少年色の尻尾1〜うそつきククス

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月28日〜01月31日

リプレイ公開日:2006年02月02日

●オープニング

「また来たのか。帰った帰った」
「だぁかぁらぁ! おいら聞いちゃったんだよ。泥棒達がお金持ちの屋敷を襲うって!」
「わん! わわん!」
「ウソばっかり言いおって。本官を愚弄するのもいい加減にしろ」
 ギルドの片隅。押し問答を繰り広げるのは8つぱかりの継ぎ当て服の男の子と仔犬。そして立派な口ひげを生やした親父である。周りが少年を視る目は冷たい。なぜって? これが8度目だからである。頭が固い。しかしそれで居て人の良いこの親父は、過去に7度まで彼の報告を重視して、誠心誠意調査をして‥‥結局男の子のウソであると突き止めたのである。うそつきククスと言えば、今やギルドの誰もが知らぬ者の無い有名人。
「わからずや! 本当だって。今度こそ本当だって!」
 辺りの者は、また始まったかと生暖かい目で一瞥するだけ。
「さ、さ。帰った帰った。ここはお子さまの遊び場じゃないんだよ」
 くいっと坊主と仔犬の首根っこを掴み。猫の子でも追い払うように放り出した。

「あ? ここはお子さまの遊び‥‥え? あんた天界人者か。それは済まなかったな。だが、見ての通りお子さまはお呼びでない依頼が多いんだ。さぁ。小遣いがないならやるから、どいとれどいとれ」
 入れ替わりに入ってきた年少の、地球人やジ・アース人を邪険にあしらうこの男は、これでも腕利きの鎧騎士である。人を見かけで判断する所があり、か弱そうな女性や子供が冒険に首を突っ込むのを危ない遊びだ。と見ている。
 この男、結構有名人である。累代の騎士の家系で、ご大層な本名が有るのだが、口癖からドイトレと言うあだ名で呼ばれている。本人は無頓着でそう呼ばれることを気にしていない。ようはお人好しなのだ。
「あんた。気に懸けるのは結構だが、あんな悪ガキの言うことを真に受けてると無駄骨になるぞ。まあ、女子供の暇つぶしにはいいかもしれんが‥‥」
 そう言って、うそつきククスから聞いたと言う話を聞かせてくれた。
 お金持ちが住む高級市民街に、明日の夜、狼の頭の怪物が手下を連れて襲撃を掛けると言うのだ。
「あんな所へそんな目立つ格好で行けば、どうなるかは判るはず。巡邏の兵にも商家の警備も引っかかる。今までで最もありえん作り話だ」
 それでもドイトレさんは興味を持って聞いている人々に、ククスの家の事を教えてくれた。貧しい行商人の子供で、もう嫁に言った女ばかりの家に生まれた末息子だと言う。
「どうだね。実をいうと本官も、少しは気に掛かって居るんだ。どうしてウソをつきまくるのか。出来るならばあの子の寂しさを除いてやってはくれんかね。寸志だが謝礼も払おう」
 正式なギルドの依頼ではないが、こうして小さな依頼が提示された。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3469 クロス・レイナー(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3860 ナサニエル・エヴァンス(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4278 黒峰 燐(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4299 皇 竜志(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4335 夏崎 葉月(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

サリトリア・エリシオン(ea0479)/ アルビカンス・アーエール(ea5415

●リプレイ本文

●ドイトレさん
 騎士の誉れ。冒険者達が自由に動ける数少ない拠点だ。良い水が貴重なため、喉を湿らす気の抜けたエールが代わりに供される。酒精もかなり飛び、しかも水で割られている。
 本来ならばギルドからの説明を受けるのだが、そこはそれ。正規のギルドの依頼ではないため、直接依頼人であるドイトレを囲み子細を聞く。
「おじょうちゃん。おなかは空いてないかね?」
 ドイトレは奢りのパンとハンバーグの皿を押して、傍らの女性に声を掛けた。彼女の名はガレット・ヴィルルノワ(ea5804)。パラであり、パラの中でも特別可愛い容姿のためか、ドイトレの目には幼い子供に見えるようだ。
「そうそう。子供は遠慮しないものだ」
(「子供に見られるのはいつもの事だけどさ。奢ってくれるなら、ま、いいか」)
 勧められるがままに料理に手を着ける。そんな中、フェリシア・フェルモイ(eb3336)が席を立った。
「それでは、わたくしは一足先にククスさんが言っていた場所に参ります。万が一、手遅れになっては困ります」
 柔和な笑顔で歩み出すフェリシアに、ドイトレは釘を差した。
「あなたのようなか弱いご婦人が無理せんようにな。何かあっても一人でやろうなんて無茶は禁物ですぞ」
「わたくしの役目は見張りだと心得ています。神の愛は弱き者達に注がれます。助けを求めている者を助けるのが、聖なる母にお仕えする私の使命です。いえ。当地にセーラの福音は届けられたばかり。私の伝道する場所が、たまたまそこだと言うだけです。何かあったら報せに参ります。皆様、どうか情報収集を宜しくお願い致します」
 軽く会釈をして外に向かう。
「それで、ドイトレさん。ククスはどんな事を言ってたの?」
 ガレットの問いに、中断した会話が再開する。
「七件の嘘とその内容、いつ頃から始まったのか、彼とその家族について知っている事を伺えましたら幸です」
 アルメリア・バルディア(ea1757)が突っ込む。
「そうですね。ククス君が嘘をついているのならば、何故嘘をついているかが知りたいです。そのためにも、一体何があったのか教えて下さい」
 言ってクロス・レイナー(eb3469)は身を乗り出した。ドイトレの話では、今まで何も起こらなかった七つの事件とは主立った物でこんな話であった。
・馬頭の化け物が村の井戸を馬糞で埋める相談をしていた。
・黄金仮面が子供を浚いに夜な夜な町外れに現れる。
・雪の降る中、裸で夜歩く背の高い怪しげな女の人がいる。
・寵姫マリーネ様の暗殺を企む連中が街の中に潜入した。
・貧民街放火の話をしている怪しい男達がいる。
 どれも眉唾物。しかし中には大それた話もあったので、ドイトレは調査に踏み切ったそうだ。
「全てそんなものは無かった。と言うのが本官の結論である」
 ドイトレはそう言い切った。それがあまりにも自信たっぷりなので、ナサニエル・エヴァンス(eb3860)は有る疑問を覚えた。
「ドイトレ殿。具体的にどんな調査や警備をしたのか?」
「勿論、本官自ら10人の部下を連れて話を聞き周り。然る後に上申してパガンを繰り出し、10日以上水も漏らさぬ万全の備えをした」
 どん。と胸を叩く。
「はぁ〜」
 ナサニエルからため息が漏れる。そんな警備が強化されたところへのこのこと乗り込む馬鹿はおるまい。クロスも肩をすくめる。
「盗賊が、正々堂々やってくるはずも無いでしょうに‥‥」
「と、とにかく!」
 ガレットが釘を差す。
「今回の話はあたし達に任せて。ドイトレさんはぜっ〜たいに、出てこないでよね」
「なぜだ?」
「もちろん。天下のドイトレ様の武名に怖じ気づいた賊が、近寄ってくるはずもないからさ。今までもそうだ。ここは無名な私達に任せておくのが上分別だろう」
 ナサニエルが言葉を選んで話を締めくくった。

「僕はまずククス君に会ってみたいかな。まずは信用してあげることだもん」
 飛び付く愛犬プリンの頭を撫でながら、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は仲間の顔を見渡した。
「それは私たちだけじゃ無いですよ」
 アルメリアは笑う。
「あの人は間違いなく良い人ですわね。心配してこうやってお仕事を出している訳ですし」
 平気で嘘をつける子のようには見えない。とドイトレは言った。今度も無駄足だと思いつつも、信じている事は確かだろう。ただ、最早彼にはどうして良いのか判らないのだ。ククスの嘘は最近のこと。丁度天界人が現れ始めた頃と言う。
「で、ぞろぞろ行くかい?」
 皇竜志(eb4299)の問いに。
「押し掛けたら困っちゃうでしょうね。嘘だとしても何か有るはず。次から次へ嘘を考えるのも楽じゃないでしょう?」
 答えるアルメリア。ガレットはにっこりと
「じゃあ、手分けして近所の情報を調べてみようよ」

●井戸端会議
 共同井戸の周りはおかみさん達の社交場。上は寵姫のゴシップから、下は野良猫の恋の鞘当てまで、得体の知れない話が流れている。
「‥‥マリーネ様もお可愛そうに。あの事件でお母様を亡くされ、暫くはご自身も‥‥」
「皆さんお疲れ様です。少し宜しいでしょうか? あ、私こういう者です」
 ちょっと場違いな、異国風の礼服を着た男が、見かけない薄い板のような物を差し出した。
「いや、旦那様。こんな物を貰っても。第一、字が読めません」
 娘は突然の貴人の登場に狼狽。余の者もどこの家中の方かと遠巻き状態。
「いやあ。困りましたな」
 信者福袋(eb4064)は弱った。スーツが礼服に見え、名刺が原因で旦那様扱いである。なんとか話を拾おうとしたが、緊張しきった場でいつもの会話が出来るわけもなく‥‥。
 小一時間後、当てが外れた福袋は共同井戸を後にした。

 場が落ち着いた頃。ガレットは福袋を囮に場に溶け込んで居た。耳を隠し子供のような話し方で
「ねえ。お姉さん。ククスって子知ってる?」
「ああ。あの嘘つきね。困ったもんだわ」
 ククスの父はフリーの庭師で、あちこちのお屋敷を回って仕事をしている。その伝で姉たちは奉公に行き、一番上は良縁に恵まれた。腕の良い職人なので、本来ならば弟子を何人もとって、こんな貧民街に住まう人物ではない。ただ、あの親父。気が短くて気性が荒く、怒らせたら貴族様にだって喧嘩を売る。平民とケンカをして怪我をするなど、お家の恥なので公にはなっていないが、相当お偉方から睨まれているらしいし、弟子も3日と持たないと言う。
「里帰りかい? 実家があれなんで気兼ねして一度も無いし、下の二人も家に立ち寄ると、不始末でひまを出されたのかと怒って追い返すような親父だからね。ククスがぐれるのも無理ないよ」

●貧民街
 冒険者街に隣接する貧民街。城など重要な施設から河を隔てて隔離された土地である。ごみごみと入り組んだ路地、薄汚れた建物の立つ街角。ドイトレから聞いた目印を辿り、ククスの家のある界隈に出た。
 じろりと居職の職人の目が冒険者達を睨む。服装もそうだが、身のこなしからして彼らとは違う世界の住人なのだ。一応は騎士身分に属するため、彼らがケンカを吹っ掛けて来ることは少ないと聞いている。
「ククスって子の家を知らないか?」
 竜志は、知らず撞木に踏んで声を掛けた。死合えば確実に屠られるほどの未熟者ながら、親父に叩き込まれた動きが、竜志が武人の端くれであることを否応なく体現する。
「騎士様。ククスの家はあそこです」
「誰かいるのか? 親兄弟は?」
「父親が一人。でも夕方まで仕事に出ています」
 今はククス一人だけらしい。居ればの話だが。
 一行は更に二手に分かれた。

 騒がしい子供達の声。遊びの輪? いや‥‥あれは争いの声。甲高い声が怒鳴り、何か積み上げた物が崩れ落ちる音。そして仔犬の吠える声。
「ケンカ? よね」
 真っ先にドロシー・ミルトン(eb4310)が足を早めた。路地を曲がり突き当たりの資材置き場。そこに十数人の男の子達が、一人の男の子を囲んでもみ合っていた。
「卑怯者!」
 ドロシーが呼ばわる。
「な、なんだよ。大人には関係ないだろ!」
 リーダーらしき子が食ってかかったのは、寧ろ見上げた根性と言うべきであろう。

 追い付いた朴培音(ea5304)がリーダーの持つ棒を、そのまま手刀で真っ二つにへし折った。女性ながら大人のジャイアントは迫力がある。二階から睨み付けられるような迫力に子供らはタジタジ。
 ざわっと子供達に恐怖が走る。女と言えども勝てる相手じゃない。そのまま腰を屈めた培音は、もみくちゃにされ服が破れ血が滲んでいる男の子をしっかりと抱きしめた。
「じゃあ。よってたかって一人を虐めるのは、何と呼んだら良いのかな? ねぇ、その手に持っているのは何かなぁ?」
 ドロシーの舌鋒は鋭い。
「う‥‥」
 多分、彼にも言い分は有るのだろう。しかし上手く話が出来いし、かと言って暴力振るって勝てそうな相手でもない。
「そ、そいつが悪いんだからな!」
 言い捨てると、蜘蛛の子を散らすように男の子達は逃げ去った。
「ちょっとまって‥‥」
 一緒に逃げようとする腕の中の子供に向かい、培音は問う。
「ククス君?」
 こくりと返事が返ってきた。

「ドイトレさんから頼まれて。あなたの話を聞きに来たの」
 ククスが落ち着いた頃を見計らい、夏崎葉月(eb4335)が尋ねる。
「‥‥なんて言ってた?」
「え?」
「おいらの事なんて言ってた?」
 ふてて言葉遣いが乱暴だ。
「どうせ嘘つきをどうにかしろってことなんだろ! !‥‥ねぇ。何で泣くのさ。大人なのになんで泣くのさ」
 葉月の目から零れる涙に、ククスは戸惑う。今まで怒鳴られたり、邪険にされたり、問いつめられたりしたことはざらだけど。こんな反応は初めてだ。慌ててご機嫌を取るような口振りになる。
「葉月もそうだけど。あたしたちククスの話を聞きに来たのよね。『狼の頭の怪物』の話。聞かせてくれるよね?」
 ドロシーが促すと。ククスはぼそりと話し始めた。頷きながら聞く冒険者達。ククスは嬉しくなって次第に詳しく話し始める。それは要約すると次のような話だった。

・真夜中、目を覚ますと怪しげな男達が家の近くを通るのを見た。気になってつけてみるとそいつらはここに来た。
・武闘会場の近くにあるテクシ家と言う屋敷を襲う相談をしていた。
・話が終わると、バラバラに散って居なくなり、狼頭の男がゆっくりと箱車を押して闇の中に消えて行った。
・居なくなってからこっそりと家に帰り、上着の袖を軽く結んで証拠にした。朝、袖は結ばれていたから夢じゃない。

●ククスの家
 煉瓦を積んだ赤い壁。一階建ての小さな家。明かり採りの小さな窓。鍵はおろか戸も無い家の煉瓦の角の所々に零れる様は、廃墟を補修したが如くひっそりとしとていた。
「ごめんよ」
 言って竜志は中に入る。小さな竈に水瓶。荒布で区切られた向こうは寝室であろうか? 今は人の気配もなく、声に応える者もない。
 暫く待っていると、広めの通りから、葉月らが見慣れぬ男の子と話しながら帰ってくる。なんとなく和気藹々な感じに見えたので。竜志は手を振って呼びかけた。
「この子がククスか?」
 竜志は確認すると、腰を屈め彼の目の高さに合わせ
「僕は話をきちんと訊く迄はあんたが嘘を言っていると決め付ける事はしない。でも、過去に嘘をつき続けている事実は決して消えはしない。だからあんたの言う事は誰も信じない。それでいいのか?」
「あ‥‥、竜志さん。それはちょっと‥‥」
 クロスが言葉の消しゴムを使う猶予もなく、
「やっぱりおいらを信じてない!」
 ククス絶叫。
 他意は無い。寧ろ真摯な竜志であった。しかし、心を開かせるには彼は余りにも若すぎた。ククスは兎が茂みに隠れるように培音の手を離れ、家と家の隙間を抜けて居なくなった。

●騎士の誉れにて
「だめだありゃ。環境が悪すぎる」
 竜志は傷む腕を揉みながらぼやいた。ククスと親父が会った瞬間を思い出す。
「父ちゃんは情けない‥‥」
 と、言うなり手に持った鉄のハサミで殴り付けたのだ。咄嗟に竜志が身を入れて受け払おうとしたが、くそ力と意外なスピードでそれも適わず、腕で受け止めるのがやっとだった。話を聞こうなんて状況じゃない。
「私もそれらしい話は全然聞けませんでした」
 河岸替えて、富裕層が住む地区を聞き込みに歩いたアルメリアと福袋は、フェリシアの詰めている商家と軽い商談めいた話は出来たが、屈強なガードマンを自慢されるに留まった。しかし
「名刺を渡し、冒険者ギルドに身元を照会するよう話を付けて置きましたです」
 夜中に賊を追って侵入しても、少ないトラブルで住ませる手配りをしてきたのは流石セールスマンである。
「一応、ギルドへ届けは出しておきました」
 クロスが気の抜けたエールで喉を湿らせながら報告。こうして事件に対する備えは整えられた。

●狼男
 二日目の夜だった。松明を持ったガードマンが巡回に通り過ぎた後。ゴロゴロと言う小さな響きと共に、新月の闇の中に浮かび上がる怪しい影。
(「来た!」)
 見張りのドロシーのテレパシーがレフェツィア、培音、そしてガレットに急を告げる。一同は持ち場より展開。怪しい影を囲むように三日月系に配置した。屋敷方向に網を欠く布陣だが、そちらにはナサニエルが幾重にもファイヤートラップを仕掛けてある。それに、騒ぎが起こればガードマンが駆けつける筈。彼らの顔を立てるのも政治判断である。
「おや。今度の奴は少しは頭が良いようだな」
 男の声。
 幾つものランタンの覆いが一斉に取り去られ、周囲から照らされる光りに浮かび上がるその姿。正しく狼の頭の男だ。頭が本物か作り物かは判らぬが、抜き放つサンソードの輝きは偽物ではない。星の光をも反射して妖しく光るその刃紋。見事な造りである。さぞかし名のある刀なのだろう。ガレットが放つ矢を薙ぎ払い、箱車を押して直進する。
 ピュンビュン。虚空を摩して飛来する物体。クロスがジャイアントソードで払うと、火花と共にカキンと言う金属音。
「うっ」
 一つが右肩を捉えた。幸い軽い手傷で済んだようだ。だがその隙に狼頭の男は再び闇の中へ。ガレットが放つ矢が最後の攻撃機会だったが、どうやら失敗に終わる。
 騒ぎを聞きつけて駆けつけるガードマン。人々が集まって来た時。
「咄嗟の魔法は巧く行かないものだな」
 ぼやくナサニエルを後目に、フェリシアがリカバーでクロスを癒していた。十数本の松明が辺りを捜索したが、手懸かりらしきものは既になし。
 ただ一つ。立木に刺さったガレットの矢が、小さな木札を縫いつけていた。
「これ、セトタ語ですね」
 フェリシアが読み上げる。そこには遠くない日付だけが記されていた。