Love is blind〜力と哀しみの果てに〜
|
■シリーズシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 86 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月26日〜12月03日
リプレイ公開日:2009年12月04日
|
●オープニング
●
『貴方の力に‥‥ならせていただけませんか‥‥?』
月光が静かに降り注ぐ頃。柔らかな金の髪を持つ男は、声にならぬその声を聞いていた。
「力、か‥‥」
呟き僅かに微笑む。
「力と、哀しみの果てに‥‥残るものは何だろうか」
いつでも、いつまでも、その声は彼の心に響いていた。長い間、交流を持つ事を絶ち続けてきたにも関わらず、何故、彼女は呼びかけてくるのだろうか。それは疑問でもある。
最初にこの計画を立てた時から、覚悟は決めていたはずだった。だが実際に蓋を開けてみれば、現実は予想を超えるものだった。よもや、ドーマン領にデビルロードなる世界が出来上がるとは、この領内に巣食う悪魔達でさえも予想しなかったに違いない。あれを何とかしなければならない事は分かっていた。でなければ、この計画は水泡と化す。
「エリア‥‥」
声に出してしまってから、男は小さく首を振った。
「お前が、望んだ事だ‥‥」
「ミシェル様」
前触れもなく扉が開く。男は驚く事も無くそちらへ目をやった。
「ようやく、始めるとの事です」
「分かった。彼女には、協力は惜しまないと伝えてくれ」
「心得ております」
再び静寂を取り戻した室内で、男は窓の外を見上げる。
ただ、見上げる。
●
招き猫像があった場所からコインを使って入った奥の間は、壁絵を四方に配置した小部屋だった。そのどれにも猫頭の人物が描かれている。だが部屋の中央に置かれた石造りの台座の上に、丸い球が載っていた。片手の平に乗るくらいの大きさで、白く濁った色をしている。台座には何かがラテン語とジャパン語で書かれていた。ラテン語のほうが古い時代に書かれたもののようで、消えかかっていて読めない。ジャパン語では一言。『身代わり』。
「この玉を持っていると、『身代わり』の効果があるんでしょうか」
「この玉の『身代わり』効果だったりして」
「それ、笑えないです‥‥」
ともあれ、そこに在る物は持っていくのだ。冒険者だからして。
「あれ。この絵‥‥」
帰り間際、猫頭人の1体が手に玉を乗せている絵を発見し、冒険者は声を上げた。
「色は違いますけど、同じ玉でしょうか?」
「この猫、冠被って杖持ってるから‥‥王様かもしれないわ」
「赤色‥‥ですね。紅玉? でしょうか」
さすがに壁絵を持って帰る事は出来ないので、冒険者達はその絵をじっくり眺めて帰る。
結局、その白玉からは魔法の効果は見当たらなかった。
●
そうして、4つの『遺産』が揃った。地下奥にある『扉』を開く鍵となるもの‥‥と思われる、それらが。
だが、事態は余り思わしくない。クリステルは『急いだほうがいい』と言った。そう告げた彼女自身は、現在教会の奥深くで監視されている。あらかじめ抜け道などが無いかきちんと調べられた地下牢だ。デビルに加担した事は彼女も認めている。近いうちに裁きは下るだろう。
又、地下迷宮は相当掘り進められていた事が分かっている。新たな出入り口もあった。その先に何やら建てたと思われるものもあった。それらはシャトーティエリーだけに留まらず、ドーマンやラティールにまで及ぶものもあったのだが、今現在の状況からすると、ドーマン領内の出入り口及び施設は利用されていないかもしれない。ドーマン領主の館の地下も地下迷宮と繋がっていたのだが、そこも使う事は出来ないだろう。ドーマン領内で今尚出入りが可能だと思われる場所は1箇所。山賊根城があった辺りだが‥‥その地下がどうなっているかは定かではない。
敵の思惑が、『扉』の向こうにある事は容易に知れていた。だが冒険者達は敵の動きを止める事も、敵に先手を打つ事も出来なかった。敵はデビルのはずである。だが、『デビルロード』から黒い霧が出てきた事で、敵の動きが活性化したという話は聞かなかった。
シャトーティエリー領主館は沈黙を保っている。黒い霧が出た時も、その姿勢は変わらなかった。内外の出入りを堅く禁じ、もうそこに踏み込む事は叶わない。
『遺産』が集まり、黒い霧が領内を覆ってから、さほど時間は経っていなかった。
冒険者達は考える。
どう行動する事が、最善の道を選び出す鍵となるのだろうか。
『遺産』を持って『扉』を開いた時、どうなるのだろうか。
本当に、『扉』を開けてしまって良いものなのだろうか。
そして‥‥。
「俺も行こう」
猫のような目をした背の低い男が、静かにそう告げた。
「全ての元凶は俺だ。俺が相討ちでも仕留めなければ、奴らは永遠に止まらない」
「始めから‥‥そのつもりだったんだろう?」
豪奢な金の髪を持つ男に含み笑い交じりに言われ、猫目の男は頷く。
「仇は討つさ‥‥。色々とな」
●リプレイ本文
●呪知
恋は、盲目。
人であるからこそ、恋に囚われ周囲が見えなくなる事がある。
「貴女の父上の名を騙った者を捕まえて欲しいと言う言葉と共に頂いた物ですが‥‥今となってはその意図が分かりません。魔除石のつもりで好意でしたら、デートにお誘いすべきでしたか?」
冷たい地下牢で、エルディン・アトワイト(ec0290)はクリステル‥‥いや、ジブリルと対峙していた。尋ねた後にレティシア・シャンテヒルト(ea6215)から預かった手紙と防寒具を渡すと、彼女は黙って受け取り防寒具をそっと抱きしめる。ふわりと漂う薔薇の香り。
「貴女からああ言われても、彼女は貴女の身を案じていましたよ」
「‥‥『呪い』が、あの人を生かす」
「‥‥はい?」
「貴方がここに来た理由は分かってる。私の延命でも頼みに来たのでしょう。愚かな人達。私は『呪い』の為に死ぬ。それが、あの人の為に出来る、最後の私の望み。その宝石もそう。私の教会にまだ10個以上置いてあるわ。貴方も白き教えを説く者なら、守るべき者の為に動きなさい」
「貴女は、何かを知っているのですね」
エルディンの言葉に、彼女は微笑んだ。
「えぇ。おおよそのカラクリを」
守ると誓った。その言葉は嘘では無い。
「今日は、伝言を持ってきた」
シャトーティエリー領。領主館の周辺はやけに静まり返っていた。エミールに同行したデニム・シュタインバーグ(eb0346)、尾上彬(eb8664)、リシャールは、がらんとした館内に通され案内される。
「レティが言ってたぞ。自分に会いに来てくれ、とな」
『そんな事言ってない、言ってないわよ!』と本人に言われそうな事を開口一番告げた彬は、ミシェルとエミールの距離を見ながら2人の動向を窺った。
「『頼るなら扉は開けておく』らしいぞ。いい加減兄貴も、失った女の事なんて忘れて相手見つけたらどうだ?」
今現在の状況で言うには軽すぎる言葉を吐いた弟に、兄は薄く笑う。
「お前はもう、ここには来ないと言わなかったか?」
「ジブリルはもうすぐ死ぬぞ」
「知っている」
「‥‥どういう事だ?」
何故今その話なのかと思わず口を挟んだ彬に、エミールは説明する。
「ジブリルは兄貴の婚約者だったんだよ。エリアが死んだ後に破棄したけどな」
「じゃあ、クリステルがジブリルだって事も知ってたのか?」
「あぁ。‥‥兄貴。もういい加減にしろよ。1人でどれだけデビルに対抗できるって言うんだよ。今日はエリアのガキを連れてきた。こいつが好きに暮らせる平和を取り戻したいと思わないのかよ」
ミシェルがリシャールへ目をやるのを、デニムがじっと見つめた。エリアがどんな女性だったのか‥‥冒険者達は誰も知らないが、兄弟だからだろうか。リシャールの顔立ちは何となくミシェルに似ている気がする。
「シャトーティエリーがデビルに目を付けられた事は早い段階で分かっていた。‥‥エミール。お前はこの家を嫌っていたが、領民を思う気持ちは強かった。私もこの家には辟易としていた。何より、エリアを殺した者達だ。赦しはしない。この、悪しき習慣と闇に守られた家など存続する必要があると思うか。ここは、私の代で終わらせる」
「まぁ待て、ミシェル。エミールの望みはそういう事じゃないと思うぞ」
「家を滅ぼす為に、領民を巻き込んだのですか? デビルに加担して‥‥?」
「地下情報を提供し、領民の魂を取らないと契約を交わした」
「エミール。シャトーティエリーは元の1領地へと戻す。お前が次の領主となれ」
唐突な物言いだった。
「こことドーマンは腐臭が蔓延している。だがラティールは復興しつつあるだろう。そこを拠点に」
「待て待てミシェル。何を急いでいるんだ? 急に‥‥」
あらゆる事を暴露されても困ると言いかけて、彬は気付く。
「ガストンとかがここに居ないのは地下に行ったとして‥‥。何故、お前さんはここに居るんだ?」
「君達の仲間が地下に行ったのだろう?」
男は不意に破顔した。
「私の最後の役目は終わった。後は好きにさせてもらう」
「どういう事ですか?! 地下に、何か」
反射的にリシャールを庇いながらデニムが前に出た瞬間。後方の扉が開いた。
「ミシェル殿。貴方は最後まで、言わないつもりですか」
皮袋を手にしたエルディンが、走ってきたのか息を荒げながら言い放つ。
「彼が、貴方の子供だと言う事を」
『光陰とは‥‥地下の事ですか?』
スクロール片手にユリゼ・ファルアート(ea3502)がテレパシーで話しかける。
ラティール白教会。無理はさせないようと言われながら、ユリゼとアリスティド・メシアン(eb3084)はドーマン領主の傍らに立っていた。だが反応はあったものの、返事はない。
「失礼‥‥」
アリスティドがすいと領主の頭に手をかざす。
「何か‥‥分かった?」
「君がさっき読んだ『歌』もあったからかな。あの塔の光景だった。何と言うか‥‥」
「‥‥何?」
思わずぎゅっと片手で片手を握ったユリゼに、アリスティドは頷いて見せた。
「橙分隊とも会っていたみたいだね。結論から言うと、あの塔には各々3人囚われている。シメオン殿と、フィルと、ギスランさん、かな。そして対となる『呪い』の対象が居て、どちらかが死ぬと片方が生き残る仕組みになっている。彼らは塔に残った事で相手の『死への呪い』を和らげたけれども、残らなければどちらも衰弱する」
そしてドーマン領主にも呪いの相手が居るのだが、相手がその場に居なくても『選ぶ』事で発動するようだった。恐らく無意識のうちであっても。
「‥‥あの人の相手は聞いてるわ。アナスタシアさん、でしょ。ギスランさんの事も‥‥聞いた」
「ただ、呪いの対象は変える事が出来る。身代わりが、可能なんだ」
7つの塔、3つの対、始まりと終わり。後ひとつは何だろうとユリゼは思う。
「そしてあの場所の目的は『楽器』。7つの塔に対応する『楽器』だね」
「アリスさん!」
不意に、エリザベートが入ってきてアリスティドへと飛び込んだ。
「あ‥‥ごめんなさい」
「いいのいいの。気にしないで」
ひらりと片手を振り、ユリゼはその場を離れる。エリザベートはアリスティドが頼んでおいた地下から発見された物を見たいと告げていたのだが、2人で確認したものの地下や遺産と関係がありそうな物は無かった。何れ避難が必要ならと資金を渡し、2人はドーマンへと向かう。
●呪玉
「しかし、これは酷いな」
ぐるりと辺りを見回し、シャロン・オブライエン(ec0713)は肩を竦めた。
「話には聞いていたけど驚いたわ。これだけ掘ったら、落盤していても可笑しくないわよね」
レア・クラウス(eb8226)の手の中でちゃりと金属が当たる音がする。
「この扉の向こうに行った所で、天井が落ちてきたりしてな」
「ここまで来て、そのフラグ立ては無いと思うの」
「フォーノリッジで予知してみたけど、この扉の奥にデビルは居ないって、出たのよね。って言う事は、この奥って『罠』じゃない?」
「もー、みんなで不吉な事言わないでくださいよ〜」
懐から腕輪を出し嵌めこんでいたアーシャ・イクティノス(eb6702)が振り返りながら嘆いた。
「レアさん。嵌めて下さい」
「はいはい」
軽く答えながらも、レアはある種の感慨を感じてもいる。そもそも最初は、ドーマン領の山賊砦だった。全ては『人形』と刻まれた、この指輪から。
「嵌ったわ」
レアの言葉に、4人は扉を見つめた。軋むような音を立てながら、扉が開いて行く。
「それにしても、何も居ないってどういう事‥‥?」
クレアボアシンス、エックスレイビジョン、テレパシーと使ってきたレティシアが呟いた。こちらの帰路を狙う可能性も考えて潜んでいる者が居ないか魔法を何度も使ったというのに、反応が無い。
「となると‥‥『王の間』って事ね」
聖なる釘を扉に打ちつけながら、レティシアは扉の上部を見上げた。この先の事を知りたがっていた人物は、もう居ない。
「何の為に開けるのかしらね‥‥。知ってる? シャーは」
「『盗賊王の秘宝』が実在したって事だろ。ミシェルは知ってたからな」
「そういう話はもっと早く言って貰える?」
「あいつが俺を助けた理由は一つだ。俺はリンクスだからな」
「そう」
「驚けよ」
「シャーがワーリンクスなら、虎のリーダーは?」
「虎は虎に決まってるだろ」
「『盗賊王の秘宝』は人の願いを叶えるんだっけ? この先にそれがあるなら、盗賊団もそこに居そうよね」
アーシャとレティシアを先頭に、皆は中に入って行った。
程なくして広間に着いたが、その中央で鈍い赤色の光を放っている玉が台座に載っているのを見る。そして案の定、そこには。
「ティーグル‥‥」
台座の向こう側に、豪奢な椅子があった。そこに黒髪の女が座っている。脇にはティーグルが立ち、その左右にずらりと盗賊達が並んでいた。
「あの女‥‥似てる、わよね?」
レティシアがアーシャへ囁く。だが生憎、ここに居るメンバーで『麗しの方』と呼ばれたデビルの顔を知る者は居ない。
「でも‥‥違う」
美女ではある。だが背筋が凍るような気配も気迫も感じられなかった。デビルかどうかは分からないが。
「本当、待ちくたびれたわ。貴方達、遅いんだもの」
美女は嫣然と微笑み、手を口元へとやる。
「ローランと来るのかと思ったけど、違ったのね。まぁいいわ。こちらへいらっしゃい。可愛い子達‥‥」
「手招きしてるみたいだけど、知り合いなの?」
「冗談言わないで、レア。‥‥アーシャ? シャロン?」
そこで初めて、レティシアとレアは、アーシャとシャロンが身じろぎ一つせず緋玉を見つめているのに気付いた。
「‥‥向こう側に行きそうになったら、超越ムーンアローで止める」
「鬼ね」
「‥‥呼んでる、アーシャ」
だがそんな2人を気にせず、シャロンが呟いた。
「‥‥帰って、きました」
「‥‥お前が、王になれ。オレには‥‥無理だ」
「‥‥分かりました」
「ちょっ‥‥何言ってるの‥‥?」
2人が数歩前に出る。レティシアは魔法を唱えようとして、不意に2人を囲む白い物体に気付いた。
「‥‥ゴースト!?」
「あー、もう!」
レアがアーシャの背にがばっとしがみつく。他に止める手段が思いつかなかったのだ。ゴーストに脅されてもしがみついている間に魔法を使おうとしたレティシアを、イヴェットが止めた。
やがて2人プラス1は、緋玉の前に向かい合わせに立った。奥で美女がその光景を見守っている。
「‥‥アーシャ」
レアが立ち上がったと同時に、シャロンが真っ直ぐアーシャを見つめた。
「‥‥聞こえる‥‥聞こえます‥‥。貴方達はずっと‥‥待っていたんですね」
目を閉じ呟くアーシャに、シャロンは頷く。
「‥‥お前に、任せる」
「はい。私の思いは変わりません」
アーシャが玉を両手でそっと取った。一瞬、自らの中からあらゆる感情が噴き上がる衝動が走ったが、彼女はそれをぐっと堪える。ここで狂化したら何も変わらない。
「どんなに巨大な力があっても‥‥願いが叶える事が出来ても!」
そして、その玉を大きく持ち上げ、不意に地面へと叩き付けた。
「こんな物は無いほうがいいのです!」
「お前達は、還れ!」
玉が砕ける音とシャロンの叫びはほぼ同時だった。刹那、2人を囲んでいたゴースト達が一斉に舞い上がる。
『ありがとう‥‥王よ‥‥』
『これでやっと‥‥』
そして数秒後には、それらは消え失せていた。
「‥‥ハーフエルフはその呪縛から逃れる事が出来ないはず‥‥。何故‥‥」
女の声に、2人はそちらへと視線をやる。
「秘宝が帝国の住人を縛り付けてたなんてそんな不幸な事、もっと早くに知ってればって思ってます」
「少し前のアーシャなら出来なかったかもな。この秘宝の効果を知っててオレ達が来るのを待ってたのか」
「レア! 退がって!」
レティシアの叫びと共に、月の光が真っ直ぐにティーグルへと吸い込まれた。同時に盗賊達が剣を抜き飛び掛ってくる。1人がレアの頭部へと剣を突き刺そうとした瞬間、その体が浮かび上がって横抱きにされた。
「後ろへ」
イヴェットがあっという間に相手を倒し、アーシャの隣に立つ。
「この決断を感謝します」
「沢山の血が流れないように戦う事が、騎士の仕事ですから!」
「シャー。援護する」
ティーグルへと真っ直ぐに向かって行ったシャーの隣へはシャロンが付いて、剣で側近の攻撃を弾いた。彼女達の傍には月の光が降り注ぎ矢も飛んだが、如何せん数が違う。レティシアへと盗賊が数人抜き身で掛かって来た。だが1人が目前で倒れ、1人は動きが止まり、1人は盾で押し戻される。
「‥‥大丈夫ですか?!」
素早く敵を薙ぎ払ったデニムが、一言声を掛けてから敵の中へと飛び込んで行った。
「何とか間に合ったね」
「あの人、何か仕掛けてくるわ!」
アリスティド、エルディンの後に入ってきたユリゼが叫ぶと同時に、椅子に座っていた女が一瞬茶色に光り、物凄い勢いの重力波が真っ直ぐ飛んできた。
「きゃー」
レアが激しく飛ばされて壁に激突し、そのまま動かなくなる。何とか耐えた者へユリゼがポーションを配り、次の魔法を仕掛けようとした女へ、エルディンが魔法を放った。
「レアさん。もう少し頑張って」
ユリゼが励ますとレアは僅かに頷く。動きを止められた女へ、デニムの剣が一閃した。
「女性には余り剣を向けたくは無いですが‥‥」
「油断するな、少年」
「はい!」
その戦いは、さほど長くはかからなかった。ティーグルが姿を虎人間へと変えても、盗賊達が次々と攻撃を繰り出してきても、皆はそれを次々と打ち破り、やがて決着がついた。
「‥‥終わったな。なぁ、ミシェル」
生きている者を捕縛していると、彬がミシェルと現れる。
「彼岸に旅立つのはまだ早いと思わないか? 息子が体張ってるのは、あんたの為ってのもあるんだぞ」
「まだ終わっていない。ガストンはどうした?」
「そう言えば‥‥」
皆は急いでその姿を探したが、発見する事は出来なかった。
●終演
地下から出ると、眩しいばかりの朝日が昇っていた。
「そう言えば、セイルさんが無事で帰って来たら、土産話の代金代わりに全員に奢ってくれるって言ってましたよね?!」
「言ってたわね。イヴェット様もどうですか?」
「時間があれば同席しましょう」
「セイル破産計画の第一歩だね」
「そう言えばイヴェット」
彬の声に、イヴェットは首を傾げる。
「パリで甘味を仕入れてきたんだ。どうだ? ついでに‥‥そうだな。例えば、誕生日に貰いたい物とかな」
「有難う。頂きます。貰いたい物は、そうですね。この国の平和、でしょうか」
「平和か‥‥。いやそれは俺も努力するが、俺個人からとか」
「ふふ。女性から頂ける物でしたら、何でも」
「え? あれ、俺、違‥‥」
うっかり人遁で女性化したまま話しかけていた彬だった。
そうして、地下帝国を巡る物語は幕を閉じる。
これまでに関わった全ての冒険者達に、最大級の感謝を。