竜の力を継ぎし者9〜人と竜との和平の地

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:14人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2006年12月31日

●オープニング

●人の得し力
 天よりシーハリオンの麓に降り注いだ血塗れの竜の羽根。聖山に住まう聖竜に起きた異変の謎を探るべく、探索を続けてきた冒険者達はついに、聖山シーハリオンの麓に暮らす竜属ナーガの長老と相見える機会を得た。
 しかし、長老の口から異変の真相は語られず。
「あの異変の日にシーハリオンで何が起きたかを知るは、ナーガの中でもごく一部の者のみ。しかし、まだその事を明かすべき時ではない。人の側にも、我等ナーガの側にも、十分な備えが出来ておらぬ」
 それでも長老は、人とナーガの不用意な接触によって引き起こされる問題について、より良き解決を為そうとする冒険者達の誠意を認めた。元はといえば聖山での異変を契機に、少なからぬ数のナーガが人里に下りた事から始まった問題ではある。しかし人の側でもフロートシップの発明によって、ナーガの生活圏である険しい山岳地帯にも容易く踏み込めるようになった。両者が接触する機会は、今後ますます増えよう。
「我々の乗って来たフロートシップを始めとするゴーレム機器は、聖山より流れ出る大河の下流域南方を領土とするトルク分国が独占的に生産しております。冒険者仲間の噂によれば、既にその工房を訪れたナーガもいるとのこと」
 それは冒険者の一人、後に空戦騎士団の副団長に就くことになる鎧騎士の言葉。
 対してナーガの長老は、ひどく疑わしげな様子を見せた。
「その話は本当か? 何か別の生き物の見間違いではないのか?」
「私がその現場で目撃した訳ではなく、冒険者仲間が語るのを小耳に挟んだまで。その話が確かなものである保証は無いのですが‥‥」
「そもそもゴーレムとは何ぞ!? 人は何故にゴーレムを造る!?」
 長老が語気を強めて問い詰める。
「ゴーレムは‥‥端的に言うならば戦の道具です。より強き力を求める人の願望が具現化したもの、それがゴーレムとも言えるでしょう」
 長老は静かに、だが厳しい調子でこう言った。
「仮にそなたの話が真実だとして、人の戦争の道具たるゴーレムの開発にナーガが関わっていたとなれば、儂(わし)はその者をナーガにあるまじき異端者として断罪せねばならぬ。ナーガはこの世で最も強き種族たる竜に習い、その力はこの世に善と調和とをもたらすために使うべきもの。それを人の戦争の為に利用するなど以ての外。斯様な振る舞いに及ぶナーガがいたとしたら、儂はその者をもはや一族の者とは認めぬ」

●長老達の試練
 さてここからは、冒険者達のフロートシップがシーハリオンを去って後の話になる。
 冒険者達の手で長老の元に送り届けられた3人のナーガだが、勝手に山を下りた事を叱責された後、故郷の村に帰された。しかし故郷に戻ったはいいが、3人はどうにも落ち着かない。
 数日を経ずして彼らは長老に願い出た。
「どうか俺達をもう一度、人の住む世界へ行かせては貰えまいか?」
「前回は長老殿に無断で山を下り、迷惑をかけた事は申し訳なく思う。しかし、時代は変わった。俺達ナーガはもっと、人の事を知らねばならぬと思う」
「幸い、俺達3人は暫く人の世界で暮らしたが故に、人に対しては他の仲間に先んじた知識がある。また、人の中でも冒険者なる連中は、ナーガと人とがうまくやっていけるよう力を尽くすと言っている。ならば俺達3人に、ナーガと人との仲を取り持とうとする冒険者達の手助けをさせて欲しいのだ」
 最初、長老は呆れた。
「まったく、お前達は懲りもせず‥‥」
 しかし、彼らの熱意に感ずるところもあったのだろう。相談を持ちかけられた長老は、この件をナーガの長老達の合議にかけることにした。
 当然ながら、合議では賛否両論の意見が飛び交った。
「勝手に山を下りながら、またこれか」
「若い者達の我が儘など聞いてやることもないわい」
「だが、彼らの言う事にも一理あるのぅ。時代は変わりつつあるのじゃ」
「それにあの3人、儂らが否と言ったところで、再び勝手に山を下りかねんぞ」
「しかし人界に行かせて好き放題にさせておくのも問題じゃろう」
「そもそもナーガが人界で暮らすなど、褒められた事ではない」
「そうは言うてもな。人がゴーレムという厄介な代物を作り出した以上、人の中に混じり人と共に暮らしながら人の動向に目を光らせる者も必要じゃろう」
「その役目があの3人に勤まると思うか?」
「いや、そう言われるとな」
「う〜む、どうしたものか‥‥」
 議論は巡りに巡ったが、やがて結論が下された。
 かの3人のナーガ達は長老達の前に呼び出され、合議の結果を告げられる。
「おまえ達3人を、我等の特使として人の冒険者達の元に遣わす」
「忝ない! 感謝に堪えませぬ!」
 感じ入り、長老達の前に平伏する3人。しかし、長老の言葉にはまだ続きがあった。
「じゃが、まずはおまえ達3人が、その大役を任すに相応しい者かどうかを見極めねばならん。よっておまえ達に試練を下す」
 ナーガの住むこの場所は、切り立った峰々が幾つも並ぶ山岳地帯だ。その峰の一つを見上げる場所へ3人のナーガを連れて来ると、長老は峰の中腹を指さして言った。
「あそこに作りかけの家が見えるであろう?」
 ナーガの家は、人の目からすれば神殿遺跡と見まごうまでに大きい。
「そして、ここに家の要となる大柱がある。これをあそこまで運んで参れ」
 長老の傍らには、石切り場から切り出されたばかりの大柱がごろんと転がっている。
「これを‥‥たった3人であそこまで運べと?」
「それができぬなら、おまえ達の願いは聞き入れられぬ」
「‥‥分かった。俺達3人で運んでみせる」
 そして試練の日々が始まった。3人のナーガは重たい大柱を運んでは休み、運んでは食べ、運んでは眠り‥‥。何せ重量のある大柱だけに1日少しずつの距離しか運べない。しかし、彼らはついにやり遂げた。
「うおおおーっ! やったぞぉ!」
「我等は試練を乗り越えた!」
「これで我等3人、人里に下りられる!」
 ようやく到達した目的地で歓声を上げる3人。時は既に試練の始まりから約1ヶ月を経ていた。
「ついにやり遂げたか」
 彼らをずっと見守っていた長老も、大いに満足。
「斯くの如き気概を示したからには、儂らも安心して人里に送り出せるというものじゃ」

●お出迎え
 程なくして、ナーガの連絡係フレイから冒険者ギルドに連絡が入った。
「ナーガの特使が3人、人里へ下りるからフロートシップで迎えに来てね!」
 予定では冒険者のフロートシップは先ず、シーハリオンの麓にある山の民の村を目指す。ここでナーガの特使達を乗船させ、続いてセレ分国の森の中にある『人と竜との和平の地』に向かう。この地にて和平の誓いの見届け竜たる森の主、クエイクドラゴンを表敬訪問するためだ。その後、船は王都に帰還する。

●人と竜との和平の地
 今日は小春日和。そよ風が木々の梢をそよがせる。
 時折、響くのは甲高い鳥の声。
 その声に森の主たるクエイクドラゴンは、閉じていた目を開ける。
 天から降り注ぐ柔らかい精霊光を浴び、すくすく育ちつつある月桂樹の若木がその目に映った。
 ここは人と竜との和平の地。陽光に恵まれたこの場所は、森の主にとっては恰好の昼寝場所。
 そよ風の音を耳にしながら、森の主は再び目を閉じてまどろむ。
 その鼻先には発泡酒の瓶が10本。つい最近、この場所を訪ねた冒険者の貢ぎ物。
 口をつけて飲む者もなく、ただずっとそこに置かれている。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea7463 ヴェガ・キュアノス(29歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb2002 山吹 葵(48歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb4189 ハルナック・キシュディア(23歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4209 ディーナ・ヘイワード(25歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

アレクシアス・フェザント(ea1565)/ レン・ウィンドフェザー(ea4509)/ モニカ・ベイリー(ea6917)/ セルゲイ・チェルネンコ(eb0439

●リプレイ本文

●変事の噂
 つい最近、王宮で何かがあったらしい。
 フロートシップに乗船して出発の時を待つ冒険者達の間に、いつになく落ち着きのない空気が流れている。
 とはいえ、何らかの異常事態を告げる王宮からの公式発表があったわけではない。
 冒険者達が落ち着かない原因は、冒険者酒場から冒険者の間に広まった噂にあった。
 たかが酒場の噂と侮ってはいけない。酒場に出入りする冒険者の中には王宮に出入りする者も少なくはない。彼らが依頼としてこなす仕事が、時にはウィルの国政を大きく左右することもある。そして重要な仕事をこなせばこなすほど、冒険者はウィルという王国が抱える政治上・軍事上の秘密に接することになる。
 勿論、そういった秘密は外部に漏らされることは無いが、冒険者酒場は別だ。気心の知れた冒険者同士、仲間の得た秘密は外部に漏らさないという暗黙のルールがあるからこそ、彼らはお互いを信頼して胸の内をさらけ出す事が出来る。
 この信頼関係は極めて重要だ。でなければ命を落とす危険がある依頼で、冒険者同士が親密に協力することなど出来ない。
 勿論、たとえ冒険者酒場においても、誰にでも判るようなあけすけな言葉で秘密が語られる事は滅多にない。秘密について語る時には、大抵は仲間内だけに通じる遠回しな表現や隠語が用いられる。それでも事情通の冒険者であれば、そういった会話から事の真相を正確に推し量れるものだ。
 但し、それは冒険者の仲間内に限った事。外部の人間からすれば、冒険者酒場に流れる噂など単なる酒場の噂に過ぎない。
 そして、冒険者酒場に流れる件の噂が如何なるものかというと‥‥残念ながらこの報告書にそれを明記することは出来ない。それはあまりにも不穏な噂であり、下手に記録に残せば冒険者ギルドの記録係たるこの私も投獄の憂き目を見かねないからだ。よってこの報告書を読む冒険者諸氏においては、かの噂に関しては曖昧な表現を取らねばならぬ事をお許し頂きたい。

 話を戻そう。
「元護民官殿が乗船を?」
 乗員名簿の中にエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)の名前を見て、ハーベス・ロイ子爵は眉根を寄せた。メイの国へ旅だったはずの元護民官が、何故に急な帰国を? そして冒険者達のいつにない落ち着きの無さは何が原因なのだろう?
「一体、何があったというのだ?」
 身近にいたイリア・アドミナル(ea2564)に詰問すると、
「クエイクドラゴン様への訪問を前に、大きな変事が起きました」
 その言葉に続いて変事のあらましを伝えられ、ハーベスはただ驚愕。
「本当か、それは!?」
「はい。ですが、過去にジ・アースのフランク王国で勃発したという、分国間戦争を繰り返す訳には行きません。このような時こそ、和平への道を進める時。乗船するであろうナーガの特使の方々には平和を願う気持ちと、世の流れは決して悪い方向には向かわない事を信じて貰う様に務めます。また、ウィル王国における変事の話はナーガの方々に悪い印象を与えるが故に、秘密にすべきかと」
「心得た。しかし、大変な事になったものだ」
 それまで黙って話を聞いていた鎧騎士バルザー・グレイ(eb4244)が、重々しく口を開いた。
「こういう時にはどんな不幸な事故が発生するやも知れません。私は今回の旅において、ロイ子爵殿およびサフィオリス卿としてついて回るつもりです」
「そうか。くれぐれもサフィオリス卿を宜しく頼む。万が一の事があったら、チの国との外交問題になりかねん」
 話していると、当のサフィオリス・サフィオンがやって来た。
「王宮で何かあったのですか?」
「‥‥いえ、何も聞いてはおりませんが」
 すかさずバルザーが答える。たとえ相手が中立国家チの国の学師でも、ウィル王国内のごたごたを下手に明かすわけにはいかない。
「そうですか。では、私も何も聞きません」
 やはりただならぬ空気は感じていたと思われるが、外国人である自分の立場を慮ったのだろう。サフィオリスはあっさり引き下がった。そしてバルザーは言い添える。
「しかし、どうにも嫌な予感がします。安全の為、私の側から離れないでください」
「承知しました」
 と、サフィオリス。
 そして出発の時が来た。
「気をつけて行ってらっしゃいよ、この国はまだまだ揉めそうだしね‥‥」
 見送る仲間の声に送られ、フロートシップは王都を離れ西へと向かう。
 ちなみにフオロ王家が所有するフロートシップは、そのどれもが通常の船に魔法装置を取り付けて空を飛べるようにしたものだ。最初から空飛ぶ船として設計されたフロートシップが続々と建造されている現在、それらの船は既に旧型となった感がある。

●シーハリオンの麓にて
「ナーガさんとは仲良くしましょ、うん仲良くね♪ これからもずっと人とナーガさんが仲良くできたらいいよねっ。会いたい人達がたくさんいて待ち遠しいな♪ ‥‥くしゅん!」
 ワクワク気分で船の甲板に出ていたティアイエル・エルトファーム(ea0324)だが、吸い込んだ空気の冷たさにくしゃみ一発。聖山シーハリオンは今、天を貫くかの如く壮大な雄姿を見せている。周囲の山々は雪に覆われ、見渡す限り見事な冬景色。粉雪の舞う中、フロートシップは山の民の集会広場に着地した。
 広場は山の民で埋め尽くされていた。晴れて人界への特使に選ばれた3人のナーガ達を見送りに集まって来たのだ。ナーガの長老に山の民の長老の姿もある。
 ティアイエルは誰よりも真っ先に元気よく船から下りたが、その姿にナーガ3人の目は釘付け。
「いやまったく」
「人間はまた次から次へと、妙な物ばかりこしらえおって」
 ティアイエルの恰好、ネコ耳飾りつきのふわふわ帽子はいいとして、頭から足まで覆う防寒着『まるごとな〜がくん』はどのように受け止めたらいいものか?
「我々ナーガへの敬意の証と受け止めよう」
 結局はそういうことで落ち着いた。
 寒さの中にも関わらず、別れの宴は盛り上がった。
 特使3人の出立を祝し、振る舞われた上等な薫製肉に3人のナーガは大喜びでかぶりつき。しかしイリアが贈り物として差し出したタロットは受け取らなかった。
「こんなペラペラしたもので我等の運命が決まってたまるか」
 ナーガの長老にも塩が贈られ、長老はナーガと人との友好の証としてこれを受け取った。それを見届けた後、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)はゴーレムのことを長老に弁明。
「ゴーレムは凶器になりえます。それは否定できません。ですが、非力な私が一度ながら我等の姫を護り、後の和平の為に少しだけお役に立つ事もできました。全てが戦争の為の力でないとだけはどうかお信じ頂きたい」
 仲間の一部が目撃しているように、ゴーレム開発に関与したナーガがいたとしたら、彼らの立場も弁護したい。そういう思いがシャリーアにはあったが、ナーガの長老は頑固であった。
「そなたの如くに真っ直ぐな気性の者が操りたれば、戦の道具たるゴーレムも平和の為に役立ったのじゃ。じゃが、人全てがそなたの如くに心根直き者とは限らぬであろう」
「それはさておき、お尋ねしたい事が。山を下りて行方知れずとなったナーガの方々、もしや聖山の異変の真相を知るというナーガの方々ですか?」
「いや、異変の真相を知る者は誰一人として山を下りてはおらぬ。山を下りたるは主として血気にはやる若き者達じゃ。じゃが、中には僅かながら、自らの智恵を頼みとして人界に干渉せんと企む者もおる。道を誤らねば良いが‥‥」
 話していると、どこからか鳴き声が聞こえてきた。
「アギャ! アギャ!」
 むむ!? この鳴き声は‥‥!
 その愛らしい姿に、ヴェガ・キュアノス(ea7463)が誰よりも早く気付いた。
「おお! あれはまさしく‥‥!」
 この辺りを住処とするドラゴンパピィであった。それが2匹も。どちらもドラゴンとして独り立ちし始めた年頃のようで、ジャイアントと張り合うくらいの背丈がある。背中には見事な翼が生え、しきりにばたばたさせているが、空を飛ぶことまでは出来ないとみえる。
「ほほほ、ラブリーなチビ竜じゃのぅ♪」
 2匹のパピィはのこのこした足取りでフロートシップまで近づくと、船に向かってしきりに吠え立てた。ドラゴンは人間のような言語ではなく咆哮の韻律で話す。つまりまともな言葉を発しないわけだが、このアトランティスにおいては精霊力による摩訶不思議な自動翻訳の働きにより、咆哮を耳にする者は即座にその意味を理解できる。
「何? この人間の船に乗りたいと?」
「アギャ! アギャ!」
 まるで人間の子どものように無邪気な仕草で好奇心を露わにし、その動きの一つ一つの可愛さに心動をかされたこともあり、ヴェガはナーガの長老に彼らの乗船許可を求めた。
「うーむ‥‥」
 ナーガの長老、考え込むこと暫し。そして最後に決断した。
「時代は変わったのじゃ。彼ら竜の子が人界に下りたいと望むのも、大いなる運命の導きやも知れぬ」
 そして長老は2匹の竜の子をヴェガに託す。
「この子らを宜しく頼むぞ。この幼き竜達の目に、人界とは如何なる物かをじっくりと見届けさせるのじゃ」
 パピィ達の姿を見て一番喜んだのはティアイエルであろう。
「うわ〜! パピィだ! これからも一緒なんだ!」
 周りをぐるぐる回り、抱きつき、頬ずり。
 パピィのうち1匹はがっしりした感じ。もう1匹はほっそりした感じ。
「これ、どうでしょう?」
 ほっそりしたパピィの首に、イリアはネックレスをかける。
「アギャ!」
 意外とよく似合う。パピィもこの贈り物を喜んでいる。
「今回で和平団の任を当面離れる予定です。職務上非礼があったことお許し下さい。今後は個人として竜人達の友人でありたいと」
 グラン・バク(ea5229)の心からの謝辞であったが、長老はやはり頑固であった。
「そなたが竜人の友となりたくば、あと百年は精進いたせ。期待しておるぞ」
「次はセレの森の竜殿を訪問してみようかと‥‥何かご伝言ありますか」
「うむ。では儂(わし)からの伝言じゃ。小うるさいが見所のある人の客人達を宜しく頼むとな」
 出立の時に至り、船はシーハリオンの麓を離れる。遠ざかり行く聖山を甲板から見やりながら、アーディル・エグザントゥス(ea6360)は思う。
「う〜ん、シーハリオンに直接赴き調査することは叶わずか。人同士の諍いすら平和裏に収めることも出来ずには、竜の神域たる頂に近づくに能わずということだろうか」
 その言葉を聖山シーハリオンはじっと聞いているようで。さりとて返事が返って来る事は無い。大いなる山はこの世界の生ある者全ての営みを見守るように、ただそこにあり続ける。

●森の主
 フロートシップに乗れば、シーハリオンからセレの森まではあっという間。
 今、冒険者達は人と竜との和平の地にて、森の主たるクエイクドラゴンの巨大な姿を目の当たりにしている。
 柔らかな冬の日差しの下、森の主は気持ちよさそうに昼寝をしていた。
「よいか人間達よ。森の主の前では決して失礼の無いようにな」
 ナーガの特使3人、まるで自分達が主役であるかのように冒険者へ注意を促す。そして真っ先に森の主へ歩み寄り、声をかけた。
「森の主よ。眠りを妨げ申し訳ないが、起きてくださらぬか?」
「ん?」
 森の主の瞼がゆっくり開く。
「おお、我が兄弟達よ。よく来たな」
「今日は喜ばしい知らせを持って来た。我等3人、特使として人界に下りる事になったのだ」
「そうか。それは目出度い」
「ここにいる竜の子達も人間達に興味を持ち、我等と共に人界へと向かうのだ」
 アギャ! アギャ! と、ドラゴンパピィ達も鳴き声を発する。
「そうか。その小さき竜の面倒をしっかり頼むぞ」
「ついでだが、ここに控える人間達からも話があるそうだ」
 ナーガの特使達にお株を奪われる形になってしまったが、冒険者達も一人一人、森の主に挨拶する。レイ・リアンドラ(eb4326)はいつぞやの鱗の礼を言い、お見舞いに竜の鱗を贈り届けた時のマリーネ姫の様子を話す。彼に続いて竜の前に進み出たのはディーナ・ヘイワード(eb4209)。
「森の守護者である方にお会いできて光栄です」
「暫くぶりじゃな。エルフの娘よ」
 竜はディーナの事を覚えていた。以前、ディーナはこの森を訪れ、森の主の姿を目の当たりにした事がある。人と竜との和平の誓いが為され、この地に月桂樹が植えられたあの日だ。ディーナは随行員の一人に過ぎなかったが、その顔をしっかり覚えているところをみると、クエイクドラゴンの記憶力は相当に高そうだ。
 以前に不始末をしでかした山吹葵(eb2002)の事も、竜はしっかり覚えていた。
「いつぞやの失礼、改めてお詫び申す」
 深く頭を垂れる葵に竜は言う。
「もうよい。過ぎた事だ」
 挨拶の後、冒険者達はこの和平の地への新たな植樹を申し入れた。人と竜との共存を改めて誓う、その証として。しかし、それは森の主に断られた。
「せっかちな者達じゃな。寒き冬に木を植えても根付くのは難しかろう? 春になるまで待つが良い」
 そして森の主は目を閉じ再びまどろみの中へ。表敬訪問の時は終わり、立ち去ろうとした冒険者達は、森の主の横ですやすやと眠っているティアイエルの姿に気付いた。防寒着『まるごとな〜がくん』、暖かくてあまりにも気持ち良かったものだから‥‥。
「こんな所で寝るな!」
 ナーガの特使が叱りつけ、その小さな体を竜から引き離した。
 ふと、アーディルはすぐ目の前に置き去りにされていた発泡酒の瓶に気付く。以前、レイが残していったものだ。
「中味、痛んでないか?」
 味見してみると、そうでもない。これもこの森に満ち溢れる精霊力のお陰だろうか?
 ふと、葵は森の主を振り返って呟く。
「我らとクエイク殿が和平を結んだように。ナーガ達とも良き関係が結べることを祈るでござるよ」
 森の主は小山の如くに動かずすやすやと眠っている。あたかも安らかな平和の象徴であるかのように。

●船上の騒動
 セレの森の主への表敬訪問を終えると、冒険者達を乗せたフロートシップは王都への帰路に就く。セレ分国の森林地帯を抜けて大河に達した後は、そのまま大河に沿う形で東進。竜の世界は既に遠くなり、次第に人の世界が近づいて来る。それに伴い、船の上の冒険者達も浮き足立ち始め、そして船が王都の間近に達した頃。ついに操船室で騒ぎは起きた。
「このまま船を東に向かわせろとは、一体どういうことだ!?」
 グラン・バクとレイ・リアンドラからの理不尽な要求に、船の船長は声を荒げて聞き返す。
「この書状を国王陛下にお渡しするのだ。陛下は病を得られて、静養のためシムの海に浮かぶ離宮へとお移りになられている」
「そんな話は何一つ聞いていないぞ!? グラン殿、誰からそんな話をお聞になった!?」
「酒場で聞いた話だ」
 一瞬、船長はぽかんとした顔になり、すぐにどなり返す。
「たかが酒場のヨタ話ではないか! そんな話を真に受けて、陛下より預かりし船を勝手に動かすことは出来ぬ!」
「しかし酒場から伝わった話とはいえ、確かな情報なのです。ここで我々が介入することなく放置すれば、フオロ王家は大いなる不名誉を被りかねません」
 レイが告げる。空戦騎士団副長の言葉だけに、船長もヨタ話と決めつけて無視する訳にもいかない。
「一体、陛下の御身に何があったというのだ?」
「実は‥‥」
 レイは小さな声で船長に何事かを耳打ち。途端、船長の顔色が変わった。
「陛下が!? まさか‥‥!?」
「お判り頂けましたか? つまりはそういう事です」
 次の瞬間、船長は凄まじい大声で怒鳴りつけた。
「酒場でそんなふざけた話を流したヤツは誰だぁ!? 雁首ひっ掴んでここに連れて来い!! 私が直接、事の真偽を問い質してやる!!」
 もうヤケだ。但し、怒鳴りつけた相手は騎士団副長のレイはなく、グランを始めとするルーケイ伯与力男爵の誰かでもなく、元護民官のエデンでもなく、あまり偉そうには見えないその他大勢の冒険者達。しかし答える者は誰もおらず、操船室は水を打ったように静まりかえった。船長は苦虫を噛みつぶしたような顔になり、レイに向かって言う。
「悪いことは言わん。今、ここで聞いた話は無かったことにしよう」
「しかし、この件では既にルーケイ伯が動き出している」
 と、グランが言う。
「同じく、ウィンターフォルセ領主たる俺の娘もな」
 と、シン・ウィンドフェザー(ea1819)も言う。
 思わず、船長は額を手で押さえた。
「ルーケイにウィンターフォルセの領主が‥‥まったく、何という軽はずみなことを。話が全て事実だとして、悪くすれば内乱が始まるぞ」
 レイが言う。
「そう言うわけで、事態は動き出してしまったのです。今更、後戻りは出来ません。このまま船を東に進め、シムの離宮へ‥‥」
「ちょっと、待て! そのシムの離宮とやらは何処にあるのだ!?」
「知らないのか?」
 と、グラン。
「知ってたまるか!」
 と、船長。グランだってその場所を知らない。
「この中で離宮の場所を知っている者は?」
 仲間達に問いかけてみても、誰もが首を横に振る。
「では、この船で上空から探そう。シムの沿岸をくまなく探せば、きっと見付かるはずだ」
 再び船長が怒鳴る。
「いい加減にしてもらおう! だいたい酒場の噂はどこからどこまでが本当のことなのだ!? 仮に伝染病の話が本当だとしたら大変なことだ! そんな伝染病の危険のある場所に、この船を向かわせるのはまっぴら御免だ!」
 すると、エデンが言う。
「伝染病のことなら心配ご無用。幸い、今のわたくしはウィルにとって重要な役職の人物ではありませんし、課せられた使命を放棄しウィルを離れた当然の罰として、陛下とお会いする事で同じ病に侵されても悔いはありません」
 その言葉に船長は呆れた。
「貴殿一人だけの問題ではなかろう! 万が一、貴殿が伝染病にかかって他の者に伝染したらどうする!?」
「わしにはエーロン王子の側近にコネがある。清めの神聖魔法も使えるから、伝染病など恐れるに足りぬぞえ」
 そう口添えしたのはヴェガ・キュアノス。但し、清めの神聖魔法云々はハッタリである。ピュアリファイの魔法で傷口や食物を浄化することは出来ても病気は治せないし、消毒に使うとしても瞬間的な浄化だから、ウイルスが付着するたびに魔法をかけ続けなければならない。
 船長はじろりと恐い目でヴェガを睨み、威圧するように言い放った。
「そんなに行きたければ、お前たち冒険者だけで行くがいい。私は伝染病にかかるのも内乱に巻き込まれるのも御免だ! この船は王都より東には断じて行かせんぞ!」
 元々、船は王家に所属するフロートシップだ。空戦騎士団副長のレイとて、自分の采配で動かす権限は無い。
「仕方がありません。私達だけで向かいましょう。王都に着いたらそこからシムの海までグライダーを飛ばします」
「本気か、この寒空に!? シムの海までは遠いぞ!」
「我々は本気です」
 暫し無言で睨み合う船長とレイ。やがて船長の方から何か言おうとしたが、先に沈黙を破ったのは、甲板から操船室に飛び込んで来たティアイエルの叫び声だった。
「見て! 見て! みんな甲板に出て外を見て!」
「今度は何事だ!?」
 船長に続き、冒険者達がぞろぞろと甲板に出てみると、船のすぐ真横をトルクの新型フロートシップが飛行しているではないか。しかもその船のエレメンタルキャノンは、砲身をこちらに向けている。
「‥‥え゛!?」
 既に、冒険者達の船は王都ウィルの城壁が見える場所にまで達していた。トルクの船は冒険者達が王都に戻って来る事を見越して、この辺りで待ち伏せしていたと見える。恐らく冒険者達の派手な動きが、王都に張り巡らされていたトルクの情報網にひっかかり、行動に出たものであろう。
「どうあっても東へ向かわせないつもりですか」
 やがて、トルクの船からグライダーに乗った伝令が飛んできた。こちらの船の甲板上空に達するや、伝令は大声で呼ばわる。
「貴船は伝染病に汚染された疑いが濃厚である! 速やかに着陸せよ! 我等が求めに従わぬ時は、撃墜するもやむなし!」
「やれやれ」
 大げさに肩をすくめるグラン。
「結局はこうなったか」

●誓約
 かたや普通の船に魔法装置を取り付けただけの旧型フロートシップ、かたや高機動力で重武装の新型フロートシップ。戦いになればどちらが勝つかは目に見えている。やむなく冒険者達のフロートシップは王都城壁外の発着所に着陸。そこに待っていたのは王都の警備隊である。
「全員、船上で待機せよ! 一人たりとも船から下てはならぬ!」
 警備隊は船の周りをぐるりと取り囲み、誰一人として船に寄せ付けず、かつ船からも外に出させぬ構え。
「これは一体、何事ですか!? あなた方は誰の命令で動いているのです!?」
 船上からレイが怒鳴ると、下から警備隊長の返事があった。
「恐れながら空戦騎士団副長殿! 冒険者ギルド総監カイン・グレイス殿より、『西方より帰還せし冒険者の船が伝染病に汚染された疑いあり。早急なる隔離を求む』との緊急要請が下されました! この要請を受け、私の権限で警備隊を動かしました! なおカイン総監殿は、『事の責任は全て私が負う』と言明されております!」
「総監殿が?」
「それと、総監殿から伝言を承りました! 『私が来るまで余計な事は一切喋るな』との事であります!」
 やがて、カイン総監が馬に乗って現場に到着した。警備隊の者達は一斉に敬礼。カインは供も従えず単身で乗船して来た。
「ナーガの特使達は何処に?」
 求めに応じ、ナーガの特使達3人がカインの前に現れた。
「これは何の騒ぎだ!?」
「アギャ? アギャ?」
 ナーガ達だけではなくドラゴンパピィまで乗船していたのにはカインも驚いたものの、冷静な口調で問い質す。
「あなた方は冒険者酒場から広まった噂の事で、何か聞き及んでいますか?」
「噂だと? 噂がどうしたというのだ?」
「アギャギャギャ?」
 ナーガ達も何でこんな質問をされるのか判らぬ様子で。
 バルザーがそっとカインに耳打ちする。
「例の事について、彼らには何も知らせていません。私が騎士の名にかけて誓います」
「判りました」
 カインは頷くと、ナーガとドラゴンパピィに告げた。
「人の伝染病に竜族のあなた方が感染する心配はありません。速やかに下船して下さい」
 奇妙に思いながらも竜族の者達は早々に船を下りた。
 続いて、カインはチの国の学師サフィオリスを呼び出したが、カインが質問を向ける前にバルザーが答える。
「彼も何一つ知らされてはいません。私が騎士の名にかけて誓います」
 カインは頷き、サフィオリスに告げる。
「あなたにも感染の心配はありません。下船して下さって結構です」
 サフィオリスも素直に下船。そしてカインは残った者達に告げる。
「あなた方には誓約していただきます。あなた方が冒険者酒場で聞き及んだ王国の秘密について、一切口外しないことを。また、あなた方が企てていた計画についても直ちに放棄する事を誓約していただきます。さもなければあなた方を船から下ろすことは出来ません」
「嫌だと答えたら?」
 大胆にもグランが問いかける。
「私の剣がこの場で貴方の首を刎ねます」
 いつもの静かな笑みを湛えてあっけらかんと言ってのけるカイン。だが、その手は腰に帯びる剣の柄にかかり、いつでも抜き放てる体勢にある。
「おい、本気かよ?」
「万が一、私が打ち損じた場合には、あのトルクの船のエレメンタルキャノンが貴方に向かって火を噴きます」
 頭上を見やればトルクのフロートシップ。エレメンタルキャノンはまだ冒険者達の船に狙いを定めている。そして船の周りには大勢の警備兵。
「もはや逃げ場はありません。たとえ運良く逃げおおせたところで、貴方に待っているのはお尋ね者の国賊として逃げ回る運命だけです。それでも否と答えますか?」
「総監殿にこの俺が斬れるのか?」
「私の剣の腕が如何ほどの物であるか、その体で試してみますか?」
「どうしてもやる気か」
「あなた方の命と船一隻。王国を内乱という伝染病から救うための代償としては、安いものです。ですが、私はこんなくだらぬ事であなた方の命を奪いたくはありません。王国にとっても、あなた方を失うのはあまりにも惜しい」
「‥‥解った」
 カインと睨み合い、剣を抜きかけていたグランの手が、その剣の柄から離れた。
「ここは総監殿の熱意を汲み、俺は引き下がるとしよう」
 グランは真っ先にカインの前で誓約を為す。残りの者達もそれに続いた。
 カインはにっこり笑い、船の下で待機中の警備隊長に告げた。
「伝染病の危険は無くなりました。包囲を解除して下さい」

●王の病
 船から下船した冒険者の中に、カインはエデンの姿を見いだした。
「メイの国にいらしたはずでは?」
「その‥‥妙な胸騒ぎがしたので急遽、帰国となりました。そういう事にしておいて下さい。出来れば陛下にお会いしたかったのですが」
「陛下にお会いして、何を話すつもりでしたか?」
「政治とは無縁の他愛の無いお話を。趣味やご幼少の頃のことなど話そうかと。陛下の気を紛らわせ、少しでも元気になって頂けたらと思っていました。今はただ祈るばかりです。ウィルの国王としての陛下ではなく、エーガン・フオロという一人の人間のご健康と幸せを。姫には遠く及びませんが、貴方様を愛する事に見返りを求めぬ者が居る事を、陛下の心の隅にでも留めて頂けたら‥‥」
 それまで微笑みを浮かべていたカインの顔が、にわかに厳しさを帯びた。
「貴方の優しさは貴方の強みです。しかし人を破滅へと至らせる道はしばしば、慈愛と優しさとで敷き詰められているものです」
「え!?」
 辛辣な言葉に思わず相手の目を見つめるエデン。カインの言葉は淡々と続く。
「確かに陛下は重き病を得られています。権力者の妄執ほど癒し難い難病は他にありません。病に苦しむ者に寄り添い、慰めを与える者も必要でしょう。貴方がそう望むように。しかし病める者の身を案じるあまり、自分自身までもが病に飲み込まれることがあってはならないのです。まして、その身に大きな責任を担う者であれば尚更です」
「総監殿、私に何をお望みですか?」
 困惑したかのようにカインの表情が翳(かげ)る。
「貴方が何を為すべきか‥‥実のところ私には判りません。結局、人はそれぞれが己の信じる道を突き進むしか無いのです。また、人が天より授かりし使命も人それぞれ。それを見つけ出すのは貴方自身です。或いは貴方には、病に苦しむ陛下を癒しへと導く天命があるのかもしれません。ですがこれだけは言っておきます。陛下を癒しへと導く道はあまりにも長く、そして陛下自身が癒される事を望まなければ、決して癒しは得られないでしょう。ですが、もしも貴方がその道を歩まんと欲するならば、私もギルド総監として‥‥いえ、貴方の友人の一人として貴方を支え続けましょう。例えそれが幾年、幾十年の長きに及ぼうとも」
「これを陛下に」
 エデンがカインに差し出したのは1瓶のワイン。
「メイの国の土産です。陛下に差し上げようと思っていました」
「機会を見て、陛下の元に届けさせましょう」
 カインは約束した。

●人とナーガの新時代
 道中色々あったが、そんな訳で。3人のナーガ達と2匹のドラゴンパピィは無事に王都へ辿り着き、冒険者街に住処を与えられた。
「ここがあなた方の住処となります。困った事があったら何でも言ってください」
 率先してナーガ達の案内役となり、住処となる冒険者街の空き家もしっかり手入れしたマリウス・ドゥースウィント(ea1681)だったが、ナーガ達は不満そう。
「人間の家はいつ見てもちっぽけでせせこましいものだ」
「‥‥ま、郷に入りてはなんとやらだ。お前さん等も、プライドが高いのは結構だが、そんなんじゃこれから先やっていけないぞ」
 シンが釘を刺したが、こらから先どうなることやら。
 ドラゴンパピィの方にはヴェガの勧めで、ロゾム通りの空き家が与えられた。
「わしが毎日様子を見に行くと致そうぞ」
 一仕事を終え、マリウスは冒険者酒場で仲間達と一息つきながら、これから始まるナーガと人との新しい関係に想いを馳せる。ゆくゆくはナーガの特使達を国王陛下に引き合わさねばならないが、それはまだ先の話だ。
 そして。ハルナック・キシュディア(eb4189)はカイン総監の元を訪れ、ナーガの特使達の処遇の件で進言した。
「3人の特使を親ウィルにすることは、ウィルに不利益をもたらすことに繋がると思います。そんなことになれば、ナーガ族の族長方から3人が白眼視されることになりかねず、結果としてウィルの国の声がナーガ族に届かなくなると思うのです」
「では、どうすれば?」
「目指すべきは親ウィルではなく知ウィルだと思うのです。3人にこの国の文化や慣行を理解していただくことで、ナーガ族の指導者達が誤解からウィルの国を攻めることを決定した際にその誤解を解いていただき、また、ウィルの国が意図せずナーガ族の逆鱗に触れようとしたときにウィルの国に警告を発していただけるような関係を構築すべきだと思うのです」
「成る程」
「それを実現する為には、ナーガ族に敬意を表し、しかし卑屈にはならない方達を3人の周りに配置するのが、一見迂遠でも効果的だと思います。1個の人格が尊敬に値するか否かは生まれや職に関係ありません。パン焼き職人から特殊な衣装を作ることができる職人まで、卿の力で集めて冒険者街の内外に配置して頂けないでしょうか? これはウィルの国の今後数百年に影響を与えることでしょう」
 カインは静かに答える。
「私が思うに、その役目に最も適しているのは冒険者達です」
 これで新しい依頼がまた1つ。