宝物を求めて〜混沌の宝石 please Take me

■シリーズシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 66 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月18日〜07月26日

リプレイ公開日:2005年07月26日

●オープニング

●新たに求めるもの
 初夏も過ぎ、もうすぐ夏というこの季節。
 そんな時期に、旅装とはいえマントの袷までしっかりあわせ留め、つばの広い帽子まで被った男がギルドを訪れた。
 様々な格好をした冒険者が多く訪れるのが、ここ冒険者ギルドとはいえ‥‥。
 来訪者は受付係のいるカウンターまで来ると 受付係の困惑の視線を察してか、そこでようやく帽子をとった。
 帽子の下にあったのは、育ちの良さそうな穏やかな顔立ちのエルフの男。
「‥‥ギース伯」
 掛けられた声に、ギースはにこりと笑顔を見せた。
「依頼に来たのだけれども、‥‥流石に少々暑苦しかったかな?」
 言葉ほどに暑そうな様子を見せないギースだったが、己の格好と視線に気づいていないわけでは無いらしい。
――側付きの人間は、誰も服装の選択にツッコミをいれなかったのだろうか。
 そんな事を思ったとか思わないとか‥‥流石に表情に出す事はなく、受付係は依頼について訊ねる。
「今日は、どのようなご依頼でしょう?」
「あるものを手に入れて欲しくてね」
「あるもの、ですか? 今回は地図では無いので?」
 曖昧に濁された言葉に受付係が首を捻る。
「まあ、それを望んでいるのは私ではなくてね。本人に説明してもらう方が早いかな」
 そうはいうものの、ギースと連れ立ち訪れた姿は無い。
 返答に詰まった受付係の前で、ギースはマントの袷を開いた。
「出ておいで」
 ギースの呼びかけに、彼の懐からひょっこり顔を出したのは、鮮やかな緑色がきれいな蝶の羽根を持つシフールの少女だった。


●少女の求めるもの
『白い石』を手に入れて欲しいと、ギースは言った。
「石、ですか?」
 受付係の問いかけに、ギースは1つ頷き。
 肩にシフールの少女を乗せたまま、依頼する旨を語り始めた。
「彼女にそう話を聞いただけで、実際には石かどうかはわからないのだけれどね。その石がある場所は、彼女だけが知っている。私も詳しくは知らない」
 少女は、ギースの被っていた帽子を被っているため――勿論サイズが合うわけがなく、体ごと帽子を被っている格好になっている――表情はわからない。
「あえて依頼という形で冒険者の助力を求めるには理由がある。他にも石を手に入れようとしている存在がいてね。‥‥いや、手に入れようとする事を阻む存在と言い換えた方が良いかな。その存在から彼女を護り、彼女が望むところへ送り届けて欲しい。‥‥石を手に入れるために、ね」
「それ程高価な石なのですか?」
 奪い合いが起きるほど‥‥。
 それ程の『石』が、どんな存在なのか図りかねて、受付係は考える様子を見せる。
 だからこそギースは少女を隠すように、ギルドを訪れたのだろうか。
「皆が求めるから『価値があるもの』というのであれば、そうなのかもしれないね。宝石か、路傍の石か、あるいは。それを判断するのは当事者次第だ」
 ギースにとっては価値の無いものだとしても、少女には宝に等しいものなのだろう。
 そして、彼女を阻む存在にとっても。
「私にはその石の価値はわからない。詳細も知らない、見た事も無い物だからね。けれど、彼女はそれを求める。それだけでそこに価値は生まれる」
 そこまで話し、ギースは自分の肩の上に座っていた少女から己が手に帽子を戻した。
「さて。シェラ、ここから先は君が話すべきだろう」
「そうだね」
 シェラと呼ばれた少女は、帽子が無くなりすっきりした頭を振った。
 そして、ギースの頭に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。
「ココまでありがとう、ギースちゃん」
「礼にはまだ早い。君が目的を果たせて初めて私の助力がいきるのだから」
 小さな体目一杯で表された感謝に、ギースは小さく笑って頭を撫でる。
「君が無事願いを叶えられる事を祈っているよ」
 旅路を見送る言葉に、シェラはにっこり笑って頷くと、ふわりギースの肩の上から舞い降りた。
 そうして、周囲で話を聞いていた冒険者達に真向かう。
「シェラは、シェラ。シェラ・ウパーラ。見ての通りシフールで、バードなの。シェラ一人だと、きっと行けない。どうしても手に入れなきゃいけないの。だから力を貸して下さい」
 ぺこりと頭を下げるシェラ。シェラの髪を結ぶ黄緑色のリボンが揺れる。
「どうして、それが欲しいんだ?」
 話を聞いていた冒険者の一人が問いかけた、最もな問い。
 けれど、その問いにシェラは小さく首を横に振る。
「‥‥それは、シェラと一緒じゃないと、教えられない」
「それじゃあ、石がある場所っていうのはどこかしら?」
 別の冒険者の問いかけ。目指す場所によって、冒険者とて整えなければいけない用意はある。
「ここからは遠い場所。森や山や川、あと幾つかの村や町を越えないと行けないの」
 その答えから分かるのは、海辺に向かう場所では無いことくらい。
 整えられた道だけを歩んで行ける行程ではないのだろうか。
 具体的な説明も得られず。けれど、シェラはたった一つの目的のための『お願い』を繰り返す。
「‥‥まず目指すのは、パリより離れた山近くの街にした方が良いだろう。そこまで行けば大分近いんだろう?」
 要領を得ないシェラの答えに助け舟を出すように、ギースが口にしたある街の名。最後の問いかけは、シェラに対して。
 それは普通に歩くと、3日でたどり着くには難しい場所だった。
 けれど、その先も道程はあるという。更に先を見据えた進行が必要になる事だろう。
「ええと、うーんと、そう。そうだね、そこが目的地じゃないんだけど‥‥出来るだけ早く欲しいの」
 妨害が予想される中、シェラは出来るだけ早くと繰り返す。
「どうしてもシェラはそれを手に入れないといけないの。お願い、シェラを連れて行って」
 いかにギースが放蕩伯爵とはいえ、そう長く領地を空ける事も出来ないこともあっての依頼なのだろう。
 ギースの通訳は望めない。
 つたないシェラの導きのみで進むしかない道程。
 シェラが求めるものと同じものを求める存在についてわかっているのは、その存在がいるということだけ。
 彼女が求める『宝』は、得られるだろうか?

●今回の参加者

 ea2256 カイエン・カステポー(37歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4335 マリオーネ・カォ(29歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb1566 神剣 咲舞(40歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb2221 フローティア・クラウディオス(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

●備え
 ゴールド・ストームが探し譲り受けて来てくれた地図を広げ、目的地までの道のりを確認する神剣 咲舞(eb1566)達。
「シェラ、案内を宜しくな」
 飛 天龍(eb0010)がそう声をかけると、シェラは自信なさげに小さく頷く。
 目指す街へ行った事が無いわけではないが、一人で行った事はないらしい。
「早くたどり着けそうな道を、主要な街道以外からも、複数探し選んで見極められればいいんだが」
 カイエン・カステポー(ea2256)は、パリから目指す街までを、つと指先で指し示した。
「そうですね、妨害がある場合に備えて複数ルートを検討しておいた方が良いと思います。襲撃があり、相手に見張られているのがはっきりしたり、ルートを外れた時には別ルート選択もあるでしょうから」
 目的の街までの道のりは、余程の遠回りをしない限り橋を越える必要があるため、通れる道は限られる。
 ‥‥シフールでもない限り。
 ガイアス・タンベル(ea7780)と二人、カイエンは、襲撃に備え人通りの多い街道を中心に、道を選び地図へ記していく。
 そうして整えられた地図を前に、カイエンは、その様子を興味津々な様子で覗き込んでいたシェラに訊ねかけた。
「依頼人が探している石とは聖遺物か? 必要だと思った時に必要なだけ教えてくれればそれでいいんだが。この試練は、どうやら私のものでなく依頼人のもののようだからな」
「えと、聖‥‥試練? んと、カイエンちゃんのお話、シェラには難しいよ」
 小首を傾げるシェラの表情に嘘はないようだが‥‥知らぬ単語なのか、理解を超える言葉なのか。
 幼い口調そのままに、シェラは、余り物事を知らないようだった。
「その石って言うのはどういう物なんだ?」
 わかりやすい天龍の問い掛けは、求めるべき宝についての再確認。
 けれど、シェラから返ってきた言葉は『白い不思議な石』という、先の答からそうかわらないものだけだった。
「準備もですが『如何に早く辿り着くか』はどうしましょう?」
「早い方がいいの、とっても」
 フローティア・クラウディオス(eb2221)が皆に問い掛ける。
 シェラは、方法ともかく、出来る限り早い方が良い事だけを訴える。
 馬を使うか、どう行くべきか‥‥分かれる話に、終始落ち着かぬ様子のシェラと違い、年若い見目と異なり落ち着いた咲舞の申し出。
「韋駄天の草履とセブンリーグブーツを多めに持っていますから、皆さんにお貸しする事もできますわ」
「んー、私は貸してもらえるなら貸してもらいたいが」
「僕は所有している分がありますから、大丈夫です。全員分揃えられるなら、それが1番早そうですね」
 頷くカイエンに、ガイアスが口添え促し、話を纏める。
「イカテンノソーリって何? それってすごいの?」
「『韋駄天の草履』だよ。それを履くと、遠くまで余り疲れず早くいけるようになるすごい靴の事」
 首を傾げるシェラに、マリオーネ・カォ(ea4335)は親切に説明してやった。
「すごーい、シェラ知らなかったの。それじゃ早く行けそうだね♪」
 無邪気に言葉のまま喜ぶシェラに、マリオーネは笑う。
 そして、シェラの前で改めて大仰な一礼をとった。
「僕はマリオーネ。僕らは、ギース卿の依頼を受け雇われた冒険者。今から僕らは仲間だ。‥‥宜しくね☆」
 ぱっと魔法のように目の前に、ふと差し出された花一輪に、シェラは相好を崩し。
「マリオーネちゃん、すごいの! えと、シェラもよろしくだよ」
「案内の方は宜しく。シフール語の方が得意なら通訳もするから」
「‥‥シェラのお話、やっぱり変?」
 花を抱えてにこにこしていたシェラの顔が途端に曇る。
「あのね、この国の言葉は教わったからわかるの。でも、上手くお話できなくて。シェラの話はわからないって言われるの」
「そんな事ありませんよ。ただ、会ってまだ間もないですから、色々お話できれば仲良くなれてもっと分かり合う事ができるようになると思いますよ」
 柔和な笑みを浮かべるフローティアの言葉に、シェラは嬉しそうに笑うのだった。


●街への道程
 パリを出て1日目。
 時間を稼ぐために用いた魔法の靴。
 荷を分かち、共に行く馬達に合わせた道行きだったが、ただの徒歩で行くよりも遥かに早く街に着くことが出来そうだった。
 不穏な目も無いように思えた。選んだ道行きが良かったのかもしれない。
 けれど‥‥確かに距離と時間を稼ぐ事は出来たのだが、結果、人の足に合わせて点在する街道沿いの村や町から外れた地点で野営をする事を余儀なくされた。
 野営の想定は、準備の時にされているからこそ、問題にはならなかったのだが。
 簡易テントは人数分。
 食事も備え用意した保存食で賄う。
 旅の友の小さなシフール用の楽器だけしか持っていなかったシェラの分は、多めに保存食を持っていた咲舞達が分けてくれた。
「ごめんね、いつもルベウスちゃんにもらってて。必要だよね」
 しゅんと咲舞の肩の上、差し出された木の実を両手に抱え、謝るシェラ。
「助け合いね。持っている人がいるのだから、補い合えばいいんですよ」
 他にも道程の対策に気をとられたか、保存食を持ち忘れた者もいたのだが‥‥咲舞の言う通り、パーティの利点で事なきを得た。
 食は基本。思わぬ落とし穴になりかねない大切な事‥‥繰り返さねば良い事だ。
「ルベウスというのは誰なんだ?」
 野営をするため、張られたテントの屋根骨に座った天龍が、会話の中に出た名前を確認する。
「ルベウスちゃんは、シェラの冒険仲間なの。ルベウスちゃんが居たから、シェラはあちこち冒険できたよ♪」
 嬉しそうに『ルベウス』について語るシェラは、問われた事以外まで話し始めた。
「シェラ、覚えてない事たくさんあるけど、だから誕生日もルベウスちゃんが決めてくれたの」
「誕生日を? 親密な仲なんですね。それじゃシェラさんの誕生日はいつかしら?」
 ペットの力丸にも餌を与えながら、咲舞は訊ねた。
「7月! 7月2日がシェラの誕生日なの。初めて一緒に冒険した、ルベウスちゃんにあった日なんだよ。それにね、もっとすごい事も教えてくれたの」
「すごい事ですか?」
 嬉しそうに次々語るシェラの様子に、ガイアスは穏やかな笑みを浮かべ耳を傾ける。
「シェラは知らなかったけど、シェラも宝石なんだって」
「‥‥シェラさんが『宝石』ですか?」
 言葉の意味を図りかね、フローティアが小首を傾げた。
 シェラとの会話には、やはりある程度の慣れが必要なのか、話の脈絡が中々繋がらない。
 目的の街の事といい、よくぞギースは言葉を解せたものだ。
「シェラのウパーラって名前は、宝石の『オパール』の事なんだって。ルベウスちゃんが教えてくれたの。ルベウスちゃんてすごい物知りなんだよ?」
「素敵な名前なんだね。シェラちゃんの冒険仲間も。さて、それじゃ食事もとって荷も落ち着いたら、休める人から休もうか」
 分けた役割、野営の見張りの順に従い、食事を終えたマリオーネがそう仲間に勧め、夜の席は落ち着いたのだった。


●目指す場所へ
 あけて2日目。
「しふしふーだよ、天龍ちゃん♪」
「しふしふ〜☆」
 目がさめて早朝、常と化した十二形意拳の型を行う天龍を見かけ、出会ったその日に覚えた挨拶をするシェラ。
 型を納め腕を下ろした天龍は、照れたように返す。
「天龍ちゃんは、すごいね。他の皆もすごいの。‥‥どうしたらシェラも、すごくなれるのかな」
「シェラ‥‥?」
 ぽつり呟かれた言葉。
 その様子に天龍が何か問い掛けるより先に、シェラの興味対象は、出発の用意を整える仲間に移ってしまったようで続く言葉は無かった。

 常よりも早く目指していた街に、彼らはたどり着く事が出来た。
 日暮れにはまだ間があり、短縮できた分、石を探す時間も多く取れた事になる。
 仮眠程度ですませた昨晩に、長い道程。ひとまずは、宿を探す事にする。
「それなら、行きたいトコがあるの。あのね『大地の恵み亭』ってトコで待ち合わせなの」
「待ち合わせ? その宿は、どこにある?」
 石を求める旅路の中で、思っていなかった事‥‥というよりも聞いていない情報。
 石を受け取るための事なのか、初耳だ‥‥と呟き訊ねるカイエンの問いに、シェラは、えへへと笑う。
 黙っていたというよりも、シェラの場合、伝えるべき必要な事項を纏めきれていないようである。
「いつもルベウスちゃんにお任せだったから、その、場所を覚えてないの」
 ため息はだれのものだったのだろう。
「名前はわかっているのですから、聞いて探せば見つかりますよ」
 重い空気を払うように、咲舞が取り成す。
「どちらにせよ、宿の確保は必要ですしね」
「そ、そうそう。野宿じゃなくて、ベッドで寝たいよねっ♪」
 苦笑を浮かべながらも頷くガイアスの頭の上に、へたりと纏わりついて誤魔化し笑いを浮かべるシェラだった。

 村や町と異なり、それなりに人の行き来がある大きな街であれば、宿や酒場の類はそれなりにある。
 手分けし、人に訊ねながら『大地の恵み亭』を探し始めた一行。
 襲撃者を警戒し、シェラを一人にせぬようガイアスが常に側にいるよう心掛けていたものの、ふわふわと目に付く物を探しに飛び回るシェラの面倒を見続ける事は、かなりの労力を要するものだった。
「しかし‥‥他に狙ってる奴等の人相とか、わからない?」
「ギースちゃんはそう心配するんだけど、シェラには良くわからないの。ただね、シェラが欲しい白いのは、シェラじゃなくて。シェラは、それを本当に欲しい人に届けないといけないの」
 宿を探し、警戒し。気を割くものが多ければ、出来る事も限られてくる。
 大地の恵み亭を探しつつ、マリオーネの改めての問い掛けに、シェラは見覚えのある看板を探し飛びながらそう答えた。
「‥‥ごめんね? ただ、ルベウスちゃんも言ってたかも。魔法には注意しろって。こんなに長く離れてた事無いからかな」
「謝る事はありませんよ。ほら、あの屋根の色と看板の形‥‥見覚えないかしら?」
 視力に優れた咲舞が指し示す先、麦の意匠を用いた大きな看板が下がる宿がある。
「あ、あれ! あそこだよ♪」
 見つけた事が嬉しくてか、ふわり舞い上がると一直線に宿へ翔けていくシェラ。
「‥‥っ、シェラさん待って下さい!」
 羽持たぬガイアスらは、一人先走るシェラの後を慌てて追いかける。
 マリオーネが苦笑を浮かべ、空から追いかけるのだった。

 高い細い悲鳴。
 マリオーネの目の前を翔けていたシェラの姿が、不意によろめき傾ぎ、地へと落ちていく。
「シェラちゃん!?」
 揺らめく空気の乱れで三日月形の刃が見えた‥‥ウィンドスラッシュ。
「くっ‥‥」
 急ぎ翔け下りシェラの腕を捕らえる。
 こうなる事を恐れて、一人にさせぬようにしていたはずだったが、シェラ自身が無鉄砲に翔けてしまえば周囲の配慮も届かない。
 降りた石畳の上、傍らのシェラを見遣ると彼女の片羽根は傷つき、左腕には裂傷が出来ていた。
 そうして射した影に見上げれば、灰色のローブを頭からすっぽりと被り、顔すら見ることの出来無い男が二人。
「緑の羽に黒縁の紋様‥‥もう一匹が呼んでいた『シェラ』という名前、間違いない」
「そのシフールが裏切り者と通じている、か」
 見慣れぬ姿、聞き覚えの無い声。
 1つだけ明確に判る決して友好的でない雰囲気に、マリオーネはシェラを背に庇い、ガイアス達を目で探す。
 離れすぎたか、見失ったか。空を見上げていれば、先の光景に気付くはずだが‥‥。
「白い石は、返さなきゃいけない物だって言ってたもん。泥棒はキミ達だよ!」
 マリオーネに庇われたまま、声を大に言い返すシェラに、男は舌打一つ。
 一瞬のセピア色の光‥‥途端に街路樹の枝葉が、ふわり空へ逃れようとするマリオーネ達の行く手を阻んだ。
 おって、もう一人の男の身が、詠唱と共に青白く輝く。
「‥‥ぐぬっ?!」
 途切れた詠唱。
 風切音と共に飛来した矢が男の身に刺さり、魔法の発動を許さず光が掻き消える。
「シェラさんっ!」
 長弓『梓弓』を手にしたガイアスと小太刀を手にした咲舞が駆けつけた――間に合ったのだ。
「大丈夫ですか? 建物と道の並びに隠れ見失ってしまい、遅れてしまいました」
 シフール二人を男たちの目から隠すように立ち、二人を見据え弓弦を絞り構えるガイアスと小太刀を構える咲舞。
 彼らが詠唱を終えるのと、ガイアスの矢が放たれるのとどちらが早いのだろうか。
 一瞬の判断。
 真空の刃が矢に放たれ、小太刀を掠めるように枝葉が襲う。
 その僅かな間に、二人の男は雑踏に紛れ逃れるように、人通りの多い通りへと逃れ去ったのだった。

 ガイアスがポーションをシェラに与える間に、分かれ探していたカイエン達が4人の下に駆けつける。
 カイエン達が見つけることができた理由‥‥元より『大地の恵み亭』近くまで来ていた彼らは、咲舞同様やはり目の良い天龍が、偶々見つけた姿の変事に気付いたからだった。
「依頼人の特徴を知っていた‥‥か」
「ギースさんがシェラさんを隠すようにギルドを訪れたのはその辺りもあるのかもしれませんね」
 偽名だけでは事足りぬかもしれない。
 唸るカイエンに、ぽつり呟かれたフローティアの言葉。
 尾行を警戒しながらも、彼らは見つけた『大地の恵み亭』をおとなうのだった。


●混沌の宝石は何処に
 シェラが、目標としていた『大地の恵み亭』。
 そこに残されていたのは石ではなく、シェラの相棒からの伝言だった。
 

――12の宝石箱の1つ、君の箱にしまっておこう。
――羽持つ君の悪戯に、苦労させられたお返しに。


「宝石箱? 石だから‥‥でしょうか?」
 ガイアスがしっかりと書き綴った伝言に、フローティアが首を傾げる。
 伝言は、シェラ宛のものと思われる内容。
 伝言を残されたシェラにならば通じるのかと、彼らは一斉にシェラを振り仰いだ。
 12の瞳に見つめられ、シェラが瞳を瞬かせる。
「シェラ、何の事かわかるか?」
 天龍の問い掛けに、シェラは‥‥。
「‥‥わかんない」
 
――‥‥一瞬の静寂。

「「えええーーーっ?!」」
 困惑顔、驚き顔、再び紙面に目を落とす者‥‥6者6様の反応の前で、シェラこそが、途方に暮れた顔で相棒の残した伝言を反芻するのだった。

 捜し求めた先にあったものは、求めた石ではなく。
 代わりに、石の在り処を示すとおもわれる伝言。
 妨害者の存在、石を所有していたはずのルビナスの行方‥‥捜し求めるは、混沌の宝石の在り処。