【収穫祭】ベルモットの戦い〜紅軍2

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

 5日間に渡って行われた、模擬戦の準備がようやく終わろうとしている。
 世は収穫の喜びに沸きたち、祭りを楽しんでいる。だがどうだ? パリから2日ほども離れれば、もう戦いを求めている者が居る。
 遠く草原の向こうに見える、小さな城を窓辺から見ながら、マレーアはくすりと笑った。そう、戦いというものは、こうして一歩離れて見ているのが、一番楽しい。
「そうでしょうね、吟遊詩人というものは、常に刺激を求めるものです」
 ちら、とマレーアがアッシュを見上げる。そういうアッシュも、最近は吟遊詩人扱いされているが‥‥。
「間違ってはいませんね、あなたも刺激が無くては生きていけない人ですから」
「そんな事はありませんよ」
 と答え、アッシュがグラスを手に取る。
 一足先に二人が頂いた今年のベルモットは、極上の出来であった。
「勝利の美酒には、料理が欠かせません。もう、上等の牛と鶏を取り寄せてありますよ」
「私はデザートにはちょっとこだわりました」
 くすくすと、二人は見合ったまま笑った。

 アッシュと別れたマレーアは、異国の書物を取り読みふける。そして、蝋板を取り、丸や線や矢印を記して行く。
「‥‥果たして、あの中に居るのでしょうか?」
 ぼそりと呟いた。

 総勢30名の勇士による戦いの結末がどうなるか、それは神のみぞ知る。
 収穫の喜びを戦いという形で表そうとする、この二人の道化師達のどちらに勝利の女神がほほえむのだろうか。
 さあ、勇士達よ。
 美酒を得る為、そして収穫の喜びを表すため、存分に戦うがいい。


[模擬戦ルール]
1:布陣
.両軍は紅軍(防御)と白軍(攻撃)に分ける。参加人数は紅軍10名、白軍20名までとする。
.紅軍は土で城1つと砦6つを、白軍も土で城1つを事前に、相手に見えぬように構築する。

1:防具と武具
.防具は実戦と同様。その上から紅白の布の服を着る。
.槍は6フィートの棒の先をキルトで包み、顔料を塗る。
.鏃は丸い木製でキルトで包み顔料を塗る。
.剣は木剣で刃部分に布を巻き、顔料を塗る。
.急所に顔料がべったりつけば負傷と見なし、城や砦に仲間が回収する。服は紅軍40枚、白軍110枚初期配布され、汚れた布の服を取り替えれば回復と見なす。
.城や砦には防備のために顔料を入れた堀を創ることが出来、城や砦から、顔料を柄杓で掛けることが許される。
.替えの服が無くなった場合は回復できず、負傷の者は戦いから除かれる。
.砦の旗を奪えば、砦を陥落と見なし、戦いから除く。砦に備えてある服も失われる。
.城の旗を奪えば、城陥落と見なし勝利とする。
.敵を全滅させれば、勝利とする。

<追加ルール>
・双方2名ずつ回復要員を選定し、回復用の服を持ち歩く事を許可する。持ち歩く為の服の枚数は指定しない。負傷者は回復されるまでは、その場から動いてはならない。死亡判定は急所に塗料が付く、もしくは服の1/3が塗料に濡れる事。
・魔法の使用は種類によって制限する。味方に作用する支援魔法、及びフィールドに作用する魔法は許可、敵に作用する支援魔法、及び攻撃魔法は不可とする。この制限は、模擬戦内の全ての行動に適用される。
・急所(喉、頭部、局部)への攻撃は不可とする。目つぶし等もこのルールを適用する。
・馬の利用は許可する。なお、荷馬車は不可。
・開始時刻は三時課より終課よりまでとする。開始時の配置は、各城よりマップ3マス以内。
・陥落した砦の使用は可能。
・通常馬=時速 徒歩10km/全力疾走4倍以下。積荷80キロまで対応。駿馬速度5割り増し。
・人間=徒歩時速2km/戦闘5km
1マス=およそ30m。馬:10秒/人間徒歩54秒

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 ea1690 フランク・マッカラン(70歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2022 岬 芳紀(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2037 エルリック・キスリング(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2816 オイフェミア・シルバーブルーメ(42歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3866 七刻 双武(65歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●鏑矢
 紅軍10名。数こそ少ないが、幾重もの障壁に鎧われた堅固な城塞。城に隣接する4つの砦は、板橋で城に繋がっている。オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)の石化魔法を駆使した頑丈な構造は、紅軍に有利な足場と視界を与えてくれる。要所に作られた防塁には、大量の桶や樽。服を着替えるための安全な待避所もある。緊張する中。戦いの時は刻々と近づいてきていた。
 紅軍の開戦配置は以下の通り。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・中州砦 :アレクシアス・フェザント(ea1565)/岬芳紀(ea2022)/ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)
・丘砦  :マリウス・ドゥースウィント(ea1681)/エルリック・キスリング(ea2037)(回復役)/七刻双武(ea3866)(遊撃)
・本城  :フランク・マッカラン(ea1690)
・周辺砦 :ベイン・ヴァル(ea1987)
・野戦遊軍:テュール・ヘインツ(ea1683)/オイフェミア・シルバーブルーメ(回復役)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 テュールとフランクを除き、皆、馬かロバを持っている。最終局面の追撃や、塗料にまみれて行動不能扱いになった者の後送に心配はない。
「任せておいて」
 オイフェミアは請け合う。回復係を務める彼女は、同時にアースダイブと水泳を駆使して、文字通り地から湧き出るような戦法を行う強力な伏兵でもあった。茂みに身を潜めるテュールも、目立つ紅い髪を布で覆い、貸し出されたミドルボウを手に配置に付いている。
 白軍は出城の中州砦目掛けてゆっくりと前進してくる。そして、取り決めの距離で停止した。数は多くない。おそらくは別働隊が居るはずだが、ここからは見えない。
「時間だな」
 芳紀は鏑矢を番えて天に放った。ブーンと唸りを上げて飛ぶ鏑矢。これが戦いの合図だった。
「丁度いい機会だ。この様なことでも無ければ,手合わせをすることも無いしな」
 模擬戦とは言え、互いの兵法の優劣を試合う絶好のチャンス。芳紀はつわものに相応しい心の高鳴りを覚えた。
 敵は東に中州の砦を迂回して城に突撃を仕掛けるように動く。しかし、動ずることはない。声を東にして西を撃つは兵法の定石。過日の労苦は容易には破れぬ。数と回復力に劣る紅軍は、城と砦で敵と互角に戦えるのだ。

●遊撃隊
 借り受けたミドルボウを背に負って。テュールは茂みに身を潜める。オイフェミアの初期位置もこちらだ。戦うよりも、偵察と適切な回復が本務だ。敵は整備した進撃路を通り近づいて来た。数は告げられている人数よりも少ない。
「城の守りが居るとしても少なすぎ。別働隊も居るよね」
「そうね。少なすぎるわよね」
 テュールはテレスコープで状況を確認。推論の確度は高かった。そして、中州に近づく部隊を、横手から仕掛けようとするオイフェミアに
「オイフェミアさんは、貴重な回復役だよ」
 そして、自身は紅軍の目。戦うよりも大事なことがたくさんある。風だ嵐だ雲超えて、全力で手紙を持って飛ぶ伝書鳩のように情報を持ち帰らなくてはならないのだ。

●中州の攻防
「思ったよりも手強そうだな」
 アレクシアスは慎重に野外の罠を確認、解除しながら近づく白軍を観る。
「岬、撤収準備だ。一斉射の後お前達は抜けろ。俺が援護する」
 アロースリットに仕掛けられた弓矢の仕掛けは、ロープを引けば模擬矢を予定のポイント周辺にばらまく。罠のあたりに、罠を回避して回りの込む道筋に、大体の射線は合わせている。元より命中率など期待できないが、一斉に放てば敵を錯誤させることが出来る筈。運良く当たれば儲け物だ。
「今だ!」
 一斉に、アロースリットから放たれる矢。質より量の攻撃に何人かに命中。但し、盾に防がれたりして、致命傷の者は居ない。
「一人負傷か。思ったよりも割が良いか? だが、案の定足が鈍った。今の内に離脱しろ」
 状況的に、砦からの援護無しに撤退は難しい。この際だ。アレクシアスは岬の離脱を支援するため、砦に留まった。
 ピュンと唸る矢叫びは、一斉に白軍のいる辺り目掛けて飛来する。しかし、敵は盾を持つ者を前にして砦に迫る。そうだそれで良い。今少し、敵の弓の使用を遅らせば岬の脱出は成る。騎馬の機動力が無傷で城に送り届けることだろう。芳紀は数頭の馬に柴と鈴を引かせて離脱した。船橋を渡り一気に。
 シーンとなった中州砦。旗は壁に隠されて見えない。砦後方に出入口があり、入って突き当たりで右に折れる。
「一人は城の方に逃げたようです。残るは、中州に一人です」
 一気に陥落させようと突入する白軍。戦場に流れる笛の音。
「おわ!」
 右壁の横合いから無数の模擬矢が飛び出し、盾で守られていない右側面にべったりと塗料が付着する。衝撃こそ無いがいきなりの負傷状態だ。
「着替えを頼む」
 下がって物陰で直ちに着替えだ。胴に巻かれた白布を外し、左右の紐をほどいて脱ぎ捨てる。一種の貫頭衣なので交換も早い。
「何だこれは!」
 城壁をよじ登った二人は、最後の最後でトラップを発動させてしまった。梃子の原理で跳ね上がった桶の中身をもろに浴びる。折角上ったのに行動不能扱いだ。一人は城壁の上で座り込み、今一人は意を決して自ら下に飛び降りた。下は塗料の濠で全身まみれてしまうが、味方の回復措置も早いだろう。この高さでも怪我はないはず。
 入口から見て時計回りの狭い通路は、アレクシアスの武勇を最大限に活かす。通路の壁その物が盾の役割を果たし、攻め込む方は難儀するのだ。ネイルアーマーとマントの軽装は、必然的に手数を多くする。彼一人のために、時間は経過した。
 2時間ほど経ったであろうか? 一人の武勇には限界がある。遂にこの益荒男も急所にべったりと塗料を喰らった。そして、程なく全身べっとりと塗料にまみれる。
 回復係が居ないので、戦死者として横たわる。快い汗に仰向けになる彼の目に、もぎ取られる旗が映った。

●金城湯池
 城の周囲を固める4つの砦。そして、後背の丘にそびえ立つ砦。これら全てが一つの城塞として象られ、三方を幾重もの濠と土塁で鎧われていた。紅軍があと5人ほども増えたならば、恐らく白軍に勝ち目は無いだろう。この堅固な城を頼みに、引きつけた白軍に一方的な攻撃を加えて全滅させれば良い。一重の空堀と土塁を除き、わざと開豁地にしてある城塞正面は、全ての砦のアロースリットから狙い撃ちに出来る位置にある。
「まるで本当の戦みたいですね」
 遠矢故、当たらぬまでもマリウスらが放つ矢は充分に味方の撤収を助けた。難なく芳紀と馬を回収すると守りを固める。
「私たちの出番はまだのようですね」
 馬の傍で待機するエルリックは、槍を杖に出番を待っている。
「焦るな。充分に引きつけて矢玉を見舞うのじゃ。統一のとれた斉射こそ、最も効率が良い。城と砦の優位を活かし、敵を消耗させるのじゃ」
 空堀は深く城壁は高い。空堀の横矢には既に人員が配置されている。丘砦からもうち下ろせる空堀付近に接近するまで、しばしの時間が必要であった。坂を下り横槍を入れるべく備えられた馬出しの中で、バイを噛まされた馬が、静かに首を戦場に向けていた。

 中央の本城に陣取り待機するフランクは、若武者の如き胴震いを覚えた。敵は存外に展開が遅い。
 対称的に、若いヴィーヴィルは興奮気味。祖国の操典によれば、典型的な後退配備方式防御からの逆撃だ。堅固な陣を利用して敵を消耗させ。偽装でない真の退却につけ入り、戦果を拡大する。今回は模擬戦故、重装騎兵で行うべき突撃を、羽騎兵よりも軽い装備で行える。それが紅軍の強みであった。中州砦から下がったばかりの彼女には、休憩が主たる任務であったが、醒めやらぬ興奮に楼に上る。そんな彼女に向かってフランクが叫んだ。
「各々方! 後先じゃ! 無駄に疲れめさるな」
 戦巧者とはかくある者。激しい戦いに備えて鋭気を浪費するのは愚かである。
 その声に、周辺砦に位置するベインは心得る。戦士に無駄口は要らぬ。腕力と体力にまかせて顔料を必中の位置から派手にぶちまければ良いのだ。

●決戦
 中州砦を手中に収めた白軍は、回復用の服を砦に持ち込んで前線基地とした。ここから徒歩でも紅軍の城は目前。堅固な造りが白軍の味方をもしてくれる。船橋は流されもせずそこにあり、トラップの類を掃除する。
「いよいよじゃな」
 フランクは合図の狼煙を上げる。先ほどの牽制とは違い、今度こそ攻撃である。
「マリウス殿!」
 双武の合図に弓矢を放つ。剣を振るうことに比べて、一段落ちるがミドルボウを満月の如く引き絞り打ち下ろす。敵も撃っては来るが、高い足場が物を言い勝負は互角。しかも半身は胸壁に守られているから狙いも着けやすい。拙い技量の割には結構良く当たる。
 敵を引きつけ、正に嵐の如く柄杓で顔料をぶちまけるのはベインだ。おおざっぱな狙いを付けて、攻撃の飽和状態を形成する。模擬戦故に只の顔料水だが、これは実戦で溶けた鉛や熱湯を浴びせる代わりだ。だから顔料だらけになればこれまた行動不能と見なす。
 白軍は行動不能に成る前に下がり、服を着替えに中州へ戻る。エルリックは、胸壁に隠れて移動しながら、皆の服の汚れをチェック。幸い、うち下ろしの利のために、無傷に近い状況だ。この城壁を隔てての攻防はいわばジャブの応酬で続く。互いに決定打を持たぬまま白軍の服と紅軍の矢や顔料は消費されて行く。
 何度目かの攻勢だったろうか? 既に日の傾き掛けた頃。激しい攻防の隙をついて、敵は思いも掛けない方向からやって来たのだ。
「抜かったわ!」
 フランクが顔料入りの革袋の直撃を受けて行動不能。羽を持つ民シフールの空からの攻撃である。時を同じくしてベインも負傷。守りがやや手薄になった。双武が盾をかざして援護に回る。勝機とばかりに白軍の別働隊も殺到。ここが機であった。防御力の弱った城塞に張り付く白軍。
「エルリック! 行くぞ!」
 丘砦からマリウスが騎馬で逆落としに突貫。武勇を振るって負傷と見なされるだけの顔料で敵の服を染める。ヴィーヴィルはショートボウでやたらめったら上空のシフール目掛けて放ちつづける。無論、彼女の技量で当たるわけも無い。しかし、飛来する矢を避けて、もはや革袋を失ったシフールは退散する。その隙にエルリックは板橋を渡り城へと駆け込んだ。
 この時、思ったよりも早く白軍による城攻めに移ったため、帰還の機会を失っていたテュールとオイフェミアは中州砦の近くまで戻ってきていた。その距離およそ150m。敵は総攻撃を期してか、砦まで進めた兵の殆どを城攻めに張り付けている。白軍の負傷度が高まり、着替えのために砦へ引く。その機を計り、紅軍は反撃を始めた。丘の砦から突っ込んでくるヴィーヴィルに、服を着替えたペインにマリウス。それに芳紀まで加わった一大攻勢だ。このままでは退却できずに行動不能にされる。と、中州砦からも交代要員が飛び出した。
「ふふふ。中州砦の中は手薄だわね」
 オイフェミアが笑う。そして、革袋に顔料を満たすとアースダイブ。テュールは牽制に茂みから飛び出した。そして、あからさまに後から矢を白軍に放ち始めた。因みに、中州砦には紅軍のほうへ放つアロースリットは無い。テュールの初めの矢は、見事に帰還するシフールの胸に命中した。そのままゆっくりと着地したから、本来のダメージは無いとは思う。しかし、べったりと顔料がこびりつき。それはこの危急の状況では模擬戦からの脱落を意味していた。

「え! うそでしょ?」
 突然地面から現れたオイフェミアに、顔料を浴びせられたのは待機していた回復役。しかし、ルールはルールで行動不能。オイフェミアは行動不能でほったらかしになっていたアレクシアスに服を放り、自身は白軍の服の束へ、むんずと掴んだ顔料桶を逆さにぶちまける。これで白軍は、あっという間に回復役と服を奪われた計算だ。その上、充分に休息をとった強力な戦士に参戦された白軍は、非常に困難な闘いに突入した。替えの服がない状態で次々に染まって行く白軍の服。紅軍の目には、白軍の本城守備隊が駆けつけるまでに殲滅出来るかも知れないと映った。
 その時だった。ほぉぉぉんと言う爆発音と共に、戦いの決着。白軍は、全滅と隣り合わせの奮戦と引き替えにただ一人を城へと送り込んだのだ。
 紅軍の旗は、彼の手でもぎ取られ、風に靡いていた。
 戦いの終了を告げる鐘が鳴り響く。主催者より白軍の勝利が告げられたのだ。

●ノーサイド
「あはははははは」
 笑い出したのはオイフェミアであった。あまりにも意外な結末に、笑うしかなかったとも言える。
「白組の諸君、水に流そうや。おれの本心はユーたちが好きだったが、ただ、極上のベルモットを争うライバルとしては大きらいだっただけよ‥‥フフフ」
 そうだ。模擬戦は終わり、今や敵も味方も無くなったのだ。
「あーあ。いいとこまで行ったんだけどなぁ」
 テュールは伸びをしながら残念がるが、悔しいと言うよりはおかしさの方が上に来る。エルリックもこぼす。
「服も余ってるし、もう少しだったんですがね」
 かたや、白軍は本城に残してきた服を除き全ての服を失った。不覚をとらねば後一息で勝てたかも知れない。芳紀も汗を拭いながら、
「敗北の苦い酒だが、一献やろうか?」
 と、自分のベルモットの提供を皆に申し出る。
 後片づけを終え、残念会を始めようとする矢先、パタパタと羽音も軽くシフールがやって来て、告げた。
「紅軍の方も一緒にどうですか? みんな、ずっと思ってたんです。せっかくのお酒なんですから、両軍皆で頂ければいいって‥‥」

 その夜。旨き酒を酌み交わし。両軍は戦いの流れを振り返る。お互いの作戦の齟齬や、読みの違い。とっておきの種明かしをし。武勇を誉め、防備を誉め、松明の光に語り明かす。最後の日は、こうして更けた。