紅の狼3〜暁の英雄
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■シリーズシナリオ
担当:マレーア
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 85 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月01日〜07月10日
リプレイ公開日:2005年07月07日
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●オープニング
「‥‥今日もシラノ達は休みかい?」
「「「きてませーん」」」
生徒達の合唱に、先生は大きく溜息をついた。やれやれ、今日で四日目の集団欠席である。
「昨日森に遊びに行くところを見ましたー」
「その前に休んだ時も、僕らが帰る時に冒険者ごっこやってましたー」
目撃証言もばっちりで、とても具合が悪いという訳でもなさそうだ。
「‥‥一度親御さんに報告にいった方が良さそうですねえ」
溜息を一つ。先生は気を取り直し、授業を開始した。
「エリック? エリック!! どこ行ったんだいエリック?!」
街におかみさんの声が響いた。どうやら店番を頼んだ息子がいなくなったらしい。
‥‥勘定や釣銭の入ったカゴごと。
昨日は商品のパンが一カゴ丸々なくなった。その後の先生や他の奥さん達からのお礼の言葉を聞くに、どうやら学校でパンを配っていたらしい。それはまあ「返せ」という訳にもいかず、笑って済ますしかなかった訳だが。
「いったいぜんたい、何をそんな嫌な事があったってんだい。いいたい事があるならきちんと言えばいいのに」
最近食卓にもまともにつこうとしない。どうやら夜には窓からこっそり抜け出してどこかへ行ってるらしいし。そう言えば最近、手持ちのスカーフが何枚か無くなった。これもあの子の仕業だろうか。
「どうすればいいのかねえ」
おかみさんの表情に、影がさした。
夜。
窓から抜け出した少年達は街外れの森の入り口へ。
「誰にも見つかんなかっただろうな?」
「‥‥大丈夫‥‥だと思う」
「見つかってたら追っかけてきてるだろ。多分大丈夫だ」
「よし。あれは誰にも内緒だぞ」
「判ってるって。‥‥そろそろ行こうぜ」
小さな灯りを持ち、思い思いにスカーフを巻いた少年達は、森へと姿を消した。
月明かりに誘われて、たまたま夜の散歩に出ていたシフールの目撃者に気づかずに。
「‥‥とまあ、そういう事らしいのよ」
ギルドに赴いた緋袴の大男が、長く美しい髪を耳にかけながら職員に話す。
「なんだか大変なようですね。とりあえず、子供達の動向を調べてくれ、という感じですかね」
「ええ。ここしばらく、子供が狙われてるみたいだからね。単なる冒険ならまあ仕方ないけど、なんかいやな予感がするから」
「かしこまりました。では、この内容で冒険者の召集を」
ギルド職員は頭を下げると、そそくさと席を立った。
「‥‥流石に子供達の事まで手を回させてたら、あいつも倒れそうだわね」
職務に追われる弟の顔を思い浮かべ、クラナドは細い指で唇をなぞった。
●リプレイ本文
●宵の会議
いつもの面々。そして新しき者達。悔しい思いを繰り返さないために先ず成す事は、情報の共有の徹底だ。円巴(ea3738)の音頭で今までの報告書の封印が解かれる。
以心伝助(ea4744)がクラナドを通じて許可を貰った報告書や領地の絵図を前に事実を突き合わせる。
「幸か不幸か、マスカレイダーは先の活躍で一寸した英雄扱いじゃ。子供達が真似ても不思議有るまい」
ヴェガ・キュアノス(ea7463)は少し誇らしげに
「スフィアと言う組織のビブロ一座は、ビブロ以外は全て人間以外の種族でやんす」
伝助はあの時を思い出し、悔しげにあらましを語る。新参の者では殊に音羽朧(ea5858)が熱心であった。
「子供が操られたり騙される可能性もござるが、ひょっとしたら、無関係な猟師などが善意で子供達に教えている可能性もござる。後者は勿論前者ならばなおのこと、慎重が肝要と心得たほうが宜しかろう」
頷く巴。
「前回が正にそうであったからな。無関係な者が教えている場合はフォローせねばならん」
こうして到着した晩を会議に費やし、必要な情報は共有化された。
●間道
「私の勘ですがぁ。シラノ君は、何か隠してますよん」
エリー・エル(ea5970)の心証を元に、森を探索する。エスト・ルミエールを囲む丘陵の北に深い森がある。とは言え、アルミランテ間道が出来てから一般の者も立ち入りやすくなっている。乏しい目撃情報を頼りに進む一行は、注意深く道沿いを探索して行く。工事が原因で人通りが増え、それらしき痕跡を探るのにも難渋したが、
「ここですかね」
探査に使ったムーンアローの傷を、何度もヴェガのリカバーで治してもらっていたイリア・アドミナル(ea2564)が木の枝に目印の白い布切れを見つけた。結局、物を言ったのは魔法ではなく彼女と李美鳳(ea8935)の優れた視力であった。
巴らに護られた一行は点在する布切れを追って奥へと進む。程なく拓けた広場のような場所にたどり着いた。下草は刈り取られ、ご丁寧に砂が撒かれている。ただ、それ以外は何の痕跡もない。
「ここは拙者に任せるでござる」
朧が胸を叩いて請け負った。彼には木遁の術と言う、うってつけの術があるのだ。
●子供の秘密
生得の外見を魔法無しに変えるのは難しいが、髪を下ろし目立つ片目を隠すだけでだいぶ印象は変わるもののようだ。街の奥様達はいい男には滅法弱いらしい‥‥無論、口調は潜めたものであったが。
「最近じゃ、街の中では遊んでないみたいでねえ。たまに顔出したかと思えば泥団子を投げつけたり鶏を柵から引っ張り出して放したりで、何か騒ぎを起こしてはすぐにいなくなっちまう」
カイザード・フォーリア(ea3693)は口数少なく頷きながら、街の奥様方から情報を入手していく。‥‥その姿がやっかみを買ったのか、男たちの口は少々固かった。おかげでパンや魚、野菜と予想外の買出しをする羽目になる。後のミーティングでクラナドが『必要経費でいいわよ』と言ってくれなければどうなっていたことだろう。
「ガキどもはわからんが、最近変な集団は見かけたな。や、パラばかりが集まっててな‥‥兄弟や家族ってわけでもなさそうだったが。まあ、旅芸人かなんかだろう。ちょっと前に『芸人税』とかいう変な話もあったが、どうやら噂でしかなかったようだしな」
大人の視点ではこんなものだろうか。やはり、子供の事は子供の方が知っていそうだ。カイザードは使い慣れない口調・表情と馬もよろめく程の荷物、そして捗らない情報収集に溜息をついた。
「え? お金は無くなったように感じるけど、夜に勘定すると減ってないんでやんすか」
親たちから事情聴取する伝助のほうも大した話はない。結局持ち出された物は、僅かの油だけのようであった。辻楽士も街には現れていないようだ。
午後。そろそろ子供達の帰ってくる頃だ。後は『子供』に任せるとするか。
●森の劇場
剣の稽古の時間の子供たちは、やたらと元気だ。
「えいっ!」
「やあっ!」
打ち合いの掛け声は、昔と何一つ変わらない。しかしキュアノスの丘の教会学校で、子供たちの稽古相手を勤めるレオニール・グリューネバーグ(ea7211)は、妙な違和感を感じていた。子供たちがどこかよそよそしい。
無断欠席していたシラノ達も、今は学校に来るようになった。が、欠席の理由については何も喋らない。
「いいかい。たとえ何かを噂で聞き、人に何かを言われたとしても、大切なのは自分で考えて判断することだ」
レオニールのお説教にも、子供たちは耳で聞くふりして実は聞き流している様子。
「ところで何が今、君達の間で流行っているんだい?」
尋ねてみたが、返事は素っ気ない。
「いつもと同じ遊びだよ」
その日、エヴァリィ・スゥ(ea8851)は街での情報収集に励んでいた。学校が終わると、街に子供たちの姿が目立ち始めた。
「変だな‥‥」
賑やかな街は子供達のお気に入りの場所の一つ。少なくとも昔はそうだった。しかし、何かが変わってしまった。群を成して駆け回る子供達の姿は昔のままだが、その目に宿るのは警戒の色だ。
「まるで敵陣を偵察しているような‥‥」
そう思った矢先、背後から声がした。
「そこで何してんだよ!?」
振り返ると、そこにシラノが。男の子たちがエヴァリィを取り囲む。
「おまえ、余所の子だな? ここで何してた!?」
「別に‥‥何も‥‥」
「答えないと、こうだぞ!」
「あっ‥‥!」
シラノの手がエヴァリィのスカートを掴み、乱暴にまくり上げた。
‥‥見られてしまった。
「いやだっ!」
「こら! 待て!」
逃げ出したエヴァリィに男の子達が掴みかかり、乱暴に押し合いへし合い。そこへ助けの手を差し伸べたのは女の子達である。
「いい加減にしなさいよ!」
「この子泣いてるわよ! 女の子相手にやりすぎよ!」
流石にシラノもばつが悪くなり、エヴァリィを解放した。
「‥‥で、こいつどうする?」
「仲間に入れてあげなさい。それがせめてものお詫びでしょ!」
「ちっ。判ったよ。仲間に入れてやる」
口ではそう言うシラノだが、顔にはどこか恥ずかしげな表情。
「今夜、町はずれに来な。仲間の印にいい物を見せてやる。だけど、大人達には内緒だぞ」
そして真夜中。エヴァリィが連れて行かれた先は森の中。ライトの魔法光に小さな舞台がくっきりと照らし出されている。好奇心に胸が高鳴る中、パラの役者たちがせわしく動き出す。劇の練習が始まるようだ。しかし、何故にこんな真夜中に?
第一幕。語り役のナレーションで劇は始まる。
『昔々ある所に、パロティエというそれはそれは立派な王様がおりました』
舞台にパロティエが現れた。立派な服を着た、にこにこ顔の王様だ。
「私は名君パロティエだ。私はパロティエ王国を豊かにするぞ。森を切り開いて道を作り、産業を興して街を豊かにするのだ」
『でも、パロティエには世にも恐ろしい秘密があったのです。パロティエの正体は、何と‥‥』
パロティエが、悪魔の仮面をかぶった怪人に早変わりする。声も不気味なダミ声に。
「ぐはははは! 俺様は大悪魔バルダイン! 名君パロティエの正体がこのバルダイン様だとは、愚かな人間どもは誰一人として誰も気づくまい!」
コーラスが始まった。哀しいメロディが、月下の森に流れていく。
♪森の木が泣いている 森のシフールが泣いている
大悪魔バルダインの街は 森の木を喰らって大きくなる
街に1軒の家が建てば 森の木が10本消える
森の木が10本消えれば 20人の森のシフールが住処を失う
街の人々は大喜び 切った森の木でお金を儲けて大喜び
だけど金貨の1枚は 100滴のシフールの涙で濡れている♪
哀しくも美しい調べだ。耳を傾けるうちに、魂を虜にされてしまいそう‥‥。
舞台の上で劇は続く。お金を儲けて幸せになる街の人々。王様のパロティエもほくほく顔だ。しかし、その顔はまたも悪魔の顔に早変わり。
「しかし本当はなぁ、俺様は人々の喜ぶ顔よりも、苦しみ泣き叫ぶ顔がだぁ〜い好きなのだ! さあ、俺様のお遊びの時間だ。怪人を使って街の人々をいじめてやる!」
暗黒大将軍チュザーレや女悪魔神官のワーキウ、そして陰謀や策謀好きなアミール一族に指揮されたバルダインの怪人たちが街を襲う。人々が逃げ惑い、怪人たちが高笑い。泣き叫ぶ子供達を浚って行く。パロティエの子分、錬金術師のリゼッタとエスタが世にもおぞましい実験に使うためだ。
そこへ、正義の味方が現れた。色鮮やかなマフラーを首に巻き、仮面で素顔を隠した剣士たち。
「マスカレイダー参上! 怪人どもめ、覚悟するがいい!」
子供達の目は舞台に釘付けだ。しかし残念なことに劇団長から声がかかった。
「よ〜し、今夜の練習はここまでだ」
子供たちはがっかり。
「あ〜あ、いい所だったのに‥‥」
その呟きに、役者の一人が気づいて声をかけてきた。
「何だ、君たち今夜も来てたのか」
「うん。でも、続きが見たかったよ」
「明日また来ればいい。明日はもっと面白いぞ」
「ほんと!? 絶対、見に来るよ!」
「だけど大人達には内緒だぞ。大人たちに知られたら、俺達が森を追い出されちまう」
「約束するよ。大人達には絶対に言わない」
子供達と役者のやり取りを目の前にして、エヴァリィの胸の中では心臓が激しく脈打っていた。
(「魔法発動の光は無かったでござる。何より拙者は何事もござらん」)
危険がないので手を出さなかったが、一本増えた樹、すなわち朧は先入感を廃してそう判断した。
●ヒーロー登場
真夜中。いつぞやの目撃者のシフールが、息せき切って冒険者達に助けを求めてきた。
「大変だよ! 子供達が森で襲われてるよ!」
「何だって!?」
冒険者たちは急遽、森へ駆けつける。
性懲りもなく森へ行ったヒーローごっこの子供達が、流れ者の男たちに襲われていた。最初は懸命に戦っていた子供達だが、所詮は子供。皆、男達に捕まってしまった。
「さあガキども! 盗んで森に隠した金の在処を言え!」
ごん! 誰かが男を後ろから突き飛ばす。
「痛ぇ!」
倒れた男の目に映ったのは、仮面を被った巴。
「‥‥てめぇ! いきなり何しやがる!?」
「お前は路傍のゴブリンに名を聞くか?」
蹴りの一撃が男の腹に食い込み、男は失神した。残りの男達は色を失う。
「やべぇ! 逃げろ!」
「ここは行き止まりでござる」
逃げる先の樹が人に変化する。朧だ。そして、カイザード、伝助、エリー、レオニール、美鳳が男達を取り囲み、あっさり取り押さえる。所詮、手練れの冒険者達の敵ではない。その程度の輩だ。
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
巴の腕の中で、子供は不思議そうな顔。
「あなたは、もしかしてマスカレイダー?」
巴は首を振る。
「だったら、どうして助けてくれたの?」
「騎士が弱い者を助けけるのに理由が必要か?」
♪海の見える港町から 遠路はるばる
朝日が昇る街へとやって来て
出会った歌は マスク戦士と怪人さ
此処で会ったのも何かの縁
一曲、一緒に踊りませんか♪
助けた子供達の輪の中で、イリアが陽気に歌う。軽い怪我をしていた子供にはヴェガが魔法で手当て。子供達にゆっくりと笑顔が戻った。捕らえた男達を取り調べたところ、彼らは各地を荒らし回ってきた泥棒一味だった。そしてこんな事を言う。
「俺達は見たんだよ。街の子供達が、あちこちの店先の金をくすねているところを。子供達は夜になるとこっそり森へ行くから、てっきり盗んだ金を森に隠していると思ってたのさ」
にわかには信じられない話だ。伝助とエリーは子供達に尋ねてみた。
「泥棒たちの話は本当なんですかい?」
「盗んでなんかいないよ。使えないように隠してたんだよ。夜になったら、隠したお金はちゃんと返しておいたよ」
「でも、どうしてそんな事を?」
「だって、お金は悪魔の道具だからさ。お金が無ければ街も大きくならないし、森のシフール達も苦しまずに済むんだ」
冒険者達は悔やんだ。せめて、泥棒達より一足先にこの事に気づいていれば‥‥。
騒ぎが一段落し再び森の広場へ。しかし、既にもぬけの殻。騒ぎに紛れて姿を消したのだ。
●明るき闇に潜む喧騒
「へっぽこー。結局また失敗してんじゃん。おまけに泥棒なんて出てくるしさあ」
「英雄気取るんなら泥棒くらいお前らで倒せよー。結局冒険者様に美味しいトコ取られて、カッコワリー」
口の悪いシフールの二人組が、右から左からぐだぐだと言ってくる。今回の作戦には参加していない仲間達は苦笑したり作戦その物を批判したりシフール達を宥めたりとやはり人それぞれだ。パラの仲間達は何か言いたげではあるが、最終的には作戦は失敗も同然で立つ瀬がない。その様子がまた、シフール達の軽口の種になった。
しばらく話を聞いていた背の高いドワーフの男が立ち上がると、二人のシフールを目で制した。
「まあ、完全に失敗している、という訳でもない。子供達の態度は見て分かるほどに変化しているだろう?」
「ビブロ様‥‥」
男は冷静だった。今朝のパン屋の大喧嘩も確認していたらしい。教師でもある神父へのカエレ攻撃は、本人達が大はしゃぎで成果を報告しあっていた。
「それに、今後子供達は森へ入り辛くなるだろう。入ろうとすれば良識ある『大人』が止めるだろうからな。‥‥あちらの対立は深まり、こちらの活動場所は確保出来る」
泥棒はどうやら彼の計略だったらしい。髭の下の微笑みは仲間達にも伝わったようだ。
●茜のち闇
「食事の準備が出来ましたよ」
扉を叩いて、パラの女性が顔を出す。ここ何ヶ月かですっかり明るくなったようだ。白銀の髪を揺らして振り返った男は、彼女の笑顔にほんの少し表情を翳らせた。
「ありがとう。しかし、いいのですか? あなた自身の芸の腕に差し障りがあるのでは‥‥」
言いかけたその言葉を遮るは、彼女の悲しげな微笑。
「‥‥大丈夫です。練習は欠かしていません。‥‥ただ‥‥」
人ノ前デ歌ウノガ怖イノデス。
彼女の目は、そう語っていた。心の傷はそれ程簡単に癒える物ではない。一度恐怖を覚えてしまった彼女は、暫く人前で歌う事は出来ないだろう。
「あ、いや、いいんですよ? ここで皆さんの手助けをするの、嫌いじゃないって言うか、すっごく楽しいですし。自分でも料理の腕が上がってきてるの分かるんです。皆で食べるご飯もすっごく楽しくて美味しくて」
鎧戸を開けた窓から差し込む美しい夕焼け。女の目には、男の表情は少しずつ傾く日に逆光となってはっきりと見る事は出来ない。だがしかし、男の言葉は優しかった。
「そうですか。大丈夫、私達はあなたの仲間です。いつかきっとまた、皆さんの前で歌える日がきますよ」
夕闇が、街を包み込もうとしていた。