空戦正道1〜トルクの紋章の下に

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月24日

リプレイ公開日:2007年04月30日

●オープニング

●酒場の下馬評
 ここは王都ウィルの某所にある酒場。とは言ってもここは冒険者酒場ではなく、ルーベン・セクテ公の行きつけの店である『竜のねぐら』でもなく、かといってマリーネ姫に親しい某バードの男爵殿が足繁く通う『妖精の台所』でもない。
 この酒場は王都を守る衛兵達がよく出入りする店だ。今日も店では非番の衛兵達が下馬評に興じている。話題に上っているのは、フオロ分国王エーロンの王命により最近行われたトーエン卿の救出作戦である。
「トーエン卿が無事に救出されたのは何よりですが、あの空戦騎士団長殿はいただけませんな。よりにもよって、敵地のど真ん中でグライダーを墜落させるとは」
「それに引き替えトルク出の副長殿は真に天晴れ。オーグラの群に囲まれる中、身の危険をも顧みずに墜落地点に駆けつけ、団長殿を救出なされたのだからな」
「まったく団長殿は不甲斐ない。救出に出かけて逆に救出されるとは」
「いつぞやは貧民街の魔物退治にしゃしゃり出て来て、お高く止まって偉そうな口ばかり効いていたくせに。所詮、実力はそんな物か」
「いっそのこと、あのトルクの副長殿を騎士団長と入れ替えた方が、よっぽど国のためになるではないか」
 言いたい放題に言ってくれる。こと、戦の話は人々に好まれる物ではあるが、人の口から口へと話が伝わるうちに事情を知らぬ者達によって事実が誇張されたり歪められたり、その挙げ句に度の過ぎた毀誉褒貶が横行しがちなのは世の常。そうでなくても高い立場にある者となれば、自然と周囲の見方も厳しくなるというものだ。
 急に酒場の中がしんと静まった。衛兵達の知らぬ間に、彼らを束ねる衛兵隊長が姿を見せていたのだ。
「空戦騎士団長殿のことで、随分と盛り上がっているようだな。構わん、続けろ。俺は鬱憤晴らしの酒場談義まで取り締まるつもりは無い。だがな、空戦騎士団長殿の名誉の為に、俺から一言付け加えてやろう。あの戦いで騎士団長殿は勇猛果敢に戦われた。だが、敵オーグラは卑怯なる罠を仕掛け、騙し討ちで騎士団長殿のグライダーを撃墜したのだ。騎士団長殿の負傷は名誉の負傷として讃えこそすれ、決して貶めるべきものではない」
 その言葉に暫く違いの顔を見合わせていた衛兵達だが、やがてその一人がおずおずと言葉を返す。
「ですが騎士団長たる者、一人で勇んで突っ走るばかりでは後に続く者が困ります」
 さらにもう一人が言う。
「やはり騎士団長はどっしり構えて欲しいもの。その点、以前の空戦騎士団長ヘイレス・イルク殿は申し分なき人物でありました。先王陛下とは気心が合わず、長らく不遇をかこった末に団長の座を今の騎士団長殿にお譲りになったと聞きますが、ウィルの王もフオロ家よりトルク家に移ったことです。現国王ジーザム陛下の覚え良ければ、団長復帰の道も有り得ましょう。仮にもしここにヘイレス殿がいらしたなら、今の騎士団長殿の有り様を見て何と言われることか‥‥」
「儂(わし)の意見を聞きたいというか」
 いきなりの太く重々しい声。衛兵達が驚いて声の方を見ると、そこに古強者と名を馳せたあのヘイレス・イルクがいた。
「ヘ、ヘイレス様‥‥まさかこんな所にいらっしゃるとは‥‥」
 ヘイレスは座っていた席から立ち上がり、衛兵達に歩み寄る。
「確かに、今の騎士団長には未熟な点もあろう。しかし人は誰でも最初は未熟者であり、その未熟さは不断の修練と訓練と実戦とを重ねてのみ克服できる物。彼女はまだまだ若いが素質はあるのだ。長い目で見てやれ」
 そう告げるとヘイレスはのっしのっしと大股で酒場の出口に向かう。その後ろ姿を見て、衛兵の一人が呟いた。
「若いったってねぇ‥‥ありゃエルフなんだよ」
 今の空戦騎士団長はエルフの女性。見た目は妙齢の女性だが、実年齢は優にヘイレスを越えているはずだ。

●軍議招集
「かねてより、空戦騎士団はヘイレス・イルクに任せようと思っていた」
 呼び出された王城で、冒険者ギルド総監カイン・グレイスはウィル国王ジーザムからそのように聞かされた。
「しかし先王の治世下、空戦騎士団が冒険者を中心に再建された事は、願ってもない逸材を掘り起こす契機となったのかもしれぬ。カインよ、今の空戦騎士団長並びに副長について、思うところを忌憚無く申せ」
 その言葉を受けて、カインは述べた。
「確かに彼らはヘイレス殿に比べれば若く、若さには未熟という短所が付きまといます。ですがその反面、若さには柔軟性という長所があります。そもそもゴーレムグライダーにフロートシップが発明されたのはごく最近のこと。空の戦いの歴史は始まったばかりなのです。ですから今後、空戦騎士団を統括する者達には、騎士の伝統を重んじた人選よりもまず、先見性と革新性を備えた者を据えるべきかと」
 じっとカインの言葉に聞き入るジーザムの隣には、分国王エーロンの姿がある。話を聞き終えるや、先に口を開いたのはエーロンの方だった。
「俺としては先王の時に行われた人選にこだわるつもりは無い。世はジーザム陛下の世に変わったのだ。空戦騎士団もまた仕切り直されて当然と思う。適材適所、能力ある者は上に、そうでない者は下に、どうしようもない者は騎士団の外に。また外に適格者がいれば、騎士団の中へ」
 勿論、王国所属の騎士団である空戦騎士団の団長と副長の任免権を持つのは、ウィル国王ただ一人。しかし分国王の言葉はウィル国王に大きな影響を持つ。エーロンの進言により新たな任免が為される可能性は十分にあるのだ。
「時に陛下、先にはトーエン卿救出作戦という、彼らにとってまたとない実戦の機会を得たばかり。先ずは彼らを招集し、本人自身により作戦の評価を為さしめるべきかと。騎士団を束ねる者、自らの成功と失敗を冷静かつ的確に評価する力を求められるが故に。並びに空戦において一見識ある者、高き能力ある者達を募り、今後の戦いに備えるべきかと考えます」
 エーロンのその言葉にジーザムは同意した。
「うむ。フオロ分国の内憂たるルーケイを早急に平定せねばならぬ事もある。先のトーエン卿救出作戦からは、来るルーケイ平定戦に役立つ数々の教訓を引き出せよう。カインよ、冒険者ギルドを通じ、空戦の軍議を招集せよ。余は冒険者達の忌憚無き意見を聞き、うち優れたるものを空戦騎士団再編の為の指針と為さん」
「御意」
 王城を後にしたカインは、すぐさま冒険者ギルドより依頼を出した。
 ウィル国王ジーザムとフオロ分国王エーロンを前にしての御前会議。ウィルの軍事に関わるだけにその内容は軍務に携わる者、並びに冒険者以外に明かされることは無い。

●新戦法
 先のトーエン卿救出作戦は、空戦騎士団副長の一人であるガージェス・ルメイに新戦法のアイデアをもたらした。
「森林地帯の戦闘は、グライダーの低空飛行では撃墜される危険が高まる。なれば出来る限り高所から矢を放つなり‥‥いや、待て」
 高所からの落下物で敵にダメージを与えるなら、矢の形である必要は無い。
「先端の矢尻だけを数だけ集めて、高空からばらまいてはどうだ? 」
 試みに矢の数倍の重さのある巨大なダーツ型の武器を幾つも作らせ、グライダーで実験してみた。
 結果はまんざらでもない。命中率の低さは数でカバー、高所から落下する特製のダーツは、木製の標的を片っ端から撃破した。
「使い勝手はそう悪くは無い。この武器はヘビーダーツと命名しよう」

●今回の参加者

 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4263 ルヴィア・レヴィア(40歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

物輪 試(eb4163

●リプレイ本文

●ウィルの軍制
 ヘビーダーツの話を聞かされた時、市川敬輔(eb4271)は奇妙な感慨を覚えたものである。
「ヘビーダーツねぇ? ‥‥爆発こそしないものの、まさかクラスター爆弾のアイデアを考えつく者が出て来るとは‥‥ここの連中も、俺達の世界の考えに順応してきたって事か?」
 ちなみにクラスター爆弾とは、多数の小型爆弾を内蔵した爆弾である。投下されると小型爆弾を広範囲にばらまき、被害を与える悪名高い兵器だ。
 ともあれ、新国王の下で空戦騎士団が正式に活動し始めたのは喜ばしき事。航空騎士の資格を持つ敬輔だが、騎士団の入団を希望している事もあり、今回の会議への参加を決めた。
 ちなみに封建国家ウィルの空戦騎士団は近代的な常備軍ではなく、未だ封建軍の段階にある。戦闘に特化した職業的軍人から構成されている訳ではなく、軍隊の構成員である貴族や騎士は平時においては自分の領地経営に携わり、戦争が起きて初めて主君の元に招集され、それぞれが主君と交わした契約に従って戦闘に参加するのだ。
 領地を持たぬ大部分の冒険者にとっても、有り様は似ている。平時は様々な依頼をこなし、いざ戦争という時になれば各騎士団の構成員として、もしくはそれぞれの任務に応じた部隊の一員として、軍務に服することになろう。

●出席者たち
 御前会議の出席者を総覧すると、以下のようになる。
《御前会議出席者一覧》
 ジーザム・トルク(ウィル国王)
 エーロン・フオロ(フォロ分国王)
 オーブル・プロフィット(ゴーレム工房長)
 カイン・グレイス(冒険者ギルド総監)
 シャルロット・プラン(冒険者・空戦騎士団長)
 エリーシャ・メロウ(冒険者・空戦騎士団副長)
 レイ・リアンドラ(冒険者・空戦騎士団副長)
 ガージェス・ルメイ(空戦騎士団副長)
 ヘイレス・イルク(航空騎士・元空戦騎士団長)
 サイク・クアド(トルク空戦騎士団長)
 アレクシアス・フェザント(冒険者・王領ルーケイ代官)
 越野春陽(冒険者・ルーケイ伯与力・航空騎士)
 ルヴィア・レヴィア(冒険者・航空騎士)
 リール・アルシャス(冒険者・航空騎士)
 市川敬輔(冒険者・航空騎士)
 キース・ファラン(冒険者・トルクの功労者)
 白金銀(冒険者・メイからの来訪者)

 ちなみに一部の冒険者には面識のある航空騎士サイク・クアドは、ジーザムによりトルク空戦騎士団団長に任命されていた。ジーザムがウィル国王に即位する直前の話である。平時においてサイクはトルクの所有するフロートシップ並びにゴーレムグライダーを統括し、その使用や運航に責任を持つ。戦時においては彼の指揮するトルク空戦騎士団も、王立空戦騎士団に編入されることになろう。
 なお、会議の書記は月例新聞編集員の知多真人と、フオロ分国王家調査室の書記リュノー・レゼンが担当した。

●自己評価
 会議が始まるや、エーロン分国王は求めた。
「先ずは空戦騎士団幹部達に、先のトーエン卿救出作戦について自己評価を下して貰おう」
 この言葉を受け、副長エリーシャ・メロウ(eb4333)が真っ先に発言した。
「一冒険者として、寡兵の中で期待された前線での働きでしたが‥‥当初、魔獣騎乗を考えていた私には、航空騎士として申し上げられる事は無く。ですが、重傷にも関わらず敵を見据えたシャルロット卿のご処置には感服致しました。拙き技術からの消極性故に罠を逃れたに過ぎぬ私が卿をお救いした事が、唯一の功かと」
「では今後、空戦騎士団はどうあるべきと思うか?」
「総監閣下のおっしゃる先見性と革新性のみならず、統率力、行動力、見識を兼ね備えたるシャルロット卿が騎士団長に留まられる事こそ、適材適所と存じます」
 ここでエリーシャは、同席するヘイレスをちらりと見る。
「無論、騎士の大先達たるヘイレス閣下は尊敬申し上げております。されど拝命の後、騎士団が形も為さぬ半年間、私を初め騎士団に関わり国に忠義を為さんと志す者が団結を保ちえたは、偏にシャルロット卿のご尽力。英明なる両陛下に措かれては、その功と我等の卿への親愛をお見過ごしになる事は有り得ぬと信じております。それでも新たな人事を行われるならば、せめて私に代わり卿を副長に任命下さいますよう。空戦に向かぬ私如きより、遥かにウィルに…陛下にとって益となりましょう」
「他に何か希望はあるか?」
「騎士団の象徴として、騎士団旗を賜りたく。その理念と同じく、一分国ではなく大ウィルの紋章を下地とし、騎士団の色で染めた旗を望みます」
「旗についてはその望みを叶えよう。真に天晴れな心構えである」
 ウィル国王ジーザムはそう約束した。
 続いて、副長レイ・リアンドラ(eb4326)が発言する。
「空戦騎士団に最も必要なことは、即時展開能力と考えます。王命あらば、翌日には現地で作戦行動──例えば戦や魔物退治、災害救助、情報収集など──を行える素早さが被害の拡大を防ぎ、相手の思惑を凌駕できるのです。相手を制圧する必要のある地上戦力とは根本から運用目的が違います」
 前置きに続き、救出作戦の評価に入る。
「先の合戦で、グライダーからの対地攻撃は十分な成果を果たしたといえず、また敵に反撃する猶予を与えてしまいました。本来、グライダーの対地攻撃は数を揃えて編隊を組み、連携して初めて効果を発揮するものです。点や線ではなく面よる攻撃こそが重要といえるでしょう。ですが現状、遠距離への移動は襲撃の危険の高い地上の輸送部隊に頼り、部隊の準備や警備にも人員を集めなくてはならず、ゴーレム機器の投入に躊躇する状況。本来の特性を活かしきれていません。搭載量、機動力を兼ね備え、その護衛を空戦騎士団自体が行える安全な空の拠点としてフロートシップの早期導入を要望します」
「騎士団長について何か言う事は無いか? 遠慮はするな」
 これについては黙っていようと思ったが、エーロンに求められては仕方がない。レイは思うところを率直に述べた。
「騎士団長殿の負傷について、様々に取り沙汰する向きもあると聞きます。ですが、成熟した組織ならいざ知らず、実績も何もない今の騎士団では幹部自ら前線に立ち血を流す覚悟がなければ、他の騎士の信用は得られないでしょう」
 その言葉にエーロンは笑みを漏らした。
「それもそうだ。お前はよく理解している」
 そして、騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)の番が回ってきた。
「弁解はしません。結果が全てです」
 救出作戦については短く自己評価を下す。
「他に、何か言う事はあるか?」
 試すように、エーロンは発言を促す。
「では、上位者としての方針を。空戦騎士団には優秀な者たちが集まっており、上の者が優劣手柄に拘る必要は全くないと存じます。但し、団長職を務める際には次の3点を心掛ける所存です。
 一つ目は、部下が失敗したらその責任を取ること。
 二つ目は、自主性を可能な限り尊重し、無為に叱らず長所を伸ばすこと。
 そして三つ目は、積極的に彼らが動けるよう舞台を整える努力を常に行うこと
 私ができることはそれくらいのことです」
 一呼吸置き、続ける。
「全ては次の世代。そして次の次の民の為に。今は自主性を重んじ、種を蒔き芽が出るのを待つ時と考えております」
「陛下」
 と、エーロンはジーザムに言葉を向ける。
「今暫くの間は、空戦騎士団をこの者に預けても良いかと。優秀なる部下はその不足を補いて余りあり。万が一にも不名誉なる失態あらば、この者は潔くその責を負いて退き、より優秀なる者に空戦騎士団を託すこと間違いなしと判断致しますれば」
 棘のある物言いである。しかしジーザムは表情を変えることなく言葉を下した。
「うむ。余もシャルロット・プランに王立空戦騎士団を預ける事に異存は無い。他の者についても然り」
 こうして王立空戦騎士団は、先王の統治下に為された人選を受け継ぐ形で、新国王に引き継がれることになった。

●メイの国から
「ではここで白金銀殿の報告を。折角、メイの国からいらしたのですから」
 カイン総監に発言を求められ、白金銀(eb8388)銀はまずジーザムにメイとその留学生に対する格別の配慮への御礼を述べ、続いてメイにおけるゴーレムグライダー関係の実状を報告した。
「グライダーの数が少なく、搭乗員の質は冒険者頼みの面が大きいです。相手とする敵も小回りが効く飛行恐獣が中心なので、まともな戦闘には使い辛いです。最近では、無音飛行時の隙を突かれて攻撃を受け、墜落した事例がありました」
「無音飛行だと? 話を詳しく聞かせろ」
 エーロンに求められ、銀は詳細を説明。これは銀も関わったメイの砦攻略戦においてであるが、噴射音により敵に発見されるのを避けるべく、ゴーレムグライダーの動力を切り、半滑空半落下状態で敵を攻撃する戦法が取られたのだ。しかし作戦に投入された航空隊のグライダー4機のうち1機は再起動に失敗して墜落。残る3機も敵に撃墜され、航空隊は全滅したのだ。
「何ということだ。貴重なグライダーに操縦士を‥‥」
 思わず呟いたのは副長ガージェス。その場にいた他の者達にとっても、衝撃的な報告だった。
「メイにおけるカオスとの戦い、かくも苛酷なるものか」
 ジーザムも斯くの如く言葉を発した。

●提案〜空戦騎士団の編成と戦術
「メイの報告は以上ですが、空戦騎士団の編成と戦術について提案があります。一部、騎士道にそぐわず、カオス勢力との戦いにしか適用できないものもありますが」
 続く白金銀の提案は次のようなものだった。

《1》編成
 ・小隊は隊長機とそれに従う3機の、計4機編成。可能ならば2機1組を分隊とする。
《2》空戦戦術
 ・分隊内では互いを援護し合う事を基本とし、各分隊は小隊内の他の分隊を援護し合う。
 ・空中戦は一撃離脱を基本とし、互いの背後を狙って急旋回を繰り返す巴戦は極力避ける。
《3》爆撃戦術
 ・出来る限り12機と隊長機から編成される中隊を揃え、弓の射程外である高高度より編隊を組んで爆撃する。
 隊長機が先導して爆撃し、その着弾を見て他の全ての機体が追随して投弾する。
 ・小隊単位で低高度無音飛行を行い、敵に気付かれない様投弾する

 さらに銀は、パラシュート等で乗員の安全を確保するよう提案。但しこれには天界知識の吸収欲旺盛なエーロンから、パラシュートでは低空飛行において効果を発揮しないという指摘があった。
 最後に銀はジーザムに願う。
「メイの留学生に対しても、新たに技術を学ぶ機会が得られますようお願いします」
「カインよ」
 ジーザムはカインに発言を促し、カインは答えた。
「ゴーレム先進国のウィルにおいては現在もなお、様々な新型兵器の開発が進められています。また天界知識を元にしたさまざまな新戦法も編み出されつつあります。冒険者ギルドの依頼としてそのテストや実戦に加わり、また新戦法を試す機会もあることでしょう。先ずは冒険者として依頼を受けて下さい。冒険者ギルドはウィルの冒険者もメイから来た冒険者も平等に扱います」

●資金疑惑に関して
「一つ願いがあります」
 と、副長レイが発言する。
「先の選王会議が開催された折り、空戦騎士団の資金疑惑が取り沙汰されたと聞きます。今後このような事が無きよう、空戦騎士団の人員やゴーレム配備などの現状、並びに騎士団が抱える問題点を明確化する為のお計らいを」
「そもそもこの会議自体が、それを目的としたものだ」
 と、答えたのはエーロン。
「資金疑惑については気にするな。先王の頃には不逞の輩が付け入る隙があったものの、ジーザム陛下のご統治が始まって以後、不審な資金提供者は全て排除した。今後は心煩わせる事なく副長としての職務に専念してよし。疑惑の追及は別の者の仕事となろう」

●各騎士団との連携
 続く議題はショアと縁の深いリール・アルシャス(eb4402)から上げられた。
「各騎士団との連携について話をさせて頂きたい。以前にはグライダーはまだまだ高値の花という印象があったが、現在は如何だろうか? 何事にも情報伝達は重要。早急には困難かもしれないが、グライダーによる情報伝達を整備すべきだと考える。各騎士団に、空戦騎士団の航空騎士が出向するか、航空騎士が所属するようになればと思う。どのような形にするかは、団長・副団長、識者の方々のご意見に賛同させて頂く」
 ショアに拠点を置く海戦騎士団との連携を置いたリールの発言。キース・ファラン(eb4324)もこれに同意し、自分の意見を付け加える。
「俺も、地上戦力との連携の手段について取り決めるべきだと思う。空戦は地上戦のサポートをしてこそ、意味があると思うんだよな。たとえば指揮官からの連絡を、飛び方や翼の揺らし方を用いた合図という形で、戦場全体に伝える役割を果たすのもいいかと思う。特に全軍突撃の合図を空からやれば、味方にも伝わるが敵にも伝わってひるませることが出来るんじゃないだろうか?」
「面白いことを言う。全軍突撃の合図で敵を怯ませると?」
 と、エーロンが最後の部分に対して突っ込んだ。
「いや、アイデアを出すこと自体は悪く無い。もっと効果的な怯ませ方として、一度グライダーの編隊で砲弾の爆撃を行い、敵を徹底的に叩くというのはどうだ? さすれば敵はそれ以後、砲弾を積まぬグライダーの編隊を見ただけでも逃げ出すようになろう」
 キースは勢いを得て、さらに提案。
「他にも攻撃方法としては、遠距離攻撃のできるウィザートやレンジャーを乗せて空から攻撃することも出来るだろう?」
 実際、東ルーケイの平定戦ではその戦法が用いられた。
「味方に守られている指揮官を上空から攻撃して、指揮系統を混乱させるとか、大型兵器や・補給物資を狙って攻撃・破壊するとかもな。地味ではあるが、相手の継戦能力を奪い、士気崩壊を誘うことで地上戦力の援護に徹すれば、大きな成果にならないだろうか?」
 ここまで言って、最後に付け加える。
「もっとも、騎士道は最大限に尊重すべきだ。これらの戦術の多くは、騎士道を適用する必要がない相手に限定されるだろう。最後にもう一つ。敵も航空兵器を使ってくる可能性を考え、城砦に対空兵器を用意することを提案したい」
 騎士団の連携に関してはルヴィア・レヴィア(eb4263)も一見識あり、提案する。

「陸戦騎士団の出動に際しては空戦騎士団と共同した方が効率的でしょうし。また多くの場合、空戦騎士団だけが出動する可能性は低いと思います。で、あるならば常時は飛行伝令と偵察兵に特化した支隊を各騎士団に派遣し、その他は空戦騎士団が一元管理する体制が望ましいかと。また、先の白金銀殿の報告にもありましたが‥‥」
 騎士道を用いない相手に対する空爆、さらには敵軍が空爆を使用した場合の対抗手段として、ルヴィアは次の部隊編成を提案した。

《1》空爆隊
 空爆攻撃の主体。
《2》空爆支援隊
 敵の攻撃に備えて空爆隊をエスコートするなどして、空爆の精度を上げる。
《3》対空防衛隊
 敵軍の空爆から自軍を守る。

「これらが原則必要となりますが、これに従来の飛行伝令と偵察を混ぜたら、とても効果を挙げる数を得られず、騎士団同士で縄張り争いと人員の引っ張り合いが始まる恐れがあります」
 編成の最小単位は騎士の考えと感情を踏まえ、従来の騎士+従兵の小隊とする。
 1小隊は隊長と副隊長の預かる2分隊による構成とする。
「運用と訓練においてはこれが良いかと」
 大規模および中規模の部隊編成では、
《1》ゼネラリスト(総合型)+一部のスペシャリスト(特化型)か
《2》異なるタイプのスペシャリストの相互互換
 このどちらかを選ぶことになるだろうと言及する。
 それぞれの発言が終わると、シャルロットはエーロンから言葉をかけられる。
「色々と有益な意見が出たが、騎士団長にはこれら全てを吟味した上で採用か否かを決める権限がある」
 ジーザムからも言葉を頂く。
「必要以上に急ぐ事は無い。事は空戦騎士団の根幹を為す事柄。慎重に事を運ぶが良かろう」
 これはシャルロットに出された大きな宿題である。

●新戦力
「さて、天界人殿各位の建白による対カオス部隊についてだが、カインから説明がある」
 ジーザムに促されて説明が始まった。
「報告が二つあります。どちらもルーケイ伯に取っては朗報でしょう。工房は搭載量を飛躍的に増やしたチャリオットの開発に成功しました。合わせてエレメンタルキャノンの小型化にも成功しております。既に総数50を超え、まもなく実戦投入も可能です」
「「50ですか!」」
 敬輔と春陽は即座に戦闘教義を理解して驚きの声を上げた。小型とは言え、戦場にこれほどのエレメンタルキャノンを投入した例はない。エレメンタルキャノンとは元々城塞据え付けの防御兵器なのである。それが、チャリオット搭載にしたことで砲兵陣地の速やかなる配置転換が可能になっている。
「チャリオットはぎりぎりの強度なので、無防備となる発射時には敵ゴーレムやモンスターの接近を許してはなりません。装甲チャリオット他でのガードが必要です」
「もう一つは?」
 識らず。アレクシアスは身を乗り出していた。
「イムン分国とセレ分国から、大ウィルのための部隊の拠出申し出がありました。セレからはゴーレム弓兵隊、イムンからはゴーレムによる特殊強襲隊です」
「特殊強襲隊?」
「なんでも、天界では空挺部隊と言う代物だそうで」
 天界人達がざわめいたことは言うまでもない。

●ルーケイ平定戦
「さて、王国において最も重大な懸案の一つがルーケイであるが‥‥」
 ジーザムが言葉を発するや、ルーケイ伯アレクシアスが願い出た。
「ウィル国王陛下、並びにフオロ分国王陛下、そして空戦騎士団長殿。私は王領ルーケイ代官として、西ルーケイ平定戦への正式な協力を要請致します」
 続いてアレクシアスは敬輔と春陽の2人を指名。
「ルーケイの現状、並びに来る平定戦の作戦立案については、彼らよりお聞き頂きたく」
 指名を受け、敬輔と春陽の両名は話を始めた。

《次回OPに続く》