●リプレイ本文
●言葉は不思議
「このままでは人々にも被害が出てしまうかもしれません‥‥」
男爵の屋敷でクウェル・グッドウェザー(ea0447)がそう呟く。
二人程仲間がいない。その仲間が戻ってくる間、準備を殿の得ておく事にしたのだ。
「何度もご足労して頂いてすまないな」
「いえ、いいんですよ。其れよりあの二人は何処へ‥‥?」
「先程、色々と聞かれたんで其れについて答えたら情報を集めてくると言っていた。出るまでには戻るといっていたから大丈夫だと思う」
マルクスがそう言うと、クウェルはホッと胸をなでおろした。
間に合わなかった場合、どうしようかと考えていたからだ。
「今度こそは精霊様にお会いできるといいのですけど‥‥」
「大丈夫だろう。あの黒い霧さえ何とか出来れば、きっと会えるはずさ!」
リュウガ・ダグラス(ea2578)の言葉にリース・マナトゥース(ea1390)も頷く。
黒い霧は森の半分を包み込むように広がっている。
このままではこの街にも及ぶかも知れない‥‥。
「この街に被害が出る前に何とかして頂きたい。難題だとは思うのだが、宜しく頼む」
「はい‥‥マルクスさんも心配なんですね‥‥」
「本来なら一緒に行きたかったのだが、流石に私は足手まといになるだろう。‥‥任せるしかないというのも情けないものだよ」
「そんな事は‥‥」
「精霊の声を聞きながらも、私はここにいるんだ‥‥安全なここに‥‥」
そう言うと、マルクスは小さく溜息をつくのだった‥‥。
●キーワードは森
「さて‥‥ようやく精霊と出会えるってわけかね‥‥」
「しかし、件の黒い霧の退治‥‥難業かもしれないですね」
「其れでも私達はやらねばならない。そうだろう?」
ジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)の言葉にアルカード・ガイスト(ea1135)は苦笑いを浮かべながら頷いた。
二人は森をキーワードにして街の人達に聞きこみを始めていた。
その情報は貴重なものだったのかどうかは分からない。
しかし‥‥。
「森の精霊? あぁ、いるよ。森の子供様の事だろ?」
「森の子供様?」
「あぁ、そうさ。森の精霊様は子供の姿をしているんだ。森の事なら何でも知ってる、可愛い子供様なのさ」
「‥‥どうですか、ジェンドさん?」
「‥‥子供‥‥精霊‥‥?」
ジェンドは腕を組み考え始めた。
森の精霊は子供の姿をしており、森の事なら何でも知っているという。
「でも、子供様に失礼な事をしちゃダメだよ? 恐ろしい声をあげてくるっていう話だからねぇ」
「‥‥! そうか、もう一人の精霊‥‥アースソウルか‥‥!」
「アースソウル、ですか‥‥」
「あぁ、森を守る精霊だ。‥‥しかし、森を怖そうとする者には恐ろしい声をあげて驚かすというのに‥‥」
「霧では驚かしようがなかったのでは?」
「もし相手がカオスであるのなら其れは考えられる。‥‥戻ろう、アルカード。情報をもう少し整理してみる必要があるようだ」
「では、最後に一つだけ‥‥その精霊がよく見られる場所は何処か知りませんか?」
アルカードが尋ねると、街の人も首を横に振る。
噂話でもあるし、伝承であると思っていた為場所までは知らないようである。
(「この辺りですか‥‥」)
シルバー・ストーム(ea3651)は一人また森の前にいた。
前回と同様の方法で、次は魔力の存在する場所を探そうというのだ。
ふわりと体を浮かせると、次々と方法を試していく。
(「‥‥霧が広がり始めていますか‥‥このままでは街の方に‥‥」)
森を上空から見回すと、シルバーは一つの異変に気付いた。
森の中心部。霧が濃すぎる程真っ黒な部分があるのだ。
(「‥‥あそこに本体が‥‥?」)
彼に分かるのは其処までだった。
魔力は感じとれたものの、何処からなのかあまりよく掴めなかったのである。
「今戻った」
「ジェンドさん、どうでしたか?」
「もう一人の精霊が判りました」
「本当か!?」
アルカードのその言葉に、マルクスは興奮を隠しきれない様子だ。
其れを見ると、自分が説明するとジェンドが前に出た。
専門的な会話をするのなら彼女が適任なのである。
「もう一人の精霊は森の守護者だ。つまり、アースソウル」
「アースソウル‥‥?」
「そうだ。森の事なら何でも知っているとされている、子供の姿をした精霊だ。この街の人の言葉で言うならば子供様だろう」
「子供様‥‥!? まさか、本当にいたとは‥‥」
「伝承だと皆も思っていたようだ。しかし、伝承にしてはハッキリと残っているのだな‥‥?」
「最近何処からともなく言われた話だったからな‥‥」
マルクスがそう言うと、ジェンドは溜息をついて米神に手を当てた。
「月‥‥夜‥‥森‥‥。色々と考えつくのはつくのだが、今は休んでおきたい。どうせ探索は夜だろう?」
「確かにそうね。今の間に眠っておきましょう」
リーン・エグザンティア(eb4501)の提案を一同は受け入れ、夜の為に睡眠をとる事になった。
ブリッグルは夜にしか姿を見せない。其れを考慮した事である。
●深夜の探索
夜になって、冒険者達は灯りを片手に森の前に立っていた。
立ちこめる霧が不気味に感じる。其れでも、先に進まなければならない。
「準備はいいですか?」
「うん、シルバーさん。何処に中心があったか分かった?」
「中心部です。魔力も微かに感じたのですが、場所は特定出来ませんでした」
シルバーがそう言うと、エイジス・レーヴァティン(ea9907)は頷いて森へと入って行くのだった。
「精霊さん、精霊さ〜ん、でっておいで〜♪」
「妖精さ〜ん、夜分遅くに失礼致しますが〜もしいらっしゃいましたらどうかお返事を〜」
「‥‥まるで迷子の子供探しだな」
「ぼやくな、ジェンド。此れも仕事だろ?」
「ま、バグベア一体倒してどうにかなる問題だとは思ってなかったけどね。正直此れには驚いたわ」
リーンがそう言うと、ジェンドとアッシュ・クライン(ea3102)は苦笑いを浮かべるのだった。
確かにこの霧の広がる速度は凄いものだった。
「カオスの魔物に対してもデビルと同様の効果が期待できるのでしょうか‥‥」
「‥‥カオスとデビル、大きな違いがあるのではないか?」
「そうでしょうか?」
アッシュの言葉にアハメス・パミ(ea3641)がそう返す。
「デビルというのはインキュバスとかああいうのだろう? カオスとは別物の気がする」
「そうか、お前は一度カオスと戦った事があるんだったな?」
「ああ。その時も丁度こんな霧との戦いだった。魔物に取り付き、全てを自由に操る‥‥意思すらも飲み込んでしまうんだ」
「人間に取り付くという可能性は?」
ジェンドが尋ねるが、アッシュの答えは首を横に振るだけ。
其れもそうだ、彼が戦ったのは霧に取り付かれたナーガだったのだから。
「月のエレメンタラーフェアリーが接触の助けとなったのですが‥‥来ませんね‥‥」
「エレメンタラーフェアリーは何処にでもいる。しかも、野生は大抵人に見つかったら逃げるものなんだ。其れが人の近くにいるという事はペット。彼等も其れを分かっているのかもな?」
「其れに、まずはこの黒い霧を何とかしないといけませんしね。中心まではどのくらいですか?」
「‥‥もうすぐだとは思いますが、この霧の中では‥‥よく分かりませんね」
空をも覆い消すような量の黒い霧。其れは、まるで冒険者達の邪魔をしているようだった。
「一度ここで野営しましょう。休憩という意味を込めてそうした方がいいと思います」
イコン・シュターライゼン(ea7891)がそう言うと、一同はそれぞれ野営の準備を始めていた。
襲撃の為起きている事を選んだのはジェンドとリュウガだった。
他の者は休息の為睡眠をとっていた。
「ジェンドさん、精霊を見つけるための注意点は何かないのか?‥‥何かが側に落ちてるとか咲いてるとか‥‥兆しが判れば助かるのだが‥‥教えてくれないか」
「注意点‥‥ねぇ?」
「どんな事でもいいんだ」
「‥‥月の精霊は名の通り。綺麗な月の夜にしか姿を見せない。綺麗な音楽と色恋沙汰を好む‥‥その為、すぐには見つかると思うが余程注意して見ておかないと見つからないだろうな」
「森の精霊はどうなんだい?」
「其れが一番の問題だ。森を歩いていれば普段は稀に見れるのだが‥‥こういう状態だと、まず無理だろうな。精霊を探すにしろ、この霧を何とかするのが優先事項だ」
ジェンドの言葉に、リュウガは頷いた。
既にキャンプ地の周りにも黒い霧がまとわりつくかのように漂っている。
用心してジェンドはスクロールを数枚、手に握り締める。そんな時だった。
霧が二人を中心に取り巻く形になっていっていたのだ。
「此れは‥‥リュウガ!」
「どうやら中心部が近いって事だな!」
「魔法で牽制する! 皆を起こしてくれ!」
そう言うと、ジェンドは急いで一枚のスクロールを荒っぽく広げ魔法を成熟させる。
魔法の重力波が黒い霧を薙ぎ払っていく。グラビティーキャノンだ。
その間にリュウガが寝ている他者を起こして行く。
「本体が近いって本当なの!?」
「ああ! 俺とジェンドさんが襲われかけた! 今はジェンドさんが何とかしてくれてる!」
「ジェンドが!?」
其れを聞くと、アッシュはジェンドの下へと急いだ。
彼女だけはこの身体を盾にしても守る。その思いからである。
「ジェンド!」
「アッシュ、これ!」
「‥‥! サンキュ!」
クリスタルソードをアッシュに投げ渡すと、ジェンドは軽くアッシュの背に背を預ける。
「再現の神、大いなる父の力を持って聖なる結界をここへ! ホーリーフィールド!」
リュウガも合流して二人を守る結界を貼る。
その間にクウェル達が辺りを捜索していた。どこかに本体がいるはずだ。
其れを信じて‥‥。
「いました、あそこです!」
「炎の民よ、彼の地で爆ぜよ!」
魔法を成熟させ、本体を睨みつけてアルカードがファイヤーボムを叩きこむ。
濃い霧が一瞬払われ、其処には小さな魔物のような姿をしたものの姿が見えた。
「やっぱり本体がいたんですね‥‥」
「ソニックブームで援護します!」
「私もホーリーで援護します、他の方々はどうか!」
リースのその声に、アハメスが前線に出る。勿論、イコンにオーラパワーを付与してもらってからだ。
「私は出来るだけ霧を払います」
シルバーは電撃の鎧を纏い、シルバーチェーンベルトを振り回す。
霧は少しずつだが払われていく。
「この霧‥‥何かおかしい‥‥」
エルトウィン・クリストフ(ea9085)が一つの異変に気付く。
霧が払われた後、其処には微かな光が残るのである。
「まさか‥‥霧が光を飲み込んでいたって事‥‥? 其れとも、魔法の光?」
「く‥‥! 霧が邪魔でスクロールが‥‥!」
ジェンドがぼやくと、アッシュがまるでジェンドを庇うかのように背へとやった。
「アッシュ‥‥!」
「いいから、払えるだけ払ってくれ! 霧も魔法の剣では払えるようだが、俺だけでは辛い!」
「俺も手伝う!」
リュウガとアッシュのおかげで、ジェンドは魔法で霧を薙ぎ払っていくのだった。
「手伝うわ、アハメス!」
「二人で切り落としましょう!」
リースのホーリー、クウェルのソニックブームが援護として飛び交う中、アハメスとリーンが剣を構える。
本体の懐に飛び込むと、二人は剣を振り上げた。
「これで‥‥」
「おしまいっ!」
二人の剣が小さな魔物のようなものに突き刺さる。
すると、奇妙な声をあげながら砂になっていった。そして、霧は綺麗に晴れるのだった。
「‥‥終わったみたいね‥‥よかったわ‥‥」
「リーンさん、アハメスさん! 大丈夫ですか!?」
「えぇ、私達は大丈夫‥‥。其れよりあっちの3人は?」
リーンが尋ねると、遠くからリュウガが視線を此方に向けて首を横に振った。
どうやら其処は今行くべき雰囲気ではないようだ。
「バカか、お前!? 取り付かれるかも知れないっていうのに私を庇うな!」
「すまない。でもお前だけは守らないといけないと思ったから‥‥」
「‥‥! ばっ、バカ! 次からはこんな危険な事‥‥」
恋仲の二人がそんな言い合いをしている最中の事だった。
リュウガが雫のようなものが傍らに浮いているのを見つけたのだ。
そう。其れが月の精霊である。
「ジェンドさん、アッシュさん、そう言うのは後で‥‥。精霊様が出たみたいだ」
「は、初めまして。私はリース・マナトゥースです。マルクス男爵の使いで来ました」
「‥‥霧、払ってくれたのね‥‥ありがとう。これで光も入り、彼も助かるわ‥‥」
「僕達は、貴方達の求めに応える為に来ました…。ここで何が起きていたのですか?」
イコンが尋ねると、ブリッグルは小さく首を横に振った。
「私達にも、判らないの‥‥突然、霧が現れて‥‥。でも、気がついたら霧が消えていて、色恋沙汰の気配がしたものだから‥‥」
「ジェンドさんとアッシュさんにつられて出てきたんですね」
「‥‥何か、恥ずかしいものが‥‥」
「其れより。ブリッグル‥‥私達は色々伺いたいのだが」
「何故マルクス男爵を選んだの?」
リーンが尋ねると、ブリッグルは小さく笑ったような気がした。
そして、こう言葉を紡いだのだ。
「彼は純粋だったの。毎日毎日森に来ては祈りを捧げてくれた‥‥其れを彼に聞いたの」
「彼?」
「アースソウルよ。‥‥今はまだ怯えて出て来ていないけれど、大丈夫。彼も無事よ」
「男爵様にメッセージとかあれば伝えるけど、何かある?」
「‥‥私達精霊は何処にでもいるものなの。だからお願い。その精霊達の願いも聞いてあげて。困っている精霊は私達だけではないから」
そう言い残すと、ブリッグルは消えてしまった。
微かな綺麗な音色を残して‥‥。
●報告は一晩続く‥‥?
「ただいま戻りました」
「霧が晴れたようだな、君達のお陰だ。助かった」
「それで、男爵様を選んだ理由ですが‥‥あの森で祈りを捧げていたんですか?」
リースが尋ねると、マルクスは恥ずかしそうに頭を掻いて頷いた。
まさか其れがバレるとは思っていなかったのだろう。
「純粋だから選んだと言ってました。後は、他にも困っている精霊達がいるので助けてあげて欲しいと‥‥」
「そうか‥‥次はもっと精霊の調査をしてとりかかろう。エレメンタラーフェアリーならそこかしこにいるからな。それで、精霊の事だが‥‥」
「問題はなかった。月の精霊ブリッグルと森の精霊アースソウル。此れで間違いはないだろう」
「ふむ‥‥其処に精霊が二人もいたというのか。興味深い‥‥」
「調べるにしても、今は時期が悪すぎる。アースソウルも怯えて姿を見せないそうだ」
「綺麗な月の夜に森に行けば直接ブリッグルに会えるかも知れない、か」
「しかし、余程目がよくないと見つけられないだろう。もう少し対策を練ってだな‥‥」
ジェンドとマルクスだけが入れる空間‥‥の状態になってしまっていた。
専門用語が飛び交い、既にクウェル達には分からない区域に達していた。
「え、えーと‥‥ジェンドさーん‥‥?」
「しかし、其れでは精霊の力が‥‥」
「ダメね‥‥二人して二人の世界に入り浸ってるみたい‥‥」
「何時もこうだぞ、彼女は? こうなったら一晩は止まらないだろうな‥‥」
「‥‥苦労してますね、アッシュさん‥‥」
「慣れてしまえばそうでもないが‥‥」
そんな会話が二人の傍らで交わされていた。
結局二人の話が終わったのは一晩たった次の日の朝だったという‥‥。