●リプレイ本文
●仲間
♪まだかな まだかな〜 G・C・R 開催まだかな〜♪
歌いつつ、ギルドに駈けてくるのはリィム・タイランツ(eb4856)。依頼を物色し、係員と世間話をしていると、人だかりの中にいる新顔を見かけた。
軽い皮鎧と腰に下げた一振りの細身の剣。幼い少年ながら様になっている様子から見て、地球人と言う連中では無いことが一目で判る。
「どうしたの?」
リィムの声に顔を向けるリール。
「あー! 子供は駄目って言うけど。俺よりちっちゃいのがいる」
ポカ! ジャンプして全体重を載せた拳骨がリールの頭をごつん。
「‥‥」
頭をさするリールに向かい、
「むっ、ボクはパラなの。れっきとした大人のレディなんだよ!」
「えー! あんたが年上ぇ?! ‥‥さすが王都だ。でも、お姉さん凄く可愛いかも‥‥」
どっと笑う周りの連中。パラは見た目で幼く見える者が多い。可愛いに肯定的なニュアンスを覚えたリィムは、
「キミ、失礼な奴だな。年上に可愛いはないんだぞ」
叱りつつも目が笑っている。
「こんにちわ。初めまして。私は天界から来たアリアと言います。どうぞ宜しくお願いします。私も実はまだ駆け出しなんです。一緒に勉強させて下さいね」
アリア・レイアロー(eb4703)はリールに目線を合わせるように屈んで挨拶。
「は、はい。よろしく御願いします」
アリアの笑みにどぎまぎ。一転リィムはむすっ。
(「どうしてこんなに反応違うのよキミは?」)
理由の一つは同じ種族人間の異性と言うこともあるだろう。アトランティスにおいて異種族の異性は、お互いに赤ちゃんのころからずっと一つ屋根の下で暮らしてきた家族のようなものだからである。
ピッ。
「私は天界の商人、さらりーまんです。どうぞよろしく」
目の前に出される小さなカード。天界人の習慣らしい。
「信者福袋(eb4064)と申します」
リールはそれを不思議そうに見る。
「これが福袋殿の紋章か‥‥」
社章を紋章と合点。初めて手にする名刺の手触りに、好奇心一杯の顔。
「ココは冒険者ギルド。色んな仕事が貼り出されてて、自分に出来そうな依頼を探して受け、報酬を得る為の場なんだよ。例えばボクはゴーレムチャリオットの扱えるからGCRを操主にやってるんだ」
「GCR?」
「うん。ゴーレムチャリオットレースの事で、一ヶ月に1回くらいのペースでやる国をあげた大イベントさ。これでもボクは1回は優勝してる名操主なんだから♪」
どっと笑いが入る。ダミーバガンに突っ込んでゴーレムチャリオット大破させたことは記憶に新しい。
「‥‥ま、まぁ、と、とにかく色々ある依頼から自分のできそうなものを選ぶトコだよ‥‥。それで、依頼を受けたみんなと一緒に協力して成功目指して頑張るんだ」
実に神妙に聞くリール。ふっと、その眼差しが右に流れた。見かけは実に冒険者らしく見えない。そう、どこかの箱入り娘と言った感じの女の子がいる。
(「可愛い‥‥」)
思わず声に出しかけ、慌てて自分の口を塞ぐ。現にリィムの例もある。人は見かけに拠らぬもの。言葉を選び恭しく。
「お嬢さんも冒険者なのか? 俺、リールってんだ」
こくりと頷く金の髪が、光の滴を編むようにまぶしく映えた。
「えっと‥‥るりだよ。初めましてリールさん」
「これでも、経験を積んだ強い魔法使いなんですよ」
福袋が解説を入れる。
「ごめん。どっかのお嬢様かと思った‥‥」
「そうですよ。これでもノルマンと言う国の伯爵令嬢だったりします」
何と言うこともなさげに語る福袋。リールは自分と似たようなルリ・テランセラ(ea5013)の身の上を聞くことになった。
「るりはお屋敷にずっと暮らしてて外出は許されなかったから‥‥。窓の外ずっと見てて本では書かれてない外の世界と人々もっと見てみたいって好奇心で家出したの」
ますます同じである。リールは身じろぎもせず話を聞いていた。
「夢があっても一番大事なのは‥‥一緒に依頼受ける冒険者さんと出会いと一緒に行
動知る思いやりも大切なのかも‥‥いろんな事あるかもしれないけど‥‥。
う゛‥‥。こんな話、つまんないかなぁ」
「そんなことないよ!」
ルリの悲しい顔は一瞬にして変わる。満面の笑みを浮かべて、ルリは話を結んだ。
「だから、自分のなりたい夢をみうしわないで‥‥がんばって欲しいかも」
リールにはルリの歳が判らなかったが、なんだか暖かい物で胸が満たされるような気持ちになる。
(「なんか、この子。うちの妹のようだ」)
●冒険者の心得
まずはどこかで落ち着いて話そうということになり、冒険者達はリールを連れて酒場『騎士の誉れ』へ入っていった。
リィムが素早くあいている卓を見付け、仲間達もそれに続く。
「リール君は‥‥こっちだね」
リールの隣に座ったリィムは、少年の前に笑顔でジュースを置いた。
密かに喉が渇いていたリールは「ありがとう」と微笑む。
一息ついた頃にはリールの疲れも吹き飛び、期待のこもった目で冒険者達をうかがっていた。これから彼らが話す一言一句たりとも聞き逃すまいと、気合が入っている。
弟を見るように目元を緩めたゴードン・カノン(eb6395)が「では、始めようか」と静かに告げた。
少年はシャキッと背筋を伸ばし、ゴードンを凝視する。
「まずはギルド成立の経緯からいこうか。ちょっと退屈かもしれないけど、冒険者になりたいなら大事な話だから、寝たら駄目だよ」
「はいっ」
ゴードンはアトランティスに元々あったギルドの拡大のことやそれを提唱した分国王ジーザム・トルクのこと、そこに登録された冒険者の待遇などを話すと、何やら書き込まれた羊皮紙をリールの前に置いた。
そこには冒険者の心得五箇条があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《王都ウィルにおける冒険者心得》
・国王陛下には常に敬意を払い、決して失礼のないよう振る舞うこと。
・国王陛下に仇為す反逆者の動きには、絶えず警戒すること。
・依頼とは無関係な冒険者の単独行動は禁止。
・許可された場所以外の立ち入りは禁止。
・冒険者ギルドとその関連施設内での行動は、
他人に危害や迷惑を及ぼさない限り原則自由だが、その行動には責任を負うこと。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リールが読み終えた頃を見計らい、ゴードンは口を開く。
「わかったかな。では、その冒険者になるための条件を話そう。現在、冒険者は準騎士扱いの天界人と彼らを指導監督できる正規の騎士、鎧騎士によって構成されている。民間人は所属できない。故に、ウィルの人間であるリールは、まず騎士位の取得が第一だろう。君の父君は騎士だったね。ならば父君の伝を頼って騎士見習いとなることを勧めるよ」
聞き終えたとたん、リールはがっかりしたように肩を落とした。
修行すれば冒険者になれると思っていたのに、そうなるには騎士位が必要だという。自分がなりたいのは騎士ではなく冒険者だというのに。
ひどく遠回りをしているようで、もどかしくてならなかった。
ゴードンは何も言わずに見守っている。
みかねたアリアがそっと声をかけた。
「私はまだ冒険者になって日が浅いですが、そんな経験でもわかったことは、冒険というのは理想的なのではなくかなりシビアな現実だということでした。そしてその中で学んだことは、見知らぬ人達や見知らぬ場所で起きた事柄に対して自分なりの誠意で答えること、どこにも正義はなく答えは一つではないことを理解すること、常に『人のために』という気持ちを忘れないこと‥‥でした。騎士になることも同様のことが言えると思います。それならば、騎士の位を得てそれについてくる権利も得ておくのは、後々良いことだと思いませんか?」
神妙に聞いていたリールだったが、話が騎士のことに戻るとわずかに眉をしかめた。
と、リィムがリールの肘を突付いてにんまりとした笑顔を見せる。
「ねぇねぇ、キミはとても有利な条件の下にいるの、気付いてる? 騎士になりたくてもなれない人はたくさんいるんだよ。でもキミはなれる。望めば最高の先生の指導も受けられる。それで、さっさと騎士の位をもらって冒険者になっちゃえばいいんだよ。キミの理想の冒険者になる一番の近道だと思うな」
リールの心は揺らぎ始めていた。
リィムは駄目押し、とばかりに少年の背を叩いた。
「利用できるものは何でも利用しなくちゃ!」
「まぁ、もしどうしても父君を頼りたくないというなら、しばらく私のところにいても構わない」
ゴードンの申し出にパッと顔を上げるリール。
「そこって、冒険者街だよね!?」
「たいていの冒険者はそこで住処を借りているよ。最近は魔獣を飼う人が増えて少しピリピリしてるかな‥‥。実は僕もコカトリス飼ってたり‥‥」
「すごいや。冒険者ってモンスター手なずけちゃうの?」
リールは目をまん丸にして驚いた。
それからふと何かを考え込むように、ジュースが半分程残っているグラスを見つめる。
三人が言ったことについて考えているのかもしれない。
●腕試し
そいつはいきなり現れた。全身を隠すマント。そいつをがばっと跳ね除け現れ出たるは、「カパーーー」
緑の肌の怪物君。転ぶようにひらりと宙を舞い、諸手を高く差し伸べて卓の上へ。
「うわ!」
咄嗟にリールは剣を走らす。すらりとした細身の剣だ。それを出現した怪物目掛け抜き様に繰り出す。
結構な手練を積んだブラインドアタック。並の者なら急所を貫かれていたやも知れない。しかし、すっと身を捻りつつ寸の見切りでかわしたのは、威の位を得ていた彼の力量。
「なかなかの腕である。だが、踏み込みが甘い」
予想の範疇故に内心ひやひやながらも先輩の貫禄を見せたのは、河童の忍者。
「自分は中州の三太夫(eb5377)。天界より来た冒険者である。モンスターではないである。知識不足であるな、童(わっぱ)」
見慣れぬ種族に戸惑いを覚えるリール。
「童は騎士の家系と聞いているである。童が冒険者になったならば家は、領民はどうなるである? 騎士には家名と領民を守る責任があるであろう? 受けた責任を守る事は騎士にも冒険者にも大事である。己の責任を放棄して冒険者になるなど、言語道断。そのような者が、依頼を受け達成するという責任を果たす事が最も大事な冒険者になれるわけがないである。故郷に帰るが良いである、カパ」
「みゃう‥‥三太夫さん。なんだか怖い‥‥」
ルリは吃驚して泣きそうな顔。
「瑠璃殿。物事にはケジメと言うものがあるのである」
是非を正そうとする三太夫に、
「父上も若い頃は遍歴修行したって聞いているよ。あちこちで困っている人のために正義を行うことが、騎士の修行だって聞いている」
屁にも理屈はある。
「修行としての冒険者であるか。全くの考え無しでは無いであるか。然らば、自分から教える事は以上である。励むがいいである、童」
ほっとして、只で振る舞われている飲み物に口を付けようとしたとき。
「ん? そいつは止めとけ」
気の抜けたエールを押しのけて、グレイ・ドレイク(eb0884)が彼がブレンドした特製ドリンクを勧める。
「酒は身体が出来てからだ。こいつは体に良いぞ」
「なんか変な感じ。これが冒険者の飲み物か?」
「ああ、グレープジュースを調整した塩水で割った物だ。激しい仕事や運動の後の疲れをとるのには良い」
グレイは、その覚悟ならば。と前置きをして
「冒険者として修行をするなら教えてやる。自分にあった装備を着けろ。力量に不相応な武器は、なまじ持たないほうが命を拾う。勝つことよりも負けないことを第一に考えろ。護るべき者も護れず命を落とすのは、絶対に償えない不名誉だ」
グレイが説くのは当たり前の常識。だが、それを知らずにしくじりを重ねる手合いもいる。
「家を継ぐまでの修行であっても、あんたを頼る依頼人にはそんな言い訳は通用しない。全ての冒険者が騎士として扱われるのは、心に徴を持っているからだ。あんたの望むように騎士と冒険者は両立出来る。騎士としての修行を収めた後でも、見聞と、修行の為、冒険者として人々の為に働く者を、俺は何人もこの目で見てきた」
フィルト、ウォルフガング、フローラにトリアにセイクリッド。メロディにメイリアにヴァレリア‥‥。瞼を閉じれば浮かぶ顔。彼が知るつわものたちの話が語られる。
「皆それぞれに自分の術を生かす装備を工夫している。例えば俺が知るスレナス殿は、小柄な体躯を十二分に生かす得物を創ったくらいだ。今のあんたの身体では重い鎧を着けるより、軽装で身軽さを増した方がよい。オフシフトは使えるか?」
実力を値踏みアドバイス。
「一応は学んだ」
「そうか。先ずはそれに磨きを掛けろ。敵を倒すのは技じゃない、術だ。一つの術を身体に染みつくほど磨いて、やっと実戦でつかえるようになる。自分の身を守れるようになって、初めて人を護る資格を得る。忘れるなよ」
こくりと頷くリール。
「冒険者と言うのは、人に信頼されてこそ成り立っている職業だ。それを果たすためには、単に腕だけではでくの坊だ。依頼人の話、民の様子、様々な周囲の状況を確認し行動する、広い視点が重要だぞ。どんな状況かも確認せずに無鉄砲に突進していては、必ず大事を誤る。助け出すはずの者を敵と誤認して討ち取るような粗忽者や、言葉巧みに利用しようとする邪な奴に騙されるようでは話にならない」
グレイは自分の体験や仲間から聞いた話をかみ砕く。苦い思い出や、歩いてきた道をグレイは語る。
「ふーん。そんな奴らでも約束を守るのか」
サン・ベルテ鎮圧を元にした教訓をリールは拳を握って耳を傾ける。
「冒険の合間にも、身体を鍛え学んで行く必要がある。そうだな‥‥。生計を立てるのと身体を鍛えるのを同時にやれ。荷物運びも足腰の鍛錬には為る。夜は酒場の卓を回り、他の者の経験を聞け。きっといつか役に立つものだ」
「うん。何事も訓練って訳か」
「そうだ。いずれおまえは俺達の背を踏んで、俺達を超えて行かねばならない。その気概無く冒険者などと言っているようなら、さっさと家に帰れ」
突き放すような言い方は、彼なりの思いやりなのだろう。
●リールの身の上話
ちょっとした騒動の後、飲み物などを注文しなおそうとリィムが少年の分も頼もうとした時、福袋がそれを手で制してリールに目を向けた。
「失礼ながらお尋ねしますが、お金はお持ちですか?」
聞きようによってはひどく侮辱されているようでもあるが、信者にそのつもりはない。 リールの金銭感覚や経済観念を確認しておきたかったのである。
リールは無造作にポケットから金貨を一枚取り出した。
「お金ってこれ?」
たったそれだけの動作で、信者はリールの金銭感覚を見抜いた。
少年はお金の価値をわかっていない。
注文を聞き終えたウエイターが離れると、信者はリールに金貨をしまうように言い、お金についての初歩的なことを話して聞かせた。
じっと耳を傾けるリールを見るかぎりでは、数値としては理解しているが実際の感覚としては掴めていないといったところか。
それからふと、信者はわずかに首を傾げて話題を変えた。
「それにしても、今から冒険者ですか。私の故郷じゃ就職するのはもう少し後ですけど、こっちの常識はどうなんでしょうね?」
「あと三年で結婚する。婚約者がいるんだ」
ぽかんとする冒険者達に、リールは日常会話のように続けた。
「でも、家としてはお互いもっと良い縁談があれば解消してもいいことになっている」
「はぁ‥‥地方とはいえ領主ともなればそういうものですか‥‥」
「何か、バカにしてる? まるっきり子供だと思ってない? これでも一応女性経験はあるんだけど‥‥」
誰かの叫びと飲み物に咽る音、椅子から落ちるような音が同時に起こった。
「初夜権を買い戻せない貧しい農民だったんでね。しきたりに例外を作るわけにいかなかったから、父上が俺と一夜、寝所を共にするように言ったんだ。七歳の時だったかな。あれは‥‥あたたかくて柔らかだった」
呆然として言葉もない冒険者達。実際はただの添い寝だったのだろうが、十二歳の少年の口から出るにしては過激な単語が多かった。
信者は大きく咳払いして強引にこの話題を流すことにした。
「リール様は跡継ぎですよね? お父様にはどんなことを教わってきましたか?」
「武術の方は一通り。馬にも乗れるよ、輪回しとか得意だ」
領地経営はどうだったのだろうか。
先程の初夜権云々の話のせいで、少し聞くのが恐ろしかった。