レディオスター2〜再開?

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2006年11月16日

●オープニング

「さて」
「『さて』じゃありませんよ」
 真剣に話し出そうとした千歳山春日の第一声は、同じ天界人であるスタッフの一人によってずんばらりと切り捨てられる。
「何組オーディションすれば気が済むんですか?! せっかく『いい感じだなー』と思ってた人からも『待ちくたびれました』なんて丁寧な辞退のお手紙届いてたりするんですよ」
 スタッフ君はこの世界では高級な品――破ったノートに書き込まれた名前一覧と、その上に引かれた訂正線の並びを春日に突きつける。
「で、でもさ。せっかく番組始まったって、上手く聞けない範囲にいる人達はつまらないだろう? 雑音交じりがひどかったり、場所によっちゃ音が小さすぎて何を話しているのかも聞き取れないって話もあった。これだけじっくり時間をかけたんだから、もうそろそろ放送範囲は確定出来るはずだ」
 シフール便のギルドと提携を結び、好事家や貴族達と何度も話し合い。風信ラジオ受信機の設置と撤去を繰り返し。
 最初の放送から早4ヶ月。ついに、ウィルコミュニティ放送は定期放送を始めようという所まで行き着いたのだ。
「で。放送予定時間は?」
「安息日を除いて週6日。お昼の休憩から仕事を終えて家に帰るくらいの時間だから‥‥そうだね、1日4時間って所かな。長くするのは難しいけど、短くするのは問題なし。僕が残りの時間を埋める事も出来るしね」
「大まかな番組の時間割を決める訳ですね。いつの曜日の何時くらいがいい、どれくらいの時間話したい、そういう希望を取りながら」
「そういう事」
 蝋のひかれた板にがりがりと何事かを書きながら、スタッフ会議は続く。
「とりあえず、冒険者ギルドに頼みに行きますか。以前面接に来た方でまだやる気の残ってる方、もしくは今興味を持ったという方まとめて」
 そうだね、と頷きながら、春日は手を止めない。
「‥‥何書いてるんですか?」
 スタッフの質問に、くるりと板を返して見せる春日。その手の中の作品に、スタッフは噴出す事を止める事は出来なかった。

 ヒゲ・ハゲ・仏頂面。

 春日によって描かれた、カーロン王子からの使者である。それはあまりにも特徴を捉えていた。
「似顔絵は昔から得意でね」
 天界人の、更にごく一部の人間にしか読めない文字で。
『あれやっちゃ駄目』『これやっちゃ駄目』
という吹出しが書き込まれていたのは、その板を見た者だけの秘密である。

 シフール便の少年が、ギルドに伝言を運んできた。
 承諾を取るとギルド職員は新たな羊皮紙を1枚、人手募集の壁に貼り付ける。

『風信ラジオ 稼動。番組制作希望者は以下の時間、冒険者ギルドの前に集合‥‥』

●今回の参加者

 ea0749 ルーシェ・アトレリア(27歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7579 アルクトゥルス・ハルベルト(27歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb4117 大曽根 瑞穂(30歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4538 赤坂 さなえ(35歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●はじまりの始まり
 ウィルに風信放送を浸透させるために集まった面々を前に、発案者の千歳山春日はにっこり微笑んだ。
 彼からすれば知っている顔が多いが‥‥。
「え〜と‥‥誰だったっけ?」
 相手も覚えているとは限らない。
 困ったように首を傾げるファム・イーリー(ea5684)のセリフに、
『ほら言われた!』
 と、冒険者達の心の声が一致した。
 情けなさそうな目になる春日に同情する者はいない。
「えー、では改めてご挨拶します」
 そう言って春日が自己紹介をし、続いて冒険者達もそれぞれ自己紹介をしていく。
 一通り顔と名前が一致したところで、春日が口を開いた。
「でははじめに、基本方針を決めよう。‥‥はい、瑞穂さん」
 挙手した大曽根瑞穂(eb4117)に目を向け、発言を促す。
 瑞穂は立ち上がり、春日から冒険者達へゆっくりと視線を巡らせながら言った。
「このラジオ放送を政治的なものにいっさい利用しない。政治の陰謀などに利用されるのは、絶対にあってはいけないことだわ」
 富島香織(eb4410)、赤坂さなえ(eb4538)、アルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)が特に深く頷いた。
「『やりたいこと、やれること』を『やれる時、やりたい時』に横槍入れられて出来なくなるなんて馬鹿馬鹿しいことは、避けたいからな」
「楽しい番組を作ろうと考えられて集まっている方々ですもの‥‥よもやこの中にはそのような方は居られませんよね?」
 アルクトゥルスは正面から脅すように、さなえは背後から脅すように。
 部屋全体にアイスコフィンでもかけられたように瞬きすら固まった。
 それを解除した救いの神は香織だった。やや無理した微笑だったが。
「えーと、では娯楽や教養メインとするということで。頑張りましょうね、皆さん」

●プログラム内容は
 テーブルの上に広げた羊皮紙に、ルーシェ・アトレリア(ea0749)が羽ペンで四つの項目を書き込む。

1.巷で話題になっている話
2.天界人が経験してきた話
3.冒険者による各所紹介
4.個人コーナー

「あ、ちょっと待って」
 それぞれの内容と担当を決めていこうとルーシェが切り出そうとしたのをリオン・ラーディナス(ea1458)が止めた。
「参考までに聞きたいんだけど、ラジオ放送って時間はどれくらいで分割しているの? やっぱり休憩の時間もいるだろうし」
「しゃべるのは意外と疲れるからねぇ。そうだなぁ、五分から十分を目安に交代したり音楽を入れるといいかもね。聞くほうのためにも」
 春日の返答を羊皮紙の隅にメモするルーシェ。
「それでは上から考えていきましょうか。巷で話題になっているものですが‥‥」
「WカップやGCRばどうですか? 試合状況や解説などです」
「実況をするということですか、香織」
「ええ。Z卿やY卿とは別がいいのかなぁ‥‥見に行けなかった人でもわかるように、でしょうか」
「そういうの専門の人がいりそうですね。でも書いておきましょう。実現したらラジオの価値が上がりますものね」
 にこりとして最初の項目に書き込みながら続けるルーシェ。
「事前の評判やチームの意気込みを取材して放送するのもありですね。二番目の天界人が経験してきた話ですが‥‥これはきっと話題は選り取りみどりですね」
「そうだね。依頼の話も混ざるとなると‥‥依頼かぁ」
 ふと、遠い目になるリオン。
「色々な女性とご一緒したりもしたなぁ。そのたびにね、こう胸の内から燃えてくるものがあったね」
「へぇ。これぞと思う人はいましたか?」
 キラリと目を輝かせるリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)。
「ふふふ‥‥実は、アプローチの数イコール、フラレた数さ!」
「豪快ですね〜」
 リュドミラはパチパチと拍手を送る。その意味するところは深く考えると悲しくなるから考えない。
「じゃあリオンのフラレ日記コーナーとか作りましょうか?」
「え、ちょっ、待ってルーシェ! それ寂しすぎるからっ」
 リオンが止める間もなく四番目の項目に候補として書き込まれてしまった。
 書き終えた頃、ファムがルーシェの肩にちょこんと乗る。
「あたし、しふ学校のことお話したいな」
「いいわね、それ」
 真っ先に賛成したのは瑞穂だった。
「頑張ってるもんね。シフールの方々の明るく楽しそうな日常を伝えられたら、しふ学校への理解や協力をもっと得られるかも」
「オープニングに校歌のサビを持ってきたいな」
 ファムがそのフレーズを歌っていると、さなえが何やら考えながらじっと羊皮紙を見つめていた。
「二番目と四番目の区別が微妙ですね‥‥。こういうのはどうですか? 五分から十分程度の枠で、日替わりパーソナリティによる連想テーマトーク」
 連想テーマ? と、一同が首を傾げる。
 さなえは頭の中で考えをまとめつつ説明を始めた。
「前日の同じ枠で話されたテーマから連想されるテーマで、パーソナリティがトークをするというものです。これによって、局としての繋がりが表現できればな、と」
 少しの間、冒険者達はさなえの提案を反芻し、吟味した。
 最初に沈黙を破ったのは春日だった。
「放送日は同じ時間帯に連想テーマコーナーを設けるんだね?」
「ええ、そうです。後は、それとは別に暮らしに役立つ知識を伝えるコーナーもほしいですね。例として私の分野を挙げますと、家庭での応急手当のお話などです」
「なるほどなるほど。うん、じゃあそれいこう。三番目の『冒険者による各所紹介』は、それこそみんなの得意分野だね。えー、ちょっとまとめようか」
 1.巷で話題になっている話
 2.連想テーマトーク
 3.冒険者による各所紹介
 4.暮らしに役立つ豆知識コーナー
「五番目として‥‥やっぱり担当パーソナリティが自由に話すコーナーを設けようか」
 新しい羊皮紙に項目を書いていくルーシェ。
 それを見届けた後は細かい内容の話へ移っていった。

「五番目の個人コーナーだけど、初回はどんなカンジでいく? あんまり一般的ではないものは避けたいんだけど。いきなり引かれたくはないし」
 と、春日が言うので、冒険者達は順番に用意のある者から発表していった。
 まずはルーシェから。
「私は一曲歌いたいですね。これでも歌姫を生業としていますから」
「歌の解説も自分でやりますか? 補佐をつけるのもありだけど」
 春日の問いに、自分の歌だから自分でやりましょう、とルーシェは答え、何故かニヤリとした笑みで続きを言った。
「最近、歌以外に声色鍛えて七色の声を持つ歌姫になりたいと密かに思っているんです」
「七色って‥‥素っ頓狂な声やしわがれたお年寄りの声で歌われても‥‥」
「私を誰だと思ってるんですか」
 一応冗談のつもりだった春日だが、ルーシェからは物凄い笑顔が返ってきたためゾクリと背筋を冷やして口をつぐんだ。
 これ以上言っても薮蛇と判断した春日は、リオンへ目を向ける。
「俺は特に個人コーナーはいいかな‥‥」
「えー、フラレ日記コーナーは?」
「ルーシェっ、それはもういいのっ。ゴホン、えーと、個人コーナーよりも全体の司会のようなものをさせてもらえればと思ってる。放送の切り出しとか、コーナー切り替えのセリフとか‥‥お便りの紹介とかさ」
「ん。じゃあリオンはそれでいこうか。まぁ、気が向いたらその悲惨なコーナーも突発でやるってことで」
 とうとう悲惨とまで言われてしまった。周りも特に止める者はいない。真面目にそのコーナーを設けようというのか、それともリオンをからかっているだけなのか。おそらく半々だろう。
「ファムはしふ学校中心だったね」
 次に春日が尋ねたのはファム。
 ファムは冒険者達の頭上を飛びながら楽しそうに話した。
「秋に『とちパン』とか『お野菜たっぷりスープ』をたくさん食べたこととか〜、しふ学校の様子とか! しふ学校には将来有望なしふしふがイッパイ! お料理や拳法の修業して日々精進なんだよォ!」
「うんうん、その調子。ファムはそのままでいくといいね」
 春日に褒められ、へにゃりと笑うファム。
 そのファムに続くはアルクトゥルス。
「前回に引き続き、ジーザス教の布教っぽいことを希望するよ。白・黒どちらかに大きく偏らないように、ウィルのジーザス教会の司祭とも相談の上でね。あくまで『初心者向け』でね」
「ふむ。説教もするのかな?」
 微妙な表情になった春日にアルクトゥルスは肩をすくめる。
「するよ。それが布教というものだからね。でも、込み入った話はしない。さっきも言ったとおり、初心者向けで。教えの成り立ちや教義の本旨とかの基本的な事項を、子供でもわかるように話す予定だ」
「アルクトゥルス伝道師の神秘のコーナー?」
「神秘というわけでは‥‥」
 今度はアルクトゥルスが微妙な表情になる番だった。
 そんな彼女をそのままに、春日は瑞穂の意見を求める。
 瑞穂はアルクトゥルスを気にしつつも言った。
「さなえさんと被りますが、健康お悩み相談室を考えてるの。これでも医者見習いなんで、何かの役には立てるかなって」
「あ、私も同じようなこと考えてました」
 軽く手を挙げているのは香織だ。
「三人でやる?」
 春日が瑞穂、香織、さなえの顔を見回す。
「同じ健康・医療関係とはいえ、やっぱり専門にしているものはあるんだろう? ちょっと時間を多めにとって、健康・医療・相談ってかんじで」
「相談の中には恋愛関係も混ぜたいですね」
「いいね。美人三姉妹による生活&恋愛相談室、みたいな」
「姉妹じゃないですから」
 三人の声が見事に重なった。
 それにちょっとへこみながら、最後に春日はリュドミラを見た。
 彼女は軽く首を横に振る。
「私は記録をやろうと思っています。それに、コーナーを持つよりも、ちょっと考えていることがあるので」

●世間に浸透させるために
「ラジオ放送に住民からの投稿が必要なのはわかりきったことだと思います」
 言ったリュドミラの言葉に、誰もが頷く。
「基本はラジオの受信機の設置場所にお便り受付の箱を置こうと思っています。ですが、住民の中には読み書きができなかったり羊皮紙を買う余裕がなかったりする人もいると思うんです。できるかぎりたくさんの人の投稿がほしいので、私が代わりに羊皮紙を負担して代筆しようかと思っているんです」
「‥‥一人でやるの?」
 難しいんじゃない? と首を傾げる春日。それは他の冒険者にしても同じだ。いくら駿馬で駆けたとしても、全てを回りきれるかどうか。
「ラジオの受信機にお便り受付箱を設けても、それを回収して本部に届けてもらうのにシフール便を使うとして‥‥費用が‥‥」
 腕組みしたルーシェがうなる。
「みんなで地区を決めて回れば何とかなるだろうけど、これは今後の課題だね」
 春日も良い案が出ない。皆が当たり前のように紙とペンを持ち、読み書きができていた世界とは違うのだ。
「代筆巡りはちょっと保留にしよう。実際の投稿を見てから改めてってことで」
 とりあえず今考えられることは考えたかな、と春日が言ったところで瑞穂は全員に飲み物を用意した。

 その後、各所に投稿箱が設置され、放送もトラブルなく開始された。
 後は住民からの投稿を待つばかりである。