しない‥‥魂を救う為、その命を‥‥」
基礎からの修練。
体内に駆抜けるオーラを感じ取り、それを具現化する。
剣の支えにより、どうにか体内を巡るオーラを感じることは出来る。
だが、そこから先にはまだ進めない。
──修行中
「オズ師。俺達でも、オーラを使うための方法があるのなら一番だけど…。どうなんだろうか?」
修行のさ中、リュオンがオズにそう問い掛ける。
「オーラは生まれ持った資質。魂と共にあり、生まれついで、その力を体内に駆け巡らせている。『鳥の紋章剣』はその資質の有無を見ることも出来る‥‥リュオン、そなたは剣を手にして、なにかを感じるかな?」
そう告げつつ差し出された紋章剣。
それを受止めて意識を集中する。
‥‥
‥‥
‥‥
なにも感じ取ることの出来ないリュオン。
「すまない‥‥俺には感じ取れない‥‥」
「ほっほっ。謝ることはない。逆に言えば、そなたにはそなたの道があるということじゃよ‥‥」
──とある日
「シィちゃんも元気を出すにゅ!!」
修行の日々。
一行がそれぞれの修行をしているさ中、パロムは常にシィちゃんと共にいた。
「判っています。けれど、こういしている間にも、レイアー様がどんな目に合っているか‥‥」
膝を抱えてうずくまるシィ。
その肩をトンと叩き抱しめると、パロムは静かに言葉を紡ぐ。
「シィちゃんにも一つ、おいらからいいことをお映えてあげるにゅ。どんなに辛いこと、苦しいことがあっても、常に前を向いてあるくにゅ。後ろを向くことも時には必要だけれど、すぐに前を向くにゅ‥‥人の目は、常に前を向いて歩くように、ここについているにゅ!!」
自分の瞳を指差しつつ、そう告げるパロム。
──ドン
と、いきなり修行中のグランが後ろから倒れてくる。
──プス
「うきゃぁぁぁぁ。刺さった刺さったにゅ!!」
ピョンピョンと飛び跳ねて叫ぶパロム。
「ああ、すまないパロムおじさま・ッテ、ジョセフ、すぐ側で語りかけてくるのは堪忍してくれ!! まったく‥‥」
「また言ったにゅ!! おじ様はシャーリィちゃん特権にゅ!! それ以外は禁止にゅ!!」
そうグランに言うパロム。
「あら‥‥私もだめですか?」
そう問い掛けるシィに、パロムは腕を組んで考え始める。
ようやくシィにも笑顔が見え始めた。
「ふう。この程度で集中できないとは、どれ、もう少し手伝ってあげましょう」
そう呟くと、ジョセフは再びグランに向かって魔法発動。
再び、グランの耳元に言葉を飛ばしていた。
──またある時
「ねー俺もオーラ使えないけど、何か魔剣無いー? 二刀流専用だとなおよし」
そう問い掛けるほーちゃん。
「この地には魔剣と呼ばれているものは存在しない。しかし、『ワルプルギスの紋章剣』を造りし名工。かの者が生きていればあるいは‥‥」
期待はしていなかった。
だが、そのオズの言葉に、ほーちゃんは期待に胸を膨らませる。
「その鍛冶師は何処に? 良かったら教えて欲しいんだけれど‥‥」
「家の場所をは判らない。ただ、彼の家の剣匠は代々『ディンセルフ』の名を受け継いでいる‥‥」
聞いたことのない名前。
そこからまた手掛りを探す必要がある。
●敵襲〜囮のおかげで時間は稼げたが〜
──居留地
「‥‥きた!! 数は20。囲まれつつある‥‥」
沼地で周囲を警戒していたジョセフがそう叫ぶ。
その瞬間、一行は其の手に武器を携え、戦う準備をした。
この地は袋小路、逃げる為には敵を突破しなくてはならない。
「グランは逃げろ!! 剣に認められたお前がここで死んじまったら洒落にならない!!」
そう叫ぶリュオン。
だが、グランは静かに紋章剣を構えると、入り口の方をじっと見る。
「奴が来ているな‥‥深追いは禁物じゃ。ここはワシにまかせるのぢゃよ‥‥」
そう告げるオズ。
そのままマントを翻し、オズは入り口に向かって走った。
そして一行も迎撃体勢を整えると、そのまま敵の襲撃に対してカウンターのスタンバイ!!
──ガサガサッ
いきなり茂みから飛び出してきたのはアサシンガール達。
「ターゲット一斉捕捉。任務スタンバイOK。『冒険者殲滅作戦』、イッツ、ショーーターーーイム!!」
今回のアサシンガールズの指揮はブランシュの模様。
その背後からはホワイトトルーパー、そしてホークガードの姿も見えてきた。
そして正面では、オズとダース卿の一騎打ち、その横からは『髑髏の仮面を付けたウィザード・ジェラール』の姿も見えた。
「オズ師っ!!」
急いで竜の紋章剣を構えるグラン。
だが、手助けをオズは制する。
「ワルプルギスの剣士の戦いは一対一。手出しはならぬ‥‥ダース、今日こそ、そなたを解放する」
「オズ。死に損ないのオーラマスターに引導を渡してやろう‥‥」
その瞬間、オズとダース、二人の紋章剣が輝いた!!
──ガギィィィィン
激しく紋章剣同士が打ち鳴らされた。
それが剣士の戦いの合図。
──ギィィィン
別の場所でも激しく打ち鳴る剣戟。
リュオンはホワイトトルーパーと一騎打ち。
どうにか一人は撃退したものの、すぐに次の一人が飛込んできた!!
とにかく敵を引き付けて、退路を作らなくてはならないリュオン。
シィはパロムが逃がした為、こっちは安心して戦えるという寸法らしい。
「いい腕をしている‥‥実戦慣れもしているところを見ると、どうやら今回はかなりの訓練を積んできた奴か‥‥」
「おしゃべりは必要ない‥‥」
──ズシャャャャッ
さらに一撃を叩き込んでくるトルーパーに対して、リュオンは素早く身をかわして体勢を整えると、そのままトルーパーの胴部に一撃を叩き込む。
ネイルアーマーがざっくりと切り裂かれ、腹部から血が吹き出す。
だが!!
「リカバーーっ」
後方で待機していたと思われる敵クレリックのリカバーにより、その傷は瞬時に塞がって行く。
「クレリックのサポートだと!!」
そのパターンは想像していない。
だが、トルーパは笑いつつ剣戟を繰り返し、リュオンを押し始めた。
──ーガギンガギン
「仲間に怪我人が出ることぐらい想定するのが当然だ。もとよりこっちは任務、命を駆けて戦っている。そんな事も判らずに、回復要員を連れてこない冒険者はやはり詰めがあまいと見える‥‥」
──ガギィィィン
素早くリュオンの剣をはね上げると、そのまま踏込んで胴部を薙ぐトルーパー。
─ドシュッ
「ぐっ‥‥まだまだぁ‥‥」
そう叫びつつ、懐のリカバーポーションに手を延ばすリュオンだが。
「冒険者はここで死を‥‥」
仮面の術師・ジェラールが素早く手をリュオンに差し出す!!
その瞬間、リュオンの肉体にまるで鎖が掛けられたかの如く、動きが鈍っていく。
「な、なんだっ!!」
──ドシュュュッ
その瞬間、前方のホワイトトルーパーの一撃が肩に食い込む。
懐に延ばした手はそのまま、鮮血が大量に吹き出した。
──ドサッ
そのまま肩膝を付くリュオン。
「さようなら冒険者‥‥」
ジェラールはそのままリュオンに手を向ける。
──ピシピシピシッ
それは死の宣告。
リュオンの脚が下から徐々に『石化』を開始した。
そしてリュオンは絶叫を上げつつ、その場で何も言わぬ石と化した‥‥。
●対魔法戦〜高速詠唱があれば〜
──ジョセフ
後方で魔法援護を行なっているのはジョセフ。
前方ではグランがホワイトトルーパーと戦い、さらにその近くではリュオンが敵ウィザードによって石化されてしまった。
「形勢が悪すぎる!!」
素早く印を組み韻を紡ぐジョセフ。
情況を打破する為に、一旦仲間を集める必要がある。
敵が多く襲っているグラン達の方向に向かって静かに向くと、素早くトルネードの詠唱を開始した。
──バッ!!
と、突然ジョセフの間合に一人の少女が飛び出してくる。
「魔法使い‥‥。印を組まないと魔法が使えないなんてトーシローねっ」
素早くジョセフの喉元に一撃を叩き込む少女。
詠唱を阻害されてしまい、ジョセフは後ろに下がる。
「待て!! ノリアさんから伝言だ。『エムロードは元気か?』だそうだ」
エムロード偽者疑惑。
それを晴らす為に、ジョセフは危険を覚悟でそう問い掛ける。
「はぁ‥‥エムロードって、あんた達冒険者が保護したんじゃなかった? そのノリアって人、何か勘違いしているんじゃない?」
さらに間合を詰めてくるアサシンガール。
鋭い拳の一撃を咄嗟に躱わそうとしたが間に合わず、ジョセフはその一撃で喉を潰された!!
(ゴフッゴフッ‥‥あ、相手は暗殺のプロフェッショナル。相手をしていると‥‥)
素早く撤退しようとするジョセフだが、既にアサシンがナイフを引抜き間合に飛込んできた時点でアウト。
──ドシュッドシュッ
両手に構えていた二本のナイフを左右に素早く引くアサシンガール。
その一撃でジョセフの咽がざっくりと掻き切られ、大量の血が吹き出した!!
「ごふっごふっ‥‥」
そのまま倒れていくジョセフ。
と、突然ジョセフに向かって一台の馬車が走りこむ。
「ジョセフにーちゃん、捕まるにゅ!!」
危険を承知で飛込んできたファルコン号。
その荷台には、ロープが巻きつけられて『石化したリュオン』が乗せられている。
敵襲と同時にパロムはシィを安全な場所へと逃がした。
そしてこっそりとファルコン号に乗せ、パロムはそのまま偵察に戻っていたのである。
そして仲間のピンチをハンに伝えると、そのままハンは武装したアンタ・バッカーと共に敵の真ん中に飛込んでいったのである。
「ゴフゴフ‥‥ガフッ」
喉を押さえて叫ぶジョセフ。
(止血と、とりあえずは薬を‥‥)
異国の言葉でそう告げているらしいが、アンタ・バッカーの言葉の意味は誰にも届かない。
「お取込み中悪いがパロム、もう一人回収宜しくっ!!」
そのまま馬車をグラ達の方へと飛ばすファルコン号。
その頃、グランは正に死地へと足を踏みいれていた。
●剣士の戦い〜師よ‥‥〜
──ドシュッ
周囲に群がってきたトルーパー達を蹴散らし、ようやくダースとオズの方を振り向くグラン。
だが、眼の前に倒れているのは血を流して倒れているオズ。
今にも途切れてしまいそうな命を、ダースは止めを差すことなく静かに見守っている。
「剣士として手合わせ出来たことを誇りに思う。が、師よ、貴方は年を取りすぎた‥‥」
静かにダースはグランの方を向く。
「貴公がオズの最後の弟子。ならばどうする?」
その言葉に、グランは頭の中で思考することを止めた。
──シュコーーツ
マスクの中から奇妙な声が聞こえる。
その正面、静かに紋章剣を構えるグラン。
やがてダース卿の手にしていた紋章剣が白く輝いた。
(来る!!)
──ガキィィィィン
激しい打ち込み。
その一撃をなんとか剣で受止めると、グランは反撃を開始する。
だが、その全てを簡単に剣でいなされる。
(自身の力を信じて‥‥)
そう自分に叫んだとき、あの言葉が脳裏を駆けていく。
The Aura Will be with you・・・・Always
(オーラとともにあらんことを‥‥オーラを信じて‥‥)
刹那、全身に力が沸き起こる。
小手先の技が何処まで通用するか判らない。
だが、グランは自分のスタイルを貫く!!
──ドシュッ
ダース卿の紋章剣がグランの左肩に深々と突き刺さる。
だが、その瞬間、グランはカウンターでダースの胴部に紋章剣を叩き込んだ!!
「肉を切らせて骨を立つ‥‥か」
「ハァハァハァハァ‥‥これが‥‥俺のスタイルなんで‥‥な‥‥」
──ボロッ‥‥
左肩の付け根から、グランの腕が落ちる。
大量の出血。
自身の身体が急速に冷え始める。
が、それは相手も同じ。
あとは手数で押しまくれば‥‥
そう思った刹那。
──シュゥゥゥゥゥゥ
ダース卿の傷が瞬時に消える。
その背後では、やはりクレリックがリカバーを唱えていた。
「バカ‥‥な‥‥」
命の灯火が消え始める。
「貴様の敗因は一つ。良き仲間が足りないことだ‥‥」
──ドシュッ
さらに剣を振りかざすと、ダース卿は瞬時にグランの右足を切断した!!
──ボトッ
大量の出血、崩れ落ちる自身の身体。
意識は朦朧となり、そして視界が霞む。
(俺は‥‥死んでたまるか‥‥)
剣を握る手に力を込める。
体勢は悪いが、ここからの牽制は可能‥‥。
だが。
──一方
「ブランシュ〜やほ〜」
「へっへー。どうして逃げなかったのよっ!!」
悲痛な表情で素早く拳を叩き込んでくるブランシュに、ほーちゃんはにぃっと笑う。
「仕事仕事っ。それよりブランシュもどうしてこんなところまで来るんだよ〜」
「仕事仕事っ。ほーちゃんの言ったこと、そのまま返すわよっ」
──ドゴッ
腹部に強烈な一撃を受けるほーちゃん。
だが、素早く両手の武器を構えると、ほーちゃんはダブルアタックにフェイントを組み合わせた攻撃を叩き込む。
──ドシュドシュッ!!
その2撃を真面に受けると、ブランシュは後方に下がり構えなおす。
──?
一瞬、ほーちゃんは奇妙な感覚に気がつく。
(あんな攻撃、ブランシュなら簡単に躱わせる筈なのに‥‥)
「やったなぁぁぁぁ!!」
ニィィッと歯を見せて笑うブランシュ。
その後方から、純白のマントを身につけた雑魚が駆け寄ってくるが。
「邪魔するな!! ここは私の遊び場だっ!!」
そう叫んでマントの剣士達を制すると、ブランシュは再び間合を詰めてくる。
だが、ホーちゃんはその背後の視界に、崩れ落ちるグランの姿を確認した。
そしてその背後から走ってくる馬車の姿も。
「ち、ちょっとまったぁ!! これ以上は戦いたくないよっ。〜例の件も考えてるから〜ばいばい〜」
そう叫んで、ほーちゃんはいそいそと撤退開始。
──ドクドク‥‥
血が流れていく。
もう意識は消え始めている。
朦朧としている中、グランは誰かが自分を呼んでいる声に気が付いた。
「それ以上はさせない!!」
自らを炎の魔法によって高めたコトセットが、慣れない腕でショートボウを構え、必死に援護をしている。
「剣士の戦いに割って入るとは‥‥」
そう呟くダース卿。
「生憎と私は剣士ではない。仲間を返してもらうぞっ!!」
さらに弓を番えて射るコトセット。
だが、その攻撃を剣で薙ぐと、素早くダースはコトセットに向かって剣を振るう!!
──ブゥゥゥゥン
衝撃波がコトセットを襲う。
体勢を整えている間もなく、さらにダース卿が左手をコトセットに向け、そしてグッと握った。
──キシィィィン
ダースの全身が輝いた瞬間、コトセットはまるで自分に『枷』を付けられたような感覚に陥った。
(う、動きが鈍く‥‥)
「あとは任せる」
そのダースの言葉の直後、コトセットの背後から一人のホワイトトルーパーが走りこみ、一撃を叩き込んだ!!
──ドシュッ
右腕を狙われるコトセット。
痛みと出血、そして身体に受けた呪縛。
魔法を発動させるところが、印を真面に組むことも出来ない。
(逃げるにも‥‥身体が‥‥)
必死に走り出そうとするコトセット。
だが、やはり駄目。
──ガラガラガラガラッ
と、その間に一台の馬車が飛込んで来る。
そして素早くコトセットを馬車に引きずり上げると、そのまま馬車は次の場所に向かって走り出す!!
そして、その荷台の横から手を延ばすアンタ・バッカーが、素早くグランを引き上げる。
咄嗟にグランも落ちている自分の腕と足を剣で差して回収すると、そのまま荷台に転がった。
「急いで戻る!!」
さらにほーちゃんがオズを抱き上げて飛び乗ると、そのまま馬車は其の場を離れていった。
●解呪と接合〜応急処置だけはなんとか〜
──シャルトル・ノートルダム大聖堂
大司教は庶務の為、パリへと向かったらしい。
明日には戻ってくるらしいが、それでも時間はない。
──シュゥゥゥゥゥッ
司教にお布施を払い、まずはリュオンの石化を解呪。
「へーーー。石化を解呪する魔法もあるにゅ?」
関心しているパロム。
そんな中、リュオンの解呪は終了し、意識を取り戻した。
「‥‥どうしてここに? 戦いはどうなった!!」
そう叫ぶリュオンに状況を説明する一行。
「怪我の治療はお願いできないか?」
「応急手当だけでしたら。高位のリカバーを唱えられる者が席を外しておりますので‥‥」
そう告げると、一人のクレリックが怪我人の手当を施す。
そんな中、グランは50Gのお布施を行ない、切断された肩と脚の接合を頼む。
「オズ師はどうなった!!」
そう叫ぶグラン。
「こちらの方は、我が教会で責任をもって治療します。今は応急処置を施しておきましたが、お年ゆえ動かすことは‥‥」
なにはともあれ生きている。
それでいい。
「‥‥奴等、魔法使い潰しを知っている‥‥」
かすれた声でそう呟くジョセフ。
「ええ。私は腕を、ジョセフは喉を。印を組むか韻を唱える術を潰しにかかってきました。そしてあの連携。的確に、しかも高速で仲間を癒してくれる回復要員。対抗する方法は‥‥」
コトセットはそう呟きつつ、なにかを考えていた。
あとはパリに戻って教会で手当を受けるだけ。
そして一行は、パリヘと帰還することにした。
●そしてパリ〜〜
シャルトル・ノートルダム大聖堂で仲間たちの応急手当も終り、パリにたどり着いた一行。
とりあえず報告書は以前と同じく封印書庫へと納めてもらうよう指示を出すと、そのままシャンゼリゼで反省会。
シィはほーちゃんから貰った冒険者からの情報を元に、マスカレードに情報収集に出かけた。
「あ、やっと戻ってきた。酷いわよっ。私を置いていくなんて‥‥」
そう叫ぶクリシュナをよそに一行は静かに酒を呑む。
「うーん‥‥なにか忘れているんだよねぇ‥‥」
そう。
ほーちゃんは、心の中で引っ掛かっていた何かを必死に思い出そうとしていた。
最後の戦い、ブランシュから逃げてきたときの彼女の悲痛な表情。
「うーーん。まあ、次に自治区で会ったら聞いてみようかな‥‥」
その時。
脳裏に浮んだあの言葉。
『あの時のアサシンガールは再調整だってさ。その代わり、私達『実戦部隊』が投入される事になったの‥‥』
──ガタッ
椅子から落ちるほーちゃん。
「まっさかぁ。ブランシュはアサシンガールの中でも実戦部隊。任務失敗は再調整‥‥そのエリートをまさか‥‥再調整だなん‥‥て‥‥」
なにかが心の中で崩れていく。
真実はまだ、闇の中。
〜To be continue