城砦を修復せよ1

■シリーズシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:15人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月28日〜02月04日

リプレイ公開日:2006年02月04日

●オープニング

 トルク領の南、イムン領との境に近い地帯。南側はイムン分国領まで1キロほど。開けた平原の先にはイムン独特の木々の密集した森が視界を遮る。トルク領最南端の荒れた城砦。功績によりここの領地を与えられた領主は、数十年前に放棄された城砦を再建することを考えた。遮蔽物のない平原なのは、ここを舞台にして過去幾多の戦いになった土地であるためだ。もう少し北に向かえば、幾つかの村と森もある。
「放棄されたのは、イムン分国との関係が良くなったからと聞いているが、どうだかな。城砦を放棄するにはそれなりの理由があるはずだ。今回俺をここに送ったのは、イムンが信じられないからだろう」
 傭兵より身を起こしてこの地を領有することになったロッド・グロウリングは、南のイムンに目を向ける。この領地を単純に褒美とは思っていなかった。イムンがどのように動くか。それを予想できるものはいない。あまりに表に出てこないからだ。視界を遮る森林以上に相手が見えない。
「さてとどうしたものか。さすがの俺も築城の知識は乏しい。ここは一つ、天界人とやらの知識を生かす場として利用させてもらうとしようか」
 ロッド・グロウリングの名で冒険者ギルドに依頼が出された。築城知識、戦闘経験豊富な者を求む。

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1984 長渡 泰斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8600 カルヴァン・マーベリック(38歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8928 マリーナ・アルミランテ(26歳・♀・クレリック・エルフ・イスパニア王国)
 eb0988 ナーシェ・ルベド(36歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb1384 マレス・イースディン(25歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb1811 レイエス・サーク(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb4179 篠原 美加(29歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4307 レニエ・ビースレイ(30歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4340 サトル・アルバ(39歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●サポート参加者

リア・アースグリム(ea3062

●リプレイ本文

●ロッド・グロウリングとの会見
 ランディ・マクファーレン(ea1702)が冒険者ギルドを通じて、依頼主であるロッド・グロウリングと参加者の面通しが首都ウィルにおいて行われた。ロッド・グロウリング自身は、現地にはいけない。そこで代わりに領民を指揮する者を派遣するが、砦の調査その後の修復となると、信頼できる冒険者でなければならないことは承知している。あえて弱点を作って敵に内通されるようでは困る。傭兵から成り上がった男だけにそのあたりは十分に考える。そして人物眼もかなり高いという噂がある。トルク分国王の臣下ということで冒険者ギルドにもかなり関わっていることだろう。つまり今後とも関係していく人物の一人ということになる。
 ロッド・グロウリングも首都ウィルに屋敷と言えるほどの物を持っている。新参者らしくてはまだまだ入っていない。屋敷そのものは、おそらく前の持ち主が半ば強制的に手放したものだと思われる。
「きっとエーガン王の犠牲者だ」
 レニエ・ビースレイ(eb4307)はアトランティス出身の鎧騎士だけに、レズナー王時代もその後のエーガン王時代も知っている。その状況もジ・アースや地球から来た者たちよりも詳しい。その変化も見てきた。
「そういえば、ロッド・グロウリングって名前を聞いたことがある」
 好奇心旺盛なサトル・アルバ(eb4340)は、どこかでその名前に聞き覚えがあった。
「どこで?」
 マリーナ・アルミランテ(ea8928)が尋ねる。事前の情報をもらっておいた方がいい。クレリックであるマリーナには、ジーザス教の布教も視野にいれていた。できるなら今度の城砦には、ミサを行う教会を内部に作ることを考えていた。これはアトランティスに来たクレリック共通使命のようなものだ。神聖魔法の効果が確実になるように、タロン神の力がアトランティスに届きやすいように、布教を広めなければならない。そのように、ウィルの教会では解釈されている。実際のどの程度差が出ているかは、個人差、状況差のために確定的な情報はない。今まで布教されていない地域での活動経験のあるものがいないため、効果に差があるのかすらよく分かっていない。しかし教会の運営資金を増やすためにも布教活動は必要だ。
「それがあまり良く覚えていないんだ」
 サトルは笑顔で答えた。パラの基本的な性格ではしかたあるまい。どうやら種族ごとの性格は、ジ・アースもアトランティスも変わらないようだ。
「諸君が城砦の修復に手を貸してくれる冒険者か。気楽にしてくれ。傭兵からの成り上がりだ。他の貴族出自の連中とは違って形式的な礼儀作法には煩くない」
 ロッド・グロウリングが姿を現した。
「お初にお目に掛かる、ロッド卿。俺は陸奥勇人(ea3329)、ジ・アースはジャパンという国の出身だ。こちらの礼儀にはまだ不慣れ故の無作法もあるかと思うが、まずはよろしく頼む」
 勇人が最初に答えた。
「私はトルク分国王の役目があるため砦までは同行できないが、よろしくたのむ。特に天界から来られた方々にはアトランティスにない築城の秘術もお知りと思う。期待させてもらう」
 ロッド・グロウリングは、そのまま言葉を続けた。
「期待するのは勝手だが、その前に幾つか質問させてもらいたい」
 ランディがロッド・グロウリングに質問しようとしたが、それを遮った者がいた。
「依頼人の依頼主の経済規模が解らないと計画倒れになるし、ゴーレムグライダーなどが普及すれば、地上の砦は」
「もう終わりになるか。そう簡単に終わりにされては困るが。鎧騎士もいることであるし、鎧騎士の意見を聞いてみたい。私もトルク分国の臣下の一人として多少なりともゴーレムの関する知識はある。オーブル殿との交流もないわけではないしな」
 鎧騎士たちは当然知っているが、オーブル殿とはトルク分国のゴーレム工房長オーブル・プロフィットのことだ。
 この場には3人の鎧騎士がいた。サトル、レニエ、キース・ファラン(eb4324)の3人だ。さらに地球人の篠原美加(eb4179)もゴーレム操縦の技能を持っていた。
「ゴーレムだけで戦争はできない。ゴーレムの稼働時間的に戦場全体に影響を及ぼすには、ゴーレムが主戦力になるまで無理だ。扱う鎧騎士の人数的には、簡単には増えないだろう。さて、天界から来た方もいるのでアトランティス、正確にはウィルの戦の作法を教えておこう」
 セトタ大陸でもウィルが比較的後からできた国である。そのため、ことさら騎士道を重要視してきた。
「騎士道を尊ぶゆえに、敵味方双方とも戦いの条件を戦う前に決める。時間や人数まで」
「つまり、騎士道を尊ぶならゴーレムを戦場に出さないと事前にきめれば?」
「そうなる。もっとも、そんな騎士道を尊ぶ戦いがあの城砦で起こるとは思っていない」
 相手がイムン分国の軍勢ならゴーレムを使う前に、奇襲なり、夜襲なりを仕掛けてくるだろう。
「つまり、騎士道による戦いではないという前提でいいわけですね」
 美加は日本語でメモを取っていた。多分、誰にも読めないはずだ。
「依頼内容以上のことは現地で実際に調べてもらうしかない。そのどうな攻め方をするか。それに対抗するにはどのような城砦がいいか。ただし、この城砦はイムンの軍勢をここで追い返すか、せめて足留めするということで考えて欲しい。撃退できるのが望ましいが、そうでないから首都なり、付近の味方が駆けつけられるまでもたせられるような」
「つまり防御を主体とした城砦を考えていいのだな」
 円巴(ea3738)は要約してみせる。
「その通りだ」
「そろそろ質問させてもらってもいいか。領内の調査するに当たっての行動について、周辺地図作成、領民との接触・交渉、領民への調査の協力依頼等の許可を請う。また、修復工事の資金について。卿の資産状況、王国からの支援は見込めるか、お聞かせ願いたい。懐事情について突っ込んだ事を訊ねるのも少々不躾ながらとは思うが、重要な事なので」
 ランディがようやく質問の機会を捕らえた。財産状態は誰もが思うことだった。
「もちろん調査については全面的に協力させよう。ただし、領民の生活を阻害しない範囲においてだが。労働力としてはあの砦の付近に幾つかの村があって、今は私の領地になっている。そのため、そこの村人を労役として一定期日働かせることができる。農業に忙しくない時期なら動員できる時間も長くなる」
 あの付近の村は、労働地代を課しているということだろう。貨幣経済が浸透していなくてや物資の流通も少ないのだろう。多分現地では貨幣で購入できる物はあまりないだろう。その前に店がない。全員食料は十分に持っていく。
「材料の木材は付近の森林で入手可能。石材も付近で調達できればいいが、そうでない場合は、用意させよう」
「領民はただ働きか?」
 長渡泰斗(ea1984)は、こちらの制度がジ・アースよりも厳しいことに気付いた。首都ウィルではもっと自由かと思ったが。
「領民は領主の所有物だ。どう使おうと領主次第。もっとも、悪政を敷けば領民は逃げ出す。かと言って、甘やかせば、働かなくなる。加減が難しい」
「優れた財務官が居れば不要な出費も抑えられて必要な所に注込めるから結果として領地経営がうんと楽になる」
 泰斗は半分、感覚の違いを感じながらも提案してみた。
 領地経営について騎士学校で学んだはずの鎧騎士3人は、なんとなく頷く。地球人の美加には、土地に価値がありそうに思えたが、ここでは土地だけでなく領民が耕してこそ土地の意味がある。誰も耕さない荒野は売れないのだ。
「というわけで、極端な財政負担にはならないはずだ。ただし領民は、文字を書くことはもちろん、読むこともできないと思って欲しい」
 つまり天界人の言葉はもちろんのこと、セトタ語であっても読むことはできない。
「そのため、領民への指示の段階になったら、言葉で説明しなければならない」
「砦を作るなら地下の抜け道は必須だろ。故郷の仲間を連れて来れるなら、ここいらの人たちをみんな避難させられるくらいの地下都市だって作っちゃうんだけどな。コッチの世界にはドワーフっていないのか?」
 マレス・イースディン(eb1384)の発言には、アトランティス人たちは少々青ざめたような困ったような表情になった。
「なにか変なことでも言ったか?」
 マレスには分からなかったようだが、アトランティスでは地面を深く掘ることは禁忌事項だった。アトランティスの地上の下には、カオス界があると信じられていた。そのため地面を深く掘るとカオスが吹き出してくる。と言い伝えられている。ドワーフのみはその回避できると言われているが、いきなりドワーフからの発言だったため、このドワーフはアトランティスのドワーフのようなカオスを回避して穴をほれる技能はないのかも知れないと思われてしまった。
「抜け道はいらない」
 ロッド・グロウリングは、そう付け加えた。

●砦まで
 ロッド・グロウリングは冒険者のために馬車を用意していた。泰斗は、野暮用を済ませてから最後に合流した。
「フロートシップでも用意してくれてもいいのに」
 サトルは資材輸送用にフロートチャリオットの貸し出しを願い出たが、フロートチャリオットの使用は許可されなかった。ロッド・グロウリングとトルク分国王との関係なら1台くらいなんてこともないはずだと思った。しかし理由はコネがないというものより、フロートチャリオットは地面との反発で浮き上がるため、前に進むには前に倒す必要がある。つまり資材を輸送するには適していないのだ。資材に操縦者がつぶされることになる。
 次々と貴族の領地を過ぎていく。ロッド・グロウリング自身がウィルから動けないため、村を管理する人員を村に派遣する。彼らが城砦までの道案内をしてくれる。
 地球人一人を除けば、馬車の揺れにはかなり慣れている。ジ・アースの馬車よりも程度が低いものの、かなりの速度で進んでもジ・アースからきた冒険者には影響ない。地球人の美加は自分のノーマルホースに乗せてもらって移動している。騎乗スキルを持っていないので馬自体をランディのセリンで引っ張っている。アルカード・ガイスト(ea1135)もルドルフに乗っているものの彼も騎乗スキルを持っていないため、加藤武政(ea0914)の馬に引っ張ってもらっている。
 馬車に乗っているよりは馬に乗っていた方が、振動は少ないだろう。カルヴァン・マーベリック(ea8600)やマリーナは1、2時間すると馬車酔いに似た症状になった。
「ジ・アースの馬車より酷いです」
 ナーシェ・ルベド(eb0988)は平気な顔をしていたが、馬車には改良の余地があると思っている。一般人が馬車で移動することは少ないため、荷物用程度に考えられていた。あるいは戦闘用か。
 朝出発して翌日の夕方遅く城砦に到着した。それでもかなりの強行軍だった。もちろん、ウィルの治安状態を考えた場合、山賊の襲撃やモンスターの攻撃もあり得るため、余力を残しつつの移動だったのだが。
 望月に乗る巴と焔に乗る勇人は万が一に備えていた。山賊やモンスターなら事前に戦いの取り決めなどしない。
 城砦は南門と北門がある。南門は封鎖されたままだ。手直ししなければ開けることはできない。北門から入る。階段で3階まで登るようになっている。そこに広間がある。広場の中央には上に登る見張台と下の建物に入る入り口がある。いずれもまだ調査は行われていない。この広間が当面のベースキャンプになるだろう。
「移動を考えるとこちらの滞在は3日、予定どおり明日の朝から4班に別れて調査を開始する」
 勇人がそう言って、城砦での最初の夜を迎えた。
「放棄された城砦。何が理由で放棄されたか、わからない。夜は交代で見張りを置こう」
 アルカードの提案に異議を唱えるものはいなかった。城砦を放棄するにはそれなりの理由があるはずだ。
「水利が悪いとかが原因ならいいんだがな」
 泰斗は言ってみたが、水が出ないところなら城砦を作ることそのものができないと思い至る。
「村はここより北、南からくる敵をこの城砦に引き寄せるようなものだ」
 城砦を落とせないまでも囲んで無力化しなければ、北へは進めない。
「イムンって分国のこと知っている?」
 勇人はウィル出身の鎧騎士のレニエに聞いてみた。鎧騎士ならウィルの騎士学校を卒業しているはずだ。ウィルの国の各分国には一応のことは知っているだろう。3人のうちレニエに尋ねたのは、パラよりはエルフの方がまじめに学んだような気がするからだ。
「イムンか? 一応は。セトタ大陸の南周り航路を掌握している。大陸の南の海は、かなりの難所を聞く」 つまり海上戦力が強いかも知れないわけか。
「それに南北に長く、森林に覆われている面積が広い。そのため、エルフほどでないにしろ森林戦には強いそうだ」
「この城砦がにらみを効かせれば、イムンの北上を押さえられる。それならなぜ放棄されたんだ?」
 泰斗は頭を抱えた。

●砦の朝
 交代で見張りをしたが、その夜はモンスターのー襲撃はなかった。しかし、全員が奇妙な夢をみた。ただし、夢の内容はまったく覚えて居なかった。
 アルカード、サトル、勇人の3人は1班として、砦の南方面探索に向かった。
 サトルは、南の森林から砦の修復用の木材を切り出せないかと考えていた。
「あの森林の切れ目が分国間の境になるけど、どうせ線が引いているわけではないから」
「平地が広がれば、イムンの軍勢が姿を隠して近づくこともできなくなって一石二鳥か。まずは調査だ」
 勇人は二人を引き連れて森に入っていく。城砦からは森の中は見えないが、森からでは城砦の動きはよく見える。
「ここから城砦までは弓は届きそうに無い」
 森林の中は馬で飛ばすには無理があるが、一定程度の戦力が伏せることは十分にできる。
「城砦から出撃しても、下手にこの森林に入り込めば逆撃をくらうことになりそうだ」
 勇人がつぶやく。
「木々の間がこのような間隔で空いているのは、おそらく誰から間伐材を採取しているからでしょう」
 アルカードは断定した。それがイムンの者か、あるいは北の村の者たちかは不明だが。案外、村の者かも知れない。
「けっこういい木だ。これから十分に城砦の修復に使える」
「夜までは時間がある。森林の地形を調べる」
 目印を付けながら3人は南の森林の奥へと入っていった。

●西方探索
 レイエス・サーク(eb1811)、泰斗、マレスの3人は第2班として砦の西方に向かう。西のはるか先はチの国との境となる山脈が見える。そこから伸びるように森林が広がるが、そのあたりはササン分国との境となる。城砦からはかなり離れているから、そこまで足を伸ばして調査する必要も時間もないだろうが。
「冒険者ギルドできいた話だけど」
 レイエスが話し始めた。
「冒険者ギルドを作るのに力を貸しているトルク分国王だけど、ササン分国とは姻戚関係があるんだって」
 トルク分国王ジーザムの妃つまりトルク分国の分国王妃マーザ・トルクは、ササン分国の分国王であるリーザの妹である。
「とすると、イムンが北に伸びようとした場合に、西よりに伸びるにはササン分国とぶつかるってことか?」
 マレスは猟師技能を持っているので、このあたりに生息する動物の足跡などをしらべながら聞いていた。
「西ならササン分国とぶつかり、ここでは城砦がある。姻戚関係を結んだのはいつだ?」
 そこまではレイエスも聞いてはいない。しかし、今のエーガン王になってからではない。分国王の年齢的にも、エーガン王の政策的にも。
「分国王と分国王の妹が直接婚姻ってこっちではどうなのだろう?」
 あいにく、2班にはウィル出身者はいなかった。
「あの城砦の戦略的な価値が出てくるってことだな」
 陸がだめなら海という手もあるが、海のみで侵攻するのは、まだまだ無理があるように思える。
「船乗りの腕が良くても、それだけでは」
 西は平坦に見えるが、ところどこと高くなったり低くなったりしている。なだらかだからあまり気付かないのだろう。
「城砦の付近だけ森林がないよね」
 レイエスはふと東の方向をふりかえって、城砦の位置を確認する。城砦が見えなくなるまで離れてしまっては、万が一道に迷ってしまうかも知れない。
「確かに無い。荒野に孤立しているように見える」
 泰斗が同意した。
「変ではない?」
「変? どうしてだ。誰かが周囲の木をすべて切ったとでもいうのか?」
「これは俺のカンだが」
 マレスは動物の痕跡を探していて変なことに気付いた。
「あの城砦なにかあるのかも知れない。こんなところだって、もっと大きな動物がいてもいいはずだのに、小動物しかいないようだ」
 何かが警告を発しているように思えてなら無い。
「そろそろ昼か。少し北にいけば村があったはずだ。よってみよう。温かいスープにでもありつければいいが」
 マレスは村に食堂があるものと思い込んでいる。
「あまり期待できそうにないですけど、行ってみましょう。村の状況も把握したいし」
 レイエスも少し寒さを感じていた。泰斗だけしか防寒着を着込んでいない。マレスは大丈夫そうだが、レイエスは見るからに寒そうだ。これだけ南に来てもまだ寒い。

●村
「ここがロッド・グロウリングの所領になっている村の一つか」
 南西を向くと砦が遠くに見える。
「食堂はどこだ?」
 マレスが空腹を抱えて村の中を見回すが、それらしい建物はない。近くにいた村人に聞いてみたが。
「食堂? なんで食堂が必要なんだ」
 村にはおそらく500人ぐらいはいるようだ。鍛冶屋が一つ、パン屋は一つ。パン屋と言ってもパンを売っているわけでなく、村人が持ち込んだ小麦を焼いてパンにするところ。首都ウィルやジ・アースの大きな都市とではまったく違う。
「取り敢えず保存食があるから、ひもじい思いはしなくていいな」
 保存食で昼食を終えると、村の状態を調べる。まずは聞き込み。
「城砦を手直しなさるか」
 こういうのは村でも暇を持て余しているジジイ、もとい、尊敬を集めている古老に聞くのが一番いい。ところが、城砦のことについてははかばかしくない。
「放棄されたのはレズナー王様の時代だった、あるいはその前の王様のかのぉ」
 惚け取るのか、と思ったがそうではないらしい。
「レズナー様の治世は長かったからのぉ」
 イムン分国が臣従する条件の一つとして城砦の放棄があったらしい。
「友好の邪魔になるということか」
 しかし、この地方の村を見る限りでは、交易ルートがここを通っているわけではない。
「村人に知らされていない理由があるのかもしれない」
 この村にはロッド・グロウリングの代官が来て城砦の修復が始まることを布告していた。城砦の修復方法が決まり次第。作業に取りかかるように今から準備をはじめるようだ。
「城砦を修復するにしても、木材はこの村の森を使えるのか?」
 しかし、代官は村に隣接した森を調査して、首を振った。
「この森から木を切り出すと村人が使う木が無くなる。やはり危険だが、南の森から調達するしかないだろう」
 冒険者が周囲を護衛している間に、村人に伐採させて城砦まで運び込むことになるだろう。
「村の方はいいだろう。もっと土地の方を調べよう。おっと、もう日が暗くなるな。今日は城砦に戻ろう」

●東方見聞
 巴、武政、ナーシェの3人は夜明けとともに東に向かった。
 城砦からでは見えないが、このままずっと東に向かえば海に出る。このあたりには目立った港町はない。対岸アプト大陸のランと交易を行うならもっと北の港町を使う。このあたりを使う航路があるとすれば、セトタ大陸の西側のチとの南回りの交易だろうが、それはイムンが一手に扱っているから、イムン分国側に港町を作って一気に北まで船を進ませる。このあたりは交易路でもなく、開発されていない土地なのだ。
「その分だけ、派手に戦ができるのかも知れない」
 武政は遮蔽物のない平地を見渡して、そう思った。
「戦をするには、広い場所が必要ということだな」
 そういう目で見てみると、平和に静まっている平地もイムンの騎士とトルクの騎士が集団で戦った古戦場に思える。
「冒険者ギルドで聞いた話では、ウィルの国の建国は今から120年くらい前のようです。ウィルという一つの国になる前は、覇権をかけてあまたの権力者たちが戦いを繰り広げてきたはずです。きっとあの放棄された城砦も多くの血が染みこんでいることでしょう」
 ナーシェは、記録の手を休めて周囲を見渡す。
「森林が切れているのは、戦いの名残か」
 城砦の東にもいくつかの村がある。そのどの村にもロッド・グロウリングがすでに代官を送り込んでいて、冒険者に協力するように布告が出されていた。もっとも食事を振る舞ってくれる人はいなかったが。
「質素な村だ」
「他の村もそうなのか?」
「でしょう」
 3人とも、早々に村の調査を終えて外に出た。
「夕暮れまでにもっと周囲を調べよう」
 戦場だったのなら、それに応じたモンスターがいても不思議ではない。

●城砦内部調査
 南、東、西の方向の探索隊を送り出した後城砦の内部調査が始まった。城砦という以上は何かの仕掛けがってもいいはずだ。
「この城砦のこと騎士学校で聞いたことないか?」
 カルヴァンは鎧騎士の二人に尋ねた。ウィルはレズナー王時代に騎士の基準を高めるべく首都ウィルに騎士学校を作った。そこから輩出する優秀な騎士が国力を高めた。ということになっているらしい。ならば、騎士学校で国内のことも学ぶ機会はあったはずだ。
「どうだったかな」
 キースはソーラー充電器で充電しおえたバッテリーを携帯電話に取り付けた。
「残念ながら、この城砦については聞いていない。多分騎士学校ができた時にはすでに放棄されていたのだろう」
「今夜、城砦の中で眠れるように探索してしまおう」
 ランディが促す。
「昔からある城砦ならアンデットでもいるかもしれません。注意していきましょう」
 マリーナは神が信仰されていない地であるだけに、警戒していた。それにここで実際にどれだけ神聖魔法が効果を発生させるかも、ある意味冒険感覚。もっとジーザス教が布教で広まっていれば、安心できるのだが。
「準備はいいか。行くぞ」
 ランディを先頭にして、城砦の閉ざされた扉を半ば強引に蹴り飛ばす。キースがランタンを持って続く。
「地下迷宮でも探索するみたいだ」
「まだ地下にはなっていない」
 ジ・アースの冒険者3人は、慣れた感覚に軽口を叩く。
 城砦の中は石で作られた重層なものだった。湿気も適度。乾燥しすぎてもいないし、湿りすぎてもいない。
「人が籠もるには適度だ」
 それは、モンスターにとっても同じことだろう。
「何か聞こえないかな?」
 美加は何か聞こえたような気がしたが、他の5人は何も気付かなかった。
「この階には何もなさそうだ」
 この構造なら下に2階くらいあろうだろう。貯蔵庫用の地下室もあるかも知れない。
「今日は、この下の階まで進もう」
 部屋の数もそれなりに多い。扉はかなり厚い木のため、蝶番がわるくなっていると開けるにも時間がかかる。1階と地下室は明日以降にした方がよさそうだ。
「いや、明日はこの近隣の村に情報を仕入れに行く」
 表に出ていた3つの班も戻ってきた第2夜を向かえる。まだ上の広間にテントを張ったままだ。城砦内部の調査が完了しないうちは、内部で寝泊まりしない方がいいだろう。それに、外部からも何かが侵入しないとも限らない。
 たき火を囲んで互いの情報を交換する。
「城砦の東側はこんな感じでした。」
 と、ナーシェは設計に詳しいマリーナにメモを渡す。そしてマレスと発泡酒を分けあって飲む。
 モンスターらしいモンスターとは遭遇しなかった。森林地帯には熊でもいるかも思ったが、木には爪痕の痕跡さえもなかった。熊は縄張りを示すために木に自分の爪痕を付けて自分の臭いを染みこませる。熊の冬ごもり前から今までの間に、木が成長して爪痕が治ったという訳でもなかろう。
「狼とかもいなかった」
 まるでモンスターが避けているような。
「村も平和そのものだった。のんきというか。読み書きができるのは代官ぐらいだ」
 武政が雇って連れてきた者たちが、話を聞きながら報告書をしたためていく。
 その夜、泰斗は夜回りをしていた。城砦の内部を少し見てみたかった。こういう古いところなら怪談の一つや二つあってもおかしくはない。
「?」
 まだ開いていない1階への扉のあたりに何かいたような気がした。
 翌日は南、西、東はそれぞれの地域に残りの6人はこの付近の村に聞き込みにいった。城砦には武政の雇った二人が、報告書作成のために残っている。
 村で城砦についての情報を得ようとしたが、記録文書が残っていないことと、伝承も行われていなかったため、情報はあまりなかった。その中でも唯一あったのが。
「若いころに度胸試しにあの城砦で夜を過ごしたときのことだ。なにやら変なものが城砦の中に招いたような気がしたんだ」
 もうすでに40歳を超えた男が、昔を振り返って話してくれた。
「最初は誰かのいたずらかと思った。付近の別の村の者も同じように肝試しにきて鉢合わせしたこともあったから。しかし、後で確かめたらそんなことはなかった。昔のことだ参考になるかどうか」
 夕方全員が戻ってきた時にその話をした。
「外側のおおよその調べはついた。明日は全員で城砦を調べた方が良くないか」
 城砦の外側は、大まかな修復計画案ができていた。今居る広場には、巨大なバリスタかエレメンタルキャノンを設置することになるだろう。

●地下室
 3階、2階とすべての地図はできていた。妙な隙間はないようだ。隠し部屋などあるとやっかいだ。あとは1階へと降りる階段から下だ。
 通路が別れるから5隊に別れて進む。狭い通路では3人編成の方が動ける。4班はランディ、カルヴァン、マリーナの3人とキース、レニエ、美加の3人に別れる。気配は感じるが存在は見えない。この城砦に残る残留思念か。と、美加は考えた。平たくいえば地縛霊? その真意はアトランティス人の二人には良く伝わらなかったようだが。
 何も被害がなければ、調査的には問題ないけど。修復が始まってから妨害されるのでは、困る。
 地下室の一角に書物を発見した。もちろん、紙ではない羊皮紙だろうか。
「さすがに読めない」
 セトタ語らしいが、かなり古い。城砦の昔のことが書かれているのだろう。首都ウィルならば解析できる人もいるだろう。
 最後の夜、まだ警戒は解けない。3階の部屋に入って休むことにした。その程度できなければ調査したとは言えない。交代で番をするはずがいつのまにか全員が熟睡していた。
「あれは」
 翌朝起きた時、夢の内容を覚えていた。城砦の南には軍勢がひしめき、孤立無縁の城砦は絶望的な防戦を強いられていた。戦いに騎士道などなく、殺し殺されるだけ。落ちない城砦に業を煮やした敵の軍勢は付近の村を蹂躙し城砦の前に処刑を行う。騎士道が確立されねば、このような戦いになる。この城砦は戦いの後廃棄された。この付近一帯が人の住まない土地になったためだ。騎士道を無視したら、攻める側も攻められる側も戦中にも戦後にも大きな傷跡を残す。城砦はそれを語ったのかも。
「戦いになったら、村人も収容できるように城砦を拡張した方がいいな。食料とかも城砦で管理すれば」

●帰還
「あの夢を見たのか?」
 ロッド・グロウリングは冒険者からの報告書と作成された地図を満足げに眺めた。さらに城砦修復の提案も。その上で自らも城砦であの夢を見たことを語った。資材は村人を使って集めさせる。その後現場の指揮を頼むとのことだった。あの夢も作業に影響してくるかもしれない。
「イムンが変な動きをしているという噂がある。作業中は十分に注意してくれ」
 この先は次回の依頼となる。