チャンスだピンチだ4〜地図絵師暗殺

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月27日〜07月02日

リプレイ公開日:2006年07月03日

●オープニング

「本当に、頼まれてくれないのか?」
「言ったはずだ。俺は、そういう関係の話は受けない」
「しかし、これを請けなければお前の地図絵師生命は危ういものとなるが‥‥?」
 黒衣の男の言葉に、地図絵師の男ルキナスは少し冷や汗を流した。
 書きたくない。その本当の理由を思い出して‥‥。
「分かった‥‥請ける。何時までにこれを描けばいい?」
「賢明だな。五日後に描けていれば問題ない、やれるだろう? ルキナス・ブリュンデッドくん?」
 男の声が不気味に聞こえ、ルキナスも頭を抱えた。
 また同じ運命を辿るのかと。

「首尾よく頼めたか?」
「はい、レヴンズヒルド家からだと言えばすぐでした。本人は嫌がっておりましたが、結局は‥‥」
 黒衣の男の言葉に、がっちりとした騎士のような男は、椅子に座り小さく笑みを浮かべた。
「そうか、描くか。これでハーヴェン家の奴等も終わりだな」
「しかし、よろしいんですか? 紛争等すれば、大きな騒ぎに‥‥」
「勝てば官軍というやつだ。問題ない、ルキナスの地図絵師があれば勝てるだろう。あいつは‥‥いい地図絵師だからな」
「しかし、その後紛争に使う事をバラすのでは?」
「なに、仕事が終わり次第あの男をバラす。レヴンズヒルド卿にはそう伝えてあるからな」
 騎士のような男の言葉に、黒衣の男も従わざる得なかった‥‥。

「大変なのです、仕事を至急頼みたいです!」
 ギルドでは見覚えのある女性が焦ったようにギルド員に喚いていた。
 貴族のような娘、ルーシェである。
「どうしました、ルーシェ様? そんなお慌てになって‥‥?」
「ルキナス様を助けて頂きたいのです!」
「ルキナスさんを‥‥助ける?」
「はい。私達レヴンズヒルド家はハーヴェン家ととても仲が悪く、父同士が何時も睨み合っていたのですが‥‥遂にそれが紛争という形に出てしまいました‥‥」
 ルーシェの言葉にギルド員も唖然としていた。レヴンズヒルド家もハーヴェン家も男爵位。
 何時かは互いが出世に邪魔になって紛争を起こすだろうと思っていたが、こうも早くだとは‥‥。
「その紛争の為の地図を、父の側近である者がルキナス様に頼んだのです!」
「いい事じゃないんですか? ルキナス様には仕事が必要でしたし‥‥」
「そうではないのです! これが普通の依頼でしたら、私もここに来ませんでした! でも!」
「でも?」
「紛争に使う地図を描いたとなれば、父の側近である者は確実にルキナス様の命を奪うつもりです。だって、紛争の事がもしハーヴェン家にバレれば襲撃も不能になりますもの」
 ルーシェが心配そうに瞳を伏せると、ギルド員も苦笑を浮かべた。
 地図絵師といえば今このウィンターフォルセにはルキナスしかいない。
 しかし、紛争の為の地図を描いたとなればルキナスは秘密を知っているという事になる為、殺害されるのは当然。
「それで、ルキナスさんは引き受けてしまったんですか?」
「はい‥‥その側近の者の使いが半ば脅しで‥‥。お願いします! どうか、ルキナス様のお命をお守りください!」
 ルーシェが必死に頼む姿を見て、ギルド員は急いで依頼作成書を作り始めた。
 平和なウィンターフォルセ。その影が表に出てきたようにも見えた‥‥。

「なんで請けたんだよ、ルキナス? お前、ああいうのが嫌で仕事を‥‥」
「やるしかないんだよ、マスター。‥‥弟子は師匠と同じ道を歩むってね。さて、地図でも作りに行くかな‥‥」

 ルキナスの地図が出来るまで後五日。
 今現在でもルキナスには監視の目がついているという。何時でも殺せるように、と。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb3770 麻津名 ゆかり(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4135 タイラス・ビントゥ(19歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 eb4141 マイケル・クリーブランド(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4209 ディーナ・ヘイワード(25歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4270 ジャクリーン・ジーン・オーカー(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4412 華岡 紅子(31歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4713 ソーク・ソーキングス(37歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●お手伝いさんです
 ルキナスの帰宅を見計らうように冒険者達が訪ねてきた。彼はそれを迎え入れながらも冒険者達のまとう妙な真剣さに不思議そうにしていた。
「えーと、皆さんおそろいでいったい‥‥?」
「地図絵師としての仕事を受けたって聞いたよ」
 わずかの沈黙の後、答えたのはティアイエル・エルトファーム(ea0324)だった。
「ああ、そのこと」
「うん‥‥命を狙われるなんて、地図絵師って大変なんだね。でも、女性がらみでないことだけは良かったのかな?」
「う〜ん、どうせならかわいい女の子達にもまれて死にたいけど‥‥」
 前回何をしたかまるで反省の色がないルキナス。
 マイケル・クリーブランド(eb4141)がそっとため息をつきつつ話を戻す。
「まぁそんなわけで、あんたの護衛に来たってわけだ。俺とは師弟関係だから、常に一緒にいても怪しまれないだろ。ティアイエル達はお手伝いさんとか、それぞれ対策は考えてある」
 何かを考え込むようなルキナスに、マイケルは畳み掛ける。
「領主に働きかけ、紛争を回避するにはあんたの証言が必要不可欠だ。そのためにはあんたが生きていなきゃいけない。あんたのためだけじゃない。不幸になるかもしれない他の人のためにもなる」
「何も常に大勢がいるわけじゃないですよ」
 マイケルの言葉にも難しい顔をしているルキナスを、周りに大勢いることで窮屈に思っているのではと考えたクウェル・グッドウェザー(ea0447)が気遣うように言った。
「僕は、地図作成依頼を断られつつも何度も頼みに来ている人、として動くつもりですし。そうすることで敵を探ることができるでしょう?」
「ふむ‥‥。んで、あの人は何なの?」
 異次元の住人でも見るような目の先には、家具の陰からルキナスらを伺うソーク・ソーキングス(eb4713)の姿。
 彼は注目されたことであがってしまったのか、舌を噛みそうになりながら自己紹介をした。
「なんで植木鉢抱えてんの?」
「あ、あの、その、い、家の外はフェローにしっかり警戒させますです」
 どう言ったところで冒険者達の意思は変わらないのだろうな、とルキナスは護衛を受けることにした。
 ティアイエルとクウェルから身を守るアイテムをいくつか借りた。

●ダミー
 ルキナスを訪ねている仲間達とは別行動で、ルイス・マリスカル(ea3063)は冒険者ギルドへ赴き、受付係員へある相談を持ちかけていた。
 ルキナスのため、というよりはルーシェのためだ。彼女が家に逆らった咎に問われぬように。そのために酒場のマスターにも同行してもらっていた。
「はぁ、あなたの名前でダミー依頼‥‥ですか。ふむ‥‥」
 ギルド員の表情は険しい。
 ルイスはマスター名義で『ルキナス更生依頼』を出してもらい、彼らはその依頼のためにルキナスに関わることで護衛とし、『偶然』今回の襲撃事件に巻き込まれたことにしたいと考えたのだ。
 そうすれば、ルーシェも安全だろうと。
「事情はわかりましたが‥‥受諾できませんね。‥‥すみません。依頼人や冒険者や世間の信頼関係のためにも、偽りをするわけにはいかないんです」
 ギルド員個人の気持ちとしてはルイスに協力したくとも、ギルドのためを思えばそれはできない。マスターは慰めるようにルイスの背を叩いた。
「いえ、無理を言ってすみませんでした」
 内心を押し隠してルイスが言えば、ギルド員は申し訳なさそうにしながらも安堵の笑顔を見せた。

●仕事をしながら
 ハーヴェン領内に着くとルキナスは浮かない顔で地図作成の準備を始めた。
 その横で監視するように見守るタイラス・ビントゥ(eb4135)。表情には出さないが、どんな形であれ仕事を再開したのは嬉しい。今までさんざんはぐらかされてきたわけだし。
 そんな彼の視線に気付いたのか、ルキナスは苦笑を浮かべた。
「野郎に見つめられてもねぇ‥‥」
「僕のことは気にしないでください」
「なら、あたしならいいでしょうか?」
 タイラスを押しのけるように現れたのは、麻津名ゆかり(eb3770)。
「おや、ゆかりさん。わざわざこんなところまで? どう? これから二人で食事など‥‥」
 『二人で』を強調するルキナスのセリフを、ゆかりとタイラスが同時に遮った。
「先にお仕事しましょうね?」
 それからゆかりは簡単にテレパシーで今のルキナスの周囲の状況を説明した。はっきりとはわからないが、何者かがつけていること。人数はおよそ三人。その者達についてはディーナ・ヘイワード(eb4209)が探っているとのことだった。
 ため息を落とすとルキナスは作業を始めたのだった。

 嫉妬に身を焦がす女が一人。彼女は射殺さんばかりの視線をゆかりに向けていた。時折タイラスにも同じ目をする。
 そして、とうとうゆかりがルキナスの腕に自身の腕を絡ませた時、女の理性の糸は盛大にブチ切れた。
「ちょっ‥‥んぐっ」
 伺っていた建物の陰から飛び出そうとした瞬間、女は後ろから口をふさがれた。
「お静かに」
 小声だが鋭い声は女性のもの。
「詳しいことは話せないけど、今はこらえて。下手に飛び出したらあなたの身が危険だから」
 囁く声に女はしばらく抵抗したが、疲れたのかやがて大人しくなった。
 ディーナは女を解放すると正面に回りこんで微笑んだ。
「あなたが傷ついたら彼はきっと悲しむよ。嫌でしょ? それに、あれは演技だから」
 そう言われて納得できるものでもないが、ディーナには適わないと判断したかアンジェはしぶしぶ頷いたのだった。

●訪問者
 ティアイエルがルキナス不在の間、家事をしたり周囲を観察したりしていると扉を叩く音があった。出て行こうとするのをジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が手で制し、代わりに出る。
 そこにいたのは上品な面立ちの女。二十代後半くらいだろうか。短い会話の中でジャクリーンは女を観察する。ルキナスの知人で彼に会いに来た言うが、どうも裏がありそうな予感がした。根拠はないが。
「ルキナス様は大事なお仕事の途中で不在ですので、戻りましたら会いに行くよう伝えておきましょう」
 嘘は言っていない。
 女は一瞬ジャクリーンの背後に視線をやり、すぐに去っていった。やはりどうにもただの女の感じはしなかった。
「きっと探りに来たのね」
 華岡紅子(eb4412)が玄関を覗くように顔を出す。
「大丈夫よ。手は打ってあるから」
 そう言って鮮やかにウインクする紅子。
 ルーシェに頼み、近辺に「最近怪しい人影や泥棒が出没するから注意するように」と噂を流してもらったのだ。これで街全体に警戒心が広まるだろう。暗殺者達の行動も難しくなるはずだ。

●狭い?
 二日ほど経ったが、あれから女が訪ねてくることはなかった。ルキナスに話したところでロクなことにはならないだろうから、話してはいない。
 この家の主人と冒険者達は情報交換を兼ねて食卓を囲んでいた。その際、こんなことがあった。
「お願いですから、あたし達が持ってきた保存食や水以外は口にしないでくださいね。万が一外で食べたものに毒でも入っていたら‥‥」
「ゆかりさん、そんなに俺のことを? ‥‥でも、うっかり毒を食べてゆかりさんに介抱されるのもいいね。薬はもちろん口移しでくれるんだろ?」
「はいはい、離れて離れて」
 放っておいたらどこまでもエスカレートしそうな二人を引き離すジャクリーン。周囲の視線も呆れている。
「そんなことをホイホイ言っているからダブルブッキングなんかするのよ。まさか仕事中にナンパなんてしてトリプルブッキングなんかしてないでしょうね?」
「意外なことに仕事中は真面目でしたよ。終わったら元に戻りましたけど」
 答えたのはタイラスだった。勿論、ナンパはタイラスとゆかりで阻止している。
「そうだ。あなたに伝えておこうと思いましてね」
 思い出したように手を打つルイス。彼はルキナスの警護の依頼者が誰であるかを明かした。
「家よりもあなたの命を優先してくれたお嬢様のためにも、この場を生き延びる義務がありますよ」
 と、間違って馬鹿な考えを起こさないように釘を刺しておく。
「まぁでも、てっきり僕はルキナスさんが命を狙われるとしたら女性関係のもつれだと思っていたよ。まさか本業のほうとはね‥‥」
「人徳ってやつかな」
 皮肉とも取れるディーナの言葉もルキナスには通じなかったようだ。
 ふと、真面目な顔をしてルイスが尋ねる。
「あなたは地図絵師として紛争を抑えるべく、紛争時に行軍を惑わせる仕込みをして地図を渡す‥‥その一点に命を賭けているのですか?」
「まさか。そんな勇気はないよ。そんなことをしていたら今頃とっくに死んでる。それにしても‥‥やっぱこの人数だと狭いな」
 一人でいる時は広すぎる家を狭く感じた瞬間だった。

●雨
 とうとう地図は完成してしまった。受け渡しを明日に控えた夜に雨が降り出す。
 何となく落ち着かない夜だった。街の警戒心が強くなっているとはいえ、仮にも相手はプロ。冒険者達は内と外に分かれて警護に当たっている。
 最初の異変はソークが放っていたフェローの吼え声。いつもの人見知りも吹っ飛んだソークが剣を抜いて庭を駆ける。黒ずくめの男が二人、フェローに吼えられていた。
 そのうち一人がソークに切りかかってくる。かなりの手練れだ。ソークは鋭い切っ先を右に左にかわしながら隙を伺う。
 その時、ジャクリーンの弓が剣を持つ男の手を襲った。武器を弾かれた男は手首を押さえ、逃走態勢に入る。
「に、逃がしませ‥‥」
 言いかけた時、何かが砕ける音が響いた。同時に室内が一瞬明るくなる。火を放ったのだ。ソークとジャクリーンの意識が逸れた隙に、二人の男は逃げて去って行く。
 その頃家の中では襲撃に備えていた冒険者達により、怪我人は誰もおらず割りと落ち着いていた。ゆかりのスクロールにより延焼も阻止されている。
 しかし、その火がおさまった頃再び火矢が射掛けられ、引き続きゆかりはプットアウトを使用し、マイケルとディーナにかばわれながらルキナスは外へ避難したのだった。
「こちらです」
 小声で呼んだのはルイス。
「いったんここは離れましょう。ソークさんとジャクリーンさんが道を作ってくれます。奇襲されそうなところは私が調べておいたので、そこは避けることができますから」
 言い終わる前に火矢の攻撃がなくなった。ジャクリーンが全員仕留めたのだろう。
 ルイスに導かれ、一番手薄な塀を乗り越える。
「仲間がリーダーを捕まえるまで逃げ切りましょう」
 敵が集まってくるまえに彼らは街中へ走り出す。いったい襲撃者はどれだけの人数なのか、ルイスはうまく奇襲地点を避けていたが、それでも全くないわけではなかった。
「ここで引きつけるから、行って!」
 ディーナが渋るルキナスの背を押す。何か言いたそうな彼を引きずるように、マイケルとルイスは駆け出した。路地という路地に潜んでいたのか、気がつけば追っ手の数はかなりのものだ。
「この先に紅子がいる。そこまで走れ」
 ディーナのように残ろうとするマイケルとルイス。引きつけるには一人では辛い数だ。
 悔しそうにしながらもルキナスは指示に従った。しっかりと地図の入ったケースを抱きしめて。
 振り向きたい気持ちを押し込めて走り続けると、紅子ではなく黒ずくめが飛び出してきた。手には雨でもわかる鋭く光るもの。
 急には止まれず、刃に自ら突っ込みそうになった時、何かが間に割り込んできた。
 同時に酷く神経に障る嫌な音。
「タイラス‥‥!」
 思わず名を呼ぶルキナス。
 刺されたのか、タイラスはうずくまったまま動かない。
「う‥‥くっ‥‥、何てことをするんですかぁ!」
 血の気の引いたルキナスの目の前で、タイラスは突如立ち上がると男にタックルをかました。不意をつかれた男は背中を打ちつけ、気を失う。
 カラン、と音がしたところを見やると傷付き少し凹んだ缶詰が。
「紛らわしいんだよっ」
「イタッ、ルキナス殿ッ。そんなことより早く逃げるのです」
 タイラスの言うとおり、まだ終わってはいない。
 再びルキナスは走り出し、かなり息が上がった頃、突然伸びた手に路地へ引き込まれた。
「後は、ティアイエルとクウェルに任せて」
 紅子だった。
 ルキナスは示された梯子を越え、向こう側に身を潜める。壁の向こうで紅子に問う声が聞こえた。しらばっくれる紅子に苛立った襲撃者が剣を振り上げた時、魔法詠唱の声と共に突風が彼らを吹き飛ばす。
「いい加減諦めたら?」
 というティアイエルの声に、どこからか舞い降りたのはいつぞや訪ねてきた美人。
「あなたがリーダーですか」
 エルフの少女の隣に立ったのはクウェル。
 美人は穏やかに微笑む。
「あら、あなたは地図の依頼にあの男を訪問していた人よね。ふぅん」
「ま、お互い様でしょう。ところでこれ以上ルキナスさんを狙うのは無意味だと気付いて頂けましたか? こちらとしても争いは好みません」
「地図は頂けないのかしら?」
「地図だけならこんなことはしませんよ」
「世の中いろいろあるのよ」
「では、こちらも引けませんね。実は地図の写しがありましてね。もし地図を渡して後、定期的に僕達にルキナスさんからの連絡がない場合には、その写しをハーヴェン家に渡し、陰謀の全てを暴露しましょう」
 女は初めて顔をしかめた。そして小さく悪態をつく。
「私が路頭に迷ったらあなたのせいだからね」
 クウェルは路地の向こうに呼びかけた。
「だそうですよ、ルキナスさん」
 こうして地図のみ受け渡され、ルキナスが狙われることはなくなった。当然、写しがあるわけないのだが、先ず気付かれることはないだろう。
 ルキナスを伴い帰宅すると、彼は珍しく神妙な顔で冒険者達に礼を言ったのだった。そして部屋の片付けの途中、何度もため息をこぼしていた。