少年色の尻尾6〜狼はいた!
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:12人
サポート参加人数:15人
冒険期間:04月28日〜05月03日
リプレイ公開日:2006年05月03日
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●オープニング
石壁を穿つ穴。断ち切られた鉄格子。壁に刻まれた魔獣の爪痕。冒険者達とカオスの魔物の戦いはすさまじかった。今は誰もいない牢の中。ただそれらの痕だけが片づけられもせずに残っていた。
偽金の使用は反逆罪である。しかし、ついこの間のあの事件。散々物議を醸し人々が殺せ速やかにと叫ぶ更生の見込みもない山賊の入命金が100G。この先例は結果として、市井の同情を買うようなククスのケースに幸いした。法は平等に適応されねばならない。ククスも同額のお金を積めば済む。
この朗報に、ウィルの街の総ガキ大将である『親分』の元、団結した子供達がチャリオットレースの売り子の仕事で得た金をかき集め、揃って嘆願に押し掛けた。全て合計しても半分にも満たない金にしか過ぎなかったが、嘆願に参加した数は夥しい。これが、ククスに同情を示していた人々の、物言わぬ声として届いたのだ。
この異常な熱の嘆願を背景にカーロン王子経由の進言がエーガン王をも動かし、恩赦の沙汰となる。山賊場合とは異なり偽金使いは王に対する罪。故に被害者である王の一存で赦しを与えることが出来るのだ。また、市井の声を容れるため王に対する叛意を育てることもない。
ククスは今、然るべき地位の身元引受人が迎えにくるのを別の獄舎で待っている。入命金の残りはあと58Gと18C。余罪も無い故、これを支払う者が現れれば直ちに自由の身である。
一方。カオスの魔物に間違いなしとの報告を受けたドイトレはうむ。と唸り
「ククスは大変な物に狙われているのだな」
「そう言えば、サン・ベルデの鎮圧でも怪しい影が目撃されたとか。凱旋の割りには、報告に参内されたホルレー男爵の顔色が優れないようですが‥‥」
「うむ。これはまだ内密なのだが、軍功を判別する為印を付けてあったホルレー隊の矢で、監軍に加わっていた少年が射られた。しかも毒矢だったらしい」
「それも、カオスのせいなのでしょうか?」
考え込む。解き放ちになった事を単純に喜んでばかりもいられない。
「ククスぼっちゃまを、今までは牢獄自体が護っていた形でした」
とても心配する鎧騎士に向かいドイトレは、
「お主。義弟の問題故、少し神経質に為っては居らぬか?」
と窘める。彼の求婚は既に多くの者が知る所と成っている。
「さしあたっては家に匿うのはどうだ? 冒険者街は魔獣や腕の立つ者が多い故、そうそう手は出せぬと思うぞ。ロック鳥やフロストウルフが番をする街の守りは堅いと看るが」
確かに、実際に彼のお隣りさんはロック鳥を飼っている。
「義弟殿は、長い獄中生活故疲れているだろう。充分にその傷を癒してやるが良い」
その言葉に、鎧騎士は思案しながら帰途に就くことと為った。
その頃。
「確かに契約は切れるが。俺はお前を高く評価している。どうだ? このまま家臣にならぬか? お前に傭兵隊の束ねを期待したい」
女と見紛う若い小男に、辞を低くする武人。
「お言葉ですが‥‥先約がございます。僕を追って、僕が護らねば為らぬ人物がやって来ました」
「女か‥‥」
察したように武人は言う。
「僕の本当の主君はただ一人です。それ以外、僕を縛る者は有りませぬ。閣下やルーベン卿に忠誠を捧げる相手が居るのと同様あります」
天界人は嗤った。
「判った。無理強いはすまい。出来れば、お前と戦場で遭いたく無いものだな」
大きな革袋を卓に置く。
「同感です閣下。僕はとてもか弱い者でありますから」
男は立ち上がり、一礼すると革袋を取った。そうして踵を返し、扉を開く。靴音も立てず立ち去って行く。腰に特徴有る武器。柄を切りつめたハルバードが揺れる。
扉が閉められるや否や、物陰から武人の周りに数人の男が現れ、
「あのままお帰しになるので?」
「やめておけ、お前等では返り討ちに遭うだけだ。‥‥狼は野に放たれたか‥‥」
武人は、残念そうに口にした。
●リプレイ本文
●再会
ぽろぽろと零れる涙。スレナスは滅多に見せない困った顔でルリを見る。
「それでね。イエモトったら、年頃の乙女を小悪魔呼ばわりしたんだよね」
ガレット・ヴィルルノワ(ea5804)が主語を省いて話す。
「ダレガイエモトダ。あ、スレナス。そこの親分の言うこと信じちゃだめだぜ、ひがいもーそーでぼーそーしてるだけだから。小悪魔はそいつ」
ルリとフォーリィ・クライト(eb0754)に挟まれて座っているティルコット・ジーベンランセ(ea3173)はぼやくように言った。
むっとして拳を上げるガレットに
「ガレット殿。仲が良いほど意地悪するのがお子さまです。優しい真似なんて照れくさいのでしょう」
スレナスは窘める。その言にますます向きになる。
「そんなんじゃねー。俺の好みは ぼん・きゅ・ぼんだ」
「素直じゃないね〜。イ・エ・モ・ト」
フォーリィの突っ込みに
「誰がイエモトだぁ!」
真っ赤になって怒鳴る。程なく話は先日の狼男に移り、ティルコットによってあらましが一通り語られた。
「あれだ、変な仮面の男に狼男。あと、あいつらは俺のことを風の戦士ってよんでたっけな‥‥なぁ、知ってたら聞かせてくれね?」
皆の目がスレナスに注がれる。
「自由に出せるのか?」
「いんや。何時出てくるかも解らない」
スレナスは、左手のガントレットを外すと、拳を握りしめて念を込める。すると薬指に輝く指輪が現れた。
「お前、まさか‥‥」
「アトロポスの指輪。カオスを封じし者、ロードガイの戦士・時の騎士の持ち物です。君のアイテムは恐らく、風の手甲。長ずれば風を統べる者となれるでしょう」
●受け入れ準備
かなり突飛な行動であったが、エデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)と貧民街の住民の距離は信じられないほどに近づいていた。彼とミミルのような身分違いの場合、金を積んで買い取り、愛妾にするのが通例。それを、父親に頭を下げ『正式な』求婚をしたからである。そして‥‥。彼等の嘆願に担がれる形で、エデンは王都を取り締まる按察官の辞令を受ける事になった。
ククス助命の運動を支えてくれた多くの人達に、エデンは礼を言って回る。身元引受人になる予定のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)は、運動に加わった者の名を記し、名簿を作る。決して豊かとは言えない者達が、朝露を集めて瓶を満たすように用意したお金。それに加え、
「エデンさん、話は聞きました。丁度ファミレスのバイト代が入ったんで、これ使ってください! ‥‥よしよし、タマも元気ですね。隣に家のラプラスもいるし、ここなら大丈夫」
「俺も協力させてもらうぜ」
響、竜志、リオン、マルト、エリザ他の有志が、エデンの呼びかけに応じて集まってきた。
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は万全を期すため、グラシュテ通りからカロウ、ヴレス、イデア通りと、アノバ通りへと向かって、一帯の入居人をチェック。先日の野良ペット狩りで天敵が減ったせいか、うさぎの姿がよく目立つ。チーターやらロック鳥やら、部外者は避けて通りたいペットを飼う家があちこちにある。ククスを探して嗅ぎ回る者が有れば、どこかで引っかかるであろう。
さて。エデンの周りの状況を細かく調査するのはミリランシェル・ガブリエル(ea1782)の仕事。イデア通りの45番周辺を確認、お隣のリーベさんちとレーヴェさんちは柴犬。響さんちにはロック鳥。カロゥ通りの隣接地域3件は空き屋。のんびりと草を噛むうさぎが、生い茂った雑草の中に見え隠れ。それを狙い草の中に忍ぶ蛇の姿が見えた。
●福袋生まれのテル
正面から堂々と、フォーリィはティルコットを連れテクシ家に乗り込む。
「よう、くそ親父。生きてるか」
「なんだテル。生きてたのか」
マーカスは別に驚いた様子もない。
「驚けよ! びっくりするだろフツー」
こいつ実は大物かも。
「おめぇこないだの鍋食ったんだろ? 不死身になってても驚かんぜ」
「ま、まぁあれだ。この間食った鍋は美味かったぞ。進化の人参とか、聖なる干し肉とか煮込んだの‥‥じゃねぇ! そこの冒険者に助けられたんだぜ。このくそ親父、やるつもりだったのかよ」
口汚くマーカスを罵る。
「‥‥あんた。そんなことしてたの? 前から変な奴だと思っていたけど、あんたのお母さん、コウノトリからじゃなくって福袋で手に入れたのね‥‥」
フォーリィは呆れた。
「ちげーだろ馬鹿」
はっと気づくが、主導権を握られていた。
「テルよ。聞くところに拠るとガレット親分の『男』だって言うじゃねぇか。やっぱ逃げて来たか。おめぇの代金で盗みの分はチャラだ。帰って良いぞ」
結局、最初に盗みを働いたテルに、身体で弁償させたと言う話であしらわれて仕舞った。
●ビスケット
ミルクで練った小麦に、ゴマを加えてお塩をひとつまみ。美味しくなぁれ。優しくなぁれ。心づくしのもてなしを、ドロシー・ミルトン(eb4310)は込めて練る。パン種を加えて練り込めて、スティック状に形を整える。
汁物を作るサリトリアも加わって、お祝いのご馳走作り。パンに比べてかなり低い温度で時間を掛けてビスケットを焼き上げる。
カッ。甲高い音を立ててスティックは折れる。冷ましてあるのに、舌に乗せると溶ける過程で暖かみを帯びる。
「沢山の声が届いての保釈なんだよね」
お祝いは皆で分かちあいたい。だって本当に嬉しいんだから。
●進化
アノバ通り75番。冒険者街の一郭にルエラの家がある。短く刈り込まれた芝の上に、チーターが一匹。猫のように丸くなってひなたぼっこ。その家の中で
「あの猫の怪物は、恐らくグリマルキンでしょう」
一同を前にフェリシア・フェルモイ(eb3336)は説明する。
「賢い犬位の知性をもち、何らかの野心を持つ人間に懐くと言われています。普段は猫のふりをしていますが、いざ戦うとなるとコウモリの翼を持つ大きな黒豹に変身します。全ての黒魔法を使いこなし。しかも普通の武器で傷付けることは出来ません。人語を解し、かすれた声で会話をすると言われています」
「厄介な相手です」
アルメリア・バルディア(ea1757)は武者震い。
「猫か‥‥」
巴やエトピリカ、また真治は早速罠を仕掛ける準備に入る。
「罠はあくまで補助だ。過信しないようにな」
アリオスの声にソウガは頷く。
お昼頃。オラース・カノーヴァ(ea3486)が子供達が仕掛ける罠を、ペペロに教えながらエサをやっていると。
「よっ!」
ティルコット登場。
「やけに機嫌がいいな」
「へへへ。慰謝料せしめてきたぜ」
マーカス邸からせしめた食べ物がどっさり。美味しそうなパンケーキに具を挟んだ物。
パンにハンブルグ風ステーキを挟んだ物。中に餡子の詰まったパン。今時分珍しいリンゴを芯に入れた飴。それに小鍋一杯の汁物。皆なんだかとても美味しそうである。
「マーカスの野郎のとこだろ。なんか怪しくねーか?」
鍋を脇に置き、一つ一つ説明する。皆GCR名物の試作品らしい。
「もういいぞ。疑って悪かったな。だかこの‥‥おい! ペペロ!」
鍋の中身をむしゃむしゃと食べている。ティルコットを制した言葉を食べて良いと解釈したようだ。
「あ、ああ‥‥」
見る間に、ペペロはがっしりと大きくなった。
「こいつ、熊犬に進化しやがったじゃん」
「あ〜。これこないだの残りかよ!」
頼もしくは為ったものの、どうしよう? 二人は顔を見合わせた。
「あはは、お前ら上出来、師匠がいいからかな、やっぱ」
ティルコットは話を逸らし子供達に話し掛ける。
「巧いものだな」
子供らへの菓子を持って現れた家主のルエラが、辺りを見渡と、鳴子を巡らせかき集めてきた落ち葉を家の周りに敷いている最中。
「ま、こんな具合でいいだろ。健闘を祈るぜにゃはは」
ティルコットは、言いつつ素早い動き。まるで一陣の風のよう。一瞬めくれたスカートが元の位置に戻ったとき。ルエラの硬直がやっと解けた。
「イエモトー!!」
最早姿は見えない。今やウィル下町の風物詩となったスカートめくり、家元テルの手練の業であった。
●釈放
日没後。ナサニエル・エヴァンス(eb3860)の来訪を受けていたドイトレの元に急報が入った。
「ククスが自殺だと?」
未遂と伝令は付け加えた。多くの者達からの嘆願が集まり、然るべき身元保証人も名乗り出たと言うのに‥‥。
慌てて牢へ向かう。
「ククス!」
鍵を開けるのももどかしく、ドイトレは牢へ入る。先に駆け付けたルエラが見守る中、レフェツィアが手当をしている。包帯を巻かれ顔も見えない状態だが、既に傷の殆どが癒されていると彼女は言う。
「もう大丈夫だよ」
だが、
「こんな嘘吐き小僧放っといてくれればいいのにさ!」
ククスは叫び暴れるばかり。
「ルエラ殿。夜明けまでは間があるが、このまま引き取られるか?」
麗娟のメイクの効能か疑いもせずドイトレは訊く。
「良いのか?」
「略式だが、今から手続きをしよう。このままではククスの傷は癒されない。例え天界人が信じる生命の精霊の力を持ってしてもな」
ルエラは持参していたスクロールを広げ、
「畏くもエーガン大王の御誓詞に従い、臣ルエラ・ファールヴァルト白(もう)す。ククスラ・スラン助命嘆願は聖聴に達せり。下司下郎と言えども、正義の真姿顕現の至情に基づく献金軽からず。臣、畏みて教導の責めをば負わん」
続けて銅貨1枚の義捐の入命金のリストを読み上げる。そして、100Gを獄吏の前に置き、釈放の書類に署名。アルメリアとレフェツィアも連名。獄吏が確認の署名をし、ドイトレが公証人として連署した。
さて、その頃。小綺麗でセンスの良い服に身を包んだ子供が一人。オラースの背で人形のような顔。
「ちっ。こないだの事が響いてやがる」
ドロシーの瞳は、普段強面の悪党面が我が子の誕生を待つ父のそれに成って様を映す。なんとなく感傷を覚えるドロシーの足下に、アルフォンスが従う。月の無い暗い夜をゆっくりと冒険者街に歩いて行く。
「お帰りなさい」
エデンが外で三人を待っていた。
「ふっ」
オラースが嗤う。
「さぁ。暖かいミルクを入れましょう」
煌々と輝く部屋の光に照らされる子供の顔は、湯気の立つカップを前に置かれても変わらなかった。
「ククスぼっちゃま‥‥」
遮るオラース。
「そっとしてやりな。今夜は灯りを消さない方がいい」
毛布を掛け、羽交いに抱くように包み込むドロシー。静寂に鼓動だけがやけに響く。
「お願いします」
エデンはそう告げて隣の部屋に移った。声を上げず表情を変えず流れる涙。ドロシーが思わず腕に力を込めると、水風船が弾けたようにククスは泣き出す。おできの口が開いて、膿を吐き出すように泣くククス。
「大丈夫だ」
オラースは魔よけだと言って斜めに切った指二本の太さの木の枝を渡し、
「切口に絵を描け」
と促す。言われるままに小筆を動かすククス。オラースは不思議な言葉を唱えつつニスを塗り乾かす。穴を開け銀のネックレスを通して完成。ククスの首に掛けてやった。
「もう魔物は近寄れない。ククスに勇気が有る限り手が出せない。だが、このおまじないは内緒だぞ。男と男の約束だ」
「‥‥うん」
初めて返事を返した。
●カオスの魔物
「やれやれ‥‥」
ナサニエルは、仕掛けたトラップで丸焼きになった野良ウサギに手を合わせつつ、新たなトラップを仕掛け直した。働いてくれているのかどうなのか、屋根の上を散歩する愛猫アマンダの姿に、少し和む。と、
「どうした、アマンダ?」
尻尾を膨らませ、甲高い唸り声を上げるアマンダ。周辺の家々にいるペット達が、一斉に警戒の声を上げ始めた。
「ナサニエルさん、上、上! 屋根の上!」
転がる様に駆けて来た子供達。はっと見上げたその視界の中を、不吉な影がナサニエルの視界を横切った。賢いアマンダは早々に撤収。
「おまえらこんな夜中に‥‥その辺に隠れてろよ!」
子供達に言い渡すと、彼は全力疾走でルエラ宅に向かった。
鳴子がガラガラとけたたましい音を立てる。来たか、と皆が身構えたその直後、狼男が庭先に躍り込んで来た。ゆっくりと辺りを見回し、取り囲む冒険者達に牙を剥く。
「‥‥あんただけか。まあいい」
足下を狙い澄まし駆け込んだオラースが刀を抜き放ち様に薙ぎ払う。魔力を秘めた刀を飛びずさってかわした狼男は、全員との距離を測りつつ家屋へと走った。そこはたっぷり仕掛けの隠された罠地帯だ。だが、あろうことか、敵は隠された落とし穴をことごとく避け、その為には踏まざるを得ない熊挟みが足を捉えるより早く駆け抜けたのだ。
「どうしたアルメリア!?」
「駄目、全然効かない!」
答える彼女の声には、焦りが滲んでいる。万全の体勢で使うストーンのスクロールに、この魔物は抵抗し続けていた。それでも諦めず、ソルフの実を飲み下し攻撃を続けるのだが。そうする間に、厳重に封じた扉が、狼男の突進の前に敢え無く粉砕される。
「伏せて!」
ミリランシェルの声に慌てて伏せたガレットを、恐ろしい爪が掠めて行った。踵を返し、更に一撃加えようとするところに、ミリランシェルがダーツを放った。カオスの魔物に通常の武器は効かないが、牽制になればそれで良かった。飛来したダーツを、反射的に避ける狼男。直衛がついているとは思わなかったらしく、忌々しげに唸りを上げる。
「倒すつもりで掛からなきゃ駄目だ!」
ルエラ渾身の一刀に腕を切り裂かれ、狼男は苦痛に呻きながら無茶苦茶に暴れ回った。弾き飛ばされた衝撃で息も出来ず喘ぐルエラを、フェリシアが励ましながら癒しを与える。
「なぜククス君を付け狙うの!?」
アルメリアの言葉に、狼男はくくっと笑った。
「おせっかいな鎧騎士がお前らお偉い天界人様を巻き込まなければ、こんな面倒にはならなかったろうさ。悪い事は言わん、ガキを差し出して全て忘れろ」
「そんな事‥‥出来るわけ無いでしょ!」
ミリランシェルは、ガレットを庇って逃げ回る。守っているのが替え玉などという事はすっかり忘れて、本気で怒っていた。
「その子から離れろ!」
家から転がり出た二人を追って飛び出した狼男に、ナサニエルの高速詠唱ファイヤーボムが直撃した。悲鳴を上げてよろめく狼男の片腕を、オラースが一刀のもとに斬り落とす。だが、狼男はオラースに飛び掛り、その肩に食らいついた。食い込んだ牙に力が篭り、肉が抉られ、骨が軋む。苦痛に耐えながら、オラースは刀を構え直し、腹から心臓目掛けて刺し貫いた。叫び声を上げ、のたうち回る狼男。胸を掻き毟り、口元から泡を噴きながら倒れ、やがてぐずぐずと、跡形も残さずに崩れ去ってしまった。
「‥‥ひどい有様だな」
自宅の惨状に、苦笑するルエラ。フェリシアは深手を負ったオラースを癒しながら、ふと呟く。
「こんな怖い思い、ククス君にはもう二度とさせたくないですね」
そうだね、とガレットが頷いた。