新少年色の尻尾6〜あの鳩を追え・前編
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア3
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月05日〜04月10日
リプレイ公開日:2007年04月13日
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●オープニング
人が増えれば治安が悪くなる。
では、ペットが増えれば‥‥?
騎士の家に生まれながら冒険者に憧れ、自称『新米冒険者』のリールは、町中で小型の犬を連れて散歩をする人々をよく見かけるようになっていた。体が小さいと飼い主やその家族への危険も少なく、家の金銭事情にもやさしい。それに見知らぬ人に吠えるので泥棒除けになるということで、泥棒のターゲットに為りやすい商人など裕福な庶民階層には特に人気だ。
これもトルク王家のもたらした安定のせいだろうか? 以前冒険者のペットにパニックを起こした人たちとは同一と思えぬほどの変わり様である。
もちろん、小型ゆえのかわいらしさから貴族階級の人々にも大人気である。
しかし、このところそんな人々の楽しみと癒しに影を投げかける者がいた。
小型ペットを狙って誘拐し、身代金を要求してくるという卑劣な輩が現れたのだ。
新米冒険者としてリールは犯人を暴いてやろう、とまずは犯人に関する情報収集から始めた。
毎日町中を歩いては人々の話に耳を傾け、時にはペットを連れて歩いている人に声をかけたりする。
ところが、被害者もそうでない人も犯人の顔も姿もわからないと言うのだ。
「身代金は犯人がよこしてくる伝書鳩に託すんだそうですよ」
ある町の人から聞いた話だ。
恐ろしいことに、犯人の要求に応えなければペットは殺されてしまうらしい。
家族のように可愛がっているペットを殺されたらどんな気持ちになるかを思い、リールは悲しさと怒りを同時に覚えた。
犯人を見つけたらタコ殴りである。
さらにこんな話も聞いた。
犯人をとっ捕まえてやろうと、指定の通り伝書鳩に宝石を持たせた後その鳩を追いかけたのだが、犯人に気付かれて返り討ちにあってしまったという。
何とか生きて帰ってきた被害者は、犯人が複数であることはわかったが、詳しい人数やどんな人物達なのかまではわからなかったのだった。
それでも一応宝石は犯人に渡ったので、ペットは帰ってきたらしいが。
伝書鳩を追うことについてはリールも考えたが、これでは危うい。では、どうやって犯人までたどり着いたらいいだろうかと考えていたリールは、懇意の商人の家で事件の発生を知った。聞くつもりは無かったのだが、悲憤故に声が大きかったのだ。
「ついにあの家のペットまで‥‥」
漏れ聞こえたその言葉に、リールは素早く耳をそばだてる。
「脅迫文と伝書鳩が来たそうですよ‥‥ひどいことを」
「本格的に対策本部を作るべきか‥‥」
被害にあったのは、リールの知り合いの家だった。
ペットの命と引き換えに、家で最も価値のある宝石をよこせと言ってきたらしい。
当然、拒否すればペットは殺される。
リールはその家の人達がペットをとても可愛がっていたのをよく知っている。
リールは気付かれないように、そっと廊下の角を曲がった。
「対策本部ができてから動き出すまでなんて待ってられるか」
身分がある者ほど面子だの何だのでまとまりが悪くなることをリールは知っていた。
けれど、一人では返り討ちにあい、悪くすれば命を落としてしまうだろうこともわかっていた。
冒険者デビューを果たしたと思っているリールだが、未熟さもそれなりに認識している。
そんな少年が頼れる人達と言ったら、彼らしかいないではないか。
「たのもー!」
やや挨拶の言葉は違うが、リールは冒険者ギルドの扉を勢いよく開けた。
受付け係の人に事情を話し、最後にこう付け加えた。
「犯人退治には俺も行く。知り合いのペットがやられたんだ、待ってるだけなんてできないね!」
●リプレイ本文
●事前打ち合わせ
ペットを狙った悪質な誘拐事件解決のために集まった酒場で、リールは冒険者を前に頬を紅潮させていた。久しぶりに会えて嬉しかったのだ。
おまけに再会早々エリーシャ・メロウ(eb4333)に褒められたことも舞い上がる原因の一つだった。
「勢い込んで飛び出す前に状況判断ができるようになったなら、もう半人前とは呼べませんね。ずいぶんと成長させたようで頼もしく思います」
尊敬する大先輩からこんな言葉をもらえたら、誰だって嬉しくてたまらなくなるだろう。
それからリールは今回の事件のあらましを話して聞かせた。
「ふぅん‥‥人質ならぬペット質か。まあ、確かに人と違って小型なら攫い易いだろうし監視も楽だろうね。万が一殺したとしても殺人ではなないしね‥‥まあ、だからといってやったらどうなるかを思い知らせないとね」
アシュレー・ウォルサム(ea0244)は、クスッと笑う。
その微笑に背筋を寒くするリール。
穏やかな物腰で人外な冷気を発さないで! 視線が刃物のようです!
内心で叫ぶが決して口にはしない。怖いから。
しかしそこはさすが年季の入った冒険者というべきか、イリア・アドミナル(ea2564)は軽く咳払いして極地のような空気を払った。
「ペットはもう一つの家族です。必ず犯人を捕え、これ以上悲しむ人が出ないようにしましょう」
「さて、リール。ウィルでは伝書鳩はどのような時に用いるかえ?」
生徒を見るような目でリールに問うヴェガ・キュアノス(ea7463)。
リールは得意気に片眉を上げて答えた。
「手紙を運んでほしい時だろ?」
「では、伝書鳩が仕事を果たせる場所は?」
「‥‥え?」
続いた問題に、リールは姿勢を正し腕組みして考え出す。
伝書鳩が使われそうな場面はいくつか思い浮かんだが、そこから先に進まない。
「街から離れれば鳩を餌とする動物やモンスターもおるであろ。ゆえに王都内かそう遠くない場所にて鳩を使うておるのではないかの」
「被害にあったという商家の人の協力が欲しいな」
「衛兵詰所でも関係する話や資料を見たいですね」
テュール・ヘインツ(ea1683)とエリーシャがじっとリールを見つめた。
意図を察したリールは、任せろと頷いてみせる。
冒険者に期待されちょっと緊張気味のリールをリラックスさせるように、ルヴィア・レヴィア(eb4263)がやわらかく微笑んだ。
「過去視に透視の術師、捕縛魔法の使い手に名うての業師、これだけそろってればうまくいくって。でもまぁ、犯人は追跡者への警戒はしてるだろうから、魔法を使う時は気を付けないとね。リールくんも何か気が付いたら言ってね」
「君さえよければ隠密行動の技術を教えよう。代わりにこの世界の理を教えてくれ」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)の申し出に、リールは何度も頷いた。
●聞き込み
冒険者を連れてリールが衛兵詰所を訪ね、事件解決のために被害届けなどの報告書を見せてほしいと言うと、意外にもあっさりと見せてくれた。
今回のことは衛兵としても持て余していたのだ。
ペットが誘拐されたとはいえ、要求されたものを差し出せば傷一つなく戻ってくる。ペットの飼い主はいずれも貴族や商家の富裕層だ。宝石がいくつかなくなったところで家にはそれほどの打撃ではない。
けれど、決して気分がいいものではなくて、犯人をどうにかしてくれとの声もある。
資料を見た冒険者達は手分けして犯人の手がかりを探すことにした。
エリーシャ、テュール、ヴェガ、グレイ・ドレイク(eb0884)は被害者の家をまわり、天野夏樹(eb4344)は奪われた宝石について調べるため宝石商へ、アシュレーとイリアは伝書鳩を追って返り討ちにあった人を訪ねることになった。ちなみにリールはエリーシャ達と同行する。
詰所で得た被害者リストをもとに、面倒だが一軒ずつ話を聞いていくしかない。
エリーシャの勧めにより全員身形を整えて訪問することになった。
その甲斐あってか情報集めはなかなか順調に進んだ。リールがいたことも相手の信用を得る足しになっていただろう。
ただし、行く先々で飲み物を出されるため最後の方ではお腹がきつくなっていたが。
「さらわれたのはどんな時でしたか? 時間やペットのいた場所ですが」
最初に訪ねた商家でエリーシャが尋ねた。話しに出てきたのはこの家の夫人だった。
「たぶん夜中だと思うわ。朝、庭に出たらいなくなっていたから。あ、うちのスペントは庭に犬小屋を建てて家には入れないの。あの時は生きて帰ってこないと思ったけど‥‥」
小型犬スペントは今は元気に庭で遊んでいる。家に入れないことには変わりないが、あの事件以来スペントをつなぐ鎖をもっと頑丈なものにしたらしい。
次に訪ねた貴族の家では娘が出てきた。被害にあったのは彼女が可愛がっている猫だ。
「猫がさらわれる前、何か変わったことはありませんでしたか? 宝石やペットのことを妙に聞いてきたりした人などは‥‥?」
テュールの問いに娘は申し訳なさそうに首を振った。
「ペット連れの人達が話しをするのは珍しいことじゃないわ。初対面の人も何人かいるのよ。ふだんどんなふうに過ごしているかとかエサは何かとか、躾のこととか。‥‥その中の誰かが犯人だったのかしら。今も、知らない顔して会話してたりするのかしら‥‥」
急速に落ち込んでいく彼女を何とかなだめ、テュール達はその家を後にした。
彼女が人間不信に陥らないためにも、犯人を捕まえなければならない。
その後訪れた家でも似たり寄ったりの回答だった。
「ただの動物好きが何かがあって豹変してしまったのかのぅ」
ヴェガは犯人に同情しているわけではない。
可能性の一つとして考えただけだ。
いったん人通りの少ない路地に入った彼らはテュールがリヴィールエネミーをかけるのを待った。自身と訪問する家の安全のためだ。
最後に今回のターゲットにされてしまった商家を訪ねた。
出てきたのはこの家の夫人だ。彼女はグレイが何かを言う前に心配に顔を歪めて言ってきた。
「あなた方が動くことで私のジニーちゃんが殺されるようなことはありませんよね? あの子はまだ子犬なんです。大丈夫ですよね?」
グレイは夫人を落ち着かせるため、彼女の目を見つめながらできる限りゆっくりと話した。
「ペットにもあなたにもこれ以上の被害は及ぼさないと約束します。そのためにも教えてほしいことがあります。宝石を受け渡すのに約束の時間や場所はありますか?」
夫人は物凄く不安な表情を湛え、
「朝、鳩の籠が家の前にある。左足の筒の中に宝石を入れろ。受け取り次第無事に返すと」
手口は今までと同じである。
「では、その鳩が来たら、必ず教えてください」
「はい」
夫人はすがるような目でグレイをはじめ冒険者達を見つめた。
一方、犯行に使われる伝書鳩について調べているイリア達だが。彼女達もあらかじめリヴィールエネミーをかけて慎重に行動していた。
訪ねた先は商家の主人だった。
その時のことを聞くと、主人は不貞腐れたような渋い顔になる。彼の腕にはまだ包帯が巻かれ、頬にもガーゼが当てられていた。
「どうもこうも‥‥ふつうに追いかけたのですよ。一応剣は持っていきましたが、私は騎士ではありませんからね。脅しに使えればいいと思ったのです」
「けれど、相手は意外にも手練だったのですね。襲われたのは鳩を追ってすぐですか?」
イリアの問いに主人は首を横に振る。
「ひとけのないところでしたな」
「相手は一人?」
アシュレーにも主人は首を横に振った。
「いきなりガツンとやられたんで詳しい人数はわかりませんが、三人以上はいたと思います」
皆の聞き込み情報を元にバーストで調査してきたゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)は、
「街の簡単な絵図を元に、飛んでいった方向を調べてみましたが、複数の方向へ向かっていました」
つまり、鳩は一羽だけでは無いと言う確証が得られた事になる。犯人グループはけっこう用心深いようだ。
そして一人宝石商を当たった夏樹は。
メモしてきた奪われた宝石の特徴を宝石商の主人の話し、それと思われるものが出回ってないか聞いていた。
主人はメモを見てしばらく唸った後、なぜか同情するような目で夏樹を見た。
「ここに書かれているものは、残念ながら見てないねぇ。それともしかしたら加工されてしまっているのかもしれないよ。砕いて全く別の装飾品などにしてしまうのさ。そうなったらもうわからない」
夏樹はガックリと肩を落としたが、得るものはあった。
犯人、あるいは犯人グループの中に宝石加工の技術を持つ者がいるかもしれない、という可能性だ。
犯人は中々に頭の回る人物なのかもしれない。
●ダミー
次の日の早朝、目星を付けたいくつかの屋敷の近くに分散して、徹夜で冒険者達が見張る中。籠を持って現れたのは男だ。その籠をそっと家の前に置こうとしたとき。ケヴィンはゆっくりと尾行を開始する。犯人は頭がいい。ならばこんな場所にのこのことやって来るはずはない。多分金で雇われただけだろうが、犯人と接触はあった筈だ。
証言を得るためにケヴィンは男の後を追う。男は貧民街の者であった。
扉も無い筵を垂らしたあばらやに入り、休んでいるところを、
「おい。誰に頼まれた?」
穏やかな、だが有無を言わさぬ迫力で迫る。
「‥‥身なりの良い男に、届けるよう頼まれた。ヘヘヘ。お大尽様達は、冒険者様にあやかったペットブームとかで、小動物を飼ってらっしゃるが、御自分で餌を用意される事などされないので、たかが土をほじくって採ったミミズを高く買ってくれるんだそうですわ。朝一番に生きたミミズをもって来いと、前金で受け取った次第で‥‥」
男の身柄を確保し、ケヴィンが屋敷に戻ると。
「やられました」
テュールとイリアはがっくりと肩を落としている。皆、男の方に気を取られている隙に、いつの間にか鳩の籠と交換されていたのだ。敢えて届けた者を追跡しなかったヴェガの持ち場ではミミズの籠のままであった。
「ふむ。見張りの誘き出しまでやるとは侮れぬ奴らじゃのう」
そこへ、扉を開けて
「この人。本当になんにも知らないみたいです」
テレパシーを利用して、尋問の立ち会いをしていたイリアが汗を拭きながらやってきた。なぜか頬を赤らめている。
「どうしたのぢゃ?」
「い、いえ‥‥(横目で僕の事見て、僕に拷問される妄想して悦に入ってたなんて、絶対に言えないよね)」
尋問は上の空だったと言う。
かくして、初動で押さえられると軽く考えていた者は居なかったが、これで当初の予定通り鳩の追跡に懸ける事になった。
●謎の吟遊詩人
籠の中のメモにあった指定時間の昼。鳩の左足に着けられた小さな筒。そこへ指定の宝石を入れる。アシュレーが物陰でセブンリーグブーツを履き、インビジブルのスクロールを使用。テュールは屋敷の屋根裏にあって、テレスコープを準備。
「バーストで鳩の過去を追跡します。イリアさんお願いしますね」
ゾーラクは街の外でイリアの馬に同乗。リールは二人の護衛だ。
凡そ、考え得る手段全てを駆使して、冒険者達は配置に付いた。
鳩は大きな羽音を立てて空に舞い上がる。そして、ゆっくりと大きく輪を描きながら辺りを回る。その輪が数回に達した後、方向を見定めたのだろう。鳩は一直線に飛んで行く。 王都から見てほぼ西方向だ。
「‥‥早いや」
テュールは目で追うのがやっと。飛んで行く方角だけは確定した。
「くっ。人が邪魔だ」
人通りが多すぎて、セブンリーグブーツが有効に使えない。透明なため、向こうは構わず行く手を遮る。
結局、鳩の追尾に成功したのはゾーラクとイリアそしてリールの三人であった。
「こんな賢い使い方が出来るなんて‥‥尊敬しちゃいます」
お世辞抜きでイリアはそう行った。視界から消えて見失うたびに、時間を巻き戻して見るのである。効率よく魔法を繰り返し、馬は追跡して行った。それでも、一直線に飛ぶ鳩と、街道を通り迂回するアクエリナではかなりのロスがある。夕刻近くになり、まもなくフォルセだと言う頃に、漸く鳩の目的地を突き止めた。
「あれ? ここは‥‥」
ルキナスを拉致した奴らがフォルセを攻撃の拠点とした陣地跡。そこからほど近い森の入口。三人は馬を下り、身を潜め様子を探ると、粗末な建てられており、鳩の鳴く声が聞こえてきた。中には10人以上の人の声。
「リール君。敵がどれだけいるか判りません。子犬が巻き添えになっても困ります。全容を掴むためにも自重しましょう」
ゾーラクは剣に手を掛けるリールを制した。
すると、大きめの籠を抱いた手下らしき男が出てきた。
「まってろ。今家に帰してやるから」
どうやら誘拐された子犬らしい。対応を見る限り、根っからの悪人だとも言えない人の良さがある。
「うっ」
と、うめき声を上げてそいつは倒れた。今し方追いついたグレイのスタンアタックである。宝石を受け取っていながら子犬を殺すような極悪人ならば容赦はしないが、僅かでも善人であるならば、キチンとした裁きを受ける権利が存在する。
「子犬は確保した! おーいみんな遠慮なく叩きのめせ!」
逃げに掛かる誘拐犯を、イリアのアイスコフィンが捕らえた。
「んで? 知らないと申すのじゃな」
ヴェガ達の尋問を受けた男達は、犯行のいくつかを認めた。しかし、それはペット誘拐事件の1/3にも満たない。と、言うことは‥‥。
「なんかダルい事件だねえ。他にもこんな奴が居ることになる」
ルヴィアがマジ顔でため息を吐いた。
「恐らく、彼らの言う吟遊詩人が黒幕でしょう」
ゾーラクはパーストで覗いたシーンと、彼らの証言を元に、到着の1時間ほど前にあった状況を説明した。
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「‥‥違う。これでもない」
「また探してる物ではないのか? 吟遊詩人さん。本当にあるのか?」
「ある。光にかざすと花の姿が浮き出る宝石が‥‥。見ろ。本物ならば鏨を受け付けない」 キッと言う音がした。十数回音がして
「見事なもんだ。これで元の奴だとはばれねぇ。でも、こんな立派な宝石。また貰っていいのかい?」
「ああ。私には無用の物だ。邪魔したな。それはそっくりとっておけ」
「へっへっへっ。まいどありぃ。金貨を貰った上に宝石まで、本当にいいのか」
「所詮只の石だ。犬はウィルの近くで放して置け。愚かでなければ勝手に帰る」
小屋から出た男は、どう見ても吟遊詩人としか言えない格好である。繋いでいたライディングホースに跨ると、間道を滑るように北へ抜けて行った。
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「またしても吟遊詩人か‥‥」
アシュレーは遠い目。花の姿が浮かび出る宝石を、その吟遊詩人が探していると言うのだ。
「いったい何を企んでいるんでしょう」
テュールは難しい顔をして考え込んだ。