ゴーレム武器向上計画2

■シリーズシナリオ


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月21日

リプレイ公開日:2009年03月23日

●オープニング

 王都ウィルのゴーレム工房から、一台の馬車が出て行った。
 布と紐でしっかりと包まれた荷物は、小さなもので二メートル、大きなもので三メートルはある。それが合計四つ積み込まれている。
 積まれている荷は、剣が二本、長柄斧と槍を一本ずつの計四本の武器。鉄とブランの合金製で、全てゴーレム用のものである。これらを乗せて馬車が向うのは、王都より二日程走った先にある深い森の奥。火のウィザードにして一流の鍛冶師、そしてゴーレム武器のマジックアイテム化を目指す『ゴーレム武器向上計画』の最重要人物たるブリジット・ダグの工房である。
 マジックアイテムを作るには、それ専用の設備が必要となるらしい。本当はゼロから自分の工房で作るのが望ましいが、モノがモノだけに流石にそれは難しい。相談の結果、仕上げの課程のみブリジットの工房で行うことで両者は合意した。

 そんなわけで、武器達は工房の面々のお見送りを受けて一路ブリジットの工房へ向う。さて、どんな姿に生まれ変わるやら――そんな期待と不安を抱かれながら。



 ところがその四日後、工房へ思わぬシフール便が届けられる。差出人は件のウィザードにして鍛冶師・ブリジット。その内容に目を通して、彼らは驚いた。
 予定の期日を過ぎても荷が来ない、というのである。御者はブリジットの工房を知っている人間に任せたので、迷ったということは考えにくい。ぶっきらぼうな文面から、ブリジットがこの不誠実について憤りを感じているように思えてしまう。
 一体どうしたのだろうと青くなりつつ慌てる彼らの元へ、別のシフール便が届けられた。こちらの差出人は、例の御者。相当焦って書いたのだろう汚い手紙には、馬車が土砂崩れに巻き込まれたこと、幸い人命は失われなかったが、馬も荷も全て分厚く積もった土砂に埋もれてしまって掘り出せないこと。そして、大至急掘り出すための人手が欲しい旨が記されていた。

 工房は慌てて冒険者ギルドへ依頼を出した。依頼の内容は、土砂の下から武器を掘り出してブリジットの工房へ急いで届けること。土砂除去に必要であれば、バガンを貸し出すこと。
 それと、可能な限り復旧を手伝って欲しいことを付け足した。件の場所は旅人の往来の多い場所。ブリジットの森へは迂回して行けるが、道が塞がることで旅人は大きな足止めを食っているだろうから。



 ――しかし、と依頼を出しに行った者は首を傾げた。
「雨が続いていたわけでもないのに、何で土砂崩れが起きたんだろう? 地盤が弱いわけでもないし、あそこでこんな災害滅多に起こらないのに」
 問いには、ギルドの受付係も首を傾げるしかなかった。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4578 越野 春陽(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●現場到着
 事故現場は、山の側を通る道の一つだった。上空から見ると、確かに二十メートルほどに渡って緑が消え、土が地肌をのぞかせているのがわかる。
「襲われた様子も無く奪うなら荷を埋める必要は無い」
 サイレントグライダーで上空を旋回しながら、シャルロット・プラン(eb4219)は眼下の様子に目を細めた。
「別件かとは思うが‥‥」
 何か気になることでもあるのかそう呟いて、しかし断定は出来ないと頷いた。仲間達も思うところがあるかもしれないし、作業をしながら話し合うのもいいだろう。
 場所を確認して、シャルロットは馬車の止めてある方へと降下した。
「どうでしたか?」
 降りたところで越野春陽(eb4578)に尋ねられ、依頼書の通りだったと告げる。一通り報告を聞くと、春陽は作業工程を考え始めた。ゴーレムを用いての土木工事に熱心な彼女は、つい最近も別の土砂崩れの復旧作業に参加したらしい。そこで得たノウハウを活かしてプランを立てると、早速作業従事者と相談を始めた。
「ゴーレムが出てくれるとはありがたい」
 そう口にしたのはこの地の領主に仕える役人だ。冒険者達が到着するまでは役人の指示の元全て手作業で、いつ終わるやらとうんざりしていたのだそうだ。
「こちらはお任せしてよろしいかな?」
「ええ。お役人さんは旅人の整理をお願いね」
 ミーティア・サラト(ec5004)が言い、役人は頷くとばたばたと走って行った。これから彼は、旅人への事情説明やら交通整理やらを行わなければならないのだ。色々な意味で、助っ人の訪れは感謝されていた。
「さて、それではわたくし達も始めましょうか」
「ゴーレムはいつでも動かせますよ」
 セオドラフ・ラングルス(eb4139)とカルナック・イクス(ea0144)が呼びかけると、セオドラフと春陽が早速バガンに乗り込んだ。



●作業開始
「土木作業にはバガンよりデクの方が向いている筈ですが‥‥無いなら仕方ありませぬな」
 ゴーレム用のシャベルを使って土砂を取り除きながら、セオドラフは一人呟いた。不器用なバガンで最後まで作業を行うのは、荷を傷つける危険性が高い。まあ、借りられない物は仕方がない。
 動いているバガンの一騎にはセオドラフが乗っていたが、もう一騎には遅れて到着したエリーシャ・メロウ(eb4333)が乗っていた。彼女は愛騎のセラを駆ってブリジットの工房へ向かい、その後に現場へ合流した。納期遅れへの謝罪、及び事情が記されたシャルロットの文を届けることが目的で、ついでに前回文のみだったことへの謝罪も済ませてきたのだとか。責任感の強い彼女らしいことである。
 御者に尋ね、まずは荷が埋まっていると思われる場所から取り掛かっていた。後に二手に分かれることを考えると、先に武器を掘り出してしまいたい。
 二次災害に気をつけつつかなり大胆に掘り進めていたのだが、なかなか荷は姿を見せない。かなりの量が崩れ落ちたのだ、無理もない。稼働時間の限界まで作業をして、シャルロットと春陽に交代した。ゴーレム作業中は邪魔にならないよう、生身の人達は別な場所で除去作業をしたり、あるいは土を布に詰めて土嚢を製作したりしている。
 力仕事に向かないミーティアは、お湯を沸かしたり汗拭き用の布を用意したりといった雑務を行う。カルナックと共に、周囲に怪しい物がいないかどうか注意するのも忘れない。事故にしては不審な今回だ、夜間警備に備え、カルナックは埴輪のスルタンも連れて来ていた。
「マジックアイテム化する工程は見せてもらえるのでしょうか」
「師のお許しがあれば、見学か手伝いをさせていただきたいわね」
 もっとも、時間があればの話だ。
「私が作成に携わった武器も入っているかしらね?」
「今回の武器は剣と槍でしたが、弓もマジックアイテムに出来るのでしょうか?」
「どうかしらね‥‥提案してみるといいかもしれないわね」
 希望があるならば、言うだけ言ってみた方がいいだろう。ただ、全てが採用されるとは限らないのだが。


 大分土砂を掘り返した所で漸く、シャルロットが布のような物を土の中に見つけた。バガンを降りて、ここからは手作業。持参したドワーフのつるはし等を使い、慎重に少しずつ掘り出した。
 掘り出された武器は布に包まれていたためか、思ったよりもずっと綺麗な状態だった。ミーティアが一つ一つ歪みや破損がないかを確認し、大きくは問題なしと判断した。
「少し土が入って汚れているわね。その分は、道中で拭きながらかしらね」
「拭くのであればお手伝い出来ます」
「そうね、お願いするわね。二人でやれば早く終わるわね」
 簡単に布に包んで荷台に積み込むと、ミーティアとシャルロットも乗り込んだ。借りたグライダーで運ぶという案もあったのだが、近くに降りる場所がない場合を考慮して馬車での運搬ということにした。御者は行きと同じくカルナックが務め、ゴーレムを動かせる三人は残って作業を続けるという分担だ。
「では、行って来ますね」
「道中、くれぐれもお気をつけて」
 この災害が作為によるならば、何者かが妨害を仕掛けてくる可能性は大いにある。現時点では姿を見せないが、注意してしすぎるに越したことはないだろう。



●ブリジットの工房へ
 拍子抜けする話だが、事故現場からブリジットの工房までの道は順調そのものだった。警戒しながら進んだのだが、何者かが襲ってくる気配はなかった。
「ただの事故だったのかしらね?」
「どうでしょうね‥‥何とも言えないですが」
「土砂崩れを起こしたことで妨害はうまくいったと思い込み、立ち去ったと言う可能性もあり得なくないですが‥‥詰めが甘いですね」
 それで満足し、掘り返すことを考えない程知能の低い物の仕業だったのか――それとも、下っ端が『埋めろ』とだけ命令されてそれ以上の事にまで気が回らなかったのか。


 到着した三人は、玄関先で煙管を加えた仏頂面のブリジットの出迎えを受けた。挨拶を交わし――初対面のカルナックは特にしっかりと挨拶をすると、シャルロットがまずは謝罪を述べた。
「荷が遅れまして、申し訳ありませんでした」
「メロウから話は聞いた。もう一日二日かかるかと思っていたが、早かったな」
 実は復旧作業はまだ途中で、半数は残って作業中であると伝えると、ブリジットはほんの僅かに眉を上げた。
「復旧を後回しにしたわけではない、というわけか」
「通れずに困るのは工房の馬車だけではありませんから」
「‥‥ふん?」
 ブリジットはじろりと三人を眺めると、くるりと方向転換。玄関のドアを開けて三人に言う。
「立ち話もなんだ、入れ。茶くらいは出してやる」
 その台詞に、おやと思って三人は顔を見合わせた。前回は茶は出さないと言い、最後まで本当にお茶の一杯も出されなかったのだが。
「少しは信用が上がった、と言うことでしょうか」
 荷を出来るだけ早く届けることが最優先。しかし、もしも復旧作業を半ばで放り出していたならば――。事前に連絡を寄越したのも大きかった。文でだけではなく直接訪れたことが、ブリジットの中の冒険者達への評価を大きく上げた――のだが、冒険者達はそれを知らない。



●土砂崩れ、その裏
 荷物を掘り出した後の土砂撤去作業は早かった。傷つけないようにと気を使う必要も無くなり、シャベルを入れるのもずっと楽だった。掘り出した土は袋に詰め、防止用の土嚢として崩れた山肌へ積み上げる。これには多少慎重を要したが、問題なく終了した。


 あらかたの作業が終わった頃、丁度良くブリジットの工房へ向かった面々が帰って来た。荷台の荷物は消えていて、代わりにブリジットがアータルのフィルを連れて姿を見せた。
「‥‥大分片付いたようだな」
「これは、ブリジット殿」
 作業中だったエリーシャが先に気付き、つられるようにしてセオドラフと春陽も手を止めた。面識のある二人が挨拶を交わし、初対面の春陽は失礼にならないようにと丁寧に自らの名を名乗った。
「この度はご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませぬ」
「確かに、いい迷惑だった」
 挨拶を終えてまず謝罪をしたセオドラフに、ブリジットは相変わらずの辛らつな言い方で応えた。
「今回は、事情が事情でしたので――」
「理解している。私が言った『迷惑』というのは、君達の事ではない」
「‥‥我々でない、ということは」
 ブリジットは積み上げられた土嚢を見上げ、そしてつまらなそうに鼻を鳴らした。
「計画が奴らにとって愉快なことでないのは確かだ。知れば、当然妨害してくるだろう。つまり、起こるべくして起こった事故ということだ。どこから嗅ぎ付けて来たのか知らんが‥‥目敏いことだ。連中、どんな情報網を持っているのか」
 その口ぶりに、エリーシャ達は顔を見合わせた。やはり、ブリジットもカオスの魔物の関与を疑っているようだ。
「今後も妨害の入る可能性がある。君達の出番は増えそうだ」
「心得ておきます」
「ブリジット殿、態々ご忠告を下さるためにお出でになったのですか?」
 ブリジットは眉を寄せ、「そんなわけがないだろう」と言うとセオドラフの方を見た。
「ラングルス、君に朗報だ」
「何でしょうか?」
「レミエラの件についてだ。入手経路の目処が付いたらしい」
「おお! それは良い報せですな」
「まだ問題は残っているそうだが、前向きに進行中である‥‥と、昨日王都から届いた文に書いてあった。提案者は君だ、早くに知る権利はある」
 どうやら、彼女はそれを伝えるためにやって来たらしい。礼を述べると、ブリジットは愛想の欠片もないまま冒険者達に背を向けた。
「私の用件はそれだけだ。ではな」
「お送りしましょうか? ブリジット師」
「いらん」
 ミーティアの気遣いに素っ気無く返すと、ブリジットは自前の馬に跨ってさっさと帰って行った。
「‥‥手紙でも、良かったんじゃないかな?」
 見送りながらカルナックが言い、確かにと冒険者達は苦笑を浮かべた。