一輪の花2〜イキシア

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月27日〜07月02日

リプレイ公開日:2006年07月03日

●オープニング

「あの、依頼をお願いするのはここでいいのかな?」
「あ、ユーリさん? はい、御依頼はここで承っています」
 ユーリはギルドを不安そうに見渡すと、決意したかのように椅子に座った。
 そして、報酬の袋を少し置く。
「こんな少ないお金で依頼をしてしまうのは申し訳ないの。でも‥‥私、どうしても欲しいお花があって‥‥」
「欲しい花、ですか?」
「はい、イキシアという花なの。売り物にしようとか、そういうのではなくて純粋に欲しくて‥‥」
「お花畑にはなかったんですか?」
「其れが‥‥お花畑にあるにはあるの。でも‥‥魔物が住みついてしまってとりにいけなくて‥‥」
 無粋な魔物もいたものだ。
 町外れにある花畑に、魔物が住みついてしまったようなのだ。
「どんな魔物が住みついたか、分かりますか?」
「其れが‥‥ハルピュイアなの。だからどうしても近寄れないし、他の人にも危害を加えてしまうから‥‥」
「厄介ですね。熱病持ちの魔物ですし‥‥」
「私、どうしてもイキシアが欲しいの! そして其れを‥‥その‥‥ヴェルグさんに、あげたいの」
 小さく呟いて俯くユーリ。
 その花が欲しいのはヴェルグの為。その花をこの前の返事にしたいのだという。
 しかし、ハルピュイアがいる事で其れを摘む事も敵わないのだという。
「ハルピュイア相手なのに、こんな金額の報酬じゃ‥‥ダメ、ですよね?」
「いえ‥‥でもいいのですか? 子供達に分けてあげるお金では‥‥」
「子供達も納得はしてくれているんです。お花畑が元に戻るなら‥‥って」

 人の恋路を邪魔する魔物。
 その魔物に少し怒りを覚えるのであった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8765 リュイス・クラウディオス(25歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0020 ルチア・ラウラ(62歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb2805 アリシア・キルケー(29歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●彼女の願い
 花を買って行く酔客達。確かにユーリに丹精された花は美しく、香りも芳しい。しかし、単に花の代価なら、皆これ程は支払わぬだろう。彼等が買うのは別の物。
 ユーリの真心? それもある。ユーリの笑顔? それも正しい。じゃあ? 子供達の笑顔と感謝? 極めて正解に近い。
 だが、彼女の売っている本当の商品とは、実は名誉なのだ。人間誰しも人から素晴らしい人間だと思われたい。特に社会的にそれとは正反対の人物ほど、特にその傾向が強い。
 酒場を出て家に帰れば、一介の職人だったり小商いの商人だったり。それが一輪の花を胸に挿すだけで実に大した慈善家として賛美されるのだ。虚栄心といわば言え、偽善者といわば言え。酒は過ぎれば害がある。しかしこの甘美なる二日酔いは人を幸福にする。
 だからこそ彼らはユーリの花を手にする。ひと時の幸福に浸る為に。
 そして、人々に幸福を与えるユーリはおそらく今初めて、願う。自らの為に、大切な人に自らの思いを伝える為に、助けて下さいと。

「今回の目的は、ユーリさんがイキシアの花を取りにいけるよう、お花畑に棲みついたハルピュイアを何とかすること」
「うん。ユーリさんのために、ハルピュイアを倒してイキシアを手に入れなきゃね」
 そんなユーリを前に、リース・マナトゥース(ea1390)とレフェツィア・セヴェナ(ea0356)は大きく頷き合った。
「ヴェルグさんに渡すためだっていうんだから、頑張らないと。上手くいってくれるといいなって思うから」
 二人はお似合いだとレフェツィアは思っている。上手くいってほしい‥‥その為に力を尽くそう、と。
「身分の違いを乗り越えての真実の愛。あこがれですわね」
 ステキです、頬を染めるアリシア・キルケー(eb2805)も気持ちは同じ。レフェツィアと同じくらい気合が入っている。
「そんな‥‥」
「ユーリさんのような方なら、きっと花畑の花たちもユーリさんの恋を応援してくれますよね。グリーンワード唱えずともわかります、きっとそうに違いないって」
 照れるユーリに優しく告げたのは、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)。
「二人の恋路に、一輪の花を咲かせるお手伝いさせて頂きますね」
 ソフィアの言葉に、ユーリは益々真っ赤になり。
「どうしても、とおっしゃる、その心にうたれました。‥‥それに、病持つ魔物の跳梁を許すわけにはまいりません」
 そして、ルチア・ラウラ(eb0020)はそんなユーリの肩に優しく手を置くと、表情を引き締めた。ユーリの為だけでなく、ハルピュイアは放っておけない、と。
「ハルピュイアは光り物を好むという、花畑から外れたところに光り物を置いておいて、ハルピュイアを誘き出そう」
 盛り上がる女の子達に苦笑をもらしつつ提案したのは、ローシュ・フラーム(ea3446)だ。
「銅貨や金属片、盾も磨いておけば囮になる‥‥ま、気休め程度だろうがな。アハメスの盾も磨いた方が良いかもしれんな」
「分かりました。では、皆で手分けして作業しましょう」
 応えたアハメス・パミ(ea3641)の要請に従い、それぞれ磨き作業に入る。
「これで一層ピカピカ輝くかと。きっとハルピュイアも引っかかりますよ」
 アリシアの言う通り、銅貨に油を塗り磨くと輝きも増す。
「アハメスさん、これを‥‥」
 レフェツィアは更に、アハメスに金の腕輪を差し出した。これもまた、誘き出すための役立ってくれるだろう。
 そんな風に準備を整えていざ出かけようとした所で、事件は起こった。
「冒険者ギルドに君の名前で依頼が出ていたから‥‥」
 口ごもるヴェルグの顔には、押し殺した非難と落胆があった。どうして自分を頼ってくれないのか、そんな。
「僕は君の役に立ちたい。もし良かったら僕も‥‥」
「ダメです、貴殿を連れて行くわけにはいきません」
(「ユーリさんの返事の前に花畑見てもらいたくないですしね」)
 みなまで言わせず一刀両断したアハメスに、ソフィアも頷く。
「今回は参加は見合わせていただきたく思います‥‥もしあなたが傷を負えば、悲しむ人がいますから」
 尚も諦めまいとしたヴェルグだったがルイスに諭され、更に不安そうなユーリにコクリと頷かれてはそれ以上言えるわけなく。一向は無事、出発できる運びとなったのだった。

「‥‥」
 花畑に着いたリースは、早速周囲に視線を走らせた。木の影や上空、ハルピュイアの奇襲攻撃に警戒して。
「あそこまで誘い出せれば良いのですが」
 戦う者の視点で周囲を確認したアハメスが指し示したのは、少し離れた場所‥‥開けたあそこなら、花畑への被害を最小限に減らせるのでは、と。
「但し、充分気をつけねば。こっちから見つかっては困るので、な」
 その傍ら、ローシュは戦闘では邪魔になる荷物を入念に隠し。囮の盾の設置も行う。
「せっかく上手く行きそうなのに、邪魔者ありとはね。フフ‥‥そういう奴には、きつい御仕置きだよな〜」
 やがて、キラリと光る盾に気づいたハルピュイアが姿を現すと、リュイス・クラウディオス(ea8765)はチラリと笑った。
「こっちに来て‥‥そう、あなた達の敵はここにいます」
 そして、ホーリーを放つリース。花畑に被害が出ないよう、更にこちらに引き寄せる為に。それが、戦いの合図となった。

●戦い
 ハルピュイアは耳障りな声を上げ、リースを睨んだ。翼を広げ羽ばたくと、無数の花弁が宙に舞う。彼女が踵を返して逃げ出すのを見ると、敵は嵩にかかって追って来た。
「どこを見ているの?」
「ちがうちがう、こっちだよっ」
 ルチアが、レフェツィアが、立て続けに挑発する。彼女達の聖なる力は敵を撃つ輝きとなり、ハルピュイアの薄汚れた翼の上で炸裂した。無様に失速したのが余程腹に据えかねたのか、敵は醜い顔を更に歪め、ボロボロの歯を剥き出しにして突進して来る。あんなのに引っかかれたり齧られたりするのは御免被りたいところ。皆、半ば本気で遁走した。頭上より、恐るべき速度で迫り来る敵。振り向く余裕さえなかったが‥‥そこにはソフィアが潜んでいる筈。
「美しい花を踏み荒らす無粋な魔物、許しませんよ」
 ソフィアは、地の精霊力を以って敵を縛った。ルチアの頭上に振り下ろされようとしていた爪は鋭さを失い、間に割って入ったローシュの盾に、あっさりと防がれた。
「よぉし良く来た‥‥歓迎するぞ!」
 ローシュがふん、と鼻を鳴らす。予め申し合わせていたこの場所ならば、花を気にする事無く思う存分戦える。リースはすっかり戦いの体勢を整え、レフェツィアはアハメスの盾に守られて、次なる詠唱に入ろうと息を整えていた。聞こえて来るのは竪琴の音と、意外にも優しげなリュイスの歌声。途端に、早鐘の様に打っていた心臓も窒息寸前だった息も整って、万全の体勢が出来上がる。それに引き換え、ハルピュイアは重くなった体に困惑するばかり。ローシュが繰り出す長槍に堪らず高度を取ろうともがくのだが、無論、逃がしはしない。
「ローシュ殿、一気呵成に!」
「おう!」
 アハメスの声が合図になった。連続で炸裂するホーリーに翻弄され、遂に墜落したハルピュイア。死に物狂いで苦痛の元凶を切り裂こうと躍りかかる、その間隙を突いて駆け込んだアハメスは、擦れ違い様に翼の根元をざっくりと断ち割った。

 アリシアはふと、背にした木が揺れた気がして仰ぎ見ようとしたのだが。ソフィアがそっと手を掴み、小さく首を振って見せた。状況を察して、息を飲む彼女。リュイスの詠唱が完了したのは、その時だった。
「案の定だな。これでも食らえ!」
 リュイスは朧に光る一筋の矢を放つ。それは太く張った枝の間を摺り抜け、隠れていたハルピュイアに襲い掛かった。咄嗟に身を捻りかわしたのは見事だったが、矢は吸い寄せられる様に弧を描き、体勢の崩れたハルピュイアの背に突き刺さった。
「みーつけた♪」
 レフェツィアのコアギュレイトに捉えられ、自由を奪われた二匹目のハルピュイアは、枝を折りながら落下し、敢え無く地面に叩きつけられた。痺れる体で必死の威嚇をするものの、アリシアが、ルチアが、レフェツィアが、リースが支えてくれると思えば、ローシュに僅かな怖気すら湧こう筈も無く。アハメスが最初の一匹に止めを刺す頃、ローシュも新たな敵に突進し、瞬く間に息の根を止めてしまった。

 リュイスが安堵の息をひとつ。
「これで全部終わったのか? 更にオマケでもう一匹なんて言われても遠慮するぞ?」
 念の為に周囲を調べておこうか、などと話している中、ずかずかとハルピュイアの骸に近寄ったアリシア。何をするのかと思いきや。
「人の恋路を邪魔する野暮な方は、馬に蹴られてしまいなさいっ」
 ごっ、と容赦の無い蹴り入れ。随分とご立腹と見えて、愛用の猫(いつも被ってるやつだ)は何処へやら。
「あ、アリシアさん怖い‥‥」
「き、気持ちは分かりますが、聖職者として怒りに身を委ねるのは如何なものかと」
 思わず治療道具を用意する手も止まるレフェツィアにルチア。が、くるりと振り向いたアリシアは、いつもの上品でたおやかな笑顔を湛えていた。
「さ、手傷を負った方はこちらへ。念の為に傷を洗って魔法で浄化しておきますから。熱っぽい人は冷やしましょうね。間に合わない様ならそうね、頭から水ぶっかけて──」
「アリシアさん、猫が戻ってない、戻ってないです!」
 皆、少々びくつきながらの治療を終えて、その後、念入りに周囲を探索。どうやら危険な魔物はいそうにない。依頼完了をユーリに報告出来そうだ。
「おふたりの恋、上手くいくといいですよね」
 話しかけたリースに、リュイスは興味無さげな態度。
「こちらが気を揉んでも仕方が無い。後は本人達次第だろう‥‥どいつもこいつも、世話を焼きすぎなんだ」
 すかした傍観者の態度を取るリュイスなのだが、
「こんな報酬にも栄誉にも縁遠い依頼に地道を上げている時点で、リュイスさんも十分にお節介焼きの優しい人ですよ」
 可笑しげに笑うリース。どうやら、バレバレである。

●花は秘やかに
 無事にハルピュイアを討伐した帰り道。
「報酬かぁ。受け取らなくていいし、何かに有効活用できるならそれがいいかなぁ」
 別にそこまでお金に困ってないし、空を仰ぎレフェツィアはポツリと呟いた。
「そうですね。私個人としても別段求めません。何か良い使い道などありましたら、協力したいと思います」
「報酬は報酬として受け取りましょう。その上で‥‥」
 アリシアに頷いてから、アハメスは皆の顔を見回し提案した。その提案とは‥‥。

「お花畑が少し傷ついてしまいましたの。そのお手入れを手伝ってくれませんか?」
「きっと、あなた達が花畑をなおしてくれれば、ユーリさんも喜んでくれますよ」
「本当? じゃあ頑張る!」
 自分たちもお手伝いが出来る!、大好きなお母さんが喜んでくれる!、リースとソフィアの言葉に子供たちは顔を輝かせた。
「おひげのおじちゃん、このお花ここでいい?」
「お水あげればお花元気になるよね?」
「うむうむ、何添え木をしておけば直ぐに元気になるだろう」
 子供達とローシュ達と、皆で花畑を直しに行く。
「労働というものはいいものだ。特にモノ作りというものはまた別格じゃ。そもそも〜」
 始まったローシュのうんちくに子供達は目をぱちくりさせながら、それでも楽しそうな笑い声を立てた。知らない事を知るのは嬉しい事だし、何より‥‥自分たちが役に立つ、報酬を得ることが出来るのは夢みたいで。
「私にとっては、この子供達の笑顔こそが格別の報酬ですね」
 ローシュにまとわりつく子供達の笑顔、ソフィアは優しく目を細めた。
「でも、本当に良いのですか? それでは無報酬で働いてもらった事に‥‥」
 けれど、その中でユーリは表情を曇らせた。アハメスやリースの提案‥‥それは、ユーリから受け取った報酬をそのまま、この労働の報酬として子供達に与える、というものだったから。
「ただ与えるのではなく、労働の対価とすることが重要なのだと思います」
 そんなユーリに、アハメスは冷静に告げた。
「困った時いつでも誰かが助けてくれる、お金をくれる‥‥それに慣れてしまうのは怖い事です」
 だから、労働の対価として‥‥働いたからお金が入る、それを忘れないで欲しいから。
「‥‥そう、よね」
 ハッとしたように俯くユーリに、アハメスはちょっとだけ焦る。別にユーリをいじめているわけではないのだ。子供達を思うユーリの気持ちは充分に分かっている。
 けれど、ユーリは別に泣きそうになってるわけでもヘコんだわけでもなかったらしい。
「子供を育てるというのは、難しい事なのね」
 ふと、ユーリはもらした。常に気を配り、だが、時に手を離し見守る。
「‥‥私の両親も色々苦労したり気をつけたりしたのかしら?」
「ええ、きっと。でなければ、貴方みたいにステキな人にはなりませんよ」
 惑うような迷うようなユーリに、リースは微笑んだ。
「ユーリさんはとても優しいんですね。子供たちのためにお花を売って歩いたり。耳にする噂も全て素晴らしいものばかりで、どれだけ多くの人に慕われているのかよく分かります」
 その笑みが深くなる。こちらに向かってくる、ヴェイグに気づいて。
「ですから私も、応援してあげたいです。お二人が上手くいくように‥‥」
「この花に込めた、貴女の思いが届くよう祈っています」
 そして、ルチアはイキシアをそっと手渡し、ユーリの背を優しく押した。
「これが、私の気持ち‥‥この間の返事です」
 はにかんだ笑みを浮かべ、ユーリがヴェイグにイキシアを差し出した。ヴェイグは少しだけ小首を傾げた後、ユーリの笑顔を目にし嬉しそうに花を受け取った。
「あの花の持つ意味に、ユーリさんの想いにヴェイグさんは気づいたでしょうか?」
 見守りながら、ソフィアは頬を緩めた。。
 イキシア。その花言葉は団結、誇り高さ‥‥そして、秘めた恋。
 二人を応援するかのように、たくさんの花びらが風に揺れた。