見えない依頼人〜見えない願い 聞こえぬ声
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア4
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月30日〜06月04日
リプレイ公開日:2006年06月02日
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●オープニング
夕暮れ。
いつも彼女は歌っていた。
力強く優しく、人の心をひきつける歌を。
その歌声をもっと沢山の人に聞かせてあげればいいのに、と言ったことがある。
だけど、彼女は笑って言った。
「私はね、大好きな人達にだけ聞いてもらえればいいの。それが‥‥私の幸せだから‥‥」
その笑顔が尊いと思った。何よりも大切だと思った。守りたいと‥‥願った。
だが‥‥その歌は今は聞こえない。
永遠に消えてしまったから‥‥。
心の中の光は消えた。永遠の黒い闇の中。
もう二度と夜明けが来ることは無い‥‥。
彼の心に触れたからだろうか。
ある冒険者はそんな夢を見たと言う。
「あの男はまだ意識を取り戻していない。腹の傷はたいした事は無かったようだが背中の傷は深かったらしいからな。しかも毒が塗られていたって話しだし‥‥」
良かったな、とまでは言わないが係員の唇はほんの少しだけ上がって見えた。
確かにあの少年、ベアリーに復讐とはいえあの男ヒースの命は奪わせたくなかった。 強がっていてもまだ本当に手を血に染めたことの無い子供なのだから。
冒険者も胸を撫で下ろす。だが、それはほんの、少しだけ。
「‥‥今回、お前らが犯した致命的なミスが解るか?」
また俯いてしまった彼らの頭越しに係員は言う。
「あの男に捜査状況と犯人の心当たりを話してしまったことだ。あいつは言っていたんだろう? 自分に危害を加えることが無ければどうでもいい。と」
それは返せば、自分の身に危険が及ぶのであれば容赦はしない、ということだ。
「まあ世の中、人間の言葉と気持が通じる奴ばかりじゃない、って事だ。おそらくつけられていたと見るべきだろうな。そして、奴を殺すチャンスをずっと伺っていた‥‥」
もし、ベアリーの攻撃だけだったらヒースは避けていただろう。セシルが庇っていたこともあるし、反撃さえしてきたかもしれない。
とはいえ、1対多数で冒険者の方が有利であるから捕縛のチャンスもあったはずだ。
それを失ってしまったのは‥‥
「情報収集の不足、推理不足、そして‥‥説得力の不足。感情論を否定はせんが、それも支えるしっかりとした下地あってこそ生きるというもんだぞ」
ため息をついた係員は、それ以上は冒険者を責めなかった。
一応、指輪は依頼人の望むとおり『帰りたい』と願った人物の元へと帰ったのだから一応、依頼は成功である。
「しかし、あいつが倒れた以上、もう真相に近づく事はできないか‥‥。まったく、あのゴースト達がも少し話ができる状態だったら、良かったのにな‥‥。憑依もしないし、喋りもしないじゃ何も解りゃしない。力が弱いのか‥‥それとも、何か他に理由があるのか。あのマーサとかいう幽霊は‥‥」
「ま‥‥マーサ?」
「えっ?」
震える声に振り返る冒険者達。そこには真っ青な顔で震える少女キャロルの姿があった。
「おっと! ‥‥なに!?」
駆け寄った冒険者が崩れ落ちるように倒れたキャロルを支えた時、彼は聞いたのだ。
「‥‥マーサ‥‥姉さん‥‥」
その言葉の意味を後に冒険者は係員から聞くことになった。
「キャロルは、ヒースの恋人、マーサの妹だそうだ‥‥」
キャロルの面倒を見る後見人が語った所によると、姉と、両親の死のショックで彼女は過去の記憶を失っていたと言う。
「今の彼女は、何も覚えていません。心があまりの悲しみと苦しみに記憶を封じたのでしょう」
それを聞いて冒険者はなんとなく、解った気がした。
何故殺人事件のあったばしょで、指輪を拾ってしまったのが彼女でなくてはならなかったのか。
そして、何故に指輪に宿っていたゴーストは頑なに、何も語らなかったのか‥‥。
「正直、どう転んでも救いの無い話だ。キャロルからの依頼は終わり、ベアリーは、まだ悩んでいるようだな。何をどうすれば、誰が助けられるのか。俺にも見等がつかん」
だから、これは正確には依頼ではない。依頼人もいない。報酬も無い。
「だが、それでも何かを為しえたいと思うなら、行けばいい‥‥」
このまま終りたくないと思うなら。
全てを最良にはできなくても、最善に、誰かの救いにできるのなら‥‥。
●リプレイ本文
●答え
腹を押さえる。手がぬるりとした感覚を掴む。
‥‥危険なのは解っていた。いや、解っていたようで解っていなかったのかもしれない。
だが‥‥どうしても言わずにはいられなかったのだ。
「しっかりして下さい‥‥。大丈夫ですか!?」
声が聞こえる。肩を貸してくれているイェーガー・ラタイン(ea6382)の声だろうか?
身体以上に頭が熱を帯びている。
これは怒りだろうか。笑いながら吐き捨てるようにあの男が言った言葉が、意識が完全に溶けるまで、消えてはくれない。
『‥‥余分な好奇心は猫をも殺すと、覚えておくことだ。世の中には二種類の人間がいるということも、な‥‥』
「もう少しです。頑張って、ロバートさん!」
遠のく意識の中でロバート・ブラッドフォード(eb4464)は最後まで脳裏からその言葉と戦っていた。
「‥‥それは、違う‥‥」
と。
●命の重さ
パタン。
扉を閉めたケンイチ・ヤマモト(ea0760)に、冒険者達は駆け寄った。
「ロバートさんは大丈夫?」
心配そうなリーン・エグザンティア(eb4501)の問いかけにケンイチに替わってギルス・シャハウ(ea5876)が頷いた。
「大丈夫ですよ。危ない所でしたが命に別状はありません。イェーガーさんの薬のおかげもありますね」
ホッと胸を撫で下ろす冒険者達。
「急に囲まれて‥‥とにかく逃げてくるのが精一杯で‥‥力が足りませんでした」
「単独行動していたら、死んでたかもしれないってギルスさんも言ってたでしょ。もう気にしない方がいいって!」
落ち込みぎみのイェーガーの肩を、フォーリィ・クライト(eb0754)はぽんと叩いた。
ロバートはこの事件の元凶である男に会いに行く、と言っていた。『あの男』にどうしてもこの事件についてどう思っているのか聞きたいと言って‥‥。
『氏としての個人的な見解を聞きたいものだな。なに、純粋な好奇心だ。あなたに自首を即す、罪の意識を呼び起こすというのは難しそうなのでね』
「自首を促すつもりは無い、と言っていましたけどあれは、猛獣の尻尾を踏む並みの危険な行為です。聞いていて背筋が冷えましたよ」
仲介も無しに、半ば強引に男の後を追ったロバート。
心配で同行したイェーガーは男の背中にかけた彼の言葉に、本当に肝を冷やしたのだろう。ため息は深い。
「で‥‥あの男はなんて?」
「自分の邪魔をするものにする容赦は無い、と。邪魔と言うのは自分のしたい事を阻む者、という意味あるとか。どうやら罪の意識などこれっぽちも存在しないようですね。そして‥‥」
一瞬言いよどんで言葉を告げる。振り向きざま言ったあの言葉を。
「世の中には二種類の人間がいる、と。奪う者と奪われる者。それは決して変わることはないのだ‥‥とも」
その後、男のボディーガード達が襲ってきた。彼の背中と素顔を見たものへのあれは口封じだったのかもしれない。
まあ、本気で殺そうとする所まででは無かったようだが。
「ふう〜ん。やっぱし最低男ってわけか。‥‥で、どうする。ベアリー。このまま続けるならあの男の言う奪う者、の道を辿ることになるんだろうけど」
声のトーンを変えて、フォーリィは部屋の隅を見る。そこには、下を向いたままの少年ベアリーがいた。
ベアリーはここについた時から一言たりとも喋ろうとはしない。落ち着かない様子で足を鳴らし、下を向くのみ。
無理も無い。
ここは教会。彼にとっては居心地のいい場所では元から無い。
まして、同じ屋根の下にあの男がいると考えれば、落ち着きもなくなるだろう。
だが、それでもここに彼がいることが重要なのだ。とフォーリィは思っていた。
(「それが‥‥この子の結論、だもんね」)
ロバート達があの男の所に向かい、仲間達がそれぞれに動いていた頃、フォーリィは一人ベアリーの所に向かった。
「お前‥‥!」
浮浪児達のヤサ。
仲間を心配する、そして突然の来訪者を警戒する少年達を、手と目で制してフォーリィはその奥、一人で膝を抱える少年の元に歩み寄る。
「人を刺した感触はどうだった?」
優しい哀れむような口調であったのなら、彼は顔を上げなかったろう。お前に何が解ると反発したかもしれない。だが‥‥ベアリーは黙って顔を上げた。
その言葉が余りにも重く悲しく‥‥説得力があったからだ。
「君は、本当に人を刺したりしたことあまりないでしょ。殺したことも‥‥ううん、ナイフを手にしてても使ったことは殆ど無い‥‥違う?」
フォーリィは返事を待たず、そのまま続けた。
「自分の手が血に染まる。それはどんな感じだった? 恐くはなかった? 恐かったなら止めておいた方が良いと思う、命を奪う事の重さがわかったのなら‥‥」
はっきり、止めたほうがいい。言った彼女に何か反論しようとしてベアリーは唇を開くが声にならない。
それは、彼女の瞳があまりにも悲しい色をしていたからかもしれない。彼女の目は言っていた。人を殺めることの恐怖を、潰れてしまう程の重さを良く知っている、と。
「その上で、ヒースは復讐を選んだ。彼を弁護するつもりはさらさらないけど、彼はそうしないと前に進めなかったんだろうから‥‥。復讐が悪い事だとは言わない、それで気持ちが晴れて前に進めるならそれも良い。でも‥‥」
彼女は言葉を止めて、ベアリーの瞳を覗き込んだ。
彼と、彼の背後にいるかもしれない誰かに問いかけるように。
「それで、お姉さんはそれで本当に喜ぶのか。血に染まった両手でお姉さんに俺はやったよ、褒めてくれって、胸をはって言えるのか‥‥それだけは考えて欲しいな‥‥」
どのくらい続いたか解らないほどの沈黙の後、フォーリィは立ち上がった。
「どこに‥‥いくんだ?」
背を向けた彼女に絞るような声がかかる。
「教会。今頃、仲間達がね、ヒースの恋人のゴーストと話をする準備してるみたいだからね。そうそう、君の後ろにもゴーストがいたんだっけ。心配するようについてる女の人が‥‥」
軽く答えたフォーリィに答えるように何か音がした。
「‥‥俺も、行く。全てを確かめて、聞いてそれから‥‥どうするか決める」
「うん、じゃ、行こうか!」
差し出された手。それを、少年は躊躇いながらしっかりと掴んだのだった。
「そう言えばヒースの状態はどう? 彼の前で、魔法使うって言ってたでしょ?」
思い出したようにフォーリィは問うた。それを知る冒険者は何人かいたが、ギルスが代表して答える。
「傷は塞がっています。血もだいぶ流れたし、毒も塗られていたしかなり危なかったのは事実ですが、今は落ち着いていると言えるでしょう。でも、彼を支えているのは復讐という暗い情念だけ。意識を呼び起こすには‥‥光が、救いが必要だと思うのです」
「その救いをね、今、呼びに行っているの。もう少し、待って‥‥!」
リーンがそう口にした時、教会の扉が開いた。
「遅くなって、ごめん。連れて来たよ‥‥」
「あんたは」
入ってきたメレディス・イスファハーン(eb4863)の後ろを見てベアリーは声を上げる。
面識は無いに等しい。だが、本能で同じだと感じた。
悲しい目をした‥‥少女。
「お待ちしていました。キャロルさん」
ギルスが声をかけるまで、ベアリーは動くことさえできなかった。
●見えない依頼人達
奥の小さな部屋。
そこにヒースは横たわっていた。顔に血の気は無く、死んだようにさえ見える。
「ヒース‥‥お兄ちゃん」
キャロルは膝をついて、その手を取った。微かに動いたように見えたが、反応は無い。
「思い出したんですか?」
「‥‥はい。全部‥‥後は冒険者の方に教えていただきました。‥‥どうして、忘れていたんでしょうか‥‥」
大好きだった姉といつかは兄になると思っていた人。両親との幸せな日々。
それが、一瞬で失われて‥‥。
「あまりにも、酷いことだったから自衛の為に封印したのでしょう。でも‥‥、ここに来たということは、向かい合って下さるのですね」
ギルスの問いに、こくんとキャロルは首を前に振った。
「私も、あの人は許せません。‥‥でも、お兄ちゃんに‥‥復讐なんてもうさせたくないんです‥‥」
「意識は取り戻していないけど‥‥希望はあるってことだよね」
メレディスの言葉にギルスは一度だけ目を閉じて、開く。
俯いたままのベアリーと、キャロルを交互に見て、ギルスは、解りました、と頷いた。
(「この呪文は、あくまでゴーストの居場所を確認するだけのもの。意思を伝える訳でも、拾える訳でも無い。でも‥‥きっと!」)
「聖なる母よ。心残しし魂の居場所を示し、我らが思いを伝えたまえ。‥‥デティクトアンデット!」
白い光に包まれたギルスの心に二つ、二箇所の残されし魂が感じられた。この間と同じように。
ヒースの側に一つ。そしてベアリーの側に一つ。
「二つの魂よ。憎しみで凍てついた心を溶かすには、愛する者の温かい言葉が必要なのです。もし、あなた方が復讐を望んでいないのならば、闇に囚われた彼らの心に手を差し延べて下さい。ミザリーさん! マーサさん!」
「お姉ちゃん! そこにいるなら‥‥ヒースお兄ちゃんを助けて!」
「俺は姉さんの望みどおりにする。だから、一言だけでいい。俺に‥‥どうしたらいいか教えてくれ。お願いだ!」
見えない何かが揺れたような気がした。弟妹の叫びに答えたいと望んでいるのが、感じられて‥‥。
「もし貴女のゴーストとしての力が弱くて、言葉を伝える事が出来ないのなら‥‥私の体を使って! ミザリーさん、マーサさん!」
「「「「「えっ?」」」」」
突然響いた声に冒険者達は全員が振り向いた。そこには決意の眼差しのリーンがいる。
「ミザリーさん。殺されたのに恨み言を言うでもなく、その場にいるのは‥‥純粋にベアリーさんの将来を憂いているからよね。今こそお姉さんの言葉が必要なんだと思う。だから‥‥」
来て。その言葉が紡がれる前に‥‥
「うっ‥‥!」
今まで、すっくと立っていたリーンが膝をついた。心配し、駆け寄る仲間の手を断り、真っ直ぐに立って、ベアリーを見つめた。
「意識が、入れ替わった訳では‥‥無いわね。謙虚なのか‥‥それともできないのか。でも‥‥、伝えたい言葉はあるの。ベアリー」
ピクン!
呼びかけられてベアリーは背筋を振るわせた。自分を呼ぶアクセントに覚えがあったのだ。
「姉さん?」
「彼を‥‥怨まないで。私、本当は知ってたの。彼が、マーサ先生の恋人だったことも。父さんや、私達を怨んでいることも‥‥。でも、それでも‥‥」
好きだった。リーンはその言葉を発音しなかった。頭に浮かんだ思いを伝える中、切ないその思いだけは口に出来なかったのだ。
彼が、ずっと好きだった。まだ少女時代、憧れた恋人達。幸せそうな師の笑顔を見るたびまだ見ぬ彼に恋をした。
悲劇の後の再会はあまりにも悲しいものだったけれども、覚悟はしていたのだ。彼女は。
「私は後悔していないわ。家を出たことも、こうなったことも‥‥そして、ベアリー。あんたと一緒に暮らせたことも‥‥。だから、お願い。復讐なんて考えないで、幸せに生きて‥‥」
声は違う。外見も全然違う。だが‥‥
「‥‥解ったよ。あいつは許さないけど‥‥復讐はしない。俺はあいつのようにならない。約束する」
『姉』の言葉に彼は素直に頷いた。流れ落ちる涙を、リーンはそっと指で拭って微笑む。そうしたいと思う、心のままに。
「大好きよ。ベアリー‥‥。幸せに生きてね」
リーンはその一瞬後、自分の中から『ミザリー』が消え去ったのを感じた。横ではギルスが頷く。
アンデッドの気配は一つになり、場所が変わった、と。
「皆さん。少しだけ二人、いえ、三人だけにしてあげて下さい」
蹲るベアリーにフォーリィが肩を貸し、彼らはその言葉に従った。
「良いんですか?」
扉を閉めざまケンイチはそう呟いた。
「それが‥‥二人の願いだもの」
「リーンさんの行動を見て、キャロルさんが選んだ行為です。憎しみと、悲しみの連鎖を断ち切らんとする無垢な魂に‥‥幸いあれ」
十字を切ったギルスの背後、静かな部屋で何があったかは冒険者は知らない。
だが、確かなことはある。
救いがそこにあったということだ。
冒険者が再び部屋に入った時、泣き縋るキャロルと、彼女の髪を撫でるヒースの姿が見られたのだから。
●奪う者、与える者
数日後、冒険者達は歩けるようになったロバートを迎えにいき、教会を黙って見上げた。
少し前までここにいた殺人犯ヒースは、今はいない。
この街のどこにも。誰であろう。ベアリーが逃がしたのだ。
「傷が完治すれば、騎士団に差し出すことになる。その前にとっとと街をでやがれ!」
「それでいいのか? お前の姉を殺した犯人だぞ? いつか自分に牙が向けられると思わないのか?」
あいつのように。とヒースは自嘲するように言う。
彼の身体のあちこちに大きな傷が残されていた。いつか向けられる牙を警戒した者がいたのだろう。
だが、ベアリーは
「俺はあの男とは違う!」
はっきりとそう答えた。
「そうか」
彼は何かを含んだ顔で笑う。
その笑みの意味を、冒険者達はなんとなく察していた。
「どうせあんたは復讐を諦めきってないでしょ。でもね‥‥親父だけじゃなくベアリーもまだ狙うならあたしは容赦しないわよ」
「そうだな。だが‥‥同じ過ちはしないと約束した」
消える前日の彼の言葉を、冒険者達は信じることにしたのだ。
彼は自分で過去の為に未来を使う事を選んだ。
それを止めることは今の冒険者にはできない。
しかし、希望は残った。
「お〜い!」
向こうから手を振るベアリー。
「おやおや‥‥」
彼の隣にぺこりと頭を下げるキャロルを見て、メレディスは嬉しそうに笑う。
二人の首にはそれぞれ、銀の指輪が光っている。
同じ、苦しみを知る者同士。少なくとも彼と彼女は一人では無くなる。
一人で無くなれば、きっとヒースと同じ過ちを繰り返しはしないはずだ。
それこそが見えない依頼人達の望んだことだろう。
『世の中には二種類の人間がいる。奪う者と奪われる者‥‥』
男はそう言った。だが、違うと冒険者は思う。
「彼らは奪われる者ではなかった。与える者だったのですよ」
小さく呟いて絶望の中から立ち上がった希望の光を見つめる。
あの光を決して奪う者には奪わせないと。
自分達は守る者になってみせる。と‥‥。