マスカレイダー8〜最強怪人アルバトロス
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:9〜15lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:11人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2006年01月12日
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●オープニング
敵方に捕らえられ、もはや命も諦めていた密偵が帰還した。マレシャル率いる冒険者たちによって、海賊の拠点の地下牢から救出されたのである。
しかしバルディエ領内では、新たに発見された月道を巡っての不穏な動きが続いていた。月道を狙う者たちは執拗に襲撃を仕掛け、月道が初めて開いたその日にも敵と味方が月道の入口でぶつかり合った。挙げ句、バルディエが信頼を寄せる部下のスレナスは、敵のウィザードと取っ組み合ったまま月道の向こう側に消え、以後の消息は知れない。
懸念すべきことは他にもある。マレシャルの元へ部下を遣わし、マレシャルの話を聞かせたところによれば──マレシャルが一対一の勝負で海賊の首魁ハイドランを倒したその部屋には、銀の十字架が飾られており、その十字架にはラテン語でこう刻まれていたのだ。『アルゼン・バランティンより、我が友ハイドランに捧ぐ』と。
しかも、帰還した密偵の話すところによれば、海賊の拠点で拷問を受けた際には、ハイドランの副官が常に立ち会っていたという。その副官は銀の仮面で素顔を隠し、時折その副官がラテン語で呟くのを密偵は耳にしたという。だが、マレシャルが海賊の拠点を制圧した時、残された死体の中に銀の仮面をつけた男はいなかった。
「その銀の仮面の男の正体、もしや‥‥。10年前に戦死したものとばかり思っていたあの男が。まさか生きていようとはな」
アルゼン・バランティン、それは王国復興戦争の折り、バルディエが何度も苦汁をなめさせられた敵方の騎士の名であった。
発見された月道はノルマン王国の管理下に置かれ、月道守備隊の隊長としてアルマン・ドナシオン・コンスタンという騎士が派遣されてきた。とはいえ、十分な数の守備兵が揃うまでにはまだ時間がかかる。本来ならバルディエ配下の兵を借りて守備兵の不足を補うべきであったのだが、さる男がそれを妨害した。その男とはすなわち、自称名門貴族のエミール・ド・クルーシー。そう、あの男とその取り巻き達は、まだこの地にしつこく留まっていたのである。
この自称名門貴族、口だけはやたらと上手く、パリからやって来たアルマンをあれこれと褒めちぎり煽て上げ、手玉に取った。そして辺境伯バルディエについて、あることないこと吹き込んだのである。
「兎に角、あの成り上がり者領主のバルディエは、人の足をひっぱり顔に泥を塗る才能にだけは長けておりますからな。アルマン殿も下手に動けば、些細な不始末を針小棒大に言いふらされ、いつ出世街道からはじき出されるか分かったものではありませんぞ」
「うむ。エミール殿のご進言に感謝いたす。月道の守りは我が守備隊だけで十分」
そんなわけで、バルディエの兵士たちは月道の周辺から、すっかり閉め出されていた。バルディエの部下の中には、アルマンに数々の進言を為そうとする者もいたのだが、アルマンはその言葉に決して耳を貸さなかった。思えばこのことが、アルマンの不幸の始まりであった。
「アルマン様〜!」
着飾ったシフールが、手紙を届けに来た。手紙を受け取り中味を読んだアルマンの目の色が変わる。
「エイリーク辺境伯がお忍びで、この月道の視察にお越しになるとは! なんと名誉なことであろう!」
早速、配下の警備兵に命じて、歓迎の準備に取りかからせる。但し、一言付け加えるのも忘れない。
「この事はバルディエには決して知らせるな」
数日後。見るも豪勢な馬車の一隊が、着飾った兵士たちに先導されて、月道の場所に現れた。
「おお、さすがはエイリーク殿。なんと見事な馬車であろう」
アルマンは感激し、警備兵たちを整列させて、クルーシーと共に出迎える。馬車の列は止まり、その窓から豪華な礼服を身につけた貴人らしき者の手がにゆっと伸びて、アルマンに指図する。
「まずは、出迎えの者の武器を地に置かせろ。それが、ドレスタットでの礼儀だ」
「はっ! 仰せの通りに!」
言われてアルマン、馬車の男の言う通り、警備兵たちの携える武器を全て地面に置かせた。
バタリ。2番目の馬車の扉が開く。
飛び出してきたのは、世にも奇怪な怪人であった!
「ケーッケケケケケ!! 俺様は骨十字軍の最強怪人、アルバトロスーッ!!」
稲妻のごとく飛び出した怪人、大きくジャンプしてアルマンに跳び蹴り一発。ぐはっと呻いて地に倒れたアルマンが見た物は、真っ白な羽根付き衣装に鳥頭のかぶり物を被った怪人の姿。
「ケーッケケケケケ!! 俺様、強ぉーいっ!!」
残りの馬車からも髑髏男たちがわらわらと飛び出し、丸腰になった守備兵たちを取り押さえる。
「うわっ!? 何がどうなっているのだ!?」
訳が分からず慌てふためくクルーシーの目の前で、ようやく先頭の馬車の扉が開き、礼服の男が現れる。その顔には金色の仮面が光り輝いていた。
「クルーシー殿。ご協力に感謝いたすぞ」
仮面の下からの声には、あざけりの笑みが混じっていた。
「腑抜けめ! こんな子供だましの手に引っかかるとは!」
事件を知ったバルディエは怒鳴り、拳をテーブルに叩きつける。
この地の事情に通じていれば、この時期にこのような形でエイリークがこの地を訪れることなど、不自然だと気が付くはず。エイリークを騙る手紙にしても、普段からエイリークとの交流があるバルディエが目を通していれば、偽物であることを見抜けたはずだ。
今、バルディエの目の前には、つい今し方届けられた脅迫状がある。
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我が宿敵、アレクス・バルディエに告ぐ。
茶番は終わりだ。要件のみを簡潔に伝える。
貴様が不当なる手段をもって支配下に置いたる
領地と領民と諸々の財物の全てを、
その正当なる所有者に返さしめよ。
さもなくば人質全員を殺害し、月道を破壊する。
骨十字軍大首領 オーラム・バランティン
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「狂える神聖騎士め、貴様も生きていたか!」
オーラム・バランティン──アルゼン・バランティンの兄にして、弟以上の悪名を轟かせたローマ側の策士。バルディエにとっては、過去の亡霊が今頃になって甦ったかの思いがある。
「まさか、奴らは本当に月道の破壊を‥‥」
部下の一人が、青ざめた顔で訊ねる。
「いや、あの策士オーラムのこと。何か別のことを企んでいるに違いあるまい。むしろ警戒すべきは、奴が月道の向こう側に逃げ込むことだ。だが‥‥」
しばし、バルディエは思い悩む。この度の不祥事、どう決着をつけるべきか? やがて、結論が出た。これの不祥事を招いたのは守備隊長アルマンの失態、ならばあの男に責任を取らせればよい。もとより月道はバルディエの手を放れ、今は王国の管理下にあるのだから。
「ウィステリア・トーベイ!」
「はい、ここにおります」
名前を呼ぶや現れたイギリスの女騎士に、バルディエはマスカレイダーの招集を命じた。
「ただし此度の事件については、後でその筋から責任をなすりつけられぬよう、マスカレイダー達には手際よく立ち回せるがよい。だが、アルマンとクルーシーだけは必ず生かして連れ戻せ。この不始末の責を負わせるためにもな」
●リプレイ本文
●敵は月道の砦にあり
辺境伯バルディエの統治するエスト・ルミエールの街。その門を守る衛兵がふと空を見やると、鳥でも蝙蝠でもないものが空を飛んでやって来る。空飛ぶ箒に跨った二人の人間だ。箒は門の手前で着地し、箒から降り立ったウィザードの姿を見て、衛兵は警戒を解きにこやかに一礼する。
「工房長、貴女でしたか。まさか空を飛んで来るとは、思いもよりませんでした」
「急ぎの用です」
リセット・マーベリック(ea7400)は連れのシルバー・ストーム(ea3651)と共に門をくぐり、バルディエの居城へ。城の番兵に用向きを告げると、すぐに領主の部屋へ通された。
「賊に占拠された月道の砦の内部構造について、情報を仲間に伝える許可を戴きたく参上仕りました」
シルバーが簡潔に用向きを伝える。
「重要な施設だからこそ、早急に片を付ける必要が有ります」
続いてリセットが言い添える。
「汚い手段は目的を汚すもの。しかし目的達成後の優れた成果は、目的と手段を正当化します。これまでの卿の統治は優れており、ここで過去の遺物を処理してしまえば何の問題もなくなるでしょう」
しかし、その物言いには領主の勘に障るところがあったようだ。
「一言多いぞ、工房長。まあ良い」
バルディエは書架から2枚の地図を引き出し、テーブルに広げた。一つは砦の構造図。いま一つは砦の周辺図。
「砦と外界とを繋ぐ橋は補修されたが、基本的な構造は先の調査の時から変わらぬ。この地図を携えて行くがよい」
作戦会議のために城の一室を与えられ、そこに足を運ぶと骨十字軍対策担当ウィステリア・トーベイが待っていた。やがて仲間の冒険者たちも全員が到着したが。今回は新しい顔ぶれが多い。
「さて、ついに大首領とか言うヤツが出てきたか。こいつを倒せばすべては終わりって事か?」
シフール武道家の劉蒼龍(ea6647)が言うと、
「さて、それはどうかしら」
と、ウィステリア。
「あの大首領、そう簡単に倒せる相手じゃないわ。それに最優先すべきは人質の解放」
「人質助けなきゃいけないのか? 面倒くせ〜な〜」
うんざり顔で、マクファーソン・パトリシア(ea2832)も吐き捨てた。
「まったく! あの自称名門貴族と間の抜けた守備隊長には呆れるわ!」
すると、アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)が言う。
「あの二人のことはさておき、守備隊の兵士達も捨て置けぬ。エミール卿とアルマン殿が無理をしなければ、彼らは巻き込まれる事も無かった。その救出が成れば、今回の事件の有益な証人になるであろう」
フー・ドワルキン(ea7569)はその言葉に頷きつつ、
「それにしても先のマグロ男の一件では、文化の啓蒙と言いながら食文化は人にたかる気だったお坊ちゃんはどうしてくれよう? 風刺のネタにして扱き下ろすか?」
「風刺はともかくあの2人には、バルディエ卿に引き渡す前に少々お説教が必要ですね。自分達の何が今回の事態を引き起こしたのか、骨の髄まで分からせる必要があるかと。たとえ気に入らない相手への意趣返しのつもりであったとしても、国に多大な損害を与える結果になりかねない以上、その責任は重大ですしね」
いかにもクレリックらしいファル・ディア(ea7935)の意見だが、まさしくこれが正論であろう。再びマクファーソンが言う。
「そして今度の怪人、自称とは言え最強を名乗るからには余程自信があるのでしょうね。きっとまたあんぽんたんな怪人なんでしょうけど、大首領なんてのも一緒だし油断は禁物よ」
「では、具体的な作戦の詰めに入りましょう」
砦の内部にまで踏み込んだ経験のあるシルバーが、先にバルディエより預かった2枚の地図を広げて示す。
「砦は水のない掘に囲まれ、入口に至る道は砦の正面に渡された橋のみ。橋を渡らず堀を越えるには労力を要し、砦からの見晴らしも良いため、側面からの侵入は困難です」
「つまりは、正面の一本道を通って強襲するしかないのだね?」
フー・ドワルキン(ea7569)は幾分残念そうだ。
「私が囮になり、その隙に不意打ち──という手も考えたのだが」
「ですが、私のフライングブルームを使えば、楽に空から堀を越えられます」
そう提言するリセットは自信満々だ。
「まずは陽動班が砦正面に攻撃を仕掛け、敵の注意が逸れた隙に我々潜入班が空を飛んで掘を乗り越え、ウォールホールの魔法で砦の壁に穴を開き、内部に潜り込みます。そして人質解放の手筈を調えましょう。潜入が成功し易いよう、作戦開始は日没の直前に」
それでいこう。皆が頷く。人質救出後に備えての食料や毛布の手配も終わり、一同は早々と床に就く。ところがカイザード・フォーリア(ea3693)の部屋だけは、夜遅くなっても明かりがついている。
「こんなに夜遅くまで、何しているの?」
ウィステリアが様子を見に来ると、カイザードは慣れぬ縫い物に悪戦苦闘していた。
「いや、私の防寒着に改造を施そうとしたのだが、慣れぬものでな」
何やら怪しげな付属物を付けた防寒着を見るなり、ウィステリアの目が妖しくらんらんと輝いた。
「こういうことは私に任せなさい。これでも縫い物は得意なの。明日の朝までには仕上げるから、楽しみにしていらっしゃい。うふふふふ‥‥」
翌朝。冒険者たちは月道の砦へ向かう。
街を離れて暫くすると、森の向こうから立ち上る煙が見えた。
「何だ、こんな時に森火事か?」
暫くすると、後ろから馬に乗った兵士の一隊が現れた。何処へ向かうのかとシルバーが訊ねると、森火事の消火に向かうのだと答があり、兵士たちはそのまま通り過ぎていった。
やがて一行は森の入口の近くまで辿り着く。
「気を付けて。あそこは待ち伏せするに恰好の場所です」
シルバーが皆に注意を促す。先の砦探索の折り、ここで一戦交えた記憶も未だに生々しい。先ずは自分が偵察に行こうと真っ先に足を向けるや、森の中から3人の人影が現れた。視線を向けるのも恥ずかしい露出度高すぎな黒コスチュームの厚化粧女に、その左右に立つ2人の獅子仮面。
「やはり、出ましたか。上手く片が付けばいいのですが」
「怪人はアルバトロスのみに非ず。皆が心配した通りだな。まずは私が時間を稼ごう」
見覚えのある姿に向かって、フー・ドワルキン(ea7569)が呼ばわる。
「久しぶりだね、ナージョ。それにグリームーとジョゴラーも。我々に何用かね?」
「貴方とそのお仲間さんに用はないわ。私が用のあるのは只一人」
仮面の男2人を引き連れたナージョは喋りながら近づき、ウィステリアを指さす。
「私はこの女と決着を付けたいの。だからここで待っていたのよ」
ウィステリアの顔が歪み、周りの皆に告げる。
「気をつけて。私を引き離して戦力を削ぎ落とすつもりよ」
「ふむ」
フーはポーカーフェイスでナージョに訊ねた。
「以前、君は彼女の‥‥いや、アルケニーの首を欲しがっていたが、ここでウィステリアの命を奪うつもりかね?」
ナージョはうふっと妖しく笑い。
「いいえ。貴方に免じて命は奪わないであげる。その変わり、死んだほうがマシなくらいに痛めつけてあげるわよ」
フーが仮面の男達に目をやると、2人は言う。
「我々は立会人だ」
「2人の決闘に手出しはしない」
さあ、どうする? ウィステリアに仲間たち、そして怪しい3人組、その場にいる全員の視線がフーに集まっている。フーはにんまり笑った。
「宜しい。ここは平和的に行こう。ここに用の無い者は出発だ」
何事も無かったかのように歩き出すフーに、その後をぞろぞろついていく仲間たち。それ見て慌てたのはウィステリアだ。
「待ちなさい! 本当に私を置いて‥‥」
「この裏切り者め!」
どがぁ! ナージョの蹴りが飛ぶ。倒れたウィステリア、そのままナージョの足を掴んで引きずり倒し。
「黙りなさい変態!」
その後は罵詈雑言飛び交う取っ組み合い。
「うるさいお前の過去をバラしてやる!」
「喚くがいいわこの厚化粧!」
「お黙り露出狂の蜘蛛女!」
「アルケニーのことバラしたら蛇の黒焼きにしてやるわよ!」
ぼがっ! どげしっ! びりびりびりびり! びろぉーん!
「あれで良かったのか?」
後方に気がかりな視線を送りつつ、シルバーがフーに訊ねると、
「前回、出番がないと嘆いていたんだから、せいぜい頑張って牽制役になってもらおう。これであの3人組も、しばらくは余計な手出しは出来まい」
いともあっさりと答が返ってきた。
●陽動
月道砦の間近では、バルディエの遣わした兵士の一隊が陣を張り、不測の事態に備えていた。夕暮れ時が迫る頃に冒険者一行が到着するや、隊長が出迎えた。
「アレクス閣下より、話は承っております。我々も人質救出に協力したいところですが、生憎と領内の村が賊に襲われ、その対処に出向かねばなりません。天幕その他の必需品は残しておきます故、後はお任せします」
引き上げていく兵たちと入れ違いに、冒険者たちは月道砦のそばに陣取るが、先ほどの森火事といい、村を襲撃した賊といい、ここに来ての不穏な動きが気になる。
「もしや、敵の別働隊が動いているのでは? バルディエ側の注意を逸らし、戦力を分散させるために」
疑問を口にするシルバー。それに答えたのはカイザード。
「大いにあり得る。その別働隊を率いるのは、あの暗黒馬将軍スレイプかも知れぬな。実はここに来る前、私はドレスタットのサロンを当たってみた。復興戦争の頃に活躍した、スレイプという人物に心当たりは無いかとな」
「で、手応えは?」
「誰もスレイプという人物に覚えはなかった。だがその代わり、スレイプという名の名馬がいたことを知り、その馬の持ち主についても面白い話を聞くことが出来た」
ここまで言うと、カイザードは改造防寒着のフードを頭からすっぽり被る。悪魔界のヤギ、レヲなるどを模したその防寒着は、ウィステリアの手によってさらに禍々しき装飾が加えられ、そのおぞましさはさながら『地獄の雄山羊』がこの世に現出したかの如し。
「で、俺達が正面で戦っている間に、潜入班が砦の中へ潜入か。戦いは派手にやった方が良いんだろうけど、人質連れてこられちゃ意味がなくなっちまうから、ギリギリまでこっそり行くか?」
蒼龍が訊ねると、山羊のマスクの下からカイザードのくぐもった声。
「いや、敵はとっくに気付いている」
砦を見れば、見張りに立つ髑髏男たちの目がこちらに向けられている。
「しゃーねぇ、初っぱなから派手にいくか」
言って、蒼龍はいつものブルーの仮面を被る。
助っ人の浪人、本多風露(ea8650)も緋色の仮面を被る。正直恥ずかしいので、内心では避けたかったが。
カイザードと共に軍馬を並べるのは厳つい面構えのジャイアント、バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)。今、その顔はヘビーヘルムとフェイスガードで覆われ、その見てくれを尚更に猛々しく見せている。
「では、ご武運を」
前面に立つ者たちにグッドラックの皆に、ファルはグットラックの魔法を付与。
「エルソル! 戦いの時は来たり!」
「殴り込むぜ! ケーニッヒ!」
それぞれの愛馬に呼びかけるや、ナイト2人は馬に拍車を掛け、蹄の音も荒々しく突進。砦へと至る橋を一気に駆け抜けて門へ急迫すると、中から髑髏男たちがわらわらと現れ、行く手を塞ぐ。だが、オーラエリベイションの助けもあって、二人のナイトの志気は天にも駆け上らんばかりの勢い。雑魚ごときに怯むわけがない。
「燃えよエルソル! その名の如く!」
カイザードの振り回すランスのその下で、髑髏男たちが一人また一人と愛馬の蹄に踏みしだかれ、情けない悲鳴を上げる。
「我の愛馬は凶暴なのだよ!」
今や挑みかかってくる髑髏男の姿は無く、その誰もが逃げ惑うばかり。それを情け容赦なく踏みにじり、馬上で勝ち誇るカイザードの姿は、敵の目には地獄から来たりし魔王のごとく映っていた。
「このまま中まで突っ込もうぜ!」
バルバロッサが叫んだ矢先、その跨る軍馬が大きくいなないて後足立ちになる。馬の前方には、全身真っ白な羽毛で覆われた奇怪な怪人の姿が!
「ケーッケケケケケ! この最強怪人アルバトロスが相手だーっ! ケケケーッ!」
怪人、怪鳥のごとき奇声を張り上げてジャンプ。強烈な蹴りを軍馬ケーニッヒの横腹にくらわせ、馬は横倒しに。バルバロッサは馬上から放り出された。
「将を射んと欲すればァまず馬を射よーっ!! ケケーッ!!」
それまで後衛となり、ナイト2人の討ち漏らした敵を倒していた風露、蒼龍、マクファーソンが、友の窮地を見て駆けつける。その一方で、カイザードは橋の方から響いてくる蹄の音に気付いた。新たな敵が現れたのだ。
「ぶはははははは! 我は暗黒馬将軍スレイプ! 我が復讐の時は来たれり!」
かつてマスカレイダーが取り逃がした怪人、丸ごと馬男だ。
山羊マスクのカイザードは軍馬の鼻先を馬男に向けて立ちはだかり、馬上より声高々に呼ばわった。
「はっはっは! 暗黒馬将軍とは片腹痛い! このマスカレーダーマットブラックこと、地獄大元帥が相手だ!」
●潜入
リセットを始めとする潜入班の4人は、陽動班の突入と同時に森の中を移動。今、彼らは砦を間近に臨む場所に身を潜めている。
砦の見張りに立っていた髑髏男たちは皆、正面から攻めてきた冒険者たちに気を取られ、砦の側面の森にまで目が届かない。既に太陽は沈み、西の空に僅かな残光を残すのみ。
「スレナスさんが帰ってくるかも知れない月道、ここで壊させるわけにはいきやせん。それはそれとして、噂で聞いた物に自分がなるというのは不思議な感じっす」
まさか自分がマスカレイダーの一人として行動することになろうとは。そう思いつつ以心伝助(ea4744)は、鳶色の仮面でその素顔を覆う。リセットは銀、アルフォンスはセピアの仮面をそれぞれ装着した。
「では今一度、ブロックサインの復習を」
声を立てずに意思疎通するため、リセットは予め7種類の手振りを決めておいた。
『着いてきて』『止まって』『罠がある』『敵がいる』『人質がいる』『誰かいる』『襲撃しましょう』
その再確認が済むと、リセットはシルバーと共にフライングブルームに跨り、日没直後の薄明の中を砦に向かって飛ぶ。シルバーを砦の側面に残してすぐに戻ってきたリセットは、残る2人に指図した。
「伝助さんは私の後ろへ。アルフォンスさんは、悪いけど落ちないようにぶら下がって」
リセット、伝助、アルフォンス、3人を乗せた魔法の箒は再び堀を飛び越えた。敵は誰も気付かない。先に到着したシルバーは、敵に見つからないよう慎重にランタンを灯し、携えてきた魔法のスクロールを取り出す。先ずはクレアボアシンス。スクロールを広げて念じると、砦の内部の広間の有様がありありと見てとれた。かつてあの広間に足を踏み入れた時の記憶は未だに鮮やか。しかし今、あの広間で何が起きているかを魔法の力によって知った彼は絶句した。
(「これは、非道い!」)
続いてシルバーはブレスセンサーのスクロールを広げ、広間の中にいる者達の位置を確認。それをリセットに伝えると、リセットはウォールホールのスクロールを広げ、念じる。すると砦の石壁に、奥行き1mばかりの穴が開く。穴の奥まで進み、さらにスクロール魔法をもう一回。穴はさらに奥へと伸び、向こう側に突き抜けた。
ここでシルバーはテレパシーのスクロールを使用。陽動班の仲間と連絡を取るためだ。そして皆は砦の内部へと足を踏み入れた。
照明の設備が無いはずの広間は、なぜか光に満たされている。その光の中に異様な光景が浮かび上がっていた。さながら蜘蛛の糸のごとく、広間には四方八方にロープが張り巡らされ、そのロープには幾人もの人間が縛り付けられている。さながら蜘蛛の巣にかかった虫の如くに。彼らは人質に捕らえられた守備隊の兵士たちだった。
「うっ‥‥!」
思わず顔をしかめ、奥歯を噛みしめる伝助。その耳にシルバーが囁く。
「大丈夫だ。まだ息はある」
確かめてみると、その通り。だが何日も食事を与えられなかったらしく、兵士たちは皆が憔悴している。
人質のアルマンとエミールはどこかと伝助が見回すと、広間の奥にその姿があった。二人とも手足を縛られて自由を封じられていたが、伝助の姿に気付くと先ずエミールが叫んだ。
「君は誰だ!? 敵か、それとも味方か!?」
「拙者は味方です。皆を助けに参りました」
いつもとは口調を変え、仮面を外す伝助。現れたのは凛々しい侍の顔。広間に侵入する直前に、予め人遁の術を使って変装したのだ。正体をバラさぬための用心である。
「おお! 流石はジャパンの侍! 噂に違わずなんと勇敢な!」
「先ずは拙者らの指示する通りに願います。皆の安全の為で御座います」
すると、アルマンが声を潜めて警告する。
「気をつけろ。敵の大首領はすぐ近くにいるぞ」
不意に広間を照らす光がゆらめき、広間の柱の陰から何者かが姿を現した。
「奴か!?」
身構える冒険者たち。彼らは今、光り輝く金色の仮面を被った男と向き合っていた。男の手には神々しく輝く魔法の光。広間を照らす光の正体はこれだったのだ。
「マスカレイダーの諸君。こうして相見えるのは初めてだな? この私こそが骨十字軍の大首領、オーラム・バランティンだ」
咄嗟にシルバーはアイスチャクラのスクロールを広げ、念じる。その手の中に氷の円盤が現れた。アルフォンスはダガーを構える。だがオーラムも素早く動き、広間のロープに張り付けられた人間の盾の向こう側に身を隠された。
「くっ!」
「これでは‥‥!」
歯がみするアルフォンスにシルバー。無闇にチャクラムを飛ばし、ダガーを振り回せば人質を傷つける。すると今度は広間を照らす光が消え失せた。オーラムの手にしていた魔法の光は今、その身に纏う分厚いマントの下。シルバーは自分のランタンを掲げてオーラムの姿を目で追うが、不意に予期せぬ方向からオーラムの剣が突き出され、不覚にもシルバーはランタンをたたき落とされた。落ちたランタンをオーラムは足で蹴飛ばし、ランタンの明かりは闇の中でかき消えた。
「ここは平和的に話し合おうではないか? 私は殺生を好まぬのでな」
闇の中にオーラムの声が響く。光を失い、しかも周りには人質の盾。冒険者たちは手も足も出ない。
「オーラム・バランティンと申したな。その悪名、母上から聞いた記憶があるが、聞きしに勝る狡猾さであるな」
アルフォンスが闇の奥に向かって呼ばわると、オーラムの言葉が返ってきた。
「我が理想を実現する為とあらば、時には蛇の如くに賢く有らねばならぬ」
「何故、貴様はアレクス卿にこれほどまでの恨みを向けるか?」
「原因は我にではなく、アレクス・バルディエの側にある。過ぎたる力を持つ者は滅ぼさねばならぬ」
「では、貴様の言う『正当なる所有者』とは誰のことであるか?」
「神聖暦979年より始まり、神聖暦990年の反乱によって失われた栄光の時代を記憶する者であるならば、自ずと答は分かるはず」
アルフォンスがオーラムとの一問一答を続ける間に、シルバーは外で戦う仲間にテレパシーでメッセージを送った。
『我々は今、砦の中で窮地にある! 至急、応援を願う!』
●激闘
砦正面での戦いは峻烈を極めていた。
「アルバトロスとかいったな! 俺が相手だぜ!」
シフール武道家の蒼龍、鳥怪人に挑発的に挑みかかる。
「ケケケーッ!! 貴様ごとき敵ではナーイッ!!」
アルバトロスの両手が、腰に差した2本のソードを抜き放つ。こいつ、二刀流だ! ますます闘志をかき立てられる蒼龍。
「鳥みたいな格好してるけどな‥‥。姿だけで、本当に飛べるわけじゃねぇんだろ? 本当に飛べる俺が、空中戦てヤツを見せてやるぜっ!!」
空中からの攻撃は得意中の得意。相手の翻弄を狙い、フェイントを仕掛ける。急降下、続いて怪人スレスレで急カーブ。アルバトロスが動く。その剣の刃が蒼龍のぎりぎり上をかすめる。
「うぇ! こいつ、早いぜ!」
予想以上に素早い怪人の動き。その手に持つ剣を上下左右前後に振り回し、その隙のない動きが相手を寄せ付けぬ結界を作る。しかもその動く速さはシフールの蒼龍の倍もある。これでは隙に付け入るどころか、逆に敵の動きに翻弄されっ放しだ。
「おまえの力はそんなもんか? 当ってないぞ?」
敵の動揺を狙い、蒼龍は言葉で挑発するが、実のところ敵の刃を避けるだけで手一杯。間合いに踏み込んで打撃を与えることができない。
「俺が相手だぜ!」
その身の丈にふさわしくジャイアントソードを握りしめたバルバロッサが怪人に呼ばわる。アルバトロスの視線がそちらを向いた刹那、隙ありと見た蒼龍は急降下。あわよくばカウンターだ! アルバトロスの目線が動く。すいっと宙に突き出される剣。
「‥‥!」
蒼龍は避けきれない。剣の背でしたたかに打ち据えられ、跳ね飛ばされた。
「蒼龍!」
地に横たわる蒼龍の体をファルが抱きかかえ、安全圏へ連れ出してリカバーの魔法を施す。アルバトロスは何事もなかったかのように、視線をバルバロッサに戻す。
本当の意味で強い敵を目の前にして、バルバロッサはあぶみを外して敬意を表した。
「俺のペルソナは、テスタロッツア!! さあ仮面舞踏会と行こうじゃないか!!」
その言葉に怪人も優雅に一礼。だが次の瞬間には怪人、バルバロッサとの間合いを一気に詰め、2本の剣を旋風のごとくに繰り出す。対するバルバロッサ、堅牢なナイトアーマーで身を固める故に守りは固いが動きは鈍い。防御技を巧みにきかせて敵の刃を鎧で受け止めるが、敵の剣が鎧を打つ金属音は凄まじく、耳も割れんばかり。
(「それにしても敵のこの速さ、尋常じゃねぇ。もしや‥‥」)
一方、砦へと至る橋のたもとでも激しい打ち合いが続く。黒き山羊と黒き馬の戦い。共に軍馬に跨り、凄まじい勢いで剣を繰り出す暗黒馬将軍スレイプ。その攻撃をヘビーシールドで防ぎつつ、地獄大元帥を名乗るカイザードはランスを繰り出す。だが、敵の馬術は巧み。ランスの切っ先は何度も空しく宙を貫き、逆に敵は執拗にカイザードの隙を狙って斬りつける。
「ぶはははは! 勝利はこの暗黒馬将軍のものだぁ!」
ぶひひひひひぃーっ!!
突然、馬男の乗馬が狂ったようにいななき、暴れ出す。
「何ごとだ、ファルシオン!? うわあっ!!」
馬から振り落とされる馬男。馬はそのまま主人を置いて、橋の向こうに走り去る。その様子を見てほくそ笑むフー。
「コンフュージョンの魔法、動物が相手なら本当によく効くものだな」
さっきまでの威勢はどこへやら、馬男が情けない声を張り上げる。
「ファルシオ〜ンっ! この私を置いていくなぁ〜っ!!」
と、後方から迫ったカイザードが、馬上から馬男の首筋をぐいと掴む。
「勝負はあったな、馬男。いや、騎士コンスタンタン・ヴァンダムよ」
馬男の声が裏返った。
「き、貴様ぁ! な、なぜ俺の名をぉ!?」
「貴様の名乗ったスレイプの名を手がかりとし、調べ上げたのだ」
馬男のマスクを掴むカイザードの手に、ぐいと力がこもる。
「うわ、何をする!?」
「暗黒馬将軍の称号とともに、そのマスクもはぎ取ってやる」
「やめろぉ! それだけは‥‥!」
有無を言わせず、カイザードはマスクをはぎ取った。
すぽっ!
マスクの下から、恐怖に歪んだ男の顔が現れた。
「うわあああああああっ!!」
そのまま橋を渡って逃げだそうとしたコンスタンタンの前に、マクファーソンが立ちはだかった。
「敵を撹乱するばかりが能じゃないわよ。痛みを伴う水球をあげるわ!」
その言葉を言い放つや、放たれるウォーターボム。
「ぶはあっ!!」
水球はもろに馬男の顔面に命中。そのおかげで、馬男の何かが切れてしまったらしい。
「うぎゃあああああーっ!!」
絶叫上げてコンスタンタンは突っ込んできた。マクファーソンはひらりと身をかわし、コンスタンタンはそのまま堀の中へ。視界から姿が消えた次の瞬間、どん! と派手な落下音がして、何も聞こえなくなった。
堀の上から覗き込むと、コンスタンタンは堀の底で伸びていた。
その時、カイザードは気付く。何者かが馬に乗り、橋を渡ってやって来る。
「何者だっ!?」
行く手を阻むカイザードの前に、新たな敵が姿を現した。全身にチェーンメイルを纏い、白銀の仮面で素顔を隠した男だ。カイザードがランスを突き出す。敵方の馬は大きく体を仰け反らせ、その弾みで敵の男は落馬。いや、落馬と見せかけて馬の体を盾とし、巧みにカイザートの脇をすり抜け、砦の中へ駈けて行くではないか。
カイザードの頭の中に、砦の中からシルバーが発したテレパシーの声が響いたのは、その時だった。
「シルバー達が危ない! 加勢せねば!」
アルバトロスと冒険者たちの戦いはまだ続いている。
「ここは俺達に任せておけ!」
バルバロッサが怒鳴る。カイザード達は、新たな敵を追って砦の中へ。ファルも砦の中へ駆け込む。
「早く片を付けちまおうぜ!」
素早く飛び回り、アルバトロスを牽制しながら蒼龍が叫ぶ。
風露が斬り込んだ。カウンターアタックを狙ったが、アルバトロスの動きは変幻自在。巧みにかわされ、逆に手に持つ日本刀を叩き落とされた。続いてアルバトロスのさらなる一撃。しかしその剣は風露に向かわず背後に翻り、背後の隙を突いてきた蒼龍に向かう。すんでのところで蒼龍は身をかわし、風露も大きく退いた。
「打撃を与えなくていいから時間を稼げ! 俺の読みだと奴は長くもたねぇ!」
叫んだのはバルバロッサ。その言葉を受け、蒼龍も風露も牽制を繰り返す。間合いに踏み込んでは離脱の繰り返し。緊迫した時間がじりじりと流れていく。
突然、アルバトロスの動きが鈍った。体を大きく仰け反らせ、立ちつくす。
「今だぜ!」
バルバロッサが突進。アルバトロスに組み付き、押し倒した。アルバトロスは何ら抵抗することなく、横たわるのみ。
「思った通り。オーラマックスの反動が来たな」
バルバロッサの読みは当たった。
「さあ、仮面舞踏会は終わりだ。素顔を拝ませてもらおうか」
鳥のマスクを取り去ると、下から現れたのは凛々しい騎士の顔だった。
「持てる力の全てを尽くして戦ったのだ。悔いはない」
憑き物の落ちたような清々しい声で、騎士は答えた。
●月道の彼方へ
「待たせたな、兄者」
砦の中に声が響き、神々しい光が白銀の仮面を出迎える。
「来たか、弟よ」
人質たちの間をかいくぐり、白銀の仮面は黄金の仮面と並んだ。
荒々しい足音の響き。ファルのかざすホーリーライトの光に導かれ、仲間たちが加勢に駆けつけたのだ。
2人の敵は早くも砦の奥に姿を消していた。
月道の部屋に至る通路には数々のトラップが仕掛けられ、冒険者たちを阻む。それでも必死の思いで通路を駆け抜け、突き当たりの部屋に辿り着いた。
魔法光で満たされた、吹き抜けの丸い部屋部屋。床に描かれた六芒星こそが月道の入口だ。その六芒星の中央から強い光の輝き。2人の仮面の男はその光の中へ足を踏み出そうとしている。
逃してなるかと、ファルがコアギュレイトの魔法をオーラムに放つ。オーラムは振り向き、言い放った。
「神は守り給えり」
魔法は抵抗を受け、無効化された。そして仮面の男2人は光の中に踏み込み、この世界から姿を消した。
「ヴァランティンと言う名、我にとっても因縁深い名になりそうだ」
カイザートが真顔で呟いたその時、
「大首領様ぁ〜! 置いていかないでくれぇ〜!」
部屋の入口から情けない叫び。
「馬男か、往生際の悪い奴め」
フーがイリュージョンの魔法を放つ。四方八方から刃が襲い来る幻覚。
「うがぁ! うがあああああ!」
馬男の理性は完全に吹っ飛んだ。幻覚と現実の区別がつかず、自ら冒険者の剣に飛び込み、グサグサに傷ついて転げ回る。
「一思いに往生するがよい!」
得物をクレイモアに持ち替えたカイザートが、情け容赦ない一撃。
「がああ!」
その一撃に、馬男は六芒星の縁まで吹き飛ばされた。
「今度こそ逃しません!」
またもコアギュレイトを放つファル。
「あががが‥‥!」
立ち上がりかけた馬男が、危ういバランスを保ちながら石像のごとく硬直。
「喰らえ!」
ほとんど反射的に、マクファーソンがウォーターボムを喰らわせた。
ばしゃ! 水球が馬男の顔面に命中するや、馬男の体がぐらぁり!
「あっ!」
馬男は月道の光の中に倒れ、消え去った。
しばし、沈黙が全員を支配。
しばらくして、カイザートが言う。
「これは運命の悪戯だと思いたい」
続いて伝助。
「ともかく、人質全員無事でなによりっすよ」
そしてマクファーソン。仮面を外し、それを見つめてしみじみと言う。
「ともあれ、戦いは終わったのね。これは記念に貰っていくわ」
捕らえられた人質たちも全員が無事に解放され、以来、骨十字軍がバルディエの領地を悩ますことは無くなった。
こうしてマスカレイダーの戦いは、ひとまずの終わりを迎えたのである。