マーカスランド2〜シナリオを決めるぜ!

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月01日〜07月06日

リプレイ公開日:2006年07月09日

●オープニング

●シナリオを決めるぜ!
 さて、マーカスランドにおける競技場の稼働状況は、第4回GCRに向けてゆっくりとコースデザインがスタートしている今日この頃。今回はたっぷり時間をかけて行われているが、これまでの事を考えれば、いきなりマーカスの鶴の一声で全部やり直しなんて事は、これまでの実績が全てを物語っている。いつもギリギリ。その直前までコースの変更はありうる。
 そんな様を視察に、コース沿いを歩くマーカスと青年。
「だがよ、戦場は決められたコースを走るのとは違うぜぇ〜。どんな状況にでも対処できる実験的なチーム編成って奴を、各国のお偉方は望んでるのと違うか? くかかかかっ!」
 そう言って後ろ手に胸を張り、目を細めて笑うマーカスに、役人らしき青年が食い下がっていた。
「いえいえ。その方針には大いに賛同するのですが、難易度をもう少し下げられても宜しいのではありませんか? 前回の様に、各座するチームやリタイアするチームが続出する様では、イベントとしての盛り上がりに暗い影がさすというもの」
「つまりなんだな。俺にもうちょっと手を抜けと‥‥?」
「担当の方を信頼して、もっと任せれば宜しいのですよ。そうすれば、事前にコースの概要を公表出来るでしょう?」
「ビックリ箱みたいで、そっちの方が面白ぇ〜と思ってたんだがな。かっかっかっか! しゃあねぇな」
 ほっと胸を撫で下ろす。
「そういや、今回は8チーム全部でやる事になりそうじゃねぇか。取り合えず、仮申し込みはあったぜ」
「本当ですか!?」
「まぁ、お偉いさんは、身近に居て話を耳に入れる者の意見って奴が大きいからな。良しにつけ悪しきにつけ。こっちはその方がやり易い訳だが‥‥」
「それはそれは‥‥」
 ニヤリと笑むマーカス。青年はそっと襟を正した。

 そんなこんなを尻目に『王国華劇団』の練習風景は、やれルーケイだ、やれワンドだ、やれシーハリオンの丘だと人の大きな動きによりちらほらと欠員が目立っていたりもする。
 ひねもす、春から夏へとその様相を変じつつあるウィルにおいて、スラム街が全焼して一度消滅してみせたりする事は、木々より新緑が溢れ出それが散るが如し。
 都市に火事は付き物。
 そして、常々新しい様相を、新しい息吹を街へと吹き込むのだ。

 練習となると、黒子衣裳の沙羅影と、チップス・アイアンハンド男爵のちっちゃな体が交互に顔を出す。この日も、数名の参加者により、定期的な訓練が行われていた。
 走りこみや柔軟体操、腹筋、さながら体育会系ののりの基礎訓練。
 それから発声練習やらだ。
「あめんぼあかいなあいうえお〜!!」「あめんぼあかいなあいうえお〜!!」的な奇妙な声は、既にマーカスランドの一種の風物詩。

「脳天から声を出すで御座る!! 下腹の丹田に気を集め、脳天から天へ向って解き放つので御座るよ!!」
「ぐっ!? げほっ!」
「駄目だ駄目だ!! まだまだ咽だけで声を出そうとしてるぜ!! 腹だ!! 腹で声を出すんだ!!」
「昔、ひのもとに居た円の小角という行者は、その声で岩を割って見せたというで御座る!! 拙者の声を聞くで御座る!! う〜‥‥や〜‥‥た〜っ!!」
 裂帛の気合がビンビンと耳を打つ。
 ピシッ‥‥
 どこかで何かにヒビの走る音。
「おおっ!?」
「嘘!?」
「えっと〜、こんな感じで良いですか〜?」
「ナイスな効果音だったよ。エ〜クセレント☆」
「で御座る!」
 効果音担当の者に、びっと親指を立てる二人。
「だ、騙された‥‥」
 がっくりと力が抜けるが、劇団ともなると色んな仕事があるもんだと驚かされる。

 かくして、この日の練習は終わった。
 共同浴場に入る者は入り、さっぱりした顔で貴族用のサロンへ顔を出すと、既に大概のメンバーが戻って来ていた。
「さて、揃った様だな」
 ニヤリと笑むチップス男爵。くんかくんかと鼻をかぎ、もう一度ニヤリ。
「え〜匂いだ。やっぱり風呂上りのこの石鹸の匂いって奴は何とも言えねぇな」
「男爵!」
 うっと言葉に詰まる男爵。恐怖の記憶が甦ったのか。
「お、おぢさんはね‥‥そんな別に‥‥」
 頭巾の下で苦笑する沙羅影。そこで話を切り出した。
「そろそろ、公演の準備としてどんな話をするか決めるで御座る」
「どんな偉い方に頼むのですか?」
 死んだ魚の様な目で、ぶるぶると震える男爵を横目に、沙羅影はその問いに答えた。
「それを決める前に題材を提出して貰いたいで御座る」
「え?」
「つまりは、諸君は元々冒険者で御座る。中には常人が為し得ぬ試練を潜り抜けて来た者も居るで御座ろう。そこで、それをネタに劇を作ろうと思っているで御座る」
「じゃ、じゃあ。俺が‥‥」
 言い掛けた者は、そこで顔を真っ赤にして口ごもる。
「ま、色々あるで御座ろう。例えば、拙者の経験をまとめるとこうなるで御座る‥‥」
 急に押し黙った沙羅影は何事かを考えている様子。
 唐突にくわっと目を見開き、テーブルをババンバンバンバンと叩き出す。

『時はまだ秀吉が藤豊秀吉と名乗っていた頃! 琵琶湖の湖畔に銀舎利教という妖しげな宗教が流行っていた! その宗教を信じない者は恐ろしい祟りに見舞われると言う! その宗教の正体とは何か!? 事をいぶかしむ時の摂政、源徳家康は極寒の地より選りすぐりの伊賀者! 不動衆を呼び寄せるべく密かに使者を蝦夷へと放つのであった!』

 ここで沙羅影は口調を変え、少しトーンダウンした。

『青白い月明かりの下。落ち葉が一足早い秋の終りを告げ、冬の気配が静かに山奥を押し包む、人家も疎らなこの一帯に、一軒の館が埋もれる様に佇んでいた。その一室。艶光る海豹の毛皮を纏った小柄な男。一見、年の頃は四十かそこら。不動衆上忍、長杜剛時(ながもり・こわとき)は静かに書をめくっていた。その時である。ジジ‥‥という音と共に、一瞬だが行灯の灯りが揺れた‥‥「来たか‥‥」 何時の間にやら三つの影が、男の背後に控えていた‥‥』
「という感じで御座る」
 先程までの声色が嘘の様、ケロケロッとした声で話した。
「登場人物とか、てきと〜にそれっぽくして、冒険話の活劇やら恋バナとかを演出するで御座るよ☆」
「えっ‥‥それって‥‥」
「という訳だ」
 復活した男爵が、カップのエールを一気に空けた。
「みんなの、これまでに経験して来た、これわっ!て話を『天界ロマンス』とでも称して、異界の事を知らない方々にお教えしていくって作戦よぉ〜」
「ええっ!?」
「怪物討伐、悲恋、ロマンス、決闘、様々な物語を経験して来たで御座ろう。そこに劇の題材を求めるので御座るよ。という訳で、この次までに、あらすじをまとめて、皆に話して聞かせて欲しいで御座る」
「えええ〜!?」
 そこに集う者達は、一様に互いの顔を見合わせ、額に深い皺を刻んで見せた。

「シナリオが決まれば、次は配役だな?」
「衣裳は、やはりゴスロリで御座るか?」
「おいおい、未亡人も外せないぜぇ〜」
「家庭教師ものも、なかなかで御座る」
「チャリオットを船に見立てて海洋冒険もOKか?」
「グライダーで空から登場もありで御座るか?」
 妖しげな言葉も飛び交う中、この日の練習は解散となった。

●今回の参加者

 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0751 ルシール・ハーキンス(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb3175 ローランド・ドゥルムシャイト(61歳・♂・バード・エルフ・フランク王国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4428 エリザ・ブランケンハイム(33歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4806 ルネ・ヴィレムセン(21歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb5498 リタ・ソアレス(39歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●先ずはシナリオネタを聞くぜっ!
 赤ワインの注がれた素焼きのピッチャー。そして皆の手には銅のカップ。
「やっぱりド派手な冒険活劇よね〜。勇者様がお姫様を攫った悪の魔法使いを倒しに行くってのが定番でいいと思うわ☆」
 一番手。夢見る乙女の様に、うっとりとした面持ちでミリランシェル・ガブリエル(ea1782)が己の夢想を虚空に描いて見せた。
 そこは競技場を見下ろせる、風が吹き抜ける観客席の高台。
 車座に座った面々は、ミリランシェルが口を閉ざすと、一斉に感想を述べ始めた。
「本当の勇者なら抜ける剣ですか‥‥」
「勇者は剣によって選ばれる訳ですね」
「やっぱり試練が必要なんですよ! そして、それは乗り越えられなければならない!」
 そんな様を、ミリランシェルは目を細めて眺めた。
(「ふふ〜ん‥‥他の人のイイのいっぱいだろけどね〜‥‥」)
 それでも瞳を閉じれば思い浮かぶ、勇ましい勇者の鎧姿、可愛らしいひらひらのドレスを纏ったお姫様、そしておどろおどろしい悪の魔法使い‥‥あとはてきと〜♪ クスクス☆

「ゴホン! ゴホン!」
 注目を集めるべく、立ち上がったチップス男爵は赤ら顔も朗らかに両手を掲げた。
「さて、お次は誰のシナリオを」
「‥‥」
「はい!」
「はいっ!!」
「は〜い!」
「ほい!」
「ははいはいはいっ!!」
「はぁ〜い♪」
「えっと‥‥」
 一斉に手を挙げる8人。8人?
 ふと不思議に想い顔ぶれを見渡したチップス男爵は、一歩下がった席でにこにこと微笑んでいる少年、ルネ・ヴィレムセン(eb4806)と目が合い、戦慄を覚えた。
「ル、ルネ君〜‥‥君シナリオ、無いの?」
 にっこちんとあからさまな作り笑顔のチップス男爵。
 サッと皆の視線が集まり、ルネは上品な仕草で首を左右に。
「それが、人生経験の少ない僕には、あまりそれらしいネタが無いんです。どちらかと言うと、今が一番ドラマティックな人生を送っているって感じだし‥‥」
「へ、へぇ〜、そうなの‥‥」
「うーん、うーん。でも夏と言えばホラー物。古城を夜な夜な彷徨う領主の霊に襲われる宿泊客とか‥‥」
「へぇ〜、そうなの‥‥で、襲われた人達はどうなっちゃうのかな?」
「えっと‥‥やっぱりみんな死んじゃう‥‥かな?」
「ろ、ろまんすは‥‥?」
「それは最後に残るカップルが、死のちょっと前に愛を確かめ合うとか‥‥」
「う〜‥‥」
 難しい顔をするチップス男爵。皆もほぉ〜っとため息をついた。
「悲劇か‥‥」
「極限状態で胸の内にある互いの想いに気付くか‥‥」
「死して互いの愛を貫くという物もあるで御座るゾ」
 と、そこから心中物を少し語る沙羅影。

「ま、まぁ重い話はその辺で、誰か軽い話は無いかな?」
 冷や汗を拭き拭き、チップス男爵がぱんぱんと手を叩く。
 すると、すっと手を挙げたルネより少し年上っぽい少年に。
「一目惚れをした相手がいて‥‥ぼ、僕じゃないですよ! 友人の話です!」
「友だちの話だって‥‥」
 ぷぷぷと含み笑いをするミリランシェルに、少し頬を赤くするイコン・シュターライゼン(ea7891)。
「僕の友人は、その人の助けになろうと色々と手伝ったりしたのですが、いざ告白しようという段になってあがってしまい失敗。お互い立派になり夢を叶えたら逢いましょう、という事になったんです」
「ふぅ〜ん、それでそれで♪」
 興味津々と、むっちりセクシーなお姉さんに身を乗り出され、イコンはかなり困った顔。なるべく目線を合わさない様に話を始めるが、その愉悦に満ちた青い瞳が回りこみ、最後には目を瞑った。
「あ、相手は街を治める貴族のご令嬢で。と、当然、身分違いの恋。仲間の協力もあったのですが、ご令嬢と結ばれる事は出来ませんでした。く、くすぐらないで下さい! う、打ちひしがれる男に追い討ちをかける様に、街に悪魔の手が伸びてきたのです! 男は最初戦おうとはしませんでしたが、仲間の励ましと街を愛するご令嬢の気持ちを知り立ち上がりました! そして、その人への思いを胸に秘め、仲間達と共に、街を攻める悪魔と操られた竜と戦い、ご令嬢が愛する街を守ったのです!」
 一息に話し終えるイコンを、皆で微笑ましく見守っていた。
「ほぉ〜、純愛物で御座るな」
「そういうのもなかなかよね〜♪」
「も〜っ、ふざけないで下さい!」
「うふふ‥‥身分違いの恋‥‥若さですね‥‥」
 ほおとため息。初老のエルフ、白銀麗(ea8147)は口元を隠す様に、目を伏せて呟いた。
「そういう白殿は、どんな話を用意されて来たのですかな?」
 すると口元を押さえて微笑む白は、少し遠い目をした。チップス男爵は、それ程に長きに渡り冒険の日々を送って来たのかと、うんうんと頷いた。
「そう。あれはもうすぐ千年紀も終わろうとする、神聖暦999年のことです。交易都市ドレスタッドを何匹ものドラゴンが襲う事件がありました」
「ドラゴン‥‥」
 ごくりと唾をのむチップス男爵は真剣な眼差しに。
「ドラゴン達は人々にこう告げました。『ニンゲンヨ、ワレラカラ奪ッタ宝ヲ返セ』と。ドレスタッドの人々には、そんな心当たりはありませんでした。ですが調べていくうちに、事件を背後から操る一人の男の姿が見えてきます。強大な力を持ち、悪魔や悪漢、そして貴族や精霊までをも操る紫のローブの男。竜と精霊の宝とは、そして大精霊の住む地イグドラシルとは‥‥宝の持つ強大な力すら道具として利用する、男の本当の狙いは何なのでしょうか。破滅か、それとも‥‥」
 ごくりごくりと皆で生唾を飲み込む音がする。
「そ、それでどうなった!?」
「どうなったのさっ!?」
 掌を見せてネタはここまでと言う仕草の白。
「実はもう一つあるんですけど‥‥9人のホムンクルスの話。人造人間と言って判りますか?」
「それはカオス絡みで不味いんじゃ? しかしドラゴンも‥‥」
「ふむ、これはロマンスとしてイコン殿のネタも絡めれば‥‥後はオチ次第で御座る。それだけ話を膨らませてまとまるかどうかが問題で御座る‥‥」
 うんうんと何度も頷く沙羅影。チップス男爵は先ほどから頭を抱えた。
「今の時期、ドラゴンを悪役にするのは、ちぃ〜とばかり不味いかも知れないぜ。ナーガ族の絡みがあるしな」
「そう‥‥なんですか?」
「あ、いや。まぁ、カオスの手先になって動くドラゴンが居る、という話を連想するから不味いかも知れねぇな。アトランティス的には‥‥」
 白の不安げな表情に、口ごもりながらチップス男爵は頭を掻いた。
「まぁまぁ、全部を決めるのは他の方々のシナリオ案も聞いてからの話で御座るよ」
 そんな二人の肩をぽんぽん叩き、沙羅影は段差をぽ〜んと跳び上がり、最上段に座るルシール・ハーキンス(eb0751)の前に降り立った。
「で御座ろう?」

 黒い頭巾の奥から、柔和な双眸がルシールに語りかける。
「えっと‥‥色々と難しいんですね、こっちの世界も」
「どうやらその様で御座るよ。拙者も、この世界の住人ではないで御座る故、最初は苦労したで御座る」
「経験した話を面白おかしく脚色して話せば良いんだよね?」
「うむ‥‥」
「‥‥大した事じゃなくてもいいのかな?」
「構わぬで御座るよ。拙者の話も大した事は無かったで御座る」
 何十、何百万という餓死者の霊を操った悪魔の話、銀舎利教のネタも、今や一言である。
 ルシールはぐっと拳を握り、何度か頷いた。
「じゃあ‥‥みんな聞いて! 私が元の世界で経験した時の事を!」
「よし来た! 頼むぜ!」
 ポンと手を打ち、チップス男爵がウィンクしてきた。
「実は夜な夜な現れては、仲睦まじく語らう恋人達を襲う怪人が現れたんだ。筋骨隆々な体と凶悪な人相。全身ぴっちりとした黒い衣裳を身に纏い、顔には紫の蝶を象った仮面を付け、豪奢なマントを付けたその姿は、まさに怪人と呼ぶに相応しい外見だったよ」
「へ、へ、変態!?」
 新ネタに嬉々とするミリランシェル。
「死ねば良いのに!」
 オデコをピカリと輝かせ、吐き捨てるエリザ・ブランケンハイム(eb4428)。
「それで襲われた恋人達はどうなったんだ!?」
 がっしと両の二の腕を掴んでくるチップス男爵に、ルシールは目頭を抑え、俯きながら首を左右に振った。
「それは恐ろしい目に‥‥奴との戦いはそれはそれは壮絶な戦いだったんだ。私達と怪人のプライドをかけた戦いと言っても過言じゃない位にね。たるんだ下腹をぷるぷる揺らせて奇妙なポーズで攻撃してくる怪人は、奇妙な言葉でもこちらを幻惑してきたんだ」
 想像しただけでうぇ〜となる若干名。
「本当! 即効、死ねば良いのよ!」
 ぷんぷんするエリザの過激な発言に苦笑しつつ、ルシールはここぞとばかりに言葉に力を込めた。
「しかし私達はめげず、ついに怪人に正義の鉄槌を下したんだ! そうして、街には恋人達が語らう平和な夜が戻ってきたんだよ!」
「ふぅ〜‥‥やはり正義は勝つだな」
 苦笑するチップス男爵はルシールから離れた。

「じゃぁ、次は我が家に伝わる御先祖様の超伝説を聞かせてあげるわ!」
 最早黙って待ちきれぬとばかりに、エリザが自分のネタを披露し始めた。
「変態の話にげんなりしているそこの貴方! 我が家の栄光の歴史の数々から選び出した珠玉のストーリー! 涙を流して聞きなさい!」
 ぽか〜んとする一同を尻目に、サッとオデコを磨き上げたエリザは、胸を張って語りだした。
「明朗活発のデコーノ姫は忠実な部下、モヤッシーとノーキンを引き連れ、不思議な石『ドラゴストーン』を捜す旅をしていたの。で、ライバル貴族で、腹黒偽善者のヤルタ家も石を追っていて、部下の美形三騎士を使って邪魔ばかりしていたわ! ホント腹立つわね〜!」
 そこから始まるスペシャルでゴージャスな冒険活劇の数々。
 一通り終わると、誰しもがため息をついた。
「成る程。最後にその不思議な石が砕けちまうが、争いの元が無くなり全部がハッピーエンドってとこが良いネェ〜」
「何を言ってるの!? トーゼンよ!!」
 ふんと鼻息も荒く、尤もらしい事しか言えない愚かなチップス男爵を、憐憫の情も込めて見下したエリザは、口元を押さえてホホホホと高らかに笑った。
 すると、その笑い声がもう一つ。さもおかしいと言った風情で響き渡った。

「何よ!」
「あ〜ら、ごめんなさい」
 その褐色の肌をした美女は、豊満な胸元がこぼれ落ちない様に抑えながら、目に涙を浮かべ身体をくの字にして大笑い。
 キッと睨み据えたエリザにようやく気付いたか、リタ・ソアレス(eb5498)はフッと勝ち誇った微笑を浮かべた。そして、すらりとした長身から見下ろし、また再びクスクスと笑いだす。
「ほ、本当に涙が出ちゃったわ。貴方、凄いわねぇ〜♪」
「何よ何よ! ちょっとばかり! だったら貴方の話はどんなものなのよ!?」
 ぷうっと頬を膨らませるエリザに、年上の余裕かリタはにっこり。
「では、わたくしの恋バナの提供をバ。それはわたくしがまだティーンエイジャーの頃」
「ほうほう」
「で御座るか」
「へぇ〜‥‥」
「全く男どもは!」
 前のめりに聞き入ろうとする様にぷりぷりするエリザ。それはそれで微笑ましいと、少し離れて眺める人々。そんな皆の様子に頷き、リタは話を続けた。
「アメリカはニューヨーク‥‥美しくスタイルも良く聡明なわたくしは街の若者達の憧れのマドンナでございました。まあ当然の如くわたくしを巡り様々な争いが起こったわけで。中でも地元の若者達を束ねるチームのボス二人の決闘は見ものでございましたね」
「ああそうでございますかー!」
「うふふ‥‥ブラッドとアントニオ、二人の青年は車でレースを行い勝利した方がわたくしをゲットするという勝負を行いました。崖に向かって全速力で走らせるのです。恐れをなして先に止まれば負け、崖から落ちても負け。そのようなギリギリのレースでございます。まあその時は建設中の橋を使いましたが。果たしてどちらがマドンナを勝ち得たのでございましょうか!」
「何それ! 結局、自分がもてもてだったって言いたいだけじゃない!」
「『私の為に争うのはやめて!』はお約束でございましょう?」
「うっ‥‥」
「貴方も当然、そういう経験はおありですわよね?」
 そう切り返され、エリザは数歩よろめいた。この瞬間、目の前の女の姿が、数倍にも増して見えたのだ。
(「お、大きい‥‥き、きぃぃぃっ!」)

 勝利を宣言するかのリタの笑い声が木霊する中、お次の話をとエルフのローランド・ドゥルムシャイト(eb3175)がぽろろ〜んと竪琴を爪弾いてみせた。
「流石に皆さん、華やかなお嬢さんばかりですね。何をやっても映えるだろうけれど、やはりそうなると恋愛劇。それに活劇の様な派手な舞台が似合うと思うんだ」
「お、ローランド卿の話も恋愛か」
 うんうんと頷くチップス男爵。これに応えるべく、ローランドは再び爪弾いた。
「若き海賊の首領が主人公。最初はあくまで唯の海賊に過ぎなかったが、祖国が隣国の侵略を受けてからは、敵国の船を相手に襲撃を仕掛けていくようになる。数に勝る敵国の艦隊を海賊流の戦術で翻弄する彼等はやがて、民衆からも大きな支持を集めていく。戦う度に勢力を増していった彼等は、遂に祖国の王家の要請を受け、王家と手を携え、この戦乱の趨勢を決する事になる海戦へと臨むのだった‥‥全体はこんな感じ。で、合間に、侵略者の手から街を守る義賊的エピソードや、敵国船に襲われている所をたまたま救出した姫君との恋愛劇等を挟み込んで話を膨らませよう。海賊時代に仇敵だったライバル貴族と、反目しつつやがて手を携えて行く、なんてのも面白いかもね」
「こちらは海物語か‥‥」
「で御座るな。スケールが大きいで御座るよ」
「はい。 僕が幼少の頃の、故国フランクの戦乱の時代を題材にするのも面白いかと思ったんだけど、今回は見送りました」
 ぽろろ〜ん♪
「ふむ。では、それはまた別の機会として、次は‥‥」
「は〜い! じゃあ、次は私ね☆」
 軽くウィンク。ぴょんと立ち上がった加藤瑠璃(eb4288)は、朗らかに話し始めた。
「冒険って言うのはあんまり縁が無いけど、別のロマンスなら地球での航空会社ネタが身近に色々あるわよ。もちろん、自分の話じゃないけど、パイロットの男性と、地上勤務の女性の社内遠距離恋愛の話とかね」
「それはどういう? 航空会社? パイロット?」
 聞きなれない単語に、不思議そうな首を傾げるチップス男爵。
「えっと、それは‥‥この世界で言うところのフロートシップみたいなもので、人や物を運んでいる大商人の事よ。パイロットはその操縦手と言ったところかな?」
「なるほど、瑠璃殿の世界では、きっと何十台もフロートシップがあるので御座るな?」
「しかし、フロートシップは使えねぇぞ。実際のは」
「そっか‥‥グライダーでごまかすとか‥‥何機も使って、大きなカキワリをそれらしく運んで表現すればいいんじゃない?」
 頭の中で想像してみると、そう難しい事には思えなかった。

「ふむ‥‥えっと、これで全員かな?」
「あ、あの‥‥」
 おそるおそる挙手する眼鏡をかけた少女、ドロシー・ミルトン(eb4310)。
「おっと、悪ぃ悪ぃ。え〜っと、ドロシーちゃんだっけ?」
「は、はい! あたし、『これは!』って経験がないんだけど、天界からこちらの世界に来ちゃったって言う事こそ、人生最大のイベントよね。だからやっぱり、それを取り入れたいな」
「成る程、拙者もそうで御座るが、こちらに来たという事こそ、正に天界人の天界人たる由縁で御座るな。それで?」
 腕を組んで頷く黒子、沙羅影に即されドロシーは言葉を続けた。
「小さい頃から仲の良い男の子と女の子が居て。ずっと一緒だったから、兄妹、姉弟みたいに育ったけど、いつの間にかお互いに恋心を抱いちゃうの。だけど、今の関係を壊すのは怖いなって、想いを告げられないでいるうちに、こっちの世界に呼ばれて、離れ離れになっちゃう‥‥っていうのを、冒頭にどうかな?」
 顔を真っ赤にして、ドロシーは念を押す。
「言っておくけど、あたしの体験じゃないからね!」
「ふむ。つまりは会いたいのに会えない。常にすれ違う二人を描き、観る者をやきもきさせる作戦だな!?」
 チップス男爵に、にこりと頷くドロシーは軽く咳払い。
「こほん。それで、二人ともがこちらの世界に呼ばれてるけど、お互いにそれを知らないのよね。当然、最後には再開してハッピーエンド、だろうけど、それまでに色んなエピソードを盛り込めるでしょ? 焦らし過ぎるのはいけないけど、すれ違い劇は必須よね!」
 最後にピッと指を立てて、皆に有無を言わせぬ勢いのドロシー。
 沙羅影が頷き、チップス男爵がパンパンと手を叩いた。
「うむ。これで全員のネタが出終えたかな? 場所変えて少し考えようぜ。と言う訳で、休憩! そうだな。教会の鐘があと2回鳴ったら、サロンに集合ってトコでどうだい?」
「「「はーい!!!」」」

●シナリオを決めるぜっ!!
「わっは〜い☆」
「熱々だよ〜っ!!」
 ルシールと瑠璃が、手篭いっぱいに盛り込んだパンの山を、貴族専用の入場口に併設されたマーカスランドのサロンへと飛び込んで来たのは、それから数時間後の話。
「あ、きたきた! まったくどこに行ってたと思ったら!」
「あははは、これ焼いてたんだ☆」
「はいは〜い、お手伝いしてました!」
 相変わらずぷりぷりしているエリザに苦笑しつつ、二人はそれを皆の前に置いて回る。
「わぁ〜焼きたてパンの良い香りですね」
 目を細めて一つを手にする白。
「ここの大窯は凄いんだよ! いっぺんにあんぱんをいっぱい焼くから、ついでに焼かせて貰っちゃった☆」
「どうりで少し甘い香りがすると‥‥」
 イコンはそれに鼻を近づけて、思いっきり吸い込むと、鼻腔いっぱいに香ばしくも甘い香りが充満する。
「じゃあ、紅茶でも煎れましょうね」
 勝手にカウンターの向こうに入り込み、茶器の用意を始めるリタ。
「手伝うわ。は〜いちょっとどいてね、お兄さん」
 パタパタと足早に加わり、瑠璃は係員を追い出しにかかる。
 エリザは口をへの字にしながら手にした羊皮紙を広げてみせた。
「まったくもう! そのまま聞いててね! マーカスさんから渡された契約書の内容だけど、まだ誰も書いて持ってってないみたいよね! あの、マーカスさんだから不安だもんね! そういう訳で、読んで説明しちゃうけれど、いいかしら!? いいわよね!」
 全く有無を言わせる気の無いエリザ。
「一つ。私は王国華劇団に所属します。一つ。私は何にも優先して王国華劇団の舞台に出演します。一つ。他の舞台に出演する時は、その了承を団から得なければ出てはならない。一つ。以上の事が護れない場合は、100Gの違約金を払い、退団します。ちなみに契約金は支度金を込みで10G。働く都度に歩合で別途お金が出るみたい。以上、判った?」
「うわぁ〜、それは凄いですね」
 にこにこポンポンと手を叩くルネ少年。
「期間とか無いからどうなのかしら?」
 ふぅ〜と言って、その契約書をテーブルに広げるエリザ。
「まぁ確かに、大雑把でマーカスさんらしく無いとは思うけど、何か裏があるんじゃないかと思うけど‥‥」
 う〜んとオデコに手を当てて唸るエリザ。
 すると目の前にリタの煎れた紅茶が差し出された。

 そこへ、沙羅影とチップス男爵がふらりと姿を現した。
「よ、もう集まってるな!」
 軽く手を挙げるチップス男爵は、手にした羊皮紙を広げ、こほんと咳払い。
「じゃあ、今度のシナリオの概要を発表するぞ。ドラゴン絡みやホムンクルス絡みの話は残念ながら今回は見送るとして、第一回目の天界ロマンスは『すれ違う二人』だ」
 ワッと盛り上がる。 ドロシーは手で両の頬を押えた。
「天界から落ちて来た二人は、全く別々の所に降り立つで御座る。そこは敵対する二つの勢力。そしてそれらは『ドラゴストーン』という伝説の石を求めて対立しているで御座る」
「ぶはっ!」
 派手にお茶を噴くエリザ。
「な、な、何よ!」
 サロン中から視線を集め、慌てて手近にあった布巾でキュッキュと顔を拭き出した。
「それぞれの下で、苦労する二人。そして運命の対決の中、二人は再会する。その『ドラゴストーン』を前にだな。そして選択するのだよ、二人は。そして石は失われ、争いの元が目の前で消滅した二つの勢力は、和解する。石と共に消えた二人を想って‥‥で終りでどうだ!?」
 ほぉ〜‥‥
 ため息の漏れる中、そっと白が手を挙げる。
「その二人はどこに行ってしまうのですか?」
「さあな? 伝説では、天界人は何か使命を果たす為にやって来るって言うじゃねぇか? だったら、使命を果たし終えた二人はどうなったか、その先は野暮ってもんじゃねぇの?」
「全部を語らずに、観た者の想像に任せるで御座る。それでどうで御座ろうか?」
「おいおいおい! みんな異論はあるか〜?」
「うふふ‥‥宜しいんじゃなくて? 初々しい恋愛モノはどこの世界でも悪く無いわ」
 目を細め、ペロリと唇を舐めるリタ。
「あ、ありがとう御座います!」
 ペコリ。ドロシーは思いっきり頭を下げた。

「よ〜し! じゃあ、今度やるGCRの中休み! 応援合戦に、この宣伝をしようと想うがどうだ!?」
「「「え、ええええええ〜っ!!?」」」
 これで決まりだとばかりにぶち上げた、チップス男爵の一言に、サロン全体が揺れた。
「これで決まりで御座るな。さて、そこで一人紹介した人物がおるで御座る。かも〜ん!」
「やっは〜!」
 奇妙な声を挙げ、皆の前に姿をあらわしたのは、一人の長身の男。ちりちりのドレッドヘアーに黒いサングラス。着ているモノは、何やら頭の痛くなりそうな色彩がちりばめられた汚らしい物。くちゃくちゃと口の中で何かを噛みながら、くるっと一回転。
「はぁ〜い、マイネームイズボビー! 皆サン、ヨロシクネ〜!」
「えっと、大道具を担当する事になった、ボビーで御座る」
 そう紹介されたボビーは、腰からシュタッと奇妙な金属の筒を左右一本ずつ取り出し、カシャカシャとシェイク。テーブルの上にあった、エリザの契約書をサッと奪うや、その裏にシューっとスプレー。
「ちょ、ちょっと何すんのよ!」
 皆の見ている前で、たちまち可愛らしい? オデコちゃんの似顔絵を描いて見せた。