精霊の声1〜誘われる者

■シリーズシナリオ


担当:マレーア4

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2006年09月21日

●オープニング

 其れは、ある月が綺麗な日の夜。
 一人の男がとある声を聞いた。
『助けてあげてほしいの‥‥彼が泣き声をあげているの。けれど、私では助けてあげられないの』
 其れは不思議な声だった事を覚えている。
 助けを求めるような声。その声は、既に涙声のようなものだった。
 男は目を覚まし、ベッドから起きて窓の外を見た。しかし其処には何もいない。
「空耳か‥‥?」
 そう思って、また寝ようとした時だった。
『助けてあげて欲しいの。大きな力が彼等を飲み込む前に。彼等を救ってあげて欲しいの‥‥』
「空耳じゃない‥‥だとすれば、何処から聞こえてくるんだ‥‥!?」
 窓を開けた瞬間。優しい風が吹いて、綺麗な音色が空に流れた。
 その音色が聞こえてくる方角には、大きな森がざわめきをあげていた。
 其れはまるで、泣き声にも似ていた‥‥。
『精霊の祝福受けし光‥‥その光で力を払って‥‥風で、光を‥‥』

 次の日の朝。男は知り合いに昨夜の事を相談してみた。
 信じてもらえるかどうかは分からない。けれど、あれが何だったのか知りたくて。
「そいつぁ、精霊様の声じゃないか?」
「精霊様の‥‥?」
「あぁ、月が綺麗な夜にだけ会える月の精霊様じゃないか? 月夜と音楽を好むっていうしな」
「では、助けてというのは‥‥」
「精霊様が困ってるって事だろ? つまり、森に何かが起こってるんだ。お前は選ばれたんじゃないか、マルクス男爵?」
 男がそう言うと、マルクスと呼ばれた男は悩んだ。
 自分に何が出来るのか、何故選ばれたのか。分からないからだ。更には何かしてあげたくても精霊が何を望んでいるかなんて分かるはずがない。
 森を助けてという言葉も、どうやってその森を助ければいいのか。黒い霧が何なのか分からないからだ。
「黒い霧‥‥精霊の祝福を受けし光‥‥何の事かさっぱりだ‥‥」
「冒険者達に頼んじゃあどうだい? 彼等なら何でもやってくれるって話だぜ?」
「彼等は精霊様の事が分かるのか?」
「精霊様の事に詳しい冒険者だっているんじゃないか? 王都はそういうのが沢山いるって話だしよ」
 男の言葉をマルクスは信じた。そして、立ち上がるとその足で冒険者ギルドへと向かうのだった。
 精霊様を助ける手伝いをして欲しい、と。

 町外れの森。その森は外観は何も変わってはいなかった。
 しかし、その中は‥‥。黒い霧が蔓延していた。
 そしてその森の中で泣いている子供が一人‥‥。
『森が穢される‥‥分からない力に穢される‥‥嗚呼、花も木もこのままでは枯れてしまう‥‥』
『大丈夫よ、昨夜彼に助けを求めたわ。きっと声も届いているはずよ‥‥』
 森の中に時々大きな足音が響く。地面が揺れ、子供は怯えて隠れてしまった。
 幾ら彼等が精霊とは言えど、その巨大な力には敵わない。
 その動物に似た頭と体。そして体に纏われるヘビーアーマー。
 彼等を倒す力がなくては‥‥。

『お願い‥‥どうか、助けて‥‥』

●今回の参加者

 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2578 リュウガ・ダグラス(29歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3102 アッシュ・クライン(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4714 ジェンド・レヴィノヴァ(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4501 リーン・エグザンティア(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

エルマ・リジア(ea9311)/ 時雨 蒼威(eb4097

●リプレイ本文

●誘われたのは、どちら‥‥?
 冒険者達が依頼にて指定された場所へと向かうと、其処はとても静かな街だった。
 活気はあるのだが、普通の活気とはまた違った活気。
 ‥‥真昼なのに路地には酔っ払いが数人いたりしていた。
「‥‥本当にこんな街に精霊がいるんでしょうか」
 苦笑を浮かべるクウェル・グッドウェザー(ea0447)。其れもそうだ、精霊というからにはもっと何か別のものを期待する。
 しかし、依頼は依頼。まずはマルクス男爵と合流せねばならない。
「私は精霊様の声等を重点的に街の人に聞いてみようと思いますが」
「なら、私も同行しよう。出来れば多くの情報を持っていたい。特に、精霊はな‥‥?」
 リース・マナトゥース(ea1390)にジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)が同行する事になった。
「では、私は黒い霧について聞きまわりましょう」
「森についての情報はあたしがやるわね」
 エルトウィン・クリストフ(ea9085)は森、アルカード・ガイスト(ea1135)は黒い霧を調べるという事に。
 そして、エイジス・レーヴァティン(ea9907)は古老を探して情報を集める事となった。
「‥‥色々と謎が多い、な」
「大きな力がとか、なんか抽象的でよくわかんないけど、誰かが助けをもとめてるなら助けてあげようよ」
「私はどちらでもいい。精霊か。やっと求めていたものに出会える、か‥‥さて、私の欲求を満たしてくれるものなのか‥‥其れだけだ」
 ジェンドの言葉に苦笑いを浮かべる一同なのであった。

●男爵家訪問
 男爵家に向かう事になった者達は、街外れにある屋敷へと向かった。
 その屋敷の前には一人の男が立っていた。どうやら、彼がマルクスのようだ。
「男爵自らのお出迎え、恐れ入ります」
「キミたちが冒険者という人達かい? 悪いね、こんな所まで呼び出して‥‥」
「鎧騎士のリーン・エグザンティアです。以後お見知りおきを」
 リーン・エグザンティア(eb4501)が騎士らしく礼をすれば、マルクスも其れに習って礼で返す。
 そして、クウェルがまず一つの提案を持ちかけた。
「森捜索にあたりまして、依頼を受け持っている間屋敷の一室をベースキャンプとしてお借りしたいのですが、どうでしょう?」
「其れは勿論、使ってくれて構わない。此方が頼んだのだから、寝床と食事を用意するのは礼儀だろう?」
「私達がここに来るまでに変わった事はありませんでしたか?」
 アハメス・パミ(ea3641)がクウェルの隣から尋ねる。マルクスは少し首を捻って、再度聞き返す。
「状況の変化‥‥そうだな、最近この街付近で魔物を見たという情報が多くなった」
「魔物ですか? どんな?」
「熊の体に猪の頭を持っているらしいんだが‥‥」
「‥‥バグベア‥‥ですか?」
 クウェルが尋ねると、男爵は小さく頷く。
 危惧していたカオス系の魔物でなく、冒険者達は安心したといった様子だ。
 しかし、男爵の言葉が続く。
「ただ、異様に凶暴化しているようでな‥‥近づく者には見境なく攻撃してくるらしい」
「黒い霧と関係があるのでしょうか?」
「分からない。ただ、其れと精霊様が関係しているのではないか、と。俺はそう睨んでいる」
 マルクスの言葉に、冒険者一同はまた頭を悩ませるのだった。
 しかし、目的は変わらない。精霊達を助ける事ただ一つ。

 その頃、シルバー・ストーム(ea3651)は一人森の前に立っていた。
 森は外から見ても、黒い霧が蔓延し始めているのが分かる。
(「‥‥これで情報が得られればいいのですが」)
 スクロールを手早く広げると早速行動に入る。まずはテレスコープを発動させ、ゆっくりと焦点を合わせる。
 そして、次にリトルフライを完成させてゆっくりと宙へと舞う。最後に使ったのはインフラビジョン。
 こうして、上空よりテレスコープの力を駆使して偵察し、インフラビジョンで熱源が無いか探そうというのだ。
(「‥‥霧が邪魔でよく見えませんね‥‥」)
 黒い霧がシルバーの視界を邪魔してくる。此れでは落ち着いて偵察も出来ない。
 だが、とある一箇所で気になる熱源が一つ見えた気がした。
 着地すると、シルバーは急いで目に焼き付けた位置をスクロールの裏に書き写す。
(「今の熱源は‥‥目標、でしょうか?」)
 一瞬、森の前にやんわりとした風が吹いた‥‥。

●情報収集
 情報収集組は少し苦労していた。
 リースとジェンドは其れらしき伝承を幾つかの伝承を聞いた。
「この街の精霊様の伝承? あぁ、あるわよ」
「ホントですか!?」
「えぇ。‥‥月がとても綺麗な夜には二人の精霊様が歌い出すのよ。その音色を聞いた人は一年間、精霊様のご加護が得られるの」
「ご加護‥‥か。という事は、男爵は加護を受けた‥‥という事か?」
「分かりません。ですが、情報にはなると思います。では、精霊の祝福を受けし光という言葉に聞き覚えは‥‥?」
 リースが聞くと、こればかりは首を傾げて悩み始める街人。しかし、こんな事を言い出すのだった。
「確か子供に読んで聞かせる話では、精霊様が苦しんでいる時、助けたのは魔法使いだって言ってたわよ?」
「魔法使い‥‥? ウィザード、ですか‥‥?」
「‥‥そうか‥‥。精霊の祝福を受けし光‥‥其れって魔法発動の時の光じゃないか? 其れがそう思われていてもおかしくはない‥‥」
 ジェンドがそう言うと、リースはポンと手を叩くのであるが‥‥やはり謎は謎のままだった。

「黒い霧の事を知りたいのですが‥‥」
 アルカードも懸命に聞きこみに回っていた。黒い霧について、何か知りえる事は出来ないだろうか? と。
「あぁ、森に最近出てきた霧の事か。ああいう霧は初めて見るぜ」
「初めて? つまり、あの黒い霧は今まではなかった、と?」
「ああ。カオスの仕業かと思ったんだが、穴なんてなかったし‥‥一体どうなっちまったんだろうなぁ?」
 分かった事は黒い霧は最近出現したという事。
 そして、その霧はとても濃い為、一度飲み込まれると暫くの間視界を遮られるという。
 普通の霧とは何ら変わりないのだが‥‥色が黒だという事で、街の人は皆カオスの仕業だと思っているらしい。

 一度宿である男爵の屋敷に情報収集組が戻ると、クウェル達が出迎えてくれた。
 どうやらベースキャンプ確保が出来たようだった。
 皆が通されたのは一つの大きな部屋。寝る部屋は別々に人数分用意されているようだった。
「どうだった、みんな?」
「こっちが分かったのは、この街には精霊様の物語があるという事です。伝承といってもいいそうなんですけど‥‥」
「私も聞き込んでみたんですが‥‥街の人は皆黒い霧の事をカオスだと思っているみたいです。ですが、近くに穴はなかったと‥‥」
「‥‥普通のバグベアであるかどうかはまだ判断出来ないという事か」
 真剣な面持ちで、アッシュ・クライン(ea3102)がそう呟く。
 どうやら魔物はバグベアだという事まで分かったらしいのだが、凶暴化しているようで本当に普通のバグベアなのかまだ断言は出来ないらしい。
「エイジスの方はどうだったんだ?」
「精霊様の物語は、リースさん達と同じのを聞いたよ。で、祝福を受けし光‥‥物語の最後、精霊様を助けるのは魔法使いって‥‥」
「同じですね‥‥古老さんからもそんなお話しか‥‥ですか‥‥」
「‥‥ん? ちょっと待て‥‥?」
 ジェンドがそう言うと、冒険者達は其方に視線をうつす。腕組みをしながら考えているジェンドの姿が見えた。
「その情報を照らし合わせると、精霊が出るのは月が綺麗な夜‥‥男爵が声を聞いた時の月は?」
「月が綺麗な夜だった」
「なら、これでビンゴだ」
「どういう事なんだ、ジェンドさん?」
 リュウガ・ダグラス(ea2578)が不思議そうに尋ねると、ジェンドは小さく笑った。
「多分、男爵が聞いた声はブリッグルのものだと思われる。月の精霊と言えばこいつぐらいだろう。ララディには滅多に会えるものじゃあない」
「凄いわ、どうして其処まで分かったの?」
「月さ。物語でも綺麗な月の夜。男爵が声を聞いた時も綺麗な月の夜‥‥どちらも『月』が関係している。なら、ブリッグルだろう」
 エルトウィンの質問にそう答えるジェンド。彼女は精霊知識が豊富だった為、特定が可能だったのだ。
 そして、彼女がもう一つ気にしている事。其れは‥‥。
「後の問題は祝福を受けし光と黒い霧だ。祝福を受けし光‥‥物語では魔法使いとされている。と、いう事はウィザードが絡んでいると考えていいだろう」
「そうですね。ウィザードの魔法を発動させる時、光ますし‥‥その魔法が『精霊様の祝福』だと思いこんでる人もいるみたいですし」
「何にせよ、あたし達のすべき事はまずバグベア退治、ね」
 エルトウィンがそう言うと、一同は大きく頷いた。

「ところで、件の森に足を踏み入れたことはおありですか? いえ、精霊が男爵様を選ばれた理由が少々気になりまして」
「突然だな。いいや、俺はない。何故選ばれたのかも、心当たりがないんだ」
 男爵がそう答えると、リーンは少し首を傾げるのだった。

●退治せよ
 次の日。森の入り口まで来ると、シルバーが昨日見た熱源の事を情報を下に捜索するメンバーに告げた。
「では、其処で一度魔法を使ってみようか」
 情報を下に捜索するメンバーはジェンド、シルバー、エイジス、エルトウィン、アハメス、クウェルの六人と、マルクス男爵。
 先に森の中に足を踏み入れ、捜索を開始する。森は霧の所為で薄暗い。まるで夜のようだった。
「凄い暗いですね‥‥」
「足元には気をつけて行きましょう」
 アハメスの言葉に、足元を頭上を気にしながら進む。
 そして、怪しいと思う場所を見つける度に、ジェンドがブレスセンサーを駆使して探す。
「‥‥森にはいい思い出があまりない、な‥‥」
「何か、あったんですか?」
「色々だよ、色々‥‥」
 そんな他愛もない会話をしながら進んでいるうちに、シルバーが熱源を見たとされる場所まで辿りついた。
「ここです。ここ付近で昨日見たのですが」
「‥‥ふむ。少し探してみよう‥‥皆はこの場にいてくれ。‥‥集中する‥‥」
 そう言うと、ジェンドは魔法詠唱を始め、ブレスセンサーを発動させると、その付近をゆっくり、ゆっくりと歩き始めた。
 此れは少し時間がかかりそうである‥‥。

 一方、もう一つの班は痕跡等を探してバグベアを捜索する班。
 残りのアッシュ、リュウガ、リーン、アルカード、リース、イェーガー・ラタイン(ea6382)。
「リオン‥‥しっかり見張っててくれ!何か異変があれば動作で知らせてくれ!」
 ペットにそう声をかけてから、森の中を注意深く見渡す。痕跡が一つでもあれば、手がかりに出来るだろう。
「チャム、やっと君の出番だ!、森の草花や木々に聞いてくれないか‥‥どんな魔物か、いつごろ来たか、何体いるのか、頼んだよ!、また魔物を見つけたら直ぐに戻って来るんだぞ!」
「ぞー♪」
 妖精の方も協力してパタパタと飛び回る。勿論、他のメンバー達も辺りの様子を注意深く見て行く。
 そんな時、リュウガが一つの痕跡を見つけていた。其れは、森の動物と思われる残骸だった。
「此れは‥‥食べた、のか?」
「可哀想‥‥」
「バグベアの食料にされてしまったみたいだな‥‥後は、獣道を見つけるか」
 アッシュがそう言うと、リュウガもコクリと頷く。
「再現の神、大いなる父の力を持って近づき者をあばきだせ! ディレクトライフフォース!」
 念の為のディレクトライフフォース。何かが近づいて来れば分かるだろう。
「そう言えば、其れなんですか、リーンさん?」
「クウェルさんが合図用にって。鳴子笛」
 リーンがそう言うと、森の中へと一同は歩き始めた。
「可哀想ですから、せめて‥‥」
 リースとイェーガーは、動物の残骸を供養してから後を追うのだった。

「ジェンドさん、どうですか?」
「後一箇所‥‥ここさえ終われば‥‥」
 ブレスセンサーを駆使して、森の奥をじっと見つめた。
 クウェルは保存食を調理して、皆に与えていた。が、ジェンドは捜索の為食事をとってはいない。
 気にはしていたのだが、仕方の無い事、と。しかし、そんな時だった。ジェンドがゆっくりと目を閉じた。
「‥‥‥‥此れは‥‥‥‥」
「どうかしましたか?」
「来る‥‥かなりでかい‥‥火を消せ! 来るぞ!」
 ジェンドがそう言うと、エルトウィンは急いでキャンプの火を消し、クウェルはホーリーフィールドの詠唱へと入っていた。
 アハメスとエイジスが剣を抜き前線に立つと、真ん中にマルクスとジェンドが配置される。
 両脇には援護としてシルバーとエルトウィンがつく。
 森に大きな足音が響いて来た。ズシリ、ズシリ。その足音は段々と近くなって来る。
「‥‥まさかこっちでビンゴするとは‥‥」
「シルバーさんの情報のお陰、ですね」
「此れはもう精霊探しどころの話じゃないわねぇ」
「きますよ!」
 アハメスの声と同時に鋭いツメが冒険者達を襲う。しかし、クウェルのホーリーフィールドのお陰で其れを何とか防ぐ事が出来た。
 草むらから姿を現したのは、今まで見てきたバグベアよりも大きなものだった。
「クウェル、法螺貝!」
「は、はいっ!」
 促され、クウェルは急いで法螺貝を手にし吹き始める。
 その大きな音は、他の班のメンバーにも十分に届いていた。
「合図の法螺貝!」
「まさか、あっちに出たのか!?」
「だとしたら、急ぐぞ!」
 そう言うと同時に走り出すアッシュ。そして其れを追う冒険者達。
 急いで合流せねば‥‥もし、相手しきれないものだとしたら、大変だ、と。
「クウェル、急いで次のホーリーフィールドを! 男爵だけでも守れ!」
「はいっ! でも、ウィザードの貴方も守らないと‥‥」
「私より男爵だろうがっ!」
 配慮するクウェルにそう言い放つジェンド。どうせ魔法詠唱している時は動けないのだから、という。
 仕方なくクウェルもマルクスを優先的に守る事にした。

 バグベアは凶暴だった。エイジスのスマッシュEXを受けた後でも、腕を勢いよく振り回し近づけないようにしていた。
「非力なあたしの所にどーして来るのかな!」
 エルトウィンが石を手に持つと、バグベアの目を狙って其れを投げる。シューティングPAにより、その石はバグベアの目を射抜く。
 バグベアの咆哮が森に木霊した。
「無事か、みんな!?」
「こっちは大丈夫です! バグベアの方をお願いします!」
「エルトウィンさん、射撃変わります!」
「お願いね、あたしは男爵を守るわ!」
「ジェンド、無茶は!?」
「してないっ!」
 そう言うと、ジェンドは詠唱していた魔法、ウィンドスラッシュをバグベアに放つ。
 そのダメージで気が逸れたのか、バグベアはその魔法が飛んできた先を探す為ぐるぐると回っていた。
「叩きこむ!」
「翻弄はやるわね!」
「援護を!」
 リーンがバグベアの前に飛び出すと、一撃軽く攻撃を入れる。
 すると、バグベアも敵が近くにいるのだと察知し、腕を振り回す。
 その隙ににアッシュの一撃が脚部に叩きこまれる。鈍い音と同時にバグベアはその場に大きな地響きと共に倒れこんだ。
「後は確実に仕留めるだけ‥‥!」
 アルカードのアグラベイションと、ジェンドのウィンドスラッシュで気を逸らしている間にシルバーがアイスチャクラを生成し、構えた。
「一緒に狙ってください、イェーガーさん」
「分かりました、俺は頭を狙います!」
「では、私は喉を‥‥いきますよ」
 矢を引くイェーガー。其れを見て、シルバーはアイスチャクラをバグベアの首を目掛けて投げる。
 一歩遅れてイェーガーが頭目掛けて矢を放つ。

 最後はあっけないものだった。アイスチャクラがバグベアの喉下を裂き、イェーガーの矢が綺麗に頭部へと刺さる。
 後は絶命を辿るだけだった。

●森から出た後‥‥
 あれから一日かけて捜索したものの、冒険者達は精霊に会う事なく森を出た。
「見つからなかったわね‥‥どうしてかしら?」
「‥‥黒い霧もまだ残ってるみたいです‥‥」
「‥‥また、来て貰えるかな? 次は精霊様の安否の仕事を頼む事になる」
 マルクスがそう言うと、冒険者達はしっかりと頷いた。
 謎が謎なままでは放ってはおけない。今回は精霊に会えなかったが、何れ精霊に会えると信じて‥‥。
「では、屋敷に戻ろう。そして、明日送り届けるとするよ。キミ達に竜と精霊のご加護があらん事を」
 そう言うとマルクスは先に道を歩いて行く。その背を見、そして空を見て
「‥‥私はこの世界の精霊が知りたい‥‥」
 ジェンドが小さく呟いたのだった。
「何れ、知る事になるかも知れません。だから、慌てずにいきましょう」
「そうですよ。まだチャンスは残ってますし」
「‥‥やれやれ。そうだな、諦めるには早すぎる‥‥か」
 そんな話をしながら、精霊の姿を想像しながら。
 冒険者達はその依頼を終えるのだった‥‥。