【開港祭】英雄大募集〜瑠璃色の君

■シリーズシナリオ


担当:マレーア

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月03日〜11月08日

リプレイ公開日:2004年11月08日

●オープニング

 窓を開くと海が見える。開港祭りのお祝いで賑わう港が見える。
屋根の付いたベッドの上で、一人物憂げな姫君。金の髪を風に揺らせ、碧い瞳に海を写す。
「はぁ〜あ。たいくつだよね。お父様ったら全然訪ねてくれないんだもん。私が可愛くないのかなぁ」
 潮風に呟きは消えた。最近、馴染みの吟遊詩人も訪ねてこない。あの人がいれば、いろいろと楽しいお話を聞かせてくれるんだけどな。
「お嬢様。冒険者ギルドのに依頼してみてはどうでしょう? きっと一つや二つ、心躍るお話を知っていますわ」
 娘が最も信頼している人物、乳母が話を持ちかけた。

「‥‥またあの嬢ちゃんか? マレーアさんは? あ、パリの行事で捕まっているか。毎回、お嬢ちゃんが主役の物語を創らされて、いい加減嫌になったんじゃないかい。お嬢ちゃんももう16歳。いつ結婚話が来たって可笑しくない年頃だろ。いつまでも物語に浸かっていては‥‥」
 苦笑するギルドの係員に、やはり苦笑を禁じ得ない乳母が頼む。
「少なくとも礼儀を弁えた方で、お話の上手い方か、実際にいろいろな冒険をされて来た方。このさいホラでも構いませんわ。出来ればお話相手が務まりそうな方を‥‥」
 そしても最後にこう耳打ちした。
「実は、お祭りに出たいとご所望です。出来ればお嬢様とそっくりな方も」

●今回の参加者

 ea1450 シン・バルナック(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3641 アハメス・パミ(45歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea4290 マナ・クレメンテ(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5034 シャラ・アティール(26歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ベルナテッド・リーベル(ea2265)/ ルリ・テランセラ(ea5013

●リプレイ本文

●うり二つ
 潮風が通り抜ける橋の上。波に飛ぶかもめ。白い帆の船。
 港の祭り賑わしく、流れ来る宴。

 冒険者一行は冒険者街にほど近い、とある宿屋に赴いた。
「ようこそ。お出で下されました。お嬢様がお待ちです」
 出迎えた乳母に案内されて、部屋を訪れると。
 ひっくり返った食器。ぶちまけられた食物。オロオロしている召使いが、目の中に入ってきた。
「どうしましたか? お嬢さん」
 声を掛けたのは黒い鎧を身につけた騎士。その立ち振る舞いに気品を感じさせる美しい青年であった。
「‥‥だって‥‥ルルの嫌いな物ばかり出すんだもん」
 消え入るような小さな声で話す。その子供っぽい物言いに、騎士シン・バルナック(ea1450)は思わず口元を緩めた。
「だって、お魚のフライなんだもん」
 散らばっているのはどう見てもパンケーキ。匂いからしてふんだんに蜂蜜を使いまくっている事がよくわかる。
 その拗ね様は、殿方の保護欲をそそることがあっても、絶対にご婦人方の逆鱗に触れることも請け合って良い。まるっきりの子供なのだ。
「うー‥‥ルル、こんなもの食べられない」
「そうですね。お嬢様が食べたくないとおっしゃるんでしたら‥‥」
 シンは笑顔のまま肯定して見せた。
「そうよ。ルルのお父様は辺境泊なんだから、食べたい物を食べれるんだわ。こんなの一生要らない!」
 合図するシンに応えるように、彼の妻が召使いに指示した。
「お嬢様はおなかが一杯のようですわよ。さ、片づけて‥‥。もう、二度とお食事は為さらないそうですわ」
 満面の笑みを浮かべたまま、ルルと同い年の若妻は場を仕切る。
「え? あ‥‥あの」
 きゅるるる。と、面食らったルルのおなかの虫が鳴いた。
「‥‥本当は‥‥パンケーキなら食べてもいいかも」
 その様に、シンの心臓は思わずどきっと高鳴る。
 くいくいっ。と彼の妻は袖を腕を掴んで部屋の外。肉屋台で肉の筋を断ち切るような音が数回。
 暫くして奥さんだけが戻ってきた。何事もなかったようにパンケーキの皿を手に。
「さ、お食事しましょ?」
「うん‥‥いいけど」
 その服に、なにやら紅い飛沫が付着していたのは気のせいだろうか? 居合わせた余の者、イリア・アドミナル(ea2564)とカイザード・フォーリア(ea3693)は顔を見合わせた。

 まだ日は高い宿。頭に思いっきり包帯を巻いたシンの元へ、一人の娘が訪ねてきた。
「しんさんついたよ〜」
「どういう積もり? まったく‥‥」
 若妻は不機嫌になり、夫を睨み付ける。きょとんとした顔の少女は、
「あのう‥‥ルリおじゃまだったの?」
「あ、この子は違うんだ。今回の依頼のために来て貰った子だよ」
 後から現れたイリアは、もう慌てて取りなす。
「‥‥それにしても、そっくりねぇ」

 果たして‥‥。
「お嬢様‥‥」
 一瞬、ルリを見た乳母が見間違えたくらいだ。
「‥‥確かに間違えるな」
 カイザードははしたなくも見比べる。服こそ違うが間に鏡を置いたように、否、魔法で分身を造ったように寸分代わらぬ。そう、まるで双子のように二人の印象は酷似していた。目の色・髪の色・体型、話し方から物腰まで。違いと言えば、彼女はエルフでお嬢様は人間であると言う事くらい。髪で耳を隠せば、入れ替わっても区別が付かない。
「祭会場では名前を呼び捨てにしますが宜しいか?」
 カイザードの問いに。
「うん。いいよ。ルルお祭り楽しみ」
「じゃあ、決まりだね。ぼくとベルナテッドさんで準備するから、男の人は出てって」
 こうして、二人は入れ替わった。

●お話の時間
『本やお話が大好きな嬢様の屋敷に、今まで見たこともない宝物が運ばれ、宝物を与えれば心も満ちるだろとお嬢様のお父上が自分に構ってくれないのが面白く無くなってしまいました。
 するとお嬢様は夢を見ました。すると現れたのは見たこともない可愛らしい動物の群、ですが戯れているうちに自分が夢を覚ます方法を忘れてしまい、そこへ突然現れた 現れた深い蒼くでも、煌めく目をした気高い幻獣。ユニコーンの角とペガサスの翼、そして、ドラゴンの知恵を持ち合わせたその厳重は、私の名前を当てたら元の世界に戻してあげようと話します。
 お嬢様はその角から、モノケロス? と尋ねました。でも違います。
 では、ペーガソス、ドラッヘとその幻獣の特徴をあげていきますが、その度に幻獣の瑠璃色をした目が悪戯そうに輝きます。
 答えがに浮かばなくなったお嬢様はふと、幻獣と視線を合わせました。
 その言葉に幻獣と眼を会わせたお嬢様は悟りました。
「その目ね。その目よ。瑠璃、あなたの名前は瑠璃ね!」
「良くやった。でも、今度は夢の世界の方が心地よいかも知れないと思う時が来るかも知れないね」
 眼を覚ましたお嬢様は自分が握っていたが、お父上のくれた、瑠璃の宝玉である事に気がついたのでした。このお嬢様の話はこれでおしまい』
 イリアは拳を握り込んで話に夢中になっていたルルの髪を優しく梳いた。

 皆で飲み物と軽いお菓子を口にした後、アハメス・パミ(ea3641)は静かに語りだした。
「‥‥そう、時は十年前、所はエジプト。珍しい所かも知れません」
 彼女は歌うかのように自らの過去をさらけ出した。
「そのころは王家の遺跡を盗掘者から守るという‥‥先祖代々受け継がれてきた仕事をしていました。そして、そのリーダーであるセプデト、天狼星という意味があります。あの孤独にひとり輝く星です」
 そこでアハメスは呼吸を整え、本題へ切り返していった。
「何故かは判りません。金で心を汚されたのかも知れません。義理を立てる人を人質に取られたのかも知れません。ですが、あの雨の日‥‥エジプトにはそう何度も振らない雨の日。彼は皆で蓄えた雨水で、作った飲み物を一杯やってみようじゃないか、と言い出しました。 疑う余地など有りませんでした。セプデトの言うことには皆、こちらで言う、騎士と主君の如く、堅く心がつながれていたのですから。その蓄えた瓶に彼は隠しからこっそりと薬を流しこませていたようです」
 言って顔の傷口に手をやるアハメス。
「ですが、私の器から飲み物を‥‥うっかりとこぼしてしまい、私は別の瓶から水を飲みました‥‥その時、見慣れない風体の連中が大量に現れました。今にして思えば、対立する敵方の刺客だったのでしょう。ただ、出来たことは薬で体が痺れてしまい、動けない皆に代わって剣を取り、戦う事だけでした。でも、あの事さえなければ。無事であったセプデトが痺れ薬に倒れ伏した仲間に救いの手ではなく、剣を向ける事さえなければ‥‥彼の名前を懸命に叫んでも、その言葉は全く耳には届いていないようでした。躊躇わずに仲間とセプデトの間に身を投げ出しました。彼が翻意する事を信じて。
 ですが、現実は残酷でした。自分の顔にこの傷をつけられて、仲間の命も奪われました。でも、でも。出来る事は剣を取って戦う事でした。何合、刃を交えたかは判りません。ただ、自分が生きることの証明の為に戦っていたのです。自分が自分であるために。
 しかし、私は、自分が裏切られた、自分は不幸だとの思いが強すぎたのですね。事切れた彼の顔に浮かんだ微笑を見るまで、仲間達を裏切らねばならなかった彼の苦悩に、そしてあれが彼の自殺だったことに、気付けなかったのです。気づいたので、神の加護‥‥いかなる神であろうとも、によりこの傷を塞ぐのを止めました。それは謎の敵の前に散っていった仲間への手向けだと信じて。でも、雨の日はあの事を思い出させるのです。
 ‥‥あら、お嬢さん。お信じになりました? 本当はまだ駆け出しの時に無謀にもライオンに挑んだ時の傷なんですよ。でも、お嬢さんがお信じになられたのなら、案外バードの才能があるのかも。え、ライオンの話? それはまた今度。さ、そろそろ時間ですよ。早くしないとお祭りが終わっちゃうかも」
 乳母の許可を得て、一行は街へと繰り出した。

●開港祭
 祭り会場では、フリルとレースだらけのドレスという、乳母日傘な風の体ルリと、杖にローブの冒険者風の格好をしたルルが、ジャパンから輸入されたという木彫りの面を見ていると、如何にも港町の住人らしい、血の気の多い男が、酒臭い息を吐きかけてきた。
「よう、お嬢ちゃん達可愛いじゃないか、ちょっとワインを注いでくれないか。
 なーにちょっとで良いんだよ。そっちの護衛のお嬢ちゃんだっていいんだぜ、どうせ無礼講だ!」
 泣きそうになるルル。
「女の子をいじめるのは感心しないな」
 とシンが割って入る。
「良かったら赤いのたっぷりご馳走してやる、鉄臭いがな!」
「ほら、ふたりともこちらにおいで、守ってあげよう」
「カイル!」
 と指の骨を鳴らすカイザードとリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)。
「助けて〜」
 と、酔漢に襲われる女性が助けの声を求める。
「む、あちらも守らなければ‥‥どうぞこちらにお入り下さい。絶対守りきって見せます」
 実力はともあれ、シンが断言する。ふたりは彼の庇護の元に入る。
 一方、酔漢に包囲される格好になったシャラ・アティール(ea5034)にカイザードとシンだが、落ち着き払ったものだ。
 シンは令嬢がたに向かって爽やかな笑みを浮かべると太陽に反射して歯が光る。
「武器を振り回すまでもないな、さあ、来い」
 護衛のカイザードが軽く挑発すると、酔漢どもはばらばらに襲いかかってきた。 そこへ屋台を開いていたアハメスも乱入し、いつのまにか5、6人に増えた酔漢を圧倒するかに見えた。更につぶてが屋根の上から降り注ぐ。護衛のマナ・クレメンテ(ea4290)の仕業だ。さすがに街中、弓矢を使う訳にもいかない。それでも的確な攻撃に悶絶する輩も続出。
 相手が只の酔漢だというのに武器を抜いては冒険者の名折れ、無礼講とはいえ、怪我を負わせたら、相応の責任が降りかかってくるだろう。
 それでも身の程知らずが殴りかかるのを、的確にカイザードはブロック。確かに古のヴァイキングの血を引いているだけあって、腕っ節も大したものだ。だが、如何に小兵と言えども、修行を積んだ彼の前には子供扱い。運良く当たっても威力を相殺される。
 相手が武器を抜いたら、こちらも相応の対処をしなければならないが、だがワイン袋ではさすがに凶器にはなるまい。
 ベルデナットもたおやかな外見に似合わぬ戦いぶりだ。豹のしなやかさを女々しさと勘違いした連中こそ厄災の日。次々と拳を振るい、的確にヒットさせていく。
 一方、後方では。
(「むう、組織だった訳ではない、ただの酔漢か、さっきのつぶてはマナの仕業だろう、後ろから狙う輩もいない事だし、出番は無いようだな」)
 戦局を見切ったサイラス・ビントゥ(ea6044)は屋台に戻り、焼きリンゴに舌鼓を打つ事にした。
 酔漢を叩き伏せた後、傷を受けていたのは予想外に相手が強かったシンのみ。いや、実は怖がる二人から飛び抱きにしがみつかれて取った不覚なんだが‥‥。
 なぜか夫にも使わないリカバーを倒れている酔漢達に掛け、酒の過ぎることの害悪を解きつつ。ベルデナットは酔漢たちを自分の持ち場に戻した。

●深い森
 蜜蝋の蝋燭が良い香りを放ちながら燃える部屋。銀の燭台に照らされてた卓を囲む。
「じゃあ次は僕だね。絶対に入ってはいけないと言われてた森に入っちゃったんだ‥‥」
 シャラは祭りの興奮冷めやらぬルルに向かって物語を始めた。
「シャラお姉ちゃん‥‥」
 すっかり物語の中に入り込んで、怖さと不安のためにしがみつかれた。年齢的にはルルの方が2歳も年上だが、お姉ちゃんと慕われるのも悪い気はしない。こう言うときのルルは、まるで4、5歳くらいの稚さな女の子に見える。
 ルルは震える。深い森の、本当の奥の、暗さと心細さと不気味さに。過ぎるほどに感受性が高い子だ。
「そんな時に突然話しかけてきた人がいたんだ。当然こんな所に人がいるなんておかしいよね?」
「うん。でも、なんだか安心した」
 話し手の微妙な変化に、捨てられた仔犬が懐くような堪らない目を向けるルル。お話は続いて行く。

「みゃう‥‥それやだぁ〜」
 マナの説明する制服に、恥ずかしさの余り泣き出しそうになるルル。太股丸出しのスカートは、かなりショックだったようだ。元来ノルマンに下着を着ける習慣は無い。
「イギリスの人って、変態さんばかりなの?」
「エロスカリバーって言う服を脱ぎたくなる呪いの魔剣もあるよ。見る?」
「うー‥‥」
 頬を紅く染めて困ってしまった。
「きっと、おしとやかに振る舞うために、そう言うスカートになったんだよね。ルルちゃん。キミみたいな子なら大丈夫だよ」
 リュシエンヌが話を承け、伴奏付きで語る指輪騒動の物語。指輪を見つけた時ルルは、
「やったぁ!」
 無邪気に喜びを露わにした。そして、そのままシンの海賊退治のお話に入って行く。
 シンの勇ましい働きに、ルルは次第にラブラブオーラを発し始める。リュシエンヌの演奏も素晴らしかったためだろう。ヒロインとして冒険を終えた彼女の瞳は、シンを恋人のように映していた。

「他国の者ゆえ、故郷の挨拶にて失礼する。私はインドゥーラの僧侶、サイラスと申す」
 次ぎに口を開いたのはサイラスだ。些か無骨な語りだが、それだけに迫力満点。お話は怒濤の勢いでクライマックスへ。
「だが、ジュリエッタは聞く耳もたずベランダから移動した模様。使用人は上でオロオロとしている。そこで私は叫んだ。
『仕方あるまい。我がビンドゥ家に代々伝わる説得術、特とご覧に見せよう!!』」
 あのシーンそのままにバッと上着を脱ぐと、そのまま全身の筋肉をポンプアップ。見る間に膨れ上がる筋肉に、ルルは思わず目を覆った。いや、やけに指の間が開いている。
「ムン!!」
 攻城鎚のような巨大な拳が、うなりを挙げて閃き、ルルの顔面寸止めに止まった。
「さぁ、貴殿はどうする?」
 すっかりなりきりモードのルルはシンにしがみつき、
「うー。ルルね、ずっとシンと居たいの。お願いルルの為に戦って!」
 ぱりぽりと指を鳴らす若妻を後目に、背にしがみついた時。プチっと何かが切れる音がした。
「どうしてもルルと一緒にいたいなら、このわたしと正々堂々と勝負ですわ!!」
 真顔で、掟破りの参戦だ。お話の中とは言え、夫婦のガチバトルに流石のサイラスもたじたじ。演技の筈が手が滑り、額を割るシン。流れ落ちる血潮に、ルルが泣き出した所へ、
「なんにしても愛し合うというのは大事なことだが、無理をして逃げ出しても、おのれに苦難が降りかかるし、相手も同様の苦しみを背負うことになる。皆に祝福されるようであれば、喜ばしいな」
 と、サイラスが教訓で締めくくった。