一輪の花1〜タンチョウアリウム

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2006年06月20日

●オープニング

「いい加減に納得しなさい、ヴェルグ!」
「いいや、納得出来ない! 母さん達は何時もそうやって家柄に拘るんだ!」
「当たり前でしょう? これも家系存続の為なの。分かって頂戴、ヴェルグ?」
「僕は絶対に嫌だ! 父さんにも相手様にもそう伝えてよ!」
「待ちなさい、ヴェルグ!?」
 貧しい貴族にとってはよくある話。
 家系存続の為に、我が息子を売るに等しい行動に走る。
 そう、よくある話。
 それに嫌気がさして、逃げ出すその息子も‥‥よくある話‥‥。

 家族からの追っ手を何とか撒いて、一人のんびり街を歩くヴェイグ。
 絶対に嫌だ。家族に決められたレールの上を走るなんて絶対に。
 そんな思いが強く、どうしても家に帰る気にはならなかったという。
「大商人の娘‥‥か。会わず断ったのは悪かったかな‥‥でも、親が決めた家柄の為の婚約なんて‥‥!」
 そう言いながら街をぶらついていたヴェルグ。結局刻は夕刻となってしまっていた。

「お花、いりませんか? お花、買ってください」
 そんな声が彼の耳に入ってきた。
 少し気になってふと声がした方を見やると、花売りの娘が一人。
 懸命に声を出して花を人に売っていた。カゴを見ると‥‥どうやら残り一本が売れないらしい。
「‥‥あれで生計を立ててる人なんだろうか。最期の一本だし‥‥。あの、すみません」
「はいっ!」
「その最期の一輪、僕が買っていいかな?」
「はい、勿論です! ありがとうございますっ!」
 そう言って満面の笑顔でヴェルグを見上げる花売りの娘。
 その娘に、騎士は一目惚れしてしまうのである‥‥。

「で、その娘さんを探して欲しい‥‥っていう事ですね?」
「えぇ、そうなんです。彼女は花売り娘だという話は聞いています。その所為か、何時も一定の場所にいるわけではないという事も‥‥今までは、自分で探して必ず一輪買うようにしているのですが‥‥
それだけでは想いも伝えられないと思って‥‥」
「ご自分ではお伝えにならないのですか?」
「其れが‥‥僕の家族が反対すると思いますし、家を飛び出して縁談を断った事もあってか家では見張られているんです‥‥ですから! 冒険者の皆様にお力をお借りしたいのです!」
「そうですか。では、その娘さんに貴方の想いを伝えればいいんですね?」
「はい、出来れば連絡をくだされば‥‥なんとか撒いて会いにいきますッ!」
 ギルド職員が分かりましたと頷くと、ヴェルグは一礼をしてその場を後にした。
 長く居すぎてはバレてしまうと悟っていたのだろう。
「‥‥はぁ、しかしあの話に出る花売り娘さん‥‥まさか今噂されている‥‥?」

 首を傾げながら、依頼書を作成し貼り出すのであった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4039 リーザ・ブランディス(38歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4310 ドロシー・ミルトン(24歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●あんたあの娘のなんなのさ
「花売り探し、か。名前も知らない、容姿だけとなると結構難しいものがあるな」
 リーザ・ブランディス(eb4039)がそうぼやく。
 とりあえずギルドで方針を確認しあおうという事で集まっている冒険者達。皆、依頼者であるヴェルグの恋を応援しているのである。
 ただ一人、リュイス・クラウディオス(ea8765)を除いては。
「ま、依頼だし‥‥やるしかないよな」
「そうですよリュイスさん。さっきもお話した通り、やはり成就させてあげたいです!」
 力強くそう語るリース・マナトゥース(ea1390)の気迫に、リュイスも少したじたじである。
「さて、本第に入ろうよ。ギルド員さんは、依頼を請ける時にいってた噂って知ってるんだよね? どんな噂なの?」
「はぁ‥‥一応、直ぐに手に入る情報ですが。二度手間かけさせるのもアレですし、お話します。ここら辺では結構有名な大商人がいるのですが、其処の娘さんはつい最近家を飛び出したと聞きまして‥‥」
「ふむ。それとその花売りとどういう関係が?」
「実はその花売り娘さん、その大商人の娘さんとそっくりだって今噂になっているんですよ。でも、みんな他人の空似として見ていますね。世の中には似ている人が三人いると言いますし」
 ギルド員がそう話すと、冒険者達は納得したかのように頷いた。実はそうあれば良かった、と思っている者も数人いたようだ。
「どんな容姿なのか、大体何処にいらっしゃるか分かりますか?」
「容姿、ですか? そうですね、色白でほっそりとしていて‥‥何時も白い服を着ていると思います」
「場所は?」
「其処までは分かりませんね。人が多い場所や、お金に余裕がある人がいる場所。それに、酒場といった場所でも売っている姿を見た事があるって聞きますから」
 ギルド員の答えに、少し残念そうにうなだれるリース。こうも出現場所が多くては、手分けして探すにしてもくたびれそうだからだ。
「で、ヴェルグ殿はその花売り娘の詳細等告げていったのか?」
「それと、名前だ。花売り娘の名前は分かるか?
「いえ、これといっては特に。本人はどうやら名前は知らなくて、外見だけ知っているといったようでした。花の種類等は私には分かりませんでしたね、大事に持っていらっしゃったので。あ、彼女の名前ですか? ユーリというお名前だと噂では聞きました」
 アハメス・パミ(ea3641)とリーゼの質問に答えると、ギルド員は小さく頭を下げてから奥へと戻っていった。
「さて、これでギルドからの情報は出揃いましたね」
「名前が聞けただけでも収穫だね。とにかく、後は相談通りに手分けして探そうよ!」
「見つけたり、何かあれば酒場でいいんですよね?」
 エリーシャ・メロウ(eb4333)が確認の為尋ねると、リーゼは大きく頷いた。

●教会曰く彼女は天使
 テント造りの小さな伝道所。その中へ、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は足を踏み入れた。信者が三人以上集まるところがジーザスの花嫁であるとすれば、ここも間違いなくそうであった。
「おや、これは‥‥奉仕に参られたのですか?」
「実は、とある人がこの街でお花を売り歩いてる女性を探してるんだ。心当たり、ないかな?」
「この街にいる花売り娘‥‥ですか? もしかして、それはユーリさんの事ではないですかな?」
「うん、そう!  その人だよ!  何処にいるかとか、分からない?」
「何処にいるかまでは分かりませんが、彼女は本当にお優しい‥‥まるで天使のようなお方ですよ」
 クレリクがそう告げると、レフェツィアは小さく首を傾げた。
 どうやら彼女の評判は良い様である。悪い噂が流れてるのかもと心配していた彼女にとっては安堵だろう。
「花を売り歩いては身寄りの無い子供達の自立の為にその売り上げのお金を子供達に差し上げているのです。これは専らの噂ですが、自らの家に身寄りの無い子供達を引き受けているとか‥‥」
「へぇー‥‥その人、とっても優しいんだね!」
「えぇ、彼女程優しい人はいませんよ。神の使いかもと錯覚出来る程に‥‥。彼女の真心の込められた言葉に、皆さん主に捧げるようにお金を払っているのです。それに、街の雰囲気がとても良くなりました」
 それを聞いて、レフェツィアは嬉しく思った。依頼者であるヴェルグの想い人がそのような優しい人である事に。

●子供達曰く彼女は母親
 人通りが賑やかな市場。
 其処にエリーシャとエルマ・リジア(ea9311)はいた。
「ここなら、情報が少なからず集まるかも知れませんね」
「私は商店の店主に聞いてみます。エルマ殿は子供達から情報を聞き出してみてください。子供というものは、意外なものを見ていたりしますから」
 そうエルマに告げると、エリーシャは近くの商店に歩み寄った。
「へい、いらっしゃい!」
「買物客でなくてごめんなさい。ユーリというお方、御存知ないですか?」
「ん? ユーリちゃんかい? 知ってるよ、それくらい!  この街の有名な人だからねぇ」
「何処にいるとかは?」
「ユーリちゃんは日によって売っている場所が違うんだ。更には品物である花を積みにいっている可能性もあるから、何処にいるかまでは‥‥」
 どうやら、商店の店主からもそれ相当の情報は得られないようだ。
 やはり、転々としている彼女を見つけるのは難しいのだろうか?
「あ、其処のお嬢さん。聞きたい事があるのですが‥‥」
「なぁに、お姉ちゃん?」
 後の手がかりは子供。エルマは道で遊んでいる子供を呼び止め、情報を聞き出そうとしていた。
「ユーリっていうお姉さんの事、知らないですか? 知っていたら、お姉さんに教えて欲しいのですが‥‥」
「ユーリお母さんのお友達なの?」
「お母さん?」
「そうだよ!  ユーリお母さんはみんなのお母さんなんだよ!」
 その時。襟に白い花を挿した女性が通った。
「お姉さんありがとう!」
 子供達が口々にお礼を言う。
「どうしたの?」
「うん。ユーリお母さんからお花を買った人だよ」
「見かけたらお礼を言いなさいってユーリお母さんが言ってたの」
 あちこちで子供の声で『ありがとう』が聞こえる。女性は照れくさそうに、しかし誇らしげにお礼の言葉を浴びて通り過ぎた。
「そ、そのユーリお母さん、今何処にいるか知りませんか?」
「朝からお花摘みいったから、今頃は売ってると思うけどー‥‥」
「居場所までは知らないの、ごめんね、お姉ちゃん」
 しょんぼりする子供達の頭を撫でながら、エルマはエリーシャに合図を送った。彼女の行き先は、待ち合わせ場所である酒場‥‥。

●彼女曰く‥‥
 皆が手分けして探している中、リーザとアハメスも独自に娘を探していた。聞き込みながら探すも、居場所までは知らないという者ばかり。
 諦めて酒場へ戻ろうとした時だった。探していた彼女らしき人物が花を売っている所に出くわした。色白。白い服。ほっそりとした体系。特徴は合っている。
「お花、いりませんか? 代価は心で決めただけ。お花、いりませんか?」
「一つ貰おうか?」
「ありがとうございます。え? こんなに?」
 綺麗な花だが、代価としては過分である。
「いいって、とっとけ。俺は金持ちなんだよ」
「ありがとうございます。あなたに竜と精霊の加護がありますよう」
 にっこりと微笑みながら、小刀で茎を斜めに切って服の襟に挿す。なんだか花売りと言うよりも慈善募金活動に近い。

「‥‥どうやら彼女のようね」
「みたいですね。とりあえず、彼女を集合場所にまで連れていかないと‥‥」
「あたしがやるよ。その方が手っ取り早いだろ?」
 そう言うと、リーザは素早く花売り娘に近づき、花を一輪手にとった。
「綺麗な花だね? なんていう花なんだい?」
「タンチョウアリウムっていうお花です。私、好きなんです、このお花」
「じゃあ一輪貰おうかな。‥‥あんた、ユーリって名前?」
 リーザがお金を払いながら尋ねると、彼女は目をパチクリさせて小さく頷いた。
「あの‥‥どうして私の名前を知っているの?」
「あんたに会いたいってやつが一人いてさ。よかったら、話聞いてやってくれないかい?」
「私に会いたい人、ですか? あの‥‥でも私このお花売らないと‥‥!」
「其れはあたし達の仲間がやってくれるって言っててさ。よければでいいんだけど」
「‥‥お会いするだけ、なら」
 ユーリがそう言うと、リーザは優しく笑って一輪の花を受け取った。
 白く輝くその花は、とても綺麗で見事なものだった。

●想い、伝えては、夢を見て
 情報をひとしきり集めた冒険者達は、既に酒場に集まっていた。リュイスが弾き語りとしている為か、上手くダミーとして役割を担っていた。勿論、バレる事もない。小声で話していればの話ではあるが。
「エルマさん達の情報も、やっぱり好印象だったんだね」
「はい。レフェツィアさんの所と同じですね」
「リースさんとドロシーさんがヴェルグさんの動きを見ていてくれてるみたいだったから、テレパシーで動き出せば手助け出来るかもだね」
「見つかればいいのですが‥‥」
「大丈夫。ちゃんと見つかったよ」
 リーザの声が聞こえると、心配していたエルマ達の表情は明るくなった。
 リーザとアハメスの隣にいる花カゴを持った少女。ギルド員が言っていた特徴とぴったり合う女性。
「名前も確認したわ。ユーリであってたよ」
「ユーリさん、いきなりこんな酒場まで呼び出して、ごめんなさい。お花、私が売ってきますから」
 そう言うと、エルマは花カゴを受け取り外へと売りに向かった。ユーリはリーザに案内されるがまま、酒場の椅子へと腰をかける。
「リュイス、後の連絡は頼んだよ?」
「はいはい、やりますよっと‥‥」
 こうして、リュイスからのテレパシーがヴェルグへと伝わる事となる。
 花売り娘を見つけた。酒場にて待つ、と。

(「彼女が見つかった!? こうしてはいられない、行かないと‥‥!」)
 ヴェルグは慌てながらも冷静に辺りを見回すと、其処には2人の人影があった。
 待機していたドロシー・ミルトン(eb4310)とリースである。
(「もう少し待ってて頂かないと‥‥しかし彼女を待たせては‥‥」)
「お出かけですか、ヴェルグ様?」
「あぁ、少し散歩がしたいんだ。一人で色々と考えたいんだ、縁談の事‥‥とか」
「左様ですか。御夫人にはそうお伝えしておきます故‥‥」
 執事らしき男の言葉を最後まで聞かずに、ヴェルグは急いで屋敷の外へ。勿論、追っ手はついてきている。その気配を、ドロシーとリースも感じ取っていた。
「どうしましょう。追っ手がついてきてては危険極まりないですね」
「じゃあ、私が誘導して人ゴミの多い場所に連れていきます。ドロシーさんは追っ手を何とか足止めさせてください」
 そう言うと、リースはいそいそとヴェルグに近寄り、声をかけるのだった。
「あの、ここの酒場に行きたいのですが‥‥道を教えてくださいますか?」
「え? あ‥‥はい、分かりました。喜んで御案内させて頂きます」
 上手く悟れたのか、ヴェルグもリースと話を合わせて上手く合流する。
 其れを見ると、ドロシーもすかさず動き出す。
「すみません、道を尋ねたいのですが‥‥」
「いや、今は急いで‥‥」
「私も急ぎなんです! お願いします!」
 こうして、ドロシーとリースの連携のお陰で、ヴェルグは無事リースと共に酒場に辿りつく事が出来た。
 酒場に入ると、入れ違いにエリーシャが外へ出る。どうやら、追っ手の見張りをしてくれるようだ。
「あ‥‥! 確かにこの人だ! 良かった‥‥また会えた‥‥!」
「貴方は‥‥確か、最後の一輪を買ってくれた‥‥?」
「覚えててくれたんだね、良かった‥‥どうしても君に会いたくて、僕は冒険者さんに頼んで探して貰っていたんです」
「どういう、事ですか?」
「僕は、君が好きなんだ。君と、付き合いたいと思っている。結婚を前提として‥‥!」
 実にストレートだ。若いからなのだろうか。それとも、熱意からなのだろうか。ここから先は、リーザ達が立ち入るべき区域ではないのだが、油断は出来ない。
「え? で、でも‥‥子供達を放っておくだなんて、私には‥‥」
「それなら、僕も手伝うよ! 花売りの事だって、頑張ってやる! だから‥‥!」
「でも貴方は騎士なのでしょ? 私なんかとは‥‥」
「君の為なら僕は騎士を棄てる覚悟だってあるさ!」
「‥‥なーんかアツアツだね」
「そうね。でも、何だか微笑ましい事じゃない?」
 微笑ましく見守っているのも束の間、エリーシャがひょっこりと顔を出した。
「追っ手が嗅ぎつけて来ました。ヴェルグさんは裏口から逃げてください」
「しまった‥‥もう気がついたのか‥‥! ユーリさん、考えておいてください。僕の心は、変わりありませんから!」
 そう言い残すと、ヴェルグは急いで裏口から逃げ出し、帰路へと急ぐのである。
 尋ねてきた追っ手達はと言うと‥‥エリーシャとリーザに上手く丸め込まれ、急いで酒場を後にしたという。

●進展
「これで依頼は約束通り果たせましたね」
「皆さん、ありがとうございます。私、少し考えてみる事にするわ。彼の事も、今後の事も」
「私達で力になれる事があれば、何でもしますからね?」
「あ、良ければ皆さんにこの花を。売り物ではないのですが、感謝のお礼」
 そう言って手渡されたのはフクシアだった。
 リュイスはその花を受け取るとポリッと頬を掻いて呟くのだった。
「こういう仕事もなんか‥‥悪く、ないな‥‥」