城砦を修復せよ4

■シリーズシナリオ


担当:マレーア2

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 22 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月10日〜06月20日

リプレイ公開日:2006年06月17日

●オープニング

「ロッド・グロウリング卿、ジーザム・トルク分国王陛下より例の品物が到着しました」
 種まきが終わった。新領地での最初の農繁期を終えた領民たちの様子を視察していたロッド・グロウリングのもとに、待ちに待った知らせがやっと届いた。
「現在城砦において梱包を開いています。技術者たちの話では、調整に1週間ほどの時間がほしいとのことです」
「ああ、わかった。その間に城砦技術者の冒険者を招集することにしよう」
 城砦の修復も、ほぼ完成に近いところまでこぎ着けた。これからはどの程度使えるかを調べていくことになる。張り子の虎でも役に立たせる方法はあるが、機能的に役に立つ方が良い。
 そこで実戦に近い形で模擬戦を行うことにより、城砦の問題点を洗い出していく。
「冒険者には攻撃側、防御側それぞれを率いて行動してもらう」
 農繁期にはできなかったが、今なら領民を使って兵士のまねごとをさせることもできる。
「代々領主の頭の固いお歴々なら、絶対にやらないことだろうが」
 領民つまり被支配者の方が、支配者よりも圧倒的に多い。武器をもたせたら何をしでかすか。
「いくらジーザム陛下とはいえ、そのような破天荒なまねは好まぬと思います」
 側近はわざわ常識論を述べる。もちろん本意ではない。
「実際に武器をもたせるわけじゃない。それに、見どころがあれば騎士見習いに取り立てる。手勢はいくらいても足りない。譜代の家臣のいない身はつらいものだ」
 本物の武器をもたせないにしても、そこに軍勢がいるという視覚的な効果を考えることは必要だ。どのルートが進軍しやすいかどうかも、一定以上の人数で行動させればわかるだろう。攻める側も城砦からのプレッシャーをどの程度感じるかも実戦では影響する。ロッド・グロウリングも新進気鋭といえばいいが、成り上がっただけに臣下が少ない。
「募集する冒険者は15人」
 攻撃側実戦部隊に10人(領民200人)、城砦側実戦部隊に5人(領民100人)としてそれぞれが、領民を率いる指揮官として行動する。領民を誰の隊に幾人配置するかは自由(弓、剣、装備も自由に設定する。実際の武器や防具と同じ重さを領民に担がせて行軍させる。重すぎれば途中でへばる。軽すぎれば、攻撃力が弱くなるだろう。
「例の品物は、最後に使うとしよう」
「新しい攻城兵器として使えるか確認するのですね。しかし乗り手がくるでしょうか?」
「いままで来ていたうちの幾人かは使えるはずだ」
「結局、最初に冒険者がきた時に、冒険者の言ったことが正しかったわけですか」
「まさか、こんなに早くゴーレムが外に出回るとは思っていなかったからな」

●今回の参加者

 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3738 円 巴(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1384 マレス・イースディン(25歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 eb4056 クナード・ヴィバーチェ(33歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4157 グレイ・マリガン(39歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4179 篠原 美加(29歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4340 サトル・アルバ(39歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4561 ティラ・アスヴォルト(33歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●集結
「今回は新参者が多いな」
 ランディ・マクファーレン(ea1702)は、城砦への移動中に、今まで参加した顔ぶりと初めての参加者を見比べた。修復開始当初からの参加者は、半数を切っていた。他は途中から加わった者、今回が初めての者もいる。
 今回の模擬戦に限っていえば、城砦当初から携わっている者の方が作戦を立てるのに有利だろう。城砦のどのような防御があるか、知っているのと知らないのとでは差が大きい。実際の戦闘なら攻撃側は外見から予想するしかないのだろうが。
「ルーケイ伯は立場上。それどころじゃないだろう」
 キース・ファラン(eb4324)ランディ同様、先日までルーケイで毒蜘蛛団討伐に加わっていた。ルーケイから王都そして南へと。休む間もない移動となる。ルーケイでの話となると、今回新参の幾人かも加わってくる。
 ゴーレム兵器、特にグライダーとチャリオットを使った攻撃が今までの戦と異なる。チャリオットにウィザードを乗せての高速移動による攻撃が城砦前に布陣している部隊には脅威になるかも知れない。グライダーの砲丸攻撃については城砦外塀なり堀なりの強度や深さによって異なるだろうが、修復した城砦ではあまり脅威にはならないだろう。堀自体にも技巧が凝らせてある。堀をすべて埋めるほどの攻撃はできないだろう。
 さらに物資移動の困難さや、攻撃側の連携が今まで以上に難しく、戦闘推移が速すぎて指揮官の目が行き届かないとの報告があった。
「今回は攻撃側が10人で、防御側が5人。多方向から同時攻撃を食らえば指揮官不在の地区もでる。それがどのような場合に発生するか。逆にどのような方法で回避できるか」
 模擬戦は、城砦の戦場での運用にいかに行い得るかを見いだすために行われる。単純な勝ち負けが求められているわけではない。そこが今回の依頼の難しいところ。冒険者は自らの知識と知恵と経験を振り絞って、攻撃方法と防御方法を考える。今回は実際には武器を交えた戦いは行わない。冒険者以外は全員領民だ。怪我をされたら、今後の仕事に差し障りがあり、ひいてはグロウリング領の今年の収穫に影響することになる。
 到着すると、再来の冒険者たちはロッド・グロウリング卿自らが出迎えて、これまでの苦労を労った。ルーケイでの戦闘に参加した者たちも多いからだ。
「遠路ご苦労だった。ルーケイでの戦いの疲れも抜けないうちに、こんな辺鄙な田舎まで来てくれたことに感謝する」
(「あれが切れ者と最近うわさのグロウリング卿ね。いろいろと報告書の裏に見え隠れするのが怖いところよね」)
 ティラ・アスヴォルト(eb4561)は遠目に、今回の依頼主の姿を認めた。切れ者の様相はあるが、悪人顔はしていない。むしろ好感がもてる。多分、味方だからだろう。敵に回した時の印象は、また別のものとなるだろう。
 冒険者たちは、自分たちが率いることになる領民たちの装備を申請する。今日のうちに装備と同重量のダミーを用意して、明日出発前に領民たちに配る。出発は暗いうちになる。朝寝坊はできない。攻撃そのものは明るくなってから行うが、その前に準備もある。
「両軍の区別を付ける為、攻撃側は、黒たすき、防衛側は、白たすきを身に付けたらどうだ?」
 ファング・ダイモス(ea7482)は、そう提案した。今回の模擬戦は乱戦状態になるわけではないが、判定に分かりやすい方が良いとその準備も進められた。
「俺の隊は重装備だ。20人分用意してくれ」
 正面から攻撃をしかける予定のマレス・イースディン(eb1384)はそう申請した。
「攻撃は弓兵が主体なので、皮鎧に弓矢とショートソード。それにロープを」
 アルカード・ガイスト(ea1135)はそう申請する。弓の代わりに同程度の長さの棒と革鎧、矢、ショートソードの重さを詰めたバックパックが用意される。これを領民たちが背負って、さらにロープを持って行動することになる。
 セシリア・カータ(ea1643)の隊には槍と同じ長さの棒が槍がわりに、楯の重量分の重さが用意される。
「案山子?」
 マリウス・ドゥースウィント(ea1681)が申請したのは案山子だった。案山子の実物大を用意させる。
「結構な重さになりそうですよ」
 それに嵩張る。どの程度使えるかは実際にやってみたいと解らない。そのための模擬戦。想像どおりにいくかどうか。
 円巴(ea3738)は、5Gで率いる領民たちに与える食事と弁当の材料を依頼した。調理は自分で行う。疲れた時に、士気の差が大きく出ることもある。
 全員の申請が終わると、大広間に集められた。
「ささやかだが、地元産のワインを用意させた。首都の高級ワインとは比べるべくもないが、その土地柄を知るには、その土地の物を食べるのがいい。冒険者諸君は、明日行う模擬戦では1戦士ではなく、兵士を指揮する指揮官として動いてもらう。戦いは一人の戦士の奮戦によって戦況が変わるものではない。一兵卒にいたるまでが、どれだけ有効に働いたかで決まるものだと考えている。もちろん正騎士の一騎討ちは別物として」
「へぇ、けっこう合理的な人よね」
 この人の下ならもっとゴーレムを使う機会があるかも。と、エルシード・カペアドール(eb4395)は、好印象をもった。ゴーレムの数なら生産元であるトルク分国の方が多いはず。ロッド卿がトルク分国でどのような役割を担っているかにもよるが、この城砦の位置を考えると。
 ここでゴーレムの訓練ぐらいするかもと思ってしまう。ここなら情報も伝わりにくい。イムンがどの程度警戒するかにもよるだろうが。
 イムン側の領主ガリオン卿を馬上試合の後から、内々に取り込んだらしい。だからこそ、ここで模擬戦などが行えるのだろう。
 冒険者の到着が予定よりも早かったため、模擬戦も期間は4日間とれる。もっとも3日で切り上げて4日目には別のイベントを用意してあるという。
 攻撃側はこの3日間の間は、城砦の外で寝起きして攻撃の準備と攻撃を行う。
 防御側が攻撃側を索敵して攻撃を撃退する。
 口で言えば簡単だ。しかし、領民の体力、士気の維持高揚、視覚効果、戦術運用まで行う。

●試作ゴーレム
 酒宴の終わりに近づいた時、今回参加した鎧騎士であるクナード・ヴィバーチェ(eb4056)、グレイ・マリガン(eb4157)、キース、サトル・アルバ(eb4340)、エルシード、ティラの6人と地球からきた天界人の篠原美加(eb4179)が別室に呼ばれた。
「酒宴の最中、呼び立ててすまない」
 呼び出したのは、ロッド卿のところに派遣されてきたゴーレムニストだった。
「ゴーレムの数は、まだまだ少ない、特にフォロ王家には数が行き渡っていない。そのため鎧騎士といえども、実際にゴーレムに乗る経験は少ないことはやむを得ない。しかし、今回の模擬戦においては、きたるべき時代にそなえてゴーレムが戦場にもたらす効果も調査する必要がある。トルク家の工房としては、今回ロッド・グロウリング卿の協力のもとにいくつかの試作ゴーレムを持ち込んだ。従来のバガンとの違いについても感じてほしい」
 ゴーレムが保管されている場所まで案内される。
「これはフォロ家にも配備されているバガン、多少の改修はされている」
 幾人かは間近で見たことがある。
「こっちは」
「あ!」
 ティラは思わず声をあげた。以前の依頼でセレまで運んだ弓を使うウッドゴーレムだった。
「どうやら見たことがあるようだな」
 キースが、半ばうらやましそうに声をかけた。
「たぶん初期型だろう。こっちもまだ試作の域を出ていないが、あれよりも射撃能力は向上しているはずだ。正式採用直前と言ったところだ。ショアからの提案もあって」
「ショアって、ロック鳥が出たとかという噂があったところだよね」
「ロック鳥を打ち落とす弓ってことか?」
 実際に落とせるかどうかは、鎧騎士の射撃能力にも依存するだろう。グレイはつぶやいた。それから幾つかの試作型の説明があった。
「実際に外に出して実験を行うのは明日からの模擬戦終了後になるが、もし起動を試したいのであれば、これからでもいいぞ」
 たぶんそれもテストだろうが、欠食冒険者ならぬ、欠ゴーレム鎧騎士にとっては飛びつかないはずはない。
「けっこう使いやすい」
 ティラは一発で起動して、歩かせる。足どりが軽く感じる。
「新品だから? 違う、これは技術革新?」
 美加も感じた。
「技能のバランスとして自分が適任では?」
 サトルは、そう自薦していた。
「今夜はそれぐらいしておいた方が良いだろう。明日から模擬戦に差し障りがあっては、私が非難されてしまう」
「でも、まだ」
 といいかけて、キースは城砦の中が静かなのに気づいた。
「もうとっくに酒宴は終わっています」
「そういえば」
 起動を繰り返しているから、それなりに時間が経過していたはずだった。ゴーレムを動かせる楽しさに思わず時間と疲労を忘れていたが、言われるとこれまでの分まで一気に疲労を感じた。
「サトル君でしたか? 装甲チャリオットを動かしたことがあるのは」
「はい」
「もし今後動かすことがあったら、急旋回しないように注意してください。転びますから」
「トップヘヴィ?」
 技術者の言った内容を一瞬で理解したのは、美加だけだった。
「天界ではそう呼ぶようです。ゴーレム兵器はけっして万能兵器ではない。それがゴーレム工房の現在の考えです」
 作り手側の試行錯誤もあったのだろう。多分、今後ゴーレムを実験的テストするような依頼が出てくるかも知れない。
「朝は早いそろそろ寝ようぜ」
 グレイはそう言うと一人先に出た。手柄を立てればいいのだ。今焦る必要はない。

●模擬戦開始
 ロッド卿の命によって模擬戦に駆り出される領民たちは、明るくなるよりも前に砦に集まってきた。見どころのある者を騎士見習いに取り立てるという告示が行われていれば、張り切る者は多い。
「攻撃側は暗いうちに城砦から出発し、隠れるなり伏せるなりして防御側の目から一旦離脱してほしい。作戦上最初から姿を見せるという場合も、一旦離れてから近づいてくれ」
 体力的な関係だろう。暗いうちから動いて、体力的にどこまで戦いが持続できるかも、今回の模擬戦では重要な判定要素となる。
 各隊に、昨日のうちに申請した『装備』が支給されている。攻撃側が次々に城砦から出発していく。案山子は持ちにくそうだ。攻撃側各隊にはロッド卿の臣下が、判定役として同行していく。同行して士気の状態が視覚効果を確認する。場合によっては被害判定も。
 スニア・ロランド(ea5929)は、防御側に参加する領民たちの指導を始めた。掛け声一つで行動できるように。
・その場に伏せる
・1列横隊をつくる
・2列横隊をつくる
・遮蔽物に隠れる
・弓を構えて矢をつがえる
・剣と盾を構える
・攻撃開始
・攻撃中止
・隊列を維持しつつ前進する
・後退する
「単純な動作でも、これが出来るかどうかは大きな違いですから。正騎士を除けば、突出した個より、平凡で統制のとれた組織の方が戦場では有用でしょう」
 スニアがもっとも、ロッド卿の考えと似ていた。
「使える。エーロン王子はいい人材を持っている。引き抜きたいところだが、王子との関係を悪化させたくない」
 ロッド卿は、城砦に残った防御側の5人の冒険者の様子を観察していた。有能であれば、こちら側に取り込みたい。もっとも、冒険者ギルドそのものがトルク分国王の保護下にあるから、取り込むのというのは正確ではない。
 スニアの方で一定の指導が終わると時間的に付け焼き刃だが、それぞれの隊に配置される。この後はそれぞれの隊で行動の説明がある。
 キースは物見機能をつけた櫓の上に、見張りをあげて警戒させていた。攻撃側の姿は見えない。完全に姿を隠している。今回は判定できる限りにおいて、ある程度の夜襲もあり得る。夜襲して攻撃した場所に落書きを残すようなやり方だが、これはこれで意味がある。障害物特に柵は落書きが多ければ、解体されたあるいは破壊されたと見なす。実際に壊すわけにはいかないからだ。これが城砦攻撃の前哨戦になる。もちろん城砦側も専守防衛というわけではない。攻撃側の野営地にちょっかいをだしていいことになっている。実際に火をつけたりはしないが、そのように判定される行為を行う。騎士道をかなり無視した行動だが、騎士道に則った戦いがここで行われるとロッド卿は考えていない。ここで行われるとすれば、騎士道なき戦い。雇い主の意向で、そのような模擬戦が行われる。
 城砦の南側は平地。しかし、この季節は草の伸びが速い。すでに腰から上ぐらいは伸びているだろう。城砦の付近こそ刈り取りがなされているが、南側の森までの半分以上は草で覆われている。
 しかし、キースが作らせた櫓があれば、7割あたりまでなら、発見できるだろう。それを警戒してか、攻撃側は昼間の動きはない。

●攻撃側
 攻撃側、防御側ともに城砦の修復に携わった者たちが揃っている。どのあたりまで見渡せるかはわかる。
「キースの提案したあれは邪魔だ」
 四六時中見張られていては、隠密裏に接近できない。攻撃側で正面攻撃を計画している3人即ちファング、マレス、サトルは、まずは一定距離まで悟られずに進む方法を考える。暗いうちの行軍で南の森まで、装備を持ったまま歩かせてどの程度消耗するかを図った。隊に1、2名は頑強な者もいるが、それ以外の者はかなり疲労する。緊張状態におけばもう少しは維持できるだろうが、それでも待ち構えている城砦側との戦いでは不利になるだろう。同行している判定役に状態を尋ねると、体力を温存させていないと戦闘になった場合に不利になるだろうという予想を言われた。ただし、続きがある。
「大勢の敵が攻め寄せるのを目にして、防御側も士気が維持できるかは別問題」
 大勢が攻めてくるという心理効果を使って、士気崩壊にまで持ち込むことができる場合もある。どの程度士気が変化したかは、防御側に同行している判定者が判断する。
「いいか、野郎ども! 城砦なんぞ再建しやがったトルク領の連中に目にモノ見せてやれぇ!!」
 マレスはすっかり、自分がイムンの指揮官になったつもりで領民たちに向かっていっていた。
「だとも、俺らはトルクの領民だで」
「んだんだ」
「そうじゃない。純朴するのも困ったな」
 6人づつの3班にわけて、それぞれの班に班長を置く。班同士を競わせるという心理を利用しようとしていた。
「競争という意味はわかるな」
「そんなのわかるって」
「一番先に城砦に取り付いた班には全員に酒を奢ってやるぞーー」
「酒? うぉおおおお」
 さすがにこれは効いた。このあたりの領民なら、年に数回しか飲めない。
「マレス、大丈夫か?」
 隣の騒ぎに逆に不安を感じるファング今回は実際に戦闘を行うわけではないから、装備も自前の魔法防具を着用している。重歩兵部隊を想定し、マレスさんの部隊に並走していく予定。急所を逸らし矢に堪えながら、門にたどり着き、リーダー、ファングのスマッシュEX+バーストアタックで、門を破壊し突破口を開く部隊を想定した動きを見せると共に、デッドorアライブと重装甲の有用性を検証する。防御側の攻撃力を正面から打ち破ることである。士気を無理やりにでも高める必要があった。にしても、あまり騒がれると、ここの位置まで見つかってしまう。今日は偵察と訓練を行う。集団で走ることもあまり得意ではないらしい。今のまま突撃しては、重歩兵の単体がバラバラに突っ込むことになりかねない。それ以上に着くことに目標が絞られて、装備を放棄するかも知れない。
「弓矢と攻撃は、2隊に任せてこっちは」
 サトルはロングスピアとネイルアーマーで防具を軽く、攻撃力を高くした装備になっている。防御が薄くても間合いに入る前に倒してしまえばいい。
 多様な戦術が行われるのは判定役としては望ましい。
 ティラは軽装部隊を率いて森から城砦までの間に、見つからないように進んでいた。領民は草の間でも移動するのに慣れているのか、あまり苦にしてはいない。言い含めてウィンディは森に残してきたが、領民に危害を加えないか心配である。
 エルシードは騎士見習いに足る領民をメモしつつ、城砦を見張っていた。正確には城砦なら打って出る部隊を。クナードは4人4列の陣形の訓練をしていた。指揮官の指示で乱れる事無く右に左に槍を構えることができるように訓練していく。問題は実際に戦いになった時に、この状態を維持できるかどうか。4人4列だと簡単に背後に回られてしまうが、味方同士が親密で助け合うことができないと戦場では戦列を維持できない。
 盾は味方も護る故に最後まで手放せぬ武具である。鎧を捨てるのは恥でなく、盾を捨てるのを恥と認識させるのに苦労した。
 訓練しつつ、最初の一日目は夜を迎えた。

●夜襲
「さて、ちょっといってみましょうか」
 美加は、攻防に備え城壁の上に油代わりの水樽や城門付近に補修用丸太や柵等の準備していた。こういう力仕事は領民たちには慣れたもの。暗くなってくると、指揮下の領民たちのうち夜目の効きそうな5人を選んで、密かに城砦の地下にはいって行った。思い出したくもないが、前回の依頼の時に自分自身が誘拐され、連れ出された道を使って城砦から外に出る。暗くなれば攻撃側も火を焚くはず。森は以前の依頼で調査したことがある。それに領民も森から木を伐りだしているから、けっこうよく知っている。
「野営できて城砦の櫓から位置が悟られない場所」
 美加は以前の探索のことを思い出していた。もちろん、攻撃側にも探索に加わった仲間がいる。逆に最適な地点も知っているだろう。まずは慎重にその場所に向かう。
 美加は5人に声を出さないようにして、続くように指示した。用意しておいた色付きの石を投げ込む。投げ込むと同時に、森に隠れて姿を消す。
「なんだ?」
 投石は人のいない場所に向かって行われたが、音まで消せるわけではない。
「やってくれる。トルクの弱虫ども」
 マレスはまだまだ悪役になりきったまま、罵ってみせる。
「そういえば、警戒していませんでした。やられました」
 セシリアは周囲を見渡した。判定役は協議し、用意した食料の半分が焼失したことにした。
「それはちょっと厳しいんじゃないのか?」
 ティラが騒ぎを聞きつけて、野営地に戻ってきていた。
「城砦からは誰も出て来なかった。どうやって夜襲など」
 城砦を見張っていただけに、夜襲は考えられない。
「やられました」
 アルカードには、敵がどこから来たか予想がついた。
「油断した」
 マレスは攻撃側の顔を見回してため息をついた。前回の依頼に参加した者は防御側には多いが、攻撃側にはアルカードとマレスそれにサトルの3人しかいない。
「城砦には抜け道があったのです」
 アルカードが、突然出現した原因を説明した。
「それでは見張っていても無意味だろ! そういうことは先に言え」
 ティラが怒鳴りつける。ティラの隊は、先程まで夜陰に乗じて柵に落書きをしていた。あっちも朝になれば、同じ気分になってくれるだろう。
「食料の損失は痛い」
 損失したと判定されたのは、冒険者の保存食ではなく、兵士役の領民たちの食料。半分ということは明日1日分しかない。明日中に攻め落とすしかない。食う量を減らすことはできるが、それでは士気が落ちる。
「どうせ最初の予定どおりなら、明日攻めるつもりだったんだ。派手に一気にいく」
 ファングは士気を高めるように言った。

●攻撃
「背を低くして進め」
 城砦の櫓には暗いうちから見張りが上がっていた。朝露に濡れる草をかき分けながら、進む。発見されるまでに、できるだけ城砦に接近しておきたい。
「明るくなってきた。得物を確かめろ」
「隊列を崩すな」
 その声をかける前にマレス隊が真っ先に走り出す。6人組の3隊が競争するように、突き進む。
「マレス隊だけでは。こちらも走れ」
 ファング隊とサトル隊が、マレス隊の左右に分かれて城砦に向かう。
 他の隊もそれぞれ事前に確認した戦術案に基づいて城砦への接近を開始する。
 たちまち城砦側も行動を開始する。
「展開急げ!」
 ランディ隊が真っ先に正面から動きだす。
 大盾兵を前面に出し、防御と足止めの準備をしつつ、弓兵による攻撃を宣言する。
 その第一射で、先頭に突進してきたマレス隊に被害が出ると判定がなされる。
 しかし第二射後に今度は大きく右翼から回り込んで城砦に近づきつつあったアルカード隊の弓兵がランディ隊に弓矢による攻撃を開始する。さらにマリウス隊も進出してくる。弓では攻撃側の方が数が多い。
 しかし、マリウス隊が攻撃位置に到着して攻撃する直前、巴隊による投石と弓矢による攻撃を受ける。案山子を運んで来た分、注意力が低下していたのだろう。側面からの奇襲によって攻撃を中断。一部兵士が逃亡。
 アルカード隊には、スニア隊が弓矢で応戦を開始射撃しつつ前進を開始する。狙いは指揮官。矢の集中攻撃を受けてアルカードに負傷判定。
 その間にマレス隊の先頭とランディ隊が接触する。ファング隊とサトル隊が接近してくるのを見て、キースが場内への撤退の合図を送る。城壁からキース隊の援護射撃が開始される。
 しんがりを務める巴隊の最後の一人が城砦に入ると、同時に強固な城門が閉まる。
 消耗したマレス隊に代わってファング隊が城門への攻撃を開始。これに対して美加隊が城門の上から、油に見立てた水をかぶせて火矢による攻撃を実施。
 正面3隊が攻撃にあぐねている間に、アルカード隊がロープを手に城壁に近寄った。しかし、すでに行動は明るみにでていた。こちらでも油と火矢による攻撃を受けた。
 ティラ隊とエルシード隊は、昨夜のように抜け道を通った部隊が後方から攻撃をしかけてこないか警戒しつつ待機していた。グレイ隊は味方のピンチに救援に向かったが、けがしたと判定された味方を後方に移送するだけでやっと。最初に突撃した隊が、城壁から離れる。遠巻きに城砦を囲む。
「攻撃側はファング隊被害甚大。マレス隊被害大、アルカード隊被害大」
 ファングとアルカードは負傷判定により指揮不能扱い。隊は撤退の扱いとされる。
 判定役が被害とそれにともなう士気調整を宣言していく。味方が被害を受けることによる士気低下。士気が一定以上低下すると、指揮官が無事でも士気崩壊を起こして脱走する兵士が出る。今日は、そこまではいった隊はない。
「油と火矢の攻撃は」
 地球から来た天界人が行ったわけだが、反感を買った。スマッシュEX+バーストアタックで城門を破壊しようとしたため、隊長のファングが被害を受けた。攻城兵器なら火矢で攻撃しても文句をいわれない。ならば、それと同様に扱われただけと言われれば反論もできない。
 防御側も迎撃に向かったランディ隊に被害が多かった。それに撤収でしんがりを行った巴隊も。しかし巴隊は巴の豪華お手製弁当の効果で、士気はまだまだ維持できている。むしろ、味方を無事撤退させた分だけ高まっている。
「攻撃側には、城砦がどのように映っているだろうか?」
 キースは遠巻きに包囲した敵を見ていた。戦死判定、継戦不能判定を受けた領民は家に返される。どの隊でも体力の低い者を当てていた。実際に戦いでは体力の弱い者から被害者になると思われるからだ。
 城砦外側の柵はすべて、破壊あるいは撤去の判定を受けている。
「進入が難しい」
 攻城兵器は不足している。弓矢で城砦内を攻撃するにしても、攻撃側からでは打ち上げ、城砦からはうち下ろしになる。決して圧倒できる状態ではない。
「仕掛けて失敗すると、防御側の士気が高まる。ここは」
 夜を待つ。暗くなれば城砦のとりつく事も可能なはず。襲撃をしかけるなら、防御側の気の緩む真夜中過ぎ。昼間の攻防では、防御側の人数の方が少ない。その分疲労も蓄積しているはずだ。
 被害を受けていないクナード隊とサトル隊、グレイ隊とエルシード隊、セシリア隊と比較的被害の少ないマリウス隊の3組が3カ所から城壁にとりつく。
 暗くなれば、音によって注意を背けることができると、別方向でマレス隊が大きな音を立て続ける。
「防御側を音で眠らせないというのも、副次的には効果がある」
 サン・ベルテでは却下された手段ではあるが、ここは混成部隊ではない強み。

●城内戦
 防御側は人数的な差が出てきていた。防御側5隊では、城砦すべてはフォロー仕切れない。規模を大きくしすぎたことが問題なのかも知れない。城壁にとりついた3隊のうち2隊まではどにか対処できた。しかしセシリア隊とマリウス隊は妨害を排除して城壁を越えた。今回はマリウス隊も案山子を抱えていない。
 スニア隊がダガー装備で迎撃に向かうが、セシリア隊の槍が邪魔に入る。ダガーと槍では槍に軍配。しかし、セシリア隊も疲労が高まる。
 防御側は城壁防衛に行った隊を呼び戻してマリウス隊とセシリア隊への攻撃を開始する。セシリア隊の槍とマリウス隊のダガーで相互に協力しあいながら、後続を待つものの、いつまでも後続は現れない。次第に劣勢に追い込まれる。城壁で撃退された2隊が早期に建て直すか、別の隊をすかさず投入していれば、橋頭堡を確保して城内でも優位に戦いを展開できただろう。
 次第に夜が明け3日目の朝がやってきた。セシリア隊とマリウス隊は、城壁の一角を占拠したものの、すでに体力的に限界に達していた。とはいえ、防御側にもそれを奪回できるだけの力もなかった。
「そろそろ終結か」
 ロッド卿は攻撃側、防御側ともに継戦能力的に城砦占領ができなかった段階で模擬戦の終了を伝達した。伝達が終わった段階で疲労の極に達していた領民たちは、そのまま意識を失って倒れこむ者が多数発生した。冒険者も城砦内に用意された部屋で休憩に入る。

●ゴーレムによる攻防戦
「今日が模擬戦最終日だ。今日はトルクのゴーレム工房よりの依頼で、ゴーレムを使った城砦攻撃と防御を行ってみる。事前にゴーレム兵器を見ていた7人がゴーレム兵器にとりつく。
 エルシードはルーケイで行われたゴーレムグライダーを使ったスキップ爆撃を試してみた。高速による低空飛行。城砦の外側の柵が邪魔になる。柵の間隔では、木の部分に命中させる方が難しい。それにこの位置でリリースしたら城砦までは遠すぎる。城砦に接近してリリースしたものの、城砦の外側の堀に落下した。平らな地面があってこその戦術。木造ならともかく、相手が堀では効果は高が知れている。
 グライダーに標的用の吹き流しをつけて、グレイが射撃強化型の試作品の弓で、標的を狙う。射撃技能の関係でグレイが選ばれたが、本当のところはもっと射撃技能の高い者の方がよかった。」
「間違ってもこっちにあてないで」
 交代でグライダーを操っているティラは、祈るような気持ちだった。あんな矢があたったら上半身と下半身が空中でお別れしてしまう。グレイも慎重に狙いをつける。放った矢は接近してくるグライダーの脇を通過して目標命中した。
 この後は、ゴーレムが実際に城砦に向かって進撃してくるところを城砦の上から領民たちに見せる。
 美加はその様子を観察していく。城砦にいる分安堵しているのがわかる。実際に今回の模擬戦に参加したためが、城砦の安全性については疑いを持っていない。しかし、ゴーレムが接近してくると威圧感を感じるようだ。ゴーレムを妨害するために設置された障害物はなんなく、排除される。
「心理的効果が大きい」
 美加は人型のゴーレムには、チャリオットやグライダーにはない威圧感を与えると解釈した。
 クナードがゴーレムグライダーを使ったスキップ爆撃でゴーレムに狙いをつける。低空高速で一直線に突き進み、双方の安全を見込んだ距離で模擬弾を投下する。そのままゴーレムに向かうが、バウンドするたびに速度は落ちる。そしてゴーレムに当たる直前に、模擬弾がゴーレムの盾で横殴りに叩かれて横に吹っ飛んだ。サトルがゴーレムを降りてきた。距離を詰めた実弾の場合でも一対一なら防げそうだ。
「馬上試合で相手のランスをシールドで弾くのとたいして変わらない」
「足の前面装甲を部分強化すれば、蹴り返せるかも」
 美加は技術者として、そう考えた。そういえばワールドカップはどうなったのだろうか。
「ワールドカップ?」
 ロッド卿が興味を持った。
「サッカーっていうスポーツの世界大会」
 美加が簡単にルールを説明して、サッカーボールを蹴って見せる。
「それをゴーレムでやったら面白いか」
 2チームで22体は、さすがにゴーレムの数が揃わない。人数的なルールは変更するべきだろう。
「分国王陛下に提案してみよう」
「キース試射してみてくれ」
 キースが乗っているのは、バガンの変わり種。肩の部分にクロスボウのようなものを装備している。城門の前におかれた標的に向かって照準を合わせる。標的はティラ隊によって、エーガン王に見えなくもない落書きがされていた。射撃技能のないキースがどこまで狙えるか。右肩から最初の1発が、振動がおさまると左から次の1発が標的に向かって飛び出す。2発とも、標的を貫通して城壁に突き刺さった。
「動かずに狙いをつけて、動かない目標ならば命中率は高い」
 そのような理想的な状態で使えることはないだろうが。攻防の技術者たちは今日のデータをゴーレムとともに持ち帰ってより完成度を高めるだろう。
「皆ごくろうだった。今回の模擬戦は非常に有意義であった。戦術的にも頼むに足りる腕前の者が多い。これからの活躍に期待する、ウィルのために」
 ロッド卿のその言葉で、模擬戦は終了。各隊の中で有望な領民が幾人か騎士見習いとして任命され、歓喜の声が上った。