チャンスだピンチだ2〜ナンパ師を駆逐せよ

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2006年04月23日

●オープニング

 冒険者ギルドの依頼受け付け係の前に、一人の男が立った。きちんとした身なりをしていることから、それなりに資産のある人物なのかもしれない。しかし、男の放つ気配は厳しく、険しい目元は周囲をはばかるように落ち着きなく揺れていた。あまり雰囲気の良い男ではない。年の頃は60歳くらいだろうか。
 不審に思いながらも係員はその男に用件を尋ねた。
「実は、消して欲しい人物がいる」
 低く早口で言われた言葉を理解するのにしばし時間のかかった係員。やがて彼は戸惑ったように告げた。
「あの、ここは暗殺請負業ではないのですが‥‥」
「そ、そうか。では、せめて町から追い出して二度と近づけないようにしてほしいのだが」
「はぁ、あの、詳しくお話していただけますか?」
 男が話したのはこんな内容だった。
 最近叔母に妙な男がつきまとっているという。それだけなら構わないのだが、叔母は町でも有名な資産家で、問題の男は言葉巧みに叔母に接近し、その財産を狙っているようなのだという。彼女の息子夫婦や孫達はすでに他界。身内と言えるのは甥であるこの男と息子の娘夫婦の残した一人の曾孫だけだという。叔母は90歳という高齢でおまけに認知症である。問題の男が出入りするようになってから、不思議と認知症が回復したというが、それでも騙される可能性はいくらでもある。
「おおごとにはしたくないのだ。手遅れになる前に、どうか‥‥」
 その叔母から見れば甥にあたるその男は、受け付け係の前にずっしりと金貨のつまった袋を置いた。

 雰囲気の悪いその男が去ったしばらく後、こんな場所には似つかわしくない可愛らしい少女が一人、不安げに入ってきた。ただの町娘ではなく、どこかのお金持ちの家の子のようだ。
 まだ5歳ほどの少女は、精一杯背伸びをして受け付け係に訴える。
「お兄ちゃんを助けてほしいの。あたし、聞いちゃったの。早くしないとお兄ちゃん、いじめられちゃうの」
 受け付け係が苦労して少女から聞きだした話はこうだ。
 曾祖母と一緒に暮らす少女の家には、たまに曾祖母の甥が出入りする。ある日、その甥が少女の大好きなお兄ちゃんとやらに悪いことをしようとしていることを、聞いてしまったというのだ。
「おじちゃんは怖い人なの。おばあちゃんのこと睨むの。お兄ちゃんのことも睨むの。お兄ちゃんが家を乗っ取ろうとしているって言うの」
 そして少女は衝撃的なことを最後に言った。
「あたしとお兄ちゃんは将来を誓い合った仲なのっ。そのお兄ちゃんが、おじちゃんが言うような悪い人なわけないのっ」
 幼な子とあなどるなかれ。少女の目は真剣そのもの、まさに恋する女のものだ。少女は全身全霊を駆けて『お兄ちゃん』は潔白だと信じているのだった。
 受け付け係はその迫力に気圧されていた。

 少女が帰った後、受け付け係は頭を抱えて同僚に相談した。
「この場合、報酬表示はどうしたらいいんだ?」
「うーん、現金か女の子の笑顔か‥‥か?」
 立て続けに来た二人の依頼人が指す人物の名はルキナス。町の名はウィンターフォルセ。
「まぁ、どっちにつくかは冒険者しだいだろ。しかし、あの甥御さんの話が本当なら最悪のヤロウだな」
「でもさぁ、なんか陰険な感じだったよな」
 二人の受け付け係はしばらくおしゃべりに興じた。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4135 タイラス・ビントゥ(19歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4141 マイケル・クリーブランド(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4209 ディーナ・ヘイワード(25歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4375 エデン・アフナ・ワルヤ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●町のそこかしこにて
 マイケル・クリーブランド(eb4141)は、まず冒険者ギルドへ足を向ける。
「よぅ、前に会った時の返事を聞きに来たんだが」
 彼を待っていた係員は言いにくそうに伝えた。
「現在冒険者ギルドは国王の信頼と監視の下に運営されているんです。ですから、私共が独自に活動すると余計な疑惑を招く可能性があります。万が一、その地図が原因で問題が発生した時は、最悪ギルドの取り潰しと犯罪者の烙印が待っているという事態になってしまうので‥‥ご期待に沿えませんでした」
 マイケルは、落胆している係員の背中を労うように叩くとギルドを後にし、もう一つの目的地、酒場へ歩き出した。酒場といっても昼間は軽食も出している店だ。
 マイケルはマスターへ最初にナイス害更生失敗を詫びた。それから本題に入る。
「老い先短いばぁさんから財産を取ろうなんてヤツとは思えないがなぁ。擁護する気はないがね。ああ、まったくないともっ」
 気が昂ぶったのか、マスターの声が大きくなる。深呼吸の後、彼は続けた。
「ベアリング家はこの町でも有数の資産家だよ。一族のトップがエディスさん、そのばぁさんだ。そこの甥御さんがコンラッドというんだが‥‥。この前も何とかって品を密輸したとかしないとか、どっかの孤児を売ったとか買ったとか‥‥」
 マスターは今回もナイス害のために奔走するマイケルのため、ワインを一杯差し出した。それからふと、思案顔になって呟く。
「あのエルフの嬢ちゃんは大丈夫かな」

 酒場のマスターづてに手紙でもってルキナスを呼んでもらったティアイエル・エルトファーム(ea0324)は、やって来た地図絵師と並んで歩きながら質問攻めにしていた。
「ルキナスさんはここで生まれ育ったの?」
「いいや、ウィルだよ。師匠がここに家を持っていたからね。今の自宅だけど」
「他の土地に移る気はないの?」
「ないよ。けっこう気に入ってるんだ、この町」
 ティアイエルは筆記用具を取り出すと、足を止めてルキナスの正面に回りこんだ。
「あたし、まだウィルの街の一部と限られた場所しかわからないの。だから地図があったら今後のためにも凄く助かるんだけど‥‥ダメかな? やっぱり‥‥」
 新緑の瞳を上目遣いにおねだりするティアイエル。
 珍しく困ったような顔をする地図絵師の手を取り、ティアイエルは一歩接近する。
「あの、もちろん報酬のほうは‥‥」
 だが、そこで詰まる。あらかじめ調べた地図絵師への一般報酬額は、とても彼女の払いきれる金額ではなかったからだ。
「一応、依頼‥‥なんだ?」
「う、うん‥‥」
「高いよ?」
「‥‥」
「今日の服も、かわいいね。その服で本当に花を売ったらきっとすぐに完売だね」
 引き受けてはもらえないようだった。

 その頃、ディーナ・ヘイワード(eb4209)と麻津名ゆかり(eb3770)は依頼人の一人である少女、セシリーと会っていた。中央広場にあるベンチに座る三人。
 ディーナはまず、少女と打ち解けるために彼女の大好きなナイス害の話題から接近した。その結果、前回この町に来た時に彼と話していたのが彼女であったことが判明した。
「あのお兄さんと将来を誓い合ったって聞いたけど、いくつになったらとか聞かれた?」
「えっと‥‥その年になったら迎えに来てくれるって‥‥」
 例えば貴族なら生まれてすぐ婚約という話もある。実際の結婚も十歳を越えたらありえなくもないだろう。仮に五年後、まだルキナスが独り身でセシリーが彼との結婚を本気で思っていたら、きっと迎えに来るだろう。
 それから他愛のない話でセシリーが二人に慣れた頃、ゆかりが声をひそめて聞いた。
「セシリーちゃんのご両親は、どうして亡くなってしまったのでしょうか?」
「事故だよ。お仕事の帰りに、事故で‥‥」
 ふと両親を思い出したのか、少女の言葉が詰まる。
 ディーナは優しく少女を抱き寄せた。

 やはりその頃、クウェル・グッドウェザー(ea0447)はもう一人の依頼人コンラッドの屋敷を訪れていた。
 さっそくナイス害駆除計画について尋ねるコンラッドに、クウェルははやんわりと問い返した。
「追い出すにしても理由や口実が必要です。そこでお尋ねしたいことがあります」
 クウェルはコンラッド自身のことと、叔母の最近の変化について尋ねた。
 コンラッドは主に牧場や農場の経営を行っているとのことだった。
「叔母は、だいぶ前から耄碌していた。一族のトップは叔母だが、唯一の跡継ぎはまだ五歳の少女だから実質私が仕切っている。そのうちあの地図絵師が出入りするようになったが、不思議なことに叔母の病気が治ったのだ。それは良いのだが、あの男はどうにも信用できん。叔母は高齢だ。あわよくば財産を掠め取ろうしているのではないかと心配で‥‥」
 聞きながらクウェルは室内の調度品を注意深く観察した。どれも高価そうなものである上、輸入品と思われる物も多く見られた。もっと言うなら、とてもこの男程度の資産で買えるとは思えない品々でもあった。
「そういえばあの人、仕事をされていないのにどうやって生活をしているのでしょう?」
「女の家を転々としているのだ。あの見てくれにほだされて世話する女は沢山いるからな。そのような穢れた輩が我が一族に近づくなど‥‥うっ」
 声を高めたコンラッドは突然苦しそうに胸を押さえてうずくまる。興奮のあまり息が詰まったようだ。
 クウェルが慌てて人を呼び、彼との面会はそこまでとなった。

●老婦人の華やぎ
 さらにその頃、エディス老夫人の屋敷を訪ねる冒険者達。
 屋敷内へ招かれた冒険者達のうち、ルイス・マリスカル(ea3063)がまず帽子を胸の前に寄せて丁寧に挨拶をした。
「実は、甥御さんがルキナスさんとの仲を心配されているのです」
 するとエディスは苦笑してみせた。彼女は10歳は若く見え、薄く化粧もしている。
「あの甥がそんな殊勝なもんかい。きっと何かよからぬことでも考えているのでしょう。わたくしとルキナス様の仲には、なんのやましいこともありません」
 その様子にジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は、本当に恋愛対象として地図絵師を見ているのだろうかと不安になった。
「そのルキナス様なのですが、地図作成をお願いしたのですが断られまして‥‥奥様がルキナス様と親しいとお聞きして、もし事情等お知りでしたらお教え頂きたい思い、失礼ながら訪問いたしました」
「本人にはお聞きしたのですか?」
「はい。何でも今の待遇にご不満がおありとか」
「ならば、それが真実でしょう。まぁ今のわたくしには関係のないこと。あの方が側にいて下さればそれだけで‥‥」
 ノロケ話に突入しそうになったところをエデン・アフナ・ワルヤ(eb4375)が遮る。
「失礼ですが本当は認知障害など患っていらっしゃらないのでは?」
 とたん、エディスは持っていた扇子で口元を隠し、笑った。
「病を患っていたのは本当ですよ。何なら屋敷の者達に聞いてごらんなさい。今のわたくしがあるのは、ひとえにルキナス様のおかげ」
「では、曾孫さんとは‥‥?」
 戸惑ったように問うルイスへエディスは目を光らせた。
「ライバル、ですね」
 言いようのない沈黙が流れた時、ノックと共に扉が開きセシリーが飛び込んできた。その後からゆっくりとディーナも現れる。ゆかり、ルキナスと別れてやって来たのだという。
 エデンらが二人の気を引き付けている間にディーナとルイスはこっそり部屋を出た。しばらく屋敷内をうろつき、やがて使用人を見つけると声をかけた。
 二人は代わるがわる、この家の内情を尋ねる。
 とたん、使用人は二人にすがりついてきた。
「コンラッド様は奥様が病であるのをいい事に、財産を全て横取りしようとお考えなのですわ。だって、聞いてしまったんですから。コンラッド様がお客様と、奥様の財産の分配について話しているのをっ。ルキナスさんが来てから奥様も以前のようにお元気になり、コンラッド様はいつその罪がばれるか恐れてらっしゃるに違いありません」
「それでルキナスさんを町から追い出そうと依頼してきたのね」
 呟いたディーナへ驚愕に目を瞠る使用人。
 続いてセシリーの両親について尋ねると、彼女は力なく首を振るだけだった。
「詳しくは‥‥。セシリー様のご両親は事故だそうですが、調べたところ何者かに襲われたような跡があったとも聞いています。奥様の息子夫婦も同様で‥‥。お願いします、どうか奥様とセシリー様をお守りくださいませ!」
 流れる涙をぬぐうこともせず、使用人は深々と頭を下げた。

●待ち伏せ
 ゆかりとルキナスは、彼の自宅へ向かっていた。これからエディスを訪ねるので服装を整えてから行くのだとか。
 二人が到着すると、玄関前に先客がいた。
「来ちゃった♪」
 ちらっと舌を出す華岡紅子(eb4412)に、ルキナスは嬉しそうに歩を早める。
「紅子さん、わざわざここまで? あ、まあ入んなよ二人とも」
 入るなり紅子は大胆にもルキナスの首に腕を回し、抱きついた。
「覚えててくれるなんて、嬉しいっ」
 思わず鼻の下を伸ばす地図絵師を誘導するように紅子は彼を椅子に座らせ、自らはその膝の上に乗ると真っ直ぐにルキナスを見つめた。
 エディスとセシリーとの関係のことを話し、何を考えているのか聞き出そうしたのだ。
「エディスさんは迷子になってたんだ。その時の彼女はとてもあどけなくて、まるで少女のように可憐だったよ」
 要するに認知症で町中を徘徊していたのである。そして子供に戻ったようなエディスにハートを直撃されたそうだ。
「セシリーちゃんとはお使いの時に会ったよ。小さいのに沢山荷物持ってて、でも泣き言一つ言わず懸命に歩く姿が愛しくて‥‥」
 声をかけて荷物を持ったところからお付き合いが始まったらしい。
 続けてコンラッドが狙っていることを告げると、ルキナスはきょとんとした顔をした。
 呑気な男にたまりかねたゆかりが渋い顔で詰め寄る。
「あなたは愛を語っていればそれで満足かもしれませんが、そのせいで起こることに無頓着すぎます。愛した人を一生賭けて自分の力で守っていく人なら、浮気性でも応援したくもなりますが‥‥仕事に不貞腐れてナンパだけしてるのなら最低ですね」
「手厳しいねぇ。でもその真剣さは純粋でいいね。ちょっとかたい気もするけど、そこが君の良い所なんだろうね」
 ゆかりを見上げるルキナスの目は、ふざけている様子ではないが‥‥。
 ゆかりは気持ちを切り替え、肩の力を抜くとやわらかい微笑を見せた。
「それじゃあ、もしあたしが今すぐ一緒に月道の地図を作る旅に参り、ずっと一緒に暮らしていただけるなら、あなたと添い遂げても構わない‥‥と言ったらどうしますか?」
 とたん、ルキナスの瞳に真摯な光が漂う。
 まるで壊れ物でも扱うようにゆかりの手を取る青年。
 ゆかりは、ルキナスのスイッチをオンにしてしまったことに気付いた。
「本当に、一生‥‥?」
 気圧されるような真剣さに思わず一歩引きかけた時、扉が勢い良く開かれた。
「師匠、さっそくナンパの技について‥‥おわぁ」
 入ってきたマイケルはただならぬ雰囲気にのけぞった。
 彼の登場に気付いたルキナスはゆかりから手を離し、紅子を膝から下ろすと懐かしそうにマイケルを迎え入れ、椅子を勧めた。
 紅子は苦笑じみたものを浮かべ、尋ねた。
「地図絵師さん、率直に聞くわ。いくらならあなたの腕の価値に見合うのかしら?」
 地図絵師は振り返り、にやりと笑う。
「それは君の気持ちしだいだよ」

●女の戦い
 その後四人はベアリング邸へ赴いた。
 ルキナスはエディスとセシリーに両脇をがっちり固められている。庭を歩く三人の姿はとてものどかだが、曾祖母と曾孫は時折火花を散らしていた。
 エディスの体を気遣い休憩を入れるため庭の東屋に腰を下ろしたルキナスへ、エデンが一枚の羊皮紙を見せた。どこかの地図だ。少し恥ずかしそうに彼は言う。
「実はわたくしも少し地形の勉強をしたのですよ。山脈に接する三分国は北からイムン・トルク・フオロ‥‥いかがでしょう、ルキナス先生?」
 地図を見るルキナスは完全に固まっていた。
「先生はともかく‥‥まあ、人には得手不得手があるわけで‥‥」
 実はわざと間違えて作った地図なのだが、ルキナスはエデンへ必死に言葉を探していた。
 その傍らでゆかりはコンラッドの企みを聞いてしまったセシリーの身に危険が及ばないよう気を配っていたのだが、不意に殺気に似たものを感じ辺りに視線を走らせた。
 と、地の底を這うような声がどこからか響きわたってきた。
「僕のこの手が黒く輝く! 貴殿を倒せと唸りをあげる! 必殺! ディストロイ!」
 地を蹴り黒い輝きを纏ってルキナスの前に現れたタイラス・ビントゥ(eb4135)は、振り上げた拳をルキナスの足元へ叩きつけた。一瞬にして砕け散る石床。
 そのつぶてから老夫人と少女をとっさに背にかばうルキナスだったが、一塊が顎に直撃して昏倒。
 目を回す地図絵師に馬乗りになり揺さぶるタイラス。
「さあ、ルキナス殿。旅に出て真人間になるのです。外の世界を見ればきっと新たな情熱がわいてくるのです。寝ている場合ではありません!」
 と、その時。
「暴れ馬だぁ!」
 どこからか叫び声が上がり、狂ったように大地を蹴りつける足音が接近してきたかと思うと、タイラスを思い切り前足で弾き飛ばした。
「誰か、私のルードを止めてくださいませ〜!」
 いつの間にそこにいたのかエディスがオロオロしながら猛り狂う馬を見ている。
 派手に飛ばされたタイラスだが、困っている人を見過ごせない彼は何とか立ち上がり、暴れ馬を止めようとした。が‥‥。
「いやぁ! あたしのミミがぁ!」
 甲高い少女の悲鳴が上がり、今度は背後から子馬に突き飛ばされるタイラス。
 その様子を呆然と眺めていた冒険者達の誰かが呟いた。
「これは‥‥人の恋路を邪魔する者は‥‥ってやつだね‥‥」
 その日、まだ日が高いというのに空に星が一つ輝いたと言う。

 その後ウィンターフォルセでは、冒険者の通報によりコンラッドの数々の罪状が明らかになって彼は領主の元に拘束。取調べを受けている。
 そして曾祖母エディスと曾孫は‥‥。
「ルキナス様、わたくしとセシリーとどちらをお選びになるのです!?」
「お兄ちゃん! あたしと結婚するって言ったよね!?」
 ますます元気に地図絵師を追いかけているそうだ。
 屋敷の者達は全員匙を投げた。