●リプレイ本文
●騎士の矜持
オラース・カノーヴァ(ea3486)曰く。
「襲撃なんかなけりゃいいのに。後手にまわって動くのがメンドクセェったらありゃしねえ。強奪されるのがイヤなら、チャリオットを鎖でつないでおけばいいんだ」
そんな事を言いながら、数少ない関係者の顔と名前を一致させ、スカラーに対して、これ以外の者がレース場に入った場合、侵入者と見なして斬る、と明言。
ともあれ、グレナム・ファルゲン(eb4322)はスカラーに提言。
「警備方法の方針として、見張りの方針の強化を提案します」
「人数が減ってどうやって強化するのか? 案があるのだな」
「敵の侵入や憑依に対する為として、最初にプロジェクトに関わる全ての方に勢ぞろいして貰い全員の顔と名前を一致させる様にし、覚えの無い不審者は即捕縛か、抹殺」
「抹殺以外は認めないと言ったはずだ」
「‥‥。チャリオット搭乗者には、常に一人が同行し、身の安全と、内通を防ぐ。
チャリオット搭乗時は、チャリオットの前まで、共に行き、石の中の蝶で、チャリオット内を確かめた後、搭乗させる」
「今までやっていなかったのか? いや、何れも高名な冒険者ばかりだ。そんなことが有ろうはずもない。スタッフとの摩擦を防ぐための確認だな?」
「そうだ」
他にもグレナムは、カオスの魔物を捕縛する為の罠の設置も共に願い出たが、具体案がない、と一蹴された。
いざとなったら制御球を外せばいい、と気軽に言うが、制御球は簡単に外れるものではない。それこそ、制御球を壊すような力がいるようだ‥‥と、スカラーは語った。さもなくば、前回のシュバルツ・バルト(eb4155)の緊急措置は大問題になっていたはずだ。無論誉められこそすれなんの咎めもない。個人賠償の請求もない。つまりあれで正解なのである。
一方、そのシュバルツもオラースと同様に動く。しかし、不審者は即座に捕縛か、抹殺かという極端な、スカラーにしてみれば甘すぎる方策だ。流石に、教会で直ぐ治して貰ったとは言え、他人の腕を破壊したことを気に病んで居たのだ。
なので前回の彼女が腕を破壊した鎧騎士に対しては、ワスプレイピアを渡し‥‥。
「受け取れ」
と、ぶっきらぼうに去ろうとしたが、宿直室に戻ると、その鎧騎士が先回りして戻っており‥‥
「‥‥私を侮辱するつもりか」
と、ベッドの上に置いてあるワスプレイピアを指さす。
「私がカオスの魔物に取り憑かれたのは、自分の鍛錬不足故だ。それは手を破壊される事で、償ったと思いたい。しかし、それによって得られた騎士の誇りを踏みにじるつもりか? ならば私も決闘を申し込んででも、あのレイピアは受け取らない」
と、強硬な体勢である。
結局の所、レイピアはシュバルツの駿馬の鞍に戻される事となった。彼は自分の未熟を恥じ、シュバルツの措置を当然の事と受け止めていたのである。そして、彼の気高い態度が、シュバルツの心を軽くした。騎士とは不器用な生き物である。
●力の責任
無論オラースにしても食料調達とそれに伴って発生する隙の事などは考えていたが、スカラーはその意図を聞いた段階で関係者の食料など一切合切を運び込み(無論保存食主体だ)、外部とレース場を分断を積極的に図った。
その関係者のなかのひとり、女浪人の本多風露(ea8650)は機密保持上、騎士としての誓約を求められ、武士道との相違を散々に確認を求める『スカラーにとって』煩い相手であった。
しかし、最終的に士道に文化の違いはあれど、騎士として誓ったところで恥じる事はない、という事に落ち着き、風露は己の面目に賭けて誓いを立てる。
「我が口から周囲が全員関係者か、メイの王宮工房の外で、この依頼に関する内容が出たときは、腹をかっ捌き、五臓六腑を書き出し、命を絶って見せます。介錯は無用‥‥」
スカラーの方は平然たるもの。それ位は当然と思っているようだ。やっぱり嫌なヤツである。
同じくリュード・フロウ(eb4392)は‥‥。
「騎士の誓いを行い秘密を守ることを誓います。チャリオットレースに参加したことのある者として、ウィルの鎧騎士として、護衛対象が開発中の新型ゴーレムチャリオットだと聞き、興奮すると同時にこの依頼の重要さを理解したつもりです。既に賊に新型ゴーレムチャリオット開発について知られ、更に奪取する試みがある。国外に、そうでなくとも悪意ある者に奪われたら大変な事になるはず。
ところで、カオスの者はゴーレムを起動することができるのでしょうか? 諜報活動を行う鎧騎士ではなく、天界人となると噂で聞く「テロリスト」との繋がりも頭に浮かびます」
「判らない。だが、ベストを尽くせ。もちろん最悪の場合はチャリオットを破壊しても構わないという事だ。取り憑かれた者を殺さねば敵の手に渡るとあれば、躊躇い無く殺せ。それがこの自分であっても同様だ。新型チャリオットに限らず、チャリオットは‥‥いや全てのゴーレム機器は兵器であると言うことを忘れてはならない。敵の手、ましてカオスの輩の手に渡れば、それはか弱き無辜の血を流すこととなる。それを所有するのは重い責任を伴うのだ」
最後はやはりスカラー節であった。
一方、天に仕える女性僧侶、白銀麗(ea8147)はチャリオットのチューニングが終える前に方策を示す。
「私はジ・アース時代にいた頃、天の加護たるミミクリーの魔法で、内部が空洞の石壁のハリボテに擬態し、背後に仲間を隠して不意打ちをした経験があります。それと同じで、夜間や暗い倉庫の中なら、今回も壁や荷物に擬態することができると思いますよ。もっとも、隠れるためには、先に襲撃者の感知をしておく必要がありますけれどね」
相手がカオスの魔物なら、少なくとも現状の30メートル以内に敵がこないと判らないのでは、受動的に使わざるを得ないだろう。
‥‥というのが一同のコンサセンスであった。
「カオスと天界人、どちらが発見されてもそれは陽動かもしれません」
銀麗はミミクリーを使う際、全裸にならざるを得ないため、簡単に脱げるように寛いだ服を要求し、それは直ちに受諾された。
「前回もその前も結局敵を逃がしてしまてますから、今回こそ敵に止めを刺したいところですね」
草薙麟太郎(eb4313)は意見を述べる。
最初は天界人主体。次はカオスの魔物のみの襲撃で失敗しているところから考えると、次は‥‥。自分だったらとうするかを考え、陽動想定に賛意。
「今回は人数が少ないです。目的は敵を倒すことではなく、チャリオットを守ることです。どんなことがあっても、必ず誰かがチャリオットの周りに残るよう注意する必要があります」
格納庫の四隅に篝火を焚いて月の影を作らないようにする手を打ちつつ、どんな場合でもすぐさまチャリオットを確保する段取りを相談した。出来るならば味方である者を殺すはめには陥りたくない。
メイからの留学生、浦幸作(eb8285)は罠に使う集中砲火用のクロスボウの用意に関して、スカラーに申し出てみたが
「それを揃えるのも冒険者の器量の内だ」
と一喝された。予想通りの返答であったが、落ち込む心境に変わりはない。気を取り直し、
「エレメンタルキャノンとチャリオットの組み合わせはメイにとっては使いでがあると思います」
フロートシップは敵からも目立つのだ。彼はいくつかの想定をし、対策を提示した。
「それで、敵に利用されない為に試射時以外は取り外しておき、人力で輸送、射撃出来るようならチャリオット強奪の際に、破壊砲撃に使った方が良いかも‥‥‥」
「無理だ。いかに軽量化したとは言え、自由に取り回すには重すぎるだろう。走るチャリオット相手では、最初の一発で捕らえられるかも怪しい」
天界人のチャリオットの習熟具合にもよるが‥‥楽観視で作戦を立てると危ういことになるものだ、とスカラー。
●見えない敵
一角獣を思わせる、と言っては褒めすぎか、なエレメンタルキャノン付きゴーレムチャリオットが競技場に威容を持って姿を現した。
これより、会場は完全閉鎖に入る。
幸作が前回と同じく木人形となって、チャリオットに乗らされるが、起動は魔法の力で努力と根性を誘発させて成功しても、前回と違い重しが後部に乗っていると、やや前のめりになって、満足に動かない。
「データ有り難うございました」
グレナムが自分はどうかと申し出るが、
「幸作さんはメイの国からの留学生なので、本国への報告のためにやってもらっているんで」
と、にべもない返事。
続けて幸作はエレメンタルキャノンの試験射撃に入る。
工房付きの騎手が操る中、軽快にゴーレムチャリオットは地を駈け、一瞬動きを止める。
「今です!」
幸作は教えられた操作で発射を試みる。しかし、無情にも途端にチャリオットが沈み込んでしまう。
「幸作さんの力不足ではありません。以前の実験でもこうなりました。やはり、状況が変わっても、チャリオットとエレメンタルキャノンの併用は無理ですね」
騎手は諦めたように言った。精霊力を奪い合い、どちらも機能しなくなるようだ。
その後、チャリオットを完全に停止させ発射操作。淡い炎の精霊の光がエレメンタルキャノン内部に集って行く。そしてその光が一転に集まり。燃え盛る火の玉が飛び出した。
「やったぁ!」
幸作は思わずガッツポーズ。しかし、的から大きく逸れる。2、30メートルはズレているだろう。
「ず‥‥随分、制御系がアバウトですね。小型軽量化の弊害?」
「半分は幸作さんの腕ですが、残り半分は『仕様』です。
「うがぁぁぁぁ!」
そこで悲鳴が上がる。
爆風に煽られて身体を半分焼け爛れにした先日のカオスの魔物だ。
「お、己‥‥よくも我が位置が‥‥」
そこへ空中から、赤い淡い光が映し出され、火の玉が撃ち出される。それはカオスの魔物を巻き込んだ。
「ふん、カオスの魔物風情が功を焦るからだ」
相手は勝手に警戒状態から、競技場全体が警戒網を布いていると勘違いしたようだ。
蠅に化けて、空高くから侵入。石の中の蝶の届かないであろう、ターゲット付近に陣取り‥‥。多分奴はエレメンタルキャノンは精密射撃は出来ないという所に賭けたのだろう。そして、スペードのエースを引いたつもりがジョーカーを引くハメになったのだ。
「さて、お館様から借りたカオスの魔物はもう一体いるが、使うハメになるとは思っていなかったのでな。今はいない。おっと、俺の名を名乗っていなかったな、虹のハーケン。ハーケン・ディストールだ。今日の所は俺の負けとしておとなしく引いてやる。今の内に美味い物でも食い、恋人に別れを告げておけ。さもなくば次の依頼を受けないほうがいい」
おそらく今使っているのはインヴィジブルの魔法なのだろう。何にしてもやっかいな相手には違いない。
「なら、やりあおうぜ。血塗れの手でよ」
オラースが挑発するが、ハーケンからの返事はなかった。
スカラー曰く。
「もう一匹のカオスの魔物を準備しに行ったのだろう。次回の最終調整中は工房付の訓練場で行うことになる。近いうちに依頼を出すつもりだ。今度はフロートシップで迎えになることになる。それだけ重大な任務だと頭に入れることだ。次回は王城集合だ」