宝物を求めて〜混沌の宝石 search thing
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■シリーズシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月31日〜08月05日
リプレイ公開日:2005年08月08日
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●オープニング
●石招く災、あるいは
重たい音を立て、床に転がり落ちた石像は、衝撃に耐え切れず割れてしまった。
砕ける前は精巧な人の形をしていた石像は、とある宿の主人そのままのものだった。
まるで、人がそのまま石と化したような、石像だった。
「‥‥行き先が知れたか」
石の欠片を踏みにじり、唾を吐く男。
「そう言う事もあるまい? 探す手間をかけるよりも、奴らが手にした後に譲り受けるが早かろう」
荒れる男をなだめる様に、杖を手にした男がそう口にすると、それもそうだと欠片を蹴り上げ荒れていた男が頷いた。
「奴も手間をかけさせたものだ‥‥。後片付けはしっかりとな? 散らかし残して叱られる歳でもあるまいて。2度は言いつけを破るでないぞ」
かつりと杖で床を叩き、その場に二人の男を残し命じると、杖持つ男は去っていた。
数刻後、街に数ある宿の中でも良心的な事で知られ賑わっていた『大地の恵み亭』は、柱1つ残さず燃え尽きたのだった。
●残された言伝
――12の宝石箱の1つ、君の箱にしまっておこう。
――羽持つ君の悪戯に、苦労させられたお返しに。
「石も無く、彼の姿も無く、残されていたものがこの彼の伝言というワケか」
先に依頼した冒険期日の満了に合わせ、ギースは再び冒険者ギルドを訪れていた。
その手には、冒険者らが書き取った伝言が綴られた紙。
「『12』という数字が、鍵の一つのように思えるが‥‥心当たりは本当に無いのかい?」
「‥‥わからないの、ごめんなさい」
ギースに訊ねられたものの、シェラは、返す答えを持たず肩を落とす。
『宝石箱』に心当たりが無いというシェラに、ギースは息を吐いた。
「『宝石箱』というのは、例えではないのかね? そもそも、この文面そのものがそのまま事実を表しているわけでは無いと思うんだが」
全てとはいわないが大抵、隠される宝は、見失わないよう地図が残されるものである。
そして、それは本当に場所を見失わないよう記されたものから、他者の目に触れても分からぬよう何気ないものを装っている時もある。
まして、シェラが求める白い石を欲している者は、他にもいる。
誰が見ても分かるものではないだろうが、伝えたい相手にまで伝わらなければ本末転倒なのだ。
「暗号みたいなものなんでしょうか?」
話を聞いていた受付係が、紙を目に首を傾げた。
「いや、暗号というほど複雑なものではないだろう。何よりルベウスは、シェラの性格や頭の向きを知っているわけだからね。そう難しいものは残すまい。シェラが難しく考えすぎる余り、道を見失っているのだと私は思う」
言外に『おつむの回転がよろしくない』と言われたにも関わらず、その事すら気付かないのか、『宝石箱』について考え込んでいるシェラ。
「もしかして、あそこの事かなぁ‥‥」
シェラが、思い出すように呟く。
石に興味を持っていて、その知識にも長けていたというルベウス。
シェラはどちらかといえば綺麗な石の方が好きだったが、宝石の類に限らず、鉱石や鉱物を探し調べる事が趣味だったルベウスは、時間が出来ると足を運んでいたところがあったという。
そこは、ある山の深い森の中にある場所で、そこだけぽっかりと木々が開け岩肌が露出しており、1本だけ茂った大樹を基点に周囲に幾つかの岩洞があった。
「自然に出来た岩洞じゃないみたいなんだけど‥‥そこの岩の表面は、色々な石とか鉱石があって、ルベウスちゃんにとっては宝物がたくさんある場所だっていってた気がするの。宝物なら、宝石箱かもしれないよね? ただ、12個あったかな〜‥‥」
広かったり狭かったりする岩洞は、丸く開かれた森の中の広場を囲むようにあり、大樹の抱える洞と向き合う岩洞を基準に、ルベウスは石の呼称で呼んでいたというのだ。
「だけどね、響きが綺麗だからっていって、ジャパン風の響きだったから。その、覚えにくくて‥‥」
けれど、シェラは岩洞の全ての呼び名を覚えておらず、ルベウスの言葉をきちんと聞いていなかった事を悔やみ、膝を抱えていた。
最初は、石榴。全ては覚えておらず、単語で記憶にあるのは、金剛、緑柱‥‥瑠璃。
覚えているのは、それだけ。石の名前である事しかシェラにはわからなかった。
「‥‥ルベウスちゃんとは、いつも一緒だと思ってたんだもん。こんなに離れてた事ないの‥‥」
「彼が君に託した物だ。悔やむのなら、それを確実に手にする事だね」
項垂れるシェラを、不必要に励ます事も無く、淡々と事実と方向性のみを示唆し、ギースは冒険者らに向き直った。
「シェラの容姿は、向こうに知られているようだね。似た羽根色のシフールが数人行方知れずになっている話も入ってくるし‥‥ギルドへ連れてくるまでは隠したんだが、こうなった今では‥‥ね。ギルドを頼っている事も知れれば、パリに戻るのも危ういかもしれない」
そこで言葉を切り、ギースは小さく息を吐く。
受付係の顔見て、そして再び冒険者達を見つめる。
「成果があれば報酬は上乗せる‥‥といつもであれば言うのだけれど、今回ばかりは目的を達する事をまず目的を遂げる事を優先してほしい」
急ぐ気持ちもわかるけれど、まずは確実に持ち帰ってほしいとギースは、シェラと冒険者らに告げた。
●リプレイ本文
●忠告
「いいか、絶対一人で先走るなよ!」
「‥‥ごめんなさいなの‥‥」
カイエン・カステポー(ea2256)に強く言われ、しゅんと項垂れているのはシェラだった。
「まあシェラさんも反省しているみたいですし‥‥」
苦笑を浮かべ取り成すガイアス・タンベル(ea7780)の言葉に喜色を浮かべ、こくこくとシェラは頷く。
「言い過ぎくらいで丁度いい。多分、石の確保に失敗するとしたら、こいつが先走るせいの気がする」
「‥‥あー‥‥」
実際にシェラの先走る様を間近で見ていたマリオーネ・カォ(ea4335)には、彼の言葉が否定できず苦笑い。
いかん、こいつなどと下品な単語を‥‥ごほんと咳払い一つ、カイエンはシェラに念を押すように告げる。
『たとえ今後、相棒が目の前に現れたとしても絶対に近づかないように。必ず皆に一言言ってから行動しろ』
その言葉にシェラは、眉間に皺を刻みつつ、小さく‥‥けれど確かに頷いたのだった。
●探索
「シェラさん、この先で良いのかしら?」
神剣 咲舞(eb1566)の問い掛けに、彼女の懐からひょっこりと顔を出し、周囲を確認するシェラ。
「うん、そう。もう少し行くと少し開けてすごーく高い樹が見えるはずなの。‥‥上から見ればもう見えると思うんだけど」
辺りは木々に覆われ、光が差し込む程度しか空は見えない。
不用意に飛び回るわけにも行かず、シェラはそう答えるだけに留める。
「それにしても順調すぎるほど順調にきましたね」
ここまで来ればもう地図も不要だろう‥‥纏め丸め荷へしまいながらガイアスが呟く。
先日の事を踏まえ、妨害者に顔を知られていると思われる者を中心に、身支度を多少いじり、変装とまではいかずとも、身を偽る努力が功を奏したのか。
選んだ経路が良かったのか、静か過ぎるほど何も無く、程なく岩洞まで辿り付く。
懐にシェラを匿う咲舞同様、男装し常と印象を変えるフローティア・クラウディオス(eb2221)は、油断出来無いと思った。
ここまで来れば、妨害者とて『自分たちが石を見つけてから奪う』に手法を変えてくる事も考えられる。
常に警戒を怠ることは出来無い――と。
やがて、彼らの前で唐突に森が開けた。
シェラの言葉通り、木々が開けたそこは中央に大樹を。その大樹をぐるり囲むように岩洞が点々と在った。
大樹を基点にぐるりと周囲に岩洞が‥‥12。
けれど、岩洞とは名ばかりの穴程度の物も幾つか。
潜り何かを隠せる物となると更にその数を減じ。
また、ジャイアントである咲舞が潜れる岩洞なると更に減る。
「隠し場所はシェラさんに縁の有る物らしいですから『おぱーる』とやらかしら?」
和名でないと良く分らない‥‥と首を傾げる咲舞に、それは『蛋白石』の事だ、とカイエンが告げる。
「『君の箱』と言うからにはシェラと関係があるんだよな‥‥。シェラのウパーラという名はオパールとやらの事だといっていたな?」
「僕もそう思います。シェラさんの宝石箱なんだし」
「シェラはどう思う?」
「‥‥う、ん‥‥」
芳しくない返事に、飛 天龍(eb0010)とガイアスは顔を見比べる。
本当に心当たりがないのだろうか‥‥考えるように大樹を見上げるシェラは、迷っているようにも見えた。
とりあえず、探してみない事には始まらないと彼らは動き始めた。
「シェラちゃんの記憶にある名前はガーネットにダイヤモンド、エメラルドにサファイヤ‥‥かな。ま、誕生石の名の通りに並んでいるのなら、『オパール』の洞の位置も直ぐに分かると思うけど」
「瑠璃は、ラピスラズリだな」
マリオーネの言葉を1つだけ正すカイエン。
意外な知識にシェラがすごいと誉めると、知識としてだけ知っている事を淡々と述べた。
「もっと鉱物に詳しい者がいれば良かったんだろうが‥‥」
言っても仕方の無い事と、岩洞を数え始め。
「木の洞の前の岩洞が基点‥‥であれば、ここから10個目の岩洞が『オパール』になりますけれど‥‥」
フローティアが数え周り、そうして確かに10個目の岩洞を前にする。
7つ目の岩洞も眺めた彼女。そしてこの岩洞は、それなりの広さを持つようだった。
けれど、彼女は幾分疑問をもっていた。本当にオパールなのだろうか‥‥けれど、これまで仲間と幾度も話し合った結論である。
疾風が空に舞う。
岩洞には、馬は連れて入れないため、近くの樹へと手綱を結わえる。
念のため空から、天龍とマリオーネが付近を確認したが、特に何かを見つける事は無かった。
そうして準備を整え。やがて一行は、ランタンを手に、岩洞へと足を進めたのだった。
岩洞はそう深くも、広くも無かった。
罠がないか警戒しながら進むため、決して早くはない歩み。けれど早晩行き着いたのは、先のない岩壁だった。
これまで見落とすような横穴も無い。
元が遺跡と言うならばともかく、そういった類の洞でもないように思えた。
――見つからない‥。
「シフールくらいにしか見つけられないような高い所にある隙間、とか‥‥」
ランタンを手に、岩洞内を照らしガイアスが訊ねた。
先ほどからシェラは、咲舞の懐の内で考え込むように黙ったきりである。
「それらしい物は無かったな」
仲間の目の届かぬ位置を、ふわり飛び探す天龍の言葉に、マリオーネも頷きを返し。
『君の箱』は、オパールでは無かったのだろうか‥‥。
●戦闘
高く低く唸るような声と共に、疾風が岩洞の入り口を掠めるように舞い降り、今又空へと羽ばたく。
舞い落ちる羽根と、落ち着かぬ疾風の様子に、天龍が瞳を眇め外を見る。
岩洞の暗さに慣れた目に、外は白色にしか見えず戸惑う彼らに掛けられた声。
「お帰り。探し物はあったかね?」
‥‥やはり。待ち伏せされていた事に唇を噛み、後方の仲間を庇うように足を止めたガイアス。
ゆっくり、不意打ちを恐れ相手を見据える彼の様子に後方のフローティアらも気付き、刀を構える。
けれど、彼らの表情から何かを察したのか、男の声が僅かに憐れみまじったものに変わる。
「その様子は‥‥見つけられなかったか? ルベウスも浮かばれないな、託した相手に通じていないなどとは」
「‥‥浮かばれない?」
男の言葉に、シェラが零れんばかりに瞳を見開く。
「岩洞をなぞらえて呼んでいたのは知っている。我々とて、あの伝言‥‥小娘の名前縁に預けてあるかと思ったんだがな」
シェラ達が10番目の岩洞に入って行った時には何かを見落としていたのかと思ったという。
「まあ、いい。ゆっくり探せばいいだろう‥‥貴様らを始末した後に。それで話は事足りる」
それは、話が終ったという宣言――ガイアスの皮兜が裂ける。
天龍が真っ先に岩洞を、飛び出し龍叱爪の爪先を灰色ローブの男目掛け振るう。
男の眼前で、けれど爪先は方向を違え。
「!?」
相手はやはり、一人ではなかった。けれど、もう一人を相手にフローティアの鋭い日本刀の切先が閃く。
遠距離から魔法の集中砲火を浴びたら一たまりもない。多少怪我をしても、接近戦に持ち込み早期でかたを付けるしかない‥‥彼女自身の判断ゆえだ。
攻める時も、単身ではなく、複数で別方向から。相手の対応数を越えるように行動を仕掛けようと試みるフローティアに、カイエンのクルスソードが力を重ねる。
男は僅かにローブのフードから覗く口元を歪め、日本刀の切先を袖内から翻したダガーで流し、カイエンの剣を僅かな差でかわすと、一瞬淡い緑の光に包まれる。
次の瞬間、強かに雷光に打ち据えられたのは、天龍を援護し小太刀を振るう咲舞だった。
小さな悲鳴‥‥左手に持つ十手を取り落とす咲舞の声に、カイエンらがそちらを見れば、直線状に伸びる黒い帯。
「くっ!?」
足元を弾かれるように、転げるカイエンとフローティアを逃がさず、真空の刃が降り注いだ。
取り落とした十手はそのままに、反撃に転じる咲舞と、空からつかず離れず下ろされる爪に一方の男とて、余裕は余り無さそうだったのだが‥‥。
「そういやシェラちゃん、バードだっけ。何か魔法とか使えるのかな?」
シェラを一人にするわけにもいかず、背に庇い戦況を見るマリオーネの問い掛けに、シェラは俯くだけだった。
ならば、やはり庇わねばならないのだろうか‥‥隙あらば矢を放とうと弓を番え構えるガイアスは、刀に持ち替え仲間に加勢すべきか逡巡する。
一人は風魔法の使い手、ストリュームフィールドが敷かれれば矢よりも剣の方が有効なのだが‥‥彼が戦線に加われないのは、シェラに何かあった時を恐れているから。
ウィザード二人が相手‥‥戦闘が長びけば不利になるのは相手。
それは何より妨害者自身がわかっていることだろう――だからこそ、何を用いてくるかわからない。
癒し手が不在である冒険者側にとって一撃が入ればダメージの大きい魔法を相手では‥‥。
魔法の使い手である事を意識した戦い方、過不足を上手く補い合い、魔法に、稀に剣で冒険者らをあしらう男達は、幾分上手に見えた。
互いが相手取る対象だけでなく、戦況を良く見ている戦い方。
相手がウィザードである事は分っていたはずの苦戦‥‥数の優位さを、返すは相手の力量の高さゆえ。
互いに決め手を欠く状況に、焦りが見え始めた頃‥‥
辺りに、高く細い声が響き渡る。
流れ響くは、戦場に相応しからぬ――夜、恋人の部屋の窓の下で歌ったり、奏でられる甘く美しい小夜恋歌。
戦意を妨げるその曲は、人を恋いうる歌。
舌打ちを零し、スタッフを新たに構える男の一人。
けれど戦場では、一瞬の油断が命取りになる。
「石は絶対に渡しませんっ‥‥」
仲間を想って歌われたシェラのメロディ。妨げられたのは、男の悪意。
袈裟懸けに振り下ろされた日本刀、更にクルスソードのそれより重い一撃。
「依頼人も渡さない!」
そして‥‥
「決まれぇっ!」
同時に一方の男の喉元を抉ったのは、三筋の爪。
取り落とされたロッドを持つ手の甲には、小太刀の刃が吸い込まれるように埋っていた。
「シェラちゃん、魔法使えるんじゃ‥‥」
「シェラの魔法は、これだけ。歌しか歌えない」
掛けられた声に歌を留め、灰色ローブの男たちをみつめるシェラの目には涙が浮かんでいた。
倒した‥‥そう彼らが思った一瞬。
大樹の小枝が、彼らに降り注ぎ。そして、雷光が煌く。
「「!?」」
身を庇うように飛び退り、あるいは顔を庇い視線を逸らした後‥‥焦げた骸と枝葉に突き刻まれた骸が残されたのだった。
●シェラの宝石箱
「7番目の洞を探しましょう」
フローティアの提案。
妨害者も、あの男らが戻らなければ新手の者がくるかもしれない。ここまでの道程から、時間も多くない。迷う時間はそう多くない。
「シェラさんが気を悪くされないかと思って迷ったんですけれど‥‥オパールは、誕生石としては不幸を呼ぶものとして敬遠される事もあるみたいですから。大切な友達だからこそ、ルベウスさんは、わざと曰くのあるオパールではなく、自分の名前にちなんだ7月の誕生日を与えたのかもとも思うんです」
誕生石を表しているのであれば、7月の岩洞こそが『君の箱』になるはず。
そのフローティアの言葉を聞いて、シェラはありがとう、と笑った。
そして、思い出した――と。
「悪戯したの、よく。石にかまけてルベウスちゃんが、シェラに構ってくれなくて‥‥寂しくて頭にきて。そう、ガイアスちゃんが言ってたみたいに」
シェラは、ほんの少しだけ困らせてやろうと、ルベウスの大切な物を隠したのだ。
けれど、そこはシフールだからこそ覗き込める高い位置にある横穴で。
「幾ら魔法の目を持っていても、物理的に隠されてしまえば探す位置や方向によってはみつからない。今の所、妨害者は人間ばかりみたいですし」
「シフールは居なかったな。陽のウィザードが、相手に居ないのか少ないのか」
男たちが最後に取った行動は、素性を見咎められないためなのだろうか。
考え込むように唸るガイアスと天龍の元、彼らにとっては一抱えもある木箱を抱え、マリオーネとシェラが舞い戻った。
「あったんですね」
訊ねるフローティアに、ランタンを返し。
シェラは小さく頷いた。
ルベウスは、シェラと過ごした日を忘れてはいなかった。
暗号でもなんでもない‥‥本当に難しく考えすぎていただけだったのだろう。
二人が重ねた日があるからこその宝の在り処。
シェラの箱‥‥それは、彼女の誕生石をそのまま表しただけのものだった。
名前は誰でも知ることが出来る。冒険者であれば、ギルドへの登録もあり、シェラは名を偽ってはいなかった。
けれどシェラの誕生日は二人の出会いでルベウスがつけた物だから。
そして、彼女を信じ託したのだ――白いしろい宝石を。
●石を手に
「誰に届ければ良いのでしょうか?」
木箱に納められた白い石を前に、訊ねられた言葉。
ここには、シェラから石を奪おうとする者はいない。
ガイアスは、言外に訴える――信じ、話して欲しい。それは彼ら共通の想い。
「‥‥それは」
男達が言い放った『裏切り者』と言う言葉。
この1月近くずっと共に過ごした『仲間』を前に、シェラは口を開いた。
尽きぬ涙と共に、彼女に語れる言葉を伝えるために。