少年色の尻尾7〜もうウソはつかない
|
■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:12人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月10日〜06月15日
リプレイ公開日:2006年06月15日
|
●オープニング
小鳥の声に目を覚ます、狼男襲撃の傷痕も片づいた女性鎧騎士の家。家の中でも月見が出来る大穴は綺麗に直され、粉砕された壁や家具は真新しい漆喰と白木の家具に入れ替わっている。
自慢の髭を整えた一人の武人が頭を掻きながらやってくる。
「こほん。実は折り入って相談があるんだが‥‥」
恋の告白にしては不釣り合いな時間。
「いいですが、何か在りました」
「実はだな。5人ほど子供の身の振り方をどうにかしなきゃ成らなくなった」
(「隠し子?」)
うろんな目で見る乙女を、髭の男は頭を振って、
「いや。こないだの依頼で、成り行き上子供を保護して来たんだ。まだ正式の奉公人になにるには幼すぎて、しかも盗賊に酷い目に遭わされて心が荒んでいる子供ばかりなんだ。仇は今度の討伐で討ってやるとしても、身の振り方を考えてやらないとな」
「まずはハーブティーでもどうかだ」
同じ合戦に赴く予定の乙女は答えた。カップに口を付けながら髭の男は切り出した。
「6歳から7歳。女の子が4人に、痩せっぽっちの男の子が一人だ。男の子だけならば俺でも何とかなるんだが、女の子の扱いは‥‥こほん!」
もじもじと、らしからぬ反応。もとより自分の力で生きて行けと言える年ではない。それでも男だったら有る程度は何とかなるだろうが、女の子は家庭で保護されねば、間違いなく人生を踏み外す。
相談を受けた鎧騎士も、うーんと唸るばかりだった。
夜。陰鬱な空気を孕む石造りの回廊。その奥に、鎧に身を固めたガード二人がバトルアックスを持って守る部屋がある。魚油の臭いが立ちこめる部屋の中。卓を囲む全員が修道士のような黒いローブ。
「‥‥手を引けだと?」
「そうだ。ここ暫くの間に状況が変化した。ガイの戦士達の武具を使う者が現れ、地生えの悪党は王領代官に近づき手切れと成った。早急に計画を立て直す必要がある。これ以上関わるのは得策ではない」
「それにフオロの仔犬とトルクの俄男爵の所為で、トルクではゴーレム部隊の再編が検討されているそうだしな。ショアでも俺達の知らぬ怪物が現れたお陰でゴーレム増強の動きがある。全てはトルクがゴーレムを創ったせいだ。まったく住み難い世の中に為ったものだ」
「全ては天界人。奴らの為だ。お陰でフオロも存続の目が出てきやがった。簒奪者に対する干渉戦争のタイミングも難しい」
「‥‥何れにせよ、封じ込めねば大変なことになる」
声は石の壁に響く。灯火は風もなく揺れた。
「くぇぇぇぇ!」
方やけたたましいロック鳥の鳴き声が朝を告げるイデア通り。散歩する柴犬の声が響く朝の道を、犬の散歩する一人の乙女。
「おはようっス。お留守番ご苦労っス」
「おはよう! アレクサンドル」
按察官の家から現れる伊達眼鏡の少年。ルーケイ盗賊討伐の留守番をするククスである。
暫くは何かに怯えるような毎日を送っていたが、明るい光と優しいご近所の底力が、少しづつそんな彼の心を解きほぐしたようだ。
「お兄さん。大丈夫かな?」
あれだけの戦力を投じた戦(いくさ)である。教会からも救護隊が派遣されているから、間違いは無いと思うが、それでも待つ身は辛い。
「大丈夫っスよ。ああ見えても強い人だから、盗賊なんていちころっス」
ぴくん! その時。ククスは何かに弾けるように反応した。
「君がククスか‥‥」
いつの間にか、乙女よりも華奢に見えるやさ男がそこに立っていた。背も同じくらいか少し低い。だが、乙女も一端の武辺者である。か弱そうに見える男が、狼が獲物を狙うために全身のバネに力を蓄えているようにも見えた。左腕のガントレットに濃い緑のマント。マントに隠れて良く見えないが、腰には斧のようなものを釣っている。
「奴らは君を諦めた。間もなく普通の生活に戻れるだろう。イエモトに宜しく頼む」
ふっと嗤い、男は二人の脇を歩いて行く。誰と呼び止める事も出来ず、乙女は通りの角を曲がるのを見ていた。
暫くして、ギルドを通じて関係者に連絡が入った。
●リプレイ本文
●ドイトレ
すっかり馴染みになった、王宮の通路。オラース・カノーヴァ(ea3486)とルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は雲のように悠々と歩んで行く。
「おう。久しぶりだな」
立ち上がって出迎えるドイトレに
「おかげさんで助かった。ドイトレが王子から賜った剣だろ。返すぜ」
オラースは曇り一つ無く手入れしたサンソードの魔剣を突き出すが
「その剣は曰く付きでな。一度相応しい者が使った後は、当人以外には扱えぬ。役に立ったと言うならば、既にお主の一部だ。大事にするがいい」
ドイトレは受け取らない。その顔を見る限り、冗談でもなさそうだ。絶句するオラースを後目にルエラは本題に入る。
「保護した子供達の引受先の事だが‥‥」
最後まで耳を傾けていたドイトレは
「教会は先日、薬物使用者を更生するために抱え込んだ。子供を育む環境としては不適切であろうな。ルーケイ内の村については伯の心次第だ。国王と言えども領内の仕置きについては口出しできぬ」
「伯には既に了解を得ています」
続いてルエラはカーロン王子に謁見を希望したが、色々難しいらしい。
「では、殿下に民の声なき声を。今のウィルでは、孤児達は盗みを働く以外生きていく術がありません。そうさせない為にも、奉公人として生きられる年齢まで彼らを引き受け、学ばせ育てる施設を確立することが必要になると愚考いたします。その為に彼らの身元引受人や資金を支払う者が必要とあらば、不肖私が一部なりとも負担する用意はございます」
「問題は、彼女らだけで済むかと言う話だ。殿下もフオロ家も全てを救えるほどの力はない。荷車を牽けると思い上がった蠅はどうなるであろう? その負担を結局誰が背負うことになるのか考えて貰いたい」
「では、私達に彼等を救う許可を願います」
「俺からも頼む。この通りだ。王家が庇護するの言葉だけでいい。その言葉故に奉公先も見つかるだろう。必要な金は何としても都合を着ける」
頭を下げるオラース。
ここに来て、ドイトレはポムとルエラの肩を叩き。
「好きにするが良い。王都に関しては、自立する支援は与える」
「自立支援ですか?」
「それしか有るまい。親分やイエモトの方からもそう言う要望が来ている。先ほどカーロン殿下経由の特許状を渡したところだ」
ドイトレは静かに答えた。
●子供達
ドロシー・ミルトン(eb4310)の案により、行き場のない子供達はひとまず冒険者達が預かることになった。主な預かり先はドロシーとイリア・アドミナル(ea2564)の家だ。
「すぐ夕飯作るからちょっとだけ待っててね」
ドロシーは全員を客間へ通すと、台所へ赴く。
手伝いにイリアとティルコット・ジーベンランセ(ea3173)が立った。
その間、他の冒険者達は子供達の話し相手となる。
彼らの表情はまだまだ硬い。
自分達の言葉だけでは打ち解けてもらえないと判断したミリランシェル・ガブリエル(ea1782)は、イリアのペットであるボーダーコリーや自身のカナメなどで心がほぐれないかと試みた。
始めのうちはペットの方が一方的に子供達にじゃれているふうだったが、しばらくすると子供達の表情もやわらかくなり、遠慮がちにも撫でてみたりする子も出てきた。
そうした頃にオラースが毒蜘蛛団により一緒に囚われていた人達と会うことができる、と話しだした。
が、とたんに子供達の表情は再び硬くなってしまった。
「あそこの人達の子ってわけじゃないから‥‥会っても意味ない‥‥」
言った子供の表情から、村での扱いが窺い知れた。
ミリランシェルは慰めるようにその子の頭を撫でる。
「辛いことなら思い出さなくていいよ。それよりも楽しいこと考えよう。これからのこととか。みんなはもう自由なんだよ」
「ま、自由と言っても好き勝手を行うことの免罪符じゃないからな。自分の行動には全てにおいて責任がともなうということだ。わかるか?」
皇竜志(eb4299)の言葉に子供達は曖昧に頷く。言葉は理解できるが実感が伴わないといったところか。
と、そこに調理場に立っていた三人が戻ってきた。
「今日は俺の奢りだ。飲めや食えや脱‥‥」
いかがわしくなりかけたティルコットはセリフの途中でガレット・ヴィルルノワ(ea5804)に蹴り倒される。
「全部ドロシーさんの材料でしょ。これにこれお酒‥‥!」
そんなやり取りを珍しそうに眺める子供達。
やがて食事も終わると、女の子二人をドロシーの元へ残し、あとはイリアのところへ預けられていった。
久しぶりにおいしいものを食べて満足したのか、昼前だと言うのに子供達はすぐに眠気に襲われていた。
イリアも添い寝する。子供達の心の傷は深いのか、風で窓が小さく鳴っただけでも目が覚め、怯えてしまう。今が夜でなかったのはせめてもの幸であった。
●新しいギルド
同日午後。
「これが王都の地図だね」
ガレットはエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)から特別に回して貰った略地図を手にボナパルトの跨る。
「ディーノ! 行くよ」
一の子分に声を掛け、ウィル市街を進んで行く。最近では貴族街とスラムを除くウィルの子供達が、ガレットの影響下にあった。一部富裕層の子供も、好奇心からこれに加わり、多くの浮浪児もその勢力に加えつつある。
「ここと、ここと、ここ」
勢力範囲を5つのブロックに区分。秘密基地に各地域の纏め役的存在の子達を招集するのだ。その席に
「ウィルの気風は黒の教えに限りなく近いと思います。しかし、自らを扶ける者を哺む事こそ、仏の道に適う事」
セトタ語の記録係を申し出た柳麗娟も同行する。僧侶の立場はクレリックよりも弱い。しかし、その分教会に縛られない自由が利く。
「よ」
イエモトの登場。居合わせた女の子は一斉にスカートを押さえる。
「お前らな〜何だよ!」
ティルコットは吠えつつ段に上がった。
「見ろ! 獲ってきたぜ」
正式の特許状をばっと広げ周りに見せる。エデンの尽力もあって、発行された浮浪児等の束ねと自治を認める内容である。子供達の集団に対し、王都内に於ける義務と権利が明記されていた。
・子供の犯罪の取り締まり。
・王都内の道路清掃、害虫・鼠等の駆除。
・不審人物の通報。
・浮浪児などに対する互助。
・盗みなどの軽微な罪に関しては弁償を条件に免責させる権利を有する。
・初代司令にガレット・ヴィルルノワを任じ、その家をアジールと定める。
「獲ってきたのはいいけど、何よそれ」
ガレットが聞いてないよと食ってかかる。
「たってよ。どうしても通して貰えって言ってたじゃん。ドイトレのおっちゃん、引き受けないと認めないって言ってたぜ」
引き受けないとおじゃんになりそうだ。
「わ、判ったわよ」
ティルコットは揚々と渋る親分の手を取り
「ここに、チルドレンギルド『ネヴァーランド』を設立する!」
盛り上がる拍手。知らぬ内にガレットは、抜き差しならぬ立場に祭り上げられていた。
「‥‥ねぇみんな。この国に生まれて、自分の未来あっかるい☆‥‥って思えてる? でもね。今は無理だって、背が伸びて力がつけば可能になる。この国を動かす事だってできるんだから」
ガレットは就任の演説をそう締め括った。
続く意識調査。名前・年齢・性別が、麗娟によって記されて行く。その子の長所、短所、得意なこと。本人以外の評価も合わせて記録する。例えば小さい子の面倒を良く見る。喧嘩が強い。抜け道一杯知ってる。そんな内容が整理されて名簿が作られて行く。結果はエデンの元に届けられる手はずだ。そして、浮浪児達の仮の住まいの設置を急ぐイリアや、アルメリア・バルディア(ea1757)が、しふしふ団の学校に習い正業に就くための知識と訓練を授ける計画を進めていた。
●家と家庭
「行き場の無い子供達の受け入れ先に、心当たりは無いでしょうか?」
カレン・ロスト(ea4358)はエヴァンス子爵に切り出した。
「5名ほどの子供達です。エヴァンス領民ではないので、難しいかもしれませんが‥‥」
声が弱くなっていくのは、虹夢園の事情が分かっているから。
「正直難しいな‥‥残念だが」
果たして、子爵は苦渋の表情で告げた。
「金でそういう施設は作れるかもしれないが、問題はどう続けるかだ」
領の公費で賄われる虹夢園も、それ故の制限を抱えている。
「一時的な受け入れなら何とか‥‥領主と言っても無力なものだな」
自嘲する子爵に、カレンは首を振った。
「そう言っていただけるだけで嬉しいです。とりあえず、今は」
カレンは考えている。孤児を引き取れる場所を増やしていけたら、と。その為には少しずつでも変えていかなければ。
理想は、領地の境さえ無いくらい多くの孤児院が出来る事‥‥それがどんなに難しいか、分かっているが。
「子供達の希望が、未来の希望。どんな子であれ、いずれその子が未来のこの国を担います」
前を見つめるカレン、その瞳には静かな決意が宿っていた。
その頃。
「幼いお前達に決めろとは酷かも知れない。でも、他の誰でもない自分自身の行く先ならば自分で選ぶのが筋だと僕は思う」
レッドスフィンクスの後援者を頼り、根回しをしてきた竜志。しかし、幼いと雖も彼女らは自由人である。最終的に運命を決めるのは本人でなければならない。
「人は、自由から自由であろうとするとき自ら奴隷と為るもんだ」
それが彼が受けてきた教育であり信念でもある。
「もちろん、ここにずっといたいなら全然構わないわよ。あんたたちくらい、私が面倒見て上げるわ」
ミリランシェルが言葉を承ける。その言葉は伊達ではない。洗いざらい自分の財産を売り払っても、誓いを果たす積もりであった。
●護民官
ククスが出かけた家の中。エデンは独り机に向かう。蝋板に記した草稿を、羊皮紙に清書。読み直して
「いや、ここの言葉は難しすぎますね‥‥」
ナイフで薄く表面を削り書き直す。今、彼の顔を観察する者が有れば、小一時間ほどの間に彼の全ての表情を見ることが出来たであろう。
コンコン。
「あ、はい」
出るとシフール便であった。受け取りつつ、今書き上がった手紙を渡す。
「ロゾム通りの1番。ヴェガ・キュアノス様の所の、いつものお嬢さんですね?」
少年のように頬を赤らめるエデンの手紙を、婚約者に向かって運ぶシフール。貰った手紙の封を解くと
「護民官?」
聞き慣れぬ辞令が同封されている。王都の民意を王へ直接伝える事が許される職務とある。王の決定に対し具体的な対案と得失を述べて再考を勧告する資格と、この事に対する一身の不可侵権を帯びていた。先の建白が採用された結果である。ルーケイでの派手な勝利が王を寛大にしていた為でもあろう。
●社会見学
「うーん。流石にその年じゃ仕込みも難しいね。2年くらい後なら‥‥」
アルメリアの頼みに難しい顔。すんなり話は決まらない。
職人気質の親方達は、
「女の子か‥‥本人を見もしないで安請け合いは出来ないね」
女の子の受け入れには難色。しかし、商家も色々と難しい。
「家事が出来なきゃね。その年だといいとこ子守くらいだろう。ただ、盗賊に酷い目に遭わされてきた子かい。そう言う子は荒んでいてね、暴力的に為っているのが多いから、それでも危なっかしいね」
年も力も足りない子供達だが、それでも連れてお出でと言ってくれるところが何ヶ所か見つかった。
一方、商人ギルドに事情を説明したドロシーは、すぐに見学許可を得られた工房を紹介してもらうと、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)へ
「後でね」
と挨拶をして子供達を連れて職人街へ向かった。
石工、木工、金属加工、工芸品‥‥。どれも良い工房だった。急なお願いにもかかわらず、体験させてくれるところもあった。
ドロシーは、現時点で子供達にすぐにどうこうしてほしいとまでは思っていない。その前に「なりたい自分」を見つけて欲しいと思っている。
そのうち数人の女の子が興味を示したものがあった。
針仕事を請け負う店だ。
少女から中年までの女性達が、楽しくおしゃべりをしながら服を仕立てたり刺繍を施したりしている。
薔薇をかたどったとても複雑な刺繍をしている女性の手元をじっと見つめる女の子達。
「やってみるかい?」
そう言って、年配の女性が刺繍用具一式を女の子に差し出す。初心者用のものだ。
おそるおそる受け取った女の子は、その女性に丁寧な手ほどきを受けながら、一針縫った。
生まれて初めての体験に女の子は少しばかり感動した様子だった。
その後、ドロシー達はレフェツィアのいる教会へ向かう。
「いらっしゃい。好きに見てっていいからね」
彼女は気さくに笑いかける。
ドロシーとレフェツィアから付かず離れずの距離を保ちながら、子供達はレフェツィアの教会での仕事ぶりを見ていたが、まだピンとこないような顔をしていた。少し、難しかったようだ。
●もう嘘はつかない
遙か遠く、西の山と東の海を繋ぐ河。その支流が王都の濠となる。
パシャ。小さな魚が、小さな手をすり抜けて水に踊った。
「ほらほら。しっかりしろ何匹目だ?」
「う〜。4匹目‥‥」
逆光の中、川面の照り返しで浮かぶ男の顔。オラースだ。はしゃぐ子供は8つばかりの男の子。ククスである。他の子供はなんだかぼうっと川の中に立っている。戸惑っているようでもある。
(「まだ、無理だったか‥‥」)
それでもククスのはしゃぐのを見て、時が解決してくれるだろう。とオラースは思う。
帰り道。オラースは尋ねる。
「これからどうする?」
それは将来のことだとククスは解し
「自分で稼いだパンを、なんの気兼ねもなく食べたい」
一連の事件は彼を少し大人にしていた。
暫く暮らした家に戻る。
「元気してる?」
久しぶりのドロシーは、ぎゅっと抱き寄せ胸に当てる。
「元気か?」
ルエラはククスの前に、彼を救うために署名した者、入命金を集めるために駆け回った者。それらを記したスクロールを紐解く。
「これは鋳掛け屋の爺さん。これは何度も騙された肉屋の親父だ。それからここは‥‥」
小さな字でびっしりと、それを一つ一つ指し示す。
「‥‥ここからここは、ククス。お前の友達の名前が書かれている。もしこの先辛いことがあったら、これだけの人間が、お前が生きて笑っていることを願い尽力した事を思い出してくれ。お前の今後の幸せを私達は願っている」
そして、とルエラは最後に宣う。
「私達はお前を見捨てない!」
ククスはポロポロと涙を流し、ルエラの胸にしがみついた。嬉しくて、嬉しくて。
「もう嘘をつかないと誓えますよね?」
アルメリアの言葉に大きくこくりと頷いた。
暫くして、ククスは自分の意志でパン職人の徒弟となる。最初は使い走りだが、余りの粉で兄弟子の焼いた菓子を売る手伝いに混じる。今は、護民官に就任したエデンは、近くに立ち寄り
「また、いつでも遊びに来て下さい」
ククスの頭を撫でるのだった。