新少年色の尻尾2〜妖しい光2

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月16日〜09月19日

リプレイ公開日:2006年09月20日

●オープニング

「すげーな、あんガキ」
 根本的に訓練が違うのだろう。体躯も良く力持ちの少年に、河船の船着き場は目を見張る。ここは王都のすぐ南、大河に交わる支流に位置する。大量の物資を運ぶには、古来より水路が優れている。
 荷を一つ運んで木札一つ。これは夕方には金に化けるものである。周囲が驚くのも無理も無い。まだ昼前だと言うのに、少年の腰に下げた木札は庶民には数えられない数になっていた。働きからすれば、彼はかなり稼ぎの良い労働者だ。

「はいよ!」
 夕刻、会計係は木札と交換に渡したのは、銀貨2枚と銅貨3枚。労働者の平均的な一日の稼ぎが銀貨一枚と言われているから、人の倍以上働いたことになる。
「明日も来て暮れよ」
 ぽんと肩を叩かれる。これで明日の仕事も確保。働きの良い者は、船着き場でも重宝するのだ。
「さーて。冒険者酒場を回れだったっけ」
 少年‥‥すなわちリールは大きく伸びをし、貰ったばかりの金で博打や飲み食いを始める労働者の横を抜けて王都へ戻る。日没までに戻らないとまた野宿だ。盗賊などの侵入を防ぐために、夜の門は閉じられる。
「冒険者の元に居候している見習いか。通ってよし」
 城門を潜り、冒険者酒場へ。

「しふしふふ〜♪ 小麦粉も無事に対処できて良かった良かった〜♪」
「だが断る。‥‥カッコイイ時はあると思うぞ? なのに色ボケが台無しにしているんだ、色ボケが」
「ちょっと寄せてもらう。いっしょに酒を飲んで何もかも忘れようぜ」
「もうこれいじょう、まちのみんなをふあんにさせないでほしいの」
「次からは、事前にサッカーの常道などをいかに天界人等を通じて知っていられるかどうかが大きな勝敗の分かれ目になるかもしれないな」
 様々な話がされている。リールは卓を回り話し掛けようとするが、皆見知らぬ人ばかり。つい、気後れするのはどこの世界でも同じだ。

「えー‥‥そうなんだ‥‥やっぱり‥‥何にも知らないおばかさんだったんだ」
 ちょっといじけた特徴有る声。
「やあ!」
 リールは数少ない知り合いの卓に腰を掛けた。少年の彼にとって、冒険者の話は驚くことばかり。そして冒険者も、彼の常識との違いに新しい発見をする。
「でも、荷物運びの労働者‥‥乱暴な人‥‥多いと思う。怖いことされなかった?」
 妹みたいな感じのエルフのお嬢様に、リールは胸を叩き。
「戦い治める者が、耕す者に負けるなんてありえないよ」
 今日も会話は夜中まで続いた。

 夜半。身を寄せる家で毛布を被ったリールは乾きを覚えて目覚めた。水瓶から水を汲んで喉を潤すと、鎧戸を押し上げる。涼しい秋の夜風、星は降るように輝いている。
「ん?」
 目の錯覚だろうか? いつか見た夢のように、闇より暗いそれが、ゆっくりと羽ばたいている。黒いシフールのような影。

 翌日。リールは冒険者ギルドの依頼書を眺めていた。
 一人の農民がギルドを尋ねてきていた。なにぶん不案内で受付窓口も判らなかったらしい。報酬も満足に払えないと思われるほど、貧しい身なりであった。
「うちの村に、毎晩白くて大きな犬のような化け物がでるんです。豚や鶏が襲われて‥‥」
 たまたま暇そうにしていたリールに声を掛けたのだ。
(「やったー。これって冒険者デビューじゃん」)
 リールは勇む。騎士たる者、か弱き者を保護すべし。父の教えのそのままに、勝手に話を受けてしまった。

 その様子を見ていた係員が、リールを知る冒険者達に報せた頃には、既に二人の姿は無かった。
「えーと。近くにいた者の話では、ここから馬で1日ほどの村ワンタケ。王の直轄領の中です。そこに大きな犬のような怪物がでて、家畜を荒らすとの事」
 情報はこれだけである。有る程度は腕が立つのを知っているが、怪物相手だと経験が者を言う。彼を知る冒険者達は後を追うことにした。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea3501 燕 桂花(28歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea5013 ルリ・テランセラ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3336 フェリシア・フェルモイ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb3771 孫 美星(24歳・♀・僧侶・シフール・華仙教大国)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4326 レイ・リアンドラ(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4703 アリア・レイアロー(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb5377 中州の 三太夫(34歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb6395 ゴードン・カノン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●冒険者酒場
 知らせを持ってきたのはルリ・テランセラ(ea5013)。元々考え込むような娘であるが、今日はいつにも増して深刻であった。青ざめた顔のルリに真っ先に反応したのはテュール・ヘインツ(ea1683)。
「う‥‥毎日家畜あらされて食べられちゃった家畜さんは可哀想だけど生活の為にやっていく村人さんたちも辛いみたい‥‥そこでリール君が助けにつっぱしちゃったみたい」
 狼狽するルリから状況を聞き出すと、
「一人で行っちゃうなんてリール君って子は相当のせっかちか自信家なのかな? 腕はたつらしいけどもしももあるから急いで追わなくちゃね」
「今、馬を用意する。ギルドへの話は俺が通す」
 グレイ・ドレイク(eb0884)の頼もしい声。
「私も行く」
 居合わせたルエラ・ファールヴァルト(eb4199)と先行する。王都の付近は彼女の庭のような物である。道は良く知っていた。

「ただ‥‥疑問っていゆうかなんで突然白いウルフさんが毎日家畜荒らすことになったんだろう‥‥なにか原因があるきがして人側も原因作っちゃっているんじゃないかなぁって思う‥‥」
「ルリ殿。天界では民の生活を脅かす獣にすら慈悲を与えるのですか? それ程まで暮らしに余裕があるとは‥‥羨ましいです」
 他意はない。ただ、エリーシャ・メロウ(eb4333)の知るウィルの現実は、家畜を荒らす野獣に情けを掛けると言う事が、理解の範疇にないのである。
 ともあれ、家畜を襲う只の野獣退治だとしても、一人で少年を行かせるのは危ない。皆は急ぎワンタケ村目指す。王都の近くでもあるし、ギルドが場所と道順を教えてくれたため迷うことは無かった。

 小一時間して、グレイは農民に案内されて歩いている少年を見つけた。
「未熟者! そんな浅慮では武勇を使い切る前に犬死にするぞ」
 先ず、リールの無事を知って怒鳴りつけて拳骨を喰らわせる。そして、私人としての喜びを示した後に、穏やかに説き始めた。
「いいから聞きな。冒険者にも掟があるんだ。これは只の法度ではなく、冒険者を守るための包帯でもある。怪我をしても、包帯に守られた傷の痛みが和らぎ、軽い傷ならば普通に振る舞える。冒険者の掟とはこの包帯のようなものだ」
 理詰めで懇々と説くグレイ。冒険者の特権とその責務。言葉は穏やかながら一句一句が百発百中の弓矢のようにリールを捉え、強力な破城鎚の一撃のように心得違いを打ち砕く。
「‥‥退治依頼に失敗は、自身の死だけで無く、傷を受け凶暴化した、怪物が、罪なき民を襲い、大きな災いとなる事だってあるんだ。リール君、あんた一人が死ぬだけでは済まない。だから、必ず4人以上のチームを組んで、依頼を受ける事になっている

 リールは神妙に聞いていた。そうこうするうちに、セブンリーグブーツを履いたルエラとゴードンが追い付いた。
「貴方の手伝いに駆けつけた。すまないが皆が揃うまで少し怪物退治を待ってくれないか」
●村の入口
 村へ後少しと言うところで、何人かの冒険者が追い付いてきた。
レイ・リアンドラ(eb4326)とゴードン・カノン(eb6395)。そしてエリーシャの愛馬ファーに同乗したアリア・レイアロー(eb4703)。
「全く、何と無謀な! 単独で依頼を受ける等以ての外だ。ギルドの冒険者が依頼を受けた後、まず最初にする事が分るか? 共に依頼を受ける仲間と顔合わせを行い、然る後、その依頼を解決する為の打ち合わせを入念に行うんだ。依頼中は、どんな危険が潜んでいるか分らない。得られる情報を検討し、如何に被害を少なくするかを考える。そして行動の際には仲間と協力し合い、連携を取って難敵に臨む。これを出来ぬ者に冒険者を名乗る資格は無いぞ?」
 怒を露わに言って聞かせるゴードン。それを制したレイは威儀を正し
「リールさん。勇気と無謀は違います。依頼を解決するのに必要な物を全て自分一人で間に合わせようなんて言うのは思い上がりです。様々なスキルをもつ冒険者が連携し、互いに補うことで実力を最大限に引き出す。これは冒険者独自の文化かもしれません。正々堂々であれば成否を問わぬのが騎士の道ですが、冒険者と言う者は、依頼を解決して人々の難儀を救済してこその誉れです」
 エリーシャは苦笑しながら、
「リール殿。この様子では何度目のお説教になりますか?」
 馬を下りた。
「‥‥あ、あのう。お殿様‥‥」
 農民が口籠もる。
「安心せよ。私は獣退治そのものを止めに来た訳ではない。そのほうには悪いが、この子はまだ見習いでな。未熟者ゆえ、村にもこの子にも何か有ってからでは遅い。そのために私達は来たのだ」
 さらに追いかけてくる人々を見て、農民はおそるおそる。
「村には充分な金がありません」
 彼は、冒険者に依頼するには多額の金が必要と聞いている。
「心配しないで下さい。あなた方からは取りません」
 アリアは農民に優しく微笑むと、リールのほうに向き直り。
「冒険ではこういう武器も必要になると思います。生憎、私は短剣を扱う技量がありません。ですので貴方に差し上げます。勝利の女神が貴方に微笑みますように」
「これは‥‥」
 噂に聞く魔法の剣だとリールは感じた。余程くらいの高い騎士か、さもなくば経験を積んだ冒険者以外持ち得ない物。リールは身震いしてそれを押し戴いた。
「お言葉に甘え、今回だけお借りします」

「あわわわ、あああわわ」
 見ると、農民が腰を抜かしていた。
「少年とは須く無謀な物である。それを時には諌め、時には叱責するのは。歳経た者の義務である。カパ」
 いつの間にか駆け付けていた中州の三太夫(eb5377)である。初めてみる河童の姿に驚いたようだ。

●怪物の正体
 別して、家畜が襲われる騒ぎを除けば村は平穏だった。そんな、一見平和な村の中で、浮かぬ顔で佇むルリ。
「最近ペット飼う冒険者さん多いし‥‥無責任に捨てていく人もいるから‥‥」
「しふしふ〜。見っけ!」
 侵入箇所を調べていた燕桂花(ea3501)の弾んだ声。
「でも、これどう見ても狼や犬の仲間の毛みたいアル」
 孫美星(eb3771)が柵に付着した白い毛を示す。
「狼っぽいといえば一日3回吹雪を吐ける強力なフロストウルフとかだと‥‥夜に戦うの厳しいアルね」
「うん。でも、これどう見ても違うよね。ほらここ。刃物で削ったような跡だよ」
 テュールが確認する。少なくとも犬や狼の牙は、このように削ることは不可能だ。
「ここ、こじ開けてアルね」
 美星が痕跡を示す。犬のような毛で刃物を使う物。と、冒険者達は今までの経験を思い出す。
「ひょっとしてコボルトじゃない?」
 桂花はポンと手を打った。
「確かにな‥‥」
 被害の背景を調べるために、あちこち聞き込みに行っていたグレイも、現場を確認して頷いた。
「だが、コボルトなら毒に注意だ。退治するのは造作もないが、あの毒だけは厄介だぞ」

●仔犬の攻撃
 バタバタバタ。肉の焼ける香ばしい匂い。火の上で脂が滴る。
「うぁ! 何、君達‥‥」
 集まってきたのは他でもない。村の子供達や村人が番に飼っている『犬』の、子供だ。
人の子供に犬の子供。それはそれは一寸した騒ぎになっていた。
「‥‥ほ、欲しいのかしら?」
 こくりと頷く子供達。桂花が許可を出したから堪らない。
「きゃあああ!」
 悲鳴にみんなが駆け付けると、子犬のぺろぺろ攻撃に悶絶している桂花が目を回していた。

●戦い
 静かに夜は更けて行く。冒険者達は配置についてじっと家畜小屋を見守る。どれくらい経ったろうか。ゴードンは闇に光る二つの動く点を見た。幸い風下で気付かれてはいない。ゆっくりと歩を進め、退路を塞ぐ位置に回る。
(「五匹。二足歩行。‥‥そう強くない」)
 身を屈め、闇の星影に敵を映したグレイは、まだ自分の出番ではないとやり過ごす。リールに経験を積ませるには悪くない相手と見た。
「あれはコボルトと言う蛮族だ。一度どれほどの物か戦ってみるといい」
 ルエラも、間違っても一触にリールが殺されるほどの相手ではないと見る。だって二人の後に、万一に備えた救護役として配置するフェリシア・フェルモイ(eb3336)がいるのだから。
 柵の入口にテュールが回り込み、退路を塞ぐ。エリーシャは槍を構えて、民家のほうに逃げないよう固める。三太夫は弓矢を執って
「リール、見届けるである。村人の心配は要らないカパ」
 逃がさぬように包囲の輪を作る冒険者達。
「ウォォォ!」
 リーダー格らしき者が吠えた。そしてその合図と共に手薄と見た方へ一目散。リールは躍りかかってコボルトを追う。
(「ん!」)
「止まれ!」
 エリーシャの槍が放たれ、リールの目の前に刺さる。慌てて蹈鞴を踏むリール。
「何すんだよ!」
 だがその時だった。振り向き様にコボルトがショートソードを一閃。その切っ先はリールの首の僅か拳一つを掠めた。
「逃げる敵に近づきすぎるな。振り向きざまの一撃は侮れぬ」
 言ってルエラが進み出で、攻勢に移った一匹を引き受ける。グレイが一度に三匹相手。それでも危なっけ無い剣捌きは流石歴戦の強者。
 リールが剣を回してショートソードを払う。と、ステップを踏んで敵の右外に回り込み、顔面への一撃。なかなか彼もやる。
「にがさんカパ!」
 疾走の術で回り込んだ三太夫が、柵を越えようとする一匹に矢を放つ。背に矢を受けたコボルトは、転げ落ちて地面に倒れた。
 いつしか冒険者達によりコボルトは次々討たれ、残すはリールの相手のみ。リールもなかなかの腕だが、そいつも大した奴だ。互いに息を切らせながら激しい応酬が続いた。
 だが、若いリールは動きに無駄が有るものの体力もある。そして決定的瞬間を迎えた。
「アオゥゥゥゥゥ!」
 軽戦士同士の真剣勝負では、剣が相手の内側に入ったほうが勝つ。リールは繰り出されるショートソードを逸らして、そのまま刃を水平に、コボルトの胸に刺し込んだ。そして、切っ先はさらに刺さりつつ、肋骨を定規にして横に流れた。心臓を切り裂いたのである。
 傷口から一瞬白いものが見え。次の瞬間血が噴き出した。気が付くとリールはなま暖かい液体を全面に浴びていた。
「はあっはぁっはあっはあっ‥‥」
 肩で息をしているのは、戦いの疲れだけではあるまい。リールは初めて敵を屠ったのだ。
●教訓
 敵を倒した興奮にリールは酔っていた。剣の血を拭って鞘に収めたものの、自らの返り血はそのままであった。
「腕はあるようだが、加減が利かぬのは未熟者の証拠だ」
 ルエラは断じた。たかがコボルトを殺すのに、ああいう斬り方は要らない。
「要らぬ心配だったようですね‥‥おや?」
 布を持って血糊を拭ってやるレイは、リールの左腕に切り傷を見つけた。
「美星さん! フェリシアさん! 彼の手当を」
「敵が何者であるかの知識や、地の利などを得て戦うのが賢明な遣り方である。この痛みを忘れてはいけないであるカパ」
 急ぎ三太郎が腕を縛った。コボルトは武器に毒を塗ることで知られているのだ。けれども生憎毒消しがない。
「手当が早ければ大丈夫アル。ける依頼はきちんと調べないと駄目アル‥‥特に魔物は一人で手に負えないのなんてザラに居るのアルよ」
 美星は腕の根本を縛って血流を止め、傷口を清潔な水で洗った後に、綺麗なナイフで切り裂いた。
「瀉血アルね。毒を出してしまったら、フェリシアさんに塞いで貰うアル」
 手当は速やかに為される。
「怪物の知識はとても大事なものです。一見変わった風に見えなくても、色々な能力を持っていることがあります。コボルトは大して強くないですが、毒の武器を使います。誰も知らなかったら、あなたは明日の朝を迎えられなかったかも知れないですよ」
 ひとくさり諭すフェリシアのリカバーが、見る間に傷を塞いで行った。
 駆け付けた冒険者から、無謀を戒める言葉が怒濤のように彼を見舞う。その中でも、一等彼を反省させたのはルリだった。何も言わず涙を流す彼女を見て、頭ごなしの譴責以上にリールの驕りは砕かれた。そして、がっくりと肩を落とす。
「『失敗は成功の母』という言葉があります。失敗して何か学び取れれば次に生かす事が出来ます。何事も勉強ですね。」
 アリアは、しゅんとするリールに向かってニッコリと語り掛けた。