空戦正道2〜揺るがぬ白百合

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月23日〜06月28日

リプレイ公開日:2007年07月05日

●オープニング

●戴冠式
 精霊暦1040年5月25日。この日は新ウィル国王ジーザム・トルクの戴冠式が行われた輝かしき日として、長らく記憶されるであろう。
 謁見の間の中央。国中から集いし臣下達が見守る中、新ウィル王を取り囲む5人の分国王達の手が、輝ける王冠をジーザムの頭に被せる。そしてジーザムは延々と伸びる長絨毯を踏みしめて王座の高みへ上ると、厳かに宣告した。
「我、ジーザム・トルクはここに大ウィルの王となりたることを宣告す。
 代々の王が培いし大ウィル。その王座に今、我は座す。
 我はその頭(こうべ)を以て国民(くにたみ)を導く旗印となし、
 その両の手には敵の手から国民を守る剣と盾とを握り、
 その背には国民全てを養いゆく責務を負い、
 その足でもって国民と共に長き道を歩まん。
 そして我が心は常に、大ウィルの国民と共にあり」
 臣民一同、声を一つにしての祝福でこれに応える。
「大ウィルの大君、今ここに立つ。
 大ウィルの大君、今ここに立つ。
 聖山シーハリオンの輝きよ、
 我らが大君の歩まれん道を照らし給え。
 世界の守護者たる七大聖竜よ、
 我らが大君をその強き御力で護り給え。
 世の森羅万象をつかさどる精霊たちよ、
 我らが大君をその奇(くす)しき業で助け給え」
 ここにウィルの王と臣民は心を一つにし、新たなる歴史への第一歩を踏み出した。──と、この戴冠式に参加した者は、誰もが思ったことだろう。

●叙任式
 この戴冠式に続くは、ウィルの各騎士団幹部の叙任式である。実は、ウィルの王としてのジーザムの執務は戴冠式の以前から始まっており、騎士団幹部にしても既にその地位にある者が多かった。式典はあくまで対外重視のもの。とはいえ、新国王就任という国を挙げての一大式典に併せ、新国王が手ずから彼らを再叙任することは大きな意味がある。この叙任式は騎士団が国王と心を一つにし、一丸となって国を支えゆくことを象徴する儀式なのだ。
 ウィルには精鋭部隊である白銀騎士団から、冒険者の提言により設立された水上騎士団に至るまで、王国に所属する7つの兵団がある。その中でもウィル空戦騎士団は、騎士団長と副長の大部分を冒険者ギルドに所属する者達が占め、兵団の中でも異彩を放っていた。
「汝をウィル空戦騎士団団長に叙任す」
 面前に立て膝ついて畏まる騎士団長を前にして、新国王ジーザムはその剣を騎士団長の肩に置き厳かに告げた。その剣の重みを受け止めつつ、騎士団長は誓いの言葉を為す。
「陛下より授けられし我が使命、一命に代えても全うすることを誓います」
 こうして騎士団長と3人の副長達の叙任を終えると、さらにジーザムは朗々たる声でもう一人の者を呼び寄せた。
「正騎士ヘイレス=イルクよ! 近う!」
 髪に白い物が混じった壮年の騎士がジーザムの前に進み、立て膝をついた。この男こそ古強者として名高い正騎士ヘイレス=イルク。先に騎士団長と副長を叙任した時と同じく、ジーザムはヘイレスの肩に剣を置き宣告した。
「汝を大型フロートシップ、イムペットの艦長に叙任す」

●ルーケイ平定戦に向けて
 話は今より2月ほど前の御前会議に遡る。この御前会議ではルーケイ伯が直々に、来るルーケイ平定戦に対しての支援をジーザム王に求めた。
 その要求をジーザム王は認め、具体的な軍議が始まった。
「これが、盗賊『毒蛇団』がその勢力下に置く地域です。西ルーケイのみならず、ワンド子爵領を間に置いた近隣領のロメル子爵領にまで、その勢力は及んでいます。
 と、事情に詳しい地球人の冒険者が地図を広げる。

   ↓ロメル子爵領
  ━━━━┓
  森?□森┣━┳━━━━
  森−‖┏┛森┃森森森−王
  ━━‖┛−森┃森?森−領  □:湖   ‖:川  ━:領地の境
  −−‖−−−┃森森森−ル  ?:森の砦
  −−‖−−−┃−−−−│  ?:平野の砦
  −−‖−−−┃−?−−ケ  ?:ロメルの村
  ━━‖━━━┻━━━━イ
  ↑ワンド子爵領
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜大河

 続く説明はルーケイ伯与力の一人が引き継いだ。
「現在、ルーケイでは東部を平定したルーケイ伯の軍勢と、中央部を実効支配する旧ルーケイ家の遺臣軍が睨み合いを続けています。ですが我々にとって真なる敵は毒蛇団に他ならず。双方の対立が解消されれば、速やかに真の敵との戦闘に入ることも可能と考えられます」
 この言葉にフオロ分国王エーロンが応じる。
「いいや、そこまで待つ必要は無い。ウィルの王座がフオロからトルクに移ると同時に、じり貧だった王家の軍備も想像を絶するまでに拡張された」
「では、空戦騎士団所属のグライダー用母艦となるフロートシップの配置の配備も可能でしょうか?」
 この冒険者からの質問に答えたのは、トルクのゴーレム工房長オーブル=プロフィット。
「勿論だ。そしてフロートシップはグライダーの母艦のみならず、純然たる攻撃兵器としても使用される。これを見たまえ」
 オーブルは皆の前に図面を広げる。皆は息を飲んだ。図面に描かれたのはそれまで見たこともない大型フロートシップ。その全長は100mに達しよう。最も利用度の高い小型フロートシップの倍の長さだ。
「かねてから極秘のうちに建造が進められていたが、もうじき完成する見通しだ。その搭載する大型エレメンタルキャノンは直径60mの火球を放ち、並みの砦ならば一撃にして大ダメージを与えることが可能だ」
「正しく、このイムペットはウィル空戦騎士団の要。この船を預けるに足る力量を有する者は、ウィルにおいても限られている」
 重々しく口を開いたのはジーザム王。そして王は会議に同席する正騎士ヘイレスに言葉をかけた。
「正騎士ヘイレス。其の方にこの船を預けよう」

●工房長オーブルより
 時は再び戴冠式の日へ。今、空戦騎士団長は他の要人ともども、低空飛行で王都をぐるりと周回するイムペットの艦上にいる。
「こんな船まで建造するとは‥‥」
 騎士団長が漏らしたその言葉には、賞賛よりも寧ろ懸念の響き。しかし、同船するオーブルは得意満面だ。
「軍馬が丸1日かけても走破できぬ距離を、このイムペットはたったの半日で駆け抜ける。操縦者となる鎧騎士が十分な数、確保できればの話だが。但し暫くの間、イムペットはウィエ分国のエルート王に貸し出され、盛大な舞踏会の会場となる」
「この船で舞踏会を!?」
 一瞬、耳を疑った騎士団長だが、すぐに合点がいった。
「ルーケイ平定戦に向けた我々の動きを、毒蛇団に気取られぬためのカモフラージュですか?」
「いかにも。そして来るルーケイ平定戦は、ドラグーンも含めたゴーレム兵器を大々的に投入し、短期間で一気にかたをつける。私にとっては願ってもない実戦テストだ。揺るがぬ白百合と称される貴公が指揮を取るならば、それらの新兵器は見事な働きを示すはず。‥‥そうそう、もう一つ渡すものがあった」
 そう言ってオーブルが手渡したのは、
「工房で開発したライフ・エアバックの試作品だ。既に資格者には秘密裏に私物としての配給が始まっているが、平定戦の開始までには十分な数を揃えられるだろう」

●作戦会議
 さらに時は過ぎ、ジーザム王は空戦軍議の招集をかけた。今回の軍議では、空戦騎士団を中核としたルーケイ平定戦の枠組みが定められることになろう。またイムペットやドラグーンを始め、数々の新兵器の運用についても、極秘のうちに検討が行われる予定だ。
 元々の発案者の属すショア伯爵とシグ男爵の領地には密使が送られ、装甲チャリオット部隊やエレメンタルキャノン搭載チャリオット部隊の指揮者や魔法使いの密かなる確保が打診された。
 今までウィンターフォルセの要望によって行われていた魔獣預かり施設の関係で、ウィル屈指の魔獣フリーダーである女王様代に特許が下され、彼女に手ほどきを受けた冒険者に、十分に馴らした魔獣・猛獣のブリーダー免許を任せた。彼女の私的な免状を受けている者にも、順次ウィルのブリーダー免許が交付されて行くであろう。
 セレにはゴーレム弓箭隊の要請が行き、その効率的運用に騎士道に捕らわれぬ射撃戦術を識る天界人を参画させる決定が下され。短期間で比較的安価に出来る、ルーケイ伯与力・鬼面男爵の発案によるゴーレム用スリングと砲丸の調達も進行している。予想される対カオスの魔物との戦いに備え、水銀法によるゴーレム用剣の銀メッキも行われている。
 ルーベン・セクテは宣う。
「圧倒的な戦力で、カオスの族(やから)を叩きつぶす。あの仔犬めの要望通り、ルーケイ伯養子の披露目を名目に兵力を集中させるのだ。規模は参画する冒険者諸氏により、さらに拡大されるであろう。決行日を六月末日とする」

●今回の参加者

 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4263 ルヴィア・レヴィア(40歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ 物輪 試(eb4163

●リプレイ本文

●強すぎる力
「戦いの準備か。燃えるぜ」
 と、軍議に集まった仲間達の顔を見て、キース・ファラン(eb4324)が開口一番に言った台詞がそれ。
「ゴーレムの破壊力と機動力は強力だ。これを生かして一気に拠点を破壊し尽くせば、敵の戦意も喪失する。逃げる敵に対して空からの追撃・空襲を行うことも出来る」
 これを聞いて口を開いたのが、空戦騎士団副長のレイ・リアンドラ(eb4326)。
「私としては、遠距離からの大火力の砲撃で一方的に敵を撃破するような戦法には違和感を覚えますが、それも時代の変革と言うところでしょうか」
 しかしキースはあくまでも、力の行使に肯定的だ。
「正論から言えば、従来通りの堅実な方法で行くのがベストだろうな。命をかばっては、挙げられぬ戦果があることも事実だ。だが、そのような戦をしなくても済むような戦力が今回あるんだ。ならば、できるだけ少ない被害で最大の効果を目指すのが一番だろう。新たに山賊行為や反乱を起こす気力がなくなるほどの、派手な戦果を見せ付けたいぜ」
「ですが、たとえ戦意喪失を誘う為でも、あまりに破壊を行い過ぎる事には反対です」
 同じく副長のエリーシャ・メロウ(eb4333)は、あえて自分の心中の思いをはっきりと表明した。
「たとえ騎士道の適用に値せぬ盗賊相手とは言え、ゴーレムを多数用いた初めての実戦です。国内の盗賊討伐程度の戦で、大規模な破壊を行う事の悪影響を私は危惧します。ウィルの内部事情とはいえ周辺諸国が注目している事は確実なのですから、下手をすればゴーレム及びウィルに対しての、諸外国の破壊的な印象が強まる危険があります」
 同様の危惧を持つ者はエリーシャ一人では無い。大っぴらに言葉にこそ出さないが、ルーケイ伯もその一人だ。
「いや、俺はそうは思わない」
 と、市川敬輔(eb4271)が反対意見を示す。
「今後、毒蛇団の様に安易にカオスと手を組もうする勢力が出ないと、誰が断言できる? 現に海を越えたバの国は、国全体でカオスと組んで近隣の国へと勢力を伸ばそうとしている。なのに、その矛先を向けられた国々に対して同じ事が言えるのか? 確かに過ぎた力は破壊しかもたらさないが、別の見方をすればそれだけの力を持たないことには、カオスに対抗できないとも言えるだろう? 少なくとも今回においては、密かにカオスを利用しようと企む者達への警告として徹底的に叩くべきではないのか?」
「ですが、ウィルの事情は‥‥」
「そうだ。確かにバの脅威に晒されるヒスタ大陸やアプト大陸の国々とは違う。だけどバの国やカオスニアンの戦争を知っているか? 誇りも規律も忘れた連中がやる戦争なんて‥‥カオスそのものだよ」
「さて、そろそろ時間です」
 と、延々と続きそうな論議を打ちきるようレイが促す。
「これは王命での空戦騎士団の初出撃。他の騎士団に恥じない戦いぶりとなるよう作戦を練りましょう」
 その言葉に頷きつつ、敬輔は心中で呟いた。
(「‥‥やれやれ、検討する情報が少ないってのに、状況だけがどんどん先に進んでやがる。どっかでボロが出ないと良いんだが」)
 何かとてつもない力に押し出されるように進む状況。敬輔にはそれが気掛かりだった。

●立体模型
「これで全員揃ったな。では、軍議を始める」
 軍議の進行役を務めるのはロッド・グロウリング卿。作戦のテーブルには戦場となる西部の全地域を一目で見渡せる、大きな立体模型が鎮座していた。ルヴィア・レヴィア(eb4263)が手ずから作成したものだ。
「地図を元に作ってみました。大雑把なものですけど」
 丘陵地帯は砂で軽く盛り、森林地帯には緑色に染めた爪楊枝サイズの木切れをずらりと並べた。王都や攻略目標など重要なポイントには、建造物に見立てた木材の切れ端を置く。
「地図による上から目線では大丈夫だと思っていても、いざ現地へ行って作戦実行となると、色々な障害が入って不安になることが割とあるんで。では、最初に攻略目標までの距離を調べてみましょう」
 一同の前で、ルヴィアは立体模型の上に紐を伸ばして行く。王都から毒蛇団の本拠地、森の砦までの距離は‥‥。
「直線距離でざっと200kmですね」
「フロートシップを時速50kmの航行速度で飛ばせば4時間。但し平野と森林が大きな割合を占めるルーケイ領内は、明確な地表の目標物に欠けるから、真っ直ぐ目標に向かっているつもりでも進行方向がずれて行く危険が大きい。そこで、フロートシップは次のルートを飛ばすことにする」
 ロッドはそう説明すると紐を王都から大河に沿って伸ばし、ルーケイ領の西の端すなわちルーケイ城のある川中の島の辺りで北方向に曲げた。
「大河に沿って西進すれば迷うことは無い。ルーケイ城のある小島は大きな目印となるから、そこを方向転換点として北へ向かうのだ」
 戦争は戦闘だけが全てではない。移動も重要な要素だ。手際よく移動して迷うことなく戦場に到達しなければ、的確なタイミングで攻撃を仕掛けることなど出来はしない。
「さて、空戦騎士団中核部隊の攻略目標である森の砦ですが‥‥」
 ルヴィアの言葉で、一同の視線は森の砦のミニチュアに集まる。
「ご覧のように砦の周りにはグライダー避けの柱が林立していますが、相手は盗賊です。この柱に人質を縛り付けるかもしれないですよ。いやまあ、いざとなったら敵も味方もやるでしょなんでも」
「だから、騎士道無用な盗賊相手の戦いには、圧倒的な戦力による奇襲攻撃で有利な形勢を作ってしまうことが肝要なのだ。敵が小細工を弄する暇を作らせぬようにな。加えて主力部隊の到着前に工作隊を敵地に潜入させ、敵の目と耳を封じ手足を縛り付けておけるならば完璧だ。後は動けぬ敵をひたすら殲滅するのみ」
 と、ロッド卿。

●ロッド卿の異議
 続いて空戦騎士団長シャルロット・プラン(eb4219)が、自ら立案した作戦計画を説明。それに対してロッド卿は、幾つかの点で異議を唱えた。
「サイレントグライダーを収容所制圧の主力にする考えのようだが、動員できるサイレントグライダーは全作戦において10機に満たない。森の砦攻略が向けられるのは、せいぜい4機。よって、この案は却下する。貴重なサイレントグライダーは、決戦前の潜入用工作に利用する」
「森の砦制圧と平野の砦制圧を一つの作戦の中で順に行おうとしているが、まずは森の砦制圧に集中しろ。ゴーレムの可動時間からして、攻略目標を最初から2つに設定するのは無理がありすぎる。森の砦制圧に時間がかかれば、平野の砦制圧に割く時間が無くなる。余力を平野の砦制圧に回すかどうかは、森の砦制圧が終了した段階で判断しろ」
「ドラグーンについては投入を渋ることはない。揃えた全数を戦場に投入して構わない。万が一に備えての予備は別に用意しよう」

●攻撃のタイミング
 作戦決行のタイミングとして冒険者達が選んだのは明け方未明。
「確かに奇襲にはもってこいの時間だ。夜の明けぬ闇のうちに敵地に辿り着き、夜明けと同時に攻撃開始。だが‥‥」
 と、ロッドは問題点を指摘する。
「難点は敵地までの移動だ。夜の闇の中、フロートシップで長距離を移動しなければならぬのだからな。特に今の時分、月精霊の光は夜半には地平に沈むから、それから作戦決行時までは完全に近い夜の闇に包まれ、船の方向を的確に定めることが非常に困難になる」
 その解決策としては、次のものが挙げられる。

 1.潜入工作隊が攻略拠点の間近で火事を起こし、その炎を目標として進む。
 2.フロートシップに暗視魔法インフラビジョンの使用できる者を乗せる。

「解決策については任せる。作戦決行までに考えておけ」
 と、ロッドは冒険者に委ねた。

●空挺ゴーレム
 白金銀(eb8388)が提案したのは空挺ゴーレムの投入。
「パラシュート空挺降下させ、捕虜救出の障害を迅速に除去させては?」
 その言葉を聞くなり、ロッド卿は即座に言い放った。
「パラシュート? イムンの馬鹿どもの戦法を耳にしてのことか? あれをそっくり真似る必要は無い」
 一部の冒険者は知っていることだが、イムン分国ではパラシュートを使った空挺ゴーレムが実用化されつつある。しかしロッド卿は、かの空挺部隊に高い評価を与えていなかった。ゴーレムをパラシュート降下させるにはフロートシップを極めて高い高度まで飛ばさなければならない。危険が増すのみならず、高々度からだと狙った地点へ正確に着地するのも難しくなる。
「今回の敵は強力な対空兵器を備えている訳ではない。せいぜい弓矢か投石機程度だ。ならばフロートシップを急速降下させ、手際よくゴーレムを地面に下ろしてから、再び安全圏まで上昇させれば済む話だ。或いは低空から目標地点まで強靱なロープを垂らし、ロープを伝わせてゴーレムを下ろせばよい。その方がよほど確実だ」
 降下方法はともかくとして、空挺ゴーレムというアイデア自体はロッド卿に受け入れられた。銀は1個中隊12体の投入を希望したが、作戦にはその数が投入される見通しだ。但し降下に先立ち、現場の偵察によって罠の存在状況を確かめる必要がある。
 また戦場に投入されるウィングトラグーンの一部も、空挺ゴーレムと共に砦の制圧に加わる予定だ。

●カルガモ作戦
 こうしてシャルロットの作戦計画は次のように修正された。

 第1段階
  潜入工作隊による事前工作。
 第2段階
  1.イムペットによる奇襲。砲撃により周辺砦を破壊。
  2.ドラグーンとグライダーによる第1撃。
  3.空挺ゴーレムによる第2撃。
  4.収容所を制圧。
  5.中央砦を破壊。
 第3段階
  余力があれば平野の砦攻略を支援。

「森の砦から平野の砦までは、ざっと40kmですね。時速100kmでグライダーを飛ばしても、20分はかかりますよ」
 立体模型の縮尺からルヴィアが移動時間を計算して告げると、ロッドは改善案を示した。
「平野の砦の支援には、フロートシップに乗っていけばいい。出撃は船が平野の砦の間近に達してからだ。ゴーレムを動かせる時間を極力、温存するのだ」
 戦場への投入は最初にウィングドラグーン、さらにグライダー編隊がドラグーンの後を追う形で続く。先行するドラグーンは砦周辺の障害物やトラップを排除し、また砦の防護壁を破壊し、グライダー部隊の進入ラインを確保する。
 これを聞いて副長エリーシャはこんな感想を盛らした。
「ドラグーンがグライダーを一列編隊で率いる形‥‥ですか。まるでカルガモの親子のようですね。『カルガモ作戦』とでも名付けますか?」
「別に一列編隊である必要はない。だが、作戦名はそれでよかろう」
 と、ロッド卿。こうしてウィル空戦騎士団による森の砦攻略戦は『カルガモ作戦』と命名された。
「一つ付け加えるとすれば」
 と、副長レイが追加提案。
「ゴーレム空挺部隊は初期の砲撃と同時に、砦の中央に降下することを提案します。中央の砦攻略を迅速に行えるので、人質の収容所の安全を確保できるかと思います。空戦騎士団の作戦の基本は、奇襲からの素早い制圧が肝だと思います」
 これに対してロッドは次のように判断した。
「第1撃と第2撃を同時にか? 上手くいけば奇襲の効果は高まるが、味方同士が同じ戦場に集中し過ぎて混乱を招く場合もある。飛行するドラグーンやグライダーが、降下する空挺ゴーレムの障害にならないか? もっとも技能の高い操縦者が集まれば、互いの邪魔をせず作戦を遂行するだろう。これについては参戦者の錬度を見て判断を下せ」

●水上騎士団
 水上騎士団が保有するゴーレムシップの積載量を生かし、ルーケイの弓兵隊やチャリオット部隊の移送に用いるというシャルロットの提案は、ロッド卿に認められた。但し水上兵団は平野の砦攻略を支援するため、森の砦攻略に参加する冒険者達の管轄外となる。

●銀の武器
 冒険者が希望したゴーレム用の銀の武器については目下、急ピッチで製作が進められている。既にゴーレム用の剣とドラグーン用の槍は何本か出来上がっているとのこと。作戦の決行日までにはさらに数が揃うだろう。

●指揮系統の整備
 副長エリーシャの提言により、各副長の役割分担が決まった。シャルロット団長を作戦の総指揮官として頂点に立たせ、副長レイは前線指揮。副長ガージェスは前線指揮の補佐か、空挺ゴーレム降下の指揮を取ることになろう。エリーシャ自身は後方での補佐・支援役に徹すると決めている。
 また作戦を遂行する空戦戦力は小隊ごとに分けられ、空戦騎士団に所属する者を中心として小隊長格が選任されることになる。

●医療部隊
 疲弊した虜囚達への配慮を求めた副長レイの提言により、医療部隊が編成されることになった。医療部隊には小型フロートシップ1隻が当てられる。

●グライダーの利用法
 複座式のグライダーで、ウィザードを後部座席に乗せての攻撃を提案したのは、キース・ファランとリール・アルシャス(eb4402)。先の東ルーケイ平定戦でも実施された戦法だが、ロッド卿はこれにもOKを出した。
 リールは続ける。
「グライダーで物を上空から落とし、落とし穴を発動させるなどしてトラップを破壊してはどうか? 敵が収容所に火を放って人質の始末を図ったら、グライダーで上空から水を撒いてはどうか? 或いは水系の魔法を使用するなどして」
 ロッドは答えた。
「地上のトラップが常に上空から視認できるとは限らない。こういった事には工作隊との連携が重要だ。トラップを強制的に発動させるなら、グライダーよりも寧ろ人型ゴーレムが向いていよう。それから消火には火系魔法のプットアウトが一番効率的だ」
「それから他騎士団との連携と情報伝達について。伝令としてグライダーの利用を‥‥」
「勿論、伝令のグライダーは主要部隊に配備する」

●軍議の終わりに
 こうして数々の提案が為された後に、軍議は終わった。
「如何にカオスの輩の如き盗賊どもの討伐であり、大ウィルの結束を示す意義があるとはいえ、ルーケイ平定に此れほどの戦力を投入することになろうとは‥‥」
 と、エリーシャは率直な感想を漏らす。
「ともあれ、鼠を討つに大剣を用いて仕損ずるが如きにならぬように努めましょう」
「ところで一つ、これを機会に提案したいことがある」
 発言の主はキース。
「情勢的に有効と判断できるようなら、中ルーケイの旧ルーケイ伯勢力圏にある遺棄された拠点もグライダーで攻撃してはどうだ? これは中ルーケイ勢力に力を見せ付けて戦意を鈍らせる意図もあるが、主な狙いは王都の騒動に対しての形式的な懲罰だ。勿論、旧ルーケイ伯勢力には事前に警告を発して、その拠点に立ち入らぬように要請した上で破壊しつくし、王都の民に対してのアリバイ作りを目指すのはどうかと思うんだが」
「生ぬるい!」
 声を発したのはロッド卿。その声はあまりにも大きく、皆の驚愕を誘った。
「我々は毒蛇団討伐戦の実行に先立ち、奴らの目を欺く必要もある。我々の主敵は遺臣軍であると思わせ、毒蛇団の油断を誘うのだ。なればルーケイの遺臣軍を徹底的に叩き、力を見せつける必要があるのだ。下手に手加減を加えては、毒蛇団の疑いを招こう」
「俺としても異存は無い」
 軍議に同席しながらも、それまで黙っていたエーロンが同意を示した。
「フオロ王家と旧ルーケイ伯の遺臣どもとの間には、未だ休戦条約は結ばれていない。即ち、戦争状態は未だに継続中ということだ。なれば剣を振るうに躊躇うことは無い」
 ロッド卿とエーロン王の2人の賛同は、ウィル国王ジーザムを動かすに足るものだった。この空戦軍議より程なくして、ジーザム王は遺臣軍懲罰の王命を下した。

●補足
 空戦騎士団の団長と各副長にはスモールドラグーン搭乗員章が配布され、さらに会議に出席した全員にライフ・エアバッグが支給された。エリーシャの希望したブリーダー免許については後日、審査の上で配布予定だ。
 白金銀はメイの状況について聞いた話を簡単に報告。また彼女が希望した、とある冒険者仲間の空戦騎士団入団については、本人の直接申告を経てからになる。
 ロッド卿はキースに対してさらなる信頼を置くようになり、彼に『トルクの隼』の称号を贈った。