ゴーレム武器向上計画1
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■シリーズシナリオ
担当:まどか壱
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月14日〜02月21日
リプレイ公開日:2009年02月22日
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●オープニング
ウィル王都から離れた深い森の中、人里からも離れたその森の奥に、一軒の立派な家が建っていた。立派と言っても貴族の邸のようにというわけではない。頑丈そうで広いという意味でだ。
その玄関に、若者が一人立っていた。一見気弱そうに見える彼は実際に気弱なのだが、大きな使命を持ってこの場を訪れている。その使命については後述するとして――若者は獣の視線でも感じたかしきりに辺りを気にしながら、家の中へ声をかける。十回はそうしただろうか、漸く開いた扉の向こうから現れた人物は若者を見て片眉を上げた。
「ああ、君がゴーレム工房の人間か。話は聞いている」
鋭い視線にびくりとしつつ、工房の若者は頷いた。
適当に括られた銀髪に燃えるように赤い瞳、見た目の年齢は三十代後半くらい――実際はエルフなのでその三倍近い年齢である。火のウィザードで、名をブリジット・ダグといった。その後ろでは、アータルの女の子が興味深そうに若者を見つめている。
「用件は、ゴーレム武器のマジックアイテム化への協力だったな」
威圧感を感じつつ、彼は「はい」と答えた。ブリジットは鍛冶師を生業とし、その傍らマジックアイテムの研究も行っている。付与の術を独自に開発した彼女の腕前は一流で、彼女の手にかかればその武器の威力は驚くほど跳ね上がるのだとか。
それこそが、若者がブリジットのもとを訪れた理由だった。
実は現在、ゴーレム工房ではある一つの計画が持ち上がっている。それが『ゴーレム武器向上計画』。名前の通り、ゴーレム用武器の向上を目指す試みである。具体的には、現行魔力付与されていない武器をマジックアイテム化してカオスの魔物に対して効果が表れるようにし、更には威力も高めようというものだ。
地獄からの侵攻とカオスの魔物の強化に際し、こちらも出来る限りの対抗策を講じなければならない時期にある――それが工房の見解であり、術者として名が挙がったのがブリジットだったというわけだ。そして、不幸にもお迎えの役割を負ったのがこの気弱な若者だった。
「ゴーレム武器向上計画、な‥‥」
笑顔の一つも見せず、また家へあげようという気配も見せないブリジットに対し、若者はびくびくしながら改めて工房の用件を伝えた。また、計画の今後の進展についての相談をしたい旨も伝える。暫く黙って彼の話を聞いていたブリジットは、煙管を咥えたまま「ところで」と彼の話を遮った。
「君らは工房の中にいる人間だろう。工房の中にいて、今の武器では物足りないなどとどうしてわかる?」
それは、知り合いの鎧騎士に聞いたのだ。皆、今の武器ではこの先苦しいと言っていた。当然そうに答えると、ブリジットは渋い顔で煙を吐き出した。
「その鎧騎士だけがそう思っているのではないかね? 望んでいるゴーレム乗りは何人いるんだ? 地獄へ行って現地で戦った人間は何と言っている?」
畳み掛けるようなブリジットの言葉に、彼はうぅっと口籠った。
「統計も取っていないのに全員の希望のように言ったのか? ‥‥呆れた話だな」
すいません、と彼は蚊の鳴くような声で言うのが精一杯。ブリジットは渋い顔のまま、やれやれと言いたげに唇から煙管を離した。
「先に言っておこう。私は何も君らの向上計画とやらを潰したいわけではない。ただ、不要なものを作るために余計な金を動かすことには協力出来ん、と言っているのだよ。制作費は君のポケットマネーから出すわけではないだろう? ゴーレム関係は国策だ。国策である以上、本当に必要なのかどうか、需要があるかどうか――そこが問題だ。国民としては己の納めた税が不要なものに使われるのは実に腹立たしい話しだし、職人としては使い手のいない道具を作るのは気が進まない。道具は使われてこそ価値があるのだから」
彼に口を挟む隙を与えず、ブリジットは更に続けた。
「私とて地獄での戦いの話は聞いている。カオスの魔物のおかしな力の事もな。その力を発揮されれば、今現在の武器では傷つけることが出来ないのだろう? 魔法を武器にかけるか、或いは拳で殴りつけるしかない。だからマジックアイテム化したいのだという、その考えは理解している。逐一魔法をかけ直す手間も人手も要らんしな。だから、乞われれば工房に力を貸してやってもいいと思っている」
ならばごちゃごちゃ言わずに手を貸してくれればいいだろう、と遠回しに言ったら煙管の先を向けられた。
「私が偏屈な人間だと言う話は噂に聞いてきたのだろう? その私に頭を下げて頼みたい程望まれているのかね? ――武器をマジックアイテム化して欲しいのならば、それを使う者がここへ来い。来て、私に現状を話せ。話を聞いて、必要だと私が感じたら計画を正式に開始する。しかし、不要と感じたらこの話はなかったことにさせてもらう。計画をどうするかも含め、この先のことは実際に連中と戦ったことのある者に聞いてから決める。わかったら、君はとっとと王都へ帰れ‥‥宿だと? 寝袋くらい持って来ているだろう。悪いが他人を泊めてやるスペースはないし、食わせる飯はない」
話はそれで終りだ、と言い置いて目の前でドアが閉められた。アータルがひらひらと手を振るのを眺めつつ、彼は途方に暮れて暫くその場に突っ立っていた。しかし、どこからか獣の低い呻き声が聞こえてくると慌てて馬に跨り森から逃げ出した。向かう先は当然、王都の冒険者ギルドだ。
ゴーレム武器向上計画――この計画が進展するか頓挫するか。それらは全て、冒険者の手に委ねられることとなった。
●リプレイ本文
●森の奥の名工
王都から二日をかけてやって来た森は人気が無くて、時折ばさばさと音を立てて鳥が飛び立っていく姿だけが目に付く。耳に聞こえるのは何れかの獣の遠吠えのようなもの。そこはまるで、御伽噺に出て来る魔女の住む森そのものだった。
「君達が依頼を受けた冒険者か」
呼び鈴を鳴らした彼らを出迎えたブリジットは、煙管を口から離さずに来訪者達を順に眺め、その中に空戦騎士団長の姿を見つけて瞬きをした。
「‥‥ウィルの空戦騎士団長殿ともあろう者が、どこの馬の骨とも知れない私に頭を下げるのか」
「いいえ。名工ブリジットに頭を下げてお願いするのです。『どうかよろしくお願いします』現状はかなり差し迫っていると認識しております」
シャルロット・プラン(eb4219)が頭を下げて、彼女に倣って仲間達も頭を下げた。ブリジットは冒険者達の様子を見、ふんと鼻を鳴らした。
「いいだろう‥‥中に入れ。立って話すには長くなりそうだ‥‥ああ、茶は出さないからそのつもりで。フィル、案内してやれ」
「はーい♪」
それだけ言い残してブリジットはさっさと家の中に戻った。フィルと呼ばれたアータルにおいでおいでと手招きされて、冒険者達は顔を見合わせると開けっ放しの玄関を潜った。
●工房より期待を込めて
応接室と呼ぶにはお粗末な部屋の大きくはないテーブルを、五人は囲んで向かい合っていた。それぞれ座る椅子はばらばらで客が来ることを想定して揃えられたものでないことを暗に語っている。
「まずは、工房を代表して私からお話させてもらうわね」
本当にお茶も飲み物も出されない状況で、一番に手を上げたのはミーティア・サラト(ec5004)だった。
「初めまして、ブリジット師。此度、私はウィルのゴーレム工房のゴーレムニスト兼鍛冶師として参りました」
工房の、という台詞にブリジットの眉がぴくりと上がる。ミーティアは焦らず、しかし速やかに言葉を付け足した。
「‥‥勿論ご要望通り、現場も見ておりますからご安心下さいね」
「ふん‥‥続けろ」
はい、とミーティアは人当たりのいい笑顔で頷いた。
「工房に所属して日は浅いのですけれど。私は、カオスとの戦いでゴーレムが用いられた地獄まで、きちんと動くよう整備に行って参りました。鎧騎士様のように直接刃を交えてはいませんけれど、私達鍛冶師にとってはあの臨時作業場が戦場だったと思いますわね」
目を閉じて、ミーティアは自分が参加した戦いの様子を思い出した。前線とは異なる、しかし前線とはまた違った激しい戦いの場でのことを。
「地獄では、圧倒的多数の敵の出迎えを受けました。そんな中にあって、一振りで多数を薙ぎ払い、巨大な敵とも互角に渡り合えるゴーレムの力は貴重なものでした」
激しい戦いの中で傷つき破損するものは少なくなく、ミーティア達は一時帰還したゴーレムを再び戦えるようにする為に忙しく働き続けた。
「出来るだけ早く戦闘へ復帰させるよう、時間と戦いながら何騎ものゴーレムを調整や応急修理した時、他の戦いでは殆ど無い拳の破損の多さに気付きました」
「魔力付与が途切れた為に素手で戦わざるを得なかったため、ですな」
セオドラフ・ラングルス(eb4139)が言うと、ミーティアは肯定の意味で頷いた。
「通常武器の効かぬ魔物に対し、ゴーレムではご存知のように味方に魔力付与してもらわなければ武器を使う事もできません。かつ、持続時間が切れても戦場ではおいそれと魔術をかけなおしてもらう事も出来ず」
都合よく魔力付与出来る仲間がいるとは限らない。混戦の中では、一旦後方に下がることさえ難しい場合もある。
「正直に申し上げれば、効かない武器を下げたゴーレムの巨体は、戦場ではむしろ味方の邪魔だったかもしれませんな」
鎧騎士であるセオドラフの口から話されたためか、その台詞は一層皮肉なものに聞こえた。
「ゴーレムは騎士様が身に付けた技をそのまま発揮出来ますが、騎士様が常は振るわぬ拳や蹴りで戦う為には作っておりません。ですから魔法武器‥‥願わくば騎士様が得意とされる槍や剣があれば、カオスとの戦いで騎士様とゴーレムと魔法武器の全てが十全に力を発揮出来るでしょう」
どうか、とミーティアはブリジットを見つめた。成果を期待しつつ見送ってくれたギエーリ達の顔を思い浮かべながら。
「どうかブリジット師、工房に力を貸して、私達にもその技を伝授下さいまし」
「‥‥」
黙ってミーティアの話を聞いていたブリジットは、ふっと煙を吐き出すと口を開いた。
「成程。確かに、ただの木偶の坊になれば白兵の邪魔になるだろうな。鎧騎士が素で戦闘を得手としているわけではないことも理解出来る」
「はい」
「しかし、ゴーレム自体は一種のマジックアイテムだ。鎧騎士が格闘の術を会得すれば素手でもある程度戦えるのではないかと思うが‥‥そもそも、ゴーレム自体を改良する必要も出て来るだろうしな。拳で攻撃することは可能だが、それによって不要な破損が増えるのは好ましくない」
わかっているなら初めからそう言えばいいのに‥‥という視線に気付いて、ブリジットは片眉を上げた。
「私が偏屈な人間だと言うことは聞いて来たのだろう?」
「確かに」と答えるしかなかった。
●鎧騎士から切実を込めて
二日目。この日ブリジットに現状を語ったのは加藤瑠璃(eb4288)だった。
「何回か、地獄でドラグーンを使ったんだけど、やっぱり武器が使えないと難しいわ」
ただでさえ空を飛べる冒険者は少ない。逆にカオスの魔物達は翼を持つ者が多く、自在に空を飛べる。空中においては、カオスの魔物の戦力の方が味方よりも確実に多いのだ、と彼女は語る。そんな空中の敵と戦うのには、飛行出来て絶大な攻撃力も持つドラグーンは、数こそ少ないものの大きな戦力である。
「でも、たとえドラグーンでも、武器無しじゃ威力も攻撃の届く間合いも限られてしまうわ」
ゴーレムよりも短い稼働時間の中で上空の敵から味方を守りたいのに、その肝心の手段がない。ゴーレムと同じく、ドラグーンもまた相応の武器が無ければ期待されるだけの働きをすることは難しい。
「私だけじゃなく、下でゴーレムを使って戦ってた仲間も苦労していたわ」
地獄で瑠璃達が見たのは、首が何又にも分かれた竜や、二つ首の火吹竜。そして、それらを束ねる地獄の侯爵アロセールに、血と殺戮の猛将モレクといった将軍達。何れも、その巨体はゴーレムやドラグーンとさえ互角に、ものによってはゴーレムよりも巨大ですらある。
「そんな奴らを相手に素手じゃ分が悪すぎる。かといって武器に魔力を付与して出撃し、持続時間が切れた後に戻って付与してもらう、じゃ稼働時間の半分も実力が発揮出来ないの」
それは、「むしろ味方の邪魔だったかもしれない」というセオドラフの言葉と似たようなものだ。要するに、実力が発揮出来ないということはそういうことなのである。
「因みに、武器と言っても色々あるがどの武器がいいのだね?」
「私としては槍とかハルバードとか、長さが長い方がいいわね」
射程と攻撃範囲、そして一度に攻撃出来る敵の数を考えて瑠璃は答えた。澱みなくすらすらと出て来るのは、ここに来るまでに自分の考えを纏めて来たから。どうしても魔法の武器は必要だから、絶対に協力を得たい。苦労したからこそ抱く思いだった。
この言葉達が、ブリジットの心に一つでも多く届けばいい――無愛想な相手を真っ直ぐに見ながらそう思った。
●最後に提案を込めて
説得に当たって三日目。帰りのことを考えると、実質今日が最終日。
いかに魔力付与武器が必要かは既に語られているので、セオドラフは別の見解を口にしていた。
「わたくし自身は少数のゴーレム用魔法の武器を揃えるよりも、魔力武器化のレミエラを多数用意し、ゴーレムの武器に付与しておく事の方が優先度は高いと感じております」
「ふむ‥‥成程、レミエラか」
比較的安価で大量生産することも可能なレミエラは、マジックアイテムよりもかかる費用は少ないのではないか。地獄への門が開いて以降、カオスの魔物と見える機会はぐんと増加した。物量に物を言わせるようになったカオスに対するには、こちらも数を揃える必要がある――セオドラフは力説する。
「いかにゴーレムが魔剣を持とうと、一本や二本では戦線を支える事など出来ませぬ。かわって、魔力武器化のレミエラでしたら、ゴーレムサイズの魔法の武器に比べれば安価・大量に作ることが出来ましょうからな」
「悪くない案だが、問題が数点ある」
問題、とセオドラフは首を傾げた。
「安価で大量に用意出来るというのは、確かにレミエラの利点だ。だが、それは大量にそのレミエラを――この場合は魔力付与のレミエラになるが、それを製作出来る環境が整っていればという話だ。流通経路が限られるならば、国家事業に使うには支障が出る可能性がある」
「流通経路‥・・ですか」
「それが確立していなければ、需要に応える事は難しいだろうな。壊れることも考えなければならんし、魔力付与の程度によっては費用がかさむこともあり得る」
一考の余地はあるが、マジックアイテムよりもレミエラを、とまではいかないだろう。
「程度‥‥幸か不幸か、実はわたくしは未だ『並みの魔剣すら効かない黒い靄状態』のカオスの魔物を目撃しておりません」
その『効かない』の程度も、それ故に聞きかじったものしか知らなかった。
「そうすると、『黒い靄状態』の魔物と戦った事のある方々は、また違った感想をお持ちなのかもしれませんな」
話に区切りを付けて、セオドラフは仲間の顔を見た。
「【黒霧】――これは、実際に戦った私がお話しましょう」
シャルロットが 流れを受けて立ち上がった。そして持参した愛用のグライダーランスを取り出してテーブルの上に置いた。
「私はこのランスを用いて、「転移門での戦い」に参加しました。無論、相手はカオスの魔物ですから対抗するこのランスには魔力が篭もっています」
グライダーを駆り、彼女は魔物と対峙した。彼女の繰り出した攻撃は一度は敵の体を貫くことに成功した。だが――
「止めをと、再度貫こうとしたのですが効かなかったのです。【黒霧】に包まれた魔物の体は、二度目以降私の攻撃の一切を無効化しました」
そして、それと同様の現象が地獄で起きていた。いや、状況はあの戦いよりも悪いと言えるかもしれない。手持ちの武器では通用しない、そんな相手が次々と現れているのだ。
「今最も手を焼いているのが【黒霧】状の防御力上昇と、同一武器無効化その二つなのです。騎乗ならば持ち替えれば何とかなりますが、ゴーレムでは‥‥」
「予備武器に持ち替えることも叶わないと」
「剣がないならと拳を振るい倒す。その結果は、サラトさんや瑠璃さんの報告の通りです。必要なのはその対策と威力を兼ね備えた武器となります」
それから、とシャルロットは懐から文を取り出した。
「どうしても外せない用件があり直接願うことは出来ないが、せめて文をと言う者より、言葉を預かって参りました。目を通して頂ければと思います」
そこに書かれていたのは、過去に魔物と戦った時の苦い経験談。
「キャペルス二騎をもってしても、か」
「どうか、ご協力を」
初日と同様に、シャルロットは深く頭を下げて頼んだ。エリーシャからの嘆願書を見ていたブリジットは、大きく息を吐くと文を持って立ち上がった。
「君達の経験談、その身から出る言葉の数々は真摯なものだということは理解した。よくよく検討した上で返事をする」
今日はここまで。そう言ってブリジットは奥の部屋へと引っ込んだ。
●ブリジットの結論
翌日。早朝からフィルに叩き起こされて玄関へ赴いた冒険者達に、朝から煙管を咥えたブリジットが一枚の封筒を差し出した。
「工房への返事だ。そうだな‥・・サラト、君に預けよう」
工房に属する人間に任せれば間違いないだろう、と言ってブリジットはミーティアにその手紙を渡した。
「ブリジット師、これにはお返事が書かれているのですね」
「そうだと言っただろう」
「わたくし達には教えていただけないのですかな」
「今知らずとも、いずれ知れることだ」
四人の沈黙から不服を感じ取って、ブリジットは眉を寄せた。
「せっかちな連中だな。いずれ知れることだと言っているだろう。君達冒険者の力を借りる機会は計画の進展の中でまたあるだろうから、その報せが行くまで待っていろ‥‥これで理解出来んならば、後は工房にでも行って聞け。私は知らん」
つまらなそうな顔でブリジットは言った。その言葉の意味するところがわからないほど冒険者達は愚かではない。
「協力して頂けるのですね!」
「わかったらとっとと王都へ帰れ。フィル、客人のお帰りだ」
素直に「引き受けた」と言えばいいのに、何故にこんなに回りくどい言い方なのだろうか‥‥最後までにこりともしないブリジットに、ついつい呆れてしまうのは無理もないことだろう。
「あ‥‥もう一つ提案が」
テントを片付けようとしたシャルロットは、家に入ろうとしていたブリジットを呼び止めた。
「会って頂きたい方ががいるのですが」
地獄門でケルベロスに捕らえられていた天使。今は救助されてセレにいるその人に会ってくれないかと言ったシャルロットに、ブリジットは一番のしかめっ面を向けた。
「それはセレの内部情報ではないのかね? 同じウィルの中とはいえ、分国間関係には外交がつき物だ。特に、セレのゴーレム工房はお国柄もあって独自技術の秘密保持に細心の注意を払っているところだ。部外者の私が呼ばれもせずに勝手に会いに行くのは先方に無礼だろうし、いい顔もされないだろう」
「ですが、」
「特に新型開発にかかわることとなれば、ウィル工房側も他所の工房の関係者には入られたくないだろう。セレであれば尚更だ」
共有出来るものは共有すべきだが、そうでないものもある。
「そういうことだ。私が手を貸す必要もないだろう」
ブリジットは今度こそ家の中へと戻って行った。事態が何かしら動けばとの思いからだったが、どちらにとっても良い話とはいかなかったようだ。
だがまあとりあえず、計画の第一の壁は越えられた。工房への朗報をしっかりと仕舞い込んで、冒険者達は揚々と王都への帰路に着いたのだった。