銀花亭 〜意地っ張りラプソディ・転機不穏
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■シリーズシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2005年06月22日
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●オープニング
●序曲から荒れて
ここは、銀花亭。
パリの冒険者ギルドから少し離れた下町界隈にある酒場である。
銀花亭には、いつも黒髪の美貌の歌姫のあまやかな歌声が響いているのだが‥‥。
今時分の舞台は空座。ミランダが立つ時間はもう少々後である。
酒を飲み交わし語らう賑やかな銀花亭‥‥けれど、その喧騒に負けぬほどのやり取りが、舞台に近いある一卓でされていた。
「そのぼんくら頭は、何回言えば理解できるの?! くだらない意地を張れるのも張る相手がいてこそ張れるものなんだから!!」
「意地なんか張ってねぇ! 奴らが呼んだのはお前だけだろ。帰りたかったらお前一人で帰れ!!」
先ほどから繰り返される同じやり取り、徐々に声高に大きくなる二人の声に、周囲の耳目も集まり始め。
そしてそれは、舞台の裏にいたミランダの耳にも届いていた。
酒場での喧嘩話など珍しくもない。
けれど渦中の声が聞きなれた声であったため、舞台の袖から顔を覗かせたミランダの目の前で、大きく振り上げられた白い手。
―バチィィィィンッ!!
「‥‥あらあらあら」
いっそ小気味良くすら聞こえる音が、銀花亭に響いた。
白い頬を紅く染め、唇をかみ締める女性は、叩いた手を握り締め。
暫く、自分が叩いた相手を見下ろしていたのだが‥‥。
決して、自分に視線を合わせようとしない相手に、女性は銀花亭の2階へと上っていってしまった。
後に残ったのは、張られた頬を憮然とした顔で撫でさする騎士崩れ然とした男だけだった。
●転機は何処
「そんな事が、先日あってね」
受付係に苦笑交じりにそう語ったのは、銀花亭の歌姫・ミランダその人だった。
「止めたのだけど、彼女、彼の顔なんかもう見たくもないって言って、銀花亭の宿から荷物を纏めて出て行ってしまったの。でも、まだパリにはいるわ。顔見知りの冒険者の家に泊めてもらってるみたい」
本当に見限ったのであれば、とうにパリを後にしているはずだとミランダは言う。
「その二人は冒険者なのですか?」
「ああ、ごめんなさい。肝心な説明が抜けていたわね」
受付係の問いに、ミランダは一から語り始めた。
騎士崩れのような格好の男――いわゆる折り目正しい騎士然とした格好をしてはいないらしい――は、正真正銘のナイトであり、そのナイトの頬を張った女性というのは、クレリック。二人揃って冒険者だという。
ノルマンでもパリから遠い地を故郷とする彼らは幼馴染で、正式な婚約を交わしたわけではないものの恋人同士の間柄。
『見聞を広め、腕を磨くため』故郷を旅立ったナイトを支えるため、彼女も共にパリまで来ていたらしい。
「それが、なぜそこまでの喧嘩に? 話を聞く限りは仲の良い方達のようですが‥‥」
「んー‥‥内緒よ? 依頼に関わる秘密にしてちょうだいね?」
説明しなければならない事だと思ったのか、そう前おいてミランダは「実のところ」を話し出した。
『修行のため』というのは表向き。
実際は、根性なしを親に諌められ、家出同然に飛び出してきたというのだ。
そんなナイトでも心配し付いて来てくれたのが、幼馴染で子供の頃からの付き合いであったクレリックの女性だったのだ。
けれどふらふら旅をするだけで、いくら彼女が諌めても状況を改善しようとしない彼。
そんな中ふらつく息子で無く、彼女宛にナイトの家から彼の父親が病に伏せたという連絡が入ったのだ。
「頼りも寄越さずふらふらしている息子でなくて。そんな息子でも嫁いで来てくれるかもしれない、連絡所在をきちんと伝えてくれる彼女に連絡をいれるのは、私だって最もだと思ったんだけれど‥‥」
病は軽いものではないらしく、放蕩息子とはいえ‥‥だからこそ、その将来が気にかかるのは親の常。
暗に、遠まわしに家に戻る事を許す心つもりだという話なのだろう。
これを機に1度戻る事を彼女は勧めたが、理由も何も言おうともせず、ただ「戻らない」と言い張る彼にとうとう彼女の堪忍袋の緒が切れたのだった。
「私からだと、馴染みの店の人間のお節介で済まされてしまうし、何より彼女の味方をしているわけではないけれど、彼女の言い分は最もだと思うの。だから、そんな私からの話は、余計に聞いてもらえないのかもしれないと思って」
事情を説明し終え、ミランダは小さくため息をついた。
「でも、彼が何にこだわっているのかもわからないのよ。男の意地って私からみれば、無駄な我慢な気がするのだけれど」
本当に疑問なのだろう、小首を傾げ呟くミランダ。
けれど、周囲で話を聞いていた男性冒険者の姿に気づき苦笑を浮かべた。
「ごめんなさいね、貴方達の事を言っているわけではないのよ。でも、同じ冒険者という立場であれば、彼が何を考えて、何に意地になっているのかわかるものかしら?」
それで、冒険者ギルドへと依頼に訪れたのだという。
「だから、二人の仲を取り成して欲しいの。彼女だって本気で愛想を尽かしていたらパリに留まらず、故郷に帰っていると思うし。せめて、彼が意固地になってる理由だけでも解れば良いのだけれど‥‥そう、それと私からの依頼という事は内緒にして頂戴ね?」
唇に人差し指をあて、片目をつぶって見せたミランダに、ふと受付係が訊ねた。
「どうしてそんなおせっかいするのか? ‥‥だって彼女は、お客様という前に私の大切な友人だもの」
どうりで二人の事情に詳しいわけである。
化粧けの無い素顔のままでも、十二分に魅力的な微笑を浮かべ「お願いね」と受付係と話を聞いてくれた冒険者にひらり手を振り、ミランダは冒険者ギルドを後にするのだった。
●リプレイ本文
●謀と下準備
酒場の寄付金受付卓に、ミルフィーナ・ショコラータと共にかの少女の助命を願う寄付を、サトリィン・オーナス(ea7814)は申し出てきた。
期日が迫る‥‥命に貴賎は無いけれど。
奪われた命と贖いの形、そして‥‥。
「‥‥私達は、私達ですべき事をしないとね」
「ええ。皆さん仲良しさんになれるのが一番ですよねぇ〜」
小さく頷き。二人は、依頼の相談へ戻っていったのだが‥‥。
「‥‥あら、男の方2人で話が盛り上がってる様ね」
盛り上がっている、という言葉で片付けて良いものなのだろうか。
「おっちゃんには顔利くから、酒で潰しちまおうゼ?」
「ああ、それなら俺もいけるぜ」
持ちかけるハルワタート・マルファス(ea7489)。ぐっと親指立て受けるヒサメ・アルナイル(ea9855)。
明らかに、『謀』を企てているようにしか見えない。
「意地っ張り見栄っ張り。若い男の子にはよくある話ですけれど‥‥」
そんな様子を尻目に。
小首を傾げ呟くクリミナ・ロッソ(ea1999)に、若い男の子であるヒサメは苦笑を浮かべ肩を竦めて見せる。
「まあ、何にせよ‥‥推測ばかりじゃ、事は動かないからな」
「そうです。このまま二人の愛が終わってしまわないよう、仲直りして貰うのですよ〜♪」
話してばかりでも、推察ばかりで二人の気持ちはわからない。
「同性の方が何かと話し易いでしょうし、私はクレリックの彼女の方とお話してみますね」
エーディット・ブラウン(eb1460)に、フローティア・クラウディオス(eb2221)も頷き。
彼女達二人で、ミランダにもう少し聞いてみてから、クレリックの彼女の方へ当る事となった。
「私は‥‥まずは、ナイトの方に話をしたいわね」
「そうですね。おせっかいかもしれませんが、一肌脱ぐとしましょうか」
サトリィンとクリミナは、ナイトの方へ。ヒサメとハルは、銀花亭のマスターに頼みごとをしてから同様にナイトの方へ当る事となった。
「歌を歌っているときのミランダさんもいいけど‥‥素のままも良かったなぁ〜」
「‥‥いや、ハル。仕事忘れんなよ?」
先日、ギルドへ依頼に訪れた時のミランダを思い出してか、空座の舞台を眺めるハルにヒサメは冷静につっこんだ。
まだ夕方の開店前に、二人が銀花亭を訪れたのは下準備をするため。
「おっちゃん、お久しゅ♪」
「おお、ヒサメにハルワタートか。ヒサメは久しぶりだな。どうした?」
見知った顔に、にこやかに応える店主。
そこで、ヒサメとハルは計画を打ち明ける。
「‥‥はーん、何かミランダが気に掛けてたが、そっちに行ったんか。まあ、悪巧みってのとは違うからな、いいよ、のってやるよ」
「やった!」
「おっちゃん、ありが‥‥」
「ただし」
喜色を浮かべ、礼を述べる二人を遮り店主が突きつけた条件――それは‥‥。
「わざわざ薄めてくれってな、お前らからの申し出だからな? 酒の量が少なくてもいつもの金はとるからな。むしろ、割る手間賃とらないだけありがたく思えよ」
「「‥‥‥‥」」
商売根性侮りがたし、である。
●見栄っ張り
件のナイトの名は、キアン。
クレリックの名は、ディースと言う。
先の喧嘩は、大変派手だった。
店に居合わせた者なら覚えていてもおかしくないほどに‥‥そんなミランダの話から『居合わせたお節介』として、キアンに接触を試みた彼らだったが‥‥。
「(‥‥ていうか、予想より強えぇ‥‥)」
「(流石に、飲みなれてる奴は違ぇな‥‥)」
酒に頼り、切欠を作ろうとしていたハルとヒサメは逆に追い込まれつつあった。
店主に頼み、薄酒で付き合っていなければ早晩潰されていたに違いない。
逆に、キアンは楽しげに杯を重ねつづけている。
ハルが振った家族の悩みには「いいんじゃないのか? 姉弟仲がいい事で」と笑って流し。
悩みを問われれば、「無い奴なんていないだろ」と返す。
「彼女の事は悩みじゃねぇの?」
潰れるまでとはいかずとも、明らかに酔っている様子のキアンにハルは1番問いたかった事を訊ねた。
「‥‥派手に振られたトコみてたんだろ? 聞くなよ」
『彼女』という言葉に、あからさまにキアンは顔を顰める。
「楽しく飲んでいる所だもの、野暮な質問はやめましょう」
サトリィンが、助け舟を出すように話題を変える。
「そうね、例えば‥‥貴方が護りたい物とかあるのかしら?」
因みに私の夢は、恩師の先生の様な良きクレリックになる事だけど‥‥とサトリィンは微笑んで語った。
「ただ、護りたいと行動で示すのも1つだけれど‥‥」
「護りたいもの‥‥か。クレリックの説教はもういいよ、ようやく解放されたトコなんだからさ」
どこか疲れた笑みを浮かべ、キアンは杯を煽る。
話を聞いていて思った自分の推測は、考えすぎだったのだろうか‥‥ヒサメは、薄い酒を舐めるように飲みながらキアンの様子を眺めていた。
●ディース
「あれだけ派手にやったら判るわよね。わざわざ心配して来てくれてありがとう」
ミランダから聞いた、とは言えず。エーディットとフローティアは、銀花亭で見かけて気になったから‥‥と示し合わせて、ディースの元を訪れた。
笑顔で二人を迎え入れたディースは、さばさばとした気質の付き合いやすい女性だった。
「どちらかといったらあいつの顔が変形していないか、見に行った方が良かったかもね」
エーディットは、銀花亭でキアンが今どんな風に過ごしているか、見てきた様子をディースに話した。
その上で、何故あんなダメ人間‥‥とまでは言わずとも、問題のある男とこれまで一緒に居たか、尋ねてみたかった事を問い掛ける。
「どうしてって‥‥そうね、見捨てられなかったのね、多分」
エーディットの問いに、にっこり答えたディース。
「相手がどんなへタレでも見捨てないなんて、きっと愛なのですね〜♪」
「どうかしら、只の腐れ縁なだけかもね」
ディースは『愛』という言葉に、僅かに柳眉を寄せ苦笑する。
「男の人は好きな人の前では格好良く居たいらしいですよ〜?」
「小さな頃から一緒で、幾つまでおねしょしてたかまで知ってるもの。今更格好良いも何も、ねえ?」
「無理矢理にでもやらせれば、きっと自分に自信が持てるようになるですよ〜」
諦めず、エーディットは言葉を重ねた。けれど‥‥。
「‥‥第三者からだったら、出来るかもしれないわね。近しいからこそ聞き入れてもらえない事も、聞き入れることが出来無いこともあるわ」
今度は、フローティアが話す番。
彼女は、自分も恋人と喧嘩をしたばかりなのだとディースに話した。
どんな親しい仲だとしても、本音で話し合わなければ、こういう事は解決しない‥‥と。
今、仲間がキアンの本音を聞きだしているはず。何とか、ディースに彼の本音を聞いてもらえれば‥‥と思っていたのだが。
ディースはフローティアの言葉に頷くものの、キアンと話す事に対しては首を縦に振らなかった。
「銀花亭には戻らないわ。元々私が居るところも分かりやすいトコにいるのに、何にも動こうとしないんだもの。やっぱりだめだったのかしら、ね。出来るはずなのにやろうとしないのよ。腹立つったらありゃしないわ。‥‥それに、この間届いた便りも芳しくないし」
便りとは、キアンの家から届けられた物の事なのだろう。
「帰ろうと思う」とディースは笑った。
パリに冒険者は多い。ならば、自分は自身の手を必要とする故郷でクレリックの道を立てたいのだ、と。
キアンの性格などわかりきった上で、彼女は試した。
「賭けは私の負けね」
ディースは寂しげな微笑を浮かべ、フローティアを諭した。
「泣けるうちなら大丈夫、好きなんでしょう? 私みたいにならないで、悔やまないようにね」――と。
ディースを促す為の嘘だったとは、彼女の微笑を見た今‥‥フローティアには言えなかった。
●機転、起点
「私も頂いて良いでしょうか?」
「お、いっとく?」
にこやかに訊ねたクリミナに、ハルが薄い酒を渡そうとしたのだが‥‥。
「楽しくやってる所だから、どうぞ?」
酔った笑みで、キアンが新しく来たばかりの自分の杯をクリミナに譲る。
「(おい、それっ!)」
――ぐび。ぐびぐび‥‥ごくん。
ハルとヒサメが止める間もなく、いい勢いで杯を干すクリミナ。
「良い飲みっぷりだね、姐さん」
喜色を浮かべ手を叩くのは、キアン一人。
一息に干し大きく息をつくクリミナの様子を恐る恐るハルは窺った。
「‥‥そんな勢いで飲んで大丈夫、か?」
「美味しかったですよ〜? あはは♪ おばさん、歌っちゃおうかしらぁ〜☆」
クリミナのテンションは明らかにいい感じ。
周りの何も知らぬ常連客達は、良い飲みっぷりにやんやの喝采。
続いて囃し立てる声。
「歌っちゃえ、歌っちゃえ♪」
「今なら、舞台も空いてるぜ?」
「いえいえ、舞台の上なんか立ちませんよ〜♪」
♪こんなに気にかけてるのに 何故判ってくれないの
貴方が気にならないなら こんな事も言わないわ
のたれ死んでおしまいなさい 乙女心気づかぬ野暮
そんな些細なプライドは 河に流してしまえばいい♪
上機嫌に歌いだす、クリミナの歌。
軽快なリズムに、客達も手拍子を送る。
歌は、つれない恋人への女からの繰り言のようだ。
けれど、客達と同じように囃し立てていたキアンの顔から歌が進むごと、次第に笑みが消えていく。
♪貴方を気にかけてるのは 私ばかりじゃないわ
友達も親も皆 貴方を見つめてる
貴方のその性格も 皆みんなお見通し
だから安心して貴方 意地を張って頂戴♪
周囲と違い真から酔った訳ではないヒサメが、その様子に気付いた。
向かいで、クリミナの様子を見守っていたハルの足元を小突き、キアンの方を顎で示すと‥‥やはり。
卓の上で握り締めたキアンの拳が震えている。
「おい、キア‥‥」
ハルが声を掛けようとしたその瞬間‥‥
――バンッッ!!
キアンの拳が卓を叩いた。
衝撃に上に乗った皿や杯が、跳ね、転がる。
ほんの一瞬、酒場に静寂が満ちる。
「‥‥あら、わたくしの歌はだめだったかしら‥‥?」
苦笑交じりのクリミナに、キアンが口を開きかけたその時――じゃらん‥‥と、響くリュートの音色。
「楽しそうね、気になって出て来てしまったわ。私もまぜて頂戴?」
にこやかな笑みを浮かべ、リュートを抱えて店に現れたのはミランダだった。
「あらあら、私が出てきた途端に終わりだなんて事ないでしょう? 貴女の素敵な歌にお付き合いさせてね」
しらけそうになった場が一気に華やぐ。
微笑むミランダが、リュートを奏で始めクリミナに歌を促した‥‥ハルとヒサメに向けて片目をつぶって見せて。
キアンの纏う険悪な空気を払うかのように、再び銀花亭に、賑やかな歌が流れるのだった。
●意地っ張り
「‥‥なあ、さっきの歌の何が気に入らなかったんだ?」
「あー、癇癪起こしちまったな。みっともない、悪かった」
ヒサメの問い掛けには答えず、酔いがまわっているのかひらり手を振り、気だるげに謝罪の言葉を口にするキアン。
「余り過ぎると体に悪いわよ‥‥説教染みてるっていわれそうだけど」
サトリィンの注意に、苦笑を浮かべる。
「クレリックてな、そういうもんだろ?」
「あら、身近に私の同輩がいた事はちゃんと覚えていた様ね。それじゃ、話は覚えているかしら?」
手厳しいサトリィンの切り返しに、キアンは怒る事無く、ただただ苦笑するだけだった。
「夢ねぇ、冒険者になったのは‥‥手柄を立てたい。名誉を得たいとは思う、騎士位の家に生まれたからにはな、そんな単純なトコだったんだぜ?」
けれど、キアンは元々修行や修練をいうものが、好きではなかった。
実践あるのみだと思うのは、修練を積まぬ言い訳にしか過ぎず。
常から動けなければ、咄嗟の対応に体が動くはずも無い。
そんな事の繰り返し、口やかましく言われる事が煩わしくなり、やがて家を飛び出してしまった。
「けどな、俺が行くところ全部ついてくるんだよ、あいつ。護りたくとも力が無い、覚悟が無いと何にもできないもんだ。責任も俺には負いきれないから‥‥このまま、根無し草でもいいと思った。潮時だったんだろうな」
考えすぎかもしれない、そう思いもした。けれど、そんなヒサメの推察は、遠からず当っていたのだろう。
「気持ちや想いはきちんと相手に伝えてこそだと思うわ」
「気にしてないならクリミナの歌だって気になんないだろ?」
杯の中身は既にほぼ果実水だったりするハル。卓に突っ伏しキアンを見上げる。
サトリィンにもハルにも、キアンは答えなかった。
「今、依頼受けてないんだろ?」
サトリィンとハル達の会話を聞いていたヒサメの問い掛け。
キアンは話の意図が掴めず、訝しげな表情である。
「つー訳で俺からの依頼。これを彼女に届けて、本音を伝えて欲しいワケよ。依頼料は酒代な?」
ヒサメは天使の羽飾りを、キアンに差し出した。
天使が落とした羽で作られたといわれるほどの、綺麗な羽飾り。
キアンの酔った瞳が一瞬見開かれる。
「同業ならお節介が多いのは知ってるだろ?」
「本当に多いな」
一笑。そして、差し出された羽飾りを断り、キアンは、小さく肩を竦めた。
「まあ、意地でここまできちまったらな。自前でいかないと‥‥とは思うわけだ」
「俺だって巧くやれてる訳じゃねーし凹むコトだって多いんだぜ? 無くしてからじゃ遅いものもあるんだぜ、なあ」
「そりゃ、俺が凹みっぱなしって事か? 俺より下の癖に人生語んなよ、‥‥まあ神聖騎士ならそんなもんか」
ヒサメの隠れた耳はわからない。だから、キアンはそう思ったのだろう。
「いて当たり前の者がいなくなる‥‥か」
呟き、キアンはふらりと階段を上がり、2階へと歩み去ったのだった。
●花か実か
キアンが酒場を去って後‥‥銀花亭にて、顔を付き合わせた冒険者達。
「名と実とどっちをとるかって事だよなぁ‥‥」
サトリィンに注いでもらった水を飲みながら、ハルは頬杖ついて零した。
男のプライドなど、大した事が無い事が多い‥‥今回に然り、そうハルは思うのだけれど。
「結局は、キアンさんが動かないとどうしようもないでしょうか〜‥‥」
「芯から、性根がだめだという風には見えなかったけれど」
エーディットの小さな呟きに答え、サトリィンは階上を見上げる。
「ディースさんが、好きだった方ですからね」
同じように、2階へと続く階段を見上げ、フローティアも頷く。
「‥‥彼がどんな形でも「帰ってくれ」というなら、彼女も一安心だと思うんですけどね?」
「話に聞くよりは、考えてたみたいだし。男を見せてくれるって信じてみようぜ」
クリミナのため息を吹き飛ばす様に、ヒサメは言った‥‥手に残った羽飾りを見つめながら。