●リプレイ本文
●最終実験地へ
オラース・カノーヴァ(ea3486)が───。
「良しみんな力を合わせて頑張ろうぜ!」
と、王城前で意気を上げているところに、空中から風の精霊力の風圧と、地の精霊力の重圧が一同に感じられた。
フロートシップである。
紋章は黒い布で覆われているものの、スカラーが身を半ば乗り出し、一同に命じる。
「このまま降下する。列を作って待っている事だ」
そのままピタリ、と中庭に着地するフロートシップ。
白銀麗(ea8147)の愛犬であるボーダーコリーが街中からしきりに鳴き声を上げている。
「仕方ないのう。確かに見知らぬ者だらけじゃからな」
色々と細々過ぎて、犬には抽象的過ぎる命令ばかりだったようだ。
「新顔だな。誓約はするのだろうな?」
スカラーが、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)と視線を合わせると話を切り出す。
「随分と冒険者ギルドの内容とは違うが、まずは厳粛に誓おうかのう。騎士身分の名、誉と魔道の探求者たる誉れにかけて、シュタール・アイゼナッハは誓う。これで良良いかのう」
「良かろう、ならば心する事だ」
「で、相手が新型チャリオットを略取して、何をするかを聞いておきたい」
「少なくともカオスの魔物と手を組んでまで、行おうという事だ。禄でも無い事だ」
「‥‥新型機がウィルに対するテロ用大量破壊兵器として使用されると云う事なら───穏やかでないが───襲撃者の抹殺も妥当かのぅ‥‥」
「だが、どこの国に向けられるとしても、造った国家が責任を負うことになる───大ウィルを敵に回したツケは払わせてやる」
「で、スカラー。策があるのだけど」
冥王オリエ(eb4085)が切り出す。
その策を聞いたスカラーは眉を一瞬顰める。
「いいのだな?」
「いいの」
「あの自信過剰な愉快な相手に一泡吹かせられるのならば安いもの。国家の安危が私の私物一つで購えるなら安い物だわ。生き物と違ってお金で手に入る物だし」
オリエさんお金持ち。周囲からそんな眼差しが注がれる。
策は単純。オリエの所有する従来型チャリオットにごてごてデコレートして、布を被せて新型チャリオットに偽装する。
相手が接触したら一斉砲火で叩き潰す。高価なチャリオット、ずいぶんと気前が良い話だ。その為の装備の充実のため、シュバルツ・バルト(eb4155)は既に自らの余剰の武器を、仲間らに貸し出していると言う。
今のところ、加藤瑠璃(eb4288)にワスプ・レイピア。グレナム・ファルゲン(eb4322)にスピア『鬼徹し』オーガスレイヤー。リュード・フロウ(eb4392)にロングソードを渡している。
さすが義侠騎士のふたつ名をもつ女傑であった。
ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)はこの危機に自分が置いて行かれそうな感じを受けているが、そこへ浦幸作(eb8285)が耳元で囁く。
「これは国家事業級の任務───しかも軍事におけるゴーレムの運用に関してです。さっきのシュタールさんのように騎士として誓約を立てなさい、急いで!」
「騎士として誓約します───エーと、機密の保持を」
と、ルエラは急場しのぎの誓約を立てる。
「運が良かったな。後一呼吸遅れていれば自分の吹き矢で昇天させていた所だ」
上品な顔を青ざめさせるルエラ。
閑話休題。鳳レオン(eb4286)は右掌に左手の拳を打ちつけて呻く。
「俺がたまたま留守の間にふざけた野郎が現れたらしいな。その愉快な奴、虹のハーケンだっけか? ま、詳しいことが判らん以上、できる事はあまり変わらないんだが」
瑠璃は疑問に感じ、それを口に出す。
「‥‥どうも、敵の動きがあからさまに不自然なのよね。本当に新型チャリオットそのものだけが狙いなのかしら?」
わざわざフロートシップで向かうのである。
「あのね。もし要人が来るなら、そっちの護衛は‥‥」
「こない、内々のお披露目はもう済ませ済みだ」
と、スカラー。
「まあ、やっぱり、護衛が必要なほどのVIPが単身来るとも思えなかったけど、これで心配事が一つ減ったわ」
草薙麟太郎(eb4313)は騎馬試合に勤しむ騎士の様に、自ら貸し出されたランスを磨いていた。
銀メッキされたランスだ。ハーケンが如何に駄法螺を吹こうが、このグライダーに固定されたこの銀のランスの一撃を凌ぎきれるとは思えない、そして───カオスの魔物、ハーケン問わず決まれば必殺のコンボが待っている。
あくまで───決まれば‥‥だが。
グレナムは───。
「カオスに連なる人類の裏切り者は、抹殺以外無し。国賓だろうとゴーレム工房長だろうと、仲間であろうとサーチアンドデストロイの心得で行くのである、豚のような悲鳴をあげさせてやるのである」
───行くところまで行ってしまった思考を露呈。しかし、スカラーはそれが気に入った様子。
「前にも言ったが、カオスに組みする者はなんであっても抹殺の対象だ。万一自分がカオス乗っ取られたら、少しも躊躇うことなく抹殺せよ。当然の事だ」
基本方針の確認が出来たところで、リュードが提案を行う。戦法ではなく戦術レベルの提案を。
「ハーケンとカオスの魔物はチャリオットを奪取するに当たり、今までの襲撃が我々のような冒険者によって阻止されたことを踏まえてやってくるでしょう。今回は護衛に対していきなり攻撃してから事を始める可能性が高いと思います。全員で固まっててはファイヤーボム一発で制圧されるので、『見張りの班がいる場所と、休憩する班の場所を分けること』を提案します。そうすれば初撃で対応できる者がいないという最悪の状態は避けられるはずです。私としては、目的と背景を知りたいですが、スカラーさん曰く『抹殺する事が、大事』となると微妙なところですね」
カオスの魔物がどんなものかも判らぬ以上、出たとこ勝負。手加減なんかしていては、死々累々と言うこともあり得る。
さて。装甲チャリオットとキャノン。どちらを持ち帰るかと言う問いに対し、幸作は先ずスカラーの真意を質した。
「精霊砲の方を選択した場合、チャリオット本体を持ち帰る事が出来ないのですか? アリオ陛下に経緯の報告の義務もありますし、メイの為には両方持ち帰りたいと考えています。メイはウィルの友好国で、しかも月道でのみ繋がる以上、互いに脅威とは為り得ない筈です」
「こちらが出した選択に関しては王侯同士のやりとりだ。自分の知るところではない事項だ。だが、安心しろというのはおかしな話だが、エレメルキャノン搭載型にしても重装甲型にしても、新型チャリオットとセットだ。安心しろ。最終日には工房長殿が一席持つ」
一同は目隠しをされ、しばらく空中旅行を満喫する事になった。
そして、到着された地帯には一面の整地された地帯が広がっていた。
「では、早速とりかかるとしよう」
オリエが様々な雑材を集めてフロートシップから積み降ろした自分のフロートチャリオットに新型ゴーレムシップっぽく偽装を始める。
そして、テストが始まり、弾道の誤差も二十数メートルから十メートル程度にエレメンタルキャノンの誤差も収まっていき、何とか実用的な範疇に近づいていった。
しかし、どうしても移動と同時に射撃するのは不可能であった。
●消滅
最終日一日前の事だった。不意に怒声が挙がる。試験場備え付けの風信器から伝わってくるメッセージはふたりで防衛戦線を突破した使い手が居るとの事。
一方は通常の武器では相手にならなかった、という報告も走る。
「カオスの魔物であるか!」
グレナムが『鬼殺し』を片手に立ち上がる。
「とりあえず、こちらも討ってでなければ、不審がられるか?」
続いて麟太郎がゴーレムグライダーを起動。腹には銀メッキのランスがセットされていた。
動きが止まったとの報告を受けて、一同は準備を整える。
リュード、レオン、瑠璃が確認した所、地面に五芒星を描いて、背中にコウモリの羽を生やし、先端が矢尻のような形をした長い尻尾を持つ醜い小鬼を召喚(?)しようとしているのが見えた。5、6匹は居ようかというその怪物は。鉛色の膚をしていおり、耳まで口が裂け、鋭い牙が並んでいた。
それを行っているのは騎馬した騎士。一方はローブの裾からブルージーンズが除いているところからして、ハーケンだろう。
下僕を少々増やしたところでこちらに向かってくる。
空中を飛ぶ、小鬼の群れは麟太郎がイリュージョンの魔法を高速詠唱で何とか成功させて、自分の脳裏に心臓がチャージをかけたゴーレムグライダーのシルバーランスに貫かれているという幻視を送り込む。むろん、激痛もイメージして。2匹落としたところでゴーレムグライダー飛行の為の魔力も維持できなくなり───正確にはショックを受ければ、次は立て直しは出来ないという所まで魔力を消耗して来たので───地上に降り立ったのである。
グレナムは騎士とやり合うが、相手の得物はランス。一気に蹂躙戦法を採られる!
自分がスピアなので、それに頼った戦い方をしようとしたのだが、計算は白紙に戻さなければならなかった。
しかし、リュードのロングソードと、瑠璃のワスプ・レイピアが割っては要り、守勢に立たされるカオスの魔物。
そのうち回避しきれなくなり、オラースの一撃がきれいに決まったが、
「ばかめ!」
カオスの魔物が身にまとう魔法故、同じ攻撃を受け付けない。以降の防御を無視した攻撃に、冒険者達は凌ぐのが精一杯。そこへ
「お待たせ!」
銀麗が厄介な魔法を解除した。こうなると後は冒険者達のペースであった。魔法も武器も惜しみなく使い、最後にはよってたかってその肉体を粉砕した。
その隙間を縫ってハーケンがゴーレムチャリオットに触れた。しかし、オリエ達が偽装していた。試験用に準備されていた各種エレメンタルキャノンからの砲撃を食らって消滅した。炎の中に文字通り消滅したのである。一発はアイスミラーで凌いだようだが、後は判らない。
集中砲火の地点にはもはや、ハーケンであったものしか残らなかった。
「こいつの魔法残りは何だったんだろうか? それに───背景は?」
幸作は呟いたが、全ては風に散る杯となった。
なお、企てが上手くいったため。破壊されたチャリオットは必要経費都として工房が負担する事になった。
●両方下さい
最終日。工房のオーブル・プロフィットに面会した幸作は、物輪試の助言のままに、メイに両方を持ち帰る事によるウィルの利を説いた。
「兵器は実戦で使ってこそ、真価が証明されます。今、新兵器をカオス勢力と戦争をしているメイに委ねるならば、きっとウィルにとって有益なデータが取れると思います。メイの国をゴーレム機器のための実験場だと考え、両方私に持ち帰らせて下さい」
「流石メイが送り込んできただけの人物だ。王命を辱めぬよう配慮しよう」
こうして、完成した新型チャリオット二種は幸作の手に。帰国に際し持ち帰る手続きが進められた。
メイにおける新型チャリオットの運命は‥‥。それはまた別の話となろう。