伝説の一族3〜悪党を討て!後編
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月29日〜05月04日
リプレイ公開日:2006年05月06日
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●オープニング
その日、ウィエにある町ブランクブルグと東側の街道との境で騒ぎがあった。
「あんた、無茶もたいがいにしなって! 一人で何ができるっていうんだ!」
「心意気は嬉しいけど、それであんたが無残な姿で戻るようなことがあったら、寝覚めが悪ぃや」
「その上やつらきっと言いがかりをつけて襲撃に来るぜ!」
「とにかく、老いぼれ一人でどうこうできる問題じゃ‥‥ぐはぁ!」
「あいたっ、いてぇ! 暴れるな‥‥イタタタタッ」
「うわー! ジジイが癇癪起こしたぞっ」
「ぎゃー抜刀しやがった!」
「あんたのためを思って言って‥‥こっちに刃物を向けるなー!」
「網だ! 網で捕まえろっ」
「囲め囲めー!」
軽症者約20名ですんだのは奇跡に等しい。無謀な老鎧武者も、頭に血が上っていたとはいえ、本来の敵と見誤ったりはしなかったというわけだ。
町の、いや多くの人々の食卓を救うために立ち上がった彼の名はバラン・サーガ。
何故か逆に町の住民に取り押さえられているが、それはもちろん彼が無謀な行動に出ようとしていたからに他ならない。
ベーゼルハイドでの塩の価格高騰の原因が、ウィエの賊の仕業と知ったバランは矢のようにその田舎町を飛び出した。国境を越えブランクブルグへ入るなり賊について聞き込み、出没地点を知ると休む間もなく突撃しようとしたのだ。
目立つバランはたちまち町中に存在が知れ渡り、住人達はたった一人で約30人もの賊を討とうとする彼を止めに集まったというわけだ。
もっとも純粋にバランの身を案じていたわけではない。
何度も賊に痛めつけられた町の人々は、できるかぎり彼らを刺激したくなかったのだ。
被害を最低限に止めておきたいために、食料の乏しい時でも賊の言うなりになって提供した。女を寄越せと言うなら差し出した。下手に逆らえば町は賊共に蹂躙され滅びてしまうからだ。
他所からやって来たわけのわからない老人に滅茶苦茶にされるわけにはいかなかった。
取り押さえられたバランは納屋へ監禁された。
しばらくは怒鳴り散らしていたバランだったが、やがて大人しくなると町長と思われる者がやって来た。
バランと同じくらいの年齢の彼は言う。
「なぁアンタ。確かに賊共がいなくなったらどれほど嬉しいだろう。そんな日が来たらわしらは一生アンタに感謝し続けるだろう。でもね、一人で突っ込むのを止めないわけにはいかないんだよ。この町の事情はもう知ってるだろう? もし‥‥もしも、二度と賊が襲ってこないような策があるというなら聞かせてくれ。わしらが納得できる策なら、惜しまず協力しよう」
賊の恐ろしさは骨身に染みているが、そこから抜け出せるならその希望にすがってみたいと彼は言うのだ。いつまでも恐怖と理不尽に支配されていたくない、と。
バランは眉間に深いシワを刻み、うなった。
●リプレイ本文
●賊情報を集めよ
ブランクブルグに入った冒険者達は、出迎えた町長へ挨拶をすませると、納戸に閉じ込められているバランへ面会を求めた。町長立会いのもと、無事面会は果たすことができた。前回同様、不貞腐れたような顔だ。
アレス・メルリード(ea0454)は大人しくしている今のうちに、と自分達の作戦を話して聞かせた。バランは重々しく頷くと、あっさりと受け入れる。まずは賊に関する詳細情報の収集からである。
ローランド・ドゥルムシャイト(eb3175)は後をついていた町長へ振り返った。
「では、町長さんの知るかぎりでいいので、賊のことを教えてよ」
町長は冒険者達を自宅へ招き、話をすることにした。
そんな一行を遠くから見守る旅のエルフが一人。シャルロット・プラン(eb4219)だ。
彼女は一足先にブランクブルグ入りし、後からやって来る仲間達とバランの動きに反応する者がいないか観察をしていた。町に潜んでいるかもしれない賊との内通者がいないか改めるためだ。見た限りでは不審者はいなかったが、まだ油断はできない。シャルロットは仲間達から目をそらすと、独自に情報収集にとりかかった。
その頃町長宅では。
「西門を出た街道をしばらく行くと岩場に出ます。要求されたものの受け渡しは、いつもそこで行われるのです。賊のアジトについてはそれ以上はわかりませんが、街道をさらに進んで枝道に入ったところにある廃屋ではないか、という噂があります。女達は‥‥誰一人帰ってきた者はおりません。どうなってしまったのか‥‥」
町長は辛そうに顔を覆う。
「ここの街道は大商人や物資の輸送などに使う大事な道です。襲われた商人も大勢おりましょう‥‥」
すっかり落ち込んでしまった町長の背を、アレスが優しくなでた。
「俺達が何とかするから、元気出してくれ」
その言葉に町長は顔を上げ、かすかに笑顔らしきものをみせた。
町の住人から直接話を聞くために町長宅を後にする冒険者達。見送りに出た町長へアレスが今後のことを話している間、ティラ・アスヴォルト(eb4561)はさりげなく周囲に気を配っていた。理由はシャルロットと同じである。
最後に、夜営地点の確認をすると、
「では、後でな」
コロス・ロフキシモ(ea9515)が短く言って町中へ消えて行く。
「僕も行ってきます」
ショウゴ・クレナイ(ea8247)はミミクリーで鷲に変化し、賊のアジトがあると思われる地点目指して飛び立っていった。
●作戦を立てよ
町から少し離れたところに冒険者達の夜営地点。夕暮れに集まった彼らは、それぞれの情報をつき合わせ細かい作戦会議に入る。ここには町長とバランもいた。バランの姿を見るなり、ヴェガ・キュアノス(ea7463)とエリーシャ・メロウ(eb4333)が駆け寄り、再会を喜ぶ。日中かけて集めた情報から作戦を練り、頭に叩き込むのだ。
いったん野営地を出た町長が戻ってくると、ローシュ・フラーム(ea3446)は彼から封書を受け取り、しっかりと懐にしまい込む。
「お手間を取らせましたな。では、わしとクリオで領主を訪問してくるとしよう。できる限り早く戻るよう努力するが、それまでの間頼んだぞ」
見た目はいかつく威圧的なローシュだが、生真面目なその瞳に町長は頷きを返した。そして視線をクリオ・スパリュダース(ea5678)へ移し、お願い致しますと頭を下げる。
「賊が報復対象に私達を狙うという確信はないから、見張りを絶やさないようにね。何かあったらすぐに門を閉めて補強できるように重しでも用意するといいと思う。あと、その時は狼煙でも上げて私達に知らせてくれれば、すぐに駆け付けるから」
「はい。町の者もきっと説得してみせます。今の状態から脱したい気持ちは皆持っているのですから、納得してくれるはずです」
「うん。それから、バラン閣下」
呼ばれたバランがクリオの前に出る。
「閣下には町に残って頂いて、もしもの時は力を奮ってほしいのですが‥‥」
「あんたの武勇伝でも前面に押し出せば、町長の説得の力になるだろう」
ローシュも言い添えた。
「よかろう。万が一の時は命に代えても町と住人を守ろう。しかし、あの一件で町の人々はわしを信用しておらんかもな」
納戸監禁の原因となった騒ぎのことである。
エリーシャが遠慮がちに言った。
「その、僭越ではございますが、民に剣を向けたことは謝罪すべきではないかと‥‥」
「‥‥そうじゃな。よくぞ申した」
「いいえ、これでバラン卿は町を救った英雄として語り継がれることでしょう!」
パッと顔を輝かせるエリーシャと、町の守護に燃える老騎士。何となく拭いきれない不安を抱きつつも、ローシュとクリオはブランクブルグの現状の訴えと賊討伐の許可を得るため、町長直筆の書状を携えて出発。最も、町長が全ての責任を負う覚悟で賊討伐は実行に移すのだが。何度も窮状を訴えたにも関わらず、いっこうに援助の手を差し伸べてくれない領主。冒険者達が勤労奉仕に来てくれたこのチャンスを逃す気はさらさらなかったのだ。
●挑発せよ
未明、賊のアジトを発見して戻ってきたショウゴが今日にも行商人一行を襲う計画があることを告げた。
「好都合じゃ。一気に殲滅してくれる」
闘志の炎を燃やすバランをなだめつつ、アレスが作戦の確認を取る。バランが町へ入るのはこの後だ。町長はすでに戻り、民の説得にあたっている。そこにバランがいては話が込み入るだろう、との配慮だった。
ショウゴに案内され、賊と行商人が現れるのをだいぶ離れた岩陰や茂みに身を潜めて待つ冒険者達。やがて五、六台の荷馬車と屈強な護衛を付けた行商人が小さく見えた。あれが賊の標的だろう。
思った瞬間、どこからともなく風体の悪い男達がそこかしこから現れ、行商人を取り囲む。死傷者を出してはならない、と冒険者達も飛び出した。当然、先頭切って飛び出したのはバランだ。
「不埒者どもめ、そこへ直れい! そっ首切り落としてくれるわ!」
「切り落としちゃダメですっ」
全力で追うショウゴ。
この戦闘の目的は賊の捕獲と挑発にある。二度とこの近辺に現れないようにするためにも、賊の詳細を知るためにもどうしても捕虜が欲しいのだ。冒険者達の目的はバランから賊を守ることに変わりつつあった。
「フ。全滅させられる前に捕まえればいいだろう」
槍からチェーンホイップに持ち替えたコロスが抑揚なく言い、ゴリアテを引き出して跨ると一気に駆け出す。
残された者達は嫌な予感がし、急いで後を追った。賊に襲撃されたはずの行商人は、突然現れた老騎士を呆気にとられて眺めていた。
まさに鬼神。行商人の護衛達も武器を構えたまま固まっている。
そんな彼らにヴェガがそっと声をかけた。
「今のうちに逃げるのじゃ。わしが援護する故」
と、本来はバランに施すはずだったホーリーフィールドをかけ、道を指した。
我に返った行商人は礼を言い、護衛達をまとめて戦場を抜け出していく。
気付いた賊が追いかけようとしたが、そこにはバランを追ってきたアレスとエリーシャが立ちふさがった。
二人を振り返り、バランが怒鳴る。
「その者共を切り伏せい!」
エリーシャは彼を落ち着かせるため、賊の脇をすり抜けバランの横に立ち
「バラン卿、ここはもう良いでしょう。次の作戦への移行時です。町へ戻りましょう」
「何を言うか! 敵に背を向けろと言うつもりか!」
「そうではありません。本当の意味で賊を討伐するためです」
二人が言い合いをしている間に、コロスは賊を一人確保していた。
その他命を拾った賊達はすでに逃げ腰になっている。それを目ざとく見つけたバランは、エリーシャを押しのけ声を発した。
「去るなら去れ、腰抜け共め! そして頭に伝えよ! 二度とこの地を荒らせばいつでもわしが相手になるとな! おぬしらなど鼻息で相手してやるわ!」
その後さんざん罵倒して、最後にバランは冒険者達の野営地の場所を明かしたのだった。
賊達はいつの時代も変わらぬ詰まらない捨てゼリフを残して消え失せる。まだ戦闘の臭いの残るそこで、憮然としたままバランが言った。
「‥‥これで良かったのか?」
エリーシャは頷き、微笑んだ。
「では、あとはこいつだな」
底冷えのするような目でロープで拘束した賊を見下ろすコロス。ショウゴはふたたび鳥に変化し、逃げ去った賊を追って行く。
●討伐せよ
日が暮れて少し過ぎた頃、賊のアジトを探るショウゴと野営地のローランドとはテレパシーで会話をしていた。
「今夜、賊がここを襲撃に来るって。それと連れ去られていた町の女の人達だけど、数人しかいないみたいだよ。他の人達がどうなったのかはわからないらしい」
コロスがちらりと捕えた賊に目をやる。賊は怯えた悲鳴を短くあげ、震える声で答えた。
「もうとっくに売り飛ばしちまったよっ。どこへ行ったかなんざ知らねぇ」
よほど恐ろしい目にあったのだろう。もはや抗う気はないようだった。
ショウゴからと賊に吐かせた情報によると、アジトにしている廃屋そのものには何の仕掛けもない。昔は貴族が住んでいた屋敷だったそうだ。女達は一番奥まった部屋に押し込められているという。近くに小川が流れており、水はそこから供給されている。
「それで、武器もたっぷりあると」
どんな武器を操るかなどを聞き出した結果、アレスがそう結論付けた。変に頭脳的ではない分、余計な詮索をする必要はなさそうだが、手加減などないだろうからこちらも気を引き締めていかないと思わぬ怪我を負うことになってしまうかもしれない。
冒険者達は二手に分かれ、行動を開始する。
ちなみに賊は猿ぐつわを噛まされ、テントの隅に縛られていた。
今、賊が出発した。人数およそ20。との報告をローランドがショウゴから受け取ったのはいつ頃だったか。賊をさらにおびきよせるため、わざと明かりを灯し宴を開いているように見せかけ、待ち伏せていると、賊はすっかり油断し雄叫びを上げ武器を打ち鳴らして襲い掛かってきた。
すかさずヴェガがホーリーフィールドで仲間達に守りの壁を作る。賊が矢を放ってくれば、その間隙を縫ってローランドがムーンアローで応酬する。勢いづいて突進してきた者へは、アレスが剣で直接切り結んだ。
賊20人に対し、こちらはわずか3人だが何度も死線を潜り抜けてきた彼らは頼りない篝火の中でも落ち着いて対応していた。ここで賊を引き付けておかないと、アジトを叩く仲間達が不利になってしまうのだ。アレスも手加減をするつもりはないが、無理にトドメを刺すよりも動けなくすることに重点を置いて剣を振るう。
幸い賊の中に魔法を使える者はおらず、ヴェガがコアギュレイトで拘束している間にアレスの剣やローランドのムーンアローで賊を叩き伏せていくことができた。
とはいえ、やたらタフで一度倒れてもしばらくすれば立ち上がって向かってくる様はアンデットのようだ。
「やつらの防具には何らかの魔法が施されておるのやも」
ヴェガの呟きに頷くローランド。魔法の効き具合が緩いと感じたのだろう。前面で戦うアレスには負担を強いてしまうかもしれないが、二人は精一杯援護した。
静寂が戻った頃、三人共言葉も出ないほど息が乱れていたが、運良く重傷は負わなかった。ヴェガのリカバーで充分な程度だ。倒れている賊の人数を数えると22人。絶命している者もかなりいたが息のある者は数珠繋ぎにしておいた。
一方アジト襲撃組は。
コロスとティラが静かに、しかし閃光のように突撃したため、賊達は町の女達を人質にする間もなく混乱状態に陥った。頭目の一喝ですぐに統制を取り戻したものの、すでに遅く反撃しようとした頃にはコロスのギルゴートが彼の呼びかけに応じ窓を打ち破って乱入してきた。コロスも騎乗である。
ティラもウィンディに乗り突撃し、愛馬の角にチャージングを施してもらい次から次へと賊へ突進するものだから、賊としてはたまったものではない。
室内にも関わらず動物達が存分に暴れて賊が恐慌状態になっている隙に、シャルロットは待っていたショウゴと共に囚われていた女達を救い出したのだった。
二人が女達をアジトから充分離れたところまで連れ出すと、今度はアジトの徹底的破壊である。二度と利用されないよう、微塵になるまで打ち壊す。なおも逃げようとする賊にはギルゴートが容赦なく鋭爪を振り下ろす。
死体も生体も数えると10人。
「他、散っている手下はいるか?」
答えるとは思っていないものの、聞いてみるティラ。すると頭目は薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「そういやブランクブルグにお使いを頼んどいったけなぁ。今頃立派に果たしてることだろうよ。クククッ」
当然、彼は冒険者達の驚愕する顔が見たくて言ったのだ。そしてそれはその通りになったのだが、冒険者達の気がかりは全く違うところにあった。
「弱者、死すべし‥‥か」
コロスがぽつりともらした。
●英雄たれ
夜明けと共にローシュとクリオが領主とその兵達と共にブランクブルグに戻ってきた。町長の挨拶もそこそこに突然領主が詫びの言葉を告げる。
領主には賊のことはいっさい耳に入っていなかったのだという。それというのも、彼を支える貴族達のうちの一派が町長の訴えをもみ消していたからだ。したがって、賊の影響で塩の値が異常に高騰し、それによって一部の貴族が私服を肥やしていたことも知らなかった。その貴族と賊の間には何の取り引きもされていなかったが、お互いいい思いをしていたというわけだ。
今後彼は身辺の貴族達を改め、街道には定期的に兵を見回りに送ると誓った。さらに捕えた賊の処分については、吟味の上ふさわしい刑を与えると言って全員引き取っていった。
ところで、昨夜町の守備についていたバランだが、冒険者達が駆けつけた頃には無体を働こうとした賊を捕まえ、さらに独断と偏見による不審者を捕まえては縛り付けて転がし‥‥と止める者がいない分、存分にやらかしたという話だった。
町長の説得により、冒険者の作戦に一応の納得を見せていた住人達だったが、まさかこんなことになるとは思わず、賊に襲われるよりも恐ろしい一夜を過ごしたとか。
シャルロットはそれを利用し、『盗賊キラー』バランとして英雄譚をまいた。恐怖の一夜は多分、盗賊キラーバランと10人の仲間達として、英雄だか悪魔だかわからない話として語り継がれる事に成るであろう。