城砦を修復せよ6 収穫物を守れ!

■シリーズシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月29日〜11月08日

リプレイ公開日:2006年11月05日

●オープニング

 村々での春蒔き小麦の搬入は、順調に進んでいた。この一部を城砦に保管することになる。
 首都ウィルへの報告書を認めているのは、ロッド・グロウリング卿の城砦の一室にいる人物。ロッド・グロウリング卿は、城砦の修復に天界人の手を借りていた。城砦の修復に駆り出された村人の慰撫と天界人がウィルに受けいれられるように、城砦に関わった者たちを招いて収穫祭を行う予定であった。受けいれるには、互いを良く知らなければならない。何を食べていたのか、どんな生活をしていたのか。
 Wカップも領主達が自分の領地の収穫祭に参加するために、空き期間があった。それを利用して開催するはずであった。天界(ジ・アースおよび地球)からの冒険者がどんな物を食べていたのか、こちらにある素材で(足りないものは一杯ありそうだが)料理を作って食べるということまで計画し、調達できるかぎりの材料まで揃えて冒険者ギルドに依頼をだした。しかし、冒険者ギルドではその依頼を出さなかった。手違いか、どこからかの圧力でつぶされたのか。
 依頼がつぶされたせいか、ロッド・グロウリングは収穫祭にも関わらず、城砦には顔を見せていない。収穫祭に領主が顔を出さないと、今後の領民との関係が悪化するだろうに。
 集められた食材の一部は、村人たちだけの収穫祭に使われて、残りは保管されていた。ところが。
「ネズミが発生した」
 どこで嗅ぎつけてきたのか、集めた食材を保管した部屋でネズミが目撃された。大きさは非常に小さい。人の親指くらい。しかし小回りが効いて、とてもつかまえられるものではない。
 集めた食材だけなら、被害は限定されるが。問題はそれ以外にまで手を出された場合だった。
 今年は各村で保存していた収穫物の一部を城砦に運び込むことになっていた。領主と代官の気合の入れようで、収穫量にもやはり差が出る。飢饉に備え、戦に備え、急な災害に備え、城砦に一部を保管する。そうと決まったものの、その城砦にネズミが暗躍していたのでは、安心して保管もできない。
「こんな低レベル依頼を冒険者の方々にするのは非常に恐縮ですが」
 ロッド・グロウリングに見どころありと、騎士見習いに取り立てられたばかりのミュラーが冒険者ギルドを訪れた。
「ネズミはネコがつかまえるものではないのか?」
 依頼を出した時にギルドから言われた。
「それが、村々からネコが姿を消しました。確かに変ですね」

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb4179 篠原 美加(29歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4340 サトル・アルバ(39歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4561 ティラ・アスヴォルト(33歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

サイラス・ビントゥ(ea6044)/ リセット・マーベリック(ea7400)/ アルク・スターリン(eb3096

●リプレイ本文

●小さな侵略者!
「今度の敵は、ねずみか」
 キース・ファラン(eb4324)は、治療院の依頼でドレニック卿の海辺の領地か戻ってきたばかりだった。あちらで謎の病で死人が出たのでその調査と対策のためだったが、幸いにも感染は拡大されなかった。
 一つには(天界人たちの話によると)感染の元を媒介する可能性のあるねずみが、すでに感染元から外に出て病気を運べない状態だったことだ。
「ねずみ、ねずみっと」
 ティラ・アスヴォルト(eb4561)は、幾ばくかの金を払って図書館でねずみに対抗する知識を得ようと思った。しかし、ねずみに対する研究はされていなかった。
「ねずみがもたらす、影響などは」
 ねこを飼えというのは、昔からの対策。猫を飼って対抗するなら、ネズミには毒は使えない。毒を食べて死んだネズミを猫が食べたら猫も死ぬ事になる。
「毒を使う場合には、気をつけないといけないだろう」
 ティラは蒙古馬のムーザにまたがって、猫を連れて行くつもりだ。他の誰がねずみに対して毒を使った場合、自分のペットがそのネズミを食べて死ぬ危険もある。
「機械的な罠でも食物を使った罠でも、毒があった方が選択肢が増える分良いでしょう」
 スニア・ロランド(ea5929)は自分の猫を連れた上で、毒も用意しておくことを考えた。毒の使用にはロッド卿の許可を取るつもりだ。もしかしたら領内に栄養不足からネズミを食用にしている人たちもいるかもしれない。
「こちらの店に‥‥」
 ランディ・マクファーレン(ea1702)は、ウィルのあちこちの店を回ってネズミ駆除のための毒と罠を探していた。首都ウィルでもネズミの害がないわけではない。しかし、毒物については店では扱っていなかった。
「毒物だと、現地で植物とか鉱物とかから調達するしかないじゃないかな?」
 篠原美加(eb4179)はランディと出会って言った。
「僕は毒物を使わない方法を考えるから」
 猫のいなくなったのが城砦周辺だけでないなら、他の地域でもネズミの増加しているはずだ。ネズミの増加という報告がないか円巴(ea3738)は、エーロン治療院に出向いて調べていた。
「ネズミは、感染症の原因を運びます」
 巴は、天界人から聞いたような話を根拠にしていた。
「天界人の医師たちによると、そのようだな」
 治療院の方でも、まだ疑っている者が居ないわけではない。天界人からの情報だけだから。それ以前に、地球の中世ヨーロッパのように黒死病をアトランティスでは経験していない。危機感の高さには、個人差があるのだろう。
「ま、情報鵜呑みにせずに疑って、自分で調べるのはいいことかも」
 無理やり一つの方法に絞ったあげく、それがスカだったら目も当てられない。天界人(地球人)たちはネズミが媒介となって病原菌を広げることを知っている。もちろん、ネズミだけではない。他の生き物でも別の病原菌を運ぶ場合もある。鳥や虫とてもありえる。ネズミにのみ限ったことではないから、ネズミに限定する必要はない。
「ネズミの情報でしたね。まだまだ治療院の情報収集能力では、ウィル全体を把握するには時間がかかります。フォロ分国内には、異常発生したという報告はありません。もっとも、フォロ家の領地でも首都周辺だけしか伝わってきていません」
 田舎の方ではネズミは多少増えてもよほど注意していなければ、分からない。ロッド卿の城砦のように食物庫が厳格に管理されていなければ分かるものではない。
「ネズミはもともと多少はいる生き物。食われるのが多少なら大目に見てもいいけど」
 この依頼を出したのは、大目に見えないほどの危機に映ったからだろう。
「急いで城砦に向かった方がいいようね」
 巴もネコを連れて城砦に向かう。
「本当に村にはネコがいない」
 城砦に一番乗りしたのはサトル・アルバ(eb4340)だった。周辺の村に出向いて調査を開始する。
「まずはネコが消えた時期の特定からだ」
 村での聞き込みは、警戒されることもなかった。城砦の修復に訪れた者たちは、このあたりでは好印象を持たれている。彼らのせいではないのだが、今年の収穫祭に来られなかったことを残念がられた。
「収穫祭があったんだ?」
 いつやったかと尋ねると、ちょうどウィルカップの試合の後のようだ。ロッド卿が、依頼をだすつもりでいたはずだ。実際には、ウィルカップの日程の方が収穫祭シーズンを避けて設定されていたのだ。なんせ観戦する領主たちが、自分の領地に戻ってしまってスタジアムが空っぽになってしまう。試合をする選手たちもやる気がでないだろう。また、観客が少なければ試合の運営にも支障をきたす。
「あの、お兄さんもウィルカップに出てるの?」
 ウィルカップの噂は、こんな田舎にも届いていた。
「ああチームフォロだけど」
「すごーい」
 ここはトルク領だけど、チームは関係なく称賛される。
「今回依頼で来る冒険者の幾人かは、試合にでてるよ」
 こんなファンサービス? もいいだろう。
 接点が増えると情報も集め易くなる。
「収穫祭の時にはいたな」
「うん、お魚あげたもん」
「あの後だよな。ネコが姿を消してネズミが増えたのは」
 収穫祭は城砦を会場に行われて、周囲の村から大勢の人出があった。収穫祭目当てにこの地を訪れる商人たちもいる。常連の者がほとんどだが、新顔が混じっても疑われない。吟遊詩人なども新顔が多い。今まではそれぞれの村ごとに行われていたのを、城砦で合同して行ったためだ。
「すべての村が密接に交流があるわけじゃないから、全員の顔を見知っている人は少ない」
 城砦の模擬戦に駆り出された者たちには、ある種の連帯感が出来上がっていた。彼らが中心になって、収穫祭は盛大だったという。
「騎士見習いに取り立てられた者たちは、準備やら手配やらで大変だったらしい」
 聞き込んだ範囲では、収穫祭の裏で何かが起こっていたと考えるしかない。
「ロッド卿は収穫祭にはこられていたのか?」
 もし、ロッド・グロウリングがここにいたら、妙な連中が暗躍する余地はなかったはずだ。ウィルカップ参加者は、ロッド・グロウリングの情報収集能力を知っている。
「ご領主様と以前からのご家来衆は、急なお仕事を与えられたそうで」
 こちらの収穫祭を差配したのは、騎士見習いのミュラーだった。彼も騎士見習いになる前は村では人望もある人物だったため、収穫祭の開催自体には何ら問題は起こらなかった。そういう人物でないと冒険者の目に留まって推挙されない。
「その仕事を作り出してロッド卿をこっちに来られないようにした。その間に城砦に何かの仕掛けをしたのか?」
 ネズミが増えたのは、その結果の一つが先に出てしまったのではないか?
「ウワサの猫妖、ケットシーは関係ないのか?」
 ケットシーによって、猫が強制的に移住させられたとか、ネコを襲う何らかの異変から守るために退避したのかとも考えたが。

●城砦内部
「ここは以前もすべて調査したよね」
 美加は自分自身が誘拐された時の恐怖の記憶がまだあるものの、内部の構造は良く覚えている。
「ここが小麦などの食料を保存する場所です」
 冒険者によって騎士見習いに取り立てられたミュラーが城砦に到着した冒険者たちを案内する。
「壁をすべて調べてみましょう」
 壁に穴があれば、塞ぐことが必要。今いるネズミをすべて始末しても、新たなネズミがくるかも知れない。中の物を出し入れする時に入ったとしても、抜け出れなければ被害は少ない。
 巴とランディの提案で、幾人かの領民がその作業に入る。穴を見つけ次第、漆喰で塞いでいく。
 その間にランディとスニアは、ネズミの始末できるような毒や材料を入手するために領民を率いて森に向かった。
「こんな植物を探して」
 スニアが、毒性の植物の特徴を教える。
「こんな木があったら案内してくれ」
 ランディはトリモチの材料を探させた。トリモチを作るための材料としてモチノキを探させた。ネズミの移動しそうなルートにトリモチの罠を設置すれば、1回に多くのネズミが取れる場合もある。植生的には沿岸地域の方が分布している事が多い。しかし、このあたりにもあるかもしれない。というよりもあってほしい。
 二人が森で探索を進める頃、城砦ではスニアの依頼で美加が機械式の罠を作っていた。美加とキースとで室内にネズミ返し付きの台を作って、その上に小麦を保管しようと話し合った。
「台の製作は、その手のことが得意な領民に任せる」
 木工、しかも高く積み上げた小麦に耐えられるだけの強度をもたせるとなると、冒険者の手には負えない。
「種類は判らないけど、基本的にはネズミは運動量が激しいから2〜3日食べないと餓死してしまう筈」
 美加の考えは有効かも知れない。そのためには食料庫以外でも良いが、ネズミを誘い込んで一網打尽にするほうがいいかも。外にネズミが逃げてしまっては意味がない。二度とネズミが戻ってこないのならば、それでも良い。しかし騎士が誓約したわけでもないから、警戒が緩んだ時に戻って来られたら元の木阿弥。
「餓死させるには、閉じ込めないといけない」
 各部屋の扉もぴったりになるように、この際すべての部屋の扉について修理をさせる。隙間からネズミが移動できないくらいのものになるように。
 領民への手配はすべて、ミュラーが行っている。領民を熟知しているミュラーならではの適材適所で、あまり時間もかからずに作業は進んでいく。
「ネズミは目撃できたか?」
 人の気配を察すると、逃げて姿をけしてしまう。後は聞こえても、姿は見ていない。
「ネコを捕食する類の猛獣とか魔獣とか猛禽類とか、最近見かけていないか?」
 モチノキをどうにか探り当てて、樹皮を収穫したランディは、同行した領民たちに聞いた。
「そういえばカラスが増えていたような」
「カラス?」
 カラスも小柄なネコなら仕留めることがある。しかし、多少増えても人家のネコまで狙うほど食糧不足に陥っているとも思えない。
「森の南のガリオン卿のところはどうだろうか?」
 領民たち同士は、森の中で出会う事もある。
「あちらでは特に増えたという話は聞いていません。ネコもいるそうです」
 こちらだけの現象か。
「やはり誰かが仕掛けたのか?」
 立派な城砦でも食べるものが備蓄していなければ、いつまでも防戦はできない。平時には二食でも、戦時には三食。通常よりも消費は早い。
「普通に考えるなら、イムン。特に隣接しているガリオン卿と考えるのが普通だろうけど」
 サトルが村での聞き込みで得た情報では、ガリオン卿との関係は良好だという。
「村の方でもネコを飼うぐらいで対抗していたようだ」
 ランディはネズミ取りを村で調達できないか、調べに行って機械的なネズミ取りはないようだ。
「考えてみれば、金属は貴重品一般家庭にはないか」
「毒はあまり使いたくないんだけど」
 美加はネズミの中には毒に対する耐性を持つネズミがいずれ出現してくることを話した。
「天界‥‥地球では、そんなネズミをスーパーラットって呼んでいる」
 対抗するために、より強力な毒が開発されている。
「毒は諸刃の剣だから」
 毒で死んだネズミが水源に入ったりすれば、その毒が水源を汚染することになる。
「神聖魔法の使い手がいれば、解毒することはできるけど」
「常にってわけにはいかないね」
 スニアはジ・アースとアトランティスとの違いを今更ながら実感した。ジ・アースなら普通どんな小さな村でも教会があって、解毒なり回復なりの魔法を使えるクレリックが常駐している。それにくらべると。
「毒を使うのは危険だと思う」
「折角採取した毒草だけど」
 まだ精製していないから毒性は低い。
 美加が作った機械式の罠、ネズミがかかった。
「小ネズミ?」
「多分成獣だ」
 予想外の小ささに罠を回避したネズミも多い。
「トリモチの方が有効性が高い」

●ネズミ駆除
 城砦にはまだ食料は搬入されていない。収穫祭の残りで保存ができるものだけ。
「食料を置く部屋をここだけに限定して」
 この部屋にはネズミ駆除後には、ネズミ返し付きの台を運び込んで積み上げることになっている。今後発生した場合に備えてのことだ。
「壁や天井から飛び移られないように壁の途中にもネズミ返しを付けた方がいいな」
 台の足からはあがれなくても、壁伝いに飛び込まれては困る。トリモチの罠と機械式の罠もこの部屋から逃げ出しそうなルートに設置する。
「他の部屋の密閉はできたぞ」
 ティラが作業が終わったことを伝えに来た。
 そして、件の部屋の扉だけは開け放たれている。
「この部屋におびき寄せる。期間は二日」
 この部屋以外の城砦から食料がすべて消える。城砦を預かる者たちはこの間、近くの村に滞在する。
「村の方では、ネズミの被害は出ていません」
 村からの連絡は常に入る。城砦を悩ましている小さいネズミは、そもそも村では目撃されていない。
「逆に言えば、こいつらの始末してしまえばおしまいってことだ」
 二日後、ネズミを追い込む時にトリモチの罠をさらに設置していく。
 周囲の部屋から徐々に追い混んで罠にした部屋に向かう。大きさが小さいだけに、冒険者の足元を回避される可能性は高い。そのため、ネズミが走り抜けられないような粘着ゾーンを幾つか設置する。ネズミが小さいから幅は狭くても良い。通路の幅に合わせた板にトリモチを付けて準備しておいたものを設置していくだけ。
「もうトリモチの材料はないから、失敗したら」
 すでに設置したトリモチの罠には、この二日間の間に捕まったネズミが遺体になっていた。死んで弛緩したネズミから糞が出ている。
「毒を使ったら、糞にも毒が混じる。その毒が食料に混じれば」
 食べた幾人かは死なないまでも、被害を受ける。防衛戦の最中なら効果的だろうし、緊急支援に食料を供出した場合でも毒入り食料を送ったと非難されてロッド卿は名誉を失うだろう。
 開け放たれた扉から部屋を覗くと。
「うぁ!」
 小さいネズミが床を走り回っている。
「見ただけで気持ち悪くなってきた」
「これでは」
 巴もネズミに試してみたい攻撃があったが、この状態では難しい。あの数では、粘着ゾーンも捕まった仲間の身体踏み台にして突破されるだろう。扉を閉める。
「餓死を待つか」
 おびき寄せるのに使った食料は少ない。小さいとはいえあの数では、あと二日もすれば。
 粘着ゾーンを設置していないエリアは、冒険者の連れてきたネコたちが巡回している。ネズミは見つかっていない。
 さらに二日後。
「死んでいる?」
 警戒しながら扉を開けると、部屋の中はネズミの死体で散乱していた。それでも元気の良い何匹から扉が開くのを待っていたかのように飛び出して行った。しかし、それらも粘着ゾーンで捕まる。
「ネズミ駆除完了!」
「今後の対策としては、城砦でネコを飼うことかな」
 まずはどこからかネコをもらってこなくては。