庶民の学校3〜学校はできたけど

■シリーズシナリオ


担当:マレーア3

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2007年04月11日

●オープニング

●色々あって
 これは、王都ウィルに庶民の学校を開き、庶民の子ども達を教育しようと欲する冒険者達の物語である。
 そもそもは先王エーガンの招賢令より始まった企てだが、冒険者達は平民街の倉庫を買い取って学び舎に改造し、不遇をかこっていた元騎士を教師として確保するところまで行き着いた。
 後援者のルルン商会とも、学校運営に関しての交渉が徐々に進む。
「では、学校の様子を見に行くとしますか」
 ルルン商会の会長は事業責任者であるエルフの老女を始め、関係者の冒険者一同を引き連れて学校へと足を運ぶ。
 折りしも学校ではここで働く仕事人の選抜が終ったところ。数ある応募者の中から選ばれた14人の仕事人達は、やはり学校事業に関わる天界人の医師から仕事の説明を受けていたが、
「あっ‥‥!」
 そのうちの一人が、ルルン商会会長の顔を見るなり顔色を変えた。
「おまえがなんでここにいる!?」
 会長も血相変えて怒鳴る。怒鳴られた男は走って逃げ出そうとしたが、すぐに冒険者が取り押さえた。
「何かやましい事でもしたのか?」
「お、お許しを! まさか会長様がここにいらっしゃるとは思いもしませんで!」
 男はひたすら会長に平身低頭。
「おまえの顔など見たくもない! さっさと出て行け!」
 男がすごすごと学校から出て行くと、会長は再び愛想のよい顔になって冒険者達に説明した。
「あの男はかつてルルン商会で会計の仕事を手伝っていましてな。金勘定は得意なのですが、信義に欠けたところがあり、過去に商会の金を着服するという悪さをしでかしたのですよ。事が露見して私は奴を商会から追い出したのですが、まさかこんな所で顔を会わせるとは」
 道理で。かつて商取引の仕事をしていたから、読み書き計算の能力による仕事人の選抜でいい成績を出したわけだ。しかし冒険者が課したこの審査では、応募者の信用度までは計れなかった。
 冒険者達にとっては失点だったが、この件に関して会長は寛容さを見せた。
「冒険者の皆様は外から来られた方々ゆえ、この地の事情に通じておられぬのは当然です」
 その代わり、会長は冒険者達に要望を出す。
「ともあれ学校が働き手として雇う者達については、再募集した方が宜しいですな。また今後、学校で働く人員の選抜については我がルルン商会に一任なされてはいかがでしょう? こと、人を見る目に関して我々は商売で鍛えていますからな。今回のような失敗などしなくて済むというものですよ」

●面会
 ここは王都に近いガンゾの町。酒場で騒ぎを起こして捕らえられた元騎士アージェン・ラークは、この町の牢獄に収監されていた。今、彼の目の前には面会に訪ねて来た妻のセリーナがいる。
「‥‥そうか、働き口が見つかりそうか」
 先に行われた仕事人の選抜試験で合格した14人の中には、セリーナも含まれていたのだ。冒険者達が開いた学校で働けそうだという話を聞き、アージェンは妻を元気づけるように笑顔を見せた。
「庶民の為に学校まで建てるとは、冒険者は金持ちらしいな。おまえと学校に竜と精霊のご加護があらんことを」
 そう呟いた後で、セリーナに頼む
「先王のお陰で身分と領地を失い、暮らしに困っている元騎士は大勢いる。できるなら彼らにも声をかけて、学校で働けるよう計らって欲しい」
 面会が終わって牢獄から外へ出る時に、セリーナは牢番に尋ねた。
「主人はいつここから出られますの?」
「さあな。全てはこの町の領主殿のお考え次第だ」
「どうしてこんなにも長く? 普通ならとっくに釈放になっているのに」
「判らぬのか? 今はウィルの国王が変わったばかりで、王国の何がどう変わるかもはっきりせぬ時期だ。こんな時に、先王に不満を持つ元騎士が余計な騒ぎを起こしてみろ。我等が領主殿にどんな不利益が及ぶか判らないではないか」
「信じて下さい。主人は決して‥‥」
 なおも懇願するセリーナの言葉を牢番は手で制し、
「さっさと帰れ」
 と、牢獄の出口を指した。

●思惑
 ここはルルン商会の商館。ルルン商会の会長と、その使用人が話をしている。
「冒険者達の話だと30人も生徒を募集するらしいですが、そんなに数は入りませんよ」
 と、使用人。
「気にすることはない。金を出すのは冒険者なのだ。30人のうちから優秀な者を5人も選べばいい」
 と、会長は答える。
「あ、成る程。生徒集めと教育は冒険者達に自腹でやらせて、生徒のうち優秀な者を商会に引っ張ってくるという訳ですね」
 使用人は納得顔で頷いた。
「そういうことだ。さて、そろそろ我が商会にも学校の担当者が必要だ。ということで、おまえに『学校付きの世話役』としての役目を与えよう。ルルン商会の儲けになる要、上手く取り計らってくれ」
「はっ! 必ずやお役に立ってみせます!」
 使用人改め、学校付きの世話役は会長に深々と一礼。そして会長は世話役に命じる。
「では早速だが仕事だ。商会のコネを使って大々的に宣伝を行い、学校の生徒を募集せよ。詳しい事は冒険者と相談の上でな」

●庶民の声
 今日も学校の前では世間話に興じる庶民達の姿がある。
「貧民街にカオスの魔物が出たんだってなぁ」
「物騒な世の中だねぇ」
「なぁに。魔物が出たって冒険者がいればへっちゃらさ」
「んだんだ。冒険者の作ってくれた学校もあることだし。ここの先生は元騎士様だって話だし。魔物が出たらこの学校に逃げ込めばいいべ」
「話は変わるけどなぁ‥‥」
 と、一人の男が言う。
「最近、うちの12歳のせがれが元気なくてなぁ。もしかしたら流行病にかかったのかもしれねぇ」
 すると別の男がこれに答え、
「噂に聞いた話だけどな。流行病にはワインが効くだったよ。何でもエーロンの王様が開いた治療院ではな、古いワイン使って病気を退治してるらしいだ」
 それを聞いて男は礼を言う。
「ありがてぇ! 今度、うちのせがれにも古いワインをたっぷり飲ませてみるべぇ。きっと病気が良くなるだ」
 ‥‥ちょっと待て。こいつら何か誤解してるぞ。

●総監室にて
 春うらら。机に向かい報告書に目を通していると、つい眠気が‥‥。
 どげしっ! 誰かに思いっきり背中をどつかれた。
「こらぁカイン! 寝てねぇで仕事しろい!」
 冒険者ギルド総監のカイン・グレイス相手にこんなタメ口利ける奴といえば、傭兵シフールのクーリンカしかいない。彼はカインの古い知り合いである。
「‥‥いけません、色々あって疲れていますね」
 ぼやきながら、再び報告書に目を通すカイン。
 すると、お手伝い人としてカインの側にいるリルが訊いた。
「学校、どうするの?」
「‥‥どうしましょう?」
 どげしっ! またもカインの背中をどつくクーリンカ。
「はっきり答えろ」
「学校ですが‥‥」
 続くカインの言葉は棒読み口調。
「先日。ジーザム陛下よりお言葉を賜りました。先王の認可を受けて冒険者が進めている事業については、総監の私がしっかり監督せよと。また、エーロン分国王陛下からは『俺ならあんな学校よりも、先にやらねばならぬ事をやる』とのお言葉を」
 エーロンは寧ろフオロ分国内の諸領地再建や、治療院による疫病の防止に力を入れている。
「で、どうするの?」
 再びリルに訊かれ、カインは答えた。
「私としてはこのままルルン商会に任せてもいいと思います。ですが折角、冒険者達が庶民と接し庶民の声を聞くための拠点が出来たのです。もう少し様子を見ることにしましょう」

●今回の参加者

 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4064 信者 福袋(31歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4460 篠崎 孝司(35歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●責任者去る
 突然な話だが、庶民の学校の提唱者であり事業責任者でもあるマルト・ミシェ(ea7511)は、事業から離れることになった。
「体力の限界というものじゃのぅ‥‥」
 とは本人の談。その件を報告するため、彼女は仲間の冒険者ともども総監室にカイン・グレイスを訪ねた。
「そうですか」
 カインは静かに報告を聞く。先王の頃よりこの学校事業に監督者としての立場で関わってきたカイン、マルトが離れることを残念がる思いもあるのだろうが、
「短い間でしたが、ご苦労様でした」
 と、マルトに笑顔を向けた。
「さて、次の事業責任者を選ばなければいけませんが‥‥」
 と言いつつ、カインは彼女に連れ添う冒険者の一人一人に目線を向ける。
「この中で責任者に立候補する方は?」
 その言葉に唯一人、意欲的な表情を見せたのはリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)。
「あなたが新しい責任者に?」
「書類作成や契約書のチェックなど、事務的なものはお引受け致します」
 問われてリュドミラはそう答え、カインは物足りなさそうな表情に。
「そうですか‥‥」
 マルトが言う。
「とりあえずの責任は総監殿に、責任者となる権利は学校依頼に入ったすべての冒険者に、ということでどうじゃろう?」
「しかし私は忙しい身です。責任者を引き継ぐべきは、やはり学校事業の隅々まで目を届けることが出来る冒険者。しかし今の時点で名乗りを上げる方がいないとなると‥‥どうしましょう?」
 ぽかっ! クーリンカが背後からカインの頭を小突く。
「うだうだ言ってねーでやる気出せよ、カイン」
 カインはため息一つ。そして皆に笑顔を向けて言う。
「まあ、この件はゆっくり考えて結論を出すとしましょう」
「まーったく、ものぐさ野郎だな」
 そう言うクーリンカにカインはにっこり笑って付け足す。
「基本的に私はものぐさな人間ですから」

●元騎士の復権
 総監室での話は続く。マルトには総監と相談すべき事があった。
「元騎士のアージェン氏のことじゃが、自費から保釈金を払うことで彼をなんとか引き取れないかのぅ? それと、彼を含めた元騎士の人たちのプライドを傷つけることなく、どうやったら新しい生活を送らせる事が出来るか、色々と思案しておるのじゃが。ウィルの国王が代わったのだから、復権の道も開かれるやもしれぬ。アージェン氏の件がその一歩となれば良いとも思うが。ただ教員として学校で雇うにしても、許容人数というものがあからのぅ。全員はとても‥‥」
 それまでのほほんとしていたカインは表情を引き締めた。
「過去には罪を犯した少年に対して、冒険者が入命金を払ってその身柄を預かった例があります」
 嘘つき少年ククスの件だ。かなり以前の話だが、記憶している冒険者も少なくはなかろう。
「これは先王陛下がお認めになった例であり、ウィルにおいては一つの規範となっています。アージェン殿が収監されているのはワザン男爵領にあるガンゾの町の牢獄ですが、保釈金持参の上で男爵と交渉するならば、保釈は十分に有り得ると私は考えます。‥‥そうですね、私からも男爵に一筆啓上するとしましょう。元騎士の全てを学校で引き受ける事は出来ないにしても、まずは出来るところから」
「で、私からも」
 と、信者福袋(eb4064)が口を挟む。
「先王にリストラされた元騎士さん達を受け入れるにあたり、反乱分子と疑われないための方策として、『学校内を非武装中立にする』という校則を付け加えるのはいかがでしょう?」
「?」
 その言葉を聞いてカインは怪訝そうに眉根を寄せ、しばし福袋の意見を頭の中で噛み砕き、彼の言わんとする事を理解した。
「ああ、元騎士についてはウィンターフォルセ事変のこともあるし、勝手に武装して王国に反旗を翻す物騒な連中というイメージがあるようですね」
 ここで、リュドミラが言い添える。
「確かにそういう元騎士も一部にはいます。ですが私の聞いたところによれば、元騎士の大部分は先王による理不尽な仕打ちを運命として受け入れ、その日その日を黙々と生きている者ばかりなのです。勿論、騎士身分を失った以上、元騎士には武器を携帯する権利はありません」
 続いてリュドミラはカインに訊ねる。
「元騎士達の誇りを損ねない形で、学校とは別の働き口はありませんでしょうか?」
 カインは答えた。
「単に日々の糧を得る為なら、王都とその近隣に関してなら働き口は少なくありませんよ。荷運びに雑用に汚れ仕事、しかし‥‥」
「そういう仕事では元騎士の誇りを満たせず、復権にも繋がりませんね」
「そうなのです。やはり元騎士には庶民の上に立ち、庶民を支え導く仕事が一番。その点で庶民の学校は元騎士にとってうってつけの仕事場でしょうね」
 ふと、リュドミラは思い当たる。
「エーロン陛下の治療院はどうでしょう?」
「確かにあの仕事も、元騎士向きとは言えますね。問題はフオロ王家に対する元騎士の悪感情ですが。今度、エーロン陛下とお会いした時に相談しておきましょうか」
 ここで福袋から再度の質問。
「ところで‥‥例えば悪徳商人などが摘発された際に、トップの首を飛ばした上で、商会組織そのものは浄化して冒険者の運営の元に再スタート‥‥なんて事は可能でしょうか? それができればルルン商会に代わるスポンサー兼就職斡旋口として、冒険者自身が学校を掌握できるのですが」
 カインは笑った。
「おや? ルルン商会が何か問題でも?」
「いいえ、ルルン商会の会長が悪徳商人という訳ではないのですが。ただ、色々と口出しが五月蠅いので」
「ですが資金を出しているのは冒険者だし、学校に関する決定権を握っているのも冒険者のはずですよ」
「それもそうですが‥‥一体いつからこんな事になっちゃったんでしょうねぇ?」
「私もそれが不思議ですが」
 カインは暫く考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「今度の学校事業責任者には、押しが強くてズバズバ物を言える人に就いてもらうのが一番です」
 福袋、ついでにもう一言。
「なにはともあれ、どれだけ職にあぶれた元騎士さんがいて、どれだけつぶしが利く人たちなのか調べてみないと」
 するとカインが言う。
「実は、王都とその近隣については調べ始めています。現在、判っているだけでも、元騎士とその家族が約50名。彼らの事については後でゆっくりと相談しましょう」

●校医のお仕事
 程なくして、マルトの計らいでアージェン・ラークは自由の身になった。ガンゾの町の領主は現金と言うか、ギルドに預けた学校運営資金の中から100Gを保釈金として支払うと、ワザン男爵はアージェンを釈放してその身柄をマルトに預けたのである。
 そして、アージェンは学校に連れて来られた。
「保釈金じゃが、あのお金は施しではなく、給料の前借りと考えて欲しい」
「それじゃ、ここで一生ただ働きか? ‥‥いや、保釈金を払ってくれた事には感謝するが」
 とか言いながらも、アージェンは釈然としない様子。
 まずは校医の篠崎孝司(eb4460)が、アージェンに対して『学校という物』の説明を行う。
「僕の故郷では『民あっての国』という認識だ。下を支える大多数があってこそ、少数の上は安定できる」
「それはウィルも同じだ。もっとも先王エーガンはそうは思っていなかったようだが」
「判っているとは思うが、今の国王はエーガンではない。ウィルの国王がジーザムに、フオロ分国王がエーロンに変わってから、政治はだいぶマシになった。但し、迂闊な言動は国に対する叛意と取られる可能性がある。その事には十分に気をつかって欲しい」
「判っている。こちらも牢屋にぶち込まれるのにはこりごりだ」
 そんな話をしていると、
「お医者様! せがれを助けてくだせぇ!」
 顔色変えて飛び込んで来たのは、学校のご近所に住む親爺。
「病気のせがれに古いワインをたっぷり飲ませたら、今にも死にそうですだぁ!」
 説明を中断し、アージェンは親爺の家へ急ぐ。親爺の息子である12歳の少年は顔面蒼白、意識不明で虫の息。
「急性アルコール中毒か!」
 人工呼吸を施しつつ、仲間に1Gを持たせてエチゴヤに毒消しを買いに行かせ、その毒消しを飲ませて事なきを得た。
「で、何で未成年に酒なんか飲ませた?」
「その‥‥病気に効くと聞いたもので‥‥」
 見ればご近所の人々が何ごとかと集まり、家の中を覗き込んでいる。
 孝司は彼らにも聞こえるよう、しっかりと親爺に言ってやった。
「『効く』という言葉を鵜呑みにしないでもらいたい。薬にも水薬、丸薬、塗り薬などがある。なんでも飲めば良いと言う訳ではない。物によっては死を招くぞ!」
「‥‥へ、へぃ」
「僕の故郷の格言だ。『薬も過ぎれば毒となる』とな」

●町医者
 少年が回復すると、孝司は診察してみたが。
「感冒だな。但し、この子は栄養状態が悪くて抵抗力に乏しいから、それが症状を酷くしている」
 それを聞いてリュドミラが提案した。
「治療院副院長でもある町医者ランゲルハンセルさんに相談して、薬草と町医者の手配を頼んでみては如何でしょうか?」
 リュドミラはかつて、治療院絡みの依頼に参加したことがある。
 まずは先方の都合を伺おうと、リュドミラは町医者ランゲルハンセルの診療所を訪ねた。
「話は判った。しかしすぐに返事は出せないな。学校への町医者の派遣については、学校の新しい責任者が決まってからもう一度相談に来るがいい」
 それが、リュドミラの話を聞いた町医者の返事。
「ところで、例の少年だが‥‥」
 ランゲルハンセルは部屋の棚に並ぶ瓶の一つを取り、中からリュドミラの求める薬草を取り出した。
「これを煎じて飲ませれば、回復も早まろう。しかし肝心なのは毎度の食事をおろそかにさせず、しっかり栄養を取らせることだな」

●ルルン商会
「そうですか。元騎士のアージェン殿が学校の教師に。これでラーク一家、家族全員が水入らずで過ごせるというもので、目出度いことです」
 信者福袋との打ち合わせの席。ルルン商会の世話役はアージェンが釈放されて教職に就いたことを笑顔で祝福する。彼の本音はともかくとして。
 そして話は本題に。福袋は提案する。
「働き手の採用選抜については、教務の面からも私達が品定めしないといけない部分がありますから、ルルン商会と我々と半々で評価する形式にしましょう」
「そうですね。それが妥当でしょう」
「それと、天界では貧乏で勉強が困難な者の為に、授業料や生活費を出資する奨学金という制度があります。商会へ採用された人には商会から授業料を返納する、というのはいかがでしょう? そういった教育費用のためにこちらも出資者を募ったわけですし」
「え〜、それについては会長と相談してみませんと。それより新しい責任者を早いとこ決めて頂かないことには‥‥」
 その日のルルン商会との打ち合わせは、可もなく不可もなくといったところ。話が本格的に動き出すのは、新しい学校の責任者が決まってからだ。

●別れ
《ペットに関する告知》
・ペットは『荷運び用』および『常識の範囲内の愛玩用』以外は学校裏手につなぐこと。
・危険生物は強制的に冒険者街住処へ。

「これでよし」
 学校の入口に告知文を掲げ、マルトは満足そうに微笑んだ。以前には告知文を書き記して張り出した羊皮紙が盗まれたりもしたので、今回からは木の板に書いて張り出すことにした。
「これで、私の仕事は終わりじゃ。皆、世話になったのぉ」
 振り向き、仲間達に別れの言葉を告げる。すると、
「いいえ、まだ一つやり残した事があります」
 リュドミラにそう言われ、
「ささ、こちらへ」
 信者福袋に手を引かれ、マルトは訳も分からず校舎の中へ。
「おお、これは‥‥!」
 教室はお別れパーティーの会場に一変していた。冒険者達がマルトに内緒で準備していたのだ。一つ所に寄せられた机の上には、アージェンの妻のセリーナが手ずから作った料理が並ぶ。
 7人の子ども達を連れたルルン商会の世話役が出迎えた。
「ご老公様、おめでとうございます。あちこちに声をかけて、7人の生徒が集まりましたよ。いや〜、お別れ会に間にあって良かった良かった」
 子ども達も一斉に言葉を贈る。
「マルト先生! 素敵な学校をありがとう!」
 思わずマルトは目を細め、にっこり笑った。
「みんな、よく来てくれたのぅ。これから一生懸命、頑張るのじゃぞ」
 校医の篠崎孝司もマルトの耳元で一言。
「健康には十分気をつけることだ」
 彼なりの祝福であった。