進め我らの海賊旗1

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月25日〜06月30日

リプレイ公開日:2005年07月03日

●オープニング

 父が授けようとしている以上の物を、自らの手で勝ち取れ。それがマレシャルに科せられた平民の娘マチルドとの結婚のための必要条件であった。
「凱旋の宴までやって頂いたそうだな」
 まんざらでもない顔で、父は勲を立てた息子を見る。
「いい面構えになった。本格的な戦闘で生き延びた勇士の顔だ」
「辺境伯様からもお言葉を頂いたとか‥‥」
 母も一人前に成った我が子を誇らしく思う。サクス家の主君でもあるエイリーク辺境伯から、このような栄誉を頂いた以上は、マレシャルの跡目相続は許されたも同然である。
「それで母上。マチルドの方は‥‥」
 マレシャルは問う。母は憂いを帯びた眼差しで
「なんとか踏みとどまっています。ただ、我が家の嫁となるには暫く学びの時を持たねば成らないでしょう。今娶れば、あの娘は必ず周りの侮りを受けます。そんな辛い目に遭わせるのは私も忍びありません」
「そうですか‥‥」
 まだ二人の障害は消えていない。

 夕刻。旨酒を汲み交わし、サクス家当主と次期当主の話は進む。しかし二人とも微塵も酔いを覚えない。一家の浮沈に関わる重大な懸案が話されているからだ。
「武人の辛い所は、常に旗幟を明らかにして一族の命を懸けねば成らぬ事だ」
 父は自分の半生を振り返って言葉を発する。瓦解の後、零落した家を背負い、ほとんど一介の騎士から身を立てて、小なりと言えども復璧を果たした。自分には子供は持てぬと諦めていた頃。若い妻を得て、神から息子を授かった。そしてその子に有力貴族から縁談が入る僥倖に恵まれた。
 だが、我が子は父が与えてやろうと用意した娘では無く、平民の娘を娶りたいと言う。そして、自分の手で勲を立てるほどに成長している。
(「息子とは言え、ままならぬものだ‥‥」)
 父は頼もしく思いつつも寂しさを覚える。
「スレナス殿の助力を得たと言ったな」
「はい。決して表沙汰にするなと言われました」
「‥‥そうか」
 スレナスの名は知っている。アレクス・バルディエ卿の部下として勇名を馳せた男だ。まだ、20代半ばの筈。
 海戦の展開を聴き、父は唸り黙り込む。単純化され徹底した容赦のない戦法。恐らく弓手は噂に聞くヘイヨウ兵であろう。
「父上?」
「あ、ああ。ちょっと考え事をしていた。ところで」
「はい」
「件の海賊。あれはほんの枝葉にしか過ぎないぞ。そして、おまえは奴らを敵にした。戦いはこれからと知れ。恐らく、奴らか我らが立ち直れない状態になるまで、戦い続けねばなるまい。故に、これより後は海に詳しい者達を味方に付けろ。一口に海賊と言っても、悪い奴らとは限らない。我がご主君も、広い意味では海賊と言える」
 そして、少し間を置いて、父は我が子にこう宣った。
「わしより先に死んでくれるな」

 その頃。
「サクス家に我らを討伐する命令が降った模様です。いよいよ放置する訳には参らなく成ってきました」
「後ろ盾は誰だ? サクス家の主君以外でだ」
「調査中です。ただ、マレシャルも駆け出し冒険者で3倍以上の戦力を殲滅させるような男です。一廉の将と見なければなりません」
「暫くは直接手を出すのは避けろ。背後を探れ」
 企みが、敵の本拠地で進められていた。

 翌日。マレシャル卿より冒険者を募る募集がギルドに張り出された。

●今回の参加者

 ea2248 キャプテン・ミストラル(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5644 グレタ・ギャブレイ(47歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea5858 音羽 朧(40歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7348 レティア・エストニア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8046 黄 麗香(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9901 桜城 鈴音(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1210 ファルネーゼ・フォーリア(29歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1350 サミル・ランバス(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

エルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638

●リプレイ本文

●初日
 海戦祭の賑わいも過ぎ、ドレスタットの街は普段の姿を取り戻す。マレシャルらの海賊退治のお陰だろうか? 荷を襲う大きな事件もなく、シフールなどの密売事件の話も聞かない。
 依頼の初日。マレシャルからの紹介状を携え、エルシュナーヴ・メーベルナッハと共に商人ギルドを訪ねたキャプテン・ミストラル(ea2248)は、別に迷惑がられもせずに通された。
「ほう。新しいお仲間か‥‥」
 年を召した担当者が清冽な水を勧めながら応対する。
「先日討伐された海賊団がいなくなった後、何か変化はありましたか?」
「めっきりと事件は減りましたな。いや、仮面を付けた如何にも怪しそうな連中が、付近の村に出没しているそうですが。今のところ被害らしきものは無いようです。御領主様が人を使わし、警戒させて居られるせいやも知れません」
「仮面ですか? 偵察にしては目立ちすぎです。何を考えているのでしょう? こほん。ところで、近海で動いている連中は、まだ居るのですか?」
「御領主様に面と向かって楯突く愚か者は多くは有りませぬ。それでも、渺たる小島の入江や岩陰まで虱潰しに探せるものでは有りませぬ故。今のところは鳴りを潜めて居るだけでしょう。多少のことなら‥‥そう、水樽や果実、水先案内を押し売りする程度では目くじらをお立てに成りませぬ」
「海賊さんって‥‥やっぱり悪い人ばっかりなのかなぁ?」
 呟くエルシュナーヴの言に、担当者は静かに語る。海賊とは海に縄張りを持つ者達である事を。港や航路に縄張りを持ち、保護料や通行料を支払えば、縄張り内の水先案内や引き船の手配、港での荷の積み降ろしや保管等の有償サービスを与える。自ら貿易を直営したり、海の傭兵も含まれると言う。
「前にも話した事が有りますが、エイリーク様も広義の海賊と申せましょう。問題なのは、略奪を専らとする手合いや、神に背く行いを平気で犯す者達です。おっとキャブテン。貴女には言うまでもない事でしたな」
 彼女自身が海賊団を称していることは、紹介状に記されていた。

●酒宴
「七風海賊団七代目頭領キャプテン・ミストラルと言いますですよー、宜しくです♪ ‥‥あ、船もないのに海賊名乗るのかってツッコミは却下です。大事なのは心意気ですよ、心意気ッ!!」
 キャプテンの挨拶に場は和む。これでも冒険者になる前はいっぱしの船乗りとして慣らしたものだ。同様の物が何名か。うち解けた雰囲気の中で杯が回される。
 そんな中グレタ・ギャブレイ(ea5644)が真顔で尋ねる。一般的なシフールのイメージに似合わぬ重い口振りで。
「先ず、今までの経緯や注意事項を教えてくれ。特に注意人物だ。敵についても詳しく。情報を集めるつもりで垂れ流してりゃ世話無いからねぇ。捕虜尋問の内容。緘口令事項の確認をさせてもらうよ」
 詳しくあらましを語るマレシャル。じっと終わりまで聞いて一言。
「そうかい。一応、バックは判らないんだね」
 危惧すべきは海賊団の背後だ。
「ただの悪党なら問題ない。だが、背後にどこぞの貴族。そう、例えばエイリーク様の政敵が絡んでちゃ、簡単には行かないよ。そうなら、ドレスタットの経営を厄介にさせて不始末を創り上げることだからね。領地を治められない諸侯が失脚するのは、泳げない船乗りが溺れ死ぬのとどっちが早いかと言うトコだろう。おや、キャプテン。何を笑っているんだい」

 一通り自己紹介が済み、本日の成果に話が回った時。
「さて、そっちはどうだった? 『紅の小獅子』」
 ファルネーゼ・フォーリア(eb1210)がサミル・ランバス(eb1350)に話を振ると、当のサミルはなんだか複雑な表情を見せた。共に酒場に向かったドロシー・ジュティーア(ea8252)もどういう表情をしていいものか、といった微妙な微笑を浮かべている。
「‥‥その名前は、しばらく勘弁してくれ。さっきまで嫌って程呼ばれてきたばかりだ」

「よぉ、『紅の小獅子』! 久し振りだな、怪我はもういいのか?!」
 扉を開けて酒場に足を踏み入れた瞬間、二人にかけられた第一声である。どうやら先日の戦で一緒になった船乗りがいたらしい。その瞬間に店内のむさ苦しい男達の視線が、一斉に二人に‥‥正しくはサミルに集中した。
 男たちはどやどやとサミルの周りに集まり、口々に彼を褒め称え、持たせたカップに酒を注ぎ、頼んでもいないのに料理が振舞われる。ドロシーは見事に置いてきぼりを食らうも、気がついた男にサミルの隣にエスコートされる。テーブルには酒や料理の皿がずらりと並べられた。
「そうかそうか、あんたが噂の小獅子様か、まー飲め飲め飲んでくれ」
「何か食いたいもんはねぇか? 安い店で悪いがおごってやるよ、好きなもん頼みな」
「いやしかし、こんなにいい男だったとはなあ。お姉ちゃんも彼氏がこんなかっこいいと大変だろう」
 豪快な勘違いを生みながらも、どうやら二人は歓迎されているようだ。「あの話」が出回っているのなら、彼の生まれに関しても皆の耳に入っている筈なのに。
「おい、お前ら‥‥俺は」
「ああ、ハーフエルフだってんだろ?」
 ‥‥認識はなされている。何があったというのだ、この歓迎は。皆ハーフエルフは怖くないのか? ドロシーは首を傾げた。
「確かに狂化はおっかねえ。だがな嬢ちゃん、こいつの話を聞いたか? こいつはなんと狂化しても仲間を攻撃しなかったって話だ!!」
 そう言えば共に戦った吟遊詩人が報告の宴でそう歌っていたな、とおぼろげに思い出す。無論『仲間がサミルの間合いに入ってこなかったから』たまたまそのような結果になっただけなのだが、次々と流し込まれる酒に反論する余裕もない。
(「確かやつの詩では‥‥」)
 思い出して目が点になる。確かに危険な仲間のためにダガーを投げつけた覚えはある。しかしそれで非武装になった訳ではない。なのに詩では美化され、狂化しても味方のために命を捨てる男として描かれている。
「仲間を思う気持ちのある男に悪い奴ぁいねえよ。さ、飲め飲め友よ、今日から俺達ゃ友達だ!!」
「あのう‥‥美化しすぎですよ」
 ドロシーの突っ込みに、最初に声を掛けた船乗りはぼそり。
「多分、この連中の何人かは狂化するハーフエルフを恐れているぞ。だからこそこの歓待なんだ」
 狂化しても敵味方を取り違えず、感情の高ぶり故に仲間の危機には自分の命など蟻よりも軽んじて身体を張る。この神話のお陰で、筋は通す悪党に取り入るような感覚なんだろう。と、囁いた。敵に回すと手がつけられないからお友達に為っておけ。こんな具合に。

 ‥‥結局。懐を痛める事無く腹を膨らませる事は出来たが、碌な情報は入手出来なかった。
 新しい友情はプライスレスである。

●海図創り
 狭霧を払う風の中。潮の香りが揺れている。ゆっくりと昇る大凧は、緩やかな風に乗って空に浮かぶ。眼下には雲の如き白い靄(もや)。港に働く人々は、蟻の如く見ゆ。
「絶景かな。一望千里でござる」
 旌旗(せいき)堂々荒波を蹴立てて進むは、エイリーク様配下の船で有ろうか? 音羽朧(ea5858)はレティア・エストニア(ea7348)から渡された地図と比べる。概念自体は正しいが、やはり大きく狂いがある。潮目、船の動きを心に刻み頭の中で朱筆を加えて行く。
 その、潮(うしお)の底に忍ぶ影。浅瀬や潮の流れを調べる桜城鈴音(ea9901)だ。
(「干満の影響を受けているようだわ。一寸辛いかも」)
 潮の流れは満ち引きによって逆になる。特に敵の北方船を座礁させ、沈没させたと言う辺りは、底の岩根にしがみついて漸く進める程の激しい乱流。これでは投げ出された者達が全滅したというのも無理からぬ事。必死の事に、底の調査だけで精一杯だ。

 同じ頃。
「おや、新しい方かね」
 前の海戦で勲を立てた老漁師は、気安く李飛(ea4331)と黄麗香(ea8046)を迎え入れる。
「マレシャル様のお陰でわし一代は免税じゃ。御領主様から騎士に叙すとも言われたが、今更成っても仕方ないでのう。世襲出来るような名誉でもないし‥‥。ま、調練を兼ねての手伝いは歓迎じゃ」
「すまんな。識るには実際に自分で海に出るのが一番だ」
 こうして飛は、漁師の仲間に加えられた。

 夕刻合流した4人は、野営のたき火の近くで情報を突き合わせる。海水の流れ、風の強さ、風の向き、海底の様子、深度‥‥。レティアの海図を修正し大凧他での鳥瞰図が作成され、海流をそれに書き加える。そして、これらの情報を突き合わせると、
「正午近くは潮の流れと風の流れが加わり、港に向かう船足は早まりますよね」
「さらに、注目すべきはこれでござる。真夜中近くには浦風が出し風と成り、満潮で潮は港向き。潮と風が丁度反対になり申す。これを利用することで出入りが非常に自由になるでござろう」
 鈴音の話に応じるように朧は絵図を指でなぞる。帆を掛ければ出し風。帆をたためば潮によって進退は自由。但し、一般に城門の閉ざされる夜間は、御領主様の許可が無い限り避難以外の入港が禁止されている。
「戦時には青銅の鎖で港の入口を封鎖する兵法があるけど、普段はそこまではしないんだよね。特に非常時は誰でも避難して構わないんだよ。尤も漁師さん達の話によると、時化の時は下手に陸に近づくともっと危険な場合が多いそうだけど」
 麗香は聞きかじりの話をする。総合すると、全滅させた海賊団のように風を操る者が乗り組む小回りの利く小型船ならば、比較的簡単に入れると言うことである。勿論その程度で運べる人員ならば、騒動を起こせば一触に成敗される程度でしかない。多人数を運ぶのは難しいであろう。発見されて沈められるのが落ちである。
「そろそろ焼けたぞ」
 飛は土産のタラをナイフで切り分け、塩を振って仲間に渡した。

●客員メンバー
 現在、商人ギルドの協力無くして依頼が成立しない状況にある。それは、商人ギルドとて同じ事。功名を必要とするサクス家の事情で、殆ど費用を掛けずに安全を買うことが出きるからだ。ために両者の利害は一致する。
 ビザンチン商人でもあるクレリックのファルネーゼは、連絡係となった。前の海戦の英雄として面が割れすぎては居たが、商人と言う立場は立派な名分だ。形としては、功績によりギルドの客員メンバーに迎えられた事になっている。議決権こそ無いものの、オブザーバーとして公認された呈だ。事実、海賊対策に於いてはギルドの専任担当者のようなものである。
 そして、今回のレティアのように、余の者は付き添いの形を取れば誰にも怪しまれずに堂々と入って行ける。
「ご苦労。そちらの状況はどうだ」
 一応ギルド支配下のファルネーゼに、担当者は慇懃な挨拶。その代わり、彼女もメンバーとしての権利を要求出来る。
「済まぬが、差し支えの無い範囲で港の出入簿等を閲覧したい。このレティアの調査と付け合わすじゃ」
「組織が動く時は物資も動く筈です。ギルドの帳簿に載るのは正規の物品ですので、例の組織の動向が直接現れる事は無いでしょう。でも、ドレスタットの物流を把握することは、そこに巣くう闇組織を把握することに繋がるはずです」
 前回決戦の前後に大きく動いた荷が無いかどうか。正規の入荷で無いにも係わらす、市場に出回っている品が無いかどうか。入る荷と出ていく荷がアンバランスならば要注意と言える。これは、物流を掌握する商人ギルドでしか調べ得ないものであった。
 担当者は頷きながら、
「無論のことだが。外部に漏らす事は出来ない。荷の状況は金が動くでな」
 これは、ファルネーゼ以外見るなとの謂いである。
「委細承知じゃ。また、このことで抜け駆けせぬ事を誓う」
 話はまとまり、彼女のみが案内された。

●調練
 未だ自分の船はないけれど、ミストラルは海の女。日本刀を鞍じて艀の前に立つ。一通りはこなせる船の仕事だが、冒険者と成って以来陸の暮らしの方が長い。
 相変わらず無口な海の男達。船では無駄口を聞かぬのが習い。風のため聞き取りにくい船上では、口を開く時は全て重要な事でなければならない。そう言った細々とした掟を改めて思い出す。
「やはりバランスが取りにくいですね」
 ドロシーは汗を拭う。レザーアーマーとは言え、落ちれば泳げない彼女である。自然と緊張し、それが激しい疲労に繋がる。
「ちょっとへっぴり腰だね」
「泳げないのはあなただって‥‥」
 そう。実は麗香も似たようなものだが装備は明らかに軽い。少なくとも、普段ならば仲間に助けて貰える重さであり、何れ泳ぎを覚えなければ成らないことは当然としても、板子か膨らませた牛の膀胱に掴まればなんとか浮いていられる。
 その点、相方の鈴音は気楽なもの。少しは泳げる上に、いざと成れば水中で息が出来る。ために、揺れる艀の上でも陸と変わらぬ思い切った動きが出来る。

「喝っ」
 ファルネーゼが高速詠唱でビカムワースを唱えたが、距離を誤ったか成就しなかったかで飛は全くの無傷だ。
「やはり回復役が居らぬな。模擬戦で怪我をさせる訳にも行かぬので、つい躊躇いがあるようじゃ」
 苦笑しつつも、術の後にメイスで防御姿勢に成っているのは流石である。
「皆さん。実は泳ぎの特訓から始めた方が宜しいのでは?」
 キャプテンが腰の退けた面々を見やり提案した。自分とて大した腕前ではない。全く泳げない者を助けようとすれば、共に溺れるのが落ちだ。最低限、溺死せぬ工夫がめいめいに必要であろう。

●戦いの始まり
 こうして、新しい勇士達の結束と情報共有も終わり、報酬の時間となった。
「改めて言う事でもないが、今後我々の活動が成果を挙げていったなら、マレシャル殿は海賊より不倶戴天の敵として付け狙われる事になるだろう。その時、海賊が海の上にしか居ないとはくれぐれも思わぬ事だ。陸の上でも、外出の際などは十分用心を怠らぬ様にし、護衛を付ける事を薦める」
 飛の言葉に頷きながら、マレシャルは皆に一つ一つ小袋を渡しこう言った。
「前の戦いでは皆得物を破損した。幸い勝てたから良いようなものだが、この先不十分な武器で闘う事は出来まい。そこで、些少ながら用意させて貰った。各人の装備を改めるために使って欲しい」
 袋には5Gづつ入っていた。