少年色の尻尾2〜事件は明日おきる

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月08日〜02月13日

リプレイ公開日:2006年02月13日

●オープニング

「これはこれは冒険者様。手前どもに賊が押し入るのを未然に防いでいただき感謝いたします」
 テクス家の支配人が辞を低くしてギルドを訪れ、
「日付を記した木札が発見されたからには、先の賊は下見だったのでありましょう。私どもと致しましても自衛の能力を超える腕利きが襲ってくるのでは敵いません。どうか重点警備を宜しくお願いいたします」
 重い金袋を置いて帰って行った。

「と、言うわけで今回からは本官の寸志ではない。富豪が金を出しているのだから遠慮なく受け取るが良い。そうそう、ククスにも褒美が出ているが、事のついでに君達から渡して貰えないだろうかね? 本官が渡すよりもきっと喜ぶだろう‥‥」
  気前よく金をみせるドイトレ。そして声を潜め。
「と、言うのは表向きの話だ。ククスのせいでしくじった連中は、きっと狙ってくる。護ってはくれまいか? ひょっとしたら仕返しに来た賊を捕らまえる事ができるやもしれんし、あの子の名誉を回復する事にも為る。ククスと君達のお陰で昇進し、最近本官の職務が忙しくなってな。今までのような時間はとれないのだよ」
 そして、さらに声を潜めて付け加えた。
「木札の日付はもうすぐだ。事件は明日おきる‥‥」

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1782 ミリランシェル・ガブリエル(30歳・♀・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5304 朴 培音(31歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5804 ガレット・ヴィルルノワ(28歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3469 クロス・レイナー(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3860 ナサニエル・エヴァンス(37歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4299 皇 竜志(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ラスター・トゥーゲント(ea1115)/ ギヨーム・ジル・マルシェ(ea7359

●リプレイ本文

●テクス家
 警備の者が増え、物々しい警戒。
「誰だ!」
 近づくオラース・カノーヴァ(ea3486)に誰何の声。殺気すら帯びた衛兵の矛先は、オラースの喉元を狙っている。無理もない。とても強そうな完全武装の重戦士が近づいて来るのだ。
「またお節介なカーロン・ケステめの手の者か! ここは拙者等が護る。そうそうに立ち去れ!」
「カーロン・ケステ? 誰だそりゃ? 俺はギルドの冒険者だぜ。テクス家他の依頼を受けて来んだぜ」
 ギルドで渡された割符を見せる。
「これはこれは失礼した。拙者らはエーロン殿下の直臣である。殿下の忠実なしもべである御当家をお守りすべく派遣されて居る」
 エーロンと聞いてピンと来なかったが、この国の王の嫡男で長子。順当に行けば次期国王と為るべき人物である。衛兵はさらにじろじろと彼を見て、
「護りきれば、殿下のお覚えもさぞかし良いことだろう。中は拙者らが護る故、その方達は外を固めろ。励め!」
 威圧的な物言いを吐き捨てると、踵を返した。オラースはその背に舌を出しながら、少し遅れてきたナサニエル・エヴァンス(eb3860)やミリランシェル・ガブリエル(ea1782)らと良き場所を探して移動する。間もなく塀際にある一本の樹を見つけると、その影に陣取った。ミリランシェルはテクス家が雇った警護の者に断った上で尾根の上へ。
 さて、
「お疲れ様です。宜しければ皆様の警備の隙間を埋めるよう微力を尽くさせて頂きます」
 丁寧な物言いは入れ替わりにやって来たアルメリア・バルディア(ea1757)。
「これは魔法使い殿。わざわざご足労痛み入ります」
 ギルドの割符を確認し、オラースに対するよりも丁寧な応対。ウィルではウィザードは有識者として尊敬を受けているそうだ。いや、これは彼女の美しさと人徳のせいかも知れない。

 勇ましいオラースと対蹠的に、武者震いをして已まないのは信者福袋(eb4064)。庭先を借りて警備方々弓矢の稽古。だが、当たるどころかまともに前に飛ばない。左腕は弓弦を受けてみみず腫れになるし、頬も三度ばかり弾かれて傷が出来ていた。余りのことに警護の者は演技ではないかと疑う始末。
「わざと頬を削るような真似をしてまで賊を欺こうとする心がけは天晴れだが、テクス家の者が心配するによってほどほどにな」
 無論、演技などでは決してない。警護の者が見回りに立ち去り、一人途方に暮れていると、ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)が目新しい即席武器を持って現れた。
「はい。こっちの方が役に立つと思うわ」
 布で石を包み、手頃な長さに切ったロープの両端に結わえただけの物。絡みつかせる手製の武器である。
「ほほう。ボーラですか」
 福袋は手にとって感触を確かめる。そうして傍目にはたわいのないおしゃべりの中。二人の調べた情報を付け合わせた。
「ククスのおうちのスラン家は、ほんの半年程前に隣のチの国から移り住んで来たそうだよ。なんでもチの国で銀山の開発を始めて、それで税金が高くなって暮らして行けなくなったらしいの。隣の国のララエ女王はお優しい方で、正当な理由が有って払えない人には免除するって話だったけど、あの親父さんでしょ? 一番上のお姉さんの結婚にお金が掛かるのに、律儀に税金を払ったんだって。でも、それで何もかも財産を手放して‥‥」
 ククスの家族は、ククスが生まれたときに亡くなった母親に3人の姉が居た。16歳で嫁いだ姉、ネネアの下に二人の姉。13歳の姉ララアは他家に奉公。ちょうど冒険者ギルドが出来た頃、直ぐ上の11歳の姉ミミルがテクス家に子守の奉公に上がり、そのころから事件の話をあちこちでするようになったと言う。
「‥‥そうですか。では私の調査を‥‥」
 福袋が聞き込んだのはテクス家の商売。人から恨みを買う人物かどうかを調べたのだ。
 平たく言えば恨まれていないはずはない。テクス家の商売は、別の商人が儲かっている事を聞けば人を遣って調べさせ。同じやり方を資金を投入して大々的にやる。と言うものである。賄賂も思い切って使い、高官に取り入っている。また、定期的に命じられもしないのに献金を行うので、エーロン王子の覚えもめでたい。
「‥‥一言で言えば遣り手の政商と言ったところですか。裏では法外な高利貸しも遣っているようです。奉公人の皆さんには話を聞けませんでしたが、碌に物も食べさせていないようです」

 その頃、厨房に紛れ込んだドロシー・ミルトン(eb4310)は。
「なにこれ!」
 鎖で蓋を封印した大鍋の火の番をしていた。
「つまみ食いが出来ないようにするためです」
 肘にえくぼも出来ない痩せっぽっち、まだ幼い女の子が説明する。指さす棚にある小麦や塩の容器もみんな鍵が掛かっている。
「‥‥なんてとこかしら? 人を信用してないにも程があるわ」
 奉公人用の服を着たドロシーをお客さまお付きの使用人と思った女の子は、疲れたように微笑を浮かべ
「貴族様のところは、食事もいいんですね」
 羨ましそうに言う。身長151cmに体重29kg。決してドロシーは太っている訳ではない。地球の基準では、寧ろ痩せすぎに近い。それでも、彼女と比べたらふくよかに見える。
「ちょっとまって。一日どのくらい食べているの?」
「ここでは、あたしみたいな下働きは夜だけです。一皿のスープにパンだけです。温かいと沢山食べると言うので、ここに来てから、焼いてから10日経ったパンと冷え切ったスープしか口にしていません」
(「うわー。とんでもないとこみたい」)
 ドロシーは思わず引いてしまった。
「ドロシーさん。上手く‥‥」
 そこへ訪れた法衣を来たレフェツィア・セヴェナ(ea0356)に、びくっと反応する女の子。慌てて腰を屈め礼をする。
「ちっちゃいのに偉いよね。キミ、名前は?」
 レフェツィアの問いに女の子は
「子守のミミルです」
 泣きそうな声で答えた。

「ミミル! どこほっつき歩いてるの!? 坊ちゃまがお目覚めだよ!」
「は、はい!」
 慌てて駆け出す女の子。どうやらお昼寝の隙に一息入れに来ていたようだ。

●下町の英雄
 夕闇が迫り、貧民街は刻一刻と闇に包まれゆく。
「ククス! 誰が灯りを点けろと言った!?」
 家から漏れる灯りを見咎め、帰ってきた父親が怒鳴る。庶民にとって油は貴重品。だが、敷居を跨いだ父親は、狭い部屋にひしめく冒険者たちの姿を見るや、硬直して口をあんぐり。フェリシア・フェルモイ(eb3336)が父親の前に進み出た。
「初めまして、ククスさんの御父様。わたくしはジアースより参りました、フェリシアと申します」
 見るからに高貴な装いのフェリシアの言葉に、父親はたじたじ。
「また、ククスが何かしでかしましたか?」
「息子さんは大手柄を立てたのです。息子さんの警告により、私たちはテクシ家の見張りを行い、現われた賊を追い返す事が出来ました」
 ジャイアントの朴培音(ea5304)が、ぬうっと父親に近づいて金袋を差し出した。
「これはテクシ家から預かってきたククスへの褒美。受け取ってくれるね」
 父親の手に金袋が渡される。冒険者から見ればささやかなものだが、貧民街に住む者にとっては大金だ。
「ククスが‥‥俺のククスが‥‥ありがとうございます、ありがとうございます」
 父親は謝るようにぺこぺこ。これでも精一杯の感謝の現れなのだ。感激のあまりくしゃくしゃになった顔。その目は感涙で滲んでいる。
 冒険者の後ろに隠れていたククスを見つけるや、父親はその小さな体を腕でがしっと抱え込み、その節くれ立った手の平でその頭をごしごし。
「ククスっ! でかしたぞっ! 流石は俺の息子だ!」
 叱りとばすような大声出して息子を褒めるや、いきなり何を思ったか金袋を振り回して表に飛び出した。
「聞いてくれぇ! みんな聞いてくれぇ!」
 大声で叫ぶものだから、ご近所さん達がぞろぞろと家の中から現れる。
「何を大騒ぎしてるのさ?」
「俺のククスが大手柄だ! テクシ家のお屋敷に押し入ろうとした賊を見つけて、旦那様からご褒美を頂いたんだ!」
 まあ、あのククスが!? 見直したよ! さすがはあんたの息子だね! 集まったおかみの口から次々と湧いて出た賞賛の声が、人から人へと広がっていく。
 父親はククスの肩を両手でがしっと掴んで怒鳴った。
「よおっし! 明日はククスの大手柄を祝って、宴会だ!」

 翌日、父親は早々と仕事を切り上げ、昼前に帰ってきた。褒美の金で食材を買い込んでごちそうを作る。にわか宴会場となったククスの家は、ご近所さんたちでごったがえ。今まで仲間はずれにしていた子供達も、掌を返したようにククスをちやほや。ククスは今や下町の英雄だ。
(「全く現金な奴らだぜ」)
 皇竜志(eb4299)はあまりの豹変にあきれ顔。そして、名誉を回復した当のククスはと見れば、複雑な顔をしてちっとも誇らしげでない。
「父さんのこと、どう思ってる? まだ嫌いかい?」
 培音が訊ねても、ククスは頑なに押し黙ったまま。
「ククス君、君は正しかったんです。だから、もっと胸を張っていいんです」
 クロス・レイナー(eb3469)の言葉にもククスは答えない。
 この子は、人に言えない何かをその心に抱えているのだろうか?
「ところで、僕は君を護らなければなりません。テクシ家に押し入ろうとした賊が、仕返しに君を襲うかもしれませんから。大丈夫です。君は絶対に護る。誓います。だから信じてください」
 クロスのその言葉に、ククスは小さく頷いた。

●紅茶とワイン
 深夜のテクシ家。見た目はそうでもないが、あいも変わらず厳重な警戒が続く。
「ふわぁ〜‥‥んー、来ないね」
 後方待機のレフェツィアが可愛いあくびを一つ。
「来ないな‥‥」
 完全装備で少し疲れ気味のオラース。
 巡回しているアルメリアが二人の前にやって来て
「お茶をどうぞ。紅茶です」
「すまんな。‥‥美味い。目が覚めるぜ」
 湯気の立つお茶を飲んでオラースは一息つく。
「しかし、今回の狼頭の男と今までの未遂事件。何か裏がありそうですね。同一犯だとすると、騒乱を目的とした組織だった何者かの仕業でしょうか?」
「ん、僕も思ってたんだよね。ガレットさんや福袋さんの調べでは、ここの家の人って結構恨み買ってるし。奉公人に碌な物を食べさせてないんだもん」
 アルメリアは頷き
「見事なサンソードともなれば、それなりの地位と収入ある者が絡んでいるのかも知れませんね? 余り考えたくない事ですけどね」
 ここの当主は『エーロン王子』と懇意らしい。直接王子に手を出せない者の仕業と言うことも考えられる。

「どうぞ‥‥」
 裏口を固める冒険者に、使用人の中に紛れ込んだドロシーが持ってきたのは酸っぱいワインを水で割った冷たい飲み物。
「ごめんなさい。手近にこれしかなかったの」
 福袋やガレットやナサニエルに勧めながらきつい感じにぼやきを一つ。
「ここの使用人頭の人って、末端の顔を殆ど覚えてないみたい」
 地面に寝ころびながらふうっとため息を吐く。
「随分こき使われたみたいね」
 ガレットの感想。
「そろそろ時間だな」
 ナサニエルがファイヤートラップをかけ直すために席を立つ。二月の冷たい風が抜ける中、雲無き美空を眺める瞳。空に瞬く陽精霊の残光と、半月を越えて満ちて行く月の光が、肌寒い露天の冒険者を照らしていた。

●狼男の襲撃
 冒険者たちの物々しい警戒故か、木札に予告された日には何も起きなかった。そしてその翌日も。だがそれから3日後、事件は起きた。
 ゴロゴロと箱車を押しながら、ククスの家に不審な人影が近づく。その手が家の扉にかかろうとした時、扉が勢いよく開いた。
「うああああーっ!!」
 中から飛び出したのは竜志。不審者めがけて拳を叩きつける。と、不審者の分厚い手の平が、竜志の拳をがしっとつかむ。手を引こうにも動かない。焦る竜志の目の前には、獣毛に包まれた狼の頭が。
「がああああーっ!」
 狼男が吠え、竜志を引き倒した。
 仲間の窮地を見て、クロスが飛び出す。
「この身は護る為の剣‥‥来い!」
 抜きはなったのは名剣ワイナーズ・ティール。それを見て狼男もサン・ソードを抜き放つ。そして両者ぶつかり合う両者の剣。だが、クロスの繰り出す攻撃は、ことごとくサンソードで受けられる。やにわに、狼男の体が滑るように動き、クロスの横腹に痛烈な一撃。峰打ちであった。クロスの体が頽れる。
「私が相手だよ!」
 培音が狼男の背後をとる。狼男は振り向きざま、培音に突進。迎え打つ培音が蛇毒手の手刀を繰り出すが、それは空しく虚空を突く。狼男は攻撃をすり抜け、脱兎のごとく迷路のような路地の奥へ姿を消した。培音は舌打ち。
「逃げ足だけは早い奴め」
 敵の逃げ足の速さにドロシーも呆れた。
「あたしの出番、なかったわね」
 タイミングを計ってシャドウフィールドをかけるつもりだったのだが、こうもあっさり逃げられては。しかし、狼男の押してきた箱車だけは残されていた。ドロシーが調べてみると、それは廃材を寄せ集めて作ったガラクタ。
「何の役にも立ちそうにもないわね。何でこんな物を押してきたんだろう?」
 フェリシアが仲間の傷をリカバーの魔法で癒す。幸い、傷は大したことはない。
 賊の姿を目の当たりにしたククスは、すっかり怯えきっていた。
「こんなの嘘だよ‥‥。嘘だったのに‥‥」
「今、何と言ったんだ?」
 その呟きを聞きつけた竜志が訊ねると、ククスは慌てて否定した。
「何でもないよ! 何でもないよ!」

 一方、テクシ家の見張りについていた冒険者達の前にも、不審な人物が現れた。
 マントで身を覆い、仮面で顔を隠したその男は、屋敷の裏手に立ってランタンを大きく2回振る。屋敷の中に内通者でもいるのか? そう思いきや、屋敷の中からテクス家の当主が現れた。
「お待ちしておりました」
 あたかも貴人に対するかのごとく、当主は恭しく一礼。そして謎の男を屋敷の庭へと導く。庭にはドラゴンの石像。当主がその台座を回すと秘密の通路が現れた。当主と謎の男が中へ入ると、石像は鎖の仕掛けでゆっくりと閉じて行く。冒険者達が台座を動かそうとしても、びくともしない。中から鍵でも掛けられたようだ。
 夜は何事もなく更け、そして明けて行く。