【夢幻の憐檻】 歪願
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■シリーズシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月02日〜11月09日
リプレイ公開日:2005年11月10日
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●オープニング
●家路
「あのね、護衛依頼をお願いしたいの」
「『護衛依頼』ですか?」
年若い受付係は、シフールの少女の言葉に書き綴る手を止める。
復唱される言葉。受付係の確認に、黒い縁取りによって鮮やかさが際立てられた碧の羽根を震わせ、少女・シェラは頷いた。
「お願いするのは、シェラじゃなくて。シェラも護衛なの」
「ああ、一緒に依頼を受けてくれる仲間を探しているのですね?」
シェラは、にっこり微笑み、再び頷く。
一応は冒険者然とした格好のシェラの依頼に首を傾げていた受付係は、ようやく納得したという風に帳面に書付始めた。
言葉が流れで結びつかない者との会話には骨が折れるが、そこは、若いとはいえギルドで受付係を行っている者。
依頼の話を上手く聞き纏める事は、慣れたものである。
「この間とっても助けてもらったから、パリの冒険者ギルドの冒険者ってすごいんだねって、だからお願いしますってフレイアちゃんからからのお願いなの」
そういってシェラは、自分の体の半分ほどの大きさの紙を差し出す。
受付係が、受け取ったその紙には、流暢な文字で、簡潔に依頼内容が記されていた。
護衛を依頼する名は、フレイア。
冒険者に依頼したいのは、パリからフレイアの家までの道中の護衛。
冒険者らが急げば2日程の道行きだが、病み上がりであるフレイアの身体を考え、無理をしない行程が組まれており、パリから4日間かけて、家へと帰るフレイアの道中の護衛をして欲しいというのが、書面に書かれた依頼内容だった。
フレイアの『家』からは、一人の騎士が迎えの護衛に付く。
けれど、当人の希望があって、冒険者へも護衛を願うと記されていた。
長く臥せっていた彼女が、気晴らしにパリへ収穫祭を見物に来たその帰り道の護衛。
フレイアの移動は馬車である事と、道中の食事も依頼人により保証される事も書かれていた。
シュバルツ城での聖櫃を巡る攻防は一応の決着はみたとはいえ、先ごろからパリ近郊はデビルの影が暗躍し、安寧とは程遠い。
それらを危惧した上での依頼であり、そう綴られた書面をしめるサインは、『ジルフィーナ・リュセト』と書かれていた。
「まあ、確かにあの一連の騒ぎの前にはオーガ達の騒ぎもありましたからね。危惧は最もかもしれません」
確かに承りました‥‥と、依頼を受領する手続きを終え、書類を整えながら苦笑を浮かべる受付係に、シェラもつられるように苦笑した。
シフールのために作られた小ぶりの竪琴の納められた皮袋を撫でながら、ぽつり呟く。
「うん、そうだね。色々あったし。シェラも一緒だけど、シェラはあんまり力になれないから‥‥シェラじゃなくてルベウスちゃんなら良かったのに」
苦笑の中に、ほんの少し寂しそうな色をまじえ。
けれど、瞬き後には笑みを浮かべ「誰か力になってくれるかなぁ‥‥」と、シェラは賑わうギルド内を見回すのだった。
●リプレイ本文
●都辞
フレイアがパリにいる間に知り合った人らが見送りに訪れる中、見送りに駆けつけてくれた者の姿に見知った顔を見つけ、シェラは顔を輝かせた。
先日フレイアのために力になってくれた飛天龍を紹介する。
己よりも大きな手で頭を撫ぜ天龍がシフールの言葉で告げたものにシェラは瞳を瞬かせ、やがて笑って頷いた。
やがて出立の時間も迫り、レンティスが柔らかな掛け布ごとその身を包むように抱き上げ、そっと静かに馬車へとフレイアを運んでくれた。
快癒と道中の無事を願う彼らの言葉に、静かに微笑み「本当にありがとう‥‥」と、フレイアは小さく頭を下げた。
護衛役としては、騎士が一人。
線の細い――頼りないという風ではなく、やや痩せぎすで鋭い瞳が印象強い長身の男は、ジェノバ・ライドと名乗った。
エルフであればそれも仕方のない事かもしれなかったが。世話役の侍女が2人に御者、必要な人員もいた。護衛役が不足しているだけで。
一族の者の迎えは不要というフレイアに、けれど断固としてジルフィーナが譲らなかったのだ。最低限としてジェノバを付ける事と、せめてパリにいるのであれば、冒険者を頼る事で折り合いをつけたのだという。
見送りの最中、フレイアらの意識がそれらの者達に向いている時を見計らい告げられたガイアス・タンベル(ea7780)の話は、冒険者らの警戒心を、あるいは猜疑心を強くさせるには十分なものだった。
フレイアが体調を崩した理由‥‥それは悪魔の呪い――魂の一部を奪われていたから。それを彼女へ返しに向かう道程で入った様々な妨害。
元来健康なはずの人間の身を、無理に損なう事を願った人間がいるという事。
「今回の旅ではどうかは分かりませんが悪魔の妨害が入る可能性があります。気を引き締めていきましょう皆さん」
「元よりその積りだ。‥‥任務は必ず遂行する‥‥」
その身を全て黒一色に包んだ異装の男、カルル・ディスガスティン(eb0605)は、弓弦の張り具合を出発前に確認しながら静かに請け負う。
小さく頷きあう仲間らを認め、朗らかな笑い声が満ちる馬車の方へとガイアスも向き直る。旅路の安寧を願って。
●帰路
ゆっくりと車輪は回り。パリの街を後に帰路を辿り始めた。
流石に療養中の当主の娘を乗せる馬車、中は過ごすに快適にしつらえられ、その乗り心地は辻馬車などとは比べるべくも無かった。
馬車内に乗り合わせた面々は冒険者らの配慮か女性が多く、フレイアは気安い時間を送っていた。
入れ替わり乗り合わせる顔が変われば、聞こえる話も変わる。
未だノルマン国内から1度も外へ出た事の無いフレイアにとって、経験豊かな冒険者らの話は何にも勝る気鬱の薬のようだった。
「そういえばフレイアさんも魔法使いなんですね〜。どんな魔法が得意ですか〜? 私は水たまりを作る魔法や水たまりと話す魔法が得意ですよ〜♪」
「一応、精霊魔法――火の魔法が相性がいいみたいなんだけど‥‥」
まだ、見習い程度でしかないから‥‥と、寂しそうに笑う。
ウィザード達に囲まれ育ったのだから珍しくもないだろうに、エーディット・ブラウン(eb1460)に機会があれば魔法を見せて欲しいとねだる。
それを訊ねると、フレイアは小さく首を横に振った。
「‥‥私の親しい人に水の精霊魔法が得意な人はいなかったから」
「あれ? じゃあ仲が良かったていうルベウスは、違うんだね」
その名に、フレイアは身を強張らせ。フレイアの膝上に座っていたシェラは、それに気付き顔を見上げた。
「フレイアちゃんとは仲良しだったんでしょ? 30代くらいなんだよね? じゃあフレイアちゃんとは一回りくらい違うんだね〜でも大丈夫、愛に年の差なんてないから!」
肩にふわりシャンピニオン・エウレカ(ea7984)が留まり笑う。けれど、フレイアは悲しげに顔を歪ませ首を横に振る。
「‥‥え? 違う?」
「ルベウスなんて大嫌い! 私が困っている時は助けてくれるっていっていたのに。結局誰も私を助けてはくれないの」
戸惑うシャンピニオンに、フレイアが吐き出した言葉。それにシェラは俯く。
行方が知れぬというルベウス。彼がフレイアを助ける為シェラに後事を託し、またその彼女を手助けしガイアスやフェリシア・リヴィエ(eb3000)らが尽力したのだが‥‥。
ウィザード一門の中で、当主の娘だというのにろくに魔法を御せぬフレイアに、一族の者たちの目は冷たかった。
その中で、親身になってくれる数少ない存在だったルベウス。信を預けていた分、不信の反動は大きかったのだろう。
「フレイア、まだ体に障るから。私達もいるわ、一人じゃないわよね?」
臥せり衰弱しきっていた姿を知っているフェリシアが、励ますように冷たくなったフレイアの手を包み温める。
頷くようにエーディットも言葉を重ねる。
「一人でもわざわざお迎えに来るという事は、騎士さんだってフレイアさんの事が大切なんですよ〜」
「違うわ。ジェノバはジル従姉様に言われたから来たの。本当にそれだけよ。‥‥みんなそう、ジル従姉様ばかり」
フレイアがいう『ジル従姉様』とは、護衛を依頼する書面にサインがあった当主の代行を務めるというジルフィーナの事だろう。
静かに、けれど断固とした口調でフレイアは否定する。
「フレイアちゃん、お腹空いたらお弁当広げよう? 今日はヒサメちゃんがくれたのがあるよ。栗のパイ教えてくれた人」
重く凝った車内の空気を払うよう、あるいはルベウスの話をしたくなかったのか、シェラが唐突に話を変える。
差し入れを持ち訪れたヒサメはレテと共に行ける所まで‥‥と馬での護衛についてくれている。
ようやくこの頃、『食べる』事ができるようになったフレイアは「そうね」と話題転換に頷いた。
「そうです〜。ヒサメさんのお弁当は愛情が詰まった愛妻弁当なので、美味しくて栄養満点な事間違いなしですよ〜♪」
再び和やかに、車内の空気は流れ始め。
シャンピニオンの故国の料理から、今イギリスではどんな料理が流行っているだとか‥‥そんな小さく些細だけれど温かな話題が絶えずあがるのだった。
「なんや楽しそうやなぁ‥‥」
馬車内から聞こえる笑い声につられ、つい笑みが浮かぶ。
行程はのんびりしたもので、馬に揺られ進む道のりは走るというよりも歩くという方が近いかもしれない。
それゆえ馬に負担もなく、馬の扱いに不慣れな者が多い冒険者らにも救いとなった。
馬車上にいるカルルは、不寝番に控えこんな賑やかな床下に構わず今頃眠っているのだろうか?――覗き見てやろうかと思ったレアル・トラヴァース(eb3361)に大江晴信(eb3385)の声が掛けられる。
僅かな間、轡を並べ歩く晴信が告げた言葉は、今夜行程が村々の狭間にさしかかる頃合で夜になることから野営になるという出発時に告げられてはいた内容の確認だった。
「まあ、馬車内に泊まるといってもフレイアの体調に問題なさそうな作りのものではあるがな。どうも護衛のハズなんだが、豪華な食事やらなんやら‥‥遠足みたいだな」
「こういう雰囲気は晴信も苦手?」
馬車の後方を馬で歩み付いていたレテ・ルーヴェンス(ea5838)が問うた。晴信は無粋な返答はせずとぼけた笑みを浮かべる。
「まぁ、こういう雰囲気も嫌いじゃないぜ。酒が飲めればなお良かったんだが」
「それは無事送り届けたら、やな」
混ぜ返す声は、馬車内にも劣らぬ陽気を含み。一行の雰囲気は落ち着いた朗らかなもので在りつづけた。
叶うなら平穏な道行を望みつつ、彼らは『家』へ向け帰路をゆっくりと進むのだった。
●襲撃
小さく開けられた扉から覗いたのは、レテの顔だった。
「‥‥何の騒ぎ?」
「少し周りが騒がしいけれど、大丈夫だから安心して頂戴ね。決して、フレイアを一人にしないように‥‥お願いね」
ランタンの薄明かりの下でもはっきりと分るほどの青ざめた表情で問うフレイアに、レテは小さく笑ってみせた。
一言フレイアには聞こえぬよう告げた言葉に、シャンピニオンが心得たように頷くのを見届けてから、レテは扉を静かに閉めた。
「フレイアさん達は?」
「エーディットとシャンピニオンが側にいるわ。シェラもいるから大丈夫だと思う」
馬車の扉より離れた彼女らに問うガイアスに、法衣の胸元を飾る十字を握り、フェリシアが答えた。
「私達の役目は、馬車へ近づかせず撃退する事ね。ガイアス、馬車をお願い――」
直刀を鞘から抜き払い、晴信らが戦う方を見遣るレテの言葉に今度は彼が頷く番。
馬や車を損なえば、フレイアを連れ行くこれより先の移動が難しくなる‥‥それを承知しての事だ。
野営にも人を置き警戒していたのが、功を奏した。
襲撃に早く気付く事が出来、幾分馬車から距離をおいて迎え撃つ事が出来た為、馬達は怯えてはいるものの恐慌をきたすほどでもない。
「‥‥数は10よりは多いが、20には満たないだろう。オーガが多いようだが、ゴブリンも少なくない」
構えた弓は、遠く蠢くゴブリン達を狙い定めたまま。馬車の上、高い位置より状況を見ていたカルルが告げる。
道は限られ狭い。この場合は、襲撃を避け馬車を先んじて走らせ手を分けるよりも、殲滅を選び皆で事に当ったほうが良いだろう。
話す間にも剣を振るうレアルと晴信を援護するカルルの、ガイアスの手から放たれる矢雨。
その軌跡を横目にレテも剣を手に、ゴブリン達へ向かう。
「何か起こるとしたら騒動に乗じてがセオリー。彼の動向にも注意して‥‥どうしても信用出来ないの」
その場に残る仲間に警告を残して。
癒し支える為にレテの後を追ったフェリシアが一瞥したその先には、仲間らを目くらましに回りこんだか‥‥馬車付近にまで紛れ込んだオーガを一刀の元に斬り捨て倒すジェノバの背が在った。
周囲に満ちる剣戟と怒号。明らかに人のものとは違う叫び声が周囲に響く。
馬車の内に匿われ、戦いを目にする事の無いフレイアにも‥‥見えぬからこそか、異常な雰囲気だけは伝わる。
「‥‥いやぁっ!」
「大丈夫ですよ〜。すぐに落ち着きますから〜」
瘧に掛かったかのようにがたがた震え、頭を抱え声を荒げるフレイアの肩を抱き、あやすように背を撫でる。
周囲の喧騒に似つかわしくないのんびりとしたエーディットの声。
けれどフレイアは、そんな彼女の声も届かない程怯えた様子をみせる。
ふっとフレイアの額に触れられた小さなぬくもり。幸運を祈り願う聖句が囁かれ、ほんの一瞬だけ薄暗い馬車の中に、シャンピニオンの身を白い光が灯る。
「言ったよね? 明るい笑顔は元気の素☆ 大丈夫、キミが望んですごいねって思う冒険者の僕らがそばに居る。絶対フレイアを守るから」
元気の出るおまじないをかけたから、もう大丈夫でしょ? と屈託無い笑みを浮かべたシャンピニオンに、涙に顔を汚したフレイアが呟き問うた。
「‥‥一人にしない? お願い、私を見捨てないで」
「大丈夫、皆がすぐに退治しちゃうから」
シャンピニオンとシェラ、小さな少女がフレイアをあやす間にそっと馬車の小さな覗き窓からエーディットが伺った外は、未だ暗いくらい闇の中だった。
光の固まりが晴信の手から放たれ‥‥飛び爆ぜた。
鳥にしては大きな影が過ぎった気がしたのだが‥‥瞳を眇め凝らすも、夜闇には折れた枝と散らされ落ちる木の葉が見えるが精一杯だった。
元より今は夜‥‥。
「どないしたんや?」
貫く刃を引き抜き様、大きく後方へ跳び退り晴信と背を合わせ、レアルが問う。
「‥‥いや。気のせいかもしれん‥‥酔ってはいないつもりなんだが」
「仕事中の酒は控えるんちゃうんかったんか?」
笑みを含む声を振り切るように、闘気を乗せた強烈な一刀を迫るコボルトに袈裟懸けに振るう。
斬り捨て振るう刃の一撃を、勢いに任せたまま薙げば、レアルに向かい凶刃構えたオーガが苦悶の声をあげた。
「ぬかせ‥‥おまえこそ足元を掬われんように、な!」
晴信の鼓舞する言葉に小さく笑い。名匠の手により作られたというレイピアを手に、レアルもまた守るべき馬車を常に気にかけつつもオーガの群れへと向き合う。
雄叫びと共に棒を振り上げたゴブリンが、白い光に包まれる。苦悶の声をあげ悶える隙に、重い一撃が叩き下ろされた。
雄叫びは断末魔の叫びへ変わり、絶命するゴブリンを越えレテ達が合流を果たした。
「大分、数を減らしたみたいね」
「襲わせるわけにはいかんさかいな」
襲撃の矢面で、オーガ達を排除していたレアルらの少なくはない怪我をフェリシアが癒す間にも、更に数を減じるゴブリンら。
礼を述べるよりも先に更に鋭い突きをゴブリンに見舞いながらも笑ってみせるレアルに、自身もオーガに止めを刺しながらレテが言う。
「‥‥一気に殲滅するわよ」
「言われる迄も無い、な」
頷く代わりにまた一匹、ゴブリンを斬り捨てる晴信。
後背より届く鉛色の援護を受けながら、白き神の祝福の下、彼らは決着を付ける為その剣を再び振るい始めた。
●道行、暗昏
「‥‥依頼主は?」
広くは無い道を塞ぐオーガの死体を片付け終えたカルルが問う。
「一時、大分気が昂ぶっていたけれど、今はなんとか落ち着いているわ。シェラちゃんに頼んでなんとか落ち着いて眠れるよう呪歌を歌ってもらっているし」
そう答えたフェリシアの見つめる先、フレイアがいる馬車の中からは小さく途切れ途切れだけれど、異国の子守唄が聞こえる。
「なるほど、確かに‥‥。依頼主‥‥体が恵まれずとも‥支えてくれる友がいるというのは‥‥羨ましいものだな」
頷いたカルルが口中呟いた小さな声に「何?」とフェリシアが首を傾げたものの、彼は何でもないと首を横に振った。
「先日、パリ近郊のオーガの群れは狩り尽したと思う位、討伐したと思ったのだけれど‥‥」
「まだ残っていたという事でしょうか」
ガイアスの持つランタンが周囲を照らす。なんとも答えようがなく小さく息をつくレテに彼は笑みを向ける。
ガイアスが仲間に告げた言葉は、不幸中の幸い‥‥馬への損害も無く、馬車への被害は軽微だったという事。多少手を入れる必要はあるが、明日には問題なく行程通りに戻れるだろう。そうすれば、もうじき家も見える頃。オーガの群れに襲われたにしては、幸運だったといえる。
「流石は、近頃名も高いパリの冒険者殿達だな。その腕前、間近に拝見する事が出来て良かった」
助かったと慇懃に腰を折り、淡々と礼を述べるジェノバ。
その後ろでは、襲われ負った怪我もシャンピニオンに癒されすっかり痛むところもない従者の男が、侍女らと共に尽きぬ感謝の言葉を捧ぐ。
「ほんまにそう思うか?」
レアルの問いに「勿論」とジェノバは頷く。
「フレイア様に何かあっては、ジルフィーナ様に面目が立たぬからな」
端整ゆえに冷たく見えるのだろうか、人間味の乏しいその表情にレオンは小さく肩を竦めたのだった。