●リプレイ本文
●祭りに集いし勇士達
「わぁ〜♪ こんなにも来てくださってぇ、感激ですぅ♪」
冒険者達を目の前にして、マリスは嬉しそうに微笑んでいた。
勇敢な冒険者達と勇敢なペット達。
何よりもそのペット達の懐き具合を見て感激していたのだった。
「今回はぁ、よろしくお願いしますですぅ♪」
「此方こそ、宜しくお願いする。試合参加者だけの場があると有難いのだが」
ユパウル・ランスロット(ea1389)がマリスに提案すると、マリスも大きく一度だけ頷いた。
「ではぁ、お馬さん達と一緒にぃ。出る人はぁ、ついてきてくださいねぇ〜?」
「おや、用意してあるのか。其れは準備がいいな」
「これでもぉ、ペットの事はぁ、分かってるつもりですからぁ〜」
マリスの言葉に、ローラン・グリム(ea0602)は純粋に感心するものだった。
●試合参加者達の為だけの‥‥
マリスは、馬と冒険者達を一つの大きめな小屋へと連れて来た。
本来なら民家だった所を自分が預かり、改良して馬達が入れるスペースを作り上げたのだ。
床には藁が一面に敷かれており、馬達の為にエサと水も其処には用意されていた。
「えっとぉ、ブラシは、其処にありますのでぇ。リラックスさせてあげてくださいねぇ?」
「凄い‥‥此れは、マリス殿が?」
「はぁい♪ 一晩しか期間が無かったので〜‥‥こんなのしか出来ませんでしたが〜‥‥」
「いや、実に立派なものだ。ありがとう、俺達の馬もきっと喜んでくれるだろう」
長渡泰斗(ea1984)の感謝の言葉に、マリスは嬉しそうに微笑むのだった。
そして、自分は準備があるからと小屋を出て行ったのだった。
「馬上槍試合、実際に参加するのは初めてなので何卒よろしくお願いします」
「大丈夫だ、アハメス。俺達もそんなに高度な技術はないのだし‥‥」
「そう言えば対戦する相手はどうなっているのだろうな?」
「おや‥‥? ここに対戦表らしきものがありますよ」
アハメス・パミ(ea3641)が指差した先には、対戦表なるものが描かれていた。
アメハスvsイコン・シュターライゼン(ea7891)
ユパウルvs泰斗
ローランvsエリーシャ・メロウ(eb4333)
グレイ・ドレイク(eb0884)vsコロス・ロフキシモ(ea9515)
このような対戦表となっていた。
(「‥‥一部バランスが‥‥大丈夫なのか?」)
心配そうに心の中でそう呟くユパウル。
だが、この試合は強さだけで決まるものではない。
如何に強き相手を技術で突き崩せるか。如何に馬を制御出来るか。
全ては戦術。如何に観客達に魅せる事が出来るか。
勝つ事は簡単。しかし、負ける事は難しい。
‥‥楽しまなくては。
「では、この通りに対戦するとしましょう。皆さん、ご武運を」
エリーシャがそう言うと、他の参加者達も軽く礼をするのだった。
●馬上試合開始!
特別に作られた会場は、既に観客でいっぱいだった。
前日の宣伝を見て来た人もいれば、住民もいる。
馬上槍試合はフォルセでは滅多に見られないという事も効果の一つのようだ。
何より、他のライバル観光地とは違って貴族の者ではない。
冒険者達によるものなのだ、と。
フォルセでは冒険者達は既に名物なのである。
「本日は皆様に集まっていただき、勇敢なる騎士達も皆喜んでいる事でしょう! これよりフォルセ初、馬上槍試合を開催致しますッ!」
オルステッド・ブライオン(ea2449)の声により開催宣言がなされると、観客席からも歓声があがる。
「この馬上槍試合に出るのは、勇敢なる冒険者達ばかり! 互いの腕を競い、磨き、強くなった者達ばかり! 冒険者達の勇敢なる姿、とくとご覧くださいませ!」
「うふふ♪ サマになってるのですよぉ、オルステッドさぁん♪」
折角真剣に司会をやっていたオルステッドだが、マリスの撫で攻撃に少し戸惑いと驚きを感じてしまっている。
本当にそれでいいのか、所帯持ちよ。
「コホン‥‥! では、気をとりなおして! 第一試合を開始したいと思います!」
「マリスさん、デグロをお願い出来ますか?」
「はぁい♪ 可愛い可愛いしとくのですよぉ♪」
イコンは自分のペットをマリスに預けると、馬に跨った。
「相手は強いですよ、アグロ。それでも頑張りましょう。僕達ならやれますよ」
「最初の騎士を紹介します! 冒険者の戦い見せてやる! その思いだけでここまで来た勇敢なる紫紺の勇騎! イコン・シュターライゼンッ!」
オルステッドがそう紹介すると、スタートラインにイコンとアグロが立つ。そして、歓声に応えるかのように片腕をあげるのだった。
「今の自分に死角はないッ! 赤い亜麻布の女主人‥‥戦の為だけに生きる女戦士! アハメス・パミ!」
アハメスも入場すると、静けさが辺りを支配する。
用意された槍を片手に持ち、ヘルムのマスクをしっかりと下げる。
両者、見つめあいながらも開始の合図を待った。
そしてその数分後―‥‥試合開始の鐘がなるのだった!
一気に駆け始める二頭の馬。真ん中に立てられた柵。それぞれが交差するように、走り出す。
「手加減は無用でお願いします!」
「手加減したら、僕が怪我しますからね! アグロも!」
アハメスはまず、ヘルムの顎を狙って突く事を考えた。
どうやら、そのようにするといいという話を聞き実践してみようというのだ。
しかし、普通にやると少しぶれてしまう感がある。通常戦闘であるならば、出来た事だろう。
(「動きが‥‥来るなら‥‥!」)
アハメスとイコンでは力差がありすぎる。だが馬上の経験の差はイコンの方が上だ。
アハメスはファイター、イコンは騎士なのだから。
交差した瞬間、大きな音が会場に響いた。
顎を突き狙おうとしたアハメスだったが、其れに乗じてのイコンのカウンターアタックが肩に打ち入ったのだ。
その瞬間、マリスが一本の旗をイコン側の陣営へと刺す。
「くっ‥‥! やはり無理がありましたか‥‥ッ!」
「はぁ‥‥はぁ‥‥まずは一本‥‥頑張りましたね、アグロ‥‥!」
そして、二回目の鐘の音が鳴ると一回目の時ど同様。二頭の馬は駆け始めるのだった。
「ならば次は此れです!」
「‥‥来る‥‥ッ!?」
一瞬、突きを繰り出す体勢をとるアハメス。其れに構えるイコン。
しかし、場慣れしているのはアハメス。手際よく突きを繰り出すと、槍の軌道を一瞬にして華麗に変える。
‥‥フェイントアタックがイコンの顎に直撃する。
必死にバランスを保とうとするイコン。主人の意思に応えて、アグロも懸命にバランスを保つかのようにスピードを落として端へと向かった。
二回目の旗は、アハメス陣営へとあげられた。
「っく‥‥衝撃が凄い‥‥ありがとう、アグロ」
「次が‥‥最後の一撃ですか‥‥。次ミスれば‥‥私の負け‥‥。こんなにドキドキしたのは、初めてですよ‥‥」
不敵に見合い、笑みを浮かべる二人。三回目の鐘が響く。
「此れが僕の最後の突きです!」
「私も全力を持ってお相手致します!」
二人の冒険者の気迫に観客は魅了され、二人の名を呼ぶ応援へと変わっていった。
熱狂的な者もいれば、どぎまぎしている者もいる。
交差した瞬間、勝負はついた。
アハメスの二度目のフェイントアタックを、イコンがカウンターアタックで突き崩したのだ。
「勝者、イコン!」
二本目の旗がイコン陣営側に刺されると、オルステッドがそう叫ぶ。
観客達は二人の騎士を褒め称える声へと変わっていった。
「‥‥おめでとうございます、イコンさん。流石でした」
「いえ、此方こそ。‥‥アハメスさんの突き、凄かったですよ‥‥」
「次の勝負、健闘を祈ります」
「はいっ。頑張ったね、アグロ!」
歓声が響く中。ユパウルは一人祈りを捧げていた。
其れは、試合直前。落ち着く為である。
「ユパウルさぁん、出番ですぅ♪」
「そうか。背袋を頼まれてくれないだろうか?」
「はぁい♪ お任せですぅ♪ 健闘をぉ、祈りますですぅ」
マリスの激励を受けて、ユパウルは試合場へと向かった。
其処には既に泰斗が愛馬に跨り用意を施していた。
望んでいた相手。全力を尽くそうと、ユパウルも愛馬へと跨る。
「第二試合はこの二人! 更なる研鑚を積み武人が甦った! 泉州浪士、長渡泰斗!」
捻りのきいた二つ名はいらない。ただ自分自身を見て欲しいと。
そう願ってのこの名である。
「ファンの前でならオレはいつでも全盛期だ! 眼帯の黒騎士、ユパウル・ランスロット!」
「そっ、その芝居は此処で使うものなのかっ!?」
オルステッドの紹介に、がびーんとショックを受けるユパウル。
しかし、妖しの君と呼ばれるよりかは数倍マシだと考える事にし、位置につく。
試合開始の鐘は、すぐに鳴らされた。
「キミと手合える事、嬉しく思うッ!」
「此方もだ! 貴殿とならこの戦い、魅せる事も出来よう!」
「いざ‥‥」
『勝負ッ!』
二人同時に叫んだその言葉。其れと同時に馬を走らせ、体勢を整える。
ユパウルは軽く馬を撫で、盾を構え体を前屈させる。
泰斗は武士故に盾はいらぬ、と。この一撃に全てを賭ける勢いで体勢を同じく前へと‥‥。
交差した瞬間、ガキンッという音が響いた。
突き上げられた槍が二本。交差した状態になり、一瞬止まる。そして放せば両端へと戻って行く。
これには観客も気分よく騒ぐのである。
「いいぞー! にーちゃーん!」
「いけいけー! やっちまえー!」
「騎士もいいが、武士とかいうのもかっこいいぞー!」
「バカ、あいつ等は冒険者だって! 俺ももう少し若ければなぁっ!」
声援があがる。二人は少し見合い、笑みを浮かべる。
これほど楽しいものはない。ましてや、互いに少しでも縁がある者同士なら尚更。
そして、二回目の鐘の音。
「せいっ!」
「はぁっ!」
互いに再度馬を走らせる。もうこれ以上はない。
次の一撃で決める。そんな気迫が感じ取れた。
ガキィンと再度鳴り響く豪快な音。
互いに互いを攻撃する事に成功するのである。
ユパウルは肩をやられ、泰斗は鎧の首をやられた。
両者ぐらつきながらも、馬は走る。前面に体重をかけていた泰斗がバランスを崩して落馬するのだった。
泰斗は軽く受身をとり、怪我もなかった。
「勝者、ユパウル!」
オルステッドの声に、マリスがユパウル陣営へと旗を刺す。
歓声が沸きあがる。今までにない興奮を感じた観客達。
此れが本当の勝負なのだ、と。名勝負だった、と。
彼等の心に、火がついたの如く‥‥。
「いい勝負だった、ユパウル殿」
「俺の方こそ、楽しかった。また何時かやりあいたいものだ」
「その時は負ける事なきようしておく。‥‥お疲れさまだ、流風」
「ローゼもお疲れさまだ。キミのお陰で勝てる事が出来た‥‥」
馬を撫でる二人。そして、最後には男らしく握手をかわすのだった。
「それではぁ、休憩にしちゃいましょ〜♪ 各自お馬さんのケアを〜忘れないでくださいねぇ〜?」
マリスの間延びした声に、観客も脱力しながら休憩へと入るのだった。
昼食を取るには、丁度いい時間だったから‥‥。
●大騒動勃発!
「よぅ、マリス。調子はどうだい?」
「ルキナスさぁん。みんな大盛り上がりですよぉ♪」
休憩時間の間、ルキナスがフォルセの祭りの様子を見に来ていたのだ。
其れをみつけると、エリーシャはお供の犬と笑顔で近寄るのだった。
いや、きっと彼女には悪意などないのだろう。
「冒険者の為とはいえ、このような祭りに参加させて頂く事、嬉しく思います。エド、ルキナス殿とマリス殿にご挨拶を」
「わふっ!」
「っなぁ!?」
犬の声に思わず飛び退くルキナス。
そう、彼はとてつもなく『犬嫌い』だったのである。
「た、頼む。分かった。だからその犬を俺に近づけないでくれっ!」
「あらぁ〜? ルキナスさんはぁ、犬嫌いでしたっけぇ〜?」
「あれからもう犬はダメになったんだっ! 腕がっぷりはもう勘弁してくれっ!」
「あら、噛まれたんですか? 其れは痛かったでしょうに‥‥」
「痛い以前の問題に精神的ショックだったんだ!」
どうやら、酷いトラウマを心に残したようだ。
無理も無い。昔、とある冒険者が飼っている犬に引きずられた過去がある。
更にはその時の状況がほぼカンヅメ状態だったのだから。
そのうち慣れてくれる事だろう、と思っているエリーシャだった。
そんな時、ルキナスは一つの異変に気付いたのだ。
一部の民の表情がとても青い。何かあったのだろうか?
「マリス、何か民が怖がるような事はあったか?」
「いえ〜‥‥。それぞれが連れて来ましたペットはぁ、ちゃぁんと私がお預かりしてするのですがぁ〜‥‥」
しかし、其れは預かってくれと言われた分だけだ。馬達は飼い主達がしっかりと見ているし、鷹もグリフォンも大人しいものだった。
傍に飼い主がいたからである。危険なものは、飼い主自らが檻の中に入れていたというマリスの証言。
「じゃあなんで怖がってるんだ‥‥?」
「‥‥まさか」
ローランとコロスは嫌な予感を感じ取っていた。
「あ、あれが冒険者にとっての犬かよ‥‥!」
「お、俺噛まれかけたぜ!?」
「私は吼えられたわっ! あの鋭い牙‥‥目つき‥‥恐ろしいわ‥‥ッ!」
「子供を絶対に近づけさせるなッ! 喰われるぞ!!」
民から聞こえるそんな会話を聞いて、流石のグレイもヤバイと感じとったのか。
それともコロスやローランの嫌な予感が的中したと感じとったのか。
慌てて走り出すのだった。
「ちょっと俺、様子見てくる!」
「グレイ、俺も同行する! この様子、何かおかしい!」
急いで民達が逃げるように去っていく方向とは逆の方向へと走り出すルキナスとグレイ。
其処で見た光景はとんでもないものだった。
何があったのだろう? 見るからにらどう猛な大きな獣が、檻の中で牙を剥きうなり声を上げている。檻の縦に走る鉄棒をひっかき、檻の天井に体当たり、毛を逆立て身体を大きくして威嚇する。幸い、頑丈な檻のお陰で誰も傷つく者はいないが、腰を抜かす者、失禁する子供‥‥。皆、生きた心地も無い。それでもまあ、檻の中のことであった。
しかしそこへ、
「あ、暴れ馬だぁ!」
追い討ちをかけるように街の中を奔走する馬。みなに慌てて逃げ回る。もう、祭りの続きは出来ない。全て中止だ。
「良い子、良い子‥‥大丈夫よぉ〜♪ 何も怖くないわよぉ〜?」
マリスが組み付き、暴れ馬を制御する。
「マ、マリスさん‥‥?」
「怖い‥‥その笑顔が怖い‥‥!」
マリスを初めとするみんなの努力もあって小一時間の後、漸く街は平静を取り戻した。
「馬上槍試合、途中までしか見ていませんでしたが素敵なものでした。最後まで見れなくて残念に思います。ですが、民に支障が出なかった事。此れは成功でした」
「すまなかった、マリス殿‥‥大切な祭りだったのに‥‥」
「‥‥‥‥」
「だいじょーぶですぅ〜。また機会はありますですよぉ〜。その時はぁ、新しい出し物も用意しますからぁ、楽しみにしていてぐたさいねぇ〜?」
「えぇ。その時はこのエリーシャ、必ず参上致します」
そして、彼女は去っていった。
その頃。城の一室から一羽の鳩が放たれた。その鳩はゆっくりと旋回した後、北の方角へ向けて飛んでいった。騒ぎのせいか、誰もその事を見とがめもしなかったが。
「暴れ馬の持ち主は誰だ!」
調査の結果、暴れ馬の耳には小さな鈴が差し込まれていた。これが暴れた原因だろう。だが、状況に怖じ気づいたのだろうか? それとも何者かが仕組んだ陰謀なのか? 祭りが終わっても引き取り手が現れない。聞き込みを行うと吟遊詩人風の男が連れて来たものだと言うことだ。
「‥‥此れは少し‥‥拙いな‥‥」
「また、フォルセの民を怯えさせてしまった‥‥確かに、これは拙い‥‥」
「もうチャンスはないのでしょうか?」
アハメスの問いに、エリーシャは大きく首を横に振った。
「いいえ、チャンスはまだあります。人々に分かって貰うため、私達が尽力致しましょう!」
「そーだな! 俺達が頑張れば頑張る程、分かってくれる人達は出て来るもんな!」
「冒険者が名物と言われるこの街がバカにされる事がないようにしたいな」
ローランがそう言うと、冒険者達はゆっくりと頷くのだった。
そして、オルステッドが言葉を紡いだ。
「‥‥それじゃあ‥‥全員で頭を下げに、行くか‥‥」
「そうだな‥‥怯えさせてしまったのは冒険者だ。なら俺達が謝らなきゃな‥‥」
「‥‥後の祭りっていう言葉もありますけどね」
こうして、冒険者達は手分けして怯えてしまったフォルセの民と観光客一人一人を尋ね、頭を下げていったのである。
幸いにも彼等の中には怪我をした者はいなかった。それだけが救いなのである。
こうして、初の試みのフォルセの祭りは中止という哀しい結果となってしまったのである‥‥。ただ、一つの救いは民もペット達も怯えただけで、誰一人、ただ一匹とは言え、怪我の無かった事である。故に、取り返しのつかない事態には為っていなかった。楽しい祭りの雰囲気は、再び祭りをやり直そうという気運を象っていた。さあ、祭りをやり直そう。