新たなる道4〜誓いの村〜
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■シリーズシナリオ
担当:呉羽
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:05月08日〜05月14日
リプレイ公開日:2008年05月28日
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●オープニング
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ドーマ傭兵団は傭兵達の集まりである。
傭兵と冒険者の違いは何だろう‥‥? 傭兵には必ず雇い主がいる。雇い主無くして善意で傭兵が仕事をする事はあまり無い。むしろ善意で仕事をした事が他の傭兵仲間に知られれば、いい顔はされない。傭兵は割り切って仕事をするものだと言われている。勿論自分の命が第一だが、昨日の友が今日の敵というのは在りえる話だ。
又、傭兵の本分は戦いにある。街で困っている人々を手助けしたりと言う事は仕事では無い。当然雇い主も戦闘能力を求めてくるし、それに応えるのが傭兵の努めというものだ。
「それで‥‥?」
「村が丸ごと1個、占拠されちゃったらしいです〜」
のんびりとハーフエルフの娘が告げた。
「モンスターの大軍は村に入りきらず、村の外で暮らしているそうですよ」
「何故、『大軍』が田舎の村を襲う? そこに理由があるのだろう。先方はそれについて何か言ってきたのか」
「いぃえ〜。なにも〜」
笑顔の娘から目を逸らし、傭兵団の団長は周囲に居た者達へと視線を移す。
「あの領主には過去に雇われた事があったな。ジュリエット。確かお前が隊長を務めていたはずだが」
「可笑しいですわよね〜。どかんと丸ごと砦の一角を潰してやったはずですのに。又、ご指名が来るなんて」
「可笑しいのはお前の頭の中だ。破壊以外の方法を考えろ」
「私が行ったら今度は村を焼き尽くすかもしれない‥‥そうお考えにならない領主様も変ですわよね?」
ジュリエットは首を傾げ、僅かに笑んだ。
「‥‥やはり、その村に何かあるのだな?」
「それは分かりませんけれども〜‥‥このお仕事、どうなさいますの?」
尋ねられて団長は厳かに頷く。
「決まっている。どのような理由があろうと敵が『モンスター』であり明確な『敵意』があるならば倒さねばなるまい。契約内容をよく打診する事だ。我々に不利な条件は一切飲むな。イリス」
「はい」
エルフの女性が知的な光を目に宿しながら近付いてきた。
「後はお前に任せる。ジュリエット。お前は冒険者達と行け」
「あらあら。良いんですの?」
「神官見習として、だ。今まだ修行中の冒険者には、目指す道を意識しながら戦うように言え。お前もだぞ、ジュリエット」
「努力致しますわ」
にっこり微笑みながらハーフエルフはその場を離れる。団長は大してそれを気に留めておらぬように、すぐに他へと指示を出し始めた。
ただ1人‥‥副団長のエルフ、イリスだけが去っていった娘を見つめている。
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冒険者に伝えられた仕事内容は以下の通りである。
場所 馬車で往復3日の領地にある村。
移動 傭兵団所持の馬車を用意。
経費 食糧、油、宿泊道具、薬品はこちらで負担。後は実費。
内容 とある村がモンスターの大軍によって占拠された。
モンスターの内容、数は不明だが現在も村を占拠している模様。住人の安否は不明。
推測としては、今も尚占拠している事から、少なくとも動物並みの知性を持ったモンスターであろうと考えられる。
雇い主は、モンスターの殲滅を望んでいる。住人の生死については指示無し。建物などについても同様。
尚、情報が不明瞭の為、現地にて指示が変わる可能性がある。
どのような事態になろうとも指示に従えるよう留意する事。
村 元々50人ほどが暮らしていたと言われている。内訳は不明。
作りは一般的な村と相違ない。井戸は村の中央。村の周囲を低い柵で囲み、その外に畑が広がる。
場所は平地。畑の周囲は森に囲まれる。
村を横切る道は1本のみで馬車が1台通れるほどの幅である。
●
「不安な点が幾つかあります」
そうイリスは冒険者達に切り出した。
「ジュリーは以前、その領内の砦を半壊させた事がありました。砦は多大なる手間と金をかけて作られているもの。それを半壊させたとあっては、領主が良く思わないのが普通です。しかしそれが分かっていて尚、領主はジュリーを指名してきました。そして、村や村人の事よりもモンスターの殲滅を第一としている点。まるで村の事などどうでも良いと言っているように思えます。だからこそ、火力のあるジュリーを指名してきたとも考えられますが‥‥そこに裏がある。そう、団長は考えているようです」
それが分かるまではこの仕事を引き受けるつもりは無かったのだと付け加え、イリスは僅かに目を落とす。
「‥‥ですが‥‥そこに暮らす人々が心配なのも事実‥‥。これは私からのお願いなのですが‥‥」
目を上げ、真剣な眼差しで彼女は冒険者達を見つめた。
「もしも、生存者が居るようなら‥‥彼女達の命を優先して頂きたいのです。そして、何故その村をモンスター達が襲ったのか‥‥。その理由。それが分かれば、領主が企んだ事の真実が見えてくるかもしれません。私も同行しますし、ジュリーの制御については私に任せて下さって構いません。どうか宜しくお願い致します」
●リプレイ本文
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「情報出し渋られてんじゃないか、団長ぉ?」
シャルウィード・ハミルトン(eb5413)の発言も最もな事だった。オーガ類やアンデッドだったという情報さえないのだから。
「『これは酷い』って奴ですね、情報面では。それで受けるという事は報酬面が? 現実的じゃない額だと本当に払う気があるのかって疑いも出てきますよ」
それを継いでヒューゴ・メリクリウス(eb3916)も言う。
「その村に一体何があるのか‥‥だな」
「それを知られたくなくて、情報を出していないのでしょうか」
ファン・フェルマー(ec0172)の呟きに、元馬祖(ec4154)も真剣な表情で告げた。
「考えられそうなのが、禁術を行って魔を呼び込む土地になったとか、領主の重税に我慢ならなくなった村が近隣と一体になって蜂起しそうだから粛清の対象と選ばれてしまったとか、或いは純粋にモンスターに占拠されてしまったか‥‥いろいろ考えられる」
「それにしても剣呑な事よね」
皆の発言を受けてシェリル・オレアリス(eb4803)は首を傾げた。
「まぁ、ジュリエットちゃんをけしかけるのは、村に依頼人さんにとって不都合なモノがあるから、この際始末しちゃおうって事なのかもしれないわね」
「拙者は戦闘要員として戦うだけでござる」
実はレンジャー志望らしいアンリ・フィルス(eb4667)が頷く。彼は団長にその旨を伝えたのだが、『ナイトの地位などあって無き物』と言う彼に、それでもその地位を捨てるなら仕えていたであろう主に断りを入れるのが道理と言われたらしい。
とにかく今回の件は副団長に一任していると言う事で、皆はイリスとジュリーと共に傭兵の砦を出発した。
ジュリー対策は、いろいろ講じている。
「最近、冒険者の間ではレミエラってのが流行っているんですよ、ほら、こういうのです」
ヒューゴが早速ジュリーに見せたのは、レミエラ素体。
「僕は普段使いませんけどね。だって光っちゃうんでステルスが台無しになりますし。後は‥‥」
魔法を唱えた彼の体が一瞬金色に淡く輝いた。
「リヴィールマジックで光って見えるのも、ステルス要員としては欠点ですね」
言いながら彼はちらとジュリーを見た。実はリヴィールエネミーを使ったのだが、ジュリーを含めて周囲に変化は無いようだ。
「‥‥中にはファイアーボムの範囲を制御できるレミエラがあるそうで、ジュリエットさんもやってみては如何です?」
「そういう事なら、私も持ってきました」
黙って近くで聞いていた陰守森写歩朗(eb7208)が、バックパックから銀のネックレスを取り出す。
「これを使うとファイアーボムの効果範囲を下げることが出来ます。ムーンアローを同時に3本打ち出せる他、戦闘中の痛みも感じなくなりますよ」
「それはステキですわ。遠慮なく頂きます」
笑顔でジュリーはそれを受け取り、背伸びして森写歩朗の頬にキスをした。ハーフエルフである事や神官見習である事を差し引いても、あり得ない大胆さである。
「ちょ、っと‥‥これ」
それを後ろから引っ張って、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)がウィンプルを渡した。
「耳隠し。一応ね。‥‥ハーフエルフに嫌悪感を示す人がいれば、それはその人を嫌悪する自分の我が儘。気にする必要はないわ」
「はい、お借りしますね。シャルウィードさんも被ります〜?」
「あたしが頭巾なんか被ってどうするんだ。大体今更だろぉ?」
しかしレティシアの優しさは、全くそんな事を気にしていない風な2人には届かないのであった。
ともあれ、皆は先行組と馬車組に分かれて現地へと向かう。馬車は何度か休憩を挟み、先行組からの報告を待った。皆が主にジュリーの動向を監視(?)する中、レティシアはイリスに近付く。
「少し聞きたいことがあるんだけど」
休憩中、少し離れた所で本を読んでいる彼女に、そう声を掛けた。
「依頼を受けたときの話で‥‥少し気になってる事があるの。『彼女達の命を優先して欲しい』って言ってたけれど、村人を個人的に知ってるの?」
問われてイリスは微笑んだ。
「いいえ。村人の事は知りません」
「じゃあ何故、『彼女達』と分かったの」
「お話しても構いませんが‥‥そうすれば、貴女は『私側』の人間になりますよ? 大切なお仲間と‥‥お別れしたくないでしょう?」
凄みのある笑みで言われてレティシアは固まった。
「何か‥‥企んでいるのね」
「ようやく叶うんです。私達の望みが。滅ぼされた私達一族の願いが」
●
シルアや清十郎の調査した結果が彼らの元に届いた。
依頼主の領主は情報を外に漏らさないよう注意していたらしく、最近取引している行商人でさえも領内への出入りを禁じられていたらしい。
「‥‥どうでしょうか、シェリルさん」
先行組はフライングブルームで村を遠く上空から眺めていた。
リトルフライでゆっくり上昇しテレスコープのスクロールを広げて詠唱したシェリルは、森写歩朗と馬祖が見守る中、じっくり村を眺めた。
「そうね‥‥。村の中をうろうろしている人がいるわ。オーガが‥‥3‥‥いえ、5。人が‥‥4人。フードを被っている人もいるわね」
「では人質は無事だという事ですか」
「家の中にモンスターが潜んでいるとは思うけれど、村の外を見張るようにしているのも全部オーガね。数は15。畑には2人、人がいるわ。森の中までは見えないわね」
「‥‥あの、それって‥‥畑に人だけが居るのって、監視されている風では無いのでしょうか?」
「籠を持って収穫しているみたいよ。‥‥1人は終わったのかしら。村に戻って行ったわね」
「とりあえず生存者は居るという事ですね。では救出と安全確保。急ぎましょう」
「夜に一度村近くまで接近して、より詳しい情報を得たほうがいいのでは無いでしょうか。うろうろしている人をこの人数で纏めるのは難しいと思うんです」
「馬祖ちゃんの言う事も最もな事よね。インフラビジョンもあるから近くで正確な数も確認したいわ」
と言う事で、3人は村近くに移動した。
夜になれば人は外に出歩かなくなり、オーガのみが村の内外をうろうろしているだけである。その数は森写歩朗が見たところ、およそ30匹。シェリルの赤外線探査では、人型生命体の数はおよそ50。大きさから考えると、人は10人ほどと思われた。
「‥‥人は捕らわれているわけでは無い。監視されているのかもしれないけれど、自由に行動しているように思える。1箇所に集められているわけでもなく‥‥。これって、共存しているかのように‥‥見えますね」
馬祖の呟きは、他の2人も感じる所だった。
3人の報告を受け、イリスとジュリーが居ない隙を見計らってレティシアも告げた。
副団長の企み。その内容はこうだ。
領主は以前から闇商売に手を染めていた。それはモンスターと人を戦わせる闇闘技。薬を使ってモンスター同士を戦わせる事もあり、その為に平和に暮らすオーガ村まで襲って地下牢に閉じ込めていたらしい。最初は領外の者を攫って戦わせていたが、それも怪しまれるようになると領内の者を村ごと滅ぼしてでも使っていた。その中にイリスの一族も入っていたのだが生死不明。そんな時、捕らわれていた者達が逃げ出したという情報を聞いた。モンスターと人が手と手を取り合って逃げるのも可笑しな話だが、そうやって彼らは村に住み着いたのだ。かつて滅ぼされた村に。
「証拠隠滅する為に傭兵団に依頼が来た、というわけか。そうなると、傭兵団に迷惑が掛からないように、たまたま偶然村にやって来た冒険者一行が勝手に‥‥という逃げの口実を用意したほうがいいかもしれないな」
「つまり‥‥殲滅ではなく、彼らを助けるという事ですね?」
ファンの発言に、慎重にヒューゴも言って皆を見回す。
「ん〜‥‥。どんな理由があってもなぁ‥‥モンスターは生かしておくわけにはいかないだろ」
「でも、そのような可哀想な経緯があったモンスターでしょう。大人しく平和に村で暮らしていたのに殺すというのは」
「あのなぁ。一度酷い目に遭った奴は、人でも凶暴になったりするだろーが。モンスターまで解放しても、暴れたら結局殺すんだぜ?」
シャルウィードはオーガを生かしておく気はないようだった。
「テレパスで詳しい事何か吐かせてからでもいいけどな」
「ふむ。そういう事なら倒す事に異存はござらんな。オーグラでもアンデッドでもドラゴンでも捻り潰してくれよう」
「‥‥レティシアさんを脅した上で副長が話した事が、全て真実とも限りませんしね」
やはり慎重にヒューゴが呟く。
「そういう情報を持っていたならば、最初から言えば良い話ですし」
「何か隠しているんだとは思うわ」
レティシアも眉を顰めた。
「それも‥‥ジュリーに関係する何か」
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オーガを攻撃する事で、共に居る人々がどう反応するか。
とりあえず皆は、人とオーガを切り離す作戦に出た。彼らの実力からすればオーガを殲滅する事は難しくないが、人がそれに呼応して攻撃してきても困る。オーガと共に逃げて来たのか、オーガの人質として逃げて来たのかもまだ分からない。
畑の中に身を潜めるようにして、森写歩朗は人が来るのを待っていた。夜明けと同時に人が2人畑に出てくる。それにそっと声を掛けて、腹が減ってここに紛れ込んだ旅人を装う。村にモンスターが居るので入るに入れない話をすると、彼らは味方だと2人は告げた。
「全員まとめて捕まえて、後から人だけ領外に解放するしかなかろう」
森の中に潜んでいた皆に森写歩朗が得た情報を報告する。
「ですが2人ともハーフエルフでした。もしかしたら全員かもしれません」
「これ以上姑息な手を使ってもしょうがないだろ。オーガは倒す。人は助ける。人が怒ったら事情を聞いて、モンスターはいつ牙を剥くか分からないと教える。これしかないだろ」
そこで皆は翌朝、一気に村へと攻め込んだ。
勿論、イリスもジェリーも放置はしなかった。
ジェリーにはレティシアがぴったり添い、イリスには皆で詰め寄る。だが彼女は告げた。
「最初から話していたらオーガを助ける作戦を立てたでしょう? 傭兵として、それはやってはいけない事なのよ」
ともかくイリスの動向も監視する事にして、皆は森の中で待機。
まずアンリがインビジブルで姿を消して村の外に居たオーガの一体を一撃で倒す。その後をシャルウィードや森写歩朗が駆け、戦闘体制に入ったオーガを一気に蹴散らした。慌てて村の中から出てくるオーガにはファンの矢が鮮やかに刺さり、馬祖は動くイリスの傍から離れず走る。村の中に入ったシェリルはホーリーフィールドを作り、ヒューゴは人を誘導しようと人が住んでいる家へと向かった。
彼らのペットも果敢に戦う中、オーガはあっという間に地に伏して行く。それを見た人が悲鳴を上げるのを見、ヒューゴは素早く彼女に近付いた。
「助けに来ました。こちらへ」
「仲間を殺しているのは貴方達じゃない!」
叫びながら彼女は持っていたナイフで切りかかってきた。それを難なくかわし、目が赤く染まっている事を確認する。
「狂化してます!」
レティシアがすぐさま駆け寄って、呪歌を歌い始めた。気持ちを落ち着けさせる歌は、同時に周囲に居た者達の戦闘意欲も失わせるが、運良く範囲内に居たのは彼らとイリス、馬祖だけだった。だが、それは各場所で起こっていた。
「落ち着くでござるよ」
飛び掛ってきた娘を気絶させて抱えたアンリに、別の娘が切りかかってくる。皆フードを被っているから目を見なければ分からないが、誰もがこの惨事に怒りを覚えたようで赤い目を爛々と輝かせていた。
「この状況でモテても困るんだけどな」
矢を番えた所に飛び掛ってきた娘を避けて、ファンは追ってくる娘達から逃げている。それを横から出て来た森写歩朗がスタンアタックで1人気絶させ、シェリルの結界の中にファンは逃げ込んだ。
「‥‥何を望んでいるんですか」
走るイリスの脇にぴったりくっつき、馬祖が問う。
「ここは元々ハーフエルフ達の村なの。彼女達はその生き残り。でも逃げて来たのは」
言いかけて一軒の家の前に2人は立った。
「ここにハーフエルフの至宝があるからよ」
「至宝‥‥?」
問おうとした刹那、不意に彼女達の傍を何かが通り過ぎた。それは一気に家を半壊させる。
「‥‥ジュリーさん!」
あちこちでメロディを歌っているレティシアは、ジュリーからいつの間にか離れてしまっていたのだ。誰からも監視を逃れた彼女は、2人を見て微笑んだ。
「‥‥貴女は自分の一族を殺したわ」
それを見てイリスが呟く。
「砦の事ですか? それともこの家の事? 貴女の一族を滅ぼした事ですか?」
「この家の中に人が居たかもしれないのに、こんな事‥‥!」
馬祖の叫びに彼女は頷いた。
「傭兵は人の命を助ける仕事じゃないんですよ〜。人の命を奪う仕事なんです」
「だからっていきなりは無いんじゃないかしら」
村の中は静かになっていた。ハーフエルフの娘達も狂化がおさまり、1箇所に集められている。シェリルやシャルウィードがやって来て、さりげなくジュリーとイリスの間に入った。
「とにかく、このワケの分からん依頼の説明、してもらおうか」
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レティシアがイリスから聞いた話は偽りではないようだった。
彼女がその真実を告げなかった理由は、最初に言った『モンスターを生かすかもしれないから』と言うのと、『ハーフエルフの至宝があるのを知られたくないから』というのがあったらしいが、最大の理由は、
「ジュリーに知られたくなかったからよ」
と言う事らしい。
『至宝』が何なのか、イリスもよくは知らなかったが、それを領主も探しているという話は聞いていた。そしてイリスはジュリーを半ば憎んでいる。ジュリーはかつて、この領内の砦を半壊させた。その砦には領主に反抗する組織が立てこもっていて、その中にイリスの一族も居た。2人は決してその真実を誰にも言わなかったが、団長は薄々勘付いていたらしい。
「ジュリーは私の姪なの。だからあの子は自分の血族を殺した事にもなる」
ジュリーの一族が元々暮らしていたのは、通称『赤い日の砦』。そこで拾ったというペンダントは、彼女の一族の長の印だそうだ。
「あの子は人を殺す事を何とも思っていない。だからクレリックの道を歩むよう、団長から言ってもらったの。効果は無かったみたいだけど」
「人を殺すと傭兵の地位が上がる‥‥。それは分からんでも無いでござるが、本人の意思を確認してみてはどうでござろう」
「それにまだ見習でしょう。これから更正の機会はあると思います」
「あっちはあっちで何か考えてる事があるんじゃねぇのか? 話し合ってみたらどうだ」
言われてイリスは頷いた。
結局、領主には『闇商売の証拠』を山ほど突きつけて、ごっそり報酬をもぎ取ったらしい。
そういう所は、やはり傭兵所以なのかもしれなかった。