●リプレイ本文
●言いたいことは山ほど
「やぁ、来てくれたんだね。今回もよろしく頼むよ」
集まった冒険者達にマルクスはご機嫌そうに言う。
もう旅立つ準備は万端のようだ。早く行きたくてうずうずしているという。
こういう姿を見れば子供のようだと誰しもが思うのだが‥‥一人だけ違っていた。
「マルクス‥‥お前、人を勝手にマニア呼ばわりしておいてそのまんまか?」
「おや、君は‥‥! 今回も来てくれたのか、有難い! 是非アキテの巫女との会談の時には‥‥!」
「そういう事を言っているのではない!」
思わず怒り口調になってテーブルをバン! と叩くジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)。
どうやら『精霊マニア』という呼ばれ方が気に食わないらしい。
「まぁ、落ち着けジェンド。今は言い合ってる場合ではないだろ?」
「しかしだな‥‥!」
「いいから。これから大事な依頼なんだ、冷静を保て」
アッシュ・クライン(ea3102)に宥められ、渋々と納得するジェンド。
それを見て溜息をつくと、アッシュはマルクスの肩を叩く。
「精霊の話でアキテまで護衛、だったな」
「そうだ。この前君が話してくれた話の事もある。この世界では精霊が一番大事なのだ。もしそういう輩が出てきた場合の対処も考えなくてはならない」
「そういえば、以前来ていた彼なのですが」
そう話を切り出すイコン・シュターライゼン(ea7891)。彼からこの件を引き継いだと告げる。
「そうか、それは残念だ。しかし旅をするのはいい事だ。それでは今回はヨロシク頼むぞ!」
マルクスの声と同時に、冒険者達はアキテへと急ぐことにした。
●面会までの道のり
王都からアキテ小爵領までの道のりはそう遠くはなかった。
道中、魔物の襲撃もなくスムーズにこれたのである。
「マルクス男爵。フレン‥‥以前悩みを相談してきたフェアリーの子が元気にしているか分かりますか?」
「あぁ、彼女か。今は仲間と仲良くやっているようだ。時折遊びに来てくれる」
嬉しそうに言うマルクスを見て、リーン・エグザンティア(eb4501)は安堵の息を零す。
どうやら彼女は彼女でフレンのことが心配だったようだ。
「それと、この地は私如きがお世話をさせていただけるなんて、身に余る光栄ですわ! ‥‥と言うのが普通であるくらい、彼女達の精霊至上主義は徹底しています。そこの所をご理解していただくとトラブルも少ないかと思いますわ」
「それは私にとっても好都合だ。似たようなところがあるからな」
アキテ領地でのトラブルもないということだ。これほど安心できるものはないだろう。
アキテ領地に一歩踏み入るとやはりカミーユが姿を現した。
「止まれ、冒険者一行。この地に何をしに来た?」
「また会えて嬉しいわ、カミーユさん」
「いつぞやの冒険者か」
「こちらのマルクス男爵は精霊についてとても熱心な方で、精霊達の今後について是非とも話し合いたいとのことなの」
リーンが目的をカミーユに告げると、カミーユは少し眉を潜めて冒険者達を一度見回した。
中には信用出来そうな者もいるだろうが男が多い。巫女達がうつつをぬかしてはと心配しているのだろう。
「巫女様と話し合いたいということだな? ‥‥私が同席するという条件ならば飲もう」
「私は空戦騎士団長としてカミーユ騎士団長に用事があるのだけれど」
すかさずシャルロット・プラン(eb4219)が口を挟む。
カミーユがいてはまた警戒されるかも知れない。だからこその作戦である。
「ならぱ此処で聞こう」
相手の方が一枚上手だった。
「え、でも‥‥」
「構わない。此処では政治等は全てオープンなのだ。話せ」
「では、お話するわね。まずゴーレムについてなのだけれど‥‥アキテ領に機器の持ち込みはダメかしら?」
シャルロットが尋ねると、カミーユは更に眉をひそめる。少し不機嫌になりつつあるようだ。
「勿論禁止だ。此処が何処かわかっているか? 精霊の加護がある地。精霊様がもし怯えたらどうするつもりだ?」
「それでは、エアルート航路もかしら?」
「勿論禁止だ。迂回して貰う」
当然の結果である。何せ此処アキテ領は保守的な地。
そして、精霊が全てなのである。なので精霊が怖がるような事は全て禁止しているのだ。
「やはりこのような者達を巫女様に会わせるのは‥‥」
「カミーユ、大丈夫だ。このマルクスは信頼出来る男だ。親身になって精霊の事を考えている。今後、精霊の保護の仕方等新たな発見が出来るのではと思っている‥‥どうか?」
アッシュがそういうと、カミーユは少し考える仕草を見せる。どうやらかなり渋っているようだ。
「カミーユ、ね‥‥気の強い事はいい事だ。昔私もそうだった。今もだがな」
「む‥‥お前は?」
「ただのウィザードさ。ま‥‥騎士としての職務は立派ではあるが、まずは主君に聞いてみたらどうか? 主君が嫌がるのであれば此方も引き下がれるだろう?」
暫し見つめあうジェンドとカミーユ。どうやら2人は似たもの同士らしく、何か気が合う部分を感じているらしい。
そして、カミーユは踵を返すと冒険者達にこう告げる。
「こっちだ。来るといい」
どうやら、無事面会は出来るようだ。
●面談と奇襲
「失礼します、巫女様」
「あら、カミーユ? どうかなさったの?」
扉の向こうは広い客室。其処には綺麗な顔立ちをした女性の姿があった。
どうやら彼女が巫女クリスチーナのようである。
「はっ‥‥どうやら面会したいという方が‥‥」
「私にですか? 通してください」
「こんなに早くまた会うことが出来て嬉しいわ」
最初に顔を出したのはリーンだ。彼女を見てクリスチーナはピンと来たのか楽にするようにという。
「冒険者さん達ですね。依頼にしては、数が足りないように見えるのですが」
「他の連中は警備の方についてるよ。最近魔物が多いんだろう?」
アッシュがそういうと、クリスチーナは少し苦笑を浮かべた。そして、マルクスをじっと見るのだった。
「このお方は?」
「初めまして、巫女様。マルクスと申します。今回は精霊の事で少しお話がありまして‥‥」
「精霊様についてですか? 私達でお役に立てますかしら?」
「大丈夫です。今回は精霊マニアも連れてきて‥‥」
マルクスの言葉が終わる前にマルクスの頬に何かがぶち当たった。
其れは怒りに震えたジェンドの見事な蹴りであった。
慌てるアッシュを他所にジェンドはクリスチーナの前にどんと出る。どうやら彼女は貴族とかそういうものに何も感じないらしい。
「マルクス側の補足として共させて貰ったジェンドという。よろしくな」
「うふふ、ジェンドさんですね? よろしくお願いします。同じウィザードにはとても見えませんね。あ、後で教えて貰えますか、今の蹴り?」
そんな言葉をカミーユが必死にさせる。しかし、いつまでもこうしてはいられない。
「早速話をしたいのですが‥‥」
「はい、何なりと」
「実はこの冒険者達の世界では、精霊が売られていたようなのです」
マルクスの言葉に絶句する2人。この領地ではありえない、あってはならない事だからだ。
「そんな恐ろしい事が‥‥」
「この世界では精霊は何よりも大事。そして、崇拝されています。‥‥もし、賊がこのような事を耳にした場合、対処せねばなりません」
「捕縛して首だけ残して生き埋めだな。そのまま七日間放置だ。精霊の赦しがあれば生き延びることが出来るだろう」
カミーユが即答する。
「確かに、精霊様を売るだなんて事は万死に値します。出来ればこの地にいらして貰いたいのですが‥‥」
「以前、森でフレンという妖精を見つけました。彼女にもここの事を教えたいのですが‥‥」
「はい、是非。もし人間に捕まったら大変ですわ」
話し合いは順調に進んでいく。
三人の会話にジェンドも加わり、精霊の詳しい部分を説明する。
彼女がいることで雰囲気も和やかになっていた。
「カミーユ、ちょっと‥‥」
「何だ、アッシュ?」
「最近、この領地で変わったことはないか? 魔物の事とかクリスチーナ様の事とか」
アッシュが尋ねると、カミーユは少し考えてからゆっくりと口を開く。
「最近精霊様の様子がおかしいと巫女様が言うのだ。それに伴い魔物の数も増えている‥‥結界があるからいいものの、流石にこれでは問題がある」
「外の奴等にも伝えておこう。もし精霊の様子がおかしいのが本当だというのならジェンドに相談してみるつもりだ」
「彼女、本当に精霊に詳しいのだな?」
「精霊の事、もっとよく知りたいみたいだからな‥‥」
そういったアッシュの表情は少し笑っていた‥‥。
一方外では警戒班が見回りを行っていた。
その中の一人、アハメス・パミ(ea3641)がアキテの準巫女達と会話を楽しんでいた。
「私の故郷でも陽精霊を祭っているのです。なので興味が少し‥‥」
「そうなの? 精霊様はどんなところでも必ず祭られているものよ」
「そうね。この領地ではそれが当然だもの。祭らなければ祟られてしまうもの」
口々にそういう準巫女達。アハメスは少し故郷を懐かしんでいた。
そんなときである。テレスコープとエックスレイビジョンを使い偵察していたチルニー・テルフェル(ea3448)が何か動きを見つけていた。
「あれ? 今、何か動いたような?」
「何処です?」
「あっちの方!」
指をさしてチルニーがシルバー・ストーム(ea3651)に場所を教える。
すると素早くシルバーは確かめに入る。緊張感が少しこの場に漂っていた。
しかし、その後の動きに気づいたのはリュウガ・ダグラス(ea2578)だった。
「何か物音がしないか!?」
「変ですね。あちらはチルニーさんが指した方角ではないはずですが」
「陽動かも知れません、急いでカミーユさんに知らせてきます!」
アルカード・ガイスト(ea1135)の言葉にアハメスが客室へと走る。
その隙を狙ってかコボルトの群れが姿を見せるのである。
コボルトもコブリンも群れればそれ相当の知能を持つ。
「何とか街の外に連れ出そう!」
「そうですね、被害が出る前に‥‥」
「僕が引きつけますので皆さんは先に!」
イコンの言葉にリュウガ達は走るのだった‥‥。
●わからないことばかり
「大変です、皆さん! 魔物が此方に向って‥‥!」
タイミングは最悪だった。アハメスが部屋に入ったと同時にコブリンの投石により窓が割れる。
そして中に進入してきたのである。
「いつの間にここまで!?」
「すみません、陽動でやられてしまいました!」
アハメスの言葉にケンイチ・ヤマモト(ea0760)も今まで傍観していたのだが戦闘態勢に入る。
「カミーユは巫女の護衛についておくといい。前方は私達でやれるだろうが不意打ちという事もあるからな」
「すまない、ジェンド!」
「野郎は後だ、後!」
マルクスに対して冷たいジェンドを見て、アッシュはやれやれと苦笑を浮かべる。
「こうも狭いところに押し入られると‥‥魔法も使えませんね‥‥」
「それでもやるのが私達だろう?」
「ジェンドさんなら確かにそうでしょうね」
ケンイチがそういうと、ジェンドは素早くスクロールを広げコブリンの一匹をストーンでかためる。
確かにこの魔法であれば回りに被害は出ないだろう。
「カミーユ、大丈夫!?」
「問題ありません、巫女様! お守りいたします!」
「男爵は此方へ! お守りします!」
「すまない、リーン。流石騎士らしいな。どこかの冷たい男のような精霊マニアとは大違い‥‥」
ぶちん。
マルクスのその言葉一つで全てのスイッチが入ってしまった。
都合のいい事にコブリン達は密集している。ジェンドは不敵な笑みを浮かべて使ってはいけないスクロールに手を伸ばす。
「やばい‥‥ジェンド、待て!」
「マルクスを今蹴れないからお前達にぶつけてやる!」
放たれたグラビティーキャノン。
コブリン達を飲み込んで、壁を突き破り悲惨な客室になるのだった‥‥。
援軍に駆けつけたリュウガ達もこれには絶句したという‥‥。
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
「いや、此方こそ‥‥仲間がとんでもないことを‥‥」
「いえいえ。ああでもしてくれなければ退治も難しかったでしょうから」
クリスチーナが笑顔で答えているとチルニーがふわふわと飛んできた。
「あのね、私巫女様に聞きたい事があるの!」
「私にですか?」
「私達の世界とこの世界の精霊ってどう違うの?」
チルニーの質問にクリスチーナは首をかしげた。
それもそうだ。クリスチーナはアトランティスの人間。
ジ・アースの精霊など知るわけがない。だから答えられるわけがない。
「後ね、教授見なかった?」
「教授、ですか?」
「精霊に詳しい天界人だよ!」
「あぁ、ミハイル様ですか? 彼なら此方には来たことはありません。お話は伺っているのですが」
何せ教授はただいま多忙。のんびり旅が出来るわけがない。
「俺は俺で聞きたい事がある。カミーユ、少しいいか?」
長渡泰斗(ea1984)がカミーユの名を呼ぶとカミーユは首を傾げる。
「話を聞かせてほしいのだ。人と精霊では伝説の伝わり方に差異があるのかどうかとな」
「どのような話を聞かせればいい?」
「ガイの勇士なのだが」
泰斗がそういうと、カミーユは珍しく真剣な表情で泰斗を見た。
「知りたいと思うのも当然だろうし、話してやりたいことは山々なのだが。其れは私達には出来ないことだ」
理由は簡単だった。ガイの話は断片的にしか残されておらず、語る人によっては話が違う。
つまり、作り話であるのが大半だというのだ。
そんな不確定要素の話はしてやれないという。
「とにかく、今後精霊についての調査が必要ですね」
「やはり気になるのですか? 精霊達が騒いでいるというお話‥‥」
「はい。ですからまた皆さんにお力を借りるかも知れません。そのときはよろしくお願いします」
因みにクリスチーナたちが話している間、ジェンドはマルクスを存分に蹴り堪能したという‥‥。