チャンスだピンチだ1〜この人本当に‥‥
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:10人
サポート参加人数:8人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2006年03月31日
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●オープニング
ウィルの周辺に、小さくもなく大きくもないひっそりとした町がある。以前は地図絵師という生業の者達で賑わっていたのだが、今やその影も形もなくなっていた。そんな町にある一つの酒場のマスターからの依頼だ。
「地図絵師って知ってるか? この世界の地図を描くっていう立派な絵師仕事さ」
「はぁ‥‥。その地図絵師がどうかなさったのですか?」
尋ねるギルド員。少し考えただけで頭を抱える酒場のマスター。どうやら余程苦労しているようだ。
「俺達の町、ウィンターフォルセはかつて地図絵師ギルドがあってね‥‥」
「地図絵師という人は見ませんからね‥‥戦乱の時代にはそれなりの勢力を持っていましたが、今では稀な職業ですね」
「そうだ。しかし、一人だけ今もあの町にいる地図絵師がいるんだ」
酒場のマスターの言葉に、目を丸くさせるギルド員。珍しい人がいたものだ。そんな目で見ているのだろう。
「それで、依頼は‥‥」
「依頼は其処なんだ!その地図絵師をどうにかして真人間にしてほしいわけだ!!」
「へ?それは、どういう‥‥?」
「以前までは凄腕の地図絵師だったんだが、今や‥‥堕落してしまってな‥‥」
「その堕落した人をまともにしろっていうことですか?」
「そうだ!年は25の青年でだな‥‥」
(「そ、その若さで‥‥堕落?」)
「それでいてナイス害だ」
「はい?」
更に目を丸くするギルド員。
つまりだ。地図絵師をやっていた青年が堕落し、ナンパ魔と化した。その青年をまっとうな人間に戻してくれ、というのが今回の依頼らしい。
「どうして、それを冒険者ギルドに‥‥?」
「俺達も散々手をつくしたんだが、もう手遅れでな‥‥どうやっても女がいないとダメになってしまったらしく‥‥」
「‥‥」
「挙句に、町の評判も今や『ナンパ師の町』と名づけられ‥‥」
「あー‥‥」
聞いたことあるかも。という表情で声を出すギルド員。
「あの男たった一人でここまで来るとは俺達ももう‥‥」
「とにかく、依頼の話は分かりました。では、その青年の名前を教えてくださいな」
「自称『さすらいのナンパ師』ルキナス、だ」
「‥‥自称、ですか?」
「全てのナンパをことごとく失敗させとるからな‥‥。人呼んで『さすらいのフラレー』あるいは『さすらいのヘタレー』などと云われている」
こうして頭の痛い依頼というか、とんでもない依頼がこのギルドに舞い込んだのだった。
●リプレイ本文
●ナンパ師の町と呼ばないで
冒険者達の集う冒険者ギルドで、ギルド員に話しかける男がいた。
「地図絵師のことなんだけど‥‥」
と、マイケル・クリーブランド(eb4141)が声をかけたのは、先日ウィンターフォルセの酒場のマスターからナイス害の依頼を受け付けたギルド員だった。同行者のルイス・マリスカル(ea3063)と共に、わざわざ他のギルド員に尋ねて探し当てたのだ。
「はい、どうしました?」
ギルド員はにこやかに対応する。
「ここで雇ったりはしないのか? 冒険に地図って必要だろ? 地図絵師の仕事が少ないらしいから、ギルドでその仕事を作ってやれないかなって思って。あるいは地図を欲している領主でもよいのですが。そうでなければ、一般販売許可が下りれば仕事も増えるのではないかと思うのです」
続けたルイスの案も合わせて、ギルド員は難しい表情で考え込んだ。
「まぁ、そこんとこ、ギルドの偉い人に聞いておいてくれよ」
「そうですね、今お返事はできませんので。伝えておきますね」
マイケルとルイスは、先にウィンターフォルセへ向かっている仲間を追った。
ちょうどウィンターフォルセに着いた頃、華岡紅子(eb4412)とベルディエッド・ウォーアーム(ea8226)の元にシフール便が届けられた。今回の依頼のことで知りたいことを先に調べておいてくれた仲間からだ。
問題の人物に会う前に、冒険者達は手紙の内容を確認しあった。
そして彼らは何とも気まずそうに顔を見合わせたのだった。どんな報告だったかは、おいおいわかるだろう。
しかし行動しなければどんな結果も出ない。
ティアイエル・エルトファーム(ea0324)はルキナスを探すため町を歩き始めた。まず向かうのは井戸端好きな女達のところだ。
明るく愛想良く声をかけると、その風貌から冒険者と察した女達も愛想良くティアイエルに応えた。そこで早速ルキナスについて尋ねると。女達は親しみのこもった苦笑でもって教えてくれた。
「何て言うか、どうしようもないろくでなしだけど、何故か憎めないんだよねぇ」
「そういえば、またこの前フラレてたじゃない。あの角のおばあさん」
「この前は、揺り篭の中の娘に声かけてたよ」
「真面目にやってた頃はほとんど家にいなかったくらいなのに。男達が出稼ぎであんまり帰らないのをいいことに‥‥」
女達はそのうちティアイエルの存在を忘れて噂話に熱中しはじめた。
「あ、あの‥‥」
口を挟んだティアイエルに、女達は一斉に注目し、真剣な目でこう言った。
「お嬢さんも気をつけるんだよ。まぁ本気で口説くのは人間だけだから、エルフのあんたはまあまあ安全‥‥かな。嫌がる相手にはそれ以上何もしてこないし。あ、それと、世間ではこの町をナンパ師の町なんて言ってるようだけど、やめておくれよ。恥ずかしいったら‥‥」
まくしたてる井戸端主婦達に気圧され、ティアイエルは辛うじてルキナスがよく出入りする店を聞いてその場を後にした。
女達の話はベルディエッドに見せてもらった手紙と一致する。さらに地図絵師は絵師と言われているわりには世間一般の絵師とは違い、とても低く見られているとあったが、ルキナスに関する限りそれ以前の問題だということがわかった。
その後ティアイエルは、教えてもらった店を巡り
「女の子が探していたよ」
と花を一輪添えてマスターに伝言を残していったのだった。
●街角のフラレー
店を巡り終えたティアイエルはディーナ・ヘイワード(eb4209)に呼び止められた。
「朗報! 物凄い早さで引っかかったよ」
とても楽しそうに言ってきた。ディーナはティアイエルの手を掴むと、ぐいぐい引っ張っる。連れて行かれたのはメイン通りの、店と店の間の路地入口だった。
確かに見目麗しい青年。そこに五歳くらいの女の子が体当たりするようにルキナスの足にしがみついた。会話は聞こえてこないが、とても楽しそうだ。が、よく見れば双方の目がマジだった。とても近所のお兄ちゃんと幼子という雰囲気ではない。
「あれ、本気で恋を語ってるよね‥‥」
「守備範囲広すぎ‥‥」
ディーナとティアイエルは首を傾げたが、ルキナスが女の子と別れたところで接触を試みた。挨拶ついでに少しの間世間話をしてわかったことは、確かにこの男は悪い印象は与えないということだった。何よりもまず褒めてくるので、そうされて悪い気のする女性はあまりいないだろう。
「ティオさん、素敵なお誘いありがとう。こういうのは初めてだよ」
「あれ、どうしてあたしの名前を?」
「君と話をしたという人が教えてくれたんだ」
井戸端の女達だろう。
「そっか。ところで‥‥地図絵師ってことは、町全体を把握しているってことなのかな? だったら案内してほしいんだけど‥‥ダメ?」
ティアイエルはわざと甘えるように上目遣いで見つめた。ルキナスに否やがあるわけもなく、即答で引き受けた。
「それじゃ、何かと人の集まる中央広場から行こう」
こうして二人はルキナスに町を案内されることになった。
歩きながらディーナが聞いた。
「聞いてもいいかな? お金も入る、話題性もそれなりにある、顔もいいと‥‥。で、何故そこからこうなるのかな」
「‥‥どうしてそんなことを聞きたいんだか。まぁいいけど。地図絵師の世間の認識は知ってるかな。手間ひまかけて作るわりに、扱いは酷いもんだよ。あんなの一生続けてたら化石になるね。どうせ生きるなら彩りのある人生がいいだろ」
この辺のことも手紙の報告にあった。どんなに正確な地図を作っても、それに見合う報酬を得られない。この仕事だけでは生きていけないのだ。かと言って副業を始めても、いったん地図絵師の仕事に取り掛かればそちらに手が回らなくなる。これでは生活が成り立たない。おまけに職業としての地位も低い。
「ふぅん。でも一度くらいどんなふうに地図書くのか見てみたいなぁ。‥‥お願い♪」
「あたしも見たいな〜」
「いいけど、見てもつまらないよ」
そう言いつつもルキナスの表情に一瞬、二人と話していた時とは違う表情が浮かぶ。
10メートルくらい歩くと、ふとルキナスは足を止めた。
「そういや紙もペンもないや。これじゃどうしようもないな。ごめんごめん」
と、悪びれもせず笑ったのだった。
このほんの10メートルでわかったことは、彼の歩みは歩幅も速度も一定であるということだった。おそらく訓練されたもので、こうして正確な地図を作っていくのだろう。
中央広場に着くと、クウェル・グッドウェザー(ea0447)がティアイエルとディーナに手を振ってきた。
ディーナが仲間だと紹介すると、クウェルは丁寧に挨拶をした。ルキナスもにこやかに自己紹介をする。と、その時怒りの形相の若い女がルキナスを猛然と怒鳴りつけてきた。
「何なのよこの娘達は! デレデレしちゃって! 昨日あたしに言った言葉は嘘だったの!? もうアンタとはオシマイよ!」
置き土産とばかり強烈なビンタを張る。頬を押さえながらルキナスは女を追った。
「ちょっ、待てってば。誤解だよ。昨日言ったことは本気‥‥」
「うるさい! もうアンタは過去の男なのよ! 近寄らないでっ」
ドレスの裾をひるがえしハイキック。過激な女である。情けない声で女の名を叫びつつも、ルキナスはそれ以上追わなかった。
それからしばらく、彼のナンパ癖を止めにきたはずの三人は、ひどい落ち込み様の彼を慰めるはめになったのだった。
●飛ばないで
その頃スニア・ロランド(ea5929)は仲間達と別れ、礼服に着替えて薄化粧。領主の館へ向かっていた。簡単に挨拶をすませ、スニアがこれからの世の中の動きに地図絵師の力が必要になり、そのために彼らを養成するのはきっと領主の利益に繋がると説明した後、堕落した地図絵師へのショック療法としてロック鳥使用の許可が欲しいと話した。
「ろ、ロック鳥‥‥」
しばらくして立ち直ると難しい顔で言った。
「君を疑うわけではないが、万が一怒って暴れるようなことがあっては大惨事になりかねない」
「ロック鳥と私の間には信頼関係があります。そのようなことには‥‥」
「君が高名な冒険者だということは理解した。‥‥ここまでの費用は支払おう。いや、侮辱と受け取らないでくれ」
領主の態度は始終丁寧なものだったが、冒険者というものに少し警戒心を抱いてしまったようだった。
さすがに落胆を隠し切れずに通りを歩いているスニアへ、声をかけてくる者がいた。
「そんなに憂いに満ちてどうしたんだい? もっとも、そんな顔も素敵だが」
ちょっと前まで不幸のどん底だったはずのルキナスだ。彼がそうかと気付いたスニアは何やら妙に腹が立ってきて
「その程度でナンパ師を名乗るなど片腹痛い。せめてこの薔薇に負けない輝きを得てから名乗りなさい」
と、麗しき薔薇を掲げてみせ、さっさと踵を返して去っていった。その後ろ姿を見送るルキナスは
「いい‥‥」
とか何とか呟いて見惚れていたという。
●ナイス害更生計画
翌日、ルキナスが出かける前に自宅へ踏み込んだ冒険者達は、逃げられないように窓や扉付近に陣取り、すっかり包囲してしまった。戸惑うルキナスの前にタイラス・ビントゥ(eb4135)が腕組みして立ちふさがる。
「ルキナス殿、座禅を組んでみましょう。こうやって足を組んで瞑想するのです」
「痛い痛いっ、あ、ちょっと、足の筋が切れるっ」
「切れません。心を落ち着けてください」
「ああっ、助けて綺麗なお姉さん!」
ルキナスが助けを求めたのは紅子とジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)だ。
しかし二人は笑顔で
「がんばって」
とハートを飛ばしただけだった。が、彼にはこれで充分。とたんに従順に。
「一刻の間、やってみましょう。約二時間です」
「やってられっかぁ!」
組まされた足を解き、逃げ出そうとするルキナス。その肩をルイスが掴んで引き止めた。
「待ちなさい。どこへ行くつもりですか。いいですか、人を愛するのはセーラ様より賜りし人間の性。全ての女性へ愛を捧げんとするあなたの心意気、素晴らしい! ただし、です。正しき『ラヴ』は自分も相手も周りの人間も幸福にするもの。あなたの『ラヴ』にはそれが欠けています!」
一気にまくしたてるルイスの迫力に、ルキナスもとっさに言葉が出ない。それをいいことにルイスはさらに続ける。
「相手を幸せにするには、己の研鑽をし、出来る男でなければならない。あなたはルックスもいいし、地図絵師の仕事復帰すべきです。そして地図絵師として名を成せば、自分も村も汚名を返上できます。さらに各地を巡る中で新たな出会いもあり一石二鳥」
「新たな出会いはともかく、仕事はやる気になれないな」
不貞腐れたようなため息をつくルキナス。地図絵師の待遇についてはディーナ達から報告を受けている。最初に見た手紙の中にあった、ルキナスが貴族や領主からの依頼を断っている理由がこれだ。そして元々の性格が災いし、最近ではナンパをしない日はないとか。
「でもねルキナスさん、恋人のいる方やすでに結婚している方にまで声をかけるというのは、やりすぎではないですか」
静かな口調で諌めるクウェルへ、ルキナスは困ったふうな微笑をもらす。
「好きになってしまうんだから、仕方ないだろ」
「そうですか。ルキナスさんは何故、地図絵師になりたいと思われたのですか?」
「さぁね」
「言いずらいことがあるならコレで話すか? 他の誰にも聞こえないぞ」
これは気を利かせたベルディエッドのテレパシーである。だがこれにもルキナスは首を振り、心の中で返した。
「言いずらいのではなく、言いたくないんだ。悪いね」
ベルディエッド達を信用していないのではなく、ルキナス本人の問題であるかのような声だった。
「どんな職も良い事づくしじゃないさ」
と、肩をすくめるベルディエッド。すると紅子がゆっくりとルキナスに近づき、すぐ側に膝をついて身を寄せた。そして耳元で囁くように言う。
「ねぇ、私にも教えてくれないの?」
何とも色っぽい。たいていの男ならふと心が緩んでしまいそうだ。ルキナスなどイチコロである。彼は正座で紅子に向き直ると、図々しく彼女の手を握り締め、話し出した。
「なったのはほとんど偶然なんだ。悪いことばっかしてた頃、たまたま絡んだ相手が地図絵師だった。仲間とさんざんど突きまわして散らばった沢山の地図を見た時、何故か惹かれたんだ」
「それで地図絵師になったのね。もしかして、その時絡んだ人がお師匠さん?」
「そうだよ。もう亡くなったけどね。すごいお人好しで、あんなに酷いことしたのに許してくれて、弟子にまでしてくれたんだ。今でも尊敬してる」
「そのお師匠様はご自分の仕事に誇りを持っていたから、同じ職を目指そうとするあなたを許したのかもね。‥‥地図絵師が嫌になったのなら、別の仕事を始めるという手もあるわよ」
紅子と並んで膝を折ったジャクリーンがこう勧めてみる。
「別の仕事ねぇ‥‥それよりも、君に興味があるんだけど」
と、今度はジャクリーンの手を取った。ジャクリーンの笑顔にヒビが入る。紅子は高速詠唱ヒートハンドをかけた右手を彼の膝のすぐ前についた。
「私をないがしろにするなんて、傷ついちゃうわ」
ブスブスと黒煙を上げる床板に、ルキナスは青ざめる。が、すぐに立ち直り、
「それじゃ、三人で散歩にでも行こうか。今日はいい天気だよ。でも、君達二人が外に出たら、春の陽気も恥ずかしがってしまうかもしれないね」
どこまでも調子の良いことを言い出す。タイラスは悔し涙を流した。
「父上、僕修行が足りません‥‥。いや、負けません! 自分を鍛えるためにも町の周りを走ってきます! カツドンカツドンカツドン‥‥!」
謎のお経を唱えつつ、タイラスは扉を蹴破るようにして飛び出して行く。純粋な少年が飛び出した後の部屋で、さりげなくルキナスから手を外したジャクリーンが話を元に戻した。
「もし仕事を再開する気になったのなら、友人がシフール達の受け入れ先を探しているの。良かったら考えてみてもらえるかしら。郵便配達に詳細な地図があると助かるのよ」
「うーん、気が乗らないなぁ」
「まあまあ、あんまり仕事仕事とせっつかなくても‥‥」
と、間に入ったマイケルだが、突然彼は正座して両手をついた。
「俺にナンパの極意を教えてください!」
驚いたのはルキナスだけではない。衝撃の沈黙の後、ルキナスが優しくマイケルの肩に手を置いた。
「頑張ろう。いつかきっと、この胸の本気に応えてくれる女性が現れるはずだ」
「はい!」
手を取り合って師弟の決意を交わす二人。依頼者がこれを見たら卒倒間違いなしだろう。