マスカレイダー1〜怪奇、丸ごと馬男

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月24日

リプレイ公開日:2005年05月23日

●オープニング

 そこは何処とも知れぬ場所。正体の知れぬ彼の者は、大ガラスの羽根ペンの先を血のごとく赤きインクに浸しつつ、踊る血染めの骸骨のごとくにまがしき文字を羊皮紙に書き連ねゆく。

──────────────────────────────────────
神をも恐れぬ傲岸不遜なる悪領主、アレクシス・バルディエに告ぐ。
汝の為したる数々の悪行は積もり積もって天に届きたり。
よって我ら骨十字軍は、神に代わりて汝に地獄の裁きを下す。
汝の領地は毒の呪いを受け、その全ての井戸は毒の掃き溜めと化すであろう。
この大いなる裁きより免れたくば、汝の罪を悔い改め、
その領地・その領民・その町・その城はもとより、
その悪事によりて築き上げたる全財産を銅貨1枚たりとも残すことなく国王陛下に
返上し、無一文の身となりてノルマンを去るがよい。

                  骨十字軍大幹部 暗黒馬将軍スレイプ
──────────────────────────────────────

 羊皮紙は丸められて巻物の形にされ、一番外側になった羊皮紙の端に滴り落とされる真っ赤な熱い蝋。その上から判が押され、封印の蝋を印章の形に圧し固める。それは2本の骨を十字型に交差させ、その中央に髑髏を配した奇怪なる印章。
「さあ、地獄の幕開けだ。罪深きアレクシス・バルディエよ。恐怖に打ち震えるがよい!」
 ぶ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひぃん‥‥!
 蝋燭の光が仄かに照らし出す暗い部屋に、人とも獣ともつかぬくぐもった笑い声が響き渡った。

 夕闇が迫る空の下、家路を急ぐ農夫の前をいくつもの黒い影が取り囲む。
「‥‥ひいっ!」
 恐怖に見開かれた農夫の目、そこに映ったのは禍々しき髑髏の仮面を被った男たちだ。がっしりした手が農夫の肩を鷲掴みにする。魂も消え入る思いで相手を見ると、居並ぶ髑髏男たちにもまして奇怪な顔がそこにあった。馬の面の皮をそのまま剥ぎ取ったかのごとき、真っ黒な馬のマスクだ。
「我は骨十字軍大幹部、暗黒馬将軍スレイプ。この書状を汝の領主に届けられたし」
 黒き馬のマスクを被った怪人は、骨の十字と髑髏の印章で封印をなしたる書状を農夫の懐に押し込むや、配下の髑髏男たちを引き連れて風のごとく姿を消す。後には恐怖に震える農夫だけが残された。

「ふん! くだらん!」
 その一言と共に、バルディエは書状を投げ捨てた。
「大方、どこぞの貴族の嫌がらせであろう。いちいち付き合っている暇はない」
「ですが、殿。用心に越したことはありません」
 怯える農夫によって届けられた奇怪なる書状を拾い上げ、騎士の一人が忠言に及ぶ。
「して殿、書状の送り主に心当たりは?」
「知るか! あわよくば俺を背中から刺そうとする輩、寝首を掻こうとする輩、それがならずとも足を引っ張り、ゴミを投げつけ、ドブに突き落とそうとする輩どもは、それこそ夜空の星の数ほどにも居るのだぞ」
「殿。ここは用心のため、領内の警備を強化する許可を願います」
「よかろう許可する。それでネズミの一匹でも網にかかれば良いがな」
 かくして領内の警備が強化されて3日目の月夜の晩のこと。領内の外れの村で夜回りをしていた兵士たちは、灯りも点けずに夜道をやって来る不審な馬車に気付いた。
「止まれ! こんな時分に何用だ!?」
 兵士たちが道に立ちふさがって誰何の声を上げると、馬車は猛然と速度を速めた。慌てて飛び退く兵士の横を馬車が通り過ぎるや、異様な臭いが鼻を突く。と、馬車の荷台から黒い塊がぼろりとこぼれ落ちた。
「うわっ!! ば、馬糞だぁ!!」
 正体に気付いて兵士が叫ぶ。馬車には馬糞が山ほど積まれていたのだ。
 大槌を持った髑髏男たちがぞろぞろと馬車から飛び降り、村を囲む柵を破って馬車を中へ侵入させる。
「待て! その馬糞をどうする気だ!?」
「決まっておろう! 村の井戸にぶち込むのだ!」
 馬車を追って駆けつけた兵士たちの前に、奇怪な姿が立ちふさがる。見るからに禍々しき黒マントを羽織り、黒い馬のマスクで素顔を隠した男。
「我が名は暗黒馬将軍スレイプ! 貴様らの領地にある井戸という井戸を馬糞で埋め尽くしてくれるわ!!」
 叫びと共に黒マントが脱ぎ捨てられ、その下に隠されていた異様な姿がさらけ出される。敵は全身すっぽり馬の着ぐるみをまとい、しかもそれはあたかも馬の生皮を剥いでまとったかのごとくに生々しい。これぞまさしく丸ごと馬男! その姿に驚き固唾を呑んだ兵士たちに、丸ごと馬男が凶器を投げつける。
 ヒュウ! ヒュウ!
 くるくる回転しながら空を切り裂き、飛来したる凶器の正体は馬の蹄鉄。それが兵士たちの顔面に、鼻面に、眉間にぶち当たる。兵士たちが痛みに叫び、顔を押さえたその隙を突き、手下の髑髏男どもが兵士に襲いかかり、殴る! 蹴る! 殴る! 蹴る!
「お、おのれぇ‥‥!」
 殴る蹴るの暴力の輪の中から這い出した兵士が一人。顔を上げると目の前に丸ごと馬男が立ちはだかっていた。
「ふん、負け犬めが!」
 兵士の襟首をひっつかみ、無理矢理に立ち上がらせる丸ごと馬男。その手にはめた皮手袋に、くくり付けられた蹄鉄が鈍く光る。
「貴様のその顔に敗北の刻印を刻みつけてくれるわ!
 ぼごん! 蹄鉄付きの皮手袋が兵士の顔にめり込む。失神して倒れた兵士の右目の周りには、蹄鉄の跡がくっきり。
 ぶひひひひひひひひぃん!!
 丸ごと馬男の勝利のいななきが夜の闇に響き渡った。

 朝が訪れた。敵は何処へと消え去り、井戸の底は馬糞で埋まった。
「こんなふざけた輩(やつばら)を相手に戦えというのか!?」
 それが、報告を受けて全てを知ったバルディエの第一声。武力侵攻や普通の謀略ならばなんとでも対応する。しかしこれは子供の悪戯である。真面目に取り合うには馬鹿らしく、無視するには度が過ぎた。
「恐らくは、それが奴らめの狙いでしょう。怪しき仮面は人々を脅かし、注目を集め、良くない噂を広めるに恰好の道具」
 凛とした声に思わず視線を向けると、そこにマスカレードを被った女騎士がいた。バルディエの視線を受け、女騎士はマスカレードを外して艶然と微笑む。
「見慣れぬ顔だな? 誰だ?」
「申し遅れました。私は放浪の女騎士、ウィステリア・トーベイ。その者達には些か因縁が有ります故、この私めにお任せ下さい」
「何だ? 申せ」
「毒には毒でございます。仮面のならず者に立ち向かうに、我らも仮面の冒険者をもってするのです。冒険者ギルドの伝を頼れば、自ずと適任の者が集まりましょう。何も立派な騎士や、開発に不可欠な人材を下らぬ仕事に費やす必要はありません。座興の嫌がらせには、座興で応じるのが上分別。まともに相手するだけ馬鹿を見ます」
「して、何が望みだ?」
「褒美など要りませぬ。我が名声が世に広まりさえすればよし」
 それにしてもこの女騎士、ずいぶんとタイミングよく現れたものだ。何か裏があるのか?
 ──そう思いながらも、バルディエは同意を示す。
「良かろう。卿(おんみ)に任せる。して、仮面の剣士たちだが、何か彼らに相応しい呼び名を与えねばなるまいな」
 即座に答が返ってきた。
「我がマスカレードにちなみ、彼らをマスカレイダーと呼びましょう」

●今回の参加者

 ea2031 キウイ・クレープ(30歳・♀・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6647 劉 蒼龍(32歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea7569 フー・ドワルキン(55歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea8397 ハイラーン・アズリード(39歳・♂・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9513 レオン・クライブ(35歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●奇妙な冒険の始まり
「さて、出かけるか」
 伊達男キース・レッド(ea3475)は口元にニヒルな笑みを浮かべ、奇妙な冒険への第一歩を踏み出した。ギルドの依頼担当者に言われた通りにドレスタットの裏町に足を運び、怪しげな店やら怪しげな客引きやらが目立つ界隈を進んでいくと、お目当ての案内人が目に止まった。
「ドレスタット名物でぇーす! ドラゴンの縫いぐるみはいりませんかぁ〜?」
 縫いぐるみ売りの少女である。真っ赤なドラゴンパピィの着ぐるみを頭からすっぽり被り、ぶら下げた手提げ篭の中には色とりどりの縫いぐるみがどっさり。
 キースが近づくと、縫いぐるみ売りの少女は向こうから声をかけていた。
「ねぇハンサムなお兄さま。赤いドラゴンと青いドラゴン、どっちがいいですかぁ〜?」
「僕はラベンダーの香り付きのピンクのドラゴンが好みでね」
 それが、ギルドで教えられた合い言葉。
「それではこちらへどぉぞ〜。ご案内しま〜す」
 案内された先は見るからに胡散臭そうな宿屋。大部屋へ通されると、そこにマスカレードで顔を隠した女騎士が待っていた。
「キース・レッドですが?」
「うふふ、お待ちしておりました。私が依頼人代理のウィステリア・トーベイです。アレクス・バルディエ卿に代わり、貴方を歓迎しますわ」
 マスカレードを外し、ウィステリアは艶然と微笑む。妙齢の美女であった。
「お給金よ。さあ、お行きなさい」
 縫いぐるみ売りの少女に銅貨数枚を握らせ、立ち去らせる。
「あの少女は?」
「この街で雇った雑用係です」
「縫いぐるみを売らせたのは、貴女の考えで?」
「そうです。ここ最近のドレスタットの流行り物ということで、何を選ぼうか迷った末にドラゴンの縫いぐるみに決めました。それとも、もう一つの流行り物のフン‥‥」
「レディ、その先は言わぬが花です」
 続く言葉をキースはさり気ない素振りで制する。
「すると、やはりドラゴンの縫いぐるみで正解でしたのね?」
「レディ、貴女は賢明な選択をなさいました。只でさえ厄介な依頼にこれ以上の厄介事を持ち込まぬためにも、あのジャパン渡来の五文字言葉は禁句とするが宜しいでしょう」
 内心はさておき、表向きはあくまでクールに決める。
 部屋には長方形のテーブル。そこから声が飛んできた。
「さっきから二人だけで何を話しているのだね?」
 声の主は立派な礼服で装った初老の怪紳士、フー・ドワルキン(ea7569)。貴族たちの謀議の席に並んでいそうな、いかにも策士然たる顔立ちだが、これでもエルフのバードである。‥‥そう、これでもエルフのバードなのだ。
「当事者にしか分からない秘密の会話を少々。大した事ではありませぬ。さあ、キース殿はあちらの席へ」
 ウィステリアに勧められるまま、キースは着席した。キースの右の席には美少女ファイター、キウイ・クレープ(ea2031)。あどけない顔立ちの19歳だが、ジャイアントだけあってパーティーの中では2番目に背が高くて体が大きく、美少女としての存在感もまたひとしお。ちなみにパーティーで最も体がでかいのは、同じくジャイアントでモンゴル王国出身のファィター、ハイラーン・アズリード(ea8397)。彼はキウイの右隣に座している。
 キースの左手に座るレオン・クライブ(ea9513)はロシア王国出身、ハーフエルフのウィザードだ。母国では高貴な身分とされるハーフエルフも、ここノルマンでは禁忌に触れた存在として世人に忌み嫌われ、迫害されることもしばしば。ために、レオンは常にローブのフードで目元以外を覆い隠してその素性を隠しているが、それがかえって悪人っぽく見える。もっとも依頼人のウィステリアはロシアの国情に対する理解があると見え、初対面でレオンがロシア生まれのハーフエルフであることを告げると、五月蠅いことは何も言わずに秘密会議のテーブルへと招いたのであった。
 テーブルの反対側、キース達の真向かい側の席には東洋系の顔立ちをした3人の冒険者が座る。イスパニア王国出身のファイターで、東洋人とのハーフのリョウ・アスカ(ea6561)。未だ初々しい少年の面影をその童顔に宿すジャパンの浪人、石動悠一郎(ea8417)。華仙教大国出身のシフール武道家、劉蒼龍(ea6647)は他の冒険者たちと目線を合わせるため、椅子の背もたれに腰かけている。
 そして、うら若きエルフのウィザード、マクファーソン・パトリシア(ea2832)。彼女はクールに装いつつ、さりげなくウィステリアを観察中。
(「骨十字軍に馬将軍はもちろんだけど、ウィステリアや依頼人もなんだか怪しいわね」)
 恐らくこの場にいる冒険者の誰もが、内心そう思っていたことだろう。
「全員揃いましたので、これより秘密の作戦会議を始めます」
 テーブル上座のウィステリアが告げると、下座の怪紳士フーから声がかかった。
「事前の打ち合わせなら、冒険者ギルドの部屋を借りて行えば済むことではないかな? なぜにこんな怪しい宿屋で行うのかね?」
「ええ、それは‥‥私の趣味で選んだまでです」
「それだけの理由で?」
「ええ。怪しい場所の方が何かと落ち着きますの」
「‥‥まあ、良いがね」
 次にシフール武道家の蒼龍が訊ねる。
「そういや、マスカレイダーって仮面かぶるんだよな?」
「勿論です」
「戦闘の時以外は被らなくて良いよな?」
「当然です」
「あと‥‥仮面を被ってお互いに呼び合う時には、暗号名とか使うのか? たとえば、色の名前で呼ぶとか‥‥」
「それは良い考えですね。では、それぞれのマスカレイダー隊員を色の名前で呼ぶことにしましょう。レッド、ブルー、イエロー、ピンク、グリーン‥‥」
 ここでキースがさりげなく突っ込みを入れる。
「しかし‥‥なぜに色の名前がゲルマン語ではなくイギリス語なのです?」
「イギリス語のほうが語感がよろしいでしょう?」
「もしや、貴女はイギリスの生まれですか?」
「ええ。実は‥‥」
「成る程、納得しました」
「え?」
「‥‥いえ、こちらのことです」
 ここでハイラーンが質問。
「で、例のふざけた馬男だが、いったいどんな奴なんだ? 詳しいことを知りたい」
「馬男の正体は今のところ定かではありません。ですが、極めて高い戦闘能力を持つ敵には違いありません。決して油断なさらぬよう願います」
 さらに細々した打ち合わせが行われ、その最後に、
「では、自前のマスカレードを持たない方々のために、マスカレードを貸し出します。私のコレクションからの持ち出し品ですので、後で必ず返して下さい」
 それぞれにマスカレードが手渡された。勿論、蒼龍のためのシフールサイズもちゃんとある。
「えっ、マスカレイダーってこんなマスク被るの?」
 ちょっとだけ抵抗を見せたマクファーソンだが、さっそく被ってみた。
「どう? 似合う?」
 被り心地は悪くはない。
「なんじゃ、色で呼び合うと言っておきながら、黒いマスカレードばかりではないか」
 ずけずけと辛辣に物を言うフーに、ウィステリアが答えた。
「色のことはつい先ほど決まったばかりですし、しばらくの間は色付きのマフラーを首に巻いて対応しましょう。後ほど私のほうで職人を手配し、色付きのマスカレードを用意させて頂きます。では皆様、後ほどアレクス卿の領地で会いましょう」
 秘密会議は終了。それにしても──ウィステリアの後ろ姿を見送りながら、キースは思う。
(「ミステリアスなレディは嫌いじゃないが、簡単に信頼する訳にもね。彼女の今後の言動如何によっては、依頼人のアレクス卿にも相談しなければなるまい」)

●謎の組織骨十字軍
 ここはバルディエ領内の農村。道端で遊ぶ子ども達が、やって来た冒険者の一行に目を止めた。
「うわー! でっかい姉ちゃんだ!」
「見て見て! シフールもいるよ!」
 先頭を行くジャイアント美少女キウイと、その肩に乗っかったシフール武道家・蒼龍の姿を見て、物珍しさに駆け寄ろうとする子ども達。近くで洗濯物をしていた農家のおかみが慌てて呼び止めた。
「待ちなさい! 怪しい人たちに近づいてはいけません!」
 おかみの目には怪紳士フーに怪しいローブ男レオンの姿が映っていた。
 畑で野良仕事をしていた親父も、仕事の手を休めて一行に目を向ける。
「なんじゃ、サーカス団でもやって来たか?」
 伊達男キースが親父の前にやって来た。
「おや、あんたが団長さんかい?」
「いいや、我々はアレクス・バルディエ卿の依頼でやって来た冒険者だ」
 用向きを伝え、仲間たちの調査が始まる。マクファーソンが領主バルディエの人柄など親父に訊ねてみると、こんな答が返ってきた。
「いや〜、お殿様は大したお方だよ。昔、野盗がこの辺りを荒らし回ったことがあったんだがね。村人が殺されたり子どもが浚われたりするもんだから、何とかして下さいとお殿様に訴えたら、お殿様自らが家来を率いて野盗どもを一網打尽。みんな縛り首にしちまった。本当に頼りになるお方だよ」
「頼もしいけど、何だか恐そうなお方ね」
「ううん、そんなことないよ」
 答えたのは、さっきまで遊んでいた村の子ども。
「僕、昔野盗に浚われて、縛られて袋の中に放り込まれてたんだ。その僕を真っ先に助けてくれたのが、バルディエ様だったんだよ。僕を抱きしめて、『しっかりしろ、大丈夫か』って慰めてくれた。悪人には容赦しないけど、村のみんなにはとっても優しいんだよ」
「ふぅん、バルディエさんってそんなところがあるんだ。意外ねぇ」
 後で何人かの村人に尋ねてみたが、どれも答は好意的なものばかり。こと領地経営と領民の人心掌握にかけては、この土地の領主は上手くやっている様子である。
「おーい、悠一郎がいないじゃんか!」
 仲間の悠一郎の姿が見当たらないことに、シフールの蒼龍が気づいた。
「こんな時にどこに行ったんだよ」
 実はとんでもない方向音痴の悠一郎、いつの間にか仲間からはぐれて明後日の方向に歩いていたりする。
「おや? おかしいな、確かこちらに井戸があったはず‥‥???」
 森の中へ歩いて行こうとすると、蒼龍が連れ戻しに飛んできた。
「おーい! 国境越えてフランク王国まで歩いてく気かよー!?」
 領地の地図を借り受けたキウイが調べたところ、被害に遭ったのは街道に一番近い村だ。犯行には馬車が使われたことからして、次に狙われるのも街道に近い村だと予想された。
 村人の助けも借りて、キウイは街道沿いの村々の井戸に大きな木製の蓋と鍵とを取り付けた。夜間は鍵を閉め、勝手に開けられないようにする。
「まあ、これで防げるとは思わないけどね、アタイたちが駆けつけてくる間の時間稼ぎにでもなればね」
 井戸の防犯対策と併せ、キースと悠一郎は侵入者への警戒を村人に促す。
「奴らはいつ現れるか分からない。できれば不寝番を立てて、奴らが現れたらすぐに知らせて欲しい」
「奴らが現れたら戦うことはせず、逃げてもらって構わない。戦うのは拙者たち冒険者の仕事だからな」
 村々での調査と指導が終わると、冒険者たちは辺境伯バルディエの城に場所を移して調査を続行。
「ほぅ、これが馬男の投げた蹄鉄か」
 証拠品として残された蹄鉄をフーが検分したところ、蹄鉄はどれも新品同様。形も重さも一様で、握った感触は皆同じ。外側はナイフの刃のごとく研ぎ澄まされている。
「成る程。最初から飛び道具に使うことを前提で作られた物のようだね」
 バルディエに送られた脅迫状も見せてもらう。封印の蝋の紋章は巻物を開いた時に砕けていたが、使われている羊皮紙は上物だった。
「蹄鉄の飛び道具を作らせるにも、羊皮紙や蝋を調達するにも、資金や職人とのコネが必要になるはず。恐らく事件の背後には、顔が広く大金を動かせる人物が絡んでいるとみえるな。さて、馬車に山と積まれた馬糞が異様な臭気を放っていたことからして、近くの牧場から乾く暇もなく運ばれてきたものとみた」
 フーは地図を広げて調べてみたが、バルディエの領地の近くに大規模な牧場は無い。
「これは解せぬな‥‥」
 頭を悩ませつつ城の外へ出ると、空から雨粒がぽつり。見上げれば空は一面の雨雲。通りかかった家来に尋ねてみると、事件が起きた頃のこの地の天気は小雨続きだったという。
「そうか、小雨のせいで馬糞が湿ったか。これは調査の範囲を広げねばなるまいな」

●調査は進まない
 バルディエに怨みを持つ者や対抗する者から事件の首謀者を洗い出そうと、マクファーソンはバルディエに仕える者たちから聞き込みを行った。だが、絞り込みはまったく捗らなかった。
「‥‥いくら何でも敵が多すぎるわよ」
 バルディエとの政争で名誉を傷つけられた者、貴族の地位や財産を奪われた者、そうでなくてもバルディエにその立場を脅かされている者、あるいはその成功を妬む者。その当事者はもとより、その家族に親族に家来に使用人に妾に愛人までの全てを勘定するとなると、
「夜空の星の数ほどいるって話は本当なのね」
 何も、某ノワールや某ヴィクトルばかりがバルディエの敵ではないのだ。
 骨十字と海賊のクロスボーンとの関連を疑ったフーも、その方面からの調査を始めたが、こちらもまるで捗らない。そもそもバルディエ領は海から遠く離れた内陸の地だから、海賊の動きに関心を持つ者は少ないのだ。手がかりになりそうなものは城の記録庫にある交易関係の記録で、そこには海賊関係の記録がいつくか見受けられた。すなわち、バルディエと取引のある交易船が海賊に襲われて積み荷を奪われた、もしくは撃退に成功した等々。しかしそれ以上の情報を入手するには、港町まで出向いて調査しなければならず、依頼期間からしてそれは不可能な話だった。
「仕方ない、この方面からの調査はひとまず打ち切りじゃな。さて、夕食までの時間潰しにウィステリア嬢の身元を洗うとするか」
 城から城下町に下り、街の花屋に足を向ける。
「あら? 冒険者のおじさま、今日も来てくれたのね?」
 花屋の看板娘が愛想良く出迎えた。
「ああ、ウィステリア(藤)の花を求めて、今日も来てしまったよ」
「ごめんなさい。そういう花は置いてないの」
 などと会話しながら、今日も花屋の様子をつぶさに観察。しかし女騎士ウィステリアと関係ありそうな物は見つからない。どうやら街の花屋は無関係のようである。

●挑発
──────────────────────────────────────
領主アレクス・バルディエ卿に脅迫状を送りつけ、
井戸に馬糞を投じたる不逞の輩どもに告ぐ。
我らが領主殿には、正々堂々と勝負を挑むことなく、
罪なき領民に当たり散らすだけの卑怯者の戯言に貸す耳なし。
文句があるなら卿が用意した精鋭を倒してから
のたまってみせろ。
領主殿より依頼を受けし我ら冒険者は
貴様ら不逞の輩に決闘を申し込む。
来る5月20日、楡の木の村の井戸端にて待つ。

                    冒険者一同
──────────────────────────────────────
「これでよし」
 レオンの言葉をリョウが羊皮紙に書き写し、馬男を挑発する決闘状の文面が完成。これを張り付けて作った立て札を、冒険者たちは街道沿いの村々に立てて回った。決闘の場所に選ばれた村は、大きな楡の木が生えていることから楡の木の村と呼ばれている街道沿いの村だ。井戸端の周囲が広く開けており、大人数で暴れ回るには申し分ない。
「果たして連中は挑発に乗ってくるかしら?」
 今一つ不安なマクファーソンだが、キースはさも自信あり気に答える。
「目立ちたがり屋な奴らの事だ、喜んでやって来るだろうさ」
 馬男についての聞き込みも引き続き行われていたが、領内の村からはこれといって新しい情報は得られず。それでもシフールの蒼龍は、長距離を自在に飛び回れるその力を生かし、隣領まで出向いて聞き込みを続けた。そして手応えのある情報を掴んだ。
「隣領の街で聞いてきたぜ。何でも、馬糞を高値で買いまくっていた奴がいたらしいんだ。それも馬糞一山10Gとか、とんでもねー値段付けてさ。買い取り主は大貴族スレイプとか名乗っていたらしいけど、姿を現すのはいつもその使いの者ばかり。それでも馬糞の山が金の山に化けるってんで、あちこちから馬糞が集まって、運び出すのに何台もの馬車が必要だったってそうだぜ」
 居酒屋で仲間と食事しながらそんな話を披露していると、居酒屋の親父が人数分の杯にワインをなみなみと注いで差し出してきた。
「あっちのお客からの奢りだよ。知り合いかね?」
 親父の指す席を見れば、旅のバードと思しき男が一人で酒を飲んでいた。
「ワインを有り難う。ところで、初にお目にかかるようだが?」
「俺は渡り者のバード、マーレーだ。面白い噂を耳にして、しばらくこの街に滞在してるのさ」
 お礼の挨拶がてら、フーが訊ねるとバードは答えた。
「おい、マーレーさんよ。この前一緒に飲んでたウーマの坊やはどうしたんだね?」
 訊ねたのは酒場の親父。
「遊び好きな坊やなもんで、今日もあちこち飛び回ってるよ」
 フーが再び訊ねる。
「お連れさんがいるのかね?」
「ああ。ウーマっていうシフールの坊やで、道中で一緒になった。ところで旦那、最近ここでよく見かける顔だね? 街の花屋にもよく出入りしてるだろ?」
「バルディエ殿も色々と忙しくてね。一人では手が足りぬので、我々冒険者にも町おこしやら開拓やらの仕事が回ってくるわけさ。ところで最近、この近辺を荒らし回っているという妙な連中の噂をお聞きかな?」
「骨十字軍とやらだろう? お殿様もさぞやご立腹のことだろう」
「それがバルディエ殿は歯牙にもかけていないご様子だ。部下が気を利かせて冒険者を雇って警護中らしいから、そいつらに完勝できれば話は変わってくるだろう」
 その後はとりとめのない話が続き、やがて冒険者たちは店を出た。

 その日、夜遅く。井戸の張り番をしていた村の若者は眠い目を擦り、空を見る。月もだいぶ傾いたし、この分なら怪しい奴らも現れまい。──そう思った時、村の家々から悲鳴が。
「うわぁーっ!!」
「た、助けてくれぇ!!」
 何事かと思わず農家に飛び込んだ若者を、髑髏男が取り押さえた。目の前に立ちはだかる奇怪な馬男、その手には引き抜かれた立て札が握りしめられている。
「決闘状、しかと受け取った。さあ、マスカレイダーを呼んで参れ!」

●マスカレイダーここに見参!
 マスカレイダー対丸ごと馬男、ついに対決の時は来たり!
「マスカレイダー・グリーン見参っ!!」
 黒の仮面に緑のマフラー、悠一郎が名乗りを上げて決めポーズを取った瞬間、その背後の夜闇に緑の光の帯が後光となってさあっと現れる。
「丸ごと馬男。馬糞を悪用するのみならず、蹄鉄で民を傷つけ、あまつさえ馬を馬鹿にしきったふざけた格好。一人の愛馬家として断じて許さんぞ! 地獄の苦しみを味あわせた後に冥府魔道に叩き落してくれるわっ!!」
 続いてはジャイアント美少女キウイ、黒い仮面に茶色のマフラー。さらに続くマクファーソンは、黒い仮面に桃色マフラー。
「マスカレイダー・ブラウン見参っ!!」
「マスカレイダー・ピンク見参っ!!」
 またも二人の背後がそれぞれ茶色と桃色の後光に染まる。
「何!? 次は俺か、色は何でもいい。‥‥よし、黄色だな」
 黄色のマフラーを受け取って首に巻き、ハイラーンが躍り出る。
「イエロー見参!!」
 名乗り上げと共に黄色く染まるその背後。
「ブルー見参!!」
 シフールサイズの仮面とマフラーを付け、空を飛んできた蒼龍。青い後光を背に空中で決めポーズ。さてお次は怪しいローブ男レオン。
「マスカレイダーブラック参上‥‥でいいのか?」
 黒い仮面を黒いフードで覆い隠し、さらに黒ローブの上から黒マフラー。その背後にさあっと広がりゆくは黒い後光ならぬ黒い闇。だがこれでは何もかもが闇夜にとけ込んで、まるで分からない。
「ううむ、今一つ迫力に欠けるな」
 などと評するのは、物陰に隠れて手助け中の怪紳士フー。ど突き合いは若者に任せておけとばかり、自分は演出に専念。ファンタズムの魔法を使い、マスカレイダーそれぞれの色に合わせて光の帯の幻影を作り出していたのである。
「さあレッドよ、次はキミの番だ」
 待機中のキースにフーは声をかけるが、キースは首を横に振る。
「レンジャーの戦いは武力じゃない。機動力と情報分析さ。僕は万が一に備え待機させてもらう」
 とか言いつつ内心では、
(「‥‥まあ、恥はみんなにかいて貰おう。僕はクールで売ってるんでね」)
 などと軽口叩く。こんな状況下でも熱くならずクールでいられるあたりはさすがと言うか。
(「‥‥にしても、この状況はヤバいかもな」)
 敵は井戸の回りに集結。丸ごと馬男の回りには、松明を持った髑髏男たちが十数名。馬糞を山ほど積んだ馬車が井戸に横付けにされ、その上に敵は人質を取っていた。村の子ども達7人に飼い犬1匹。
「助けてぇ〜!」
「助けてぇ〜!」
「殺されちゃうよ〜!」
「わうわうわうわう!」
 泣き叫ぶ人質たちを盾に取り、馬男が高笑い。
「ぶははははははは! どうだ、手も足も出まい!」
「この悪党共め」
 動揺も現さずに言い放つレオン。
「井戸が塞がれるや農家に押し入り、眠っていた子どもたちを人質に取るとはな」
「ぶははははははは! 我ら骨十字軍は臨機応変なのだ! さあ、井戸の鍵を開けい!」
「ウイ!」
 強奪した井戸の鍵を使い、髑髏男が井戸の蓋を開ける。
「何をする気だ!?」
「我らに刃向かい、井戸に蓋をした報いだ。子どもたちを井戸に放り込んで馬糞責めにしてくれる! まずはその犬からだ!」
 髑髏男が犬を井戸に放り込んだ。どぼん!
「わ〜うわうわうわうわう!」
 井戸の底から悲しき犬の悲鳴。それがだんだん小さくなっていく。
「ああ〜! ボクのジュリィが死んじゃうよぉ〜!!」
「ジュリィを殺さないでぇ〜!」
 子どもたちが泣き叫び、子どもの親の村人たちが平身低頭してマスカレイダーに懇願する。
「お願いです! 子ども達を助けてください!」
 さあ、どうする!? マスカレイダー達は顔を見合わせる。
「こんな筋書きになるなんて考えてもいなかったし‥‥仕方ないね。あたいが身代わりになるよ」
 キウイが言った。
「待て、ろくな目には遭わないぞ」
「子ども達を酷い目に遭わすわけにはいかないし、まあなんとかなるよ」
 レオンブラックの言葉を振り切り、キウイブラウンは敵に向かって歩いていく。
「人質交換しようじゃない? あたいが人質になるから、子ども達を解放してよ」
「よかろう。者共、この女の手を縛れ。足も縛れ。よぉし!! そのまま井戸に放り込め!!」
「そんな! 話が違うじゃない!!」
「ぶはははははは! 我らを甘く見たな!!」
 キウイブラウンは井戸に投げ込まれた。どぼん!! 
「さあ馬糞地獄を味わうがよい!!」
 髑髏男たちが井戸に馬糞をぶち込み、キウイブラウンの頭上から馬糞が滝のように降り注いだ。
「うわあああああ〜っ!!」
「ぶはははははは! 見たか、これが我ら骨十字軍に逆らう者の末路だ! さあ引き上げるぞ!」
「待て! 子ども達も連れていく気か!?」
 叫ぶハイラーンイエローを馬男がせせら笑う。
「子ども達は隣領に着いたら解放してやる。それまでは大切な人質だ」
 悠一郎グリーンも蒼龍ブルーも歯がみするばかり。人質を取られていては手が出せない。その目の前で髑髏男たちが馬車に乗り込んでいく。逃げて行く敵をこのまま指をくわえて見ているしかできないのか!?
 シュッ! シュッ! 突如、空を切って飛んできたナイフが状況を一変させた。ナイフは馬車馬の首や胴に突き刺さり、痛みに驚いた馬は一目散に駆け出した。ところがいつの間にか引き縄が断ち切られ、馬車は置き去り。
「うわ! 待て!」
 髑髏男たちが馬車から飛び降りて後を追おうとするや、その足下でロープがピンと張られ、髑髏男たちは足をとられてバタバタと総倒れ。その隙に人質の子ども達は髑髏男の手を放れ、逃げていく。
「おのれ! 誰の仕業だ!?」
 憤る馬男の目前、農家の屋根の上から高笑いする赤い影一つ。全身まっ赤っ赤な仮面の女が立っていた。夜の舞姫のごとくに胸元も太股も大胆に露わにしたきわどい衣装を纏った上に、その仮面はあまりにも怪しすぎる蜘蛛の仮面。
「あはははははは! 私は紅き蜘蛛アルケニー! 久しぶりね、馬男」
「おのれ組織の裏切り者が!!」
「ふん! 馬の皮をかぶらなきゃ何もできないしょーもな馬男が偉そうにほざくんじゃなくてよ! さあマスカレイダーの坊やたち、あとはお任せね!」
 怪しい女の姿がすうっと消える。一体、今のは何だったんだ!? だが、今は疑問の答を探す時ではない。さあ行けマスカレイダー! 憎き骨十字軍に天誅を下すのだ!
「ウイ!」「ウイ!」「ウイ!」
 髑髏男たちが押し寄せる。その顔面にマクファーソンピンクの高速詠唱ウォーターボムが炸裂する!
「ぎゃっ!」「ぎゃっ!」「ぎゃっ!」
「悪戯がちょっと行き過ぎたようね。私からのおしおきよ!」
 悠一郎グリーンのニードルホイップが、ハイラーンイエローのぶちかますソードボンバーが、蒼龍ブルーのぶちこむナックルが、髑髏男たちをぶちのめす。髑髏男どもは残らず倒され、残るは馬男一人のみ。
「正義の足、くらいやがれっっっ!!」
 出た! 蒼龍ブルーの決め技、馬蹴撃だっ!
 と、馬男の上体が素早く後方にのけぞる。
(「‥‥何!?」)
 チャージングとストライクで足先に込めた威力が、敵の回避動作で大きく削がれる。馬男の上体が跳ね起き、鉄拳が繰り出された。
 ぼごっ!
「うっ!!」
 蒼龍ブルーの体が弾き飛ばされた。
(「強ぇ‥‥こいつは強ぇぜ‥‥」)
 と、馬男の背後から組み付いた者がいる。
「こんな変態にやられてたまるか!」
 仲間の手で井戸から助け出されたキウイブラウンだ。
「おい変態! 悪戯したらどうされるか知ってるか? お仕置きだよ!!」
 力任せでお尻ペンペンの刑に処そうとズボンを脱がせようとしたが‥‥。
「何この馬の皮、上から下まで繋がってるじゃない!?」
「ええい! 愚か者めが!」
 ボコッ! 馬男の強烈な蹴りを喰らってキウイは転倒。動けずにひたすら荒い息。
 レオンブラックがライトニングサンダーボルトを放つ。高速詠唱の連続技で、稲妻が馬男の体に吸い込まれるも、魔法抵抗されたせいかまるで効き目がない。
「ぶははははは! 効かぬ、効かぬぞぉ!!」
 威圧するように迫る馬男。と、放電のスパークと共に馬男の体がよろめいた。隙を見て仕掛けたライトニングトラップ、こいつが見事に効いた。
「うがあああああああ!」
 怯んだ隙に悠一郎グリーンがソニックブームの一撃を食らわせ、ハイラーンイエローが馬男の背後から組み付いて羽交い締め。
「うわ! な、何をする!?」
「貴様のその馬の皮、丸ごと剥いでやる」
「や、やめろ! それだけはやめろぉ! ‥‥ファルシオン、助けてくれぇ!」
 馬男の喉からあまりにも情けない叫びが迸り、それに答えるように一匹の黒馬が村の中へ飛び込んできた。迫ってきた馬をイエローがかわした拍子に、馬男はその手を放れて馬に飛び乗る。そのまま逃走を図るも、前方にはラージクレイモアを構えたリョウがいた。
「その馬、一刀両断にしてみせる」
「させるかぁ!!」
 リョウがクレイモアを振り上げた刹那、馬男の拳からソニックブームが。攻撃をまともにくらい、転倒したリョウの横を黒馬が走り過ぎてゆく。
(「馬男、あんな隠し技を持っていたとは‥‥」)
「マスカレイダーめ! 覚えておれぇ!!」
 馬男の捨て台詞を残し、馬は闇夜の中へ走り去っていった。

「全員揃っているな? おっと、一匹忘れていた」
 子どもたち全員の無事を確認すると、キースは井戸から助けた犬を抱かせてやる。子どもの顔に笑顔が戻った。
「お兄ちゃん! ありがとう!」
 後の取り調べにより、髑髏男たちの正体は金で雇われたごろつきと判明。彼らは馬糞だらけの井戸の掃除に駆り出された。が、雇い主である馬男の正体は謎のままである。
「あれほど強い男が、なぜにこんな汚れ仕事を?」
 訝しがるハイラーン。怪紳士フーがうそぶく。
「恐らくは常人には伺い知れぬ、暗い過去を背負っているのであろうな」
 突然現れ、突然消え去った紅い蜘蛛女の正体も、謎である。
「しかしあの声、どこかで聞いたことがあるような‥‥」
 フーは顔に意味深な笑みを浮かべ、つぶやいた。