マーカスランド1〜劇団員大募集☆

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月01日

リプレイ公開日:2006年06月04日

●オープニング

●ビバ!! マーカスランド!!
 街の門より出て直ぐのGCR専用競技場。その前の広場が大きく変わりつつあった。
 入場口近くの地面には、色鮮やかなタイルでモザイクが作られ、チャリオットに乗る騎士や魔法使いの姿が描かれ、日々眺める者の数を増していた。
 小奇麗な格好をした清掃係。
 厳つい警備の若衆達。
 売子の少年たちも、独楽鼠の様。
 グリフォン等の大型のペットを散歩に訪れる者もちらほら。
 立ち並ぶ出店には幾人もの列が出来、大道芸人の鮮やかな手遊びが歓声を呼ぶ。
 そして、貴族用入場口に併設されたサロンでは、日々数十名の貴族が立ち寄っては噂話に華を咲かす。
 そんな華やいだ雰囲気に、この日は新たな変化が起ころうとしていた。

 広場の中央には布が被された、大きなオブジェが1つ。噂を聞き付けた人々が、というか意図的にマーカスが流した噂話に引き寄せられ、多くの観客が集っていた。
 その傍らには楽団が待機し、燕尾服を着込んだパラのチップス・アイアンハンド男爵が、まるで悪役の怪人の様にひょこひょこと進み出るや、華やかなファンファーレ。
「ロ〜ド アンド レディ〜!!」
 沙羅影が煙玉をひょいひょいっと投げると、派手な音を発てて破裂する。それだけで、観客は興奮してもろ手を挙げての大歓声。
「今日は色んな意味で特別な日になるぜ!! ここに集まったみんなは何が見れるか、判って来てるんだろう!!?」
 すると観客の中から野次が飛ぶ。
「判ってんだからさぁ!! 早く見せろよ、Z卿!!」
 うひゃぁ〜と言った顔で、背筋を縮めて見せる男爵様。それから、愛嬌いっぱいの笑顔でウィンク。
「まあまあ、物事には順序ってもんがあるんだぜ!! さぁ、みんなで叫ぼうぜ!! 合言葉はマーカスだ!!」
 布にはオブジェの頭頂部から何本ものロープが伸びている。そして、その一本を手に立つマーカス・テクシが満面の笑みで手を振った。
「ほら見ろ。浮かれた年寄りが棺おけに片足突っ込みながらしゃしゃり出てやがる」
 どっと笑いが起こるが、そう言われて恥ずかしそうに顔を隠す様は、とても悪徳商人として名を馳せている男の物とは思えない。既にイメージ戦略が始まっているのだ。
「さぁ、お披露目だ!! みんなであいつの名を呼んでやろうじゃないか!! それっ!! マーカス!!」
「マーカス!!!」

 サッと引かれる布の下から、現れたのは花壇に立つ、ゴーレムチャリオットレースで使われたダミーバガンの巨体そのものだった。重厚な鎧に覆われた逞しい人造の肉体。そしてその足元には鉄のプレートで『マーカスランド』の文字が。
 ワッと駆け寄る人々。楽団がぶんちゃかぶんちゃか楽しげな音楽を打ち鳴らす。
「おおっ!? これが、最初にあの猛突のグナード卿が倒した時の傷だってさ!!」
「すっげ〜!」
「これを打ち倒したのかよ〜‥‥騎士様ってすげぇ〜‥‥」
 大人も子供も大興奮!

 するとどうだ。
 ぶしゅ〜!!
 ダミーバガンの頭部や脇の下から、白い煙が噴出した。
 腰を抜かしてへたり込む者、ワッと言って逃げ出す者、唖然として見上げる者、そんな者達の眼前でゆっくりとダミーバガンの腕が、ギリギリ音を発てて上がって行く。
 そして真上まで上がったところで、再び大きなぶしゅ〜っと言う音と共に、白煙が噴出しその腕が下がって行く。それは恐ろしくゆっくりとした動きだ。
「ふふふのふ‥‥みたで御座るか。これこそ、忍法、巨大からくり人形の術で御座る」
 黒子衆の沙羅影は、驚く人々の姿を眺め、頭巾の奥からくぐもった笑いを漏らす。
 そして、やおら懐から紙の束を取り出すのであった。
「忍法、分け身の術‥‥で御座る‥‥」
 途端に、6人の沙羅影が現れ、その紙を配りだす。
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
「よろしくで御座る」
 だが、手渡される内の一枚だけが本物だ。ややこしい。
 それは沙羅影手作りの小さな和紙のカード。手書きの美人画が一枚一枚に描かれていた。

●劇団員大募集!
 次の日、冒険者ギルドに募集の知らせが掲げられた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
          劇 団 員 大 募 集 !

 GCR専用競技場にて歌劇を近日公演予定!
 それに伴い、出演者大募集! 貴方も王国華劇団に入りませんか!?
 容姿、歌唱、演技、舞踏、演奏に自信のある方、オーディションを行います。
 お問い合わせは貴方と私のマーカス商会まで☆
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea7210 姚 天羅(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3175 ローランド・ドゥルムシャイト(61歳・♂・バード・エルフ・フランク王国)
 eb4344 天野 夏樹(26歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4729 篠宮 沙華恵(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4806 ルネ・ヴィレムセン(21歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●豪傑
「うわわわっ!!? どいてどいてぇ〜っ!!」
「あ、危ねぇっ!! このばっかやろぉーっ!!」
 行き交う馬車を寸での所ですり抜け、ロバに跨った女がもんのすごいスピードで駆け抜ける。
「きゃはははっ、うるせーっ! バーカバーカ!」
 変な光る玉を引っさげ、振り向き様に大笑い。こぼれんばかりのバストをぷるるんと震わせ、ウィルの街中を騒々しく突破する。
 唐突に、教会の鐘がゴ〜ンと鳴り響いた。
「うわわっ、やばいやば〜いっ!!」
 サッと顔色を変えたミリランシェル・ガブリエル(ea1782)は、まるで競走馬を駆る様に思いっきり量感のある腰を跳ね上げ叫ぶ。
「ドン!! ハリアップ!!」
 ぐいっと頭を押し下げられたロバは、涎を跳ね思いっきり首を振って嘶いた。

●おやっさん、オーディションは中止でっせ!
 マーカスランド『国立華劇団』のオーディション会場は、街の門を抜けたゴーレムチャリオットレース専用競技場の中にある。
 普段なら観客でごった返す入場門に、テーブルと椅子を置いて希望者の受付を行っていた。
「あははは〜、おっかしいなぁ〜♪」
 チップス・アイアンハンド男爵は苦笑いを浮かべながら、頭をボリボリと掻いた。
 その背後でマーカス商会の強面な若頭の一人が腕を組み、じっとその頭を見つめている。
 受け付けが済んだ人の名前を書いたスクロールには、7人の名前。

 ルネ・ヴィレムセン(eb4806)
 篠宮沙華恵(eb4729)
 エリザ・ブランケンハイム(eb4428)
 天野夏樹(eb4344)
 ローランド・ドゥルムシャイト(eb3175)
 姚天羅(ea7210)
 ルイス・マリスカル(ea3063)

「うちのおやっさんは、最低面子が8人も集まらねぇ様じゃ劇は中止、そう言ってるんですがねぇ‥‥はぐ‥‥」
 あんぱん片手に若頭はそれを手に取り、少し不機嫌そうにポンと叩く。
「ふむ、道を間違えた者が居るやも知れぬ。拙者、少しその辺を見回ってくるで御座るよ」
「あ、ああ。頼むぜ」
 にかっと笑っいグッと拳を握って親指を立てる男爵に、沙羅影は頭巾の下からくぐもった笑いを漏らしとっとと走り出す。見る間にそれが一人から二人に、二人から三人と増え、驚く人達を尻目に七人の黒子衆は口々にオーディションの宣伝を行いながら方々に散って行く。それを眺め、ぼんやりとした表情で男爵はポロリ、本音を漏らした。
「なあ‥‥」
「何ですかい?」
「あいつを見世物にすりゃ、客が集まんじゃねぇの?」
「そいつは、公爵さんとご相談って奴ですかい?」
「あはははは‥‥や〜めた‥‥」
 腕を後ろに組み、男爵は椅子の背に凭れ掛けた。

 すると遠くウィルの市街からゴ〜ン、ゴ〜ンと時刻を知らせる教会の鐘の音が響き出す。
 そしてため息をつく二人。
「じゃあ、あっしからおやっさんの方へ‥‥」
「ふぅ〜‥‥仕方ないか‥‥時期が時期って奴?」
 名簿のスクロールを手に、奥へと消えるマーカス商会の若頭。そして残された男爵は、軽く肩をすくめ、おどけたステップでくるりと回る。
「さて‥‥折角来てくれた連中に、何て言う‥‥」
 見上げる空は青空。雲一つ無い晴やかな陽気だ。どんより曇る男爵の胸の内とは、対象的だった。

●控え室に突貫かけろ!
「あの応援合戦でやった歌劇、凄く楽しかったんだよねっ♪」
 弾む様な夏樹の言葉にワッと華やかに盛り上がる女性陣の控え室。その扉に手を掛け、うっと唸る男爵の姿があった。
「ほらほら、夏樹さん。ちょっとだけ大人しくして下さい」
「はいは〜い」
「ちょっと、沙華恵さん! この組み合わせはどうかしら!?」
「あら、ちょっとヅカ風で良い感じ‥‥でも、そうくるとファンデーションをもう少し明るめにした方がいいかしら?」
「早くして頂戴!」
「だ〜め。沙華恵にはあとヘアメイクもして貰うんだからっ♪」
「バニーガールなんだから、うさ耳付ければもう完成でしょ!」
 扉の前、う〜んと唸り続ける男爵。時間ばかりが過ぎて行こうとしていた。
 カラン‥‥
 廊下の片隅、乾いた音がした。
 男爵が振り向くと、そこにはルネ少年が、その青い瞳を大きく見開いて立っていた。
「あ‥‥」
「の、覗き‥‥」
「ち、ち、違うよ〜‥‥おヂさんはね‥‥」
 赤ら顔の男爵は、顔色を変えて首を左右に振るが、ルネ少年はニヤリ。
「男爵さんが覗きで〜すっ!!」
 少年の高い清んだ声が、競技場の廊下にわんわんと響き渡る。
「な、な、何だと〜!!!!?」
「俺もまだ覗いて無いのに〜っ!!!!」
「ずるいや!!!! 何で誘ってくれないんですか〜っ!!!!」
 廊下に男達の野太い声が木霊する。
「ば、馬鹿野郎!! そんなんじゃねぇやい!!」
 駆け込んでくるマーカス商会の若衆の脛を蹴り上げ、男爵は廊下を駆け出した。

 その行く手を遮る様に、少し離れた男性用の控え室から三人の人影。
 フッと口元に笑みを浮かべ、白い羽付き帽をくいっと持ち上げる。すると、その下からはエクセレントなマスカレードに隠された美丈夫が。白い歯がキラ〜ンと光る。
「いけませんね。その様な姑息な真似を、いくら男爵様といえ断じて許す訳には参りませんよ」
 続き天羅は腰に下げた剣をスラリと引き抜いた。
「舞は武に通じ、楽は学、技は妓に‥‥あれ? 」
「恋のからくり夢芝居‥‥」
 ポロロ〜ン。竪琴を優雅に掻き鳴らし、渋みのあるニヒルな笑みを浮かべると、ローランドはスッとルイスと天羅に道を譲った。
「正しきラブの使徒、ルイス・マリスカル。参る‥‥」
「俺の名前は引導代わりだ。迷わず地獄に落ちるが良い!」
 ちらり流し目を決め、天羅は右手にライトソード、左手にショートソードと、十文字に構え見得を切った。長いストレートヘアーがその一挙一動にさらさらと舞う。
 おおっ!と廊下に居る者達からため息が出た。まるで芝居の一幕だ。あわれドゲスな悪漢、正義の刃に散る‥‥

「うわわわっ!!? どいてどいてぇ〜っ!!」
「うぉっ!?」
「あ、あ、暴れロバだ〜っ!!」
 唐突に、廊下に飛び出した暴れロバ。その上に跨るミリランシェルは、目を大きく見開き絶叫した。
「おお、精霊の助け!」
 思わず跳び付く男爵は、一瞬だが至福の夢を見る。
 むにゅ。
「きゃっ!? いやぁ〜ん☆」
 その声とは裏腹に、繰り出された肘鉄は容赦の無いモノだった。
 ゲスッ!!
「ごふっ‥‥(ああ‥‥おヂさんはね‥‥おヂさんはね‥‥)」
 遠のく意識の中、男爵は時の涙を見た。

 一筋の涙が、この薄暗い廊下に、ほのかにきらめく弧を描く。

 この騒ぎにうっすらと控え室の扉を開ける着替え中のエリザ、夏樹、沙華恵の三名は、男爵の体が大きく弧を描いて行く様を口を大きく開いて眺めた。その一部始終を。
 まるでGCRで突き倒された敵兵の人形みたいに廊下をころころ転がって行く男爵のでっぷりとした丸い体。そして、それはパタリと乾いた音を発て廊下の隅で停止した。
「きゃああああっ、チップス男爵!!」
 沙華恵が飛び出すと、それに続いてエリザと夏樹も飛び出した。
「おい、大丈夫かよ!」
「全く! 覗きなんかするからです!」

(「‥‥おお、ここはどこだ? 天界にあるという桃源郷か‥‥?」)
 この世のものとは思えぬ美しい女達が、愛らしい笑みを浮かべながら優しく身体を揺さぶってくれる。気の強そうなオデコ&ツンデレ系、優しそうなお嬢様&癒し系、活発そうなバニー&スポーツ系。
(「同じパラの女の子はいないのかなぁ〜‥‥☆」)
 にへら〜と笑う男爵。

「これでは典型的なスケベ親父ですね」
「全く! 覗きなんかするからです!」
「おい大丈夫か〜!? もしも〜し!」
 夏樹にペシペシと頬を張られても、男爵は目を開けたままへらへら笑い。
「捨て置くが良い。まさか、この様な破廉恥漢が責任者とは‥‥」
 剣を鞘に収め、天羅は眉をひそめて吐き捨てる様に言い放つ。頷くルイス。やれやれとローランドは首をすくめて見せた。

「あら〜? オーディション会場はここで良いのよね‥‥みなさ〜ん‥‥? やっほ〜♪」
 妙に緊迫した空気に、愛想笑いを浮かべるミリランシェルは、大汗をかいて息も荒げなロバの手綱を引き、皆の顔を見渡した。すると、にこにことルネ少年が歩み寄った。
「うんそうだよ。お姉ちゃん。まだ始まってないけどね」
「本当!? やったぁ〜、間に合っちゃった〜☆ サンキュー、私ミリランシェル・ガブリエルよ。ヨロシク〜♪」
 空いている片手でルネ少年を抱擁するミリランシェル。
「うわぁ〜い。僕、ルネ・ヴィレムセンだよ。宜しくね、ミリーお姉ちゃん」
 ルネ少年は物怖じせず、にこにことこの豊満なお姉さんを抱きしめた。
「う、うう‥‥間に合ったって‥‥へっ?」
 ようやく意識を取り戻した男爵。頭を振り自分が、取り押えられている事に気付くと、愕然とした。
「わわわっ!? 何っ!? 何っ!?」
「ええい、大人しくしろ!」
 ぐっと押さえつけ、睨みを効かせる天羅。
「このルイス、チップス男爵の事を見損ないましたよ」
 ぽろろ〜ん。
「年貢の納め時だな‥‥」
 竪琴を、まるでレクイエムの様に掻き鳴らすローランド。目を瞑り、そのメロディーに己が身を震わせる。冷え冷えとした目線が、男爵一人に注ぎ込まれていた。
 そこで咳払いを一つ。ルネ少年はにっこりにっこり男爵に歩み寄った。
「いやぁ〜、どうです僕の演技は?」
「え、演技ぃ〜?」
「そうですよ。なかなか迫真の演技だったでしょう?」
「ご、ご、合格ぅ〜‥‥」
「「「「「「え、ええええええ〜〜〜〜〜っ!!?」」」」」」
 びっくりするオトナたち。男爵はずるずると床に崩れ落ちた。
「? 何?」
 一人きょとんとするミリランシェル。その傍らでロバのドンがブルルと鼻を鳴らした。

●オーディション開始! みんなで合格!?
 包帯でぐるぐる巻きのちっちゃなミイラが一体。その横にでっぷりとしたマーカス・テクシの姿。これに黒子姿の沙羅影を足した3名が、観客席のカーブのど真ん中、最下段に陣取っていた。
 それに対する8人は、丁度ダミーバガンが立っていた辺りに立つ。

「それじゃあ、始めて貰おうか」
 マーカスが合図を送ると、沙羅影が羊皮紙を手に上から名前を読み上げた。
「じゃあ、僕からだね」
「ルネ君、頑張って!」
「ありがとうエリザさん。僕頑張るよ」
 グッと拳を握り応援するエリザに、ルネは微笑み返す。
「ル〜ネく〜ん」
 すると、ミリランシェルが前屈みになり、胸元を強調するポージング。チュッと投げキッス。
「あははは、ありがとうミリーさん」
 そう言って、マーカス達の方を見やると、ルネは声を上げた。
「ルネ・ヴィレムセン、11歳! 僕は天界で聖歌隊に居ました! 歌で神の教えを伝える手法は、マーカスランドで歌劇を使っての各種の宣伝とかに使えるんじゃないかと思います! だから歌いまーす!」

 澄んだ少年の歌声が、競技場に響き渡る。元からこの競技場はうまく音が反響する設計なのだ。
「ほう‥‥悪く無いが‥‥」
「声が小さいで御座る。腹筋を鍛える必要があるで御座るよ」
 沙羅影の説明に頷くマーカス。
「子役は必要だ。立居振舞も品がある。磨けば光るぜ‥‥」
「先ずは走り込みと腹筋で体力強化で御座るな」
「じゃぁ合格で?」
 頷く二人にミイラも小さく頷き、沙羅影が筆で名前の上に赤く花丸を描いた。

「こんにちは! 地球の美容師、篠宮沙華恵です! チップス男爵、いつもお世話になってます! 沙羅影さん、はじめまして! マーカスさん、先日は失礼しました!」
 朗らかに離れた位置に座る3人へ挨拶する沙華恵。
「私は出演もそうですけど、衣裳のデザインや皆さんの美容等を担当出来ればって思っています! 正しいメイク、出演者全員に統一されたメイクと衣裳! そんな工夫をする事で、出演する人達の魅力を更に際立たせる事が出来ます! それに、天界人の作った衣裳やメイクっていうのは売りに出来ると思いますよ! どうですか〜!?」

「は〜い、どうでしょうか?」
 にっこり。マーカスへ3面鏡を見せる沙華恵。
「ぷっ!」
 隣で噴き出すミイラ。沙羅影は大真面目に見入る。
「ふむ‥‥これは歌舞伎者の様で御座る‥‥」
「む、むむむ‥‥」
 鏡の中の自分に、にっかり笑いかけるマーカス。次々と表情を変えて大仰に唸って見せた。
「うふふふ‥‥ウィルの街の人達に楽しんでもらいながら、がっちり儲けましょう、マーカスさん!」
「お、おう‥‥」
 沙華恵はその様をにこにこと眺めていた。

「約束通り来たわよっ!」
 マントをなびかせ、胸を張って前へと進み出るエリザ。
「ウィルも最近は事件続きだし、こんな時だからこそ、皆をリフレッシュさせてあげたいわよね! 歌劇でウィルの皆が明るさを取り戻してくれたら最高じゃない!」
 堂々とした態度で、志望動機を語るエリザは真っ直ぐにマーカス達を見据えた。まるで仇を見る様に。
「特技!? 特技は何時でも何処でも堂々とした態度でいられる事よ! 舞台上でもビシッとやれる自身はあるわよ!」

「あの硬さが抜けりゃあ、い〜女なんだがなぁ〜‥‥」
 にやにやするマーカス。その脂ぎった顎を撫で上げた。
「最近始めた歌ってのを聞いてみるか?」
「エリザ殿の歌、是非に聞いてみたいで御座るな」
「じゃあ、お〜い! 歌ってみてくれ〜!」
 男爵の声に、ぐっと腹の底に力を入れるエリザ。
「よ〜し、私の渾身の歌を聞きなさい! 行くわよ!」
(「ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気よ! ヤル気だわ〜〜〜〜〜〜っ!!!」)
 エリザは思いっきり息を吸い第一声、脳天を突く様に、お腹の底から思いっきり張り上げた。
 ヤル気パワー全開! ジャ○アンも真っ青のミラクルボイスが競技場に木霊した。

「四番! 天野夏樹! 地球からの天界人! ぴっちぴちの17歳! いっきま〜っす!」
 元気いっぱい、真紅のバニーガール姿で飛び出した夏樹は、ちょっぴり頬を赤らめながらも、真紅のハイヒールでくるりと一回転。日頃の練習の成果の片鱗を見せ付けた。
「この間、ゴーレム・チャリオット・レースで歌劇をやってみて、面白いなと思ったんです! 最後にお客様から拍手を頂いた時は、本当に嬉しくて感動しちゃって‥‥だから、もっと練習してもっと良い舞台をやれる様になって、お客様にもっともっと喜んで貰いたい! そう思って応募しました!」
 ドキドキ乙女のハートは波打っていた。興奮しているんだと、自分でも判った。
(「ひょっとして‥‥私、ちょっとどころじゃなくて癖になって来てる? やばいって、やばいってそれ〜♪」)
 くっと顎を上げ、観客席の三人を見上げた。この距離では、その表情もちょっと判り辛い。でも、見られている。それは強く感じていた。

「あの娘、応援団に参加してくれてるんだったな。運動神経、い〜じゃねぇか」
「ええ‥‥元気で‥‥良い子でしょう‥‥」
 ミイラのうめきにも似た声に頷きながらも、マーカスは目を細めて夏樹の演舞に見入った。
「ボールか‥‥道具を使うってのは、面白ぇな」
「平衡感覚、状況認識能力に優れているので御座るよ。言うなれば、物が手足の延長線上に感じられるので御座ろう。容姿端麗。運動神経抜群。後は演技力と歌唱力を磨けば面白いで御座るよ」
「いいねぇ〜」
 沙羅影の売り言葉に、マーカスは勿論買いである。

「やれやれ、年はとりたくないな‥‥さて、行ってくるとするかね」
 苦笑いしながら竪琴を片手に歩き出すローランド。
「気張るが良い、ご老体‥‥」
 天羅の素っ気無い言葉に少し振り向くと、他の者達も様々な表情でローランドを送り出そうとしていた。ローランドは、思わずフッと微笑を浮かべ、小さく頷いた。
 ポロロ〜ン。ポロロ〜ン。静かなる調べが競技場に響き渡る。
 悠然と前に進み出るエルフの老吟遊詩人。
 サッと片膝を着き、マントを翻して恭しく一礼。年季の入った穏やかな動作だ。
「さあ五番手はエルフの吟遊詩人、ジ・アースからの天界人、ローランド・ドゥルムシャイトだよ! この年ではもう華々しい役をやる柄じゃあないね! であるからして、必然的に裏方が主になるとは思うけど、ひとまずは本職のこの一曲を皆様にはお届けしよう!」
 ポロロ〜ン。少しおどけたその口調と異なり、その旋律は澄み切った響きとなる。
 ゆっくりと、そして大胆に爪弾いてゆくローランド。
 そこからである。
 本職だけあって見事な弾き語り。

 マーカスは少し腰を浮かして、聞き入った。
「ほお‥‥声色も使い分けるぞ、あのオヤジ‥‥」
「流石は老練な技で御座るな。燻し銀の魅力と言っても過言では無いで御座るよ」
「ああいうのが一人、居ると居ないとでは、若い連中の顔つきも変わって来やがる。当然、舞台にゃ老け役も必要だしな」
 ニヤリ。
「左様左様‥‥」
 ニヤリニヤリ。
「もう、俺は言う事ないよ〜‥‥」
 とほほ〜。
 最後にミイラの承認を得、沙羅影はくるくるっと筆を振るった。

 すらり。左右に剣を引っさげ、ローランドと入れ違いに天羅が進み出る。
「お若いの、キミなら大丈夫だよ。楽しんでくるんだね」
 肩で息する老エルフは、満足そうな笑みを浮かべ天羅を送り出す。
「無論だ‥‥」
 女顔の美丈夫は肩で風切る様に、前へと進み出る。艶やかな金糸銀糸の衣裳に、虹色のリボンがはためいた。
「六番! 姚・天羅! ジ・アースからの天界人だ! 得意は演舞! 剣を用いた剣の舞だ!」
 キリリと表情を引き締めて、観客席の三人を見上げる天羅。
 そして徐に左右の剣を交差させ、するすると踊り出す。それに袖の長い衣裳とリボンが大きくなびき、剣の煌きとあいまって見事な剣舞を作り出す。

「これはまた異国情緒って奴だな! しかも、べっぴんだ!」
 マーカスは羊皮紙を手にとり、額に皺を寄せた。
「何て読むんだ?」
「さあ?」
「華国の読みで御座るから、後でもう一度聞くで御座るよ」
 三人で頭を捻りながら、この見事な剣舞を眺めた。
「裾が大きいって事は、やはり見栄えがするなぁ〜‥‥エリザや沙華恵が天界の衣裳がどうとか言ってたが、その辺も今後の課題だな‥‥」
「マーカス殿、金がかかりますが宜しいで御座るか?」
「やっぱ、かける所にはそれなりにかけねぇとな。言うなれば奴等は華よ。華が綺麗に咲き誇る為にゃ、先ず水をやらにゃなるめぇ。堆肥を混ぜ土を作り、悪い虫がつかねぇ様に手をかける。手間をかけりゃ、かけるだけの華が咲こうってもんさ」
「そして‥‥その華を観に来る方々から‥‥がっぽりって寸法ですかい?」
 いししししと、ミイラは目元をぴくぴく動かし、マーカスを眺める。
「何でも相乗効果って奴よ。悪く働きゃ、今のルーケイみたいにひでぇ所になる。うまくやりぁ、ワンドのとこみてぇに賑わいも出ようってもんさ。まぁ、それ以前に向き不向きってもんがあらぁ〜な」

「七番目とはラッキーですね」
 ニヤリと素敵モードなルイスは、鍔広の羽付き帽子を目深に被り意気揚揚と進み出た。
「さぁ〜て色男のお手並み拝見だね☆」
 見送るミリランシェルは、ルイスのさらさらストレートなハニーゴールドの長髪をうっとり眺め、ちろりと赤い舌を覗かせた。
 ルイスはその優雅な足取りで前へ進むと、恭しく一礼。そのエクセレントなマスカレードをとり、舞う様にしてかざす。
「さて! 私は幸運にも七番目となりました、ジ・アースからの天界人! ローニン・ファイター・ウィズ・カタナ! ルイス・マリスカルで御座います!」

「おいおい、どっかで見た顔かと思えば、ルイスじゃねぇか!?」
「名簿にそう書いてあるで御座る」
 素っ頓狂な声を上げるマーカス。
「あいつぁ〜、確かブラック××団を追っかけてカリメロんとこに行ってたんじゃねぇか!?」
「結婚式に呼ばれてたみたいで御座るよ」
「こいつは驚ぇ〜たぜ。よくもまぁ、生きて戻れたもんよ‥‥奴め、色でボケたか‥‥」
 別件でう〜んと唸るマーカス。その横で沙羅影は相槌を打つ。

「では、我が故国イスパニアの楽曲を奏でさせていただきましょう!」
 情熱的に掻き鳴らされる曲を、3人は満足そうに聞き入った。

「あんた、なかなか素敵な演奏だったわよ♪」
 戻って来たルイスに、ミリランシェルは極上の笑みで出迎えた。
「フ‥‥つい故郷を想って弾いてしまいました‥‥」
 ルイスは少し影のある微笑みを浮かべ、その唇にミリランシェルは人差し指をソッと這わせた。
「うふふ‥‥私で最後ね。いよいよです!って奴? じゃ、みんな、行って来るわね〜♪」
「ミリ−さん、頑張って!」
 一歩飛び出すと、くるりと振り向くや極上の笑みで、声をかけてくれたルネ、そしてルイス、天羅、おまけとばかりにローランドへと投げキッス。それからミリランシェルは自信満々のモンローウォーク。
「8番、ミリランシェル・ガブリエルでぇ〜すっ! 私もジ・アースから来た天界人なんですけどぉ〜、こういうご時世ですし、こういった娯楽があっていいと思ったから応募しました〜! 容姿には結構自信あるかもだしぃ〜、私の美貌を持ってすればもう〜全然大丈夫よね〜! きゃはははっ!」

「こいつぁいいや。なかなかすげぇ自信だぁ」
「しかし、本人は言うだけの美貌で御座るよ」
「しかも、ほわんほわんのぷ〜にぷにだぜ!」
 急に元気が出て来るミイラ男。

「先ず、パントマイムしま〜っす!」
 セクシーな身振りを加えながら、壁から始まり、扉や突風などオーソドックスな芸を披露するミリランシェル。満面の笑顔で演じきる。
 そして、次には敵兵人形様の剣や槍の模造品を引っ張り出しては、見事な体捌きを披露して見せた。

●結果を発表するぜっ!
「う〜む、こいつぁ〜おもしれぇ顔ぶれが揃いやがったぜ‥‥」
「最初はどうなるかと思ったで御座る」
「俺は今日、カオスに呪われているかと思ったぜ‥‥」
 三者三様の感想を述べながら、3人は8人の待つ競技場へと足早に降り立った。無論、ミイラ男は運ばれて行ったのだが。

 マーカスは華劇団の会長として、胸を張って8人の顔ぶれを見渡した。
「審査の結果を発表する! 不合格者は‥‥」
(「不合格者は?」)
 誰もがその言葉の続きを心の中で問い返した。

「不合格者は無しだ! 全員合格とするぜっ!」
 ワッと盛り上がる8人。ある者は手近の者の肩を叩き、またある者は口元を歪ませる程度にその喜びを表現した。
「なおだ!」
 マーカスが声を上げると、騒ぎがピタリと止む。
 すると沙羅影が羊皮紙を一枚一枚手渡して回った。
「契約書?」
 老練なローランドは、その契約書の内容を読もうと思ったが、セトタ語は読めなかった。
 マーカスはニヤリと凄みのある笑いを浮かべる。
「こいつは、今度の練習までにサインをして持って来てくれ! なぁ〜に、悪い様にはしねぇさ! ただ、他所に抜ける時は違約金がどれくらいかかるかとか、そんな事ぐれぇだ! サインをして来たら、それと引き換えに契約金、支度金として合わせて金貨10枚を支給するってぇ書いてある! 但し、違約金はその10倍だ! 普通だろ!? 給金についても、その練習や公演なんか仕事の度合い毎に細かぁ〜く決めてある! その都度連絡するから、メモするなりしておけや! かぁ〜っかっかっかっかっか!! これからマーカスランドはぐぐっと面白くなるっ!! 絶対だっ!! その一端をおめぇらが担う!! まぁ、長ぇ〜付き合いになると思うが、宜しく頼むぜ!!」
「で、御座る‥‥」
「もう、どうにでもしてくれ‥‥」
 ミイラ男の苦し気な言葉に、ドッと笑いが沸き起こる。
「なおで御座る。長期の練習や打ち合わせ、公演が無い時は何をしていても構わないで御座るよ。これまで通りの仕事に励むなり、冒険に出かけるなり好きにするが良いで御座る。但し、遠出の時は成る丈、拙者やチップス殿‥‥」
 するとミイラ男が弱々しく片手を挙げた。
「もしくはマーカス商会、その交易関係のある商会等に伝言を頼むなり、シフール便を送ってくれれば問題ないで御座るよ」
 頭巾の奥、にっこりする気配。沙羅影はポンと手を打つ。それが解散の合図であった。

●オーディションの後に! みんなでお風呂!
 ざっぱぁ〜ん☆
 大理石のタイルの上を、湯気を立ち昇らせながらハーブの香りが鼻腔をくすぐり、溢れ出たお湯が幾重にも重なりながら広がってゆく。
「ぷはぁっ! きんもちぃぃ〜☆」
 広々とした湯船から顔を出したミリランシェルは、思いっきり髪を掻きあげ、にっこりと笑いかけた。
「まったく! もう少し、大人しくなされないのかしら!?」
 ぷりぷりしながら、湯気の向こうから姿を現すのはエリザ。髪をアップにしているのはそのまま、少し頬を赤らめながらも、タオルでぐるりと巻き、堂々と胸を張って入場した。
「すっごいじゃん! 温水プールみたいだよ! くはぁ〜っ、いつの間にこんな施設を作りやがったんだ、あのオヤジ!」
 パタパタと夏樹が姿を現すと、同じ様にタオルを巻いている。
「あら? そんな窮屈な物、必要無いですわよ」
 コロコロと笑い、ミリランシェルはすぃ〜っと背を下に、仰向けになって泳ぎ出す。
「あらあら、まぁ大変‥‥」
 その様に、最後にゆっくりと入って来た沙華恵が目を大きく見開いた。
 そんな三人の様子がおかしいのか、ミリランシェルはすいすい泳いで行く。
「ははぁ〜ん。名物焼いている窯の余熱でお湯を沸かして浴場にしちゃうなんて、マーカスさんってどこまでやる気なんだろ〜?」

 団員ならば、ただで使わせて貰えると言う新しい施設、クアハウスに早速入った一行は、オーディションでの埃を洗い流していた。

「ふんふふ〜ん‥‥ん?」
 ミリランシェルが鼻歌も軽やかに、優雅に気持ち良〜く泳いでいると、妙な気配に振り返った。
「ちょっと貴方達! 私達が出てから入りなさいよ!」
 湯気をもつんざくエリザの怒声。
 わいわいがやがやとでっかい湯船の反対側から入って来たのは腰にタオルの男性陣だ。
「わぁ〜い、ミリーさぁ〜ん」
 とっぽ〜んと飛び込んで来るルネ少年。
「わおっ!? すっごいサプライズ!」
 ミリランシェルは額に目を寄せて、どうしたものかと思案した。いや、舌なめずりか。
 ルイスも天羅も失礼の無い様にと目線を逸らしながら端っこに座り込み、黄色い不思議と軽い容器を手に、脚の先からお湯をかけ始める。
「なるほど、これはローマ式だな‥‥」
 混浴という事である。
 ルイスの呟きに、天羅も真似をしている様子。ローランドはふぉっふぉっふぉっと好々爺じみた笑い声をあげ、悠然と湯船につかる。ぱちゃぱちゃと水しぶきをあげるだけでちっとも進めないルネ少年。
「ちょっと! ちょっとちょっとちょっと!」
 エリザの怒声が止む事は無く、沙華恵が慌ててもう一人分のタオルを持って戻って来る。
「ひゃっほぅ〜っ!」
 夏樹は懐かしいとばかりにクロールで端から端へと一気に泳ぐ。
 そんなこんな騒々しい様を、湯口である青銅製のぽんでなライオンがのほほ〜んと眺めている。その下には『第2回GCRレッドスフィンクス優勝記念 寄贈:ジーザム・トルク王』なるプレートが埋め込まれていた。