希望の虹・最終話〜虹を越えて

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 49 C

参加人数:11人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月30日〜04月02日

リプレイ公開日:2007年04月05日

●オープニング

「パーティーをしましょう」
 リデアが唐突に言ったのは、春の気配が本格的になってきた、温かな日だった。
「パーティーって、何のパーティーですか?」
「‥‥えっと」
 問われ、リデアは暫し視線をさまよわせてから、ポンと手を打った。
「そうそう、お誕生日とかそういう‥‥」
「誰かの誕生日、近かったっけ?」
 だが、ジェイクのもっともと言えばもっともな疑問に、その表情が固まる。
「‥‥リデア様、それってわたしの為、ですよね?」
 と、サナが不意に立ち上がった。
「あのね、みんな。わたし‥‥虹夢園を卒園するの。ここを、出て‥‥働こうと思うの」
「「「えぇ〜っ!?」」」
 少しの沈黙の後、子供達の驚きの声が、重なった。
 この虹夢園が開園して一年と少し。その間、出て行ったのはパールだけ。だが、パールは、行方が分からなくなっていた実のお母さんが見つかり引き取られたわけで‥‥そう考えると、サナは初めて正式にここを出て行く、ここを卒園するという事になるのだ。
「まぁ俺達くらいで働いてるヤツはザラにいるし‥‥サナはしっかりしてるしな」
 やがて、恐慌状態から一早く立ち直ったのは、ジェイクだった。
「そりゃあ少し寂しいけど、折角の門出だ。卒園式‥‥っていうのかな、新しい旅立ちを祝ってやろうぜ」
 ジェイクにそう言われると、他の子供達も徐々に落ち着きを取り戻してきたようだ‥‥少なくとも、表面上は。
「‥‥そうよね。サナお姉ちゃんにとって、祝うべき事なのよね」
「卒園パーティー、やりましょうリデア様」
 半ば言い聞かせるようにルリルーやアイカが言い、リデアもホッと安心顔だ。
「一緒に新しい先生やネロやリンナの歓迎パーティーにしちまうってのは、どうだ?」
「そうですね‥‥ええ、それはいいかもしれません」
 ジェイクのアイデアに、クリスは少しだけ躊躇いがちに頷いた。色々あったが、ここにおいてもらえるようになった友人パメラ‥‥まだかなりぎこちない彼女を、クリスは案じている。まだ微妙に、距離を測りかねてもいるし。だけど、こういうイベントが良いきっかけになってきたのを、クリスはここ一年で見てきたから。
 そうと決まれば、卒園式って何する?、飾りつけは?、等々さっそく話し合う子供達。
「で、どこに行くんだ? パールん家とかキャティアの屋敷‥‥やっぱリデア様のトコか?」
 その中、ジェイクはふとサナに問うた。関わりのある人達を思い浮かべる。
「エヴァンス子爵様に雇ってもらう事になったの」
「そっか。サナなら大丈夫‥‥泣き言くらいならいつでも聞くし、辛かったら帰ってくればいい‥‥そっか、いっそここから通ってもいいんじゃないか?」
 ニコニコ言うジェイクに、サナはだが、小首を傾げ。やがて、合点がいったように緩く首を振った。
「違うの、ジェイク。わたしはわたしたちの村に‥‥エヴァンス領の故郷に帰るの」
「‥‥え?」
 ジェイクは目を瞬かせた。サナの、大好きな幼馴染みの言っている事が理解できないように‥‥いや、本当にできないでいたのだ。
 そんなジェイクにサナはゆっくりと続けた。
「わたし達の村が、再建される事になったの」

 サナとジェイク・ショーンの村は前の冬、猛威をふるった流行り病に滅んだ。それでも、家や建物、畑や土地はそのまま残っているわけで‥‥この一年、少しずつ準備は進められてきた、というのだ。
 新しい住人を迎え入れ、或いは、幸運にも病を免れた人々が戻り、少しずつ以前のように‥‥以前のような生活が出来るように。
「わたしはそのお手伝いをする事にしたの。料理や洗濯、自分の出来る事で、役に立ちたい‥‥村を元通りにしたいって」
「‥‥ちょっ、ちょっと待てよサナ!?」
 静かな、決意を込めた瞳で告げるサナ、対照的にジェイクは取り乱していた。
「それって、つまり‥‥その、つまり‥‥帰るって事か?!」
「ええ。さっきからそう言ってるでしょ?」
 ショックを受けたジェイクに、不思議そうにサナ。更にここで、新たな‥‥決意を込めた声がした。
「‥‥うん、ぼくもきめた。ぼくも‥‥サナおねえちゃといっしょに、えっとそつえん、する」
 皆の視線を受けたショーンは、小さく頷いた。
「サナおねえちゃんもおばあちゃんもみんな、じぶんで決めてる。ぼくは‥‥ぼくも‥‥がんばらないとダメ、だから」
 自分を引き取りたい、という申し出を受ける、と。
「そうね。じゃあ、一緒に行きましょう。ショーンを引き取りたいってご夫妻も、エヴァンス領の方でしょう? なら‥‥」
「連絡すればすっ飛んで来てくださると思うけど‥‥そうね、サナの事もお願いしましょう」
 そんなショーンに優しく微笑むサナと、リデア。その、あまりに遠い会話。
「ちょっと、ちょっと待ってくれよ!?」
 ジェイクは堪えきれなくなって、わめいた。
「大丈夫よ、ジェイク。そんなに心配しなくても、ご夫妻は良い方達だし、ショーンだって‥‥」
「違う、俺が言いたいのはそんな事じゃない! じゃあ、俺はどうなるんだよ!、俺は‥‥」
「ジェイクはここで、先生になるんでしょ?」
 ほとんど悲鳴のように声を上げたジェイクは、言葉を失った。
「先生になる‥‥それがジェイクの夢、なんでしょ?」
「それは‥‥そう、だけど‥‥」
 ようやくそれだけを、搾り出す。確かに、それがジェイクの夢であり、目標だ。だが、それは‥‥その未来予想図の中にはいつもサナがいた。虹夢園の先生になった自分の隣にはサナがいると、そう思い込んでいた。
 ここを出て行く日がきても、ウィルで近くで、ずっとずっと一緒に。今までのように、これからも‥‥疑う事無く無邪気に信じ込んでいた。
 何て愚かな、浅はかな自分。だけど、それを認めるには、認められる程には、ジェイクは大人になっていなくて。
「俺、俺は‥‥俺は、嫌だからなっ!?」
 ただ、頭を振って叫んだ。あの頃のように、駄々っ子のように。

●今回の参加者

 ea0502 レオナ・ホワイト(22歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea4441 龍 麗蘭(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 eb4097 時雨 蒼威(29歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4191 山本 綾香(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

アシュレー・ウォルサム(ea0244)/ マルト・ミシェ(ea7511

●リプレイ本文

●積み重ねた時間
「みんな、今日も良い子ね」
 クレア・クリストファ(ea0941)はいつものように‥‥そう、この一年余り虹夢園を訪れる度にそうしてきた通り、子供達一人一人と目線を合わせ、優しく頭を撫でた。
 けれどその中、表情の暗いジェイクに対してだけは、微笑むだけに止めておく。
「ジェイク‥‥もぉ、困った子なんだから」
 ただ、告げる声だけは微笑みと同じでとても、優しい。そして、ジェイクに歩み寄るリオン・ラーディナス(ea1458)に気づいたクレアは、虹夢園の責任者であるリデアを手招き。
「リデア、相談があるのだけど‥‥」
 何事かを打ち合わせたのだった。

「二人の門出、是非祝いに来てやってくれな」
 ご近所やお世話になった人達に‥‥ミカ・フレア(ea7095)はマルト・ミシェや子供達と共に、卒園式の告知をして回った。
「良いか、贅を尽くさずとも工夫次第で料理は美味しくなり、生活も便利になるのじゃ。薬草を賢く使うのじゃぞ」
 道々マルトが言い聞かせるのは、日々の心得。これからの虹夢園に必要な事‥‥自分が遺せる、精一杯の。
「卒園式とパーティー、ぜひ来て下さい」
 耳を傾けながら、道行く人にきちんと頭を下げる、アイカ達。
 けれど、新参者であるネロやリンナはそうはいかない。見習わなくては、と思いつつどうも二の足を踏んでしまっている。
「大丈夫よ、私達がちゃんとついてるから。恐がらずに行ってらっしゃい」
 その双子の背を優しく押したのは、レオナ・ホワイト(ea0502)だ。今まで何度もそうしてきたように、励ましを込めて微笑む。
「「あのっ、来て‥‥下さい」」
 だから、二人は一歩を踏み出せる。見守っていてくれる大人が‥‥先生が居てくれるから。
「よし、二人とも良く出来たな。‥‥ネロとリンナだ、よろしく頼む」
 すかさず二人を紹介するミカ。新しい仲間なのだと。
「二人ともよろしくね」
「サナちゃんとショーン君がいなくなっちゃうのは寂しいけど、新しい仲間が増えるのね」
 顔見知りの奥さん達は、声に少しだけ寂しさを含ませながらも、ネロとリンナに「よろしく」と笑った。
「こちらこそっ」「よろしくお願いします」
 ミカに小突かれた双子は嬉しそうに顔を紅潮させ、何度も頭を下げた。それこそ、虹夢園の子供らしく。
「みんなが成長していく姿を見るのは嬉しい反面、寂しいのもあるわね」
 レオナはポツリ呟いてから、苦笑をもらした。
「‥‥あら、何だか親みたいな考えになっちゃってるかしら」
 丁度その時、双子がこちらを振り返った。キラキラな笑顔。レオナは笑みを返すと、可愛い子供達へと歩を早めた。

●花を添えて
「今回はみんなにとっても大事なパーティになるでしょうし、気合入れていかないとですね」
「これから人生を歩き始める方を祝福するためにもがんばらないといけませんね」
「はい。お掃除して、卒園式の会場作りですね」
 虹夢園では、ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)や淋麗(ea7509)、山本綾香(eb4191)やクリスティアらが会場の設営や飾りつけを担当していた。
「ノア君、皆も卒業式の準備手伝ってくださいね‥‥」
「勿論です」「はい」「うん」
「それでは、ケディン」
 応える子供達。時雨蒼威(eb4097)は鷹揚に頷いてから、ケディンに細工道具を渡した。
「それをやるから、会場の飾りとか頑張れ。‥‥あ、俺は手伝わないから。道具一つしかないし」
「師匠ずりぃ」
 一応不満の声を上げるものの、師匠と慕う蒼威に仕事を任されたケディンは嬉しそうだ。
「ほれほれ、日が暮れるぞ〜時間ないぞ〜」
 軽口で急かせる蒼威。勿論、必要に応じて手は出すつもりで。
「サナちゃんとショーンくんの衣装のコーディネートをお願い」
 そんな中、ルリルーを手招いたテュール・ヘインツ(ea1683)は、秘密任務を伝えた。
「派手過ぎても浮いちゃうから普段来ているのをうまく組み合わせて可愛く、格好よく仕上げて欲しいんだ‥‥それと」
「大丈夫、そこら辺抜かりはないわ」
 心得た、とルリルー。さすがだと思いつつテュールは尋ねてみた。
「ちなみに、園一の事情通ルリルーちゃん的にはジェイクくんに脈はありそう?」
「ないわね」
 断言された。
「家族としてしか見てない‥‥てか、見ないようにしてる感じ」
「見ないようにしてる‥‥?」
「そう。家族を壊しちゃうのがイヤなんじゃないかしら?」
 特別な気持ちを抱いて結果、輪を乱す‥‥サナがそれを恐れるのはアリかもしれない、それが意識的であれ無意識であれ。
「でも、という事は、脈はないってことかぁ」
「このままきっかけがなければ、ね」
 テュールは溜め息をついた。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない。チコくん、一緒にパーティーの準備をしようか。華は無いけど大事なお仕事、頼めるのはチコくんしかいないんだ。一緒にやってくれないかな?」
 気合を入れなおすテュール、チコの答えは勿論、OKだった。

「ついに巣立ちの時が来たってとこかしらねぇ‥‥」
 しみじみともらしたのは、龍麗蘭(ea4441)。麗蘭といえば勿論、料理を任されている。それから、サナ。こちらも「ぜひお手伝いさせて下さい!」と自ら願い出て、だ。
「麗蘭先生、今回は何を作るのですか?」
「折角の卒園式パーティだしね。豪勢に鳥の丸焼きをドーンと焼いてあげるわ。あとはニルナから渡されたホットケーキミックスでドーナツでも作って‥‥ん〜でもあと何品か欲しい所ね‥‥」
 麗蘭は、期待に満ちたサナの眼差しに気づき、口元をほころばせた。
「サナ、私から最後の授業よ。私はメインディッシュを作る、だから他の料理はあなたが作って」
「‥‥えっ!?」
 これは最後の授業‥‥もっといえば、卒業試験といったところか。突然の事に戸惑うサナ。
「何品でもどんなのでも良いわ、材料も私が揃えてあげる。だから貴女の想いを詰め込んだ料理を私達に作ってね」
 けれど、麗蘭の最後の言葉に、その眼差しに、サナは暫く沈黙した後頷き、早速準備に入ったのだった。

「サナちゃんとショーン君はこの位置に座ってもらって‥‥」
「式の段取りは、こんな感じで大丈夫ですね」
 富島香織(eb4410)と麗は、式の進行についても細かく打ち合わせていく。皆の心に残る卒園式にする為に。
「そうすると、飾りはもう少し右の方が‥‥」
「おぅ、高いトコは俺の出番だな」
 それは、告知から戻ってきたミカ達だって、同じだ。
「もう少し‥‥」
 ぎこちなくも、クリスに手を引かれ少しずつ少しずつ、参加しようとしているパメラだって多分、そうだろう。
「‥‥でも、本当にサナお姉ちゃんとショーン、いなくなっちゃうんだね」
 けれど着々と進む準備の中、ララティカがふと呟いた。反対なわけじゃない、ジェイクのようにサナを困らせるつもりはない‥‥だけど少し、ホンの少しだけ切なくて。
「出会いがあれば別れもあります」
 その気持ちが分かるから、麗は優しく言葉を紡ぐ。ララティカをチコを皆を、優しく見回し。
「別れは終わりでなく、始まりであり、成長するのに必要なことです。立派になったサナさん達を見てみたくはありませんか?」
 難しい事はまだ分からなくてもいい。ただ、何となく‥‥これは終わりではないのだと、新しい始まりなのだと分かって欲しかった。
「だから明日は、大好きな気持ちをたくさん、込めましょうね」
 そして、レオナにそっと頭を撫でられ、ララティカはコクンと首を上下させた。
「師匠‥‥どう、かな?」
 やがて、皆の頑張りもあり、キレイに整えられた教室。花を模した飾りも、壇上の椅子も、卒園式な雰囲気を盛り上げている。
「ん、グッジョブ」
 グッ、と親指を突きたてた蒼威に、ケディンの頬が緩み。
「あっそうだ、コレ‥‥サンキュ、すげぇ使いやすかった」
「ああ、道具はかえさんでいい。お前にそれをやる、と俺は言ったぞ?」
「え‥‥でも‥‥」
 ケディンが来て半年‥‥ついでの生誕日祝い代わりだ。
「俺の中古だが、新品の方が良かったか?」
「そんな!? これが良い、これが嬉しいけど」
 慌てて首を振る弟子に、蒼威はふと表情を改めた。
「前、秋に散策行った時、お前言ったよな? 『こんな手で、何か‥‥生み出してもいいのかよ』と」
「‥‥うん」
 その躊躇いは今もある。物を作り出す喜びを知った‥‥だけど、だからこそ。
「今日、お前が自分自身の力で作り出した物を喜ばない者は、ここには居ない。なら些細な想いや過去にもう囚われる必要は無い筈だ。誰かがお前を責めるなら言われた数だけ幸福をその手で作り上げろ」
 しかし、蒼威は言葉を続ける。力強い光と声、その躊躇いと罪悪感とを吹き飛ばすように。
「将来、俺なんかより優れた師匠や工房に弟子入りするといい。お前なら何を作るにしても立派な職人になれるさ」
 指し示される、未来。ケディンは込み上げてくる涙を必死で堪えた。泣いちゃダメだ、こんな時は笑うんだきっと。
「‥‥でもさ、俺の一番の師匠はやっぱ、師匠だよ」
 だから、ケディンは師匠からの贈り物を胸に、泣き笑いの表情で頷いた。

●その名前
「光の下へ、夢へと踏み出すサナ達への励ましの歌‥‥皆で考えましょう?」
 それぞれの仕事を終えてから、レオナは最後の仕上げと子供達を見回した。
 歌を、創り出す為に。
 中心となったのはやはり、ララティカとアイカだ。堂々たる様子で、皆の意見や歌詞を組み立てていく‥‥二人なりに、お姉ちゃんがいなくなる分頑張ろう、と思っているのだろう。
 その中でレオナが気になったのは、やっぱりジェイクだ。
「大切な人と離れることになって寂しい気持ちも分かるわ」
 だから、レオナは静かに曲を合わせながら、言葉を投げかけた。
「‥‥それでも、男の子でしょ。頑張る女の子を応援しないでどうするの」
 悔いの残らない様にして欲しい、願いなんてそれだけ。ジェイクもサナも皆も、本当に優しくて、強くて‥‥良い子達だから。
「ジェイク、貴方はこれから先生になるのでしょう? それ故に別れと出会いを繰り返すと思います、今からこのようでは笑われてしまいますよ?」
 同じくジェイクを気にかけていたニルナは、厳しさの中にも優しさを込め、告げる。
「ジェイク君、サナちゃんと別れることはそんなに嫌ですか?」
「嫌だ! そんなの、決まってるじゃないか」
 キツく唇を噛み締めたジェイクは、香織の問いに思わず叫んだ。
「本当に嫌なのは、恐れるべきは、心が離れる事ではないのですか?」
 けれど、続けられた言葉に勢いは急速にしぼむ。
「ニルナさんの言葉ではありませんが、人生は出会いと別れに彩られます。今は別れても将来迎えに行くことも可能なのですよ‥‥未来には色々な可能性がありますもの」
 それは今、目の前しか見えなくなってしまっているジェイクに、たくさんの選択肢を教える為の言葉。
 けれど、ジェイクは素直に頷けない。頷くしかない事は分かっていて、だけど、それは諦める気がして。何を?、何かを‥‥頭でなく心が拒否していた。受け入れる事を。
「ジェイクなら、わかるだろ? サナがどんな事考える女の子なのかとか、どんな気持ちで帰る事を決めたのかとか‥‥」
「そりゃあ、分かる‥‥分かってるさ、だけど‥‥」
 だから、じっと聞いていたリオンはもう一度、繰り返した。ジェイクはもうサナの選択を受け入れている‥‥受け入れようとしていると、察して。
(「ジェイクもこの一年の間、何も成長しなかったわけじゃない。気持ちの切り替えが出来ないだけ、なんだよな」)
 だとしたら、気持ちの整理をつけさせてやりたい‥‥少なくとも手伝いをしてあげたかった。ジェイクが後悔しないように。
「サナって、ジェイクの中の何なんだろうな?」
 リオンはさり気なさを装い、問うた。
「‥‥俺にとっての、サナ?」
「ああ。これは、そう言う事を改めて考える機会なのかもな。ホラ、今までは身近に居過ぎて逆にそう言う事、考えもし無かったろ」
 反芻するジェイク。自分にとっての、サナ。ずっと一緒にいた、女の子。大切な大切な、自分にとって一番大切な。
「‥‥分かんないよ、そんなの。サナは一番大切な女の子だ‥‥それだけ、だよ」
「それだけ分かってりゃ充分なんじゃないか? 大切で、笑っていて欲しいんだろ?」
 ジェイクは弾かれたようにリオンを見上げた。一年前はもっとずっと高い位置にあった、兄貴分の顔を。
 知らない、分からない。この感情の名前なんて‥‥でも、サナが大切な事は、いつもいつでも笑っていて欲しいというのは、あの頃からずっと変わらない気持ちであり、願いだった。
「‥‥今、サナを困らせてるのは、俺だよね」
「まぁな」
 濡れた声に、リオンは何も言わず、ただその肩をポンポンと叩いてやった。
 希望の歌が慎ましく優しく、流れていた。

「ショーンくん、頑張らないとダメなんていったんだ‥‥でもそんなことないよ」
 微かに聞こえる、皆の歌声。耳を傾けていたショーンの隣に、テュールはストンと腰を下ろした。
「今、ショーンくんは頑張って笑ってるわけじゃないでしょ? 一緒にいるだけで自然に笑える、それが家族っていうことなんだ」
「‥‥うん」
「新しい家族になって最初から同じようにはいかないだろうけど、きっとすぐに同じように笑えるようになるから‥‥頑張ったりなんてしないで大丈夫」
 頑張って、無理して笑わなくてもいいんだよ、と。
「そのままのショーンくんが、みんな大好きだよ」
 小さな身体を抱きしめる。それでも、一年前よりずっと大きくなった。
 そのまま暫し、漏れ聞こえてくる優しいメロディに、二人は聞き入った。互いの温もりと、優しいメロディに、包まれながら。

「呼び出してしまって、ごめんなさいね」
 別の場所では、今度はサナを前にした香織と、ミカがいた。
「なぁサナ。おまえジェイクの事、どう見てるんだ?」
 問うたのは、ミカ。けれど、気になっているのは香織も同じ。
「‥‥大切な家族ですよ」
 その答えに「やっぱり」と思う香織。同時にどこか微かな違和感も覚える。
「では、サナちゃんはジェイク君がいなくなったらどう思いますか?」
 だから、問いを重ねた。
「ジェイク君がサナちゃんの人生に、今後どういう影響を与えるか‥‥考えてみてほしいんです」
 それはサナにとって少し難しかったらしい。
「難しいかもしれませんが、将来の幸せになりうるかもしれない選択肢を減らすのはもったいないですからね」
 香織はだから、少し悪戯っぽく付け加えた。
「‥‥はい」
「どっちにしろ、たまにはこっちに顔見せに戻ってやってくれよな。ジェイクも心配するだろうし、さ」
 考え込むサナを案じたミカは、殊更明るく声を張る。
「後は‥‥アレだ、あんまり気ぃ張りすぎるなよ。頑張るのはいいが、それで体壊しちゃ何にもならねぇからな」
「でも、頑張らないと‥‥」
「サナちゃんが故郷に帰るのは、村を復興したいから、その役に立ちたいから‥‥でも、それだけではないのでしょう?」
 その気負った様子に香織は気づいた。
「私は、この虹夢園のような存在は必要だと思います。今後も上手く運営されることを願ってやみません‥‥サナちゃんも同じなのですね」
 一時より状況は良くなっているとはいえ、この場所がエヴァンス領の管轄下にある以上、その存在も磐石と言い切る事は出来ない。
「だから、サナちゃんは故郷に帰る‥‥エヴァンス領の人達に、虹夢園をアピールする為、行動で訴える為」
 勿論、皆の役に立ちたいという純粋な気持ちもあるだろうと、香織も分かっているが。それでも、11歳の選択にしては、その意志が強すぎる気がしていたのも、事実。
「それはみんなの‥‥そして、ジェイク君の居場所を守りたいから、ではないの?」
 サナは初めて視線を揺らし、俯いた。
「あのな、サナ。あんまり俺たち大人を見くびるんじゃねぇぞ」
 俯いたサナの眼前に回りこんだミカは、小さな指を突きつけた。
「おまえが頑張り屋だって事は分かってる。しっかりしてる事もな。だけど、全部を一人で背負おうとすんなよ」
「そうですね。私達も、リデアさんやエヴァンス子爵だって頑張ってくれますもの」
 だから、あなたはあなたらしく、素直な気持ちで‥‥香織は微笑みと共に、その手の平に小瓶を落とした。

●卒園式
「うおっ!? 師匠がカッコいい?!」
「くくっ驚いたか。師匠もたまには礼服を着るのだ」
 当日は、良く晴れた穏やかな日だった。現れた、礼服でバッチリきめた蒼威に驚くケディン。
「こっちも出来たわよ」
 負けじと、ルリルーが本日の主役二人をお披露目する。華美でない清楚な装いのサナと、可愛らしいちっちゃな礼服を着たショーンと、ついでにジェイク。
「ではこれから、虹夢園の第一回卒園式を始めます」
 式は、司会進行の麗の宣誓で始まった。
 近場のキャティアやパール達、ご近所さんにはミカ達が挨拶回りした。けれど、ショーンを引き取るご夫妻やヘンウィ卿が来ているのは、クレアが飛ばしたシフール便による成果だった。
 だから今、多くの人達が‥‥本当にたくさんの人達がやって来てくれたのだ。
「この1年、随分と多くの人と知り合ったものね‥‥そして、これからも」
 驚きと嬉しさを浮かべるサナとショーン。クレアは集まってくれた人々を改めて見回しながら、この一年を、紡いだ絆を嬉しく思いながら、二人の前に立った。
「来賓、祝辞」
「卒園おめでとう。サナもショーンもこれから、たくさんの出来事に出会うじゃろう」
 クレアが読み上げるのは、マルトから託された手紙。
「どうか、幸せに‥‥それだけが婆達の願いじゃ」
 自分の思いも重ねながら、クレアは読み上げた。
「では次に、リデア様からも一言」
 感謝と祝辞を述べるリデア。壇上から降りたクレアはさり気なくジェイクを抱き寄せると、その手にあるモノを握らせた。
「この指輪に貴方の誓いを込めて‥‥サナに渡しなさい」
 囁かれ、ジェイクは手の中のものを‥‥誓いの指輪を握り締めた。
 そうこうしている間にも、式は粛々と進んでいく。
「2人に何か一言、これからの目標みたいなのを言ってもらいましょうか」
 ニルナのアイデアに麗はにっこり頷くと、サナへと視線を移した。
「では、サナさんから」
「はい。わたしはみんなに美味しいって言ってもらえるような‥‥麗蘭先生みたいに立派な料理人になりたいです」
 受け止め、サナは真摯な面持ちで応えた。願いと、自分が目指す先‥‥麗蘭をしっかりと瞳に移して。
「ぼくは‥‥よく分からないけど、しぜんに‥‥ぼくのままでいたいって。で、みんながわらってくれたらいいなぁって‥‥」
 励ましを込めたテュールの首肯を受け、ショーンはこれから家族になるはずの夫妻を見た。瞳を潤ませながら、何度も頷いている二人‥‥自然と、少し照れくさいような微笑みが浮かんだ。
「サナ、ショーン、私は貴方達に何かをしてあげるってことはあまりできなかったけれど、祈らせてもらいますね‥‥神のご加護がありますように」
 ニルナは満足そうに卒園生二人を優しく撫でると、本を手渡した。サナには海の魔物、ショーンにはイギリス王国博物誌、ここでの思い出とこれからの幸福を祈って。
「向こうに着いたら植えるといい」
 蒼威がサナに贈ったのは、大きな袋だった。そこには黒い小さな種や緑の豆がたくさん詰まっている。
「芽吹いた芽は花を開き、そして枯れるが種を残す。ここでの思い出を草花が延々と残してくれるだろう」
 人も花も、有限で短く儚き生命だ。だが、蒼威は知っている。人は子を育み、花は種を残す事を。だからこそ、その喜びも悲しみも、想いは永久に受け継がれる、受け継がれていくのだ。
「ああ生きる事は、なんとも素晴らしい」
 花も、そして人も。祝福と希望を込めて、蒼威は微笑み‥‥強い瞳で立ち上がった少年に、場を譲った。
「‥‥俺はやっぱ、サナが好きだ。サナの笑顔が大好きだよ。だけど、だから‥‥サナの夢を邪魔しちゃダメなんだよな」
 キツく拳を握り締め、ジェイクはサナを真っ直ぐ見つめた。
「だから、誓うよ。サナの夢ごと、俺はサナを守る。遠く離れてたってずっと、俺の想いがサナを守るよ」
 差し出される、指輪。幼く拙い、だからこそ真摯で必死な、誓い。
「‥‥ありがとう、ジェイク。わたしもジェイクの事、好きよ。離れててもずっと、ジェイクの幸せを願ってる」
 受け止め、代わりにサナは小瓶を差し出した。香織から譲られた、スターサンドボトル。星の形をした砂の入った、それ。
「これを持っている恋人達は幸せになれるんですって」
「それって、つまり‥‥」
 見る見る顔を真っ赤にするジェイク。
「上手くやりやがってこんちきしょ〜!」
「二人とも、おめでとう」
 見守る者達から、祝福の歓声が上がった。
「どんな事でも人生に無駄なことなどありません。がんばってください」
 そんな幼い恋人達を見つめ、麗は心からエールを贈った。
「これから、幾重の試練があるかもしれない彼らに祝福を以って送ってあげてください」
 そして、麗の言葉に、来賓からも大きく温かな拍手が沸き起こったのだった。
「何だか、感慨深いですね」
 拍手と共に胸中をよぎる、様々な思い出。今まで会った様々な出来事、今まで出会ったたくさんの人々。瞳の奥、込み上げてきた熱い塊を、綾香はそっと押さえた。
「でも、これはさよならではありません‥‥これは、新たな一歩なのですもの」
 僅かに濡れた瞳で、それでもしっかりと教え子達を見届ける。自分は先生だ。この虹夢園の先生なのだ。
「最後までちゃんと見届けて、きちんと送り出してあげなくては」
 そう、決めていたから。

●さよならでなく
「さぁ、召し上がれ」
 厳粛さを漂わせた式から一転。パーティーともなれば、麗蘭の出番だ。サナもまた、今回はもてなす側として、懸命に腕を振るう。
 ここで過ごした事を、ここで学んだ事を、ここで出会った人達に感謝しながら。
 麗蘭が作ったのは、メインディッシュである鳥の丸焼きと、ドーナツ。テーブルの中央、ドーンと存在感と香ばしい香りを放って。
 サナが用意したのは、彩りよく添えられたサラダと、昨日からじっくりと煮込んだスープ、それに、果物をしぼったジュースとハーブティーだった。更にニルナの用意した缶ジュースとコーヒーが振舞われる。
「サラダはキレイに盛り付けられてるわね。スープも‥‥うん、少し大味だけど、料理との相性が考えられているわね」
 緊張していたサナは、及第点にホッと胸を撫で下ろす。
「昨日はちょっと心配していたけど、悩みは晴れたようだしね」
 料理は作り手の精神状態も影響する。お見通しな師の言葉に、サナは少しだけ赤面し、「はい」と小さく呟いた。昨日、香織やミカと話してから気が楽になって‥‥今日は料理に集中できた。食べる人を思って、皆の笑顔を願って、料理が出来たから。
「やっぱり麗蘭せんせーのご飯、美味しい!」
「サナだって‥‥このスープなら何杯だっていけるぜ!」
「虹夢園くると、美味い料理にありつけるんだよなぁ」
 あふれるたくさんの笑顔が、サナの麗蘭の心を満たす。
「免許皆伝‥‥ってわけじゃないけど、これ、餞別よ」
 だから、麗蘭は自分が使っていた調理器具セットを、サナに差し出した。
「でっ、でも‥‥」
「貰って欲しいの、サナに」
 微笑みに促され、震える手が伸ばされる。壊れ物を扱うように、そっと受け取る。
「まぁ、私だって一応冒険者だし、何かあったらすぐ来なさい」
 そっと、でも、しっかりと‥‥思いを譲り受けてくれた教え子に、麗蘭は一つウィンクし。
「貴女からの依頼ならタダ働きでも受けてあげるから」
 サナの頬をとうとう、涙が伝った。
「そして最後に‥‥『料理は心なり!』、これが私が貴女に教えた事の全てよ」
 サナは何度も何度も頷いた。濡れた頬で、それでもキレイに、幸せそうに笑いながら。

「随分とらしくねぇじゃないか」
 たくさんの人の間をぬうように飛び、子供達の様子を見て回っていたミカは、片隅でしょんぼりしているルリルーに気づいた。
「べべべ別にッ、泣いてたわけじゃないのよ?! サナお姉ちゃんのあんな顔見たって、あんな美味しいスープもらったって、あたしは全然さびしくないし、ヘーキだもの」
 強がるものの、声が震えていた。
「いつかは他の子も‥‥お前にも、旅立つ時が来るだろう」
 だから、ミカは優しく、諭すように言葉を紡いだ。
「だが心配はいらねぇ。例え遠く離れても、ここで過ごした記憶ある限り、絆は失くなったりしねぇから‥‥な」
「‥‥うん」
 分かってるわよ、言う代わりにルリルーは頷いた。
「これ、マルトから預かってきたの」
 同じ頃。クレアはクリスにロザリオを、パメラにはスリーピングビューティを渡していた。
「私にはこのドレスは似合わない‥‥」
「似合うくらいの笑顔を、いつか取り戻しなさいって事よ」
 顔を歪めるパメラにクレアは、お手本のようにニッコリと笑んでみせた。つられるようにその表情がぎこちなく動く。今はそれだけ、だけど。
「ここに居るならばそのうち、嫌でもそのドレスが似合うようになるわ。ここには、笑顔の素がたくさんいてくれるもの」
 それが何を指しているのか、言うまでもない。パメラの顔がふと緩んだように見えたのは、多分クレアの目の錯覚ではないだろう。
「あの子達の為、気持ちを新たにしろという訓えですね」
 こちらは、ロザリオを真摯に見つめクリス。
「まぁ、あんまりガチガチになっちゃダメだと思うけど?」
 クレアは悪戯っぽく笑むと、ちょいちょいとこちらを窺うリオンを指し示した。

「ノア君、私は貴方が大好きです」
 庭の喧騒が僅かに聞こえてくる、他に誰もいなくなった教室。感慨深く佇んでいたニルナはふと膝を落とし、傍らのノアと目線を合わせた。
「ニルナ先生‥‥?」
「いろんなことがあったけれど、真面目な貴方も一生懸命な貴方も大好きです‥‥・これからも私の生徒でいてくれますか?」
 差し出された本‥‥豪華な聖書を、ノアは押し抱くように、そっと受け取った。
「ニルナ先生は、僕の先生です。これまでも、これからだって‥‥尊敬する、大切な‥‥大好きな」
 どこか確認するように噛み締めるように心に刻むように抱きしめるように。
 ニルナは「ありがとう」の代わりに口付けを贈った。その頬に、柔らかな唇をそっと押し当て。
「これからもよろしく、ね」
 呆然と硬直したノアにそして、ニルナはニッコリと微笑んだ。

●限りない未来へ
「‥‥」
 宴もたけなわ、クレアは一つ咳払いをすると進み出た。子供達を、集まった人達をぐるり見回してから、澄んだ声を上げる。

♪繰り返される 出会いと別れ
 それは誰にも止められない事
 でもそれがまた 新しい物語の幕を上げる
 変わるものと変わらないもの
 巣立つ者と残る者 そして育て護る者
 それ等全てが色となり 希望と言う名の虹となる♪

 有りっ丈の想いを込めた詩、クレアは皆に、出会った全ての人達に捧げ、詠い上げた。
「ララティカ、アイカ‥‥私をビックリさせる位の出来、期待してるわよ?」
 たくさんの拍手が鳴り響く中、レオナは二人に合図した。二人は互いに顔を見合わせてから、コクリ頷いた。レオナでなくアイカが竪琴を爪弾き、ララティカが歌う。
 ララティカの歌声はともかく、アイカの演奏はまだまだ拙い‥‥勿論、いつものレオナのものを聞きなれていればこそ、だが。
「でも、丁寧で優しくて微笑ましい‥‥聞いてると自然と微笑みたくなるような、素敵な演奏だわ」
 瞳を閉じじっと聞き入りながら、レオナは思い出していた。
「歌は人を幸せにする。曲は人の心を優しくさせる」
 そして、願う。
 どうか皆が幸せであるように、と。
「あなたがたもいずれ成長する機会を向かえ、それを乗り越えてくれることを祈らせていただきます」
 それは麗も同じ。子供たちに、心からの祝福を祈る。
「リオンさん、私もずっとここにいます。子供達と一緒に、リオンさんが元気でありますよう、祈っています」
 リオンは瞳を潤ませたクリスに、確りと頷き。
「そうだね。虹夢園はここにあるから、また会えるその日まで、別れの挨拶は『またね』だよ」
 テュールはショーンの頭を撫でながら、そう笑った。曇りのない、晴れやかな笑顔で。
「‥‥うんッ!」
 応えて、ショーンがサナが子供たちが、満面の笑顔を浮かべた。
「「「またね!」」」
 交わされるそれは別れじゃない、再会を約束する言葉だった。
 そして、子供達は声を合わせる。レオナの竪琴に合わせ、クレアのように想いを込めて。自分達が作った、旅立つ仲間に贈る歌を。
 子供達は、歌った。限りない、想いを込めて。

♪虹を越えて行こう
 どこまでもどこまでも 明日を信じていこう
 虹を越えて行こう
 どこまでもどこまでも 夢を信じていこう
 昨日を越えて 今日を越えて
 希望の明日を目指していこう
 どこまでもどこまでも 虹を越えて行こう♪