伝説の一族1〜英雄と呼ばれた男
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月21日〜03月26日
リプレイ公開日:2006年03月25日
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●オープニング
其処は、とても平穏で穏やかであると噂される町『ファーストローゼ』‥‥。しかし、その町の住民はとても悩まされていた。最近では、町の外でモンスターが暴れ出し行商、農作物にも被害が出ている。更には盗賊どもが金目のものを狙って暴れる毎日。
そんな現状を見かねて、一人の老人が立ち上がった。体系に似合わず、がっちりと重そうな鎧。歩く度に地響きがしそうなぐらいである。
その老人は、盗賊どもの塒へと堂々と姿を見せる。
「おい、なんだあれは!?」
「なんだぁ!? ありゃ、爺じゃねぇか!?」
侵入者がいると騒ぎ立て、100人の弓を構えた盗賊達が口々にそう言う。そんな中、その老人はこう叫びをあげた。
「聞けィ、小童ども! 我輩こそはレズナー大王につかえし騎士! 正義の騎士、バラン・サーガじゃ! 悪い事は言わん。無駄な抵抗は止めて投降せい!」
「なんだぁ、あの爺? この人数にたった一人で勝てると思うなよ! かまわねぇ、やっちまえ!」
合図と同時に一斉に放たれる無数の矢。体を斜め角度にくねらせ、宙を舞う。盗賊どもの目には、矢が通過しているかのようにも見えるだろう。
そんな老人を見て驚いている盗賊のすきをつき、背負っていた弓を構え盗賊どもを射抜き始める老人。そして、着地すると同時に腰にさしてあるサンソードを抜くと近くにあった岩を一撃で粉砕してみせる。
「ひぃ‥‥っ!?」
「これでもまだ投降せんのか!? 情けで容赦はしてやっているが、これ以上やるというのならば遠慮はせんぞい!」
‥‥こうして、盗賊達は観念し自警団に差し出された。一晩でその老人の噂は町中を広まり、一時期は英雄扱いされていた。
そう、一時期は‥‥。
『はぁ‥‥』
あれから数ヶ月が経っていた。町長宅に集まった住民達は皆深刻そうに溜息をついた。
「本当にどうするの、あの人‥‥?」
「悪い人ではないんだよな。それは分かってるんだが‥‥」
『どう考えてもあれはやりすぎだろう‥‥!』
町人達が頭を抱えてる事。それは、数ヶ月前英雄と呼ばれた老人のことだった。あの事件以来、老人はこの町に住み着き町人を守る為といっては自分が怪しいと思った人物を即捕獲。尋問して騒ぎを起こしてちょっとしたはた迷惑を蒙っているのだ。
勿論、今まで怪しいと思って捕獲した人物は皆他の町からの行商だったりするのだが‥‥。
「何時までもこのままにしておくわけにはいかないわよね‥‥私としては、あまりどうこうしたくないのだけれど」
「しかし、これじゃあこの町は寂れてしまうぞ!?」
「町長、どうします?」
「仕方ない。ここは冒険者の方々に依頼し、引き取って貰おう‥‥」
「しかし、冒険者達でも真実を知れば断るかも‥‥!」
「バラン殿には世界各国にいる悪党どもの被害を伝えれば何とか出来よう。しかし、冒険者は‥‥」
町長が困っていると、一人の若い娘がいい案が出たのかポンッと手を叩いた。
「そうよ! 今の若い人達を騎士として旅をして悪党をこらしめつつ育成してくださるようバランさんに頼んで、冒険者達にはバランさんの旅の護衛を頼めばいいんだわ!」
結果。娘の言うように依頼を出す事となった。
そして、町人達の心の言葉は皆一つ。
『ちょっとはた迷惑なご老人を町の外に輸出する事をお許しください‥‥っ!』
冒険者は、真の依頼の意味を最初は知る事はないだろう。
この老人と出会ってから意味を理解する事になるだろう。
そして。
この老人が『伝説の英雄』と呼ばれた意味も。
●リプレイ本文
●怪しい依頼
「一体どういう事なんだ? ギルドの仕事でここまでキナ臭い依頼者というのは」
ファーストローゼへと向かう道のりの途中。ランディ・マクファーレン(ea1702)がそうぼやく。
どうやら他の冒険者も少しキナ臭いと思っているようだ。
「まぁまぁ‥‥。ファーストローゼに着いたら聞いてみればいいじゃないか、ランディさん」
「そうなんだが‥‥果たして素直に答えてくれるかどうかだな‥‥」
「何を言ってるんです!? 街の人の声を疑うだなんて‥‥嗚呼、バラン卿が聞いたらお嘆きになりますッ!」
一人やる気になっている、というかバランの武勇伝に感化されている、というか。
エリーシャ・メロウ(eb4333)が疑いを持っているランディにめっとする。
「‥‥どうやらこっちも先が思いやられるな‥‥」
こうして、ファーストローゼへの旅路は続いて行く‥‥。
●村人vs冒険者?
ファーストローゼ。其処に到着したのは、お昼を過ぎた頃だっただろうか。
街の人達がせわしなく働いている姿が見える。
冒険者達は、ここでグループをわけ老人に接触する者と情報収集する者とで分かれ、老人の所で落ちあう事を約束して離れた。
「本当に、大丈夫なのでしょうか‥‥」
「依頼の真意を聞くだけだ、影響はさほどないだろう?」
「とりあえず、其処の人に聞いてみようか」
アレス・メルリード(ea0454)が指差した先には炉辺会議をしている街の女達。
三人は彼女達に近づくと、「すいません」と声をかけた。
「なんだい?」
「依頼内容の偽装となれば時に依頼を受ける側の命取りにもなる以上、黙って見過ごす訳には行かないんだが‥‥どう言う事か、説明願えるか」
「率直過ぎますよ。‥‥すみません、私達老人の護衛の依頼を受けまして‥‥」
「あぁ、あれかい? あの依頼に‥‥う、嘘偽りはな、ないわよ?」
あからさまに様子が変わった。そう見る三人だが、町の人は真意などはないと言い張る。
本当にただの護衛依頼なんだろうか‥‥?
「大体、アンタ達冒険者なんでしょ? 私達依頼人を疑うだなんて‥‥そっ、そんな事しちゃいけないと思うなっ!」
「しかし、私達は‥‥」
「いいから速くあの老人の所へ行ってヨ! そうすれば依頼内容にも納得出来るんだからっ!」
そう言いきると街の女達はいそいそと別の場所へと移動してしまった。
「‥‥困ったな。怪しいのに、話してくれそうにない‥‥」
「むぅ‥‥これは本当に受けてしまうべき、なのか‥‥?」
「も、もう受けちゃってますけどね‥‥」
ティラ・アスヴォルト(eb4561)がそう言うと、男2人は大きく溜息をつくのであった。
●老人ぱわー
「ここにあのバラン卿がいらっしゃる‥‥!」
皆より速く挨拶に! と思っていたエリーシャは、一人老人の家の前で立ちすくんでいた。
彼女は騎士学校でも彼の武勇伝を聞かされている。吟遊詩人の話などでも聞いている。
そんな為か、彼女の中での老人はとてつもなく伝説の人! なのである。
「嗚呼‥‥今やっとあのバラン卿のお傍にいられるのですね‥‥! はっ、こんな事している場合ではありません! 早く挨拶をせねばッ!」
「‥‥おぬし、何をやっとるのじゃ? ほれ、早く入るぞ」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)の言葉によって、彼女が入るのは団体、という形になってしまった。
「む? 何方かな? わしに何の用があって参られた?」
「あ、貴方様がバラン卿ですね!? 私、トルク家に仕える騎士、ジーザム陛下に忠誠を誓いし者、エリーシャ・メロウと申します! この度、バラン卿と旅を共にさせて頂きます!」
「英雄バラン・サーガ…確かにどこかで聞いた記憶が」
小声でぼやくシャルロット・プラン(eb4219)。素早く頭の回転を切り替えて口を開く。
「既に卿もご存知のことと思いますが、新しい兵器ゴーレムの開発、天界人の招来と我が国、否世界中の国という国が大きく変わろうとしております」当然、人々も範を示すべき騎士道も変容していく。彼らには『騎士の中の騎士』なる卿と見聞を広めることでその模索に試みてもらうつもりであり自分は、それを見届ける心積もりであります」
「ふむ。よい心積もりじゃ。だがな、見届けるだけではいかん! 困っている時は手を差し伸べてこそじゃ! いいか、騎士という者は強きを挫き、弱きを助けるものなのじゃ!」
「‥‥え、えーと‥‥依頼書とかなり違うようじゃ、なぁ‥‥?」
「ヴェガさん、そう言っても仕方ないですから。それでバランさん、目的地についてなのですが‥‥」
「目的地!? 悪がいる所になら何時でも何処でも赴く! それが騎士というものである! よもや主ら‥‥行きたくないとは言わぬな?」
老人の目がまるで光るかの如くギラーンとショウゴ・クレナイ(ea8247)を睨む。
滅相もない。そう付け足して首を横に振る。ここで彼に目をつけられてはいけない、と思ったのだろう。
「私はバルディッシュ・ドゴールという者、今回の旅の護衛を仰せつかりました至らぬ身なれど旅の従者としてお供する事をお許しください」
「そのような堅苦しい挨拶はいらぬ! と、いいたい所ではあるが騎士として初対面の者には礼儀を。という教えには反しておらんな‥‥結構じゃ」
「それで、旅の為の馬車を用意するか、お伺いしようかと思いまして」
「馬車などいらん! 騎士とは輝く鎧を纏い、己の紋章を掲げて馬で遍歴するものじゃ、それが騎士の習いというものぞ!」
バルディッシュ・ドゴール(ea5243)も、その言葉に結構唖然としている様子だった。
この老人、英雄と呼ばれた男バラン・サーガ。ここまでのものだったとは、といった感じである。
「して、ご老体? 仕事は何時からだ?」
馬上から鐙を外してコロス・ロフキシモ(ea9515)が尋ねると、バランはコロスの目をじっと見やる。
やはり冒険者とはこのような者達ばかりなのか? と考えているのだろうか。
「この俺を怪しむのは勝手だが、俺が悪党ではなかった時の責任はどうする? 土下座でもして謝ってくれるのか?」
「お主の性根を試させて貰う。剣を交えよう。剣には人品が現れる。悪党ならば悪党の邪気が出ると言うものだ」
やにわにバランは剣を抜き、来いと言った。挑まれて臆するコロスでは無い。
「剣よりも槍だ。愛馬ゴリアテでお相手しよう」
言って鐙に足を掛ける。
「ほほう。今時床しい振る舞いじゃ。騎士学校とてやらが出来て以来、戦の駆け引きこそ上手くなったが、戦場の作法もままならぬひよっこが増えおった。じゃがお主は違うの」
老人とは思えない身軽さで馬に乗る。
「では、参るか。行くぞタウロス!」
馬に積んだランスを取り小脇に挟むと、輪乗りに回してコロスを向く。二人は拍車を掛けて突進。二つのランスが交叉して、互いの盾にブチ当たる。ランスがたわんで、制止した。馬も互角ならば人も互角。双方その場で踏み堪えた。
「やるなお主」
「ご老体もな」
交わす言葉は少ないけれど、互いに互いを認めた瞬間。バランはコロスに経緯を表して兜を脱いだ。
「旅は明日からじゃ。今日は初顔合わせというもの、いきなり旅では合わんじゃろうて?」
「かおすにあんというものを討伐するのだな? 何とも勇ましい」
「‥‥むっ!」
ローシュ・フラーム(ea3446)が話していると、バランは外の様子に気がついた。
先程手分けの為にわかれた冒険者達。その別のグループ‥‥つまりランディ達が街の人に事情を聞いているのを見てしまったのだ。
怪しい奴! と判断するとバランは老人とは思えない猛速度で外へと走っていってしまった。
「まずいですね‥‥どうやら狙いはランディさん達みたいですよ!」
「わしらも追いかけるのじゃ!」
「バラン卿の為にも仲間だとお教えしなくてはッ!」
冒険者達も急いでバランの後を追ったのである。
「どうするか‥‥」
「待てぇい、其処の怪しい奴!」
「な、なんだっ!? 砂煙‥‥?」
アレスが目をこらしてその方角を見ていると、隣を何かが猛スピードで走り抜けていった。
そして後ろでゴキャア! という音がする。男の「ぐぇ!」といった声も聞こえた。
恐る恐る振り向いてみると、其処にはランディに足固めをくらわしている老人の姿が。
まさか‥‥彼が? と思っていると、他の冒険者も加わり、それは確定のものとなった。
「ちょ‥‥! くるしっ‥‥足だけじゃなくて首にも入ってる、入ってる‥‥ッ!」
「ええい、黙れ悪党! 町の人を困らせようとしておったではないか! みるからに怪しいッ!」
「違います、バラン卿! その人も私達の仲間ですッ!」
エリーシャの説得により、ランディは何とか一命を取りとめたようであった。
(「本当にこんな老人と一緒に旅をして‥‥体、もつのかな‥‥?」)
そんな事を心配するショウゴ。
「旅の目的地はおって連絡するのでな! そうさな、とりあえず王都ウィルまでいくかの」
「ウィル、ですか。私達の帰り道ですし、護衛にもなりますね」
「全員ウサギ飛びでウィルまで行くのじゃ!」
『はぁ!?』
「何事も鍛錬じゃ。わしに着いてこい」
完全武装のまま、ウサギ飛びを始めるバラン。愛馬タウロスは大人しくそのあとを着いて行く。おお、彼にとっては重い鎧も普段着のようなものであるのだろう。信じられない光景を目にしつつ、冒険者達は仕方なしにつきあう羽目になった。
「はぁ〜。やっと出立なされた。これで平和が戻ってくる」
町の一同は涙を流しバランを見送る。どうか帰ってこないで欲しい。そんな願いを込めながら。
町からいくらも離れ無いうちに、先ずか弱いヴェガがへたり込んだ。ティラが倒れ、シャルロットが崩れ、エリーシャが脱落し、バラン始め元気な者がそれを背負ってウサギ跳びを続ける。やがて、体力の限界を持ち前の精神力で辛うじて超えていたショウゴの、意識が朦朧となった頃。
「日も暮れかかって居るな。今日はここで泊まりとしよう」
息一つ乱しもしないパランが立ち上がった。
●来し方と行く末
枯れ枝や枯れ草を集めた焚き火。まだ肌寒い春の宵を、炎が焦がす保存食。馬に水と塩を遣り、陽精霊の名残火を空に見る。
ショウゴやバルディッシュに問われるままに昔を語るバランの声。静かに長く響いていた。
「わが旧領タインは先代様より賜った領地でな。ウィエの守りの備えであった。掘りを掘り、土を積み上げ、怠りなく堅固な守りを固め。村童を鍛えて石合戦などを催し、来るなら来いと備えておった」
ウィエは中立国であるチの国を後背に持つ分国である。チのククエス分国から輸入される塩の利権を一手に握って勢力を伸ばしてきた。
「ウィエがフォロ領を攻める場合、後を気にせずに済むのでな。ほぼ全軍を以て襲いかかることが出来る。数字の上の兵力など当てにしていると寝首を掻かれるぞ」
それなのに。と、バランは言う。領地の者は一向にウィエへの備えが必要なことを理解しない。一朝事あれば、ウィエの馬蹄に踏みにじられる運命だと言うのに‥‥。
「愚かしいことだ。トルクの備えであるルーケイの代官は、住民の暴動で殺されたと聞く。まこと愚民どもは度し難い。いったい誰が仕組んだことやら」
「ジーザム陛下はそんな方ではありません!」
主君を奸物扱いされてエリーシャは怒った。
「輿望主君を凌ぐは、それだけで奸と言える。彼が立たずとも周りが黙っていまい」
天に二つの日は照らず。ランディは故国の歴史を思い出す。ウィルの国情はフランクに似ている。かつて、フランク全地を覆った戦雲は諸国の介入を招き、長くフランクの政治に影を落とした。奇しくもウィルも六分国。
「そんなにこの国は危ういのですか?」
アレスの問いにバランは頷く。ウィルは分国王の互選により国王が決まる国である。それは、一見民主的で良さそうに思えるが、実は外国の干渉を受けやすいため危ういのだ。
「わしがタインを返上したのは、若に強い王であって貰いたいためじゃ。若はウィルをエの国のような一枚岩にしたいと考えて居る」
若とはエーガンの謂いである。
「だが若は急ぎすぎた。謀反の芽が、あちらこちらに見え隠れするわ。フォロ家の天下もいつまで続くやら‥‥」
寂しげに、お仕舞いの方は呟き声でバランは笑う。
「せんない愚痴を言ってしまったな。天界人殿」
冒険者の大多数を占める異世界からの来訪者に、バランは頭を下げる。天界人は救世主であると言う言い伝えが、彼の心にも深く刻まれていた故である。
「だが、若の御世に天界人が現れたのは幸運であった。政治的な背景を持たないお主らなら、若も心を開いてくださるはずだ」
「私達も家門を背負っているからな」
ティラが呟きエリーシャが頷く。累代の君臣契約により生き方を変えれぬ者も多いのだ。
因みに。主命に従い『戦場にて正々堂々と挑んで』国王の首を打ち落とした場合。勇者と称賛されこそすれ、フォロ家の者とて非難は出来ない。騎士は主君の剣なれば、剣自身に罪は無いからだ。個人的な遺恨は持たれるだろうが、恨みを晴らす相手は主君の一族なのである。それが騎士道と言うものだ。
「これからどちらへ参られるのじゃ?」
やっと元気を取り戻したヴェガが訊ねる。
「バラン殿。手始めに何処へ参りましょうぞ? 真に王都の世直しか?」
まるで心を見透かされたような問い掛けに、寂しそうにバランは
「若は‥‥わしを必要とされては居らぬ。じゃがフオロ領は数々の潜在的な敵に狙われているのじゃ。フオロ家の行く末安泰を願っている諸侯など一人も居らぬ。トルクはゴーレムの利権を手に輿望を集め、ウィエは好き有れば蚕食せんと伺っておる。若の事業が失敗すればそれで良し、救民の旗を掲げて攻め寄せて来るわ。また、首尾良く成功するとしても、それは5分国の勢力が衰える事。そうならぬうちに裏であくどい手を打って来るは必定。若の周りにいた老臣は、若の志を危うしとして諌言。しくじって退けられた。先代の御代には心服していた者どもも、扱いにくいので遠ざけられ‥‥。今や若の周りに、若に勝る見識の持ち主は居らぬ」
髀肉の嘆を語る。
表の事情を知り、いろいろと予定を立てていた冒険者達は、裏の事情を知って言葉を失った。バランと言う男。決して内政に昏(くら)い訳ではない。見識はある。少なくとも軍事においては。しかし、よく説明できる者は、必ずしもよく実行できない。
バルディッシュは自分も無骨者故、老人の気持ちは良くわかった。彼のような者は、彼を使いこなす人物に恵まれねば不遇を託つのだ。
「ならば、今一度功名を上げ、発言力を取り戻されては如何かな? 例えば‥‥先のフラル家による討伐で打ち損じたオーグラの更なる追討など」
ローシュの言にバランは呻く。
「わしは、領地返上の代償に往来勝手の権を得た。おぬし等がわしと共にあるならば、今一度立とう」
有無を言わせぬ迫力で、バランは決意を告げた。